荊州に赴任して数週間後ラオウが傷を完治させた時…隣の州・益州の一人の民が助けを求めに来た。
益州では、今まで劉焉が治めており、蜀という国になっていたのだが…
先日劉焉が死去し、権力争いが発展し暴税と治政を実行し民の苦しみを無視して自分達は
宴会騒ぎを繰り返していると聞いた。
その為にすぐに益州に向かった…町のひとつは歓迎しすぐに取り込むことが出来た。
そして、時を同じくして白蓮がこの領へと逃げのびてきた。
袁紹が進行してきたそうだ…北の憂いを取り除きまずは曹操の領へと進行した模様だ。
曹操も涼州を支配した後、袁紹と事を構える気でいるようだ。
その影響でラオウの下に馬超らが来たのは別の話しというわけではない。
…まあ、レイが居るにしてもあの袁紹では勝てる筈が無いのだが……。
そして従妹の袁術は孫策に臣下の礼をし、孫策は本格的に乱世に立とうとしているらしい。
「時代が動き始めたか」
「そうだね…ラオウ様はやっぱり覇を唱えるの?」
「愚問だ桃香よ…これは男としての一種の宿命みたいなものだ…
桃香らの理想を実現するためには力をつけねばならん」
「自分達が正しいと証明させるには今は力でしか示すほかありません」
桃香、ラオウ、小夜の三人が今後の予定を話す会議を一旦抜け出して、
風に当たりながら会話をする。
もっとも攻める方針がほぼラオウによる蹂躙だけで事足りるのだが、
町に立て籠もっているときはその蹂躙戦法が使えない、何故なら
一般人に被害が及んでしまい、支持してくれる民が激減してしまうから…
「だが、俺は覇を目指す事よりも優先すべき事が一つある」
「…」
「…」
桃香と小夜が黙り込む、ラオウが言わなくても分かるのだろう…
トキとの決着。
剛と柔、対極に位置する二人…桃香は仲良く出来ないのかと
最初は思っていたのだが、あの戦いの事が頭から離れない。
今でも目を閉じれば鮮明に浮かんでくる人知を超越した戦い…
武を極めた者もそうでない者も釘付けになるほどの芸術ともいえる
技の応酬…神々の戦いが存在するとすればまさにそれを体現しているような
光景だった…一人の諸侯により中断されてしまったものの
両者は互いに健在…トキという男の行方は依然知らないままだが、
ラオウと同じく傷は癒えているだろう…
「もっとも、その戦いも見つからぬ内は実現する事もあるまい」
「…そうですね」
再び沈黙がおりる…ラオウがそろそろ戻るかと言い、桃香達も
それに従い、会議へと戻っていった。
「ラオウ様ー、何か言い案は無いー?退屈でしょうがないよー」
「こら、蒲公英!失礼だろう!」
入ってきた瞬間、蒲公英に声をかけられた…すぐに翠により咎められていたが。
会議は思った以上に難航しているようだ。
今までは敵の城に攻勢に出る事はなかった、月のいた都へと
攻め入った時も結局は悠々と入城し、戦闘にはならなかった。
野戦でなら余程の数の差が無い限りは負ける事は無いとは言え、
城に篭られたら、城下町の民にまで大幅な被害が及んでしまう…。
「ひとまず、この会議は一時中断せよ…続きは明日とする。
各々妙案を考えるように」
『はい(御意)!!』
結局数刻も考え込んでしまい、案が纏まらなかったためこの日は解散となった。
単純に考えればいいのだろうが、ラオウの強さがこの軍の象徴となってしまっているので
軍師達がその方向に頭を悩ませてしまい、難航してしまっているのだ。
結局、全員持ち場に戻…らなかった。
賊の情報が入った為ラオウと小夜と桃香は警邏の兵士を連れて、その場へと向かっていったのだ。
「へっへっへ、お嬢ちゃん…お兄さん達と遊ぶ気になったかい?」
「いやー!お母さんの所に帰してー!!!」
薄暗い森の奥、百名近い賊と一人の少女が言い争っていた…
少女の周りには少女を護衛していたであろう兵士達が物言わぬ状態で
転がっていた。
「おい、お前ら止めとけよ…」
賊の中の唯一の良心とも言える男が無駄だと分かりつつも声をかけていく。
だが、他の者はそのような声には耳を傾けず、目の前の幼子をどうしようか
考えるので精一杯だった。
「はあはあはあ」
「あんた達なんか、白馬の王子様に倒されるんだから―――!!!」
白馬の王子様…少女の持っている書物の登場人物の事である。
はるか西からやってきた男がこの国用に編集し、売っている童話だった。
子供たちや女性にはかなりの人気があるらしい。
「俺たちが王子様になってあげるよー」
…この男達も持っていた、世も末である。
「もうやだこの組織…」
男は用を足してくると言ってその場を去っていった…とは言っても戻るつもりではあるが
そして、近くの樹に腰をかけ…先ほどの少女の無事を祈っていた…。
その時、後ろより肩を叩かれた。
「ん…誰だ………(俺終わった)」
振り向いた所には一人の少女が立っていた…小夜である。
男には理性が会った為、目の前の少女を見たとき、本能でこの少女には勝てないと
悟ったのである……もう、楽しい事しか考えなかった、具体的には趣味の絵の事。
それが今日のこの男の最後の思考となった……訳ではない。
「ラオウ様…前に人が」
「おそらく、賊の一人だろう…随分と顔がやつれておるな」
見えるの!?と兵士が全員で突っ込みたい気分になったが…北斗様なら
仕方ないと諦めた。
桃香も同様にラオウ様なら仕方ないと諦めた。
ちなみにかなりの距離があり肉眼で見る事は不可能な距離である。
更にはその男は木々に囲まれているため、余計に見えづらいのだ。
「…調べてきます」
「任せる」
では、と言いながら小夜はその場から消えた…実際には
超スピードで走り去っただけだが、常人には消えたようにしか感じられない。
ラオウとトキを除けば間違いなく最強の部類に入る腕である。
「相変わらず、速いよねー小夜ちゃん」
「速さに関してなら俺やトキ以上だ」
それでも反応速度で捉える辺りラオウも異常である。
おそらくトキも捉えることは可能だろう。
「…気絶させたな」
「…情報でも聞き出すのかな?」
聞き出したところで殲滅には変わりは無いのだが…。
そして、小夜が戻ってきた。
「どうするのだ」
「賊にしては悪そうに見えませんから」
「そうか…そういう事にしておこう」
そして、ラオウはそのまま真っ直ぐに進軍し始めた。
ちなみに黒龍が闊歩しているにもかかわらず、地響きは鳴り響いていない。
賊に気がつかれずにいく為にわざわざ静かに歩いているのだ。
もっとも、気がつかれても問題は無いが。
「新一!」
ラオウが移動している間に兵士が押さえている賊に口を割らせる秘孔を突く。
賊の意識は復活し、自身の命がある事に神に対して感謝しつつ、ラオウを見て
神を恨んだ。
「規模はどれほどだ」
「…ご五百だ!?」
「何の為にここに居る?」
「黄忠から、金を巻き上げるために子供を誘拐してここに連れ込んだんだよ…」
「…桃香、小夜…黄忠とは誰か分かるか?」
賊が口を割られているのに驚きながら諦めていると、名が出てきた為ラオウは
桃香らに尋ねる。
「聞いた事ありません」
「私も…あ、朱里ちゃんが何か言っていたような?」
「何だ?知らないのか?この先の城を守る劉璋の将の一人だぞ」
賊がラオウの問に答えるように勝手に話しかける。
とても賊とは思えない態度だ。
「そうか…尚更隠密行動をする必要があるな」
「ラオウ様と桃香様と私だけで参りましょう」
「…え?」
小夜の意見に桃香が唖然とした表情をする。
そういう隠密行動なら殲滅させるのはラオウや小夜…
それに瑞佳が適任じゃないのか…現在瑞佳は天和と劇中だが。
「…子供の相手は桃香様が得意」
「……小夜ちゃん苦手?」
「はい…あまり明るくありませんし」
物静かなイメージがある…が、戦闘ではかなり速さでの制圧前進による
激情のイメージがある…素はおそらく前者だろうが。
「そんな事は無いと思うけどなー…でも私では足手まといだよ?」
「心配ありません、私が守ります」
「五百程度、この俺一人で十分だ」
「……えーと、今の話本当か?」
賊が桃香に聞く…桃香はコクリと頷いた。
「そういえば、俺ってもう用済み?」
「用済だけど生かしてあげる」
「その代わり案内せよ」
賊は仲間を売る行為に躊躇していたが…仲間の様子を思い出し、
躊躇いなく頷いた。
ラオウが後で何故かを問うと、全員幼女愛好者だったらしい。
賊の心労を察し、他の兵士達は肩に手を置いた。
そして、ラオウと桃香、小夜と元賊は賊の集まる場所へと向かっていった。
ラオウは黒龍に乗ったままだった。
「そろそろ俺、我慢出来ねー」
「落ち着けよ兄弟、せめて手紙を書き上げてからだろ?」
その頃、賊の陣では迫り来る強大な死刑執行人が近づいてくる事など露知らず
既に身代金の使い道を模索していた。
少女…黄忠の娘は騒ぎ疲れてぐったりしている。
その場所にラオウは辿りついた…闘気による気配遮断により、桃香達の気配も掻き消していた。
「まあ、見りゃ分かるけどあの娘だよ」
「大丈夫…なのかな?」
「疲れて眠ってるだけですね…」
「小夜…護衛は任せる」
「はい」
そして、ラオウは闘気を解放した…その瞬間、全ての賊はラオウの存在に気がつき、
腰を抜かした。
リーダー格らしきものはラオウの出現に動じた様子はなく不敵に笑っていた。
と描写すれば聞こえは良いが、実際には引きつった笑いをしているだけである。
ちなみに裏切り者の賊の事は誰も気がついていない。
「ほう、貴様この人数の中をよく近づく事が出来たな」
「御託は良い…とっとと殲滅させてもらう」
「…白馬の王子様?」
『どう見ても違うだろ(でしょ)!?』
少女の言葉に小夜とラオウ以外が一斉に突っ込みを入れた。
白馬の王子様ではなく、黒馬の覇王様である。
語呂が良いわけでは無いが。
「は…殲滅させる?この虎殺しの飛燕様に向かって良い度胸じゃないか」
「虎相手に威張ってる」
「そんな事言えるのこの中じゃ小夜ちゃんとラオウ様以外無理だって…黒龍もそうだけど」
「実際に倒した事無いぞ、お頭は」
むしろ逃げていると付け加えた…自称だった、まあ自称でなくても
虎如きで威張って居る相手ではラオウの相手は務まらないようだが…
「いくぞ、我が必殺の構えを!」
『出た!お頭の必殺の構え究極最強絶対無敵天下無双二刀流乱舞だー!』
「ラオウ様…何処かで聞いた覚えがあるのですが…」
「究極最強絶対無敵天下無双斧乱舞か…」
「ん?弟の構えを知っているのか?」
驚愕の真実、あの男には兄弟が居た!
だからどうと言う事ではないのだが…。
「ふ、この俺の構えは弟に負けた事は無いぜ…兄より優れた弟など居ない!」
「そうでも無いが」
実際に義弟に負けたラオウが言葉を発するがその男は聞いていなかった。
「受けてみろ…究極最強絶対無敵天下無双二刀流乱舞究極奥義…斬り付け!!!」
…だから何故兄弟揃ってマトモな奥義名じゃないのか…ラオウは指一本で防ぎ
弾き飛ばした。
そしてその賊は地面に倒れ伏し…動かなくなった。
「にににににに逃げろ―――!!!」
賊は逃げ出していく…しかし、すぐさまラオウと小夜の攻勢により
全滅した。戦闘描写すらない、ただの雑兵のようだ。
「あうあうあう…王子様凄い…」
「いや、違うだろ」
元賊が突っ込んだ…。
しばらくしてラオウが戻って来た。
「お前の名は?」
「り…璃々!」
少し緊張しながらも元気よく答える璃々。
「じゃあ、璃々ちゃん…お姉ちゃん達と一緒に来てくれる?
お母さんに会わせられるのはもう少し先になっちゃうけど」
「いいよ…早く会いたいけど、たちばがあるんでしょー?」
意外と聡明な子供である…この様子であれば、母親はもっと聡明だろう。
この日ラオウ達はひとまず城へと戻っていった。
月や桃香が遊び相手を務めたお陰で特に問題なく過ごせた。
落ち無しのおまけ
「そういえば、お前の名前は何だ?」
「姓が四暗刻、名が単騎天和、字が大四喜…真名は字一色だ」
『長い!!!?』
:おまけのネタが手詰まりになってきた…麻雀で決まるのかな?この役って