とうとう投稿数が20になりました。
予定では15くらいで投げるつもりだったのにおかしいです。
きっと僕の知らないところで誰かが書いてくださっているのでしょう。妖精さんとか。
どうもありがとう。
八神はやての趣味は読書である。本を読み始めた最初の切欠はただ寂しさを紛らわすためだったことは事実だが、もともとの自分の性質とあったのか、家族ができたいまでも本を読むことはやめていない。
その中でも特に童話や物語といったファンタジー要素の強いものを好んでいた。
しかし本が好きなことは事実なのだが、いかんせん小学生の年齢であるはやてはあまり本を買うということができなかった。あまりお金を使いたくない、という理由と、本を買いにわざわざ本屋まで行くのは一苦労である、という理由からである。
そんなわけで彼女はよく図書館を利用している。
図書館はバリアフリーが充実しており、自分の読みたい本がたくさんある場所、はやてのお気に入りの場所であった。新しい家族ができてからもちょくちょく通い、そこで色々な本を読むのは彼女の楽しみでもあった。
そしてもう一つ、ここにははやての友達がいることも大きな理由だった。
「はやてちゃん、この本はどうだった?」
「あ、その本読んだよー。結構あたし好みの本やった」
月村すずか。彼女もまた読書を趣味とし、この図書館によく来る少女である。
「はやてちゃんと私って好きな本が似ているからどんな本が面白いかすごく良く分かるよ」
「あはは、あたしもおんなじや。すずかちゃんのおかげで今までよりもぐっと読む本の幅が広がったで」
同じ趣味を持つものは仲良くなるのも早い。彼女らがであって僅か数ヶ月だが、お互いに仲の良い友人、とまで言えるほどになっていた。
「すずかちゃんと最初に会ったのは、確か…」
「うん、3ヶ月くらい前にペット関連の本を読んでるところだったよね」
数ヶ月前。
八神はやては少々悩んでいた。と言うよりも疑問に思っていた。
『うちの猫はどこかおかしいのではないだろうか?』
別に病気だとか異常な行動が見られるとかそういうわけではない。いや、異常と言われれば異常だがその辺りのことは気にしてはいけない。
新しい家族が増えて3ヶ月。紆余曲折あったが彼らも八神家になじみ、日々を楽しそうに生活している。
しかし誰も彼を疑問に思わない。
シグナム辺りに彼のことを聞けば、
「あの方は強いですね……いつか本気でやりあってみたいものです」
シャマルは
「にいさんですか?面倒見もいいし良い方なんじゃないでしょうか?その辺りのことははやてちゃんのほうが詳しいのでは?」
ヴィータに至っては
「アタシはあいつは気にくわねー。そりゃあ強いのもすげーのもわかるけど。。。なんか気にくわねー」
最後の家族を気に食わないと言い表す少女の鼻を抓みつつはやては分析した。
誰も彼が猫だと言うことには疑問を持たない。精々が強いとか良い人とかその辺の理解になっている。
正直に言えば自分も適当に思考を放棄してにいちゃんやから仕方ない、と問題をぶん投げてしまうことは結構ある。
でもここまで誰も疑問に思わないなら……。
こうしてはやては図書館で猫関連の本をあさっているところだった。
車椅子の自分では届かないところにある本、それを取ろうと手を伸ばした。
「この本ですね?」
すっと差し出される本、目の前にいるのは紫の髪に白いヘアバンドの少女、月村すずかがいた。
「猫、飼ってるんですか?」
手渡された本を受け取り、お礼を言うとそう話しかけられた。
「いや、ちょおうちの居候のことなんやけど、なんかおかしいんやないかって」
「病気なんですか?」
「そういうわけやないんやけど…あ、あたし八神はやていいます。平仮名ではやて、変な名前やろ?」
「八神……あの、もしかして八神君のお知り合いですか?」
この言葉に少々はやては面食らった。自分の同居人をこの少女は知っているのだろうか?
「にいちゃんをしってるん?」
するとすずかは微笑み自分の勘が正しいことを証明した。
「やっぱり。八神って苗字は結構珍しいからそうじゃないかなって思ったんだ」
「八神君のクラスメートで月村すずかです。ヨロシクね、はやてちゃん」
こうして二人は友人となり、ここ図書館でよく会うようになったのである。
「あんときは驚いたなぁ。まさかにいちゃんのクラスメートさんと出会うなんて思ってなかったわ」
「それは私もおんなじだよ。まさか八神君の家族に会えるなんて……」
共通の話題があり、さらに趣味まで同じとなればこの二人の仲が良くなるのに時間はさほどかからなかった。
お互いどんな本が面白かったかを教えあい、学校での彼の様子を聞く。たわいも無い雑談をする。はやてにとって同年代でかつ同じ性別の友人というのは初めてだった。
(これもみんなにいちゃんのおかげや)
心の中で考える。彼が来てから彼女の周りは少しずつ騒がしく、楽しくなった。新しい家族もできた。きっかけは些細なことだったが友人もできた。本当に彼には感謝しても仕切れない。
(ほんまににいちゃんは、すごいなぁ)
「はやてちゃん?どうしたの?」
突然黙り込んだはやてを不審に思ったのかすずかが話しかける。それに気づいたはやてはすずかにっこりと笑い、
「なんでもな―――」
胸ををおさえて車椅子から転げ落ちた。
(あかん、なん、やこれ、胸が、くる、しい、、、)
「―やてちゃ―!!だ―じょ―ぶ!?だ―か!救―車―!!!」
はやての耳にはすずかの声がかすれかすれに聞こえる。
(なん、なんや、これ、、、ちょお、しゃれに、ならん、、、)
「はやてちゃん!!!」
そこではやては気を失った。
走る、走る、走る。
守護騎士であるヴィータは病院内の廊下を全力で走っていた。途中看護婦らしき人に何か言われた気がするが、それすらも耳には入らない。
はやてが倒れた。
このことは八神家に即座に伝えられた。たまたま自宅にいたシャマルやシグナムらはすでに病室にいる。管理外世界で収集をしていた自分のみ来るのが送れてしまった。
「はやてっ!!」
病室のドアを開けるのももどかしく部屋に滑り込む。部屋の中にいたのはシグナムとシャマル、そして救急車を呼んでくれたと言うはやての友人の少女、そして
「なんや、ヴィータ、病院では静かにせんとあかんよ」
そこにはけろりとした表情のはやてがいた。
「は、やて、大丈夫、なのか?」
「せやから言うたやん。ちょお胸が苦しくなって倒れただけやて。みんな大げさにするんやから」
シグナムやシャマルを少々責めるような目で見る。しかしそれでもヴィータの心配は収まらない。
「ほんとに、ほんとーに大丈夫なんだな!?」
隣にいる主治医の石井女医にも確認を取る。
「まぁ、今日のところは大丈夫みたいね。ついでだからしばらく入院して検査とかもしちゃいましょう。シグナムさん、シャマルさんちょっとよろしいですか?」
二人を連れて出て行く。恐らくそこで詳しい話がされるのだろう。
とりあえず今すぐ命に別状があるわけではないということを悟り、ヴィータはひとまず安堵する。しかしそれが長続きしないことは誰よりも良く分かっている。
「はやて、やばかったり、辛かったらすぐに言ってくれよ…あたし達は何でもするから」
「ありがとな、ヴィータ」
「じゃあはやてちゃん、そろそろ私は帰るね」
「うん、色々ありがとうなすずかちゃん」
すずかもいつまでもいては家族が心配する、と帰宅し、とうとう部屋に残ったのはヴィータとはやてだけになる。
「なぁヴィータ、にいちゃんは、知らんの?」
「……しらねー。あたしは直接ここに来たから」
突然話しかけられてヴィータは驚くもその内容が彼のことだと知り少々不機嫌になる。
「そっか、でもにいちゃんなら大丈夫やね」
一体何が大丈夫なのかヴィータには全くわからなかったが小さく笑うはやてを見て何もいえなかった。
「あの者にはザフィーラと同じく留守を任せています。突然大勢で押しかけても気疲れなさるでしょうから」
外からシグナムが戻ってくる。どうやら石田女医との話が終わったので戻ってきたらしい。
正直に言えばシグナムは彼に留守番など頼んでいない。頼んだのはザフィーラのみである。彼が今どこにいるのかシグナムは知らないが、僅かでも主を安心させるために嘘をついた。
「あ、そうなん?ならええんよ。ちょおにいちゃんはどうしてるかなと思っただけやから」
慌てて両手を振り別になんでもないと示すはやて。
「今はご自分のお体を労わりください。些事に関しては私達で何とかなりますから」
シグナムにとって最も重要なのははやてである。それはこれからも決して変わる事が無い。
「あー、うん、にいちゃんもいるし、シャマルもおるから大丈夫やね。あたしはここでのんびりと生活させてもらいますか」
はやてはことさら元気に振舞う。それがヴィータには痛々しく思えた。
玄関を荒々しく開ける音がする。そのことに気づいた彼は帰宅したヴィータを出迎えた。
「お帰り。はやての様子はどうだった?」
知っている。彼ははやてが倒れて入院したことを知っている。それにもかかわらずここでのほほんとしている。
「てめぇ…なんで知ってるくせに病院に来なかった…?」
「…俺にも都合と言うものがある。それに大勢で押しかけてもはやてが疲れるだけだろう?」
「それ、本気でいってんのか?」
「無論だ」
「てめぇ!!」
ヴィータは彼の胸倉を掴みあげる。ヴィータにとって彼の言葉は到底容認できるものではなかった。
「てめぇ、はやてが大事じゃねぇのかよ!あたしらよりもはやてと一緒にいるんじゃねぇのかよ!?」
しかし彼は冷静で、全く動じる気配が無い。
「いいか、よく聞け。例えばだ。俺が見舞いに行ってなんになる?はやてが治るのか?少なからず症状が良くなるのか?ならんだろう。ならば気疲れさせるだけだ。真にはやてのことを思うならば大勢で押しかけるべきではない」
確かに間違ってはいない。大勢で押しかけたところで大したことにならないということはシグナムも言っていたことだ。だが、ヴィータは感情がそれについていかない。
「あたしがいってんのはそういうことじゃねぇ!はやてが大事じゃないかどうかって聞いてんだよ!!」
「……大事に決まっている」
搾り出すように声を出す。そこにどんな感情が込められているかヴィータには予想できなかった。
「だったら!!」
「だが、どうしようもないのだ。今ははやての周りにお前達がいる。俺にできることなど高が知れている。そんなところにわざわざ俺が行く必要も……」
「違う!!はやてはなぁ、笑ったんだよ!てめぇがどこで何してるか聞いて、そんで笑ったんだよ!あんな、あんな寂しい笑顔見たことねぇよ!!」
はやては彼のことを聞いた。そしてヴィータの答えに笑って見せた。その笑いは悲しい笑いだった。
しかしヴィータにはそれを埋めることはできない。その事がたまらなく悔しかった。
「はやてはなぁ、はやてはあんたがくるのをずっと待ってたんだ!なのに、なのに……」
すでにヴィータの声には泣き声が混じっている。頬を高潮させ、涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだ。自分はどれだけはやてを好きでもはやての隙間を埋める事ができるのは自分ではない。それが悔しくて、悲しくて、自分が許せない。
「そう、か」
彼はそう呟いた。そしてそのまま居間へときびすを返していった。
「てめぇ、こんだけ聞いてもいかねぇ気かよ!!」
「…俺にも都合がある。第一面会時間はもう終わりだ」
憎たらしいほど冷静だ。確かに自分も面会時間が終了したから戻ってきたのだから。だが、今の彼女にはそんなことはどうでも良かった。
「てめぇがいかねぇって言うのなら…力づくでも連れて行ってやる!!」
ボロボロになった体を引きずりながら病院に向かう。
もうすぐ、もうすぐだ。
はやて、もうすぐこのわからずやを連れて行ってやるからな。
あたしは、はやての為ならなんだってできる。
シグナムやシャマルやザフィーラだっておんなじだ。
あたしは、あたし達ははやてのためなら絶対に何にも負けない。
だから、はやて、もうちょっとまっててくれよ…。
病院の入り口までやってきて気づいたらしき看護婦に言われた。
「病院内はペットの持ち込み禁止です」
常識です。