とうとう十話目です。
ここまで来るのに色々ありました。
シーモンキー大人気、エリマキトカゲブーム、ダッダーンボヨヨンボヨヨン……
ひとえにこれらのおかげです。本当にありがとう。
時空管理局無限書庫。ここがその名前である。
管理局の全ての知識が存在するここは膨大な知識を溜め込み、いまやその蔵書の数は億を超えて兆にまで達するのではないかという者までいる。
しかしそれと同時にその膨大な知識は利用される術を欠いていたのもまた事実であった。
兆は言い過ぎにしてもここに存在する蔵書の数はそれこそその名の通り「無限」と呼べるほどを誇っており目当ての分野を検索するにも一苦労、まして特定の書籍に関しては何をかいわんやである。
つまりここは「全て」がありながら「全てを扱えない場所」という事ができる。
そんな場所に最近いりびたりの訪問者がいる。
「ふーん、よくそんなもので本の中身が分かるねぇ」
「まぁ、こういうのは僕の得意分野ですから」
本を運んでいるのがリーゼロッテ、中心で本を読破しながらそれに答えたのはユーノ・スクライアである。ユーノは今書庫の中で探査魔法を使いハイペースで本を読破していく。すでに読破された本が辺りに山積みになっており、その手伝いをしているロッテも感心しきりだ。
「僕達の部族は探索や調査に長けた魔法を使いますから、これくらいなら簡単ですよ」
こともなげにそういうが、ユーノ程度の年齢でここまで魔法を使えるものはかなり限られる。ロッテもそのことに気づいているのかユーノを見る目が少々変わってきている。
「……あそこにいる彼には劣りますけどね」
少々ばつが悪そうに言うユーノの指差す先にはここに来た最後の訪問客がいる。
「なんだ?よんだか?」
一応ユーノの言葉に答えながらその目は全くこちらを見ない。ユーノと違いただ本を読んでいる。間違いなく読んでいる。だがそのペースはユーノを超える上に冊数が尋常ではない。
ユーノはちらりと彼を観察する。自分は探査魔法を使い一度に十から二十程度の、それ以上の本を読破している。彼は一冊ずつ読んでいる。そこは間違いない。
それでペースが負けている。
(相変わらずだなぁ……)
もはや彼に対する理解を諦めたユーノは自分の作業に没頭していくのだった。
(夜天の魔道書……か)
無限書庫に来て幾日。彼はすでに闇の書に関する大まかな知識を集めていた。
もとはただの資料本であり、途中で何らかのプログラム改変があったせいで現在の闇の書と呼ばれるものになった。
守護騎士プログラムや転生機能も後につけられたものであり、もともとは単なるストレージデバイスであった、と。
(少々厄介なことになる、かもしれないな)
とりあえず一息入れようと気を抜くと、後ろに気配を感じる。この気配はユーノではない。
「…何のようだ?」
「もう一度、話がしたくてね。そっちの目的はまだ教えてもらってないからね」
リーゼロッテにとって彼と会うのはこれが初めてではない。むしろ会うのは幾度目か、そんな関係である。
彼女達はある理由によって彼と協力関係、寧ろ同盟というべきか、を結んでいた。
「あたし達は闇の書の完成をすることが目的だってことは前に話したよね?それなのに主の傍にいて、闇の書の危険性もわかっているはずなのに…あたし達に協力するのは何でなのさ?」
闇の書の完成、グレアムからは手を引くように言われたリーゼたちはしかし秘密裏に闇の書の完成を目指していた。しかしどうしても手が足りない。グレアムに相談することはできない。万が一にも自分達が行動しているとばれるわけには行かない。
そんなときに彼とであった。
最初は対立した。イレギュラーだと思った。単なる猫、どうにでもなると思った。
結果は負けた。
二人がかりで完膚なきまでに負けた。
自分達はこのまま父さまの願いを叶えられず終わるのだ、と地に伏しながら感じた。
しかしそうはならなかった。
「お前らは俺に負けた。だから今から俺の手下だ。少し手伝え」
……わけがわからなかった。さらに何をするのか聞いて驚いた。
『守護騎士達を助ける』
これが彼の打ち出した手伝いである。
リーゼらは面食らった。守護騎士を手伝い闇の書を完成させることは自分達の目的でも合ったからだ。
だが解せない。自分達はともかく彼は主を大事にしている。このまま自分達の計画通りに行けば闇の書は暴走して破壊の限りを尽くす。そのことは初めに説明してある。それでも彼はわらって「だからどうした」と言って自分達に手伝いを求めた。
それから彼らは戦場を駆けた。
直接的な介入はそれほど多くないがそれでも彼らは協力者となった。
自分達がいるとばれるとまずい、そういわれ黒い覆面を渡され、常に猫の状態でいるように指示したのも彼だ。
猫の状態なら確かに肉体的に体格のハンデが多少出るが逆にすばしこく隠密行動には最適と言えた。覆面をすればばれないと言うのもよく考えてある。
守護騎士達を気絶させたときは「やりすぎだ」と彼に言われたが、彼の友人(彼はクラスメートだと嘯くが)と守護騎士を同時に救うためにはあの方法しかなかったし、そのことは彼も理解しているのでそこまで本気でいるわけでもなさそうだった。
だが疑問がまだ残る。なぜ、闇の書の完成を目指しているか。
自分達と違う目的があるのは分かる。この関係は多分長くは続かない、と言うことも。それでも今はお互いの利益が一致している以上裏切る、と言うことは無いだろう。少なくともロッテはそう確信している。
「ねぇ、あんたは、どうして闇の書の完成を目指しているんだい?」
闇の書の魔力はマスターと精々管制人格しか使えない。そもそも彼には魔力なんてものは存在しない。自分達のように永久封印が目的でもない。ならばなぜ?
「さぁな。闇の書が完成するとろくなことにならないのは知っているが。。。まぁ優先順位の問題だな」
答えになっているようでなっていないような答えにロッテはむくれる。
「ナニソレ?全然わかんないんだけど?」
「わからなくていいさ……馬鹿な男の意地ってやつだ。それが破滅の道だと知っていてもソレを突き進むしかできないんだからな…」
「意地?なにそれ?」
「気にするな……と、ちょっと出かけてくる。馬鹿が馬鹿やらかしそうだ。ユーノには適当に言っておいてくれ」
「あたしもいく?」
「いや、大丈夫だ」
今のところ彼らの関係は比較的良好といえた。
とある管理外世界。砂漠地帯にて。
一人の少女が砂漠を歩いている。赤い帽子には小さなウサギが縫い付けられており紅いゴシックドレスを着ている。左手には古びた本を持ち右手にはハンマーを杖代わりにして持っている。もし、道端ですれ違えばだれもが振り向くだろう。少女のぼろぼろさ具合によって。
頬と額からは血を流し彼女自慢の帽子も汚れが目立つ。紅いゴシックドレスは裾がぼろぼろだ。体中砂と血とほこりにまみれている。しかしその中で彼女の目だけは力強い。
「アタシは…はやてを……助けるんだ……。アタシは…こんなの、全然、平気だ…」
だがその言葉は弱い。すでに彼女の体力は限界に差し掛かっている。
「まだ、やれる…」
ここで一度彼女は、ヴィータは引くべきであった。シャマルやシグナムと連絡を取るべきであった。
突然足元が崩れる。疲労した体に鞭打ちバックステップ。距離をとると目の前にはこの世界の原生生物。その体躯は蛇とトカゲを足した風貌に背中はびっしり金属質なうろこで覆われている。ぎちぎちと耳障りな鳴き声をあげながらヴィータの様子を伺っている。明らかに今の彼女の手には余る相手である。
「そっちから、来るなんて、好都合じゃん…」
しかしその目には諦めの色は見えない。寧ろやる気がみなぎっているようにみえる。
「行くぞーーーーーーーーーーーーー!」
気合一閃ハンマーを振りぬく。しかしすでに魔力の尽きている少女の攻撃を相手は小ざかしいと言わんばかりに吹き飛ばした。
「ぐぅっ!」
強かに地面に叩きつけられ苦悶の声が上がる。しかしすぐさま少女は立ち上がる。ここで負けるわけには行かない。
「まだまだぁ!」
再び突貫。最後のカートリッジをロード、全てを一撃に賭ける。
「ラケーテン・ハンマー!!」
爆音と共に自身を高速回転、遠心力と共に蛇の化け物に突っ込む。何を感じたか相手はその場から動かない。これを好機と見たヴィータは相手の頭を狙いハンマーをぶち込む。
「ああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
バチバチとハンマーと鱗がぶつかり合う音が聞こえる。もしこの攻撃を防がれたら少女に勝ち目は、ない。
「いっっっっっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
叫びと共にアイゼンで打ち抜く。ついに相手の鱗が耐え切れずはじけ飛ぶ。
「ギュオオオオオオオオオオオ!!!!」
断末魔の叫び声をあげて倒れる化け物。生きてはいるようだがしばらく動けないのは見て取れた。
「へへ…やったぜ…これで蒐しゅ……う」
そこで少女は気を失った。
「馬鹿が。無茶をする」
後ろに彼がいたことには気づかなかった。
「こ、こは…?」
次にヴィータが目を覚ましたのは自分のベッドの上、正確にははやてのベッドの上だった。
「あれ。。。アタシはどうなって、確かあいつをぶったおして…そうだ!闇の書!」
そのことに思い至り辺りを見回す。体の節々が痛むが動けないほどではない。ふとサイドボードを見ると闇の書がおいてあり、ひとまず安堵する。
「気がついたか」
「あんたは…」
目の前にいるのは一匹の猫。どうやら助けられたのだろうか?
「あんたが助けてくれたのか?」
「さぁな俺はぶっ倒れてるお前を見つけたから家まで引きずってきただけだ。驚いたぞあんなところで倒れてるんだからな」
その言葉に少々疑問が浮かぶ。あんなところとはどこだろうか?
「なぁ…」「あーヴィータ、目、覚めたんやね」
しかしその言葉ははやての乱入によってさえぎられた。
「全くもういくら楽しいからって土手で足滑らせて転ぶなんて危ないよ。もうちょっと気をつけて遊ばないとあかんよ。たまたまにいちゃんが見つけてくれたから良かったけど次からは気ぃつけてな」
「あ、あぁ」
はやての言葉にあいまいに頷く。どうやら自分は土手で気絶していたらしい。一体いつの間に戻ってきたのだろうか?
「はやて、ヴィータは目が覚めたばかりだ。何か飲み物でも持ってきてやったらどうだ?」
「あぁそやね。ヴィータ、ホットミルクでええ?」
「う、うん」
「俺の分は…」
「わかっとるよ、温めやね」
そう言ってくすくす笑いながら台所へとはやては去っていった。
「さて、言いたい事があるなら聞こうか?」
「…あんた、どこまで知ってるんだ?」
半年共に暮らしてみたがヴィータは彼が苦手だった。正確に言うと少々そりが合わない、と言うのが正しいかもしれない。普段から飄々としていてつかみ所が無い。ふらふらとどこかにいなくなることは日常茶飯事だしそのくせはやてからの信頼は厚い。そのことをはやてに問いただしても「にいちゃんやから」の一言で済まされてしまう。
ありていに言えばヴィータは彼に嫉妬している。ひどく幼いものであるがこの感情は嫉妬と呼ばれるものである。それがこの苦手意識の正体だった。
「さぁな。なにも俺は知らんよ。そういうことにしておいたほうが都合がいいのだろう?俺にとってもお前にとってもな」
まただ。またこうしてはぐらかされる。本当は知っているくせに知らないふりをしているのか本当に何も知らないのかその表情からは全く読めない。猫だから。
ヴィータは彼に対する追求を諦め、押し黙った。念話の気配からもうすぐほかの守護騎士たちも戻ってくる事がわかる。
「俺から言えることははやてのために何かをすることは悪いことじゃない。だからその道を突き進むといい、ってことだけだな」
「…やっぱり、知ってんじゃねぇか」
「何を?」
やはり空とぼけられる。
「なんでもねぇよ…」
「だからお前らもソレを邪魔されるのを覚悟しろよ」
「え?」
それってどういう意味―言いかけたところではやてが戻ってくる。お盆の上にはマグカップが乗っている。
「ヴィータ、にいちゃん、ホットミルクできたよ。あったまるよ」
そう言って微笑むはやてを前にしてヴィータは何もいえなくなってしまった。
時系列がずれてます。少しだけね。
しったこっちゃねぇや。
このお話を独創的だといわれました。
嘘っぱちだと思います。
5/25 投稿
6/5 修正