優れた作者の書くキャラクターは勝手に動き出すそうです。
僕のキャラクターは勝手に動きません。
折角いつ来てくれてもいいようにお茶と羊羹を用意しているのに。
もしかしたら僕の知らないところで動いているのかもしれません。ホラーです。
時空管理局、その時空航行船アースラにて。クロノハラオウンの日記より抜粋。
4月某日
管理外世界にて二人の魔法使いと接触。一人は高町なのは、もう一人には逃げられてしまった。執務官としてあるまじき失態だ。猛省する。
彼女達の話を聞いたところロストロギア関連の事件と発覚。リンディ艦長によりすぐさま時空管理局預かりの事件となる。
ユーノとなのはに関しては現地の協力者としての参加が約束された。
最も本音を言えばあまり素人には関わって欲しくないのだが本人のやる気と熱意に押された格好だ。魔力資質も高いことだしこれを機に艦長は彼女を管理局とかかわりを持たせるのかもしれない。
5月某日
事件に一応の片がついて数日。フェイトテスタロッサはこのまま本局に移送されそこで裁判を受けることになる。最後になのはと二人で別れの挨拶を済ませていたようだ。我ながら甘いと思うが結果的には良かったとも思う。管理局はそこまで冷徹な組織ではないのだ。
おそらくこれでしばらくなのはには会えないだろうから最後に疑問に思っていたことを聞いておいた。
次元震が発生したときのことだ。このとき以外にも何度かこちらのサーチャーが全く効かず、状況が全く飲み込めなかった事が幾度かあった。
事件は解決したが詳しい報告書は必要なためそのあたりのことを聞いておかねばならない。いつのまにかここまで延び延びになってしまったがまぁ、そこまで大したこともなかっただろう。事件は解決しているのだから。
5月某日 次の日の日付
……彼女達の話が良く分からない。一応調書は取ったのだが……以下に内容を抜粋する。
・猫が助けてくれた。
・猫がフェイトテスタロッサと戦った。
・猫が手助けをしてくれた。
・猫がジュエルシードの暴走を押さえ込んだ。
・猫がジュエルシードの思念体を叩きのめした。
・猫に説教食らった。
・猫が強い
・猫すげえ
etc,,,etc,,,
ユーノ、フェイトらからも事情を聞くと概ねが事実らしい。その猫について聞いてみたところユーノ曰く魔道師や使い魔といった類ではなく本当にただの猫らしい。頭が痛くなってきた。どこに人間と渡り合う猫がいるというのだ。もしかしたらこれは集団催眠の一種ではないだろうか?まさかまだ事件は終わっていないのか?後ろにまだ何かいるのか?馬鹿馬鹿しいとは思いながらも少女達の顔は真剣だった。「八神」という名の猫らしい。しかしそれが分かったところでどうしようもない。事実かどうかの裏づけもとりようがない。この国には戸籍があるようだが猫の戸籍なんてどこにもないだろう。どうしようもない。そもそも本当かどうかも怪しい。アルフも含めて4人で僕をからかっているのではないだろうか?
5月某日
まだミッドには戻れないため地球近くにアースラは滞在している。先日の件についてもう少し詳しい事情をユーノとフェイト、アルフから聞くことにした。どうせユーノかアルフ辺りが結界でも張っていたんだろうとか思っていた自分をぶん殴ってやりたい。
「僕が悩んでいたときに優しく諭してくれたよ。彼が言ったことは正しいのかは分からないけど僕に新しい考え方を吹き込んでくれたのは確かだね」
「買い物をするとき助けてもらったよ。それと戦ったこともある。ものすごく強かったよ。こっちの攻撃はみんなかわされちゃった」
「あいつかい?アタシはよく知らないけどね。まぁ悪い奴じゃないよ。なんていったってフェイトを助けてくれたんだからね」
繰り返すが猫についての記述である。頭がおかしいのではないだろうか。エイミィ、艦長とも相談してみたのだがエイミィは彼女達なりのジョークかなといって歯牙にもかけない。艦長は艦長でそんなにすごい猫さんなら一度会ってみたいわねなどと言い出している。
。。。現実的に考えてただの猫がそんなことをできるとは思えない。ここからは推測になるのだが恐らく彼女達は何かを隠しているのでは?
現地になのは達に協力した第3の人物、魔道師か一般人かは分からないが、がいたのではないだろうか?そしてその人物を隠すために彼女達は口裏を合わせていたのではないのだろうか?こう考えると辻褄が合う。本人の意思か彼女達の意思かは分からないがなのはもユーノもその人物と管理局を関わらせたくないのだ。しかし現実としてこちらのサーチャーが効かない事があったのは事実。そこで「猫」という架空の存在を作り出しそれに全ての責任を負わせることにしたのだ。もしここで強く言ってもそれを事実と言い張られたらこちらはそれ以上突っ込むこともできない。こちらが調査しようとしても猫の素性など分かるわけもない。恐らくは「八神にい」というのも偽名だろうから調査も不可能だ。というか誰がどう考えてもこんな名前は偽名だろう。彼女達はばれないと思ったのか?
誰が考えたかは知らないがうまい手だ。しかしそうまでして隠したい存在とは……どんな奴なのだろうか。
おそらく最後になのはとフェイト二人が会話したときにそんな取り決めがなされたのだろう。気を利かせて二人っきりにしたのが裏目に出たようだ。
過ぎたことは仕方ない。この件に関してはもう少し継続して調査を進めよう。
6月某日
訓練室にて。フェイトとユーノが模擬戦をしている。相変わらずユーノの防御魔法、結界魔法は優秀だしフェイトの高速機動戦闘術もかなりのものだ。この二人なら管理局の嘱託魔道師としても充分やっていけるだろう。特に最近のフェイトの高速機動にはますます磨きがかかっている。そのことを聞いてみたところ。
「にいさんはもっと早かった。こっちが切りかかったときにはもう真正面にいたよ。……手加減されてなかったら多分負けてた。……私も素早さには自信があったけどあそこまで完膚なきまでに負けたのは初めてだったね」
……頭が痛い。またそいつか。誰だよにいさんって。ユーノも横で確かに彼は早かった。多分クロノでも危ないなどといっている。
馬鹿にしてるのか?つまり僕は猫にも劣る人間だと暗に馬鹿にされてるのか?いや、自分の師匠が猫型の使い魔だったから決して猫が弱いといいたいわけじゃない。でもどう考えてもただの猫には負けないだろう。体格差もあるんだし。
しかし横で訳知り顔で頷くエイミィを見て色々と諦めた。
7月某日
本局に到着。結局「八神にい」なる人物についての詳細な調査は不可能だった。どこかでぽろっと本当のことを話してくれるのではとも思ったのだが彼女らのガードは存外に固かったらしい。
この件に関して艦長は大して興味を抱くそぶりも見せず結局気にしていたのは自分ひとりだった。艦長が言うには「いろいろな事情で管理局の前に出てこれない人たちがいるの。その人たちは犯罪者かもしれないしそうでないかもしれない。でも少なくともここまでなのはさんやフェイトさんの信頼を勝ち得ているということはその人は悪い人ではないでしょう?」
……僕にはそれでいいのか判断はできない。母さんのように割り切れない。ただこれからフェイトの裁判がある。この件に関しては一旦保留にせざるを得ない。今は無罪を勝ち取る事が大事だ…。
ユーノ・スクライアの供述。
彼について知ってることを話せって?うーんそう言っても僕も彼とそんなに親しいわけじゃないからなぁ。
最初に会ったときはなのはに助けを求めたときだね。彼はいつも夜になると町を巡回してるんだってさ。後で聞いた話だけど大事な家族がいる町を守るためらしいよ。
とにかくジュエルシードの思念体が暴走してさ、まだなのはは杖の展開すらおぼつかない。そんな時かな目の前に彼が現れたのは。目の前で襲ってくる触手を全部かわして一瞬で相手をばらばらにしちゃった。今思うとあれくらい彼ならできて当然なんて思うけどさ、あの時は驚いたなぁ。
結局封印はできなかったからなのはが封印したんだけどね。
次にあったときは僕が落ち込んでたときかな。
まぁ色々あって僕がへこんでいるときにたまたま会ってさそこでお説教されちゃったよ。大事なことはどうするかじゃなくて自分が何をするかってことを言われたよ。僕と同じくらいの年数しか生きてないのに含蓄ある、と思ったよ。
あとは……そうそうジュエルシードが暴走したときだ。正直僕はあの時もう駄目だって思ったんだよ。フェイトが無理やり押さえ込もうとしてたけどその前の戦闘で消耗してたのと思ったより力が強くてもう無理だと思ったんだ。このままいけばこの町、下手すればかなりの広範囲が吹き飛ぶと思ったよ。
でもそうはならなかった。
何をしたのかは知らないよ。聞いてみたけどはぐらかされたし。でも事実として終わったときには暴走が止まったジュエルシードと気絶したフェイトがいただけだったのさ。
それ以降?君達が地球に着てからは会ってないよ。何か事情があったのかな?是非紹介してあげたかったんだけど。そして自分がいかに矮小なことにこだわっているかということを思い知るといい。
悟りきった笑みを浮かべる彼の顔は晴れやかだった。
フェイト・テスタロッサの場合
フェイト・テスタロッサは最近寝つきが悪い。これは純然たる事実である。理由は分かっている。春先にあった事件のせいだ。
ここでフェイトはある魔道師?に出会った。
助けてもらったこともある。
本気でぶつかり合ったこともある。
結局勝負はつかず、いや、助けてもらったのも差し引いて自分の負けで終わってしまったがそこはさほど気にしていない。
負けた事がないわけじゃない。それこそリニスとの修行時代には何度も打ちのめされていたわけだから。
フェイトはあの時、助けてもらったときのことを考える。そうするとなにかもやもやとした、暖かいような、恥ずかしいようなえもいわれぬ気分になってしまうのだ。
この感情をなんと呼ぶのかは分からない。精神的に幼いところのあるフェイトは自分の感情をもてあましていた。
「う、ん……」
そうしてフェイトはまた眠れぬ夜を過ごすのだ。
高町なのはの憂鬱
「ふっ!はっ!はっ!」
高町恭也は自宅の道場にて木刀の素振りをおこなっていた。すでに習慣として身についてしまっているこれらの修行。隣では妹の美由紀が瞑想をしているのか静かにたたずんでいる。
いつもの朝の光景だった。しかし、最近は少々勝手が違っていた。
「……」
末の妹であるなのはが道場の隅でこちらを見学しているのである。
なのはが修練を見せて欲しいと言い出したのはここ数日のことである。元来運動嫌いで朝には滅法弱い妹がそんなことを言い出したのには驚いたが特に断る理由もないので恭也はそれを許可した。
それからというものなのはは何をするでもなく朝の修練をぼうっと見ている。
時々父が「なのはもやってみるか?」と誘っては見るものの運動嫌いのなのははそれを固辞している。ならば一体なぜ?別に古流剣術に興味があるわけではないようだ。それよりももっと別の……
そういえば以前にもなにか悩んでいた事があったな……。
春先になのはがこっそりと夜中に出かけていたことは父も自分も知っている。その時に何か悩んでいたことも。
相談されれば答えるつもりだったし何かあれば全力で手助けをするつもりだったが結局なのははそれを乗り越えてしまった。それが兄としては嬉しくもあり少し寂しくもあった。
その時と、悩んでいたときと同じ顔をしている。
「そろそろ今日は切り上げるぞ。なのは、美由紀、朝食だ」
無理矢理悩みを聞きだそうとはしなかった。この末の妹は頑固なところがある。無理に聞き出そうとしてもなんでもない、といわれますます意固地になるだけだろう。だからこちらからは何もしなかった。それが恭也には歯がゆかった。
しかし、今日、見学を始めてから初めてなのはは恭也に質問をした。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんはなんで修行しているの?」
ありきたりといえばありきたり、究極といえば究極の質問である。自分が修行する意味、それはどこにある?
「……強くなるためだな」
思い出すのは昔の自分。まだ力もなく何もできずただ父の足手まといだった自分。それが思い出される。恭也にとっては強さを求めることは一つの宿命でもあった。
「強くなって、誰と戦うの?」
「なのは、違う、強くなるのは誰かと戦うためじゃない、少なくとも俺はそして美由紀と父さんもそうだ」
「じゃあ、強くなってどうするの?」
これには恭也も面食らった。強くなって何をなすか?それをこの妹は問うてきているのだ。
「守るのさ、大切なものをな」
それは御神の教え。守りたいものを守る。この短い言葉の中にいかほどの恭也の思いが込められているか、なのはには分からなかった。ただ、深い、それこそ幾億の意味があるのだと漠然と理解した。
「お兄ちゃんの、大事なものって何?」
「父さんに母さん、美由紀たち、忍やそれに関わる全ての人たち。そして何よりもなのは、お前も大切なものの一つだよ」
そう言ってなのはの頭をなでて笑う兄の姿を見てなのはは赤面してしまった。
その日の夜、高町家で緊急家族会議が開かれた。議長は士郎である。
恭也から相談を受けた士郎が強さについてこんな質問をしてきたなのはから詳しく話を聞くためである。本来ならば士郎はこのようなことはしないのだが強さの意味となれば話は別だ。過ぎた力は自らの身を滅ぼす。士郎はそのことを身をもって知っていた。力を得るとはそんなに単純なことではないのだ。
「それで、どうしたんだ」
「えっとね、すごく、すごく強いクラスメイトがいるんだ」
なのはの頭に浮かぶのはクラスにいる一匹の猫。彼の強さを見て何かしら思うところが合ったらしい。
「それでね、どれくらい強いの?って聞いたら『強さはひけらかすものじゃない』って言われて。大事なときにこそ力は振るうべきだって言われて……」
なるほどそのクラスメイトはなかなか自分なりの強さを持っているらしい。士郎はそう判断した。
「力があればできないことができるようになるのに、力があればみんなを助けることができるのに、それを周りに見せないのはおかしいと思わない?自分の力をみんなに言いたいって、自分はこんな事ができるって言いたいのはおかしいのかな?」
なのはは家族に自分の力を隠している。それが彼女に若干の重石となっていた。正直に言うべきではないのか?秘密にしておいたほうがいいのではないか?その二つの感情の中で常に揺れ動いていた。力があってそれを隠すのは悪いことではないのか?
「強くなって、みんなに認めてもらいたいって思う私は、おかしいのかな」
これが真実、彼女には若干のコンプレックスがある。親友二人は頭脳明晰で運動神経も良い。父や兄、姉にいたっては言うに及ばず、母も一流のパティシエとして活躍している。そんな中自分には何もない。何かやりたい事が明確にあったわけでもない。そんなときに出会った魔法という未知の力。なのはがそれにある種の希望を見出してしまうのは致し方ないことだった。
もちろん親友や家族に聞けばなのはの美点をこれでもかと挙げてくれるだろうし何も長所がないなどということはありえない。
しかし周りと比較して自分を低く見がちななのははそのことに気づかなかった。
「わかんなくなっちゃって……強いって、力があるってなんだろうって思って…」
そして身近な存在である兄にそのことを聞いた。
これが顛末らしい。
一通り話を聞いた家族は静まり返っていた。
そしてこれまで一言も話さなかった士郎がここで初めて口を開いた。
「強さ、か」
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/ i f ,.r=''"-‐''つ____ こまけぇこたぁいいんだよ!!
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/ ,i ,二ニ⊃( ●). (●)\
/ ノ il゙フ::::::⌒(__人__)⌒::::: \
,イ「ト、 ,!,!| |r┬-| | ←士郎
/ iトヾヽ_/ィ"\ `ー''´ /
「よし寝るぞ」
「お休みー」
「なのは、夜更かしするなよ」
「なのは、テレビを見すぎちゃいけないわよ」
ぞろぞろと出て行く家族。彼らを見てなのはは呟いた。
「やっぱり私は家族の中で浮いているのかもしれません……」
なのはは一つ大人になった。
投稿しようと思ったら、理想郷がメンテナンス中でした。
まずは管理人の舞様にご苦労様です。
多分字数でいえばいままでで一番長くなりました。
悩む少年少女、そしてその成長といえば物語でやり尽されたパターンです。
ところでみなさんはゴールデンウィークにどこに行きますか?
ぼくはゴールデンといわれたので金がもらえると思ったのですが実は違ったらしいです。詐欺だと思います。
4/30 投稿
5/4 修正