3話目です。
そろそろ前書きが尽きてきました。
僕の話は王道を一直線に突っ切っていくので展開の予測はとても簡単です。
多分こうなるだろう、と想像すると大体そのとおりになります。
闇の書の守護騎士が呼び出されてから少々の時間が流れた。
はじめは新しい主、はやてに遠慮してかぎこちなかった面々も徐々にその生活に慣れ始め、彼女達は初めて「平穏」というものを手に入れた。
このお話はそんな面々の日常を描いた話である。
ヴォルケンリッターのリーダー、烈火の将、シグナムは悩んでいた。
いつもの彼女なら悩みなどない。精々が「今日の主が作ってくれる夕食は何だろう」といった程度である。いささか言いすぎな点もあるが概ね彼女の悩みなどこの程度のものだった。
だが今彼女は大きく悩んでいた。
別に今の主や自分のあり方に疑問を持っているわけではない。
むしろ今までの主と比べれば今の主は破格とも言えるほど好待遇であった。
食事の支度や身の回りの世話といったことから果ては日用の服の購入までいたれりつくせりであったし、闇の書の蒐集を行わないことも主がそれを望んでいる以上何もいう気はなかった。むしろはやては今のまま、みんなと一緒にいることを望んだのだから、その願いを果たすことが今の彼女の本分とも言える。
久しく、ともすれば初めて訪れる「平穏」に彼女は満足していた。
もちろん日々の鍛錬は欠かしていないし、そこいらの凡愚どもに遅れをとるつもりはさらさらない。
それでも彼女が今の平和を満喫していることは疑いようもない事実であった。
では彼女の悩み事とは何か。
ことの始まりは彼女達よりもはやてと先に同居していた同居人との話が発端である。
「ごちそーさまー」
今日も家族そろって夕食をとり、団欒の一時、そろそろ八神家ではいつもどおりとなった光景である。
「はやてーゲームしよーぜゲーム!」
守護騎士の中でも最も年齢の幼く見えるヴィータはその外見に違わずどこか子供っぽいところがあった。
「あら?明日のお弁当の仕込をしておこうと思ったのに…味醂が切れてるわ」
参謀という立ち居地が最も似合う女性は現在ほとんど家政婦と化していた。
「……」
そして件のシグナムは何も語らず食後のコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。
そして、その時事件とも呼べぬ出来事が起こった。
「……なあ守護騎士ども、ちょっと話がある。ちょっとこっちにきてくれ。はやてもだ」
この家の同居している彼、八神にいによる突然の家族会議である。
ぞろぞろと集まると、彼は真剣な顔をして切り出した。
「長ったらしい前置きは抜きだ。単刀直入に言おう」
「働け」
時が止まった。
「ちょ、にいちゃん、何言うとるん?別に働かんでも食べていくだけのお金はあるで?」
はやての疑問は最もである。はやてには両親の遺産が毎月小父さんから振り込まれているし、その額は彼女達が食べていくのに困るほどではない。
「それは分かっている。俺が言いたいのはお金の問題ではないのだ。今の貴様らを見ているとただはやてに甘えているだけで何もしていない。いいか、家族とは助け合う存在であって依存しあうものではない。家族とはただ一緒にいるだけでは駄目だ。信頼を築いて、そしてお互いがお互いを支えあうものだ。然るに今のお前らを見るとそれができているとは言いがたい。特に言いたいのはお前だ、シグナム!」
突然名指しで言われシグナムはうろたえた。
「お前は守護騎士のリーダーでありながら率先して働こうという意思が見られん。ヴィータやザフィーラは仕方ないとしてもシャマルくらいの働きをしてみようとは思わんのか」
確かに今の自分が何か具体的なことをしているかといわれれば何もしていない。シャマルは家事の手伝いをして最近でははやての隣で料理の手伝いをしていることも見かける。ヴィータはその見かけから働くのは無理だろうし、ザフィーラはそもそもが狼だ。働けるわけがない。
「ぐぅ、そういう貴様はどうなのだ。働いているようには見えんが」
図星をさされたシグナムにできたのは相手にも自分の境遇を味あわせてやろうという反論をすることだけだった。
「ふん、俺は毎月はやてに決まった額を振り込んでいる」
「にいちゃん、初耳やで」
確かに最近振り込まれる金額が多くなったとは思っていたがまさかそんな事情があったとは。
はやてはまた彼の秘密を知って愕然とした。
「そういうわけでな、貴様も少々働いて来い。なに、バイトの斡旋なら俺がやってやろう。これでもそこそこ顔が利くのでね」
「むぅ…」
ここまで言われてはどうしようもない。しかし彼女には使命がある。現マスターである八神はやてを守るという使命が。
「ああ、それとも誇り高きヴォルケンリッターの将はヒモになるのがお望みか?」
小ばかにしたような口調で言われる。シグナムは思わずいった。言ってしまった。
「っ!よかろう!私も働いてこようではないか!これでもうニートなどとは呼ばせんぞ!」
誰もニートなどと呼んでいないのだが燃える彼女の目は本気だった。
「シグナム、無理せんでもええんやで、あたしはみんながいてくれればそれで満足やから…」
「いえ、主はやて、このままでは私はただの無駄飯食らい、かくなる上は精一杯働いて家計の助けとなって見せましょう!」
そう宣言する彼女の目は燃えていた。完全に働くということを戦闘と勘違いしている。
「そうか、先方には俺が話をつけておく、まぁ楽しみに待っていろ」
してやったりの笑顔を浮かべる彼には誰も気づかなかった。
こうして初めてのアルバイトと相成り、冒頭の彼女の悩みに戻るのである。
「準備はできたか」
「……ああ」
先日の自分を殴り飛ばしたい衝動を抑えつけながらシグナムは返事をした。自分は守護騎士の本分を忘れて何をやっているんだろう。
「よし、では行くぞ」
ケース1 ハンバーガーショップ
「お前は見た目がいいからな。多少のミスはそれで何とかなるだろう。とりあえずまずは接客業だ」
「まずはここだ」
そういわれ連れてこられたのは某ハンバーガーチェーン店である。
「やる仕事は適当にニコニコしながら接客をすればいい。大して難しくないだろう?」
「い、いラっシャいマセ……」
制服を着込み挨拶をする彼女の顔は傍目から見ても分かるほどに引きつりとても笑顔と呼べるものではなかった。
「表情が固い!もっと柔らかくだ!」
「はんばーガーふタつと、シェイくのえむがおヒとつでよロしかったでショうカ」
「ポテトを一緒に勧めんか!正しい敬語を使え馬鹿者!」
何かミスをするたびに横から檄が飛んでくる。彼女に掛かるストレスはマッハだった。
「…や」
「笑顔を崩すな!親が死んでも笑ってろ!それが接客の心得だ!」
「やってられるかーーーーーーーーー!!!!!」
記録一時間28分 レヴァンティン発動により周囲に被害。
ケース2 メイド喫茶
「ハンバーガーショップが駄目なら次はここだ」
目の前にはなにやらフリルやらレースやらがついたよく分からない店がある。
「この店なら笑顔を出さないことも一種の個性として認められるはずだ。お客様に失礼なことはするなよ」
「……私にこれを着ろというのか」
彼女の目の前にはメイド服。これでもかというほどのメイド服。
彼女の嗜好としては真っ先に避けたいものであった。
「ふん、その程度が怖くて金が稼げるか。それともベルカの騎士はこの程度のこともできないのか」
再び馬鹿にしたように言われる。シグナムは覚悟を決めた。
黒よりも濃紺に近いワンピース、白いレースをあしらったエプロン、俗に言うエプロンドレスを身につけ、スカートの丈はギリギリ膝よりも上といったくらい。白いガーターストッキングに足元は赤いピンヒール。頭にはホワイトプリムのヘッドドレスを装着。全体的に装飾は少なめだがそれゆえ間違いなく誰が見てもメイドと思われる格好だった。
ここにメイドシグナムが誕生した。
「いらっしゃいませごシュジんさマ…」
その素質はダメダメだったが。
「馬鹿者!棒読みでやる阿呆がどこにいる!ツンデレならもっとツンデレらしくしろ!」
「ごしゅジんさま、ナにニなサいまスか…」
「キャラが立ってない!だから貴様は人気がでないのだ!!」
「べ、ベツにまタ来て欲しいなンてオモってないンだカらね!」
「きさま、やる気があるのか!メイドを馬鹿にすると世界メイド協会から鉄槌が下るぞ!」
それでも彼女は耐えた。先ほどのハンバーガーショップの経験が生きた。多少はシグナムも耐えるということを覚えたらしい。
「恥じらいを捨てろ!照れをなくせ!貴様は虎だ!虎になるのだ!!」
だが、彼女が耐えるということは彼女の見た目に引き寄せられる連中がやってくるということであり、
「きみかわいいね~新しい娘?」
「仕事終わった後どう?ちょっと付き合わない?」
「ねぇねぇ写真とっていい?ねぇねぇ、いいでしょ?」
「バイトのシフトいつ?通っちゃおうかな~」
「や…」
「馬鹿者!適当に流さんか!お客様!写真撮影は禁止です!」
「やってられるかーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
記録 2時間13分 レヴァンティン発動 人的被害甚大、死者はなし 非殺傷指定だと思われる
ケース3 ペットボトル工場
「分かった。貴様に接客業は無理だ。今度はもっと簡単な奴にしてやる」
そういってやってきたのはそれなりに大きいペットボトル工場である。
「いいか、このいすに座って目の前で流れているペットボトルを見張る。倒れているのがあったら立て直す。これだけだ」
シグナムはこれまでと比べて随分簡単な仕事にほっとした。
「フフ、これくらいなら誰でもできる。あまり私を見くびるなよ」
これまでがこれまでだからかつい軽口が飛び出す。
「俺は別のところにいるからな、サボるんじゃないぞ」
スパーーーーン
シグナムは頭に強い衝撃を受けて目を覚ました。
「寝るな!!馬鹿者が!!」
記録 4時間38分 シグナム熟睡によりクビ。
「全く貴様という奴は…」
ぶつぶつと文句を言いながら歩く。
今日一日バイトをしてみたが全てクビになり、とぼとぼと歩いている。
「私は不器用だからな…戦う以外には何もできんのだ」
そう自嘲するシグナム。
「だからといって何もしなくても良い訳ではないぞ穀潰し、少しは働けるようになっておかねばな」
その言葉に流石にシグナムもカチンと来る。
「そもそもなぜ急に働けなどと言い出したのだ。私は主を守れればそれでいいのだ。それこそが私、いや我らの使命なのだからな」
それこそは彼女達の存在理由。だが、彼は言った。
「何かしらの理由でお前らが離れることになったらどうする?お前らは一人で生きていけるのか?」
それはありえない問いかけ。自分達がプログラムである以上主と離れることなどあるはずもない。
「今は、な、はやても子供だし家族ができたばかりだからその事がうれしいだけだろう。だがあと5年たち、10年、20年経てばどうなる?はやてももしかしたら自分の伴侶を見つけて一緒になるかもしれないし、お前達にも新しいパートナーができるかもしれない。そのときに『自分は不器用だから』とか『社会経験がない』といった理由で一人寂しく消えていくのか?」
今までの主なら考えられなかったこと。それは未来を考えるということ。
「はやては多分お前らと一生家族だしそれは決して変わるはずがないことだ。だが、だからといってそれに甘えっきりの生活というのは人を堕落させる。人生とはいついかなるときにどうなるかなぞ分からない。いいか、いろんなことを経験し学んでおけ、少なくともそれが無駄になることはまずないさ」
「…我らは主の剣だ。主のためにのみ我らは存在している。主の迷惑になるくらいなら我々は死を選ぶ」
「はやてはそんなこと望んでないし、望まないさ。家族ってものはどんなに離れてても心がつながっているからな」
「っと、最後の場所だ」
そして彼らがたどり着いたのは
「そんで、その後どうなったん?」
はやてがシグナムのバイト経験談の話しをきいて先を促した。
「何、知り合いの剣道道場の師範として今も行っているよ。人に教えるのはガラじゃないなどといっていたが中々どうして人気のある先生ぶりだったよ」
「そか、ならシグナムのバイトは一応成功ちゅうことやね」
「色々あったが収まるところに収まったということだな」
「にいちゃん」
「なんだはやて」
「ありがとな」
「…礼を言われるようなことは何もしていない」
一匹の猫はそそくさと外に散歩に行ってしまった。
テンプレどおり行くならAsでは彼らの日常を書かないといけません。でもこの辺はほとんどオリジナル展開にするしかないのですごく大変です。だから出来がひどいです。読み飛ばすべきです。
自分で書いてて思った。クセェ。ゲロ以下のにおいがぷんぷんする。