「姫っちか?」トレインがそう言うと少女は首をかしげつつ答えた。「……私はあなたとは初対面ですけど?」「あー、わりーわりー知り合いにそっくりだったもんでな。」(それにしてもそっくりだな~。まあ姫っちとは年が違うか)少女の年齢はなのはと同じくらいの10歳前後といったところでイブとはすこし年が違っていた。しかし少女はあったばかりのイブのような雰囲気をしていた。「と、トレイン君。その話はあとでいいとなのはは思います。」「ん?そうか。んじゃ本題に入ろうぜ。」トレインはどうぞどうぞと言わんばかりに会話を切り上げた。そうして仕切り直しと言わんばかりだったが「………。」「………。」「…えーと。」とてもではないがさっきまでのシリアスな雰囲気の空気ではなくなっているこの空間で会話を続けられるほど三人は大人ではなかった。が、ユーノは意を決して話を進めた。「えーと、とにかく!!そのジュエルシードはこちらに渡してほしいんだ。」「え、えーとその、それはできません。」若干戸惑い気味で少女は答えた。そして手にあるデバイスを構え「邪魔するなら実力で通してもらいます。」「そんな、待って。私は話をしたいの!!事情を説明してもらえれば!!!」なのはは必死に語りかけるが少女は黙って首をふるだけだった。「さっきも言ったとおり話したところで理解してもらえないと思うから。」ジャキ!!そういうと臨戦態勢に入った。「なのは、仕方ないここは戦うしかない。」「…うん。」返事をしたもののなのはの表情はすぐれなかった。その様子を見たトレインは何も言わずに黙ってみていた。(やっぱその辺にいるガキんちょと変わんねえな。それに比べて向こうは…)トレインは少女のほうに目を向けた。トレインほどではないにしても構えからかなり戦い慣れしていることは十分にわかる。そのまなざしは少し憂いを帯びておりかつてのイブのようだがその奥に見える決意はかなりのものだと感じられた。トレインのなかでなのは少女との絶対的な違いは秘めている決意、信念の強さなのだろうと思った。なのはの実力がどれほどのものかは知らないが少女のほうが戦い慣れしている以上に強い決意のもとで戦っているのだと一方のなのはにはそれが感じられない。(強い信念はどんな強大な力にも勝てる武器になる…か。)トレインはクリードにとどめを刺されそうになるさなか聞いたサヤの言葉を思い出していた。そうこうしているうちに二人の戦いは始まった。先に仕掛けたのは漆黒の少女のほうだった。杖をなのはのほうに向け“Photon lancer, get set”杖から声が聞こえると二本の槍のような光弾がなのはに向かっていた。なのははいつの間に着替えたのか学校の制服のような服に着替えていた。そして“Flier fin”なのはの持つ杖からその言葉が聞こえると靴に光の翼を生やし、飛び上がって避わす。その様子をトレインは感心しながら見ていた。「はー、こいつはすげーな。想像以上だな。」「感心してる場合じゃないって、あの子はかなりの実力なんだ。なのはもすごい資質を持ってるけど…。」「ああ、間違いなく負けるだろうな。」「!?」その言葉を聞いてユーノは驚愕の表情を浮かべる。そのころ戦っている二人は「やぁぁぁぁーーー!!!!」少女はその機動性を生かし格闘戦に持ち込み手に持っているデバイスから光の刃が飛び出ていた。そのまま大きく振りかぶりなのはに襲いかかる。「っ!?くっ!!!」なのはもそれをデバイスで受け止めるも少女はすぐさま離れ持前のスピードをいかしなのはをほんろうし攻撃を加える。終始なのはは圧倒されるばかりで防戦一方。少女は攻撃の手を緩めることなくさらに攻撃を加えようとする。「なのは、このままじゃやられてしまう。反撃するんだ!!!」ユーノがなのはに攻撃するよう促す。なのははデバイスを構え攻撃の態勢に入ったがその表情はさえない。(相手に遠慮してやがるな。)“Divine buster” それでもなのはは同じく砲撃で対抗する。杖を変形させ火器のように構えると、帯状模様が展開された。桃色の光弾のようなものが打ち出される。しかしその反撃も少女は難なくかわしなのはに迫る。一方迫る少女の動きをなのはしっかりと目でとらえていた。が少女はさらに加速しなのはを撹乱する。「反応はまずまず。合格点ってとこだろうな。」トレインは相も変わらず冷静に二人の少女の戦いを見ていた。トレインがここまで傍観者に徹しているのには理由があった。ひとつ、攻撃を加えている少女になのはを殺す気が見えていないからである。かなりの気迫で攻撃を加えているものの相手を殺すのではなく、戦闘不能くらいに制するつもりで戦っているとここまでの戦いぶりでわかった。そしてもう一つがなのはの実力、ひいては魔法というものがどういうものであるか知りたかった。かつて自身が戦った道士のようなものかと想像はしていたが、それと同格。もしくはそれ以上の脅威になりうるものだった。(この年のガキんちょがここまでの戦いぶりができるようになるんだからな)戦いのほうに目を向けると「なのは!!!」眼で追い切れなくなったところを少女は逃さずなのはから死角になっている背後から一閃。しかし“Round Shield.”杖から声が聞こえたと思うとなのはのまわりにシールドのようなものが展開され攻撃を防いだがなのは地面にたたきつけられるように落ちて行った。だがなおなのはは空中で体制を立て直し地面に立ち相手を見据えるが“Photon lancer, get set”少女はすでに攻撃態勢に入りなのはに二つの光弾が迫っていた。「え!?」「な、なのはーーー!!!」なのは迫りくる光弾を眼で確認するだけでとてもではないが回避は間に合わない。ユーノはなのはの危機に叫ぶことしかできず。相手の少女もおそらく決着がついたものだと思い安堵の表情で武器をおさめていたがなのはの前に目にも止まらぬスピードでトレインが立ちはだかった。「はっ!!!!」トレインはハーディスを抜き光弾をはじき返すように振りぬいた。「な!?」「えっ!?」「ば、ばかな!?」三者三様の驚きをみせた。それもそうだろう。先ほどまで傍観するだけで何もせずにいた少年がいきなり入りこみ魔力をまとわずに魔力を込めた光弾を止めたのだから。光弾はかき消えたようにみえたがハーディスに小さな稲光が見えた。(はじき返したって感触じゃねーな。吸収したのか?)トレインはハーディスを少しの間見つめたがすぐさま相手の少女に目を向けた。「と、トレイン君?」「そこでじっとしてろなのは。おい、お姫さん。」トレインは少女に向かって話しかけ、少女は自分のことか?というそぶりでトレインをみた。「そう、おめーだよ。あんたが持ってるそいつを奪う気はないからここは痛み分けってことで引いてくれねえか?」少女は意外そうにトレインのことを見て聞き返した。「あなたはそれでいいの?」「あー、はなから俺はそいつには興味はねーしな。好きにしな。」そうあっけらかんと言うトレインにユーノはかみついた。「なにを言っているんだ!!ジュエルシードは、ふぎゃ!?」二の句をつなごうとした瞬間トレインはあろうことかユーノを踏みつぶした。「おめーがしゃべると話が進まないから黙ってろ。」「ゆ、ユーノ君!?」なのはぐったりと倒れるユーノにふらつきながらも近づき介抱しようとしていた。先ほどの戦闘のダメージがそこまでないことを確認するとトレインはほっと一息ついた。そして少女に再び語りかけた。「で、どうだ?まあ納得いかないってんなら今度は俺が相手になるぜ?」(さっきの感触に間違いがなければ…。)そういうとおもむろにハーディスの銃口を少女に向け引き金を引いた。そして銃声とともに目にもとまらぬ光弾が少女の横をかすめた。「「「!?」」」少女は体がすくんでしまったように固まっていた。また、ユーノとなのはもその光景を目にしてあっけにとられていた。通常の銃弾程度ならば自分たちが使用しているバリアジャケット、もしくはシールドで防御できるであろう。しかし今トレインが撃った銃弾は通常ではありえない弾速、威力をしていた。いかに強固なバリアジャケットといえどあれをまともに食らえばただでは済まない事は確かだった。少女は魔力を使ったわけでもないのにありえない弾速の銃弾におどろきつつもトレインに答えた。。「わ、私としてはなにも言うことはありません。これ以上ここで戦う意味もありませんし。」わりと素直にこちらの要求をのんだことにトレインは安堵の表情を見せた。口では戦うといったものの女、子供と戦うことはトレインの信念としては反するものがあったからだ。「OK。んじゃな。」トレインは一変してかるい表情で手をふりつつ少女にあいさつをした。「え、えーとさよなら。」少女は戸惑いつつもしっかりとあいさつを返していた。そしてどこかに行ってしまった。「ま、まて!!」「やめとけ、なのははこれ以上戦える状況じゃねーしどうみてもこっちの負けだ。」そのまま少女が見えなくなるのを三人は見ていた。少し時間がたちなのはも回復してきた。「ふー、なんとかなったな。」「な、なんとかなっていませんよ。ジュエルシードを取られてしまったじゃないですか?」ユーノはあくまで何事もなかったのようにふるまうトレインに食ってかかった。ユーノからすれば確かにあれ以上の戦闘はなのはには無理だっただろうし、デバイスを持っていないトレインに戦ってもらうわけにもいかなった。自身で戦おうにもこの体ではまともには戦えない。それでも「あのジュエルシードがとても危険なものには変わりはないんです。下手な使われ方をしたらどんなことが起こるか君にはわからないんです。」絞り出すかのようにユーノはトレインに叫んだ。「ユーノ君…。」なのはも悲しげにその叫びを聞いていた。自分がもっと頑張れれば、そう自責の念にとらわれ始めていた。(ったくお子様の相手も楽じゃねえな。なまじまじめすぎる奴らだから余計にな。)「確かに俺はお前らの事情もよくわからねえしそのなんとかシードとかいうのについても知らねえ。けど今の状況じゃどうしようもなかったんだぜなんとか三人とも無事だったからよかったじゃねえか。」「でも…。」「おめーだってこれ以上なのはに怪我でもされたらたまんねえだろう?」そう言うとユーノはなにも言えなくなってしまった。彼の言うことは正しい。もし彼がこの場にいなくても彼女の持っていたジュエルシードが手に入るわけでもない。むしろトレインが威嚇してくれたせいか彼女がすぐに撤退してくれ、こちら側のジュエルシードがとられなかったことを考えれば…。「まーなんにせよ桃子達も心配してるからもどろーぜ。」「うん…。」「それに腹が減ったしな。今日の夕飯はなんだろな~♪」三人が家路につこうとしたときすでにあたりは暗くなっていた。当然のことながら士郎、桃子を筆頭に心配されたがそのあたりは適当にごまかしなんとか事なきをえた。「ごちそーさん!!」「はい、お粗末さまでした。」「相変わらずいい食べっぷりだねトレイン君。」「ははは、桃子の飯はうめーからな。食べなきゃ損だしな。」そう言われると桃子としても悪い気はしない。また、今までの家族の団らんもよかったがトレインが加わったことでますます明るくなったように桃子は感じていた。そのトレインは食事を終え、ゆっくりくつろいでいるなのはに近づいた。「なのはすこしいいか?」「ん?なにかなトレイン君?」トレインはなのはに顔を近づけそっと囁いた。(なのはの部屋で話したいことがある。魔法関係は家族には秘密なんだろ?)(うん、なにか魔法関連の話なの?)(まだわからんが、できればユーノにも加わってもらいたい。)(わかったよ。じゃあすぐにでも部屋に行く?)(そうだな。)二人が部屋に移動しようとしたとき何やら二人を見る生暖かい視線があった。トレインがその視線のもとをたどるとにこにこ顔でこちらを見ている桃子と美由希であった。「ど、どうかしたのか?」「いえいえ、いつの間にかそんなに仲良くなったのかしらって思ってね。ね?美由希。」美由希もうんうんと嬉しそうにうなづいていた。「そうだね、なのはとトレイン君ってお似合いかもね?」「は?」「お、お、お姉ちゃん?」あっけにとられるトレインと真っ赤になってあわてるなのは。トレインからすればなのはは完全に対象外の存在だ。しかしなのはにとってトレインは………少し気になる存在?らしい。「あらあらなのはもまんざらでもないみたいね。トレイン君、お昼の話はなかったことでいいかしら?養子じゃなくて婿養子のほうが私としても安心だし。」わざとらしく頬に手をつきうっとりするような話しぶりをする桃子。「お、お母さんまで!?もう、トレイン君行こう!!!」「お、おい待てって。」「あらら、愛の逃避行かしらね?」桃子、美由希はからかうように二人の姿を見ていたがその後ろでとてつもない殺気を放っている男二人がいたことをここに記す。そしてなのはの部屋では三人!?が話を始めていた。「トレイン、僕にも聞いてほしいことってなんなんだい?」ユーノは正直トレインから話があると聞いた時は先ほどのことについてかと思ったがトレインはさして気にするそぶりもせず否定した。しかし、そうすると彼が何の話がしたいのか正直見当もつかなかった。「正直俺としてもどう話していいか分かんねえんだが…。」トレインは少し唸りながら今朝から新聞を見て調べ上げていたことやこちらに着た経緯について説明した。星の使徒のサミット襲撃事件に関する記事がないこと、サヤによって…いやなにかの光り包まれ気がついた時に海鳴市にいたことなど「う~ん、なのははあまりニュースとか見ないですけどそんな大きな事件はなかったと思います。」「そうか~、どうなってやがんだ?こっちの世界地図も見たけど俺のところのとかなり違いがあってよ。」いろいろとこの世界に来て感じた違和感を話していると沈黙していたユーノが口を開いた。「もしかしたら君は他次元世界から来たのかもしれないね。」「他次元世界?」「ああ、この世界では認知されてはいないけどたくさんの異世界というものが存在しているんだ。僕らの魔法の力も本来この世界にはないものなんだ。それを言うと僕も異世界から来た人間といえるんだけど…。」そこで一息つきトレインに目を向ける。「正直君がいた状況がわからないからなんとも言えないけど君がいた地球とこの地球は別物であるという可能性が高い。」「おいおい、んじゃそれが本当だとしたら俺は元の世界に戻れないのか?」「それはわからないな。君がいた世界の次元座標がわかれば戻れるかもしれないけど僕の力だけではそれはできないんだ。」「そ、そんな…。ユーノ君、どうにかならないの?」なのはは自身のことのように真剣にユーノに問い詰める。「管理局、時空管理局に頼めばどうにかなるかもしれない。」「管理局?」「以前君が指摘していた魔導師で組織された次元世界で起きる事件を解決する組織だよ。」「そいつらに頼めばなんとかなるのか?」「わからないけど少なくともここでどうにかしようとするよりは状況はましになると思う…。」しかしそこでユーノは黙り込んでしまう。トレインはすぐに察した。(連絡は取れるが今回のカタをつけるまでは連絡したくないってとこか。)「ユーノ君?」なのはは気づいていないみたいだがトレインはユーノに告げる。「あせってもしょうがねえみたいだからな。今回のことが片付いてからにしようぜ?」「いいのかい?君はそれで?」「ああ、俺としても今回のことでお前らを放っておくこともできねえしな。」パンパンと手を叩きトレインは立ち上がり「おし、この話はここまでにしよーぜ。俺は少し散歩してくるわ。」「こんな時間に?お母さんたちが心配すると思うのですが?」そう言うとなのはのおでことつつくようにした。「あうっ!?」「なーに言ってんだ?お前だって似たようなものだろう?見つからねえように出てくから大丈夫だ。」そういってなのはの部屋から出ていった。見事!?だれにも見つかることなく外に出たトレインは初めてなのはたちと会った公園にいた。あたりは暗く人影も見えない。「おしっ!!この時間なら誰も見てねえだろう。」そう言うとトレインは足につけていたハーディスを構え目を閉じた。(今回の体の変化がナノマシンのものと同じとは考えにくいがやってみる価値はあるか)そう、トレインは以前ナノマシンを克服したように元の姿に戻れないか試しに来たのだ。すずかの家でのクイックドロウ、先ほど打った電磁銃の反動が予想以上にありこのままではまともに戦うこともできないと感じていたからである。「ふーーーーーー。」自身の姿をイメージし集中する。ティアーユ、イブのアドバイスをもう一度思い起こしイメージを思い浮かべる。そしてトレインは光に包まれ始めた