結局あのあとなのはとの勝負!?は実現しなかった。なのは自身は戦うこと自体にあまりいい印象を抱いていない様子でトレインも無理強いするまではなかった。トレイン自身も戦闘狂と呼ばれるような人間では腕の立つ者との戦いを多少なりとも楽しむ節があるが、彼にとって魔導師というモノはとても興味深いものだったからあえてなのはとの勝負も彼女の実力を試す、自身の実力を認めさせるというものよりただ魔法というものを見てみたいという好奇心からのであった。「ふぁーあ、まだ眠ぃーな。」瞼がまだまだ重く、その周りをこすりながらトレインは道場のほうに向かった。昨日士郎に誘われたので道場のほうに顔を出してみようと思ったのである。「実際のところあのおっちゃんはなかなかできそうな感じはしたからな~。」またなのはの兄と姉の二人にはまだ会っておらず、今から初対面となる。「っと、やっているな。」道場のほうに近づくと男女の掛け声のようなものが聞こえてきた。トレインは戸惑うことなく道場の扉を開け「うーすっ!!!」道場とは不釣り合いなくらいの軽い感じのあいさつで入って行った。「おー、おはようトレイン君。来てくれたのかい。」「まーな。士郎さんのやっている剣術ってのに興味があったからな。」二人で軽く挨拶をしながら会話しているとトレインに二人の男女が目に入った。片方は士郎を若くしたような鋭い眼光を持っている男で、片方は長髪を後ろでまとめている少し抜けていそうな感じのする女だった。すると男のほうがトレインをみて士郎に話しかけた。「父さん、この子がさっき話していた子か?」「ああ、そうだ。トレイン君、こっちにいる二人が昨日話した俺の息子の恭也と娘の美由希だ。」そして恭也はトレインのほうに近寄り「高町恭也だ。」と自分の名前だけ言って自己紹介を終えた。すると今度はあわてたように美由希が自己紹介を始めた。「ご、ごめんね恭ちゃんが愛想悪くて。えーと私は高町美由希。よろしくね。」「おう、俺はトレイン・ハートネットだ。よろしくな。」トレインは差し出された美由希の手を取り握手した。(こりゃ、本格的な訓練を受けてる人間の手だな。)握ったての感触から、一般時のものとは思えない手の固さを感じた。そして少しの間であったが美由希の手を握った自身の手を見つめていた。恭也はその姿を冷ややかに見ていた。「さて、トレイン君も来たところで二人とも体は温まったようだし実戦形式で組み手をやってみろ。」「はい。」「は~い。」「トレイン君はここで見学していてくれ。」「OK。」「では、はじめ!!」士郎の掛け声とともに二人の組み手がはじまった。組み手といっても木でできた小刀と呼ばれるものでかなりの速度で打ち合っているので実践さながらといっても過言ではないものだった。一方トレインは道場のはじで胡坐を空きながら二人の様子を見ていた。「それまで!!」士郎の掛け声でいったん組み手のほうは止められた。(みている限りだと恭也のほうが腕は上だな。美由希のほうはまだまだって感じだな。)実際組み手の中でも恭也のほうが美由希のことを圧倒までいかずとも押し気味に進めていた。「はぁー、あいかわらず恭ちゃんにはまだまだかなわないな。」「俺としてもまだまだお前に負けるわけにはいかんからな。」「おれから見れば二人ともまだまだだな。トレイン君はどう思ったかい?」「へ!?俺か?」まさか自分に話が振られると思っていはいなかった。がトレインは少し考え込むように答えた。「う~ん、二人とも筋は悪くはないんじゃねえの?まあ実戦のなかでどれだけやれるかがわからねえ以上なんともいえねけどな。」士郎はうんうんとうなずきながら俺を見ていた。(俺は特にうなずかれるようなこと言ってないはずだが。)「あはは、ありがとねトレイン君。」一方美由希はトレインの発言を少し強がっている子供の発言としてとらえてるようで笑いながら礼を述べていた。しかし恭也のほうはますます眼光を鋭くしてトレインを見つめていた。(なんであいつはさっきからあんなに殺気立ってるんだ?)特に嫌われるようなことをした覚えがないトレインとしてはどうしようもなかった。ただ、これ以上ここにいても居心地が悪そうなので退散しようと考えた時に「トレイン君、良ければ恭也とひと勝負やってみないか?」「ん?俺が?」「ってお父さん、そんなの無茶だよ。」「………。」美由希は無茶だと言い止めようとするが一方の恭也は黙ったままだった。そしてトレインは心配する美由希を尻目に「まー、一回だけならいいけどよ。でも俺は刀なんか使ったことねえから素手でいいか?」「う~ん、そうか。君がそれでよければそれでもかまわない。いいな恭也?」「…俺は構わない。父さん、手加減は…」「必要ない。思いっきりやれ。」「な、何言ってるのお父さん。」あまりの父と兄の発言に混乱気味の美由希だったがそれを無視するかのように三人は話を進めた。そして恭也とトレインは開始線をはさんで相対していた。するとトレインが恭也に話しかけた。「なあ?」「なんだ?」「あんたは士郎さんから俺のことを聞いてんのか?」一瞬恭也の顔が驚くような感じになったがすぐさま落着き「いや、ただお前がただの子供でないことくらいは俺にもわかる。」(眼力もなかなかのもんってことか。)「二人とも準備はいいか?」「「はい(おう)!!」」「では、はじめ!!!!」恭也は小太刀を二本構え告げた。「永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術師範代、御神の剣士・高町恭也。いくぞ!!」「っ!?」そして一瞬にしてトレインとの間合いを詰めて下から切り上げるように一閃。直撃し、打ち上げられたようにトレインは空中に飛んだトレインは転がるように壁際に転がった。「きょ、恭ちゃん。ちょっとやりすぎだよ。」「黙ってみていろ美由希!!」厳しい面持ちで美由希を怒鳴りつけた。「それに見てみろ。」「え!?」視線をトレインに移すとなんともなかったようにトレインが立ち上がっていた。「っと。うまく体を受け流してなかったやばかったな。」不敵に笑みを浮かべながら恭也を見据えていた。服は木刀の一部がかすったのだろうか破けているところがあった。会心ともいかなくとも決まったと思っていた一撃を受け流していたのには驚いているようだった。(感触が軽かったの受け流したからか。それにしても大した体さばきだ。)「俺は掃除屋トレイン・ハートネットだ。さーて今度はこっちからいかせてもらうぜ!!」そしてトレインも移動を始めトレインに近づいて行った。現在のトレインと恭也の身長差はおよそ30センチ。そして恭也が小太刀を持っているのに対してトレインは素手であり、リーチという点では大きなハンデを背負っているトレインだった。が「きょ、恭ちゃんが押されてる?」トレインはリーチもなく愛銃ハーディスも使えないこの状況下で恭也の懐に近い近距離戦で戦っていた。これだけ近寄ればリーチの差など意味がなくなり逆に長いリーチでは攻撃を当てづらい状況になっていく。防戦に入っている恭也は焦りを感じていた。(っく。これだけ近づけばかなり危険なはずなのにこいつはまるで怖がっちゃいない。それにこちらの攻撃もまるであたらない。)それもそのはずである。かつてトレインは最強のガンマンと目されるほどの腕前であったが格闘戦においてもかなりの腕前であった。かつて、賞金首であった暗殺者ルガート・ウォンと格闘戦をし互角以上の戦いを見せていた。トレインと恭也の戦いを見ていた士郎は確信していた。(彼は間違いなく裏世界の中でもトップクラスの腕前だ。)トレインのカバンの中身を見た限りであると彼は銃使いだ。本来銃を使う人間は接近戦はそれほど強くないというのが常であったが。彼は剣士と手塩にかけて育ててきた恭也を相手に圧倒する戦いを見せていた。型、動きといったものはどこかの流派のものではなくめちゃくちゃな動きではあったが、持前の運動能力、経験を生かした動きはとても10歳前後の子供のものとは思えなかった。しかし、一方でトレインのほうも決め手に欠けていた。(予想以上にパワーが落ちてやがるな。たぶんクイックドロウもかなり負担がかかるな)子供化したことによる弊害はかつてと変わらず、大きなものだった。素手のトレインが恭也にダウンさせるほどの一撃を加えるには的確に急所を狙うしかない。何発か恭也にいれてはいるのだが恭也の腕もなかなかのもので決定打にはならない。(となると、相手の視界からはずれて隙を作らねーとな。見よう見まねだけどやってみるか)「おっし!!!」トレインは声とともに天井へジャンプし、天井に着いたと思いきやまた天井を蹴り地面に、そしてまた地面を蹴り天井へ。この動きを高速で繰り返し恭也をかく乱した。(っく、眼で追い切れない。しまった!?)恭也が自身を見失った一瞬のすきを逃さずトレインは手刀を側頭部へ一閃。恭也は糸の切れた人形のように倒れそうだったが…。「まだだっ!!!!」前のめりになりながらもなんとか立ち上がり、トレインとの距離をとった。正直決まったと思っていただけにトレインのほうも内心かなり驚いていた。そして戦闘が開始されてからはじめて両者の間に大きな間合いが生まれていた。(ここで勝負に出る!!!)このまま小回りを利かされた動きをされていたら自分に勝ち目がないことを分かっている恭也は一気に攻勢に出た。「御神流、奥義之壱・虎切!!!」恭也は遠間からの抜刀による一撃をトレインに放った。(はやっ!?)トレインはその驚異的な反射で恭也の一撃を何とかかわした。恭也もかわされるだろうと予想していたのだろうか次の動作に入っていた。(これで決める。)自分に大きな負担がかかるが相対してる相手は並大抵の攻撃ではだめだ。自身の最高の技で決めなければ。「恭也!!!よすんだ!!!」士郎が叫ぶがそれより先に恭也は動き出していた。「御神流 奥義之歩法 神速」そう恭也がつぶやいた瞬間トレインの視界から恭也が消えた。「なっ!?」恭也は神速の領域に入りトレインの背後に回り込み「小太刀二刀御神流 奥技之六 薙旋!!!!」右の抜刀からの高速の四連撃。恭也のもっとも得意とする必殺の技で相手の背後からの一撃だ。(決まった…。)がしかしトレインは反応するというより予知していたように前に倒れこみ恭也の連撃に入る一撃をかわした。「「なっ!?」」これには恭也以外に士郎も驚きを隠せなかった。神速から相手の死角に入り込み放った一撃がまさかかわされるとは思ってもいなかった。トレインは地に着いた手を押し戻し恭也の鳩尾に蹴りを放った。「ぐはっ!!!」まさかの反撃に反応できずに動きが止まるとそれを逃さずトレインは鳩尾に蹴りこんだのとは逆の足を大きく振り上げ恭也の顎を踵で蹴りあげた。そして今度こそ恭也は地面に倒れこんだ。「それまで!!!!」そしてそれを見た士郎が止めに入った。「完敗だな。」珍しく少々落ち込んでいる恭也だった。「いや、あんたはなかなか強かったぜ。」一応フォローのも含めての言葉だったが、お世辞抜きに恭也はトレインから見てもかなりの強さだった。ナンバーズクラスと戦うとなると厳しいものがあるが、掃除屋として考えてみればかなりの腕前である。「俺もまだまだ精進が必要だな。」「なーにあんたはまだまだ強くなれるさ。悲観する必要はないぜ。」「そうか、ありがとう。」「おう!!」そう話をするとなにも言わずに二人は握手を交わしていた。恭也のトレインを見る目がわずかだがゆるくなった。一方忘れられかけていた美由希が興奮したようにトレインに近づいてきた。「す、すごいよトレイン君!!!まさか恭ちゃんに勝っちゃうなんて。最後なんか神速からの動きをかわすなんて考えられないよ。」「しんそく?」トレインが首をひねっていると後ろで士郎が答えた。「われわれが使っている御神流の奥義の歩法さ。」「へー、そうなのか?俺は何となくあぶねぇって思ったからしゃがんだだけなんだがな。」とあっけらかんに答えた。「「………。」」「ふ、ふはははははははっ。」トレインの発言に唖然としている二人の兄妹となぜか笑っている士郎だった。そして鍛錬を終え、食堂のほうに行くと桃子が朝食の準備をしていた。「あらおはよう、トレイン君はよく眠れたかしら?」「ばっちし眠れたぜ。俺はどこでも寝られるのが特技の一つだから。」「あらあら。」桃子は笑いながらトレインのことを見た。(とてもじゃないけど士郎さんが言っているような子には思えないわね。)昨日の晩士郎からトレインのことについて聞かされた。それは桃子が想像した以上のものであった。自身の末の娘と同い年くらいであるのに置かれている境遇は違う。そして桃子は彼に普通の生活を知ってもらいたいと強く思うようになった。子供らしく、人並みの幸せを彼にも味わってほしかった。いろいろと考えていたが実の娘のことを思い出し桃子はトレインに頼んだ。「トレイン君、悪いんだけどなのはのこと起こしに行ってくれないかしら?」「いいぜ。」「悪いわね、あの子寝起きが悪くてね。大変かもしれないけどお願いね?」「まかしとけって。」そう言うとトレインは階段を駆け上がりなのはの寝室に向かった。その後ろ姿を見ていた桃子は「彼の意思次第だけど………。」何かをつぶやいた。今日も高町家の朝は平和であった。