第72管理外世界 廃墟ティーダの所属する武装隊220部隊は、窮地に陥っていた。本来であれば、管理外世界の簡単なパトロールであった。しかし、そこで想定外の事態が起こっていた。ロストロギアの違法な取引をしている組織のアジトを発見した隊員がいたのだ。組織の規模からいって、本来であれば本局に掛け合って応援を要請するはずであった。だが、現場の指揮官は、確認された構成員が小数であることをいいことに、220部隊のみで制圧にあたることにしたのだ。その指揮官は、父親の権威を笠に、ここまで出世を重ねてきた男だった。現場レベルとはいえ、指揮官という立場にまでなることになったばかりで、浮かれているのが明らかだった。そんな隊長の意見には何名かの隊員は、難色を示していた。小数とはいえ、構成員の能力がはっきりしない状況で行動に当たるのは危険が大きすぎるからだ。組織の規模は、小さいものではないのことからも、慎重に行動すべきだと。だが、指揮官は頑なだった。このまま応援を待っていては、取り逃がすことにもなりかねないと言ってきたのだ。反対意見を言っていた隊員に、取り逃がした場合の責任はとれるのか、と脅し文句をいう始末であった。こうして、指揮官のごり押しで一部隊のみで制圧にあたることになった。指揮官の指示を受け、220部隊は、一気にアジトの中に突入し、制圧にあたった。構成員のほとんどは、低ランクの魔導師であり、制圧には時間がかからなかった。部隊の中に安堵した空気が流れた瞬間であった。「た、隊長。高魔力反応です!!」「な、なんだと?」「そんな、推定値ですが、オーバーSランクです。」通信越しにそんな情報が流れてきた。その話を聞いた瞬間、部隊全体が浮足立ちはじめた。そもそも、220部隊は結成されてから期間が短い。総じて部隊全体の錬度も低い。他の武装隊と比較しても、それは歴然だった。しかし、構成されている部隊員は、若きエリートたちであった。ほとんどが、Aランクよりも上の実力者たちだった。しかし、いくら実力があったとしてもそれに伴う経験が絶対的に不足しているのが現状だった。現に、ほとんどの隊員が混乱していた。そのタイミングを見計らったように「おい、隊長が俺たちを見捨てて帰還したぞ。」「「「「「「「!?」」」」」」」その一言に、部隊員は我先にアジトから逃げ出し始めた。一部の隊員はそれを引きとめようとしていたが、徒労に終わっていた。結局、残った隊員は数名だけだった。そんな中ティーダは、冷静に状況を確認し、残った隊員に提案する。「とりあえず、捕えた構成員とデータディスクを確保してアジトから出ましょう。」「そ、そうだな。」「このまま逃げたところで何もならないしな。」残った隊員は、必死に冷静を装っていた。しかし、ティーダの目から見ても冷静に慣れていないことは明らかだった。どうにかアジトから抜け出し、帰艦しようとしていたティーダ達に近づく魔力反応があった。(ま、まずい。こいつがさっきの報告にあったやつか。)ティーダは、トレインとの模擬戦を通して相手と自分の力量を見極める観察眼を養っていた。身の程を知っているとも言えるが、生き残るということ考えた時には必ず必要になる力であった。近づいてくる相手は、トレインほどではないが、確実に自分たちには手に余る相手には間違いなかった。他の隊員も近づいてくる敵に戸惑っていた。その様子を見たティーダは、意を決し。「僕が、足止めをします。その間にみなさんは、帰艦して応援を呼んでください。」「な、なにを言ってるんだ。」「そ、そうだ。無茶なことを言うなよ。こいつらを置いて帰還すれば…。」「なにを言っているんですか?そんなことをしたら…僕たちが残った意味がなくなっていまうじゃないですか。」ティーダはそう呼びかけるが「む、無茶なものは無茶なんだよ!!」その一言を皮切りに、残っていた隊員たちも帰艦を始めてしまった。(いくら経験が少ない部隊員が多いとはいえ…。)正直、ティーダの中で失望感はぬぐえなかった。執務官という目標を持って入った管理局。「これが、トレインさんが言っていたことなのかな…。」ティーダは、トレインがなぜ管理局に入らないのか不思議に思っていた。「組織が大きければ、それだけ闇も腐敗も大きくなる。俺も実感してることだし、ダチからも聞いているからな。深入りはしたくねーのさ。」トレインに聞かされていたことを、このときになって実感していた。そんなことをしているうちに、ティーダの目の前には一人の魔導師がいた。「ほう、俺の魔力反応を見ても逃げ出さない奴がいたか。」「みくびるなよ。お前もこいつらの仲間なのだろう?逮捕させてもらうぞ。」そう言って、デバイスを構える。「その心意気は買うが……無謀だな。」トレインたちは、第72管理外世界に到着した。「リニス、ティーダの反応は?」「ここから南西方向に。」「飛ばすぞ!!」一緒に転移させたバイクを走らせ、ティーダのもとへと急ぐ。数分後、上空に帰艦をしようとしてる隊員を発見した。「おい!!」トレインが隊員たちに呼びかけると、反応はしたものの、どうしていいかわからずに戸惑っていた。リニスは、すぐさま隊員たちのもとへ行き状況説明を求めた。そして、表情を険しくしてトレインのもとへ。「説明するのも馬鹿馬鹿しいです。急ぎましょう。」トレインは何も言わずにすぐさまバイクを走らせた。ミッドチルダと同じように暗雲が立ち込めていた。「なかなか、悪くはなかったな。だが、俺と戦うには早すぎたな。」魔導師は、倒れこんでいるティーダに近づきティーダが、手に隠し持っていたチップを奪い取った。「なかなか仕事のほうも熱心のようだが、残念だったな。」無情にもティーダの目の前でチップは粉々にされていた。ティーダは、かろうじて意識があるような状態であった。「く、くそ……。」どうにか仰向けになってみたが、近くに先ほどの魔導師はいなかった。改めて自分の体に触れ、手を見るとおびただしい量の出血があった。(もう、だめか…。)すると、どこかからバイクのエンジン音が聞こえてきた。二つの足音とともに「ティーダ!?」「ティーダさん!?」リニスは、ティーダに駆け寄り、回復魔法をかける。トレインは、あたりを警戒するように周囲を見つめる。あたりの様子からみてもティーダと相手の戦いがすさまじいものであったことが分かった。「マスター!!」リニスの大声とともに、トレインはティーダに近づき、抱きかかえる。必死にリニスが治療を行っているが、トレインの目から見てもティーダの傷は致命傷だった。胸からわき腹にかけて袈裟切りにあったような大きな傷から、致死量とみられる血が出ていた。「と、トレインさん…。」「いい、無理にしゃべるな。」「そうです。」「い、いんです。自分が……もう駄目だって…わかりますし」「馬鹿なこと言ってんじゃねえ!!妹は?ティアナはどうすんだ?」「そうです、執務官になるんじゃなかったんですか?」必死に二人が声をかけるがティーダは、弱弱しく首を振った。「ぼ、僕は駄目…ですね。せ、せっかく、確保した…チップも……。」悔しさのあまりか、抱きかかえていたトレインの指先にティーダの泪が触れた。「なにが駄目なんですか?ここまで一人で立派に戦ったじゃないですか?」「リニスの言うとおりだ。今回は駄目でも次があるだろう?」「あ、りがとうございます。トレインさん、……あなたと過ごせた5ヶ月間は…ゴホっ!!…本当に、じゅ、充実してました。」「何言ってんだ!!」「ぼ、僕も…あ、あなたみたいに……強くなりたかった……。」「馬鹿野郎!!俺みたいになってどうすんだ?お前はお前の道を…。」「あ、あなたは、ぼくにとって……の………でした…。」「ちげぇ!!そんなんじゃねえ、俺たちはダチ同士だろ!!」「あ、ありがとう…ございます。…これを……ティアナに……。」「受け取れるか、お前が直接渡してやるんだ!!。」「ティアナ…のこと………よろしく……お願い…………しま……す………。」「ティーダさん?」降りしきる雨の中、廃墟に一匹の黒猫の咆哮が木霊していた。