クイントとの模擬戦後、トレインは裁判とリニスとの調整を並行して行い、ティーダとの訓練につきあう生活が数週間続いた。裁判のほうは、クロノが用意した証拠やトレインの証言により、終息に向かっている。「はー、それにしても裁判てのは肩がこるな~。」肩を回しながら気疲れした様子でトレインはぼやく。そんなトレインにクロノはため息をつきつつ忠告する。「もう少しで終わるとはいえ、この裁判でフェイトの今後が決まるんだ。もう少し辛抱してくれ。」「そうですよマスター、あと少しですからがんばりましょう。」リニスは駄々をこねる子どもを諭すようにトレインを撫でる。「だぁー、お前は。」撫でるリニスの手をうっとうしそうに振り払う。「あ~ん、マスターどこに行かれるんですか?」リニスは、名残惜しそうにトレインに尋ねる。「ティーダんとこだよ。今日はあいつと模擬戦するって約束したからよ。」それだけ言ってトレインは、脱兎のごとく走り出した。ティーダの申し出から、早3カ月が経った。トレインに裁判があるように、ティーダも所属する舞台での任務があるため、そう多くの時間を過ごせるはずはなかった。はずなのだが、なぜかほぼ毎日のようにティーダはトレインのところに来ていた。風の噂では、某艦長の思惑があるとかないとか…。それはさておき、トレインとしても訓練相手がいるのはありがたかった。先の模擬戦以来、リニスの調整も兼ねての実戦は、トレインが魔法を覚える上でも役に立っていた。「しかし、あらためて実感するけど、魔法ってのはすげぇな。」トレインの目から見ても、管理局の戦闘員たちはそれなり以上の実力を持っていた。それは、素直に驚く部分だ。しかし、単純な魔力なしの戦いで言うと、管理局の人間よりもトレインの知る掃除屋たちのほうが分がある。トレインが驚いていたのは、それなり以下の実力であっても魔力量や運用によっては、一級品の戦力になっていることである。当然、ナンバーズや掃除屋同盟のメンバーに肉薄するというと、限られてくるが。当のトレインは、魔力量こそ中の上に入るかぐらいだが、身体能力・戦闘技能が圧倒しているため、管理局内でもまともに戦える人間はすくない。唯一といっていいのは、クイントの紹介で模擬戦をする機会があったゼストくらいであった。そのゼストも、オーバーSランクの管理局内ではトップクラスの実力者であるから当然だったかもしれない。鼻歌交じりで、ティーダの待つフロアに向かうトレインだが、携帯の着信が入ってきた。「ん、ティーダじゃねえか。もしもし、どうしたんだ?」「あ、トレインさん。こんにちは。」「今日の模擬戦のことか?」「はい、その事なんですが、急に悪いんですがキャンセルさせてもらっていいですか?」申し訳なさげにティーダがうかがってくる。トレインとしてはさほど気にすることでもなく。「別にかまわねえけど、どうしたんだ?」「実は、妹が体調を崩して、家で一人寝込んでいるんですよ。」「あー、そういえば妹がいるとかいってたな。」「はい、こちらの都合で申し訳ありません。」「なに気にするな……。」ふとトレインは、考えこみ意地の悪そうな笑み浮かべ「なら、俺も見舞いに行かせてもらうわ。」トレインによるランスター家のお宅訪問が決定した。ティーダの運転するバイクに揺られながら、少し郊外にある一軒家にたどり着いた。「ふーん、ここがおまえんちなんだ。」「ええ、両親が亡くなってからは妹と二人暮らしで。」トレインは、ランスター家の身の上話はある程度聞いていた。改めて聞かされても何も感じない。また、そこで変に気遣うような関係でもなくなっていた。3か月の間とは言え、ティーダはトレインの実力に惚れ込んでいたし、トレイン自身も純粋に自身を慕ってくるティーダに好印象を持っていた。模擬戦がらみとはいえ、トレインにとって年の離れた友人といっても良い関係だった。ふとティーダがトレインを見ると、すでに成人モードになっていた。「トレインさん、なんでわざわざこの姿に?」「いやー、妹もお前が俺に教わっているの知ってるんだろ?」「はい、そうですけど…。」「だったら、子どもの姿で紹介されても説得力がないだろう?」「は、はあ?」とりあえず気にしないでおこうと、ティーダは玄関のドアをあける。玄関は電気っも付いておらず昼間だというのに薄暗かった。「ただいまー、ティアナ?起きてるかー?」ティーダが呼びかけるが、返事はなかった。「もしかしたら、部屋で寝てるのかな?」「そうかもな、んじゃ部屋に行ってみるか?」そして、二人で会談を上り、ティアナの部屋まできた。コンコン「ティアナ、入るぞ?」「……。ん?おにいちゃん?」ドアを開くと、顔が赤くどこかぼーっとしているティアナがベッドに寝ていた。」「大丈夫か?」「うん。」ティアナは兄の顔をみてほっとしたのか、笑顔を浮かべて頷いた。すると、兄の後ろにいる男に気がついた。「お、おにいちゃん。後ろの人は?」「この人は、前に話した銃を教わっている、俺の先生…みたいな人かな?」「おいおい、先生は勘弁してくれよ。」苦笑を浮かべながら、トレインは腰を落としティアナに近づく「俺は、トレイン・ハートネット。よろしくな」笑顔を浮かべながらトレインはティアナにあいさつする。そして、そっと手をだす。ティアナも戸惑いながらその手を握り「て、ティアナ・ランスターです。」後にティアナが師と仰ぐことになる、黒猫との初めての出会いだった。ティアナの見舞いから二カ月がたった。季節が、秋から冬に変わろうとしていた頃だった。フェイトの裁判も終盤に差し掛かり、証言者としての仕事の一区切りがついたところであった。トレインは、いつもの通りのんびりと過ごしながらも、リニスとの調整、ティーダとの模擬戦、レティからの勧誘から逃れる日々だった。その日は、あいにくの嵐だった。特にすることのないトレインは、雑誌を片手に寝転んでいるとリニスが駆けこんできた。「お、おいどうしたんだよ?」いつもになく真剣な表情をしているリニスにトレインは驚いていた。しかし、次の一言で表情が一変する。「先ほど、ティーダさんの部隊が戦闘に入ったという情報が入りました。」「はぁ?てかそんな情報どうやって?」「そんなことはどうでもいいんです!!」リニスの剣幕にトレインは頷くだけだった。「てか、あいつの実力ならよっぽどの相手でなけりゃ…。」「よっぽどの相手です。魔力量だけなら私も越える相手のようです。しかもかなり旗色が悪いです。」「……。」「しかも指揮官が無能なのか、ティーダさん一人で相手にしているようです。」トレインは黙ってハーディスを持ち「場所はわかってるんだな?」「はい。」「行くぞ。」それだけ言ってトレインは駆け出した。