トレインは埃を払いながら確認するようにつぶやく「リニス~、タイムはどんなもんだ?」(2分14秒25といったところです。すごいですよ、相手は一応エリートの管理局員ですし。)リニスは珍しく興奮気味に答えた。相手はプレシアやフェイト達と比較すると実力差があったとはいえ、管理局のエリート相手に圧勝。自分の出番が全くなく終わってしまったことは少々不満だが、それを差し引いてもトレインの戦いぶりはリニスを興奮させるのに充分だった。しかし、等のトレインはどこか不満げ、もしくは気だるそうな感じにハーディスをホルスターに収めた。トレインからすればどこか不完全燃焼で納得のいくものでなかった。それも当然と言えば当然であった、今まで相手にしてきた面々のレベルが違いすぎたのだ。(まあ、それはそれとしてこれでうまい飯にありつけるんだよしとするかね。)若干の不満が残るもののこれから口に入るであろう御馳走を想像してトレインはだらしなくよだれを垂らしていた。どこか食事を待ちきれない猫を連想させる仕草だった。その様子をリニスは苦笑しつつ眺めていた。ブゥゥン「うわっ!?」そんなトレインの目の前にリンディの顔が現れた。正しく言うとリンディの顔を映したモニターが現れた。突然のことに不意を突かれたトレインは躓き後ろに倒れこんだ。「な、いきなりなんだよ!?」「ごめんなさい、ディナーはもう少し待ってもらえないかしら?」「いや、そっちじゃねーだろ。」リンディの見当違い‥‥とも言えなくない指摘に目を細める。リンディは微笑みながら続けた。「もう一人戦ってもらいたい相手がいるの。今回は相手は一人よ。」「一人?別に俺は構わねえけどよ、大丈夫なのか?」「その心配は必要ないわ。相手はさっきあなたが相手にしていた部隊の副隊長を務めている人よ。魔導師ランクはAA、クロノやなのはちゃん達より下かもしれないけど実践経験は豊富よ。」「OK、わかった。」それだけ聞くとすぐさま銃、ハーディスを抜いた。。トレインはまだ見ぬ相手を見据えるようにあたりを見回した。そして、ちょうどトレインの正面にあるビルの上に一人の女性が転送されてきた。その女性は長い青髪をたなびかせ、トレインを微笑みながら見据えていた。「さっきはどうも。娘が世話になったわね。」「あ、あんたは‥‥。」トレインは呆けながら相手を見た。そこに立っていたのはさっきまで子供を必死に探していた二児の母、クイント・ナカジマであった。クイントは微笑んではいたがまとっている雰囲気は先ほどまでの優しげな母のものではなく精錬された戦士のものだった。「私のほうの自己紹介がまだだったわね。私はクイント・ナカジマ、ゼスト隊の副隊長。そしてスバル、ギンガの母親よ。」「あんたも管理局の人間だったとわな。」「わたしのほうが驚いたわよ、まさかあなたが25歳の男性なんてね。」口調こそ穏やかであったが両者ともに相手と視線を外さなかった。そしてさきほどとは打って変わって張りつめた空気が流れている。その様子をみてレティは満足気に頷きマイクをとった。「二人とも準備はいいかしら?」無言で頷く二人。(彼女が相手ならトレイン君も十二分に実力を発揮してくれるでしょう。)レティはそう考え、合図を送った。「じゃあ、始めてちょうだい。」合図と同時に動いたのはクイントのほうだった。前傾気味に構え、地面を蹴るとすぐさまトレインに接近する。そして小さく、鋭く拳をトレインに打つ。「セイっ!!!」「ほっ!!」トレインはバックステップで回避する。しかし、クイントはそれを読んでいたかのようにすぐさまサイドステップを踏むかのようにトレインの横に回り込み連打を打ち込む。一発一発にかなりの威力が込められているのにもかかわらずクイントの攻撃には隙がなかった。決して大ぶりはせずに相手を崩すように小さく鋭く打ち込む。そして決して距離をとらせずに相手を追い詰めていく。そんなクイントの戦いぶりに管制室で見守っていた二人は感心していた。「さすがは陸士隊の中でもトップクラスのゼスト隊の隊長格といったところかしら。」レティの言葉にリンディも頷く。「ええ、魔道師ランクではクロノ達よりも下かもしれないけど練度という点では彼女のほうが上かもしれないわね。」「トレイン君の武器は銃。さっきの戦いから考えて接近戦もできないわけではないでしょうけど、ああやって接近戦に持ち込まれたらクイントさんのほうが上手みたいね。」実際、トレインは反撃できないわけではなかったがクイントの動きを確かめるように回避に専念していた。隊長格を名乗るだけあってさきほど相手をしていたメンバーとは一味違っていた。「!?」するとクイントは今まで使わなかった足を振りぬいた。「おっと!!」回し蹴りのような形で右足を横に一閃。トレインはそれを上にジャンプし回避したがクイントは蹴りの勢いでそのまま左回りに回りトレインに拳を振りぬいた。「はぁぁぁぁぁーー!!!」トレインは咄嗟にハーディスを構えてそれを受けるが勢いは殺しきれず後ろに弾き飛ばされる。飛ばされる間に体をひねらせ着地する。しかし、背には廃ビルを背負っている状態で目の前に巨大な拳が迫っていた。(拳のプレッシャーか。)「リボルバー、グレネイドォォーーー!!!!」ドゥオォォォォォン!!!!!激しいナックルの回転とともに拳から放たれる光とともにビルは一気に崩れ落ちた。(手ごたえはなかった。でもあのタイミングで外すはずがない。)クイントのなかでインパクトの瞬間までは確信に近いものがあった。そしていざ振りぬくと相手をとらえた感触がない。クイントがあたりを見回すと背後から声がかかる。「ずいぶんと派手にやったな。」「あなたもうまくよけたわね。」クイントは笑みを浮かべながらトレインのほうへと振り向く。「そりゃミサイルみてーなパンチは受けたくねーからな。」(威力だけならあの雷頭以上だな。最後の一発も放電加速(ブースト)してなきゃやばかったな。)「けど、よけてるだけじゃ私には勝てないわよ?」「わかってるよ。んじゃ反撃開始といきます‥‥かっ!!!」「!?」言葉を言い終えると同時に地面を蹴りクイントに近づく。クイントとしてはガンマンであるトレインがインファイトを仕掛けてくるとは思ってもおらず、不意を突かれて対応が遅れてしまった。それをトレインは見逃さず、ハーディスを振るう。「くっ!!」咄嗟にガードしたものの視線を戻すとそこにはトレインの姿はなかった。(どこに!?)ガンッ!!!銃声とともにトレインの姿を探すクイントの足元には銃弾が撃ち込まれている。「上!?」ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!トレインの十八番である四連銃撃(クイックドロウ)がクイントに襲いかかる。が、クイントはそれをかわす。それを見たトレインは着地までの間にリロードをすまし、クイントの正面に銃弾を撃ち込む。「ちっ、装弾が早い!!」正面に迫りくる銃弾をなんとかかわしたクイントだったが頬に銃弾のかすった跡が出ていた。だがクイントは気にすることなくトレインに視線を向ける。しかし、そのトレインはハーディスを下しクイントを見据えているだけだった。急に動きの無くなったトレインを不思議そうに見るが、すぐさま顔を険しくしてトレインに尋ねる。「さっきの銃撃、最初の一発は当てる気はなかったわね?」「ああ、当てるつもりはなかったな。」それを聞いた瞬間クイントの表情が歪む。唇をかみしめるようなその表情からは悔しさがにじんでいた。「威嚇……いえ、余裕のつもりかしら?私も舐められたものね。」「そんなつもりはなかったんだがな。」「じゃあどうしてかしら?」クイントの非難するような鋭い視線を受けながらも全く動じずトレインは飄々と答える。「あんたの実力が知りたくてな。ちょうど同じような戦い方をする知り合いがいてな。」「そう……。どっちにせよ気分のいい話じゃないけど。で、どうっだのかしら?」「単純に比較はできねーけどあんたは十分つえーよ。」それはお世辞抜きにトレインの本音であった。いきなりインファイトを仕掛けられた時は不意を突かれていたのも事実。そしてそこからの連続攻撃はつなぎの間に隙がなく、なかなか反撃に転じることができなかった。大規模、特に空中戦になられたらなのはたちにはかなわないが陸上戦闘では間違いなくなのはたちと肉薄する戦いができるだけの相手だと確信できた。すこしの間無言で視線をかわしていたクイントは構えを解かず、戦う意思を見せた。しかし、トレインはそれをみて「まだやるのか?」「ええ、やられっぱなしは性に合わないのよ。」「別にかまわねえけど、今度はこいつを使わせてもらうぜ?」ドゥゥンッ!!!クイントの目には何かが光ったのと同時に自分の頬のそばを何かがかすめたの感じた。すぐさま後ろを見るとなにかが貫通した跡がビルの壁に残っていた。(なに?いくら銃弾といっても速すぎる。全く反応できなかった。)「ちょ、ちょっとトレイン君?電磁銃は危険すぎるから使うのはやめて頂戴。」ここまで様子を見ていたリンディがあわてた様子でトレインに注意をする。「んなこといってもよ、こうでもしねえと納得しねえかと思ってよ…。」その様子をクイントはみて肩を落とし一息つきつつ(ある程度予想はしていたけどここまでやられちゃうなんてね。ちょっとショックね。)落ち込んではいるもののどこか吹っ切れたように顔をあげ「参ったわ、私の負けよ。」模擬戦終了後トレインは、ロッカールームでシャワーを浴びていた。戦闘が終わると同時にトランスを解いて現在は少年の姿をしている。「ふぅー、さっぱりした。」シャワーを浴びる前にリニスがお手伝いと称して手をわきわきとさせながら迫ってくるというハプニングがあったのは御愛嬌。そのリニスは苦笑しているリンディたちの監視のもと縛られていた。ごくっ、ごくっ喉を鳴らせ、、牛乳を飲んでいた。「ぷはっーーー!!」一気に牛乳をひと飲みするとタオルを首からかけてロッカールームを出た。するとそこには一人の青年がいた。ブラウンの髪をした優しげなたたずまいをしていた。どこか緊張した面持ちでドアが開くと同時にトレインに視線を向ける。「あ、あの…………。」「?」しかし、その青年はトレインの姿を見て固まっていた。なにか信じられないようなものを見るようで、トレインは怪訝に思い首をかしげてる。「なんか俺に用か?」トレインに声をかけられると青年は、はっとし「あ、あのトレインさんですか?」「ああ、俺がトレイン・ハートネットだけど?」「すみません、リンディ艦長からお話を聞いていたんですけど…。どうも現実味がなくて…。」「んじゃこいつならいいか?」トレインはその場でトランスをし、本来の姿になった。青年は驚きつつもすぐさま頭を下げ口を開いた。「え、えーと自己紹介が遅れました。僕は首都航空隊所属、ティーダ・ランスターといいます。実はトレインさんにお願いがあって来たんです。」「お願い?」ティーダは深呼吸をすると「お願いします。僕に教導をしてください!!!」「はぁぁぁーーーーー!?」「それにしてもティーダ君だったかしら?トレイン君に教導してほしいなんてね。」特製のリンディ茶を飲みながら向かいにいるレティに言った。レティはその様子に顔をしかめつつ「まあ、彼が惚れ込むのも無理はないと思うわ。あそこまで圧倒的にやってしまえば彼くらいに向上心のある子ならひきつけられるものよ。」レティとしてはある意味トレインをこちら側に引きこむいい口実になるかもしれないと考えているのはここだけの話である。一方、青年に頭を下げられているトレインは途方に暮れていた。かつて自分の強さにあこがれていた後輩はいたものの、こうして教えを請いてくる相手はいなかったからである。ティーダの様子から、ただの酔狂や気の迷いというものではないとわかったが、トレインにとってはなお性質が悪かった。「ティーダ、だっけ?」トレインはどこか面倒くさげに口を開き「はい!!」「ワリーけど俺は人にものを教えられるような上等な人間じゃねーからよ、あきらめてくんねーか?」だがティーダは引き下がらなかった。なおも頭を下げ、頼み込む。「お願いします。トレインさんは僕が今まで会った中で最高の銃使いなんです。」「ん?お前も銃を使ってんのか?」「はい、銃型の簡易ストレージデバイスです。」ティーダは腰に下げていた銃をトレインに手渡す。受け取ったトレインは観察するようにそれを眺めていた。「けど、俺はそっちの言葉で言う質量兵器?だったか、そいつを使ってるんだぜ?いまいちデバイスとか言われてもアドバイスなんかできねーよ。というより俺が聞きたいくらいだぜ?」実際トレインが魔力を行使していたのは肉体強化や、電磁銃を撃つ際に魔力を電気エネルギーに変換するときくらいである。その言葉を聞き、ティーダは首をふり言った。「いえ、僕が教えてもらいたいのはトレインさんの戦い方なんです。」「戦い方?」「多人数相手でも、接近戦を挑まれても難なくこなす。あの戦い方…それをつかみたいんです。」「いや、そういわれてもな…。」トレインとしては別に意識して身につけたものではなかった。数えきれない実践の中で身につけてきたものであって、教えられるものではないと考えていた。ティーダの様子を見ていてもこのままでは引き下がりそうにもないので一つ提案をしてみることにした。「まあ、教導云々は置いといて暇なときにさっき見たいな実戦形式の演習をするってのはどうだ?」「え?」「正直、俺の戦い方はおしえられるもんじゃねーし。どうせなら身をもって体験したほうがいいしな。俺も魔導師相手の実戦経験はそんなにねーからよ。」「ぜひ、お願いします。」さっき以上に頭を低くするティーダにトレインは苦笑するしかなかった。しかし、トレインはまだ知らなかった。この出会いの先にある悲劇と運命を……。