ナカジマ親子と別れたトレインはクロノから小言を食らうのも何なのでまっすぐ本部のほうへもどった。戻ってきたそうそうクロノは「何もしていないだろうね?え?どうなんだい?」血相を変えて問い詰めてきた。ある意味違ったクロノの一面がみれて面白がっていたがさすがにここまで来られるとトレインも引き気味であった。そこにリンディが間に立ち仲裁して事なきを得た。その後リニスが待っている研究施設棟へと向かうことになった。その途中リンディがトレインに聞いた。「トレイン君、今日一日観光してみてミッドチルダはどうだった?」「ん?いや、文明が進んでいる以外は特に俺らの世界と違いはねーな。」トレインは思ったことを率直に言った。リンディは彼らしい返答だと笑っていた。「しかし、端末があったとはいえよく道に迷わなかったね。」クロノは意外そうにトレインに言った。しかし、掃除屋として世界中を旅してきたトレインからすればそう言われること自体が心外だった。ターゲットがいる場所であればどこにでも移動する職業柄土地勘のない場所に行くことが多かったトレインは方向感覚はかなりいい。また、一度地図などで頭の中で把握しておけばある程度その町の配置は記憶できた。「一応、世界中を回ってたからな。地図さえあれば迷うようなことはない自信はあるぜ。」トレインは笑顔でそう言い切った。そして歩くこと数分。リニスが調整されていた研究施設棟についた。「へー、ここが研究施設なのか?」興味深々であたりを見回すトレイン。その質問にリンディが答えた。「ええ、ここでは研究以外にもデバイスの調整や開発、修理も行っているわ。」「大抵の管理局の戦闘員はここで開発、生産されたデバイスを支給されているんだ。」「ほー。それそうとして肝心のリニスはどこにいんだ?」トレインたちがあたりを見回すがそれらしき人影は見当たらなかった。「おかしいな。時間的にはもう終わっていてもおかしくないんだが…。」そうしてすこしの間探しているとすぐそばにあった部屋が開きそこからリニスが現れた。「あ、マスター♪」「おう、って!?」リニスはトレインを見つけるとすぐさま抱き上げ頬ずりを始めた。その姿は親子ともとれない光景だった。しかし念のため確認するがトレインは現在25歳。いくら体が小さくなったと言えどそのような扱いをされるのは不服だった。「ちょ、ちょい放せ!!」「なに言ってるんですか!!!私は今日一日マスターとずっと離れ離れでどれだけさみしい思いを…。」トレインを抱きつつもわざとらしい嘘泣きを始めたリニス。その姿に呆れかえるような表情をするトレイン。さすがのクロノも今回ばかりはトレインに同情するかのような表情をしていた。「んで、肝心調整は終わったのか?」数分後満足したリニスがようやく解放したところでトレインは調整の状態を尋ねた。「はい、ある程度のところまでは。もう少し細かい調整が必要なんですけど八割がたは済んだようです。」「じゃあ、明日もここに缶詰なのかしら?」リンディの問いにリニスは首を振った。「いえ、さっきレティさんという方が来て明日は実践を通してデータをとって調整するみたいです。」「「え!?」」リニスの口からレティの名前が出てきたことにクロノとリンディは思わず揃えて声を上げた。そんな二人の様子がおかしいことにリニスとトレインは首をかしげていた。するとそこへ狙い澄ましたかのようにレティが現れた。そしてトレインのそばへ行き笑顔を浮かべ「はじめまして、私はレティ・ロウラン。管理局の提督という立場で人事を担当しているわ。」すっと握手を求められトレインは素直にそれに応じた。「俺はトレイン。ハートネット。掃除屋だ。」軽く挨拶を済ませレティと視線を合わした。レティは相変わらずにこにこしているのだがトレインはわけがわからないといった感じでリンディたちを見た。そこでリンディはさっきの件を含めレティに聞いた。「レティ、リニスさんから聞いたのだけれど実戦を通しても調整って聞いたけどどういうことかしら?」「あら?もう話は通ってるのね?言葉通りよ、リニスさんとパートナーであるトレイン君で明日模擬戦形式で戦ってもらいます。」「ちょ、ちょっと待ってくださいレティ提督。そんなことをしなくても調整はできるはずです。」クロノはレティに必至訴えかけた。ここで下手にトレインを刺激するのは得策ではないとクロノも考えていた。しかし、レティは冷静に言った。「別に強制じゃないわ。トレイン君が嫌ならそれでかまわないわ。」そしてトレインは「ならめんどいからパス。」そう言い切った。その瞬間レティは思わずずっこけそうになったがその場で踏みとどまった。そしてトレインに切り返した。「ど、どうしてかしら?いい訓練にもなると思うのだけれど?」「勝っても何のメリットもねえ~しな。あと腹が減るだけだし、今日はここの名物らしきものを何にも食えなかったからそいつを食べ歩きたいしな。」くるりをレティに背を向けた瞬間「勝ったらここの最高級料理をフルコースで出させてもらうわ。」それを聞いたトレインは振り返り「OK!!!!」そんな二人のやり取りを聞いてリンディとクロノはため息をついた。翌日トレインたちは野外訓練場にいた。野外といっても市街地戦を想定した作りになっておりビル群があちらこちらに密集していた。トレインはレティから今回用意された銃弾を渡された。「一応訓練ということだからあなたが使っている実弾は使用できないわ。」「別にかまわねーけどルールはどうすんだ?」「この銃弾はペイント弾になっているからヒットすれば着色されるわ。そこの着弾箇所でこちらが判断するわ。」少々腑に落ちない部分があるがトレインはとりあえず了承した。「相手は4人いるわ。一応彼らもエリート呼ばれる精鋭たちだから油断はしないほうがいいわよ。あと、こっちの魔導師たちは非殺傷設定にしてあるから痛みはあっても大きなダメージにはならないはずだから安心していいわよ。」「いや、安心はできない気が済んだが…。」「とりあえず、こんなところかしら?なにか質問は?」「大丈夫だ。リニスもいいな?」トレインは後ろで座り込んでいるリニスに聞いた。「はい、問題ありません。」「じゃあ、あと10分後に開始するわ。がんばってね。」そう言ってレティは監視モニターのほうへと移動した。レティが行ったあとにリニスがトレインに聞いた。「マスター、どうして今回の模擬戦引き受けたんですか?」「どうしてって、フルコースが食えるなら断る理由はねーだろ?」そう言うトレインだがリニスは首を振った。「いいえ、それだけではないと思います。確かにマスターは食い意地を張った人かもしれません、単純な罠に引っ掛かりやすい方かもしれません。」「…なにげにヒデー言い方だな。」「ですがこんなに短絡的な行動を起こすとは思えないんです。」そしてトレインは笑いながら言った。「今後もためかもな…。」「今後…ですか?」「………。」トレインとしては管理局で働く気はなかったがこちらで掃除屋稼業を続けることはできないかと考えていた。その中で魔導師というものの実力を身をもって知っておきたかったいうことがあった。プレシアや使い魔であるアルフと戦闘をしてきたが基準となる強さはどんなものなのかというのを計りかねていた。実際のところ、トレインは管理局でも指折りの実力者なのだが一方監視モニターで待機していたリンディはレティに尋ねた。「今回模擬戦を行うのは昨日連絡していた武装隊かしら?」「ええ、一応管理局でもトップクラスのエリートたちを招集したわ。」そう言ってレティは今回戦闘に参加するメンツのリストをリンディに渡した。リンディはそのリスト見てみた。「なるほどね、A+が二人、Aランクが二人ね。」「私たちの感覚からすれば彼らはエリートと言えるわ。でも…。」レティはそこで言葉を切った。それに続けるようにリンディは「でも、トレイン君の相手になるかはわからない。」「ええ、あなたのところの戦闘員もAランクに達している人がかなりいたでしょ。けどプレシアは彼らを一蹴した。」「そしてトレイン君はそのプレシアを倒した。」レティはため息をついた。「本当は(陸)に頼んでゼスト隊に参加してもらおうと思っていたんだけど…。」「ゼスト隊って(陸)のなかじゃトップクラスの部隊じゃない。」「でもやっぱり普段から仲の悪さが出てるせいか隊長と話をする前から断られたわ。」「やっぱり確執は深いみたいね…。」リンディは少々表情を暗くしていた。レティとしてもあまり楽観視できる状況ではなかった。「むこうのレジアス少将がこちらを毛嫌いしているみたいでね。」自嘲気味にレティは言った。「でも、むこうの副官の一人が見学に来ると言っていたわ。実際に目で見てもらえれば副官の人通して交渉できるかもしれないしね。」「その副官の方は?」「もうすぐ来るはずなのだけれど…。」そこに青いロングヘアーをした制服姿の女性が現れた。レティはあわてて立ち上がり「あなたが副官の方かしら?」「はい、クイント・ナカジマ准陸尉です。」一方トレインのほうは銃弾詰め、戦闘の準備をしていた。「リニス~。」「はい?なんでしょうか?」「とりあえずはユニゾンしないでやってみるわ。」「え?でもそれでは調整の意味が…。」リニスは主なぬトレインの発言に反論するがトレインはこう切り返した。「調整なんて建前だろ?だったらおれの好きなようにやっても問題はねーだろ。」「そうですけど…。」「な~にやばそうだったら呼ぶからそんときは頼むぜ?」「マスター…。わかりました、マスターがピンチになることを祈りながらここで待ってますから!!」「いや、んなこと祈んなよ。」苦笑しながらトレインがしゃべっているとトレインのそばにモニターが現れ、そこにはレティが映っていた。「準備はいいかしら?あら?まだユニゾンしていなかったの?」「とりあえず様子見だ。必要だと思ったらそうさせてもうわ。」「はぁ、わかったわ。じゃあがんばってね。」そう言ってレティの写ったモニターは消えた。レティはトレインがユニゾンしないで戦うことに軽いショックを受けていると先ほどの会話を見ていたクイントが驚きの表情をしていた。その表情をみてリンディが声をかけた。「あのどうかしましたか?」「あの子は?トレイン君ですよね?」リンディとレティはクイントがトレインのことを知っているような口ぶりなので少々驚いていた。「トレイン君とお知り合いなんですか?」「一応、昨日迷子になっていた娘の面倒を見てもらったんです。でもまさか彼が魔導師とは思いませんでした。」トレインの写っているモニターを見てクイントはそうつぶやいた。リンディはそれに付け加えるように言った。「いえ、彼は管理外世界の住人で純粋な魔導師とはいえません。」「え!?」「それに彼は管理局の人間でもありませんし。」そしてあたりに戦闘開始の合図が鳴った。「さて……。」トレインは軽く首をひねりながら行動を開始した。そして相手を見据えた。(相手は四人組、しかも同じ部隊でやってきた連中だから連携はそれなりにとれるとみたほうがいいな。)相手を観察しながら作戦を考えていると男が一人こちらに向かってきた。ナックルガードのようなものを手と足につけていた。(接近戦主体のやつか?)「うおぉぉぉぉぉぉーー!!!!」気合いの入った声とともに強烈な一撃を放つ。しかし、「おせぇよっと。」軽く地面を蹴りその場から回避した。よけた場所の地面に拳がめり込み大きくへこんだ。威力に少々驚きつつもトレインは冷静だった。(威力はあるが拳のプレッシャーがねえな。これなら雷頭のほうが数段上だな。)トレインはかつての仲間を思い出しほくそ笑んでいた。それを見ていた相手は面白くなかったのか、表情をこわばらせさらに追撃する。拳だけでなく蹴りも交えながらトレインに襲いかかるがトレインはそれらを難なくかわし切っていた。「くっ!?」男も余裕をもって交わされているのがわかるのか苦虫をかみしめるような表情になっていた。そして回避行動しかとっていなかったトレインが反撃に出る。男がおおぶりに放ったパンチを大きく跳躍して相手の頭上に出たところで腕を振り切った。ガッ!!!!!その瞬間男の後頭部に何かが当たった。そして男は前のめりに倒れていった。「まずはひとり。」トレインの腕にはハーディスについているワイヤーが結ばれていた。さっきはワイヤーを腕に巻いた状態でヨーヨーのようにハーディスを投げつけ相手の後頭部にぶつけたのだ。体全体でバリアを張れるようなプレシアのような相手には通用しない戦法だが今回のレベルの相手では有効な手段であった。トレインは後方で動かずに待機していたメンバーに言った。「お~い、別におれのことをなめんのはいいけどよ、あとで変な言い訳だけはすんなよ?」カチン。その言葉に反応して三人はデバイスを構え砲撃、射撃魔法を放ってきた。「そうこなくっちゃな♪」そう言ってせまる砲撃をよけつつトレインはビル群に身を隠した。「全く、あれほど油断はするなって言っておいたのに…。」レティは一人で戦いを挑んだ隊員の姿を見て深いため息をついた。あの隊員の独断ではなくほかのメンバーも同意の上での先行だったのだろう。あまりのお粗末な結果に今回の模擬戦セッティングした当人として、レティは情けない気持ちになっていた。そんなレティにリンディは仕方ないと言わんばかりに首を振った。「いえ、そちらの隊員の気持ちを考えれば当然よ。急な訓練につき合わされたと思ったら相手は子供。彼の行動は仕方ないわ。」そしてそこにクイントが続く「それにそんなことを気にしている場合じゃないかもしれませんよ。」「え?」ふとモニターを見てみるとまた一人が撃墜されていた。「一分ってとこか。」先ほどはビル内に先行してきた女の隊員を天井を崩した際にできた砂煙にまぎれてハーディスで一閃し、気絶させた。ここまで一発も銃弾を撃っていない。正直本気で戦わなくとも勝てる相手だとトレインは判断していた。かといってこのまま終わっては何の意味もなくなってしまう。「慣らしの意味でもトランスしておきますかね。」そう言ってトレインはいつもの構えをとり神経を研ぎ澄ませた。するとトレインは光に包まれていった。モニター越しに見ていたクイントは何が起こっているのかわからなかった。レティも驚きを隠せずに立ちあがっていた。そして閃光が収まるとそこには不敵に笑う青年の姿があった。リンディはその姿をみて「ようやく本気になったみたいね。」「どういうことですか?彼は、トレイン君はどうしたんですか?」クイントはわけがわからないといった感じでリンディに問い詰めた。レティはあらかじめ説明を受けていたいたので事情は知っていたがそれでも落ち着いてはいられなかった。そんな二人をみてリンディは笑みを浮かべながら言った。「彼は普段子供の姿をしているけど実際は25歳の青年よ。自分の本当の姿をイメージすることで数分間だけだけどあの姿になれるらしいわ。」「一種のレアスキルのようなものですか?」「そうかもしれないけど彼本人もよく分かっていないみたいなの。」そこまで聞いてクイントはトレインの姿に視線を向ける。少年の姿でもあれだけの動きができるのだ。いったいどれほどの実力者なのか?クイントはいままでに感じたことのない高揚感を感じていた。一方リンディたちとは別の場所で一人の青年がこの模擬戦の様子を見ていた。彼は今戦っている面々と同じ部隊に所属する局員だった。彼は今回の模擬戦に参加するはずだったのだが、上司の指示によりそれはかなわなかった。彼にとっては残念に思う以外なんにも感じていなかったはずなのだが、なぜか妙に気になってここまで足を運んでいた。トレインはビル群にまぎれながら死角を突き、突然姿が変化したトレインに驚きを隠せずにいたところを狙い、一人を撃墜していた。残るは二人。ここまでハーディスの引き金は一度も引かれていない。「時間もねーし正面から一気に行くか!!!」そして意を決したようにハーディスを構え、ビルの屋上にあがった。残りの二人はトレインの姿を見つけるとすぐさまデバイスを構え攻撃を開始した。二人はここまでのトレインの戦いぶりからむやみに近づくことなく飛行を止めることなく打ち続けた。無数の光弾がトレインを襲うがトレインはそこから動くことなく不敵に笑うだけだった。ドゥォォォォォォーーーーン!!!!!爆音とともに砂煙を巻き上げてあたりの視界を奪う。その上空にいた二人は今の攻撃を回避しきれるわけがないとそこで決め付け動きを止めた。しかし、二人が相手にしていたのは並の相手ではない。数々の死線を潜り抜けてきた最強のガンマンだった。動きを止めたその刹那、二人の胸元に衝撃が襲った。二人がそれが銃弾であることに気づく。その戦いを見ていた青年は身震いをしていた。一瞬しか見ていないが確かに二つの銃弾が同僚である二人に直撃した。しかも二人が動きを止めた瞬間を狙い澄ましたかのように。非殺傷設定にしてあると言えど攻撃を受ければ当然ダメージもある。あれだけの速さで、あのタイミングで打つのはダメージを受けていては不可能だ。それを確信していた青年は砂煙が晴れるのを待っていた。そして、砂煙が晴れると青年が予想したとおり無傷で腰に手を当てて笑いながらトレインが立っていた。