「へー、ここがミッドチルダか。」アースラから降りたトレインは興味しんしんと言った感じであたりを見回した。それにつづいてクロノたちも降りてきた。そしてクロノはトレインの言葉に付け足す。「正確にいうと主都クラナガンの次元航行部隊本部、通称(海)だ。」「海?」トレインはクロノの言葉を聞き返す。それにリンディが答えた。「時空管理局は大きく分けて二つの部署があるの。主に各世界に駐留しての治安維持を務める地上部隊、通称(陸)。」「そして僕ら所属している次元航行部隊は次元航行艦に乗って多くの次元世界を行き来し、場合によっては介入する。」「ほうほう。」腕を組みながらトレインは聞いていた。といってもそれほどトレインにとって興味のわく話題ではなかった。するとエイミィが口を開き「簡単に言うとパトロールをする部隊ってとこかな。」「そっか…。」それに対してもどこかそっけない態度のトレインにリニスは心配そうに顔をのぞかせた。「マスター、どうかなされましたか?」「あ?いや、なんでもねえよ。ただ単に興味がないだけだ。」トレインとしては組織のことについては興味はなくいち早くミッドチルダを観光してみたいという欲求が頭の大半を占めていた。その様子をみてため息交じりにクロノが仕切りなおした。「とりあえず、これからのことを説明させてもらうよ。」「頼むわ。」「まずはリニスはこのまま技術部のほうへ行ってもらう。」「はい。」リニスは特に動じることなく返事をした。トレインも特に反応はなかった。「デバイスとしての調整を行う。おそらく今日一日はかかると思う。」「俺はどうすればいいんだ?」「そうですね、マスターが適格者なので一緒に行ったほうが…。」リニスがトレインに続いて言葉を発しようとしたがクロノがそれを制す。「いや、トレインは今日のところは必要ない。」「どうしてだ?」クロノの代わりにエイミィが答えた。「う~ん、リニスはまだまだデバイスとしては不透明なところがあるから今日は解析だけで終わっちゃうと思うだよね。だからトレイン君との調整は明日以降になるのかな。」「今後のことを考えれば解析のほうもしっかりしておいたほうがいいわ。」リンディはやさしく諭すようにトレインたちに言った。トレインは了承し「OK、んじゃそういうことだからしっかり調整されて来い。」「なんか言葉がいやですけど、わかりました。」どこかしぶしぶといった感じをさせながらもリニスはトレインの言葉にうなずいた。「んじゃ、俺は適当にふらついてるわ。」トレインは本部の門の前で見送りに来てくれたクロノにそう言った。裁判までには少し時間がかかるとのことで、その時間をリニスの調整に当てることになった。クロノとしてはトレインをミッドチルダで独り歩きさせることに一抹のふんを覚えていたがここのところ大きな事件がないこともあり問題ないだろうと判断した。そしてトレインは地図代わりになるポータブルナビを受け取りへ向かい歩いていた。街へと向かうその後ろ姿をクロノ達が見守っていた。そしてクロノはふと口に出す。「不安だ。」「クロノ?どうしたの?」リンディはいきなり難しい顔をし始めた息子に首をかしげながら尋ねた。クロノは表情を厳しくしたまま「彼を独り歩きさせるとなにか問題が起こりそうな気がしてならない。」「そうかしら?仮にも彼はあなたより大人なのだからそんなことはしないとは思うのだけれど?」リンディがそういうがクロノはまたつぶやいた。「不安だ。」そんなクロノの不安をよそにトレインはクラナガンを満喫していた。手渡されたポケナビで通貨など一通りの知識は頭の中に入っていたためファーストフード店でハンバーガーを片手に町を見て回っていた。グラナガンはトレインがみてきたどの町よりも文明は発達しており見るものすべてが珍しいものだった。向こうでは魔法というものがなかったこともあるが、トレインは歩いているだけでも退屈はしなかった。「つってもすんでる人間に大した違いはないか。」トレインとしては魔法というのだからもっと容姿が違う人間がいるのかと思っていたらしい。しかし実際は人種のような違いがあれど住んでいる人たち自体はそれほどの違いはなかった。そんなことを考えながらトレインはグラナガンでの観光を続けた。一方クロノ達のほうではリニスの調整が進められていた。使い手が少ないことやその希少性から話題になり何人かの管理局関係者が見学に来ていた。そのなかに眼鏡をかけた女性がいた。リンディはその姿に気が付き声をかけた。「レティ。」「あらリンディお邪魔させてもらってるわ。」女性の名はレティ・ロウラン。リンディたちと同じで管理局所属の提督の地位に就く女性だ。主に人事や艦船の運用にかかわる任務を担当している。レティは挨拶をほどほどに調整を受けているリニスへと視線を向けた。「それにしても珍しいものを見つけてきたわね。」「珍しいってリニスさんのことかしら?」当然とばかりにレティは頷いた。「それに話によればちゃんとしたマスターもいるみたいね。」「ええ、けど彼は管理外世界の民間人よ。」リンディはレティが言わんとしていることは理解していた。ただでさえ人材が不足しがちな優秀な魔導師のことについてレティは常々頭を抱えていた。そんな彼女の目の前には希少であるユニゾンデバイスとそれをうまく運用できる魔導師がいるのだ。かといって本人の意思に反して管理局に入局させることはできない。リンディとしてはそんなことをするつもりはないし、レティもそのつもりはないだろう。しかしレティとしては逃すにはあまりにも惜しい人材であることには変わりはなかった。そしてレティはリンディに一つ頼んだ。「リンディ、差し支えなければユニゾンした彼の戦闘映像を見てみたいのだけれど?」突然の申し出であったが特に問題はないかと判断し了承することにした。「わかったわこっちにきて。」映像を見ればますます彼を求めることになるかもしれないが苦労は彼本人にしてもらおう。そう考え、少しほくそ笑みながら映像を再生した。映像をしばし見ているとレティの目はいよいよマジモードになっていた。一緒に見ていたリンディも若干引き気味なるほどだった。「ふふふ。」どこか不気味な笑いを浮かべながらレティはリンディに尋ねた。「リンディ、このときの彼の魔導師ランクは?」「え、えーと陸戦という結果だけど……。」「だけど?」「……SS+。」その言葉を聞くとレティはおもむろに携帯端末を手に取りどこかと連絡を取った。「ええ、そうよ。……急な話でごめんなさい。よろしく頼むわね。」そして手に持っていた端末をポケットに戻した。リンディはレティに訪ねた。「ちなみに今どこと連絡取っていたの?」「武装隊よ。」「ぶ、武装隊って!?」「一度でいいからこの目で見てみたいのよ、彼の戦いぶりを……。」その当事者であるトレインは何もしらずにのんびりと観光を続けていた。するとどこからか子供の泣き声が聞こえてきた。普段なら特に気にすることもなかったのだがここ最近はなのはたちのおもり?をしていたせいかどうにも世話を焼いてしまう習性が付いていた。考えとは裏腹に鳴き声のするほうへと足を進めてしまっていた。そして声のする場所につくとそこにいたのはショートカットの青い髪をした少女だった。いや、少女というより幼女行ったほうがいいだろうか?年はおそらく4歳くらいだ。近くに親らしき人物がいないことから迷子にでもなったのかと思われる。トレインはやれやれといった感じでその少女に近づく。「ヒック、おか~~~さん~~~~~。お姉ちゃ~~~~~~ん~~~何処へ~~いったの~~~」少女は相も変わらず泣き続けていた。人通りが少ないわけでもないのだから近くにいる大人がどうにかするのではないかと思っていたがどこの世界の住人も面倒事は嫌なようだ。(世知辛い世の中なのかね?)と考えつつ少女の目の前に立ち腰を下ろし少女と同じくらいの目線になるようにして話しかけた。「どうした?母親とはぐれたのか?」「ヒック、ヒック、うん。」少女は泣きながらもトレインの言葉に答えた。トレインは仕方がないのでとりあえず涙でいっぱいになった目をハンカチでふいてやった。そうしているにもかかわらず少女はまた泣きそうになていた。さすがにこれ以上泣かれるのは簡便なのでトレインは口を開いた。「ああ、一緒におふくろさんを探すの手伝ってやるから泣くな。」「ぐす、でもおかあさんがしらないひとについていっちゃダメだって…。」トレインは頭を抱えていた。変なところで教育が行き届いているせいで話が進まない。仕方がないので少々強引に話を進めることにした。「俺はトレイン。トレイン・ハートネット、お前は?」「ふぇ?」「名前だよ、な、ま、え。」トレインのぶっきらぼうな言い方に多少びくつきながらも少女は答えた。「…す、すばる。スバル・ナカジマ…。」そう答えた少女にため息をつきながらも苦笑を浮かべながらトレインは言った。「スバルか、よし。自己紹介を済ませたし、俺たちは知り合いだな?」「え、え、え、うん。」スバルという少女は自信なさげに答えた。「んじゃおふくろさんを探すぞ?」そう言って少年のような笑顔で(実際は少年なのだが)少女の手を握った。先ほどまで泣いていた少女もつられるように笑顔を浮かべた。人見知りする性格なのかスバルはあまり口を開かなかったが徐々に普通に喋れるようになってきた。「なんだ、おふくろさんだけじゃなくて姉ちゃんもいるのか?」「うん……ギン姉も一緒だったの…。」話を要約すると、普段仕事が忙しくなかなか一緒に出かけることのない母親との外出をスバルは楽しんでいた。そんななかスバルはショーウインドウに飾られていたケーキが目に入りそれに視線を釘づけにされていた。そしてふと気がつくと母と姉の姿がどこにもないことに気がついた。おとなしくそこで待っていればよかったものの一人でいる不安に耐えられず母たちを探しに一人で歩き回っていた。結果、母と姉を見つけることはかなわず途方に暮れ泣いているところにトレインが出くわした。ということらしい。話をまとめてとりあえず元の場所に戻ろうと考えたトレインだったが、肝心のスバルがもといた場所を覚えていなかった。話を聞く限りでは建物の中に入ったりということはなさそうなのでこの通りのあたりを歩いてみることにした。最悪の場合こちらの警察に厄介になることになる。とりあえずそれらしき人物を探すが、いかんせんトレイン自身が少年の体なので人探しをするには一苦労だった。なかなか苦労しそうだなと考えふとスバルのほうを向くとスバルの視線が自分の右手に向けられていることに気がついた。「………。」現在トレインの右手はスバルの手を握っており、右手には先ほど昼食代わりに買ったファーストフード店のポテトの残りが入っていた。残りといっても食欲をそそる香ばしい香りはまだまだしていた。「………。」スバルが先ほどからそこから視線を外さないことからトレインは一言言った。「腹減ったのか?」キューーーーーかわいらしいお腹の音とともにスバルがこくりと頷いた。スバルをさっきのファーストフード店に連れていくとさっきまで泣いていたのがウソのように元気よくハンバーガーをほおばっていた。その様子に現金だなと苦笑しながらトレインは笑っていた。「ん?どうしたのトレ兄?」「なんでもねーよ。気にしないでいいからとっと食べな。」「うん!!」スバルは少しずつトレインに気を許しているせいかトレインのことをトレ兄と呼んでいた。気を許したきっかけがハンバーガーというのもなんとも笑える話だが。そしてふと視線を窓の外へと移すと青のロングヘアーをしている母娘がそこにはいた。どこかあわてた様子で何かを探しているようだった。すぐさまトレインはスバルに声をかけた。「スバル。」「ん?な~に?」スバルはケチャップを口につけながら首を傾けた。「あれってお前のおふくろさんと姉ちゃんじゃないのか?」トレインはそういって窓の外にいる二人の親子を指さした。その瞬間スバルは「おかあさん!!!ギン姉!!!」あわてて動き出そうとするスバルをトレインは落ち着かせた。「落ち着けって、とりあえず残りのもん持ってここから出るぞ。」そうして二人は階段を下りて通りに出た。そして一目散で先ほどの女性のところへ駆けつけ「おかあさ~~~ん」「スバル!?どこにいってたの?心配したんだから。」スバルは母親のところへ飛び込むとそのまま抱きつきながら泣いていた。母親もしっかりと抱き、安心したような表情だった。その母親のそばにいたギン姉らしき女の子も安心したよう表情でスバルのあたまをなでていた。そして親子の視線が合うと母親がスバルの口についているケチャップに気がついた。「あらスバル?口についているケチャップはどうしたの?」「あ、これね…トレ兄がはんばーがーを食べさせてくれたの。」にっこりと笑いながら視線をトレインに向け指さした。一方のトレインは少し離れた所から親子の様子を見ていた。「本当にありがとう。この子の面倒みてくれて上にご飯まで食べさせてくれて。」お互いに自己紹介を済ませたあと母親はこれでもかというくらいに頭を下げ感謝を示していた。ちなみに母親はクイント、姉はギンガというらしいトレインとしてはそれほど大したことでもないので気にするなと言っておいた。そして改めて母親、クイントをよく見てみると子持ちとは思えないほどはつらつとしており若かった。スバルに受け継がれたであろう青いロングヘアーをなびかせる姿はお世辞抜きにきれいだと思えた。またスバルの姉であるギン姉ことギンガは母親譲りの容姿をしており将来クイントそっくりに成長するだろうと様に想像できた。「でも本当に助かったわ。それにしてもあなたは一人なの?」「俺?一応そうだな。」「あなたのご両親も心配してるんじゃないのかしら?よければ送ってあげるけど?」何やら面倒なことになりそうなのでトレインは部分部分を省略しながら事情を説明することにした。「じゃああなたはミッドチルダの人間ではないのね?」「ああ、なんでも管理外世界とかいうところらしい。事件に巻き込まれて裁判の証言をしてほしいからこっちにきてるってわけ。」「そう、大変なのね。」ある程度の事情を説明するとクイントもそれ以上踏み込んでこなかった。トレインは携帯端末で時間を確認するとそろそろ指定された時間だった。「わり、ぼちぼち帰らねえといけねえわ。」「え、もういっちゃうの?」スバルがさびしそうな声をあげた。表情もさっきまでの明るいものから迷子になっていた時のように眼をうるませていた。トレインは頭をかきつつスバルのそばまでいき「悪いな、俺も帰らねえとこわーい執務官様に怒られちまうからよ。」「で、でも…。」「スバル、トレインにも用事があるんだよ。」なにか言わんとするスバルに対してギンガがたしなめるように言い聞かせていた。その様子をみてトレインは少し強めにスバルの頭をなでてやった。「なに、いつかまた会えるさ。な?」そしてギンガの頭にも手をのせ「こいつと仲良くな。」笑顔で親指を立てた。そしてすぐさま駆け出していった。クイントよびとめようとするもののすぐさまその姿は見えなくなっていた。さびしそうにトレインがいなくなった通りを見つめる親子だったが次の日には再開することになることはまだ知る由もなかった。そして親子二代に続き壮絶な追いかけっこをすることになるとは……。