海辺に面した橋の上でフェイトとなのはが立っていた。ちょっとしたすれ違い、お互いに譲れないものがあったから分かり合えなかった二人だがようやく向き合えることができた。会話する二人の表情は穏やかで笑みに満ちていた。そんな二人に気を使ってかアルフとユーノ、クロノは離れた所からその様子を眺めていた。感極まったのかアルフは涙を流していた。しかしその場にいるはずのトレインはまだそこにはいなかった。「んじゃ行ってくるわ。」どこか近所に買い物に行ってくるような感じで言うトレインにはやては「ちゃんと連絡入れるんやで?」心配する親のように言った。するとリニスがはやてに言った。「任せてくださいはやてちゃん、私がその辺の指導はしておきますから。」力強く手を握りながら言いきった。それをみてはやては安心するような表情で「リニスさんがそういうなら大丈夫やな。トレイン君、気をつけてな?」「ああ、何個か納得いかねーこともあるけどよ……お前も体には気をつけろよ?」「うん、私は大丈夫や。元気に二人が帰ってくるのを待っとるから。」以前のような影のある笑顔ではなく力強さの感じられる笑顔をみてトレインも笑い「土産も買ってくるからよ楽しみにしてろよ。」「うん!!!」「じゃあ、行きましょうトレイン?」「ん?……ああ、それじゃあな。」「いってらっしゃい。」はやてに見送られトレインたちは八神家を後にした。「やっぱりはやてちゃん一人にするのは心配ですね。」八神家を出て少しするとリニスが突然つぶやいた。確かにはやての病状などを考慮すれば心配すべき点はいくつもあるだろう。しかし、トレインはそれほど心配はしていなかった。「そうか?あいつならなんとかなるだろう。」「そうでしょうか?」リニスは少々納得がいかないようにトレインに聞いた。「仮にもあいつは今まで俺らが来るまで一人で生活してきたんだ、体のことは心配かもしれねえけど先生も悪かねえから大丈夫だろう。」トレインも心配していないわけではないがそれ以上にはやてを信頼していた。最初会ったときはどこか危うそうな表情をしていたがここ最近でだいぶましになってきているとトレインは感じていた。「心配してやるのもいいけどあいつのことを信じてみようぜ?」「マスター……。」その言葉にリニスは立ち止まり歩みを止めた。「?どうしたんだよ?」リニスはそのままトレインに近づきギュっ!!!いきなり抱きついた。「な!?何してんだっ!!!」「リニスは感激しています。マスターの心遣いに、私はあなたのようなマスターに出会えて幸せです。」そういうとますます抱きつく力を強めるリニス。「それはいいから抱きつくな!!!何かにつけておまえは抱きついてくるな!!!」「だって~、マスターはこんなに小さくてかわいいですから…。」うっとりするようにつぶやくリニス。八神家にいる間に襲撃に近い形でトレインはリニスに何度か襲われ!?かけていた。ここ数日は枕を高くして眠れた記憶がないトレインだった。トレインたちが集合場所にたどり着いた。ちょうどクロノ達に指定された出発時間ぎりぎりであった。フェイトとなのはの様子を見ていた三人だったがクロノがトレインたちが来たのに気がついた。「時間ぎりぎりか…君らしいな。」クロノはすこし呆れているようなそぶりを見せてはいるが以前のようなとげとげしさは少しだがなくなっていた。一方のトレインは悪びれる様子もなく。「時間通りきたし問題ねーだろ?」と笑いながら答えた。トレインも三人が見ていた方向へ視線を移すとフェイトとなのはがお互いのリボンを交換しているところだった。「………。」「麗しい少女の友情ですね。」黙ってみていたトレインと違いリニスは少し感動するようにつぶやいた。しかしそのリニスを凝視する人物がいた。「り、リニス?」先ほどまでなのはたちのやり取りをみてないていたアルフだった。信じられないものを見るようにリニスに近づく。「に、偽物じゃない……リニスなの?」その言葉にリニスは首を振ろうとするがトレインがリニスの服の裾を引っ張った。リニスがトレインに視線を向けると首を振っていた。「マスター…。」「おまえはあいつらの親代わりだったんだろ?」リニスはアルフたちにとって唯一の家族とも言えるような存在だったことはトレインも承知だった。リニスは自分の存在がフェイト達を縛ることになると考えていることも知っていたが、トレインはフェイト達にとってまだまだリニスのように見守る存在が必要だと感じていた。一方のリニスもトレインに促されアルフと向き合った。そして穏やかな表情で「大きくなりましたねアルフ。」「り、リニス………うわぁぁぁぁぁぁーーーん。」なのはとフェイトの姿を見て涙腺が緩みっきりのアルフではリニスとの再会で涙を止めるすべはなかった。アルフの鳴き声につられるようになのはとフェイトこちらにやってきた。「アルフさんどうしたんですか?…フェイトちゃん?」「………。」駆け寄ったなのはがアルフの姿を見て何事かと思ったらフェイトの様子もおかしくなっていた。何か信じられないものを見るような眼でリニスを見ていた。そしてゆっくりと歩みをすすめリニスの目の前にきた。「リニス……。」呟くようにリニスの名前を呼んだ。リニスは泣いているアルフの頭をなでながらも笑顔で「フェイト……あなたも大きくなりましたね。」「………。」フェイトは何も言わずにリニスに抱きついた。一方展開についていけないなのはたちにも大まかな事情をトレインは説明した。それを聞いたなのははつられるようによかったね、と言いながら泣き出した。正直お涙ちょうだいな場面は苦手なトレインは苦笑しながら見守ることしかできなかった。トレインは落ち着いているクロノに向きなおり「あー、出発時間はいいのか?」「ああ、こんなことがあるだろうと思ってある程度余裕を持っておいたから少しは大丈夫だろ。といってもそろそろ出発したいのだけれど…」クロノは四人に目を向けながら言った。トレインもため息をつきながら四人に近寄りフェイトの肩を叩いた。「今は時間がねーからよ、あとはアースラの中ででもしとけ。」「………うん。」よく見るとフェイトの目は赤くなっていた。アルフのほうは見るまでもなかったが。リニスも落ち着いているようだったが少し赤みがかっていたのはトレインの見間違いではないだろう。そしてトレインはなのはのほうに向かった。先ほどまで泣いていたせいかなのはまで目が赤くなっていた。「おまえんとこにもずいぶん世話になったな。」なのはは涙を軽く拭いトレインに向きなおった。「ううん、私こそフェイトちゃんとのことでトレイン君には助けてもらってばかりでなんにもしてあげられなかったし…。」「何言ってんだよ。今回のことはお前が頑張ったからの結果だろ?」「そんなことないよ。くじけそうになったときトレイン君が励ましてくれなかったら私はきっと…。」なのははうつむき加減で答えていた。それを見ていたトレインはなのはの肩を掴み目線を合わせ言った。「今回のことはお前の頑張った結果だ。そいつは胸を張っていいと思うぜ?」「と、トレイン君/////」顔を赤くするなのはを気にせず言葉を続ける。「むこうで用事がすんだらまた顔出すからよ、元気でな。」そしてすっと手をなのはの前に出した。きょとんとしたなのはは少し反応が遅れながらトレインの手を取った。そしてしっかりと握り合い笑顔で向き合った。そしてトレインは肩に乗っているユーノにも声をかけた。「おめーはこっちに残るんだっけ?」「うん、仲間からの連絡があるまでなのはのところでお世話になることにしたよ。」するとトレインはにやけながらユーノに言った。「せいぜい恭也あたりに正体がばれて殺されないように気をつけろよ?」「な、な、何を言ってるんですか?」そう言われたとたんにユーノはあわてだしていた。その光景をよくわからないといった様子でなのはは見ていた。けらけらと笑っていたトレインだったが笑みを浮かべながら「いつになるかわかんねーけど…またな。」「……うん。」ユーノとトレイン。今回の一件で二人の関係は良好なものになっていた。性格的には真逆に近く、相容れないものかとユーノは思っていたが彼という人間を見ていくことでユーノ自身は成長していた。トレインは友人、ユーノにとって兄貴分ともいえる存在になっていた。そしてそれぞれが名残惜しむなかトレインたちが一か所に集まると地面に魔法陣が展開された。そして光とともにトレインたちは消えた。その様子をなのはたちは見つめていた。「お別れじゃ…ないよね?」なのはが誰に言うまでもなく呟いた。それにユーノが答えた。「ああ、フェイトもトレインもきっとまた会えるさ。」「そう……だよね。」ユーノの言葉に励まされるように顔をあげ「ユーノ君、行こうか?」なのはの見上げた空はどこまでも澄み切っていた。一方アースラ内部フェイト達は重要参考人ということになり以前ほど拘束は厳しくなくなっていた。以前まで手に掛けられていた拘束具はなくなっていた。とはいえ完全な自由ではなく艦内での行動はある程度制限されていた。転送が終わりクロノが全員に視線を向け、言った。「これから事件の裁判がおこなわれるミッドチルダの首都クラナガンに向かう。」「クラナガン?」聞き覚えのない単語にトレインが首を傾ける。すると後ろからトレインの服の裾を引っ張るフェイトがいた。それに反応して後ろを振り向くとフェイトが口を開いた。「えと、クラナガンは管理局があるミッドチルダの首都にあたる都市なの。」「へー、そうなのか?よく知ってるな。」トレインは感心するようにフェイトを見る。恥ずかしそうにしながらも少し嬉しそうに照れているフェイト。そしてその光景をみてイイ笑顔のリニスとアルフ。それをみてやれやれと頭をかくクロノであった。そこで咳払いをしてもう一度仕切りなおす。「到着までには少し時間がかかる。それまでは自由にしてもらってもかまわない。けどフェイト達は与えられた自室で待機してもらう。」「はい。」「は~い。」素直に返事をするフェイトと少し不満げなアルフだった。「あとトレインとリニスはすぐに艦長室に来てくれ。」「なんかあんのか?」「一応これからのことと向こうに着いてからの説明だ。特に君はミッドチルダは初めてだろうし戸惑うこともあるだろう。」「ん~、別に大丈夫だけどよ。」各地を転々としてきたトレインにとって未知の場所は楽しみになるが戸惑うようなことはないと感じていた。そんな様子のトレインを見てリニスは「マスター、説明を聞いておいて損はないと思いますよ。」「そうだな…。わかった、リンディのとこに行けばいいのか?」「ああ、場所はわかるかい?」「一度来た場所は把握してるから大丈夫だ。」そういって歩きだした。それについていくようにリニスも歩き出す。そして歩きながら「フェイト、こっちの話がすんだらまた後でな。」そういって曲がり角を曲がった。フェイトは一瞬呆けていたがすぐに「……うんっ!!」嬉しそうに声を上げていた。「マスター、フェイトにはやさしいですね?」リニスがうれしそうにトレインに言った。「何がだよ?」「いえ、気にしないでください。」リニスは鼻歌を歌いながら上機嫌で歩いていた。そしてリンディのいる艦長室についた。コンコンコン「はーい、あいてますからどうぞ?」許可が下りるとリニスとトレインは部屋に入った。相変わらず近代的なアースラと恐ろしいほどマッチしていない艦長室だった。リンディはそんな事を思われているとはつゆ知らず用意してある座布団に座るように勧める。「んで要件ってのは?」トレインは単刀直入にリンディに問いただした。「そんなに身構えなくてもいいわ。話というのはリニスさんとあなたの持っているハーディスについてなのよ。」「こいつか?」「ええ、以前クロノが言っていたようにあなたが持っているような火薬や化学など魔力によらず大量破壊を生み出す兵器のことを質量兵器と呼ぶの。そしてそれらはミッドチルダでは使用、開発等は禁止されているの。」「ふ~ん。」トレインは特に驚くことなくリンディの話を聞いていた。するとリンディはふと一枚の紙をトレインに差し出した。「こいつは?」「ハーディスのデバイス登録許可証よ。」「許可証?」「禁止されているとはいえ許可さえ取れれば小銃程度ならデバイス登録をすれば運用は可能なの。あなたがミッドチルダに行くことが決まってすぐに掛け合ってみたのよ。」「よくこの短時間でとれましたね。」リニスは感心するように言った。「戦闘映像から解析できた結果だけ見ればただの拳銃だったから、これがもっと大量破壊を起こすようなものなら難しかったわ。」「まあ、早い話こいつがあるってことはそっちでこいつを使っても問題ないってことか?」「とりあえずはね、けど極力使用はしないでね。デバイスといっても質量兵器には違いはないのだから。」「善処しておく。」犯罪者を捕まえに行くのではないのだから相棒を使うことはないだろうとトレインは考えていた。しかし、当然その考えは打ち砕かられることになる。「次にリニスさんのことのなのだけれど、彼女もデバイスの登録をしておかないといけないの。」「そうですね…、無許可のままではマスターにも迷惑がかかりますし。」リニスは真剣な表情でつぶやいた。「ただ彼女の場合設計図を送って済むものじゃないの。管理局の研究所でしかるべき調整を行わないといけないの。」「調整?」「マスター、プレシアとの戦いのときユニゾンが解けたとのも私が未調整だったからです。これからのことを考えれば保険の意味でも調整はしっかりとしておいたほうがいいと私は思います。」「私も同意見ね。不具合が起きれば最悪あなたという存在がなくなる可能性もあるわ。「…そこまで言われたら断る理由はねえな。」特に調整をするからと言って二人に不満はなかったのでトレインはあっさりとリンディの提案を受けた。「あとはこれを渡しておくわ。」そういうとリンディは封筒を手渡した。「こいつは?」トレインはそれを手に取りリンディに聞いた。手渡された封筒は分厚くずっしりとしていた。「それはむこうでの滞在費……もしくは娯楽費ね。」「娯楽費?」「あなたには報酬を与えたけどミッドチルダとなのはさんたちのところじゃ通貨が違うのよ。それにあなたはもっと報酬を受けてしかるべきだったしね。」笑顔でリンディはウインクをした。「わかった、ありがたくこいつは使わせてもらうよ。」そういってトレインは懐に封筒をしまった。リンディはその様子を確認すると「向こうに着いたら私たちの家で生活してもらうことになるけど大丈夫かしら?」「別に、特に問題はねーよ。な?」「はい、むしろありがたいお話ですし。」「そう、よかったわ。とりあえずは話はこれだけだわ。向こうに着くまでゆっくりしていてね。」「おう。」トレインはリンディに返事をすると背を向け艦長室を出た。リンディの部屋を出て行ったあとトレインとリニスは艦内をぶらついていた。頭の後ろで腕を組みながらトレインはこれからのことを思案していた。(これからどうしたもんかね。きままな掃除屋生活をするにもこの姿じゃきついしな。)珍しく難しい顔をしているトレインをみてリニスは声をかけた。「どうしたのですかマスター?」「ん?ああ、これからどうすりゃいいのかなってな…。」苦笑気味にそう答えた。「これからですか?」「ああ、きままな野良猫暮しをするつもりだけどよ…。」その言葉にリニスは首をかしげていた。なにかわすれているような、なにか重要なことが抜けている…。「いえ、マスターがするべきことは決まっていますよ。」「へ?」急にリニスが真面目な顔をして答えた。「マスターはこれから受験に向けて勉強しなければいけません。」リニスは力強く言い切った。「……覚えてやがった。」「当然です!!」恨めしそうにトレインはリニスを見た。その後二人はフェイト達に会いに行った。フェイト達は今までの時間を埋めるようにただただ話をしていた。トレインは特に会話に参加することなく傍観していた。時折フェイトが様子をうかがうが、きまってトレインは寝息を立てていた。そんな感じで艦内で数日を過ごした後一行はミッドチルダに到着した。