「もう黙ってどっかに行ったりせんといてや?」「あ~、考えとく。」苦笑しながらあいまいな回答えをするがはやてはそれを許さなかった。「ダメや、考えるだけじゃなくて行動で示してや。」「はぁー、わかったよ。今度からちゃんと報告すっから今回は勘弁してくれ。」はやてとしてはまだまだ納得いかないが今回はこれでいいだろうと「今回はええけど今度やったら……どうなるかわかっとるね?」「OK。」そしてはやてはトレインの後ろにいるリニスに気がついた。リニスはにっこりと笑いながらお辞儀をした。はやてもそれに反応し軽く頭を下げた。「トレイン君、この人は?」「え~と、こいつは……。」どう説明したものかと考えていたトレインだったがリニスはすぐさま口を開き説明し始めた。「私はトレインの遠縁の親戚のリニス・ハートレットと言います。」「えと、私は八神はやてと言います。トレイン君は確か家族はいないって話だったと思ったんですけど?」はやては当然の疑問をぶつけてきた。実際トレインは天涯孤独の身であったのに間違いはない。しかし、リニスは動揺することもなく言葉を続ける。「ええ、最近までまったく連らくがつかずじまいで探していたんですけどようやく見つかりまして。それでここ数日私たちのところでお話をしていたんです。」「はぁ、そうなんですか。」いまいち要領をえないはやてだったがリニスの言葉を否定する要素もないのではやては納得することにした。しかしここでひとつの不安が生まれた。「もしかしてトレイン君を引き取るとかいう話ですか?」「いえいえ、あくまで戸籍上の問題とかですのでそういうことではないですよ。それについてはこれからゆっくり考えていけばいいですし。」リニスは全く動じることなく言葉をつないでいく。その様子にトレインはただただ感心するだけだった。その後嘘で固めた事情でここ数日戻ってこれなかった理由をはやてに説明した。魔法関係の話をはやてにするわけにもいかなかったからだ。「トレイン君もよかったな?」「ん?」なんのことかと疑問に思うトレインにはやてが言う。「親戚の人が見つかって、しかもこんな美人なお姉さんや。」はやてはからかうようにトレインに言うがトレインは首を横に振り。「何言ってんだか…そんないいもんじゃねえぞ。」トレインはげっそりとした表情で言う。リニスに看病された数日を思いだしているようだった。そんなトレインの横でリニスがわざとらしくため息をつき「この子は素直じゃなくてほんとに困ってるんですよ。はやてちゃんも苦労するわよ?」「へ?それってどういうことですか?」「はやてちゃんはまんざらでもないのかしら?」リニスがいたずらっぽい視線ではやてをみるとはやては顔をうつむかせてしまった。トレインはその様子をみて「リニスもはやてをからかうのもそれくらいにしておけよ。」そんなことをいうトレインにリニスはおもしろくなさそうに「そんなつまらないこと言って…。」と拗ねた真似をする。(こいつはほんとに油断ならねえな。)そのあとしばらくとりとめのない会話をつづけていた。そしてトレインははやてに切り出した。「はやて。」「なんやトレイン君?」トレインは真剣な表情ではやてに向き合った。いつになく真剣なのではやてもすこし緊張した。「何日かはこっちにいられるけどよ、少ししたらまたしばらく出かけることになった。」「え?どうしたん?」「ちょっと事件に巻き込まれてな。俺もリニスも証言者として裁判に出ねーといけなくなったんだよ。」そう、トレインは重要参考人として裁判に出頭してほしいとリンディたちに頼まれたのだ。本来なら勘弁してほしいのだがプレシアやフェイトが関わってることから断ることもできなかった。なによりプレシアに生きろといったこちらとしてそのまま放っておくのも釈然としなかったのも理由のひとつである。「どのくらいで戻ってこれるん?」はやてが不安そうに聞いてくる。リニスはすこし困ったように答えた。「書類の手続きとかいろいろ面倒なことが多いですから…もしかしたら年内に戻れるかどうか微妙くらいかもしれないですね。」「そ、そんな……。」落胆したような表情になるはやて。トレインはそんなはやてに言った。「おいおい、一生の別れになるわけじゃねえしそんなに落ち込むなよ?」「だって!!!だって…ようやく戻ってきたとおもうてたのにまた何か月も戻らんなんて。」トレインははやてに近づき視線を合わせるようにかがんだ。「大丈夫だ、今度は連絡先も教えっから。それに俺からも連絡は入れてやるしできるだけ早く戻ってきてやるからよ。」「……ホンマ?」「ああ、ぜってぇーな。」はやてはしぶしぶといった感じだったが納得した。「わかった、絶対連絡は欠かさず入れてや?」「大丈夫ですよはやてちゃん。私がさぼらせませんから。」リニスは胸を張りながらにっこりと笑った。それにつられはやても笑い「そうですね、リニスさんが付いてるんやもんね。すこしは安心できるわ。」「おい、俺よりさっき会ったばかりのそいつのほうが信用できるのかよ?」心外だと言わんばかりにトレインが言うがはやては「当然やん。」笑顔でそう言い切った。「ヒデェ……。」トレインはその日は八神家で一晩を過ごすことにした。もちろんリニスとはやての夕食を食べたあとの就寝の際にははやてはおろかリニスまで忍び込む始末だった。おかげでトレインは眠ることはできても心身ともに疲労が抜けることはなかった。夜が明け、朝食を済ませたトレインはリニスを伴って八神家をでて高町家に向かった。リニスを連れていったのはあそこのお人よしの家族を安心させるためだった。自身は25で成人している身としては心配されるようなことはないのだがなにせ体は10前後の子供とかわらないので向こうはそうは考えてくれないだろう。リニスを遠縁の親戚とでも説明し保護者としておけば一人で出ていくよりは安心するだろうとトレインは考えた。「というわけだ。昨日見たいに頼むな?」一通りの説明を済ませリニスに昨日のはやてに説明したようにするよう頼む。リニスもしっかりと頷いた。「任せてくださいマスター。」「返事いいんだけどよ、マスターってのはいい加減やめてもらえねえか?」トレインはうんざりするように言った。自分はそんな風に呼ばれるような人間でもないと思っているトレインにとってマスターという呼び方はくすぐったいだけであった。かつてキョーコに様付で呼ばれた時も違和感があった。(まー、あいつの場合は意味が違ってたけどよ。)しかしリニスは首を縦には振らなかった。「いいえ、マスターが私の相棒であると同時に私にとってあなたはマスターなのです。」力強く言い切るリニスの様子にトレインも匙を投げた。「わかったよ、好きにしな。けど桃子たちの前では気をつけろよ?」「わかってますよ、マスター。」(ほんとに大丈夫か?)リニスの猫かぶりには感服しているところがあるが今朝からやな予感がなくならない。トレインは高町家に到着する前からリニスが何か企んでいるような気がしてならなかった。高町家に到着し中に上がるとリニスの紹介を終えたあと近況報告を行った。内容のほうはリニスのお得いの嘘八百で乗り切り桃子たちを納得させた。その姿にトレイン、なのはとユーノは感心していいのかあきれたほうがいいのか、複雑な表情で見つめていた。リンディが一度こちらにやってきて桃子たちに嘘をまじえた話で桃子たちを納得させていた以上にリニスは口が達者だった。(り、リンディさんよりすごいかも…。)なのはは苦笑しながらリニスを見ていた。一方桃子たちは意気投合したかのように楽しげな様子で会話をしていた。特に気にするほどの内容ではなかったのでトレインもだされたケーキと紅茶を口にしながら適当に聞いていた。現在、リニスが海外のほうへ用事がありそれにトレインが付いていくことを説明していた。「じゃあ、少しの間海外のほうへ?」桃子が驚くようにリニスに問う。「ええ、この子も私も行かなければいけなくなってしまって……もしかすると数ヶ月くらいかかるかもしれません。」「あらあら、でもこちらのほうには戻って来るということかしら?」「はい、貸し住まいという形ですけど近くで部屋を借りることになりまして。」リニスが言っているのは八神家であろう。間違ってもおらず本当のことである。「じゃあトレイン君の学校はどうなさるのかしら?」桃子がリニスに聞いた。このことはトレインが高町家にいたときから気にしていたことだった。桃子はトレインを養子にということまで考えていて学校のほうにも通わせないといけないと考えていた。トレインのほうとしてはいまさら子供と一緒になって学校に行くということは考えられなかった。桃子は言った。「もしこちらに戻ってくるめどが立ちましたらこちらに連絡していただければなのはの学校のほうに掛け合ってトレイン君の編入の手続きを進めておきますよ?」「え!?」さすがのトレインもこのセリフは流せなかった。トレインからすればその気は毛頭なかった。しかしすぐそばにいるなのはが呆然としていたがすぐさま嬉しそうな表情に変わり。「うん!!なのはもそれがいいと思います!!!」元気よくそう言い放ったなのはにトレインは呆然としていた。(おいおい、なにをいってんだよ?)「アリサちゃんもすずかちゃんも喜ぶと思うし……なのはもうれしいかな?」顔をすこし赤くさせながらいうなのはにトレインは心の中で突っ込んだ。(ちょいまて!!!おまえは俺が25だって知ってるだろう?)だんだんまずい方向へ話が進んでいることに一抹の恐怖を感じていた。「そうですね……。」リニスがうなりながら考えていた。トレインはリニスに念話で言った。(リニス、断っちまえ。)(ですが…。)(25の俺がいまさら学校になんか行けねーつーの!!!それに金はどうすんだよ?)(確かに…そうですね。)(なのはの学校は確か私立だ。金もかかる。そもそも宿なしの俺たちがそんな金を持っているわけが…。)トレインに冷たい汗が流れた。あった。トレインたちは持っていた。クロノから報奨金として渡されたお金が。リニスもそのことに気づいたようで「わかりました、その時になったらご連絡するので頼んでもよろしいでしょうか?」(おいっ!!!!)トレインのことを無視するかのごとく桃子に言うリニス。桃子も笑って快く了承する。ここでトレインの聖祥への編入が決定したのである。高町家での帰り道トレインは暗いオーラを背負っていた。「どーしてこの年で小学校なんぞに…。」夕焼けの景色がトレインの雰囲気とマッチしトレインの悲壮感を助長していた。リニスは特に気にすることもなく言った。「そんなことを言わすに通ってみてください。マスターにとっていいことだと思いますよ。」「いまさらガキと一緒の勉強ができるかってーの。」恨めしそうにリニスを見る。リニスはため息をつき一転真剣な表情でトレインに言った。「マスターの過去については私も知っています。ご両親を幼いころに亡くされ一人で生きていたことも。」「お、おう。」突然にリニスが真剣な表情に変わり少し面を食らったトレイン。「マスターは普通の子供が普通にすることをできずに大人になってしまいました。」「確かにな…そいつは否定しねえよ。けどそいつを後悔してはいねーぜ。その過去があるから今の俺があるんだからな。」トレインはリニスをしっかりと見据えて言い切った。リニスも黙って頷き「私もマスターの生き方を否定するわけではありません。ですがせっかくやりなおす機会が…できなかったことをする機会があるのですからそれをしてみてはいかかがですか?」「リニス…。」リニスは少しかがみトレインに視線を合わせる。「最終的な判断はマスターに任せます。マスターが嫌がることを私は強要できませんから…。」そう言って悲しげに視線を逸らす。そのようにばつが悪いように頭をかきながらトレインはしぶしぶ「……わかったよ。」「………。」「通ってやるよ、学校にな。」「…本当ですか?」「本当だ。」トレインははっきりとそう言い切った。するとリニスはこちらに視線を戻すと満面の笑みだった。「よかったですー。」「おい。」「じゃあ、さっそく編入試験の対策と…制服の準備を頼まないといけませんね。」喜々としながらスキップしていくリニスにトレインはおいてかれていた。リニス、フェイトやアルフを育ててきた彼女は誰かの親になることを強く望んでいたのであった。そして次の日「トレイン君お待たせ。」「おう、来たか。」トレインは駅のバスターミナルに来ていた。そこではやてと待ち合わせをしていたのだった。無断でいなくなったことを根に持っていたはやてに一日付き合うことになり、はやてに町を案内してもらうついでに出かけることになった。住んでいるところは一緒なのだから待ち合わせをする必要はないのだがリニスが変に気を使った結果こうなった。はやてのほうも乗り気でそれに同意したのであった。「私男の子とこうやって出かけるの初めてや。」はやてはすこし恥ずかしそうに言った。トレインは今までにリンスやキョウコといった面々に連れまわされた覚えがあるので初めてというわけではなかった。そしてサヤとも…(あいつとはデートって感じじゃなかったしな。)「トレイン君?」妙に落ち着いているというか心ここにあらずといったトレインにはやては首をかしげる。トレインはそれに気づきすぐにはやてに視線を向ける。「わりぃ、ちょっと昔のことを思い出してな…。」はやては不思議そうな顔でトレインを見つめていた。「昔のこと?」「ああ、「あ、悪い。ちょっと考え事しててな。」苦笑しながらトレインははやての車いすを握る手を強く握り駆け出した。「ちょ、ちょっとトレイン君!?」「せっかくの機会だしよ時間は有効につかわねーとな。」トレインたちは駅を中心に海鳴市を見て回っていった。特に特別なことをするわけでもないゆっくりと街を見て回った。そのトレインのポケットにはくしゃくしゃになった紙が入っていた。そこに書かれていたのは「リニス考案、らぶらぶデートの方法。」トレインにとって天地がひっくりかえっても実行することのない内容であったことをここに記す。昼食を済ませ、落ち着いてきたところではやてが行きたいと言っているところに行くことになった。「ここや。」「ここは?」割と大きめなきれいな建物であった。トレインがまじまじと見ているとはやてが言った。「ここは私がよく来ている図書館なんや。」「と、図書館…。」本の一冊目の目次を見ただけで音を上げてしまうトレインにとってまさに無縁の場所であった。顔をひきつらせているトレインにはやてが顔を覗き込む。「どうしたん?トレイン君?」「い、いや。俺にとってはあまりにも無縁の場所だからよ。」「なんや、トレイン君は本は読まんの?」「…目次見ただけで駄目だな。」そんなトレインの言葉にしかたないといった感じではやては言った。「ならええ機会や、今日は一冊何か借りてくで。」「げ!?」「拒否はさせへんで。」いじわるっぽい笑顔でトレインにそう告げた。中に入ると少し埃っぽい臭いが立ち込める静かな空間が広がっていた。トレインは騒がしいところが好きなわけではないがこの何とも言えない空間は苦手だった。「うへぇ~。」「もう、そんな顔せんで本を見るで?」はやてにうながされ中を進んでいくとそこにはどこか見覚えのある人物がいた。「と、トレイン君?」紫色の特徴のある長髪をしているおとなしそうな少女。「すずかか。」月村すずかがそこにいた。「わたしは八神はやてです。よろしくなすずかちゃん。」「えと、わたしは月村すずかです。よろしくね。」互いに自己紹介を終え二人とも向き合いトレインに聞いた。「「トレイン君、どういう知り合いなの?(んや?)」」ちょっと戸惑いながら二人を見据え「すずかは前に居候してたとこの友達で、はやては今俺が居候してるんだ。」にじり寄ってくる二人に多少の恐怖を感じつつ説明をした。それを聞いて二人は一息つき互いに向き合った。「すずかちゃん…でええかな?」「うん、わたしははやてちゃんで…。」「すずかちゃんはよくここに来るん?」「うん、私も本を読むのが好きだから、休日とかはよくここにきてるの。」互いに本好きなせいか会話も弾んでいた。その様子をみてお邪魔かなと気を利かせてふりをしてその場から立ち去ろうとするトレインを見逃すほどはやては甘くなかった。「まちや、どこに行くんやトレイン君?」「い、いやおれはお邪魔だろうと思ってな。」「そんなこと言って本を読むのがいやなんやろ?」「え?トレイン君は本が嫌いなの?」すずかが意外そうに尋ねた。「いや、嫌いってわけじゃ…。」悔し紛れに言った一言だったが「すずかちゃん、一緒にトレイン君のための本を探すで。」「うん。」普段おとなしいすずかもなぜか乗り気であった。本好きにとってトレインのような存在は許容できない者らしい。デート!?から帰ったトレインは八神家の自室に戻りくつろいでいるといきなり目の前にモニターが現れた。「いきなりごめんなさい。」「ほんとにいきなりだな。」目の前に現れたモニターに映っていたのはリンディだった。「んで?なんかようなのか?」「特に緊急というわけでもないのだけれど……プレシアが明日にでも護送されることになったの。」プレシアという言葉をきいてトレインは表情を引き締めた。あの戦いからまともに会話もしていなかったので彼女がうまく踏ん切りがつけられたが気になっていた。リンディはそのまま言葉をつづけた。「それで護送される前に一度あなたと話がしたいと言っているの。」「俺と?」「ええ、今から20分ちょっとでそれほど時間は取れないのだけれどどうかしら?」「問題ねーよ。」「わかったわ、今から彼女のほうに通信を切り替えるわね。」リンディがそういうとモニターは一瞬ジャミングがかかったようになったがすぐさま画面が切り替わりそこにはかつての大魔導師が映っていた。「ずいぶんと顔色がわりーな。」「そうかしら?これでもここ最近ではずいぶんましになったのだけれど?あなたのほうは相変わらず見たいね。」あってそうそう憎まれ口のようなものを言い合いお互い苦笑する。「あんたが話をしたがっているってきたけどよ、なんか用か?」「ええ、あなたのことを詳しく教えてほしいの…あなたが死なせてしまった親友のことを…。」プレシアは真面目な表情でトレインを見据え言った。トレインもいつもの緩い表情ではなく厳しい表情をしていた。「わかった…、あんたにはこいつを聞くだけの権利はありそうだからな。」「ありがとう。私としても気になるのよ、私と同じと言っていたあなたがどうやってそうなれたのか。」そしてトレインは淡々と口を開き話していった。幼少時代の両親の殺害。生きるために銃を手に力を必死に求めたこと。そして組織に拾われ抹殺者として生きてきたとき。自分を変えるきっかけになった親友との出会い、別れ。親友を殺したパートナーとの決着。プレシアは口をはさむことなく黙って聞いていた。そしてすべてを語り終えた。「強いわね、あなたは。」「そうか?俺はやり方を貫いただけだ。」実際トレインは自分とプレシアは紙一重の差だと感じていた。自身も復讐にかられていた時期もあった。「私にはあなたのような生き方はできなかった。」「んな悲観することもねーだろ。今からでもやり直しはできるだろう?」「ふふふ、そうね…。」自嘲気味にプレシアがつぶやく。トレインはため息交じりにその様子を見ながら口を開いた。「あんたがどう思ってるかは知らねえけど、生きている限りどうにでもなるはずだぜ?」プレシアは相変わらず自嘲気味な笑顔を浮かべたままだったが少し表情が明るくなった。「わかったわ少しは前向きに生きてみせるわ。………あなたは聞かないのね?」「何をだ?」「フェイト達のことを。」トレインはプレシアの口からその言葉が出るものとは思っていなかった。「あんたからあいつらのことを話すとは思わなかったな。」「そうね…正直今でもあの子を見ていると穏やかではいられないわね。」「さりげなく物騒なことを言うな。」「で、あなたはどうして聞かないのかしら?」トレインは頭をかきながらめんどくさげに答えた。「どんな人間にしろ好き嫌いはあるもんだろ?家族だから、親子だからって好きでなくちゃいけねえってわけでもねえ。俺は誰かを好きになれ、やさしくしろなんて無責任なことも言えねえしな。」「……。」「俺から言えるのは……一度でいいからフェイトとゆっくり話をしてみろってことだな。」「話…。」「あんたはあいつにアリシアの影を重ねてみてきた。今度はあいつをフェイトとして話をしてみな。それからの判断はあんたがすることだ、誰も非難する権利はねえはずだ。」少しの間互いに口を閉じたままだった。そして指定された時間が迫っていた。「あなた…アリシアに会ったの?」トレインはふと顔をあげプレシアを見た。プレシアが言っているのは最後の攻防でトレインを支えていたアリシアの幻のことだろうと思った。「ああ、あんたにやられたときにな。現実かどうかは知らねえけど。」「あの子は……優しかった?」トレインはその問いに頷き「死んじまってるのにあんたや妹のフェイトのことを心配してたぜ。」「そう……。」そして時間も残り僅かになりプレシアがトレインに聞いた。「あなたはこれから管理局に属するつもりかしら?」「いや、そのつもりはねえな。組織に縛られたりするのは俺の性にあわねえしな。」「ここの艦長は残念がっているでしょうね。」確かにリンディとしてはかなり残念だった。「でもここまで魔法にかかわってしまったあなたが管理局と無縁でいられる保証はないわ。これは恩人の…いえ友人のあなたに言える私からのアドバイスよ。」友人ということばに面食らったがプレシアの真剣な表情に気を引き締めた。「管理局は絶対の正義ではないということよ。あなたは分かっているかもしれないけど管理局の闇はかなり根深いわ、気をつけなさい。」「ああ、肝に銘じておく。」「いろいろあったけどあなたという人間に会えてよかったわ。」「そうか…。あんた達の裁判の証言でおれもそっちに行くからよまた話相手位にならなるぜ?」「ありがとう。それじゃあ、またいつか…。」それだけ言ってプレシアを映していたモニターは消えた。そしてその十日後フェイトの護送とともにトレインはミッドチルダ行きが決まった。