庭園の崩落をアースラ内部で見守るトレイン、なのは、ユーノの三人だった。プレシアはアースラに収容されるとともに拘束された。本人にはもはや抵抗の意思はなく黙って拘束されていた。フェイト達も同様だったがそれほどきついものではなく監視されることには変わりはないが拘束されるほどではなかった。フェイトとプレシアは別々に収容されることになっており、フェイトはプレシアになにか言いかけるが口にすることができずにいた。「ようやく終わったか…。」トレインが一息つきながら呟いた。「うん。でも終わりだけじゃないよ。」なのはがユーノの肩を借りているトレインに言う。おそらくフェイトのことを思いながら目をつむる。「そうだな…。」トレインも微笑みながらそう答えた。すると事後処理を終えたのかクロノとリンディが現れた。「待たせてしまったね。」「ごめんなさい、三人とも疲れているところに。」「できれば手短に頼むぜ?」「それは君の態度次第だな。」クロノはトレインに毅然と言い放つ。それに対してなのは、ユーノは表情を厳しいものに変えた。「三人とも本当に御苦労さま。あなたたちがいなければ自体はもっと深刻なものになっていたかもしれないわ。」リンディが感謝の言葉とともに頭を下げる。「そ、そんな私たちは大したことはしてません。」「そうです、僕らは僕らの意志であなたたちに協力したんです。」なのはは恐縮しながら、ユーノは堂々とした態度でリンディに答えた。そんな二人にリンディは笑みを浮かべていた。トレインはそんな二人の様子をどこかおかしそうに見ていた。「僕からも礼を言わしてもらうよ。特にトレイン・ハートネット、君の行動がなければプレシアの狂行は止められなかった。」クロノがトレインに目を合わせそう言った。すると「………。」「………。」「………。」トレインを除く三人が豆鉄砲でも食らったような表情に変わる。「ど、どうしたんだい?みんな変な顔をして?」いまいち状況を把握しきれないクロノは戸惑っていた。そしてトレインは「ははははははははははっ!!!!」「な、なんだいいきなり笑いだすなんて。」突然笑い出した。「いや~、お前からそんな言葉をもらえるとは思ってなくてよ。どうせお小言ばかりもらうとばかり思っててよ。」「な、僕は事実から鑑みてそう判断して思った事を言っただけだ。」「クロノ君はいつも素直じゃないからね。」後ろからエイミィが現れくすくすと笑っていた。クロノはおもしろくないといわんばかりにそっぽを向いてしまった。とりあえずクロノは置いておきトレインはエイミィに声をかけた。「あいつは……リニスはどうだ?」そう、戦いの中で自分をかばい倒れたリニスのことがトレインの中では気がかりだった。エイミィは安心させるように笑いながら「大丈夫、ダメージはあるけど機能不能になるほどじゃなかったからもう少ししたら意識も取り戻すと思うよ。」「そっか…。」トレインは安心したように一息つく。そこでなのはが恐る恐る手をあげ聞いた。「あの~、トレイン君が言っているリニスって?」「そういえば、そんな名前聞いたこともないけど?」なのはとユーノがトレインに問いかける。トレインがどう説明したものかと考えているとリンディとエイミィ、そっぽを向いていたクロノまで寄ってきたいた。「エイミィ、リニスとはなんだい?」「え~と、一応トレイン君のデバイスだね。」「えっ!?トレイン君デバイスを持ってたの?」「まさか!?そんな気配は全くしなかったはずだけど…。」「そういえば入手について詳しい経緯は聞いていなかったわね。」五人からの追及に逃れられそうにないと判断したトレインはことの経緯を説明した。「ユニゾンデバイス…。」ユーノは難しそうな表情で唸っていた。なのははそんなユーノに「どうしたのユーノ君?ユニゾンデバイスがなにか問題でもあるの?」「簡単に言うとユニゾンデバイスは融合機と呼ばれる特殊なデバイスと融合することで飛躍的にパワーアップするものなんだ。ただ、ユニゾンデバイスというもの自体希少なもので使い手も少ないんだ。」事実管理局内でも現在ユニゾンデバイスの使い手はいない。ユーノにクロノが続く。「しかも適正が低く、デバイスとの意志の疎通ができていない状態でユニゾンすると最悪の場合使い手デバイスに取り込まれる可能性もあり大変危険なものだ。」「でも、トレイン君はリニスさんとの適正が高かった。結果、この場にいる誰よりも高い魔導士ランクを出したの。まあ調整不足で短時間でユニゾンは強制解除されちゃったけど。」とエイミィが説明した。「でも信じられないわね。使い魔の魂が残留思念として残りデバイスとして生まれ変わるなんて。」リンディはふぅーと一息つき言った。「まー詳しいことは俺もよくわからねえからなんともいえねぇけどな。」実際はサヤとのこともあったがここではあえてトレインは言わなかった。説明すれば余計ややこしくなりそうだったからだ。「とりあえずトレイン君たちはゆっくりと体を休めなさい。まずはそれからよ。」リンディが仕切り直しと言わんばかりに三人に言った。「そうだな、特にトレイン。君はどう見ての満身創痍だからな。」「ならすぐに休ませてくれよな…。」苦笑しつつトレインは呟いた。そして三人には休憩用の部屋があてがわれ、トレインは治療を行うということで医務室のベッドがあてがわれたのだがトレインは微妙な表情で天井を見ていた。そんなトレインにエイミィが笑いながら聞いた。「どうしたの?なんか不満でもあるの?」「お前…絶対わざと聞いているだろ?」「え~、そんなことないよ~。」その言葉と裏腹にエイミィの表情はとてもイイ表情だった。トレインは声を少し荒げながら言った。「治療するのはいいとしてなんで一つのベッドを二人で使わないといけないんだよッ!!」そしてトレインが指さすところには「マスター、そんなに私と一緒のベッドが嫌ですか?」「あ、あああ。そういうわけじゃねえけどよ。」先ほどの話題の中心であったリニスがいた。「お前、フェイトやアルフに会わなくていいのか?」トレインはリニスに聞いた。聞いた話ではアルフやフェイトにとってリニスは育ての親に近いものだった聞いていたのと、リニスが心の残りといていたのはフェイトのことだったことから当然すぐにでも会いに行くと思っていたのだがリニスはそうはしなかった。「今はまだ……とりあえずプレシアも止められましたしフェイトもこれ以上傷つくこともないですし。まずはマスターの体が治ってからでもいいでしょう。」「別に気を使わなくてもいいんだぜ?」「いいえ、これは私の意志ですから。それに……。」リニスはトレインから視線を外しトレインからは顔色がうかがえなくなっていた。どうしたのかとトレインは少し心配になった。「それに、なんだ?」「私はフェイトやアルフは育ててきましたけど…男の子の面倒を見てみたかったんです。」「へ?」一瞬間の抜けた表情になったトレインだがこちらに顔を向けてきたリニスが見たことのないイイ笑顔だった。そして起き上がり手をワキワキさせ迫ってきた。「夢にまで見た男の子……。」「っておい!!!セリフだけ聞くと軽く犯罪者だぞ!?こっちに来るな!!」必死に逃れようとするトレインだったが狭いベッドのうえダメージからまともに体が動かなかった。なおもリニスは近づいてくる。「マスター、マスターは私のことをデバイスではなく相棒(パートナー)と言ってくれました。私もそのご期待にこたえたいと思いまして…。」なぜかうっとりするように呟くリニス。よくも悪くも彼女は母性本能が高い女性のようだった。ある種過保護なまでの。「ちょ、ちょいまて!!!ってエイミィお前どこに行くんだ?」「いや~、お邪魔しちゃ悪いと思うから私はこれで退散するね。」「御協力ありがとうございます。」「きょ、協力?は、図ったなエイミィ!?」医務室のドアが閉まるとトレインに断末魔のようなものがこだました。一方、リンディとクロノはトレインの戦闘記録を見ていた。「どう思うクロノ?」「……正直敵でなくてよかったと思います。」クロノはスクリーンに映し出されたトレインの姿を見て言った。リンディも同様なのか一息ついた。「ユニゾンの適性も高いというのも彼の資質だけれど、本当にすごいのは戦闘技能と身体能力の高さね。」「はい、実際彼の魔力量、魔法資質は平均以上ですけどなのは達のようなトップレベルと比較すると見劣りします。」「それでもなおなのはさんたち以上のランクを出しているのは彼の技能、魔力の運用、的確な状況判断能力。」クロノは黙って頷いた。まさに彼の戦いぶりはクロノ自身が目指しているものだった。魔力量では圧倒的に劣るプレシア相手に互角以上の戦いを演じていた。おそらく自分が戦って負けるつもりはないがはたして勝てていたかどうか。なのはやフェイトにしても同様だろう。「艦長、おそらく彼は生身の状態でも管理局のトップクラスのレベルの戦闘能力をもっていると思います。」「そうね。これでユニゾンも安定してくれば間違いなく管理局でも五指に…いえトップの実力者になることは間違いないわね。」陸戦SS+トレインが戦闘の中で出した魔導士ランク。飛行能力を持たないというハンデあるもののまともな空戦魔導士では歯が立たないレベルだった。「なのはさんたちじゃないけどこのままうちに来てくれないかしらね?」自嘲気味につぶやく。「それは難しいと思います。彼は組織に属することを毛嫌いしているようですし、彼らは高ランクの認定を受ければ全員は間違いなくうちではあずかれないです。」一つの艦や部隊で保有できる魔導師のランクや人数はバランスをとるために規定が定められている。なのはやトレインをこのアースラに加えることはあきらかな過剰戦力とみなされることは間違いなかった。なのはたちは食堂にきて軽い食事をとっていた。「ユーノ君。」「どうしたのなのは?」二人は特に目立ったけがなどはなく与えられた自室で休んでいた。少し休むと空腹が襲ってきたのでユーノと食堂まで来ていた。トレインも誘おうと思ったが彼の状態を考えてもう少し休ませたほうがいいという配慮から遠慮した。なのはユーノに不安げに聞いた。「フェイトちゃんたちはどうなるのかな?」「……僕も法律にそれほど詳しいわけじゃないから何ともいえないけど、次元干渉に関する犯罪はかなり重い罪になるとおもう。」ユーノも心ぐるしいように言った。それを聞いたなのはは落ち込むように食事の手を止めた。「そんな……。」「でもフェイトに関しては情状酌量の余地は十分あるはずだよ。きっとそれほど重い罪にはならないと思うよ?」なのはを元気づけるようにユーノは明るくなのはに告げる。その言葉になのはも頷く。「そうなるといいね。」「なのは…。」(フェイトちゃん、どうしてるのかな?)結局アースラに戻ってからは彼女と一度もあっておらずフェイトのことがどうしても気になっていた。管理局としても重要参考人であるフェイトを簡単に面会させたりするわけにもいかなかった。そのフェイトはアースラの奥にある牢にいた。隣にはアルフが心配そうにフェイトのことを見ていた。フェイトはいろいろなことが立て続けにあり精神的に疲れてしまったこともあったが今は張り詰めていた糸がようやくゆるめることができ放心しているという状態だった。「フェイト…大丈夫かい?」「うん、大丈夫。少し疲れてるだけだから。」そうフェイトが答えるとアルフは驚いたように目を見開いた。そんなアルフにフェイトは首を傾けていた。「どうしたのアルフ?」「久しぶりに聞いたよフェイトのそんなセリフ。」アルフはどこか嬉しそうな表情で言った。フェイトも苦笑した。「うん、そうかもね。」ここにきて今までの疲労感が襲ってきたという感じだった。がむしゃらにジュエルシードを集めている時は弱音を吐いている余裕もなかった。一度だけ、トレインにお見舞いに来てもらったときくらいだった。ふとフェイトの頭の中にトレインのことが思い浮かんだ。「トレインは…トレインは大丈夫かな?」フェイトはふとつぶやいた。アルフもそれに反応して口を開いた。「トレイン?ああ、あいつなら大丈夫だよ。あのおにばば…じゃなかったプレシアの攻撃をくらって生きてたんだ。さっきも平気そうだったじゃないか?」アルフはあっけらかんと言うがフェイトはトレインがプレシアと戦っていると聞いて気が気でなかった。確かにトレインは強い。だがバリアジャケットも生成できない彼では母と戦ってただで済むとは思えなかったからだ。しかし彼は母に勝った。両者ともにボロボロであったがトレインは最後の最後まで己の信念を貫いた。アルフも内心では不安だった。プレシアとの戦いで自分が余計な手を出し彼を窮地に追いやり生命の危機まで追いやってしまったという後ろめたさがあった。だがアルフには彼ならどうにかしてくれそうな空気を感じ取っていた。どんな状況であろうと活路を見出そうとする強い意志を感じた。そしてアルフは言った。「今回はあいつには感謝しきりだね。」「そうだね。いろいろと助けてくれた。」フェイトは頭を、トレインが撫でてくれたところを触れた。時間がたちぬくもりが残っているわけではないが手の感触は思い出せる。「じーっ…。」アルフがフェイトを凝視している。それに気づいたフェイトは戸惑いながら問いかける。「ど、どうしたのアルフ?」「フェイト……最近そうやってることが多い気がするんだけど?」「そ、そうかな?たぶん癖だよ、うん。」ごまかすように自分で頷く。しかしアルフは言う。「ふ~ん、そっか。てっきりトレインの奴のことが好きにでもなったかと思ったよ。」ぼっ!!!!!!!!!!!!フェイトはまるで顔だけ沸騰したように真っ赤になった。それを見たアルフは「え?本当なのかい?」「//////////」フェイトは何も言えなくなっていた。(どうしてこんなに熱くなるの?どうしちゃったんだろう?)そして自身の反応に戸惑っていた。「あいつか~、悪くはないとは思うけど…。」なぜかアルフが唸っていた。顔色が落ち着いてきたフェイトは不思議そうにアルフを見る。「いや、あいつが悪いとかいうわけじゃなくてね。フェイト、あいつの本当の姿を覚えてるだろう?」「うん。」フェイトは青年の姿をしたトレインを思い出す。(ダメっ!!!なんかまた顔が熱くなる。)アルフはそんなフェイトに気がつくことなく話し続ける。「ユーノとかの話を聞くとあいつは本当は25歳らしいんだよ。」「え!?」「だから年齢差を考えると少しね~。」苦笑しながらアルフが言った。フェイトは特に気にすることなく(年齢差ってそんなに問題なのかな?)このときのフェイトの疑問がのちのちトレインにあらぬ疑惑を生むことになる。しかしフェイトにとって気になるのはトレインのことだけではなかった。なのはのこともあった。庭園内ではまともな会話もできずに終わってしまった。フェイトのなかではなのはの一言が頭の中によぎっていた。(友達に……なりたいんだ。)「友達…。」いままで同世代の人間とのかかわりがなかったフェイトにとって新鮮なものだった。どう接していけばいいか、どうやったら友達になれるかという不安もあるがフェイトもなのはともっと話がしたいと思っていた。トレインとの関係も含めて…。フェイトもまだまだ10歳にならない子供だった。同世代の子どもといろいろな話をしてみたいという願望はあった。ジュエルシードを探している中でも自分と同い年くらいの子どもが楽しそうにしているのを見ていた。最初は気にはならなかったが、なのはやトレインたちと接するようになってから気になるようになった。そして自分もあのような友達がほしかったのだと気づいたのである。最後は母親…プレシアのことだった。最後に自分の思いのたけを告げた。そしてプレシアは一言だけ、勝手しなさいと言った。母は自分を否定しなかった。だが肯定したとも思えない返答だった。(もう一度、もう一度だけ母さんと話がしたい。)過去と決着をつけるためにもフェイトは母との会話を再び望んでいた。二日がたちトレインはナノマシンの回復力、リニスの献身的な!?治療のせいか驚異的なスピードで回復していった。クロノはトレインが休んでいる個室にやって来ていた。コンコンコン「失礼させてもらうよ。」クロノはノックをしてトレインの個室に入っていった。すると怪我は治っているはずなのに顔色が悪くげんなりとしているトレインがいた。その様子に若干引き気味クロノは聞いた。「ど、どうしたんだい?けがのほうは治ったと聞いていたんだけど…。」「あ、ああ。クロノか…。」どこか憔悴しきっているようにトレインはクロノに反応した。その様子はとてもプレシアと激戦を繰り広げた男とは思えなかった。「え、エイミィの野郎が図ってくれてな。」「エイミィがかい?」クロノとしては合点がいかなかった。トレインとエイミィがそれほど接点があるわけでもないしエイミィはここ二、三日は残務の処理でクロノを手伝っていた。トレインはうつむき加減で唸るように「あいつの手はずのおかげでこっちはガキの世話のような手厚い看病を受ける羽目になったからな。」「そ、そうか。」「あんな看病は二度とごめんだ。」トレインは冗談ではなく本気でそう思っていた。その様子からクロノとしても多少同情的になった。トレインのいる部屋からは断末魔のような声が鳴り響いていたのはクルーの口から伝え聞いていた。「まあ、怪我のほうも順調に回復しているようでなによりだ。」「まあな。んで?俺になんか用か?」落着きを取り戻したトレインはクロノに聞いた。するとクロノも表情をしめなおして切り出した。「とりあえず礼を言っておくよ。今回の件についてのプレシアやフェイト達の処遇についてだ。」「……。やっぱり厳しいか?」トレインが真剣な表情でクロノに問いかける。クロノはそれに黙ってうなずく。「正直な話、楽観視できる状況ではないね。特に次元干渉に関しての事件はかなり罪は重い。フェイトたちは事実を知らされずジュエルシードを集めていたということから監視はつくかもしれないが保護観察という形にはできる。けど…。」そこでクロノはいったん言葉を切る。トレインも覚悟はしていた。おそらくプレシアはクリードほどではないにしても大きな罪を犯したということは分かっていた。「プレシアに関しては極刑は免れることはできるかもしれないが厳しい処罰を与えられることは間違いないと思う。」「そっか。しょうがねぇよな。」自嘲気味に笑うトレイン。クロノとしてはもっと食ってかかると思っていた。「意外だな、もっと食ってかかると思っていたんだがね。」「これでも一応は組織に属してた人間だ。それにあいつがやってきたことを否定したのは俺も同じだ。しかるべき罰を受けるのが普通だろ?」「そうだな……。あ、あとこれを君に渡そうと思ってな。」クロノは懐から封筒をトレインに渡した。トレインはそれを受け取り中身を確認するとそこには紙幣が二束入っていた。「こいつは?」「君に言われたとおりの報奨金だ、紙幣はなのはの世界のものにしておいた。それは前金だと思ってくれ、今回の君の働きを考えればその程度で済まないだろう。」確かに今回の一件は並みの犯罪者のレベルではなかったことから報奨金も億クラスであってもおかしくないがトレインは笑い。「こいつだけで十分だ。」「え?」「これ以上は俺のポケットには大きすぎるわ。」「だが君が望むのであればこちらとしてももっと用意できる。」トレインは首を振り「んな金があんならやられた隊員やクルーに使ってやれ。俺はこいつで十分だ、それに金のために掃除屋をやってるわけじゃねえしな。」「………わかった。君がそう言うなら僕からは何も言わない。」そこにリンディがトレインの部屋に入ってきた。「あら?クロノも来ていたの。」「艦長、では僕は失礼させてもらうよ。あとは艦長から話があるはずだ。」そう言うとクロノはさっさと部屋から出て行った。リンディはそれを見送るとトレインに話しかけてきた。「特になんにもなかったようで安心したわ。」「ん?ああ、あのときは状況が状況だったしな。俺は別にあいつのことは嫌いじゃねえし、あいつとしても譲れないもんがあっただけだろ。」「そうね。そうかもしれないわね。」「んで?あんたも俺に話があるんだろう?」そう言われリンディのほうも話し始めた。「クロノからも聞いたと思うかもしれないけど、アースラ艦長として時空管理局として今回の一件についてはお礼を言わしてもらうわ。」リンディは深々とその場で頭を下げた。「そんなことしなくていいぜ?俺はしたいように行動しただけだ。」「結果として事件解決につながったことには変わりはないわ。あなたの行動力は認められてしかるべきよ。」トレインは恥ずかしそうに鼻をかきつつ笑った。リンディも表情を緩ませ、トレインに切り出した。「今回の一件の裁判を私たちの世界ミッドチルダで行うのでフェイトさんたちの身柄そこに移送されることになるの。それにあなたもついて来てもらいたいの?」「俺もか?」「ええ、一応事件解決の立役者だし何よりあなたの証言が裁判で必要になるの。」トレインは事件の途中からとはいえ渦中にいた人間には違いない。特に今回の事件の背景をよく知りプレシアとの接触をしてきた人間として法廷で彼の証言は重要になるだろう。「それにあなたの今後の身の振り方を考えるとこちらに来てもらったほうがいいと思うの。」リンディが言うのはもとの世界に戻るということだ。しかしこれといった手掛かりがない以上トレインとしてはのんびりと構えながら待つつもりだったので見つかったら連絡をもらえないかと思っていた。「まあ、証言するのは別にかまわねえよ。」「そう、良かったわ。話は変わるのだけれどトレイン君、あなたは時空管理局で働いてみる気はないかしら?」リンディの言いたいことはある意味こちらのほうだった。今まで戦闘記録からトレインの実力は申し分ないほどだ。もしかすると管理局始まって以来の実力者かもしれない。そんな人材を逃すのリンディとしてはできなかった。管理局は優秀な武装隊員の数が慢性的に不足気味で特に隊長格以上の実力者はほんの一握りしかいなかった。またユニゾンデバイスと高い適正を持つトレインは管理局でも希少な存在だった。しかしトレインはそれをよしとしなかった。「悪いがそいつはできねえな。」リンディはある程度予想していたのかやはりという表情をしていた。しかしそれでもあきらめきれるものではなく食い下がる。「どうしても?」「ああ。俺は一度、野良になったんだ。いまさら飼われる気はねえさ。」「………。」「それに猫は自由に生きる生き物だぜ?」それだけ言うとリンディは黙り、深いため息をついた。「わかったわ。それがあなたの意志であるなら仕方ないわ。」「そういってくれると助かるわ。」「あとリニスさんのことについてはどうするつもりなのかしら?」そう、リニスとのこれからについては考えていなかった。便宜上リニスはトレインのデバイスであるが本来はプレシアの使い魔だ。それにフェイトのことも考えるとトレインとしてはリニスはフェイト達のもとにいたほうが考えていた。だがそれを決めるのはトレインではなくリニス本人だとトレインは考えていた。「俺はどうもしねえ。どうするかを決めるのはあいつの意志だ。」それだけ言うと扉が開き「では、私はマスターのそばにいますよ。」笑顔でリニスがそう答えた。手には昼食らしきものを持っていた。「リニスさん、それはトレイン君のデバイスになるということかしら?」リンディがそう言ったがリニスは首を振り笑顔で言った。「いいえ、私はマスターのデバイスではなくパートナーです。お傍について一生お世話をいたします。」「お前は……意味を履き違えられると困るんだが…。」トレインはげんなりといった感じでリニスに言った。リンディはその様子を見て笑いながら部屋を出て行った。リンディが部屋を出ていきトレインはリニスに聞いた。「お前はいいのか?」「何がですか?」「フェイト達のことだよ。お前の心残りはフェイト達のことだったんだろう?これから会うことになると思うけどよ、一緒にいたいんじゃねえのか?」「確かにあの子たちのことが気にならないと言ったらウソになりますけど、あの子たちが前に進むためにも私はそばにいないほうがいいんです。」トレインとしてはそこまで言うのであればこれ以上なにか言うつもりはなかった。「わかった、ならこれ以上は何も言わねえよ。お前の好きにすればいいさ。」「はいっ!!!」翌日。なのはとユーノそしてトレインとリニスは海鳴市に戻ることになった。不安定だった次元もかなり安定してきたのとトレインの状態がかなり良くなったからだ。ユーノは仲間との連絡が取れるまではなのはのところで世話になることになった。リンディ、クロノ、エイミィが四人の見送りに来ていた。「四人とも元気でね。」「はい、リンディさんたちもお元気で。」なのははしっかりとお辞儀をしてリンディに答える。そしてクロノがなのはたちが気にしていたフェイトのことについていった。「フェイト達のことに関してはまかしてくれ。無罪はにはできないかもしれないけどできる限りの手は尽くしてみる。」「あ、ありがとう。」なのはは笑顔でクロノにお礼をいう。それに顔を赤くするクロノとおもしろくなさそうにするユーノだった。トレインはそれを面白そうに見ていた。すると今度はリンディがトレインに向きなおった。「トレイン君、裁判の準備ができ次第すぐ連絡を入れるわ。そう時間はかからないと思うけどその間はそっちでゆっくりしておいて」「OK。とりあえずのんびりしてるわ。」そしてエイミィがトレインとリニスのそばに寄ってきた。「ゆっくりと休んできてねトレイン君?」「おめーの仕打ちは忘れねーからな。」「やだなーちょっとした冗談だよ?」エイミィはくすくすと笑っていた。「あと、リニスさんの調整をしたけど今後も定期的なメンテナンスが必要になると思うけど…。」「それに関しては心配無用ですよ。私はデバイスの扱いにも長けているつもりですからメンテナンスも自身で行えます。」「そっか、なら大丈夫だね。」するとクロノもそのれ加わり「正直リニスのことに関してもいろいろ言及したいのだけれど君も彼女もデバイスではないと言い切るのであれば僕からなにも言うことはない。彼女のことに関しては僕が何とかして見せるよ。」「ああ、ありがとな。お前も頑張れよ、期待してるぜ?」それだけ言ってトレインは転送ポートに向かった。リンディたちは四人に対して手を振りながら見送った。転送先はクロノ達と最初にあった場所だった。時間はちょうどお昼前といったところだった。「さて、ようやく戻ってきたわけだな。」トレインがホット一息つくように言った。「そうだね。トレイン君はこれからどうするの?よければうちに……お母さんも喜ぶと思うし。」「う~ん、せっかくだけどまずは戻らねーとまずいところがあるからよ。」「そういえば僕らと別れたあとどこにいたんだい?」ユーノがトレインに問う。リニスも今後のことをトレインから聞かされていなかったためどうするのかは気になった。「あー、居候してるところがあるからそこにいったん顔を出してくるわ。プレシアのところに何にも言わずに行っちまったからな。」「そうなんだ…。」少々残念そうな顔をするなのはにトレインは「すぐ近くだからまたすぐにでもそっちに顔を出すぜ。それに俺はすぐにフェイト達の裁判の証言台に立たねーといけないからのんびりもできないからな。」「そういえばそうだったね。本当なら僕が言ったほうがいいと思うんですけど…。」「まあ、今回の背景を詳しく知ってるのは俺とこいつくらいだから。お前がわざわざ出る幕もねーさ。」そして公園の入り口近くで四人は互いのパートナーをごとに分かれた。「じゃあ、また今度。」「ああ、こっちの用事がすんだら翆屋にも顔出すから桃子たちによろしく言っておいてくれ。」「うん、リニスさんも…。」「はい、マスターと一緒に遊びに行かせてもらいますね。」リニスは笑ってなのはに答えた。なのはもそれに答えるように笑顔で答えた。そしてそれぞれの帰路についた。「マスター、居候している家のかたはどんな方なんですか?」「なのはと同い年くらいのガキだな。ジュエルシードの暴走でボロボロになった俺を看病してくれてよ、そいつも親なしらしくて俺にここで暮らせばいいっていいだしたから少しの間世話見なったんだ。」トレインはのんびりと後ろに手を組みながら説明した。正直な話何も言わずに出てきてしまってお人好しのはやてを心配させてるだろうと思っていた。「それでは心配なさってると思いますよ。」「まあな…。」それ以上にリニスのことをどう説明するかを考えていた。「私のことは親戚のものだと言っておけばいいでしょう。」「うまく口裏合わせねーとな。」そのまま歩みをすすめ八神家に到着した。そしてドアを開き中に入った。「おーっす今戻ったぜ。」シーーーーーーーーンッ静まり返る八神家に不気味さが漂っていた。「ご不在なのでしょうか?」「いや、でも鍵はあいてたぜ?」二人で不審がっていると急に物音がしてこちらに近づいて来ていた。バンッ!!勢いよくドアが開きそこには息を切らせながら車いすに乗っているはやての姿があった。「はぁ、はぁ、はぁ、トレイン君…。」「わり、ちょっと出かけてたわ。」その辺を散歩してきたように軽い感じで答えたトレイン。はやてはトレインに近づき腰のあたりに抱きつくように顔をうずめた。「は、はやて?」「…っ、ひぐっ、バカ…。」「へ?」「ばかっ!!!私がどんだけ心配したと思ってんの?」トレインのことを見上げると目に溜めた涙がこぼれおちていた。子どもとはいえ女に泣かれることはトレインは苦手でどうしていいか分からず戸惑っていた。はやてはそのままトレインにしがみつき放さなかった。「はやて…。」トレインはそんなはやてのあたまをなでた。はやても落ち着きだし一言だけ「お帰り…トレイン。」