壁に寄りかかるように気を失っているトレインは死んだように動かなかった。数えるのがいやになるほどの裂傷の数々、ところどころ破れている服。もはや誰もがトレインの敗北を悟っていた。「ようやくよ、ようやく悪夢が覚めるのね。」プレシアは庭園内にある魔力炉の魔力もジュエルシードに注ぎ込んでいた。プレシアも無傷とは言えない状態だったがそんなことは気にならないほど歓喜していた。長年の思いがようやく成就されようとしていたのだから。「もう誰にも邪魔はさせないわ…。」一方のアースラでもトレインの様子は確認していた。その惨状にどのクルーも顔をゆがめていた。リンディはうつむき加減に立っていたが顔をあげ動き出した。「艦長?」クルーの一人がリンディに呼びかけた。リンディは立ち止まった。「どこに行かれるのですか?」「私は私のほうで手を打ってみるわ。ここまでトレイン君はよく時間を稼いでくれたわ。」リンディは正直な話ここまで彼がやってくれるとは思わなかった。相手は大魔導師と呼ばれた人物。かたや相手は資質、技能は非凡なものがあったが質量兵器しか持たない少年。いや、青年。どれだけの実戦経験を積んだであろう武装隊の局員もできないようなことを彼はやってのけた。彼がいなければもっと早い段階で緊急事態になっていただろう。「かれのおかげでプレシア・テスタロッサもかなり消耗してきたはずよ。今ならどうにかして手を打てるはず。」そう、リンディもプレシアに勝るとも劣らないほどの実力をもった魔導師だ。クルーもそれを理解した上で「わかりました。」「ここは私達で何とかしてみます。」クルーたちの頼もしい言葉はリンディにとって何よりの後押しになった。「ありがとう、あとのことはよろしく頼むわね。」そうしてリンディは管制室を後にし別室に向かった。(お兄ちゃん)(な、なんだ?)はっきりとしない意識の中でトレインは幼い少女の声を聞いた。それはどこかで聞いたことのあるようなものだった。動かないはずの体を動かし目を開くとそこにはフェイトそっくりの少女がいた。(フェイト?)少女は膨れながらトレインに訴える。(違うよ~、確かに私とフェイトはそっくりだけどさっき会ったでしょ?)(……アリシアか?)そうトレインが答えると少女は満足げにうなずく。(うん、私はアリシア。フェイトのお姉ちゃんだよ。)(お姉ちゃん………。)トレインはアリシアの姿を見る。 どう考えてもフェイトのお姉ちゃんというより妹という言葉がぴったりだった。(むぅ~~、なんか失礼なこと考えたでしょ?)(いや、そんなことは……ないとは思うぞ?)(なんで疑問形なのっ?)ころころと表情を変え、初対面にもかかわらず目の前にいるアリシアトレインに臆することなくしゃべる。しばし笑っていたトレインだが表情を引き締め(お前がいるってことは俺は死んだのか?)アリシアは首を振り否定した。(違うよ、お兄ちゃんはまだ生きてる。けどもしかしたら危ないかもしれないの。)アリシアはすこし気まずそうに答えた。(気にすんな臨死体験に近いもんは慣れてる。)(大丈夫、サヤさんから聞いてるから。)サヤの名前が出てきてトレインはまたかという表情をした。(あいつは…。)(でもあくまで私はサヤさんからお話を聞いただけ、私はお兄ちゃんを助けに来たの。)アリシアはトレインに近づき笑い、頷いた。(お兄ちゃんはお母さんを止めようとしてるんだよね?)(ああ。)トレインは力強くうなずいた。(うん、私もお母さんを止めてほしいの。)アリシアは悲しそうな表情でトレインにつぶやいた。何かを思い出すようにアリシアは語る。(お母さんは本当に優しかった。私はそんなお母さんが大好きだった。)(アリシア……。)(でも私が死んじゃってからお母さんは変わっちゃった。病気にもなっちゃって体も心も傷ついて、そんなお母さんを見てるのはつらかった。)アリシアはその場でうずくまるようにしてしゃがむ。(フェイトがひどい目に合っているのも見るのもつらかった。どんな形であれフェイトは私の妹だもん。)(そうだな、お前はお姉ちゃんだもんな?)トレインがそういうとアリシアは力強くうなずいた。(私はこれ以上苦しむお母さんやフェイトは見ていたくない。お願い、お兄ちゃん。フェイトをお母さんを救ってあげて!!)アリシアはトレインに深く頭を下げお願いした。トレインはゆっくりと近づきアリシアの頭に手をのせフェイトにしてやったように頭をなでる。(お兄ちゃん?)アリシアはキョトンとした表情でトレインを見る。(まかせとけ、そこまでお前に頼まれたんだ。)(お兄ちゃん……。)(んじゃ、とりあえずここから元に戻らないとな。)ゆっくりと動きだしたトレインにアリシアは(お兄ちゃん、お母さんに伝えて。)(なんだ?)(私は幸せだったよ、私のことはもういいから今度はお母さんが幸せになってって。)トレインは手を振りながら(確かに伝えておくぜ。)そこでトレインは意識を取り戻した。(何とか立てるか…。ハーディスはあるが銃弾が残ってねえか)何発か残っていたはずの銃弾もここに叩きつけられた拍子になくなったようだ。トレインは壁にくいこんだ体を動かし地面に立った。その拍子にがれきが動き物音が立つ。「……まだ動けたの?でも残念ね、もう遅いわ。」プレシアは満足げな表情でトレインに告げる。「見てみなさい、あちらこちらにできる虚数空間。」トレインはあたりを見ると変な空間がところどころ出来上がっていることに気がついた。「もうすぐアルハザードへの道が開くのよ。ようやくアリシアがよみがえるのよ。」トレインは銃弾が入っていないハーディスを構える。その姿をみてプレシアはあきれたように言う。「まだ無駄な行為を続けるの?そこまであなたを駆り立てるのはなんなのかしら?」「ここで…ここで俺が負けちまったいろんな奴の思いを無駄にしちまう。」トレインは軽く笑みを浮かべながら「負けられねえよな…。」「そう、でもそんなもの私を支えるアリシアへの思いに比べたらチリに等しいわよ。」トレインは笑いながら首をふった。「言ったろ、あんたのそいつは支えじゃない。鎖だって。」「……。」「俺はいろんな奴の思いにこたえるためにもあんたの鎖を断ち切る。」トレインはかすむ視線をプレシアに合わせ告げる。プレシアは侮蔑ともつかない視線でトレインを見据え「フッ、それをしたところでいまさらどうにかなるわけでもない。それに今のあなたじゃそんな余力は残っていないでしょう?」「確かに余裕はねえ。けど俺はこいつの一振りに賭ける!!!」トレインはハーディスに手をあて構えをとる。プレシアはその姿を見て身構えるが「まさかさっきの打撃技で来る気?笑わせないで、今のあなたの筋力じゃパワー不足もいいとこ私のバリアを破ることもできないわ。」「確かにな。たとえ消耗しているあんた相手じゃ普通にやっても通用しねえ。」「!?」プレシアは図星を疲れたように反応する。ジュエルシードのかなりの魔力を注ぎ込みそれほど魔力に余力があるわけではなかった。しかしそれでも状況はプレシア有利に変わりなかった。「リニスとユニゾンした時に見せた…俺の力の限りをぶつける!!!」トレインの体は突然発光しだした。発行しているというがバリバリといという音を出しながら稲光のようなものも見えていた。(放電!?)「いいことを教えてやるぜ。」トレインは構えたハーディスをプレシアに見せつけるようにする。「あんたも気づいていると思うがこいつは半端な攻撃じゃまず壊れねえ、なんでも未知の金属オリハルコンとか言うので出来てるらしい。」「お、オリハルコンですって!?」プレシアは驚き表情を浮かべた。次元世界でも現存を確認されたことのない、名前だけが残る金属。それがオリハルコンだった。プレシアもかつて文献で見たことのあるだけでその性質も不明だった。トレインはなおも続ける。「こいつの打撃による攻撃はあんたのバリアにそれなりのダメージを与えられる。けど筋力が足りねえのも確かだ…。」「………。」「だけどよッ!!!!」トレインの輝きはさらに増していった。自身の瞳の如く全身を覆うオーラが黄金のように輝いた。「電気エネルギーによる身体強化をすれば今の俺でも十分あんたに勝てる!!!」「……フンッ、最後の悪あがきってとこかしら?そんなことで私に勝てるわけないわ。」「へっ、決めつけてんじゃねえよ。勝利の女神は気まぐれなんだぜ?猫みたいに…。」トレインは大きく腰落とし前傾姿勢をとった。その姿はこれから獲物をとらえるような猫のようだった。それに対してプレシアも杖を構える。(頼むぜ、俺の全エネルギーを使い果たしてもいい。あいつを、クリードを倒したときの力をもう一度出させてくれ。)一層の輝きを増していたトレインだったが不意に視界が歪む。(くそっ!!思ってたより体にきてるみてぇだな。これじゃ…)体がふらつき倒れこみそうになったからだを支える小さな手があった。トレインの体を支える小さな姿にプレシアは信じられないものを見たという表情をした。「あ、あ、アリシア?」トレインが自信を支える人物を見てみるとフェイトそっくりな快活そうな少女がトレインを支えていた。「アリシア?」トレインがそう呟くとアリシアは嬉しそうにトレインに微笑んだ。「どうして?どうしてあなたがそいつを助けるの?私はあなたを生き返らせようとしているだけなのにッ!!!」プレシアの必死の呼びかけに悲しそうな表情を浮かべるアリシア。トレインはその瞬間を逃さずに地面を蹴った。なのはとフェイトは玉座まで目前に迫っていた。二人とも先ほどから辺りを揺らしている地響きからジュエルシードが発動していることを確信していた。同時にトレインがプレシアに敗れたということも。「もうすぐ…もうすぐで…。」なのは前を見つめながらトレインのいる方向を見つめながら呟いていた。フェイトのほうは口数が少なく押し黙っているが内心は気が気でなかった。あらかた傀儡兵を片付けたのでそれほど時間をかけずに目的の場所までつくことができるが肝心の時間が残り少なかった。ジュエルシードの暴走による次元震。それは何としてでも止めなければいけないことだったが少女たちの頭にあったのはプレシアと戦っていた少年のことばかりだった。「一閃ッ!!!!!!!」ダッ!!!!!電気により強化した下半身で地面を蹴ったトレイン。そのスピードは先ほどとはいかなくともプレシアではとらえきれないほどのスピードだった。しかしプレシアは冷静に杖を構え前面に集中してシールドを張った。残りそう多くない魔力だが前面に集中してシールドを張ればトレインの攻撃をしのぎきるには十分だった。しかしトレインはプレシアに接近するその刹那本来片手で放つはずのハーディスを両手にで握った。そして両の腕に電気を流しこみ一気に振りぬいた。「黒爪ッ!!!!!!!」キィーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!甲高い何かが砕けるような音とともにトレインはプレシアの後ろに抜けていた。その姿からは余裕もなくかろうじて立っているという様子だった。しかしプレシアのほうは「ば、バカな……。」自身の腹部にある傷を押さえながら呟く。「この、私が……大魔導師である私が……アリシアのためにここまできた私が…。」「あんたが…負けたのは、あんたにはないからだ……本当にやばい時に支えてくれる信念や相棒、仲間…。」ふらつく体に鞭をうちトレインは何とか立っていた。プレシアはその場にうずくまり「わ、私にはアリシアが……。」「いったはずだぜ、そいつはあんたを支えていたんじゃない。縛っていた鎖だ。俺はそいつを断ち切った、それだけだ。」プレシアは崩れるようにその場に倒れこんだ。トレインはゆっくりと近づきプレシアに聞いた。「ジュエルシードの暴走を止めるにはどうすればいい?」「……そんなもの知らないわ。アリシアがいない世界なんてどうでもいいもの。私には何にもないのよ?」トレインはそんなプレシアをみて言った。「俺はアリシアをそんなによく知ってるわけじゃねえ。けどあんたが言うには優しかったんだろ?」プレシアは身動きせずに答えた。「………ええ、とても優しい子だった。」それを聞いてトレインはうつぶせになっているプレシアを無理やり仰向けにし胸倉をつかむ「だったら!!!そんなガキならこんなこと……あんたがこんなにボロボロになってまで生き返らせてほしいなんて思うわけねえだろ!!!」「!?」「あんたのその姿をみて、あんたがしてきたことアリシアが知って喜ぶとでも思ってんのか?」「あ、あああああああぁぁぁっ」プレシアは顔を覆うように呻いていた。トレインはそれ以上何も言わずに思案していた。いまのこの状況を見ているだけでかなりやばいことはわかっていた。かといって満身創痍の自分に何かできるとは考えにくかった。そうしているとリンディから念話が頭に響いた。(大丈夫よトレイン君。)「リンディ?どういうことだ?」(私がなんとかジュエルシードのほうを抑えているわ。おそらく次元震が起きるようなことはないはずよ。)その言葉にほっと一息つくトレイン。(なのはさんたちもそちらにもうすぐ到着すると思うわ。)「そーかい、んじゃ後のことは任せるわ。」トレインはその場で倒れこんだ。無理な身体強化は幼いトレインの体には大きな負担がかかっていた。(体全身がきしんでる見てーだな。こいつはしばらくまともに動けそうにねーな。)首だけ動かし横にいるプレシアの様子を見た。後ろ姿見えるだけでその様子はうかがえない。「あんたにアリシアからの伝言を預かったぜ。といってもあれがほんとかどうかわかんねーけどな。」「………。」プレシアは何も言わず黙ったままだった。「…アリシアからの伝言を伝えるぜ。(私は幸せだったよ、私のことはもういいから今度はお母さんが幸せになって。)だとさ。」「アリシア………………………。ねえ?」プレシアが突然トレインに呼びかけた。「私は、私にとってアリシアがすべてだった。私たちに優しくない、この歪んだ世界なんかになんの未練もない私がどう生きればいいというの?」プレシアの言葉はトレイン、もしくはアリシアに向けられたものなのかはわからない。しかし、トレインは答える。「……俺もあんたと同じだった。女…いや、親友を守ることができなかったばかりか死なせちまった。」「………。」「俺はかつてイレイザー、抹殺者として組織に飼われていた。両親はガキの頃に殺されて、殺した相手に育てられ、そいつも殺され俺は一人になった。そして俺は誰もいや、世界そのものを呪っていた。」「…それで?」プレシアはわずかだが関心を示した。「さっき言ったとおり組織の抹殺者として俺は数えきれないくらいの人間を殺してきた。それを考えればあんたなんかより俺のほうがよっぽど罪は重い。」トレインは天井を見つめながら思い出すように話し続ける。「俺はある任務でへまをしてくたばりかけた。そんな俺を助けたのがサヤだった。」「…それがさっき言っていた親友さんかしら?」「ああ、別に最初は単なるお人好し程度の認識だった。けど俺はあいつの生き方に惹かれていった。」「生きかた?」「自由気ままに……なんにも縛られずに自分らしく野良猫のような自由な生き方にな。」「野良猫……。」「俺は自分のありかたに疑問を持つようになっていったがそいつをよく思わねえ馬鹿がいやがった。そいつに襲われてサヤは死んだ。」今でもそのシーンは思い出される。いろんあ人間の死に際をみていたトレインにとって忘れることのできないものだった。「最後にあいつはなんて言ったと思う?私のことは忘れていいから、だぜ?」「…………。」「あいつは最後の最後で俺が復讐という鎖で過去に縛られることを気にしながら死んでいった。けど俺はあいつの言うことももっともだと思うが過去を忘れるのは逃げだと思った。」「過去……。」「俺にしてもあんたにしても過去はそんなに簡単に切り捨てられるもんじゃねえ。だからあんたに過去のことを完全に切り捨てろとは言わねえよ。」「どうしろというの?」「とりあえず好きなように世界を回ってみな。あんたを縛っていたものはさっき断ち切れたはずだ、焦らすゆっくりと生きていけば過去を背負って、それでも悪くないって思える世界があるはずだ。」トレインが語り終えると大きな揺れが起こった。するとトレインたちのいる場所のすぐそばの床が抜けおち異常な空間が広がっていた。「な、なんだこいつは?」「虚数空間。」プレシアは呟く「なんだって?」「虚数空間、あらゆる魔法が無効化され重力が続く限り落ち続けていく空間よ。」続けざまに大きな揺れが起こった。「くそっ!!!!リンディの奴止められなかったのかよ!!」「いえ、ジュエルシード自体の暴走の進行は止まっているわ。おそらく不完全な状態の暴走状態にあるだけだわ。」「どっちにせよやばいことには変わりはないってか?」「ええ、そう長くない時間のうちにここも崩壊するわ。」そういった瞬間プレシアのいる地面が崩れた。「!?」そのままプレシアは虚数空間の中に引き込まれかけたが「ちっ!!」ハーディスのワイヤーを近くにあった柱にくくりつけ片手でプレシアの手をつかんだ。「くっ、なんとか間に合ったか。」「放しなさい!!」「馬鹿言ってんじゃねえよ、ここであんたに死なれたら何のためにここまでボロボロになったかわからねえだろ!!!!」プレシアは不思議なものを見るような眼でトレインを見た。「何を言っているの?言ったでしょアリシアのいない世界になんの未練もないのこのまま死んだほうがマシよ。」「あんたは生きろ!!!この歪んだ世界でもう一度やり直すんだ!!」「フフフ。」プレシアは突然笑い出した。「さっきまで闘っていた人間にかける言葉とは思えないわね。」「こんな状況で敵も味方もねえだろ?」「そうね、でもいいから放しなさい。さもないとあなたも引き込まれてしまうわ。」事実トレインの握力も限界に近づいていた。体のダメージもあるが成人していないトレインの体でプレシアの手をつかむのはすでに限界近かった。(くそっ!!!もう握力が残ってねえ。)「ありがとう、あなたのおかげで少しは救われた気がしたわ。もう少しあなたと話をしてみたいと思ったけど…。」そういってプレシアが手を放そうとした瞬間「「トレイン(君)!!!!」」白と漆黒の少女がこちらに向かって来ていた。「遅いんだよ。」そしてプレシアとともに二人がかりで引き上げてもらった。「よかった、トレイン君無事だったんだね?」なのはが心配そうに声をかける。「まあ、無事とは言いずらいけどな。」トレインは自身の姿をみてくそうしながら答える。そしてふとテスタロッサ親子のほうに視線を向ける。フェイトと目線を合わせようとしないプレシア、必死に何かを訴えかけようとしているフェイト。そしてフェイトが口を開いた。「私は、私はあなたにとって人形。アリシアの代わりだったのかもしれません。けど私にとってプレシア・テスタロッサはただ一人の母であることに変わりはありません。」「………。」「これだけはあなたがどれだけ否定しようとも譲れません。」プレシアは一言だけ「かってになさい……。」「え!?」そこで反応しかけたフェイトを抑えるようにトレインが手を叩く。「話はそこまでにしとけ。とりあえずこんなあぶねえ所からはとっと離脱しようぜ?」「そ、そうだね。暴走が収まったといってもいつ崩落するか分からないもんね。」トレインはなのはの肩を借りながら立ち上がった。フェイトもプレシアに手を貸そうとするがプレシアは反応しない。そうしていると大きく庭園全体が揺れた。「「!?」」フェイトとなのははたちまち反応し避難しようと動くがプレシアはある場所を凝視していた。トレインは何を見ているのかと視線を向けるとそこにはアリシアが入ったポットが崩落しかけている玉座の近くに佇んでいた。プレシアは動き出そうとするがダメージが残っているのかその場でうずくまった。「母さん!?」フェイトはプレシアに駆け寄りプレシアを止めようとするが「放しなさい!!!アリシアが…アリシアが…。」悲痛な声を上げながらプレシアが叫ぶ。フェイトとなのは複雑な表情でそれを見つめる。「トレイン君?」トレインはなのはの肩から手を下ろし痛む体を鞭打ちポットへ駆ける。「トレイン!?」フェイトは突然駆けだしたトレインに驚き声をかけるがトレインにはそれに反応する余裕すらなかった。(このままじゃあいつも浮かばれねえ、プレシアも吹っ切れさすためにも…。」ポットに向かってダイビングをした瞬間玉座の床が抜けおちた。「!?」ポットを抱きしめるようにつかんだがその先には地面がなかった。無限に続いているだろう虚数空間が広がっていた。「トレイン!!!!」フェイトが駆け寄り必死に手を伸ばすがトレインにはそれに捕まる余力はなかった。(結局、あのときと同じか)クリードとの戦いの週末と同じ展開に自嘲気味に笑顔を浮かべるトレインにフェイトは悲しみくれた表情をしていた。なのはも必死にトレインを呼び掛けるがトレインはそのまま………「トレイン!!!!」突然の声とともにトレインとポットを縛るように鎖が現れた。そして引き上げるようにして持ち上げられた。「ユーノ君!!!」その声の正体はユーノだった。それに遅れるようにしてクロノ、アルフが現れた。「トレイン、大丈夫かい?」「ユーノ、ナイスタイミングだがこの状態で無事だと思うか?」「いや……そうは見えないな。」苦笑しながらユーノはトレインに答える。続いてアルフが引き上げられたトレインを抱える。「よかったよ、あんたが無事で。」「……もういい。とりあえず蹴りは付けてやったぜ。あとおろしてくんねえか?」アルフはそう言われてゆっくりとトレインを下ろした。そこにクロノが近づいていき「まったくずいぶんと無茶をしてくれるな君は。」あきれるようにトレインにつぶやく。「……この状態で説教は勘弁してくれ…。正直もう動きたくないわ。」「とりあえず、ジュエルシードのほうは母さんが抑えてくれた。次元震は起こらないと思うが早いとこ脱出することにこしたことはない。」「そうだな、んじゃあとのことは頼むぜ。執務官様?」トレインは精根尽きたという感じでうなだれた。そして自身を救ってくれたユーノに目をやり親指をたてて感謝の意を示した。対するユーノもそれに応じるように親指を立てた。「トレイン君!!!!」「トレイン!!!!」二人の少女がトレインに駆け寄る。そして眼には涙を浮かべながらトレインに抱きついた。プレシアはその様子をただただ眺めているだけだった。こうして海鳴市で起こったジュエルシードの一件はとりあえず終結したのであった。