トレインは途方にくれていた。自身の姿が10歳前後になっていたことも最初は戸惑っていたが、視点が変わって面白いのと以前も似たようなことを経験したせいか持前の能天気さで乗り切っていた。しかし、「イェンが使えないとはな…。」そう、通貨が違っていたのだ。街に出てとりあえず腹ごしらえをしようとしてハンバーガショップに入ったところ会計をしようとしたところでお金を出したが使えないといわれ、子供であったせいか店員にやんわりと注意をされたのであった。ただでさえ先ほどの戦闘での疲労や電磁銃を撃ったせいか強力な空腹が彼を襲っていた。「いままで金がないとはいえカップ麺ぐらいは食えたからな。」借金生活が長かったせいかある程度の空腹にはなれていたが今回ばかりはトレインににもこたえるようだ。なんとかして先立つものを稼ごうと思案したが持ていたはずのスイーパーライセンスがなくなっていた。だが子ども姿になったトレインでは使用できるか疑わしいものだが。行くあてもなくぶらぶらとしているとやがて夕方になり辺りも暗くなり始めていた。「へたすりゃ今日は野宿か。」掃除屋生活をやっていると珍しいことではなかったが現状ではできれば勘弁してほしいものだった。少しうなだれながら歩いているトレインは子供の姿なのに妙な哀愁が漂っていた。そうしてとぼとぼと歩いているとトレインは妙な感覚を感じていた。先ほどの情けない顔はどこに行ったのか一転表情が変わり妙な感覚を感じた方向に走り出した。(殺気?いや、なんともいえないいやな感じだな)以前、星の使徒と戦った時ドクターと呼ばれる男が差し向けてきた掃除屋たちと戦った時のような感覚だった。そしてしばらく走って妙な感覚を感じた場所にきてみるとそこはなんの変哲のない公園だった。時間も時間だったせいか遊んでいる子供たちもおらず閑散としていた。「………。」トレインは何も言わず公園の敷地内に入って行った。眼光は鋭く周りへの警戒は一切緩むことなく一歩一歩進んでいった。そしてそれはいきなり現れた。「いっ!?」嫌な違和感を感じていた時点でただ事ではないと思っていたが目の前にいるモノは想像以上だった。「俺も黒猫と呼ばれていたがこいつはちょっとな。」彼の目の前には体長3メートルは超えようかという化け猫がいた。そしてそれは容赦なく鋭い爪を彼に向けて振りおろした。トレインはその一撃を難なくかわし、相棒であるハーディスを構えた。以前のトレインであればもう少し面喰っていたかもしれないが星の使徒との戦いでもはや何が出てきても不思議はないと感じ始めていた。「シキとかいうやつが出してきた戦闘魔蟲に比べたらマシだしな。」とはいえ油断はできない。化け猫が爪を振り下ろした場所には深くえぐられた跡があった。「腹も減ってることだし一気にけりをつけさせてもらうぜ!!」シリンダーに銃弾を込め、狙いを定めて銃弾を放った。音とともにトレインの十八番であるクイックドロウで相手に銃弾を命中させた。以前Tレックスを相手に仕留めたのと同様に生物にとって神経が集まっている指先、先ほど地面をえぐった爪に狙いを定めて寸分のずれもなく放ち命中したが…。「はっ!?」命中してはいるようだったが銃弾は貫通せずはじかれたように足元に転がっていた。ご丁寧に三発揃って。獣相手に仕留めることのなかった攻撃は相手を刺激するだけの行為で化け猫も怒りをあらわにしてトレインに突っ込んできた。「よっと。」特にあわてるでもなくトレインはその場から跳躍し手近にあった木の枝につかまり相手とは逆の方向に着地した。化け猫はそのまま木に激突してよろけていた。「さ~て、どうしたもんかね。」トレインの中では特に焦りはなかった。が若干の戸惑いはあった。通常弾でははじかれて動きを抑えるどころかダメージすらない。特殊弾、炸裂弾や冷凍弾を駆使すれば倒すことはできるだろうが相手は敵意を持っているが悪意をもって襲ってくるものではないので無暗やたらと殺すことはできることなら避けたいと考えていた。しかし、ここで自分が下手なことをして相手を逃がすようなことがあれば一般人に被害が出るかもしれないということを考えるとそう甘いことも言っていられない。トレインは相手に目を向けてみるとある事に気がついた。(額がやたらと光ってるな)さっきは気にも留めていなかったが確かに額で何か光っていた。確信はないがトレインの勘もあれに攻撃しろと告げていた。(いい解決策がみつからないいじょう自分の勘に頼ってみるか)即断で決めるとタスキ掛けの鞄から猫の絵柄がペイントされた手榴弾のようなものを取り出し相手に向かって駆け出しながら投げつけた。すると煙幕とともに化け猫の足元にトリモチが現れ相手の足を絡めてとっていた。化け猫はそれをどうにかしようと必死にもがくがなかなか取れない。トレインはそのすきを逃さずに一気に近づき相手の上空にジャンプした。「ちょっと痛ぇけどかんべんしてくれよ。」そして銃を振り下ろした。(黒爪)銃を撃つのではなく高速の打撃により相手にダメージを与えるトレインの接近戦の打撃技であった。本来であればかなりのダメージを受けるはずだが体が小さくなったトレインでは威力が落ちているのと同時に加減をしていることから大したダメージにはなっていなかったがキーーーーーーン甲高い音ともに何か小さな宝石のようなものが猫の額から転がり落ちてきた。それは先ほど見えた光の正体で、その光が取り除かれた猫は見る見るうちに小さくなり普通の猫に戻っていた。トレインは猫の様子を見てみると呼吸もあり、目立った外傷もないことからほっと一息ついた。すると猫はすぐに意識を取り戻しトレインの姿をみるやすぐに逃げ出してしまった。「やれやれ、同じ猫なのに嫌われちまったかな?」飄々と特に気にすることなく呟きながらトレインはこぼれおちた宝石に近寄った。手に取ってみたが特に一風変わったところはない。まばゆいばかりの輝きをしているが自分は特に変調はない。「こいつはいったいなんなんだか。ま、どこかで売り払えばいい金になるかもな。」自身が考えてもわからないのだから深く考えても仕方がないと考えたトレインは手にしているものを換金し生活の足しにすることにした。がそこに一人の影が降りてきた。その影の正体は10前後と思われる少女だった。(姫っちと同じくらいの歳か?っていまこいつ飛んできたよな?)さまざまな疑問が浮かび上がったがとりあえずトレインは思いついた一言を言ってみた。「なあ?それはお前の趣味か?」「へ?」相手の少女は予想外の一言だったのか面喰っているようだった。「人の趣味あれこれいうつもりはないが普段着にしてはちょっとな~。」「そ、そうでしょうか?なのは気に入っているんですけど。」なのはという少女は自分の格好を見回してみていた。すると別のものが声をあげた。「なのは!!いまはそんなことを気にしている場合じゃないよ。」声の主は…イタチ?少女の肩から出てきたイタチと思われる生き物がしゃべっていた。(ま、まー猿もしゃべるくらいだしな。)トレインは無理やり自分を納得させ少女に視線を向けた。「え、えーと私は高町なのはと言います。」「おう、俺はトレイン・ハートネットだ。」ごく自然にトレインは自己紹介を返した。あまりに普通に返してきたせいかなのはが少し戸惑い気味だった。(ユーノ君がしゃべったり、いろいろとおかしなことになっているのにすごく落ち着いてるね)(うん。でも彼からは魔力を使用した感じがしないから魔導師ではないはずだけど。)「えと、トレイン君がもっているその石なんだけど…。」「こいつか?」トレインはなのはが指さした石をなのはに見せた。「それはジュエルシードと呼ばれるものでとても危険なものなんだ。」「そりゃあなんとなくわかるわ。猫があんな化けものに変るんだからな。」「「へ!?」」ユーノとなのはは二人揃って驚愕の表情をみせた。それに気がつかずにトレインは話を続ける。「いや~、似たようなやつとは戦ったことはあるけど殺すわけにもいかなかったから光っている部分が見えたもんだからそこに攻撃したらビンゴでな。」話を続けようとしたトレインを静止しユーノが尋ねた。「ちょ、ちょっと待って。君はさっきまでここで何をしていたんだい?」「なにって化け猫退治だよ。妙な感覚を感じたもんだからここに来てみればいきなりあんな化けものに襲われたからな。」「君の口ぶりからすると倒したみたいな感じだけど?」トレインはさも当然のように「倒したけど。」「「………。」」(ユーノ君。トレイン君は魔導師ではないんだよね?)(うん、見たところはね。魔力は持っているみたいだけど使用した形跡がみられないしデバイスらしきものも)ユーノとの念話していると二人の視線がトレインのもう片方の手に持っているものに集まった。トレインは二人が凝視しているものを追ってみると自分の愛銃であることに気づいた。「なんだ?こいつがどうかしたのか?」「それはなんだい?」「なんだいって、銃だけど。それがどうかしたか?」「それはデバイスなのかい?」(でばいす?)トレインは何ことやらさっぱりわからず首を傾けた。「こいつは実銃でおれの相棒だけどそれが?」「「実銃!?」」さらに驚愕の表情をした。続けざまになのはが聞いてきた。「トレイン君はそれでその、化け猫を倒したんですか?」「さっきそう言っただろう。」「ど、どうやって。普通の人間がいくら質量兵器を持っているからって暴走したジュエルシードがとりついた生物と戦うなんて。」「どうやってって言われてもな。でもここらにある惨状を見れば嘘じゃないってことくらいわかるだろ?」改めて二人は公園の敷地内を見回した。そこには無残にもおられている木と深く爪のようなものでえぐられた跡が残っていた。この惨状をみてトレインの行っていることを否定することは容易ではなかった。(しかも彼は現にジュエルシードを手にしている。)その事実が何よりの証明になるものだった。「まあ、俺としてはこいつを換金して生活費の足しにするだけなんだが。」「え!?えーとそれはできればやめてなのはたちに渡してほしいのですが?」「なんで?」「それは危険なものなんだ。人の手に渡ったらまた暴走するかもしれない。」「んなこといってもお前らみたいな子どもとイタチに何ができるんだ?」至極当然の疑問だった。意を決したようになのははユーノに言った。「ユーノ君、トレイン君に事情を説明しよう?」「え!?でもなのは彼は素性もわからないし何より魔導師でもない人間をこれ以上巻き込むわけには。」「でも……。」二人で何やらもめ始めていたがトレインも限界が近づいていた。体がふらふらと頼りなく揺れ始めそしてバタッ!!!「ふぇ?ってトレイン君!?」「え!?し、しっかりして。」あわてて一人と一匹がトレインに近づきそしてトレインは半眼開きの状態でつぶやいた。「は、は。」「「は?」」「はらへった…。」ぎゅーーーーーーーーっ!!!盛大な胃袋の音とともにトレインは意識を手放した。戦闘中は気がつかなかったが彼の空腹は、胃は限界に近付いていたのであった。