「ユニゾンデバイス……なるほど考えたわね。」プレシアは感心するようにトレインを見据えた。しかし、プレシアにとってトレインがリニスとユニゾンしようがあまり脅威には感じていない様子だった。「それにしても私に不吉を届けるなんてね。わたしとしてはそんなものはごめんなのだけれど?」「フッ、ワリーが黒猫の届ける不吉は受け取り拒否はできねーんだわ。」軽口を言うトレインたちも不安要素がいくつかあった。まず、先ほど言ったようにユニゾンするのは本当にぶっつけ本番なのである。幸いトレインとリニスは適正が高いようで無事ユニゾンできたが不測の事態も考えられる。また、デバイスとしての設定が不十分で防御、身体能力強化に重きを置いたためなのはたちのような魔力媒介とした攻撃手段がないということだ。(マスター、状況が厳しいのは変わりません。慎重に。)リニスはトレインに呼びかけるがトレインはあくまで平然と言う。「心配すんな、あいつよりイカレタやろーとやったこともある。それにお前がフォローしてくれんだろ?相棒。」そしてトレインが地面を蹴り戦闘ははじまった。「信じられないわ、まさか融合機。ユニゾンデバイスを使うなんて…。」一連の会話から細かい経緯はともかくとし、トレインがユニゾンデバイスを手に入れたことはわかったが見事にユニゾンを成功させたトレインに驚いていた。ユニゾンは高い適正を持てば強力な力を得る反面、デバイスに飲み込まれてしまうという事態も考えられる。しかし、トレインは自身の姿をほとんど保ったまま強力な力を得た。以前は生成できなかったバリアジャケットをまとい不安材料であった防御面での不安はなくなった。うまくいけばクロノたちの増援が来るまで持ちこたえられるかもしれないと思っていた。しかし、リンディのこの考えは予想外の形で修正せざるを得なかった。リンディはモニター上での戦いをエイミィに解析させていた。ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!移動を開始してトレインはプレシアに向かい六連早撃ちをした。しかし、普通であれば同じ地点からの射撃だが移動速度がアップしたせいか六発すべての銃弾が違う角度から打ち出された。(速度が大幅に上がっている?)プレシアはトレインの身体能力の向上に若干の驚きを隠せなかった。少年の姿と違い自身の本来の体で本来の動きをとれるトレインは体が意識に十分に反応で来ていた。それに加えリニスとのユニゾンによる身体能力の向上である。すでに生身の状態で超人的であった動きにさらに拍車がかかった。しかしプレシアはあいかわらず余裕であった。トレインの攻撃が相変わらず銃弾。ただの質量兵器であるからである。いくら反応が速かろうと戦闘開始時からバリアを張っていればただの銃弾などプレシアにとっておもちゃ同然だった。実際トレインが撃った銃弾はすべてはじかれていた。「無駄よ、そのおもちゃで攻撃するだけ無駄ってことはあなたもわかっているでしょう?」プレシアはそう言うと魔力を込めた光弾を浮かび上がらせトレインに向かい放った。その数は20近くでほぼ回避は不可能に見えたが「やらせるか!!!!」ハーディスを高速で振りぬき続け光弾をすべてはじいた。四散した光弾は壁や天井に当たり大きく庭園内を揺らした。「なるほどね。大口の叩くだけはあるかもしれないわね。」「別に大口じゃないぜ俺は自分でできないないことは口にしないたちだぜ?」「あら?魔力による攻撃ができないあなたじゃまず私のバリアを破ることさえできないわよ?大方デバイスとして調整が不十分、攻撃能力にまで手が回らなかったみたいねリニス。」プレシアはトレインたちの不安要素を捉えていた。「まあ、あの電磁銃なら話は別かもしれないけど。」プレシアは以前フェイトの見舞いに来ていたトレインの会話を聞いて電磁銃の特性を理解していた。また、本来の姿になるだけでかなりの体力を消費するため電磁銃を撃つことはかなり厳しいことも分かっていた。しかし、プレシアはトレインたちを見誤っていた。トレインは不敵に笑い、言った。「確かに電磁銃を一発撃つだけでも体力をかなり持ってかれちまう。この体だって維持するだけでもかなりしんどいからな…。」自身の不安要素を口にしているがその表情はまったく悲観していない。むしろ自信に満ちていた。「だが、あんたは俺たちをなめすぎだぜ。」トレインはリロードをすると再びハーディスをプレシアに構える。そしてその瞬間トレインの体が一気に放電したかのように光る。ドォンッ!!!ドォンッ!!!ドォンッ!!!先ほどのように撃った銃弾はすべて光弾、電磁銃となりプレシアに向かっていった。そしてそのすべてがプレシアの張るバリアを貫通しその体をかすめていった。「なっ!?」さすがのプレシアも驚愕の表情を隠せなかった。自身のバリアを破ったのもあるが、一発しか撃てないはずの電磁銃をあろうことか早撃ちで撃ってきたのだ。玉座に向かう途中トレインとリニスは自身の能力について話し合っていた。ユニゾンすることになって能力の向上が見込めるがでデバイスとしての設定を行っていないため攻撃にまで手が回らないことについて話していた時。「ではトレインさんはその銃以外での攻撃はできないのですね?」「ああ、一応腕ぷっしもそれなりあるつもりだけどあいつにゃ意味がなさそうだしな。」リニスはひとつ聞いた。「では電磁銃はどうなんでしょう?聞いたところではプレシアにも通用するみたいですけど?」トレインはそれを聞くと難色を示した。「あ~、そいつはもう使えねーな。一発撃つだけで体力をかなり使う上に今この姿になってるもんだから体力的に余裕がねーわ。」「細胞放電化現象…でしたね?それとそのハーディスがあって成立するものですね。ようは放電の時に体力を使わなければいいのでしょう?」「そうだけどよ。なんか考えがあんのか?」「はい。」「魔力変換資質リニスにはあるらしくてな。俺の魔力を電気エネルギーに変換することで体力を使わずに電磁銃が打てるようになったわけだ。おかげで連射も利くようになったしな。」細胞放電化現象よりはるかに高い効率性で大きな電気エネルギーを得ることができるようになった。それにより一発の威力をより高めることや、一発一発の威力を落とすことで多少弾速が遅くなるが連射が利くようになったのだ。(若干反動のほうもきついがな。)プレシアからすればかなり脅威になるものだった。以前は身体能力は高いが強力な攻撃はひとつだけの相手でしかなかったがもう違う。目の前は自身の最大の障害と認識した。一方この戦いをモニター越しで見ていたアースラ。オペレータもこの戦いに見とれて鼻息を荒くしていた。「か、艦長。このまま彼が勝ってしまうのでは?」しかしリンディはプレシアがこれで終わるとは思っていなかった。そこにエイミィからの戦闘の解析結果伝わってきた。「艦長、二人の解析データ出ました。」モニター上に映し出された結果はアースラ全員が固まってしまうものだった。「プレシア・テスタロッサ:総合SS トレイン・ハートネット………。」「なんですって………陸戦SS+…。」トレインはプレシアの雰囲気が変わったことは分かった。ここまでのプレシアはどこかこちらをなめていたようだった。しかしこちらが以前とは違うことを認識し、本気モードになったようだ。「ごめんなさい、あなたたちのことを正直見くびっていたわ。」プレシアは頭をさげトレインに謝罪をした。目の前の相手に対して過小評価をしてしまったことは事実で大魔導士としてのプライドを持つ彼女としてそのことは許せなかった。そのかわりではないが自身の全力をもって目の前の相手と戦うことに決めた。「黒猫さん……あなたを私の最大の障害として認識するわ。」魔力の感知に対しては当初から才覚をみせていたトレインにはわかった。先ほどとは比べ物にならないほどの魔力がプレシアのなかで練りこまれていることを(来ます!!)リニスの声と同時にプレシアの周りから光弾が先ほどとは比べ物にならないほどの数が浮かび上がった。「おいおい、こりゃ二桁ですむのか?」「いくわよ…。」プレシアが指を振り下ろすと一斉に光弾が一斉に襲い掛かってきた。しかし、それらすべてが襲いかかって来るのではなく回避したトレインの次の行動を抑えるように一つ一つが意思を持っているかのような動きだった。「ちっ!!厄介な攻撃だなおい!!」次々と襲いかかる光弾だったがトレインは巧みにかわしていく。そして攻撃が少しの間緩やかになったところを逃さず反撃に出る。「喰らえ!!!!」ドォンッ!!!プレシアの肩口に狙いを定めレールガンを撃つ。一発の精度と威力に絞って撃ち、回避も防御もできないであろうタイミングで撃った。しかし「やぁぁぁぁーーー!!!」プレシアはそれを手ではじいたのであった。「なっ!?」それを見たトレインはあっけにとられ一瞬動きが止まってしまった。(マスター!!!横です!!!)ふと横を見た時にはプレシアが直接放った一発の光弾が迫っていた。(やべぇ!!)ドゥオォォォォン!!!!!!一発の光弾がトレインに命中し大きな爆音が響いた。一方のなのはたちは数で攻めてくる傀儡兵に苦戦していた。「くそっ!!!こいつらどんどん湧いて出てくる。」あまりの数にユーノが珍しく悪態をつく。「泣き言はあとだ、こいつらをどうにかしないと前には進めない。」「そうだよ、頑張ろう。」そして庭園全体が揺れるような爆音が響く。「な、なにいまの?」なのはが辺りを見回すがそれをクロノが一括する「なのは!!目の前の戦いに集中しろ!!僕らにできるのこいつらを早く片付けてプレシアのもとに行くことだ。」光弾によりあたりの視界が砂塵で悪くなりトレインの様子は確認できない。プレシアは自身の放った光弾がトレインに命中したことは確信していたが油断なくトレインがいた方向を見つめていた。(間違いなく命中した。並みの魔導師なら動けないはず。そう、並みならばね。)砂塵が落ちつき視界が晴れてくるとそこにはトレインが立っていた。「なかなかいてぇじゃねえか。」ダメージは多少あるものの戦闘ができなくなるほどではなかった。プレシアとしてもこの程度でやられる相手ではないことは分かっていた。「まさか電磁銃まではじかれると思わなかったぜ。」電磁銃をはじいた時プレシアはとっさにトレインの銃口からおおよその狙いを絞りバリアを手の周りに集中させたのだ。いかに強力な電磁銃であっても防御を一点にに集中させたプレシアのバリアは貫けなかった。トレインの言葉に対しプレシアも微笑しながら「そう言いながら普通に立っているあなたにも驚かされるわ。どうやら攻撃を犠牲にしてでも防御面に力を入れた様ねリニス。」そして杖をトレインに向けてプレシアは告げる。「でもそれじゃジリ損でいつか必ずやられるわよ?動けるといっても軽いダメージではなさそうだしね。」「へっ!!決めつけるんじゃねえよ。まだまだこれからだぜ?」あくまで強気の姿勢を崩さないトレイン。プレシアもそれが虚勢ではなく確信をもった発言ということは理解していた。「そう、なら証明して見せなさい!!!」そしてまたもや数えるのが嫌になるくらいの光弾が浮かび上がった。「リニス、アレを使うぞ!!」(ですがあれは…。)リニスと言いあっているうちに光弾がトレインに迫っていた。「大丈夫だ!!俺は自分を疑ったことはねえ、だからお前も俺を信じろ!!!」(!?わかりました。)するとトレインの体が電気を帯びたように発光した。そして光弾が着弾したところにはトレインの影も形もなくなっていた。(消えた?)プレシアはあたりを見回すがトレインの姿は見えない。だがたしかに魔力の反応、気配感じる。ドォンッ!!するとなにもないはずの所から光弾がプレシアに襲いかかった。「なっ!?」突然の攻撃にプレシアは反応が遅れ光弾はプレシアの肩をかすめるように当たった。」「くっ!?」そこの傷を抑えるように手をあて、光弾を消すとトレインの姿が突然現れた。「ふーーっ、さすがのあんたもこいつのスピードは目で追い切れないみてーだな。」「いったい何をしたの?回避魔法でもなかったわ。」「なーに、電気マッサージで足を早くしただけだぜ?」「電気マッサージ?」トレインはリニスが発する電気を体に流すことで筋肉、末梢神経を刺激し通常では考えられない高速移動をしていたのだ。これは以前高町家で行った稽古で恭也が見せた神速がヒントとなっていた。しかしトレインが使った移動法は神速とは違い連続使用、もしくは継続することを前提としている。(一回目でこれだけ使いこなしているなんて…それに負担がかかるはずなのにそこまで肉体にダメージが見られない。)リニスはトレインの強さに正直驚かされ続けていた。今の動きも実際かなりの負担を強いるのだがもともと強靭な肉体だったトレインの体はバリアジャケットや魔力による強化でリニスの想像を上回るほどになっていた。またあの超人的な速度で正確な動きをするには動体視力もかなりのレベルでないといけないにもかかわらず彼は難なく使いこなした。もはや、プレシアとしては余裕がなくなってきた。自身も総合SSランクであったことは自負としてあり、並み大抵の一流と呼ばれる魔導師相手には不覚を取る気はなかった。しかし、今いる相手はおそらく並み大抵の部類には入らない、戦闘の天才であろう。アースラで見ているリンディもプレシアに近いことを考えていた。確かにプレシアは総合SSランクという管理局でも屈指の魔導師であったはずだ。しかし、相対する彼もSSランクを超える陸戦SS+ランク。魔力量、魔力の運用など魔法使用技能に関してはプレシアが圧倒的に上回っているだろう。しかし彼は身体能力など戦闘に必要な能力の大部分がプレシアを勝っていた。プレシアに劣る魔力分を考えても勝るとも劣らないとも言える戦力だった。さらにプレシアは本来戦うことを目的として魔導師になったわけではない。総合ランクというのはあくまで魔力の運用をや技術などをトータルで考えられたランクであり純粋な強さを示すわけではない。一方のトレインは陸戦という限定ながら戦いにおける技術、強さのみでSS+というランクをたたきだしたのだ。「もしかすると本当にこのまま…。」(あの高速移動は厄介ね。私の眼ではおいきれない上にすべての攻撃を回避される。)プレシアの持っていたアドバンテージをすべて奪い去りかねないほどトレインのスピードは速かった。しかもこの限られた空間内ではトレインの動きは特に威力を発揮していた。「どーよ、俺の知り合いの使ってる技をヒントに使ってみたが結構使えるだろ?名前はまだ決まってねーがそのうちにな。」(恭也たちは神速とか言ってたがんな大それた名前は付けれねぇな。)トレインのほうはある程度余裕を取り戻し、ハーディスを構えた。「一応聞くけどよ、引く気はねーのか?」「何をいまさら、私は失った過去を取り戻すためにアルハザードへ向かう!!!どんな犠牲を払おうともね。」プレシアは叫ぶように言った。トレインはその狂気に駆り立てられている姿に自身のかつての姿を見た気がした。「確かにあんたの境遇は同情的な気分にはなる。だけどよ、あんたがあんたである限り過去を切り捨てるなんてことはできないぜ?」「黙りなさい!!大切なものを失なったことのない坊やにとやかく言われる筋合いはないわ!!!!」目をぎらつかせトレインを睨みつける。そんなプレシアに「わかるぜ……。俺もあんたと似たような時期があったからな。」プレシアはトレインの瞳を見続け、ふと視線をそらし言った。「ごたくはもう十分だわ。私を止めたければ私を倒しなさい。それが唯一の手段よ。」そう言い切ったプレシアにトレインはハーディスを握り直す。「それしかない見てーだな。だが俺はあんたを倒すんじゃない、あんたを救ってやるんだ。」「!?」わずかにプレシアの瞳が揺れる。「過去っていう見えない化け物に取りつかれているあんたをな。」「いってくれるわね…ならやってみなさい。私は私の道をいかせてもらうわ。」そしてトレインが動き出そうとした瞬間。「なっ!?」「えっ!?」トレインは掃除屋時代の服装に戻り隣にはリニスがいた。「ど、どうなってんだ?」「わかりませんけど……ユニゾンが解けてしまったようです。」「おいおい、この状況でかよ?」