なのはの砲撃を受けたフェイトは気を失っていた。そしてそのまま糸が切れた人形のように海中に沈んでいった「フェイトちゃん!!」そのフェイトを追いかけるようになのはも海に向かって行った。薄れゆく意識のなかフェイトはトレインのことを思い出していた。(トレイン………。)彼を助けるためにも負けられなかった。だがあの子に負けてしまった。(もう……だめなんだ。)気がつくとフェイトはなのはに抱きかかえられていた。「大丈夫?飛べる?」なのはが心配そうにフェイトに問いかけるとフェイトは無言で頷いた。「大丈夫……。」その様子に安心したように安堵の表情を浮かべる。そしてフェイトに告げた。「私の…勝ちだよね?」「うん……。」そうフェイトがうなずくとバルディッシュからジュエルシードが吐き出された。なのはがそれに手で触れようとした瞬間それは起こった。以前フェイトを襲ったときと同じ、轟雷が辺りを包む。「次元干渉魔法を確認!!」「エイミィ、座標の確認!!!」「もうやってるよ、クロノ君。」慣れた手つきでパネルのキーボードを次々と打ちこんでいく。スクリーン上ではジュエルシードが空間移動をしようとしているところだった。「物質の空間移動は足がつきやすい。ずいぶんとあせっているみたいだな。」「おっけぇー、座標を確認しました。」「今すぐ座標を送ってくれ!!」そしてリンディも矢次に指示を送る。「武装局員は転送準備をして、目的はプレシア・テスタロッサの逮捕、および拉致されているトレイン君の確保よ。」十数人にも及ぶ武装した隊員が一斉に転送された。「ぐっ、カハァっ!!!」プレシアは玉座に座りながら嗚咽をもらしていた。そのしたには血が手からこぼれおちていた。「これ以上次元干渉魔法は無理だわ。体が持たない。」そう言って立ち上がりスクリーンに映るフェイトを見てつぶやく。「もう時間がない。それに今のでここの場所もつかまれたわ。」(フェイト、やはりあなたではダメみたいね。)そして玉座の裏に隠された一室に入って行った。一方のフェイト達はアースラの管制室にいた。なのはたちをともない武装隊がプレシア・テスタロッサのもとに向かう様子がそこには写されていた。「母親が逮捕される姿を見るのはつらいでしょう…。」リンディは悲痛な面持ちフェイトを見る。なのはもフェイトを慰めるようにそばを離れず手を握っていた。フェイトは母のこともあるがトレインのことが気がかりだった。アルフも気がかりだったし真実を告げようとしていたがなのはたちに止められていた。今そのこと告げてしまえばフェイトがどうなってしまうかわからなかったからだ。そして、武装局員たちはついにプレシア・テスタロッサのもとにたどりついていた。「プレシア・テスタロッサ、時空管理法違反及び管理局巡航艦攻撃の容疑で逮捕する。」プレシアはつまらなさそうに局員を見ながら玉座に腰かけていた。「フッ。」そして局員たちを嘲笑するように見ていた。局員たちはプレシアの周りを取り囲んでいた。ひとりの局員が何かを発見した。「こっちに何かがあるぞ!!!」「!?」そのひとことににプレシアは反応した。局員たちがそこに入ると奥に生体ポットらしきものがあった。その様子はサーチャーからスクリーン越しにアースラに送られてそりフェイト達の眼にも映っていた。そこに映し出されていたのはフェイトと瓜二つの少女がポットの中に浮かんでいる姿だった。「え!?なんで?」なのはは驚きながらフェイトのほうをみた。そのフェイトも固まっていた。局員たちがそれに近寄ろうとするとプレシアの怒号が飛びの一番近くにいた局員を吹き飛ばした。「私のアリシアに…近寄らないで!!!!」その瞬間プレシアの目つきが変わり武装隊員を睨みつける。局員たちは隊列を組み、もっている杖を構え「撃てぇーーーーー!!!」いっせいに魔法を打ち込んだが見えないプレシアのバリアに防がれた。そして「うるさいわね…。」杖を掲げたと思うと武装隊に紫雷が頭上から襲いかかった。「あぶない!!防いで!!!」リンディが叫ぶが間に合わない。雷が止むとそこに立っているのはプレシアだけになっていた。「急いで、局員の転送を!!!」リンディがあわてて指示を出し悔しそうに唇をかむ。仮にも相手は大魔導士と言われた女性。いくら優秀武装局員といえど目の前の相手をするには荷が重すぎた。プレシアはポット見ながらひとり呟いた。「もう駄目ね、時間がないわ。10個にも満たないロストロギアではアルハザードに辿りつけるかどうかわからないけど…。」そこで一息つきプレシアはスクリーン越しにこちらに話しかけるように言った。「すべて終わらせるわ。アリシアを亡くしてからの暗鬱な時間も、アリシアの代わりに作った人形を娘扱いするのも。」「えっ!?」フェイトはその一言に目を見開いた。「フェイト、見ているわね?」「か、母さん?」「艦長、サーチャーが乗っ取られました。」こちらから映像のコントロールが利かなくなったようだ。フェイトは助けを求めるようにそのスクリーンを見る。しかし、それはかなわなかった。「聞いていてフェイト?あなたのことよ?」「!?」フェイトは震えるように反応した。プレシアは冷酷に告げる。「せっかくアリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ。役立たずでちっとも使えない私の…お人形。」エイミィは顔をうつむき加減にしながら口を開く。「プレシアは最初の事件の時に娘の…アリシア・テスタロッサを亡くしているの。そして彼女が最後に行っていた研究が…使い魔とは違う、使い魔を超える人造生命の研究。」「「「えっ!?」」」「そして死者蘇生の秘術。フェイトっていう名前は当時彼女の研究につけられた開発コードなの。」「よく調べたわね。そうよ、その通り。」プレシアはポットを愛おしそうになでながら答えた。「でも、ちっともうまくいかなかった。作り物の命は失ったものの代わりにはならないわ。」そして憎たらしいといわんばかりの視線をスクリーンに送りながら言った。「アリシアはもっと優しく笑ってくれた、アリシアはいつも私に優しかった、アリシアは…。」「やめて…。」なのはは震える声で呟く。しかしプレシアの言葉が止まることはなかった。「フェイト、やっぱりあなたはアリシアの偽物よ。せっかくのアリシアの記憶もあなたじゃだめだった。」「やめて、やめてよ!!」「あなたは私がアリシアをよみがえらせる間、慰めるお人形…。」「もうやめてっ!!!」なのはが必死に叫ぶ。フェイトは体を震わせながら、顔をうつむせながら聞いていた。(私は…私は…。)「フェイト最後にいいことを聞かせてあげるわ。私はあなたを作りだしてからこれまでずっとあなたのこと………大っ嫌いっだったのよ!!!」フェイトは崩れ落ちるようにその場にうずくまった。しかし、プレシアは思い出したように告げる。「ああ、そう。あなたのお友達のトレイン君。彼を傷つけたのは管理局ではないわ、この私よ。」「えっ!?」フェイトは視線をあげその言葉を聞く。信じられないような目をスクリーンに向ける。「あなたを効率よく動かすための道具になってもらったわ。」それを聞いたなのはが聞いた。「トレイン君は?トレイン君はどうなったの?答えて!!!」ふる絞るようになのはが叫ぶ。「さあ、ろくな治療もしなかったから…たぶんベッドの上でのたれ死んでいるんじゃないかしら?」「な、なんだって?」アルフが怒りにふるえながら拳を握る。隣にいるユーノも信じられないという表情でスクリーンを見ていたが体が震えていた。プレシアはとどめを刺すようにフェイトに言った。「フェイトあなたがうまくやらないから、あなたのせいであの子は死んだのよ。」「!?」そしてフェイトの瞳から光が消えていった。「庭園内に魔力反応多数っ!!」モニターに映し出されるレーダーを見てエイミィが叫んだ「何だ、何が起こっているっ!?」 食い入るようにモニターを見つめるクロノ。、次々とモニターが映し出されていく中で庭園の各所から鎧をまとった騎士のようなロボット…傀儡兵が出現した。「庭園敷地内に魔力反応、いずれもAクラス!」「総数60…80…まだ増えています!」「プレシア・テスタロッサいったい何をしようというの?」「私たちの旅を邪魔しないで…。」そう言うとプレシアはアリシアの入ったポットを切り離し空中に浮かべ玉座の間に歩いて行った。「私たちは旅立つの。忘れられし都、アルハザードへ。」そう告げると高らかな笑い声をあげた。「まさか!?」「すべてを取り戻すの、この力で…。」ガンッ!!!!!プレシアの言葉の途中で一発の銃声が響いた。カンッ、カンそれは命中するはずだったがバリアによって阻まれた。しかし、撃った人物はそんなことはわかりきっていた。スクリーン越しに銃声を聞いていたなのはたち。「今のって銃声…。」ユーノがつぶやく「あんなもの使ってるのって…。」アルフも信じられないという感じで呟く。「うん、そうだよ!!」プレシアは信じられないものを見るような表情だった。どう考えてもあれだけのダメージを負っていた人間がこの短時間で回復するはずがない。しかし、目の前にいるのは幻でも目の錯覚でもない。それは目の前に落ちている銃弾が証明していた。「不吉を…届けに来たぜ。」掃除屋時代の服を身にまとったトレインだった。「か、彼はいったい?」クロノが驚愕の表情でモニターを見ていた。彼が生存していたことに驚いていたのではない。驚くべきは彼の姿だった。クロノが知っているトレインはおおよそ10歳前後の少年だったはず。しかし、モニター上に写っている彼はどう見ても20は超えているであろう青年だった。「なのはさん?これはどういうこと?」リンディはなのはに問いかける。ユーノが代わりに答えた。「あれが彼の本当の姿なんです。詳しいことまではわかりませんけど。」一方、対峙しているプレシアとトレインは「ずいぶんと大きくなったのね?」「ああ、あんたに借りを返すためにな。」トレインはゆっくりと玉座に座るプレシアに近寄った。そして辺りを見回すように視線を動かしプレシアに聞いた。「この様子は管理局の連中は見てんのか?」「そのようね、いまさらここを監視されようとも関係ないわ。」「OK、リンディ聞いてたな?俺はこいつと掃除屋としてここでけりをつける!!一切の手出しはすんな!!!」それと同時進行で念話がリンディたちに聞こえてきた。(プレシアは次元震を起こしてアルハザードとかいうとこに向かうつもりらしい。俺がこの場で戦っていれば少なくとも時間稼ぎにはなるはずだ。)「そんな無茶よ!!」リンディは叫んだ。それはそのはずだ、相手は大魔導士プレシア・テスタロッサ。トレインもAAランクの実力を有しているかもしれないが最後に残っている資料から相手はそのさらに上をいく総合SS以上。戦闘向きではないとはいえトレインとの魔力量の差は歴然としていた。管理局のほんの一握りの人間しか彼女と一対一ではまともに戦えないだろう。リンディがトレインを思いとどまらせようとしたときにエイミィが報告する。「か、艦長。」「どうしたのエイミィ?」「トレイン君のデータが…。」エイミィは少年の時の姿のトレインの戦闘データを現在のトレインの体に認証させ暫定的な戦闘データを算出していた。モニター上に現れた結果は(陸戦S+)陸戦という限定つきながらの数字だがなのはたちより絶対数が少ないオーバーSランクの領域に彼は魔法なしで踏み込んでいた。この結果にはクロノも驚くしかなかった。魔法は魔力量だけではない。自身がエイミィにいったことを目の前の彼は体現していた。嫉妬心すら浮かぶほどクロノがあこがれた強さをトレインは持っていた。「うだうだ言ってる暇があったらとっとと対策でもねっとけ!!」(なのは、ユーノ。お前らには心配掛けたな。だがこれで終わりにしてやるから安心しな。)「「!?」」なのはとユーノははっとモニター上に映るトレインを見た。「トレイン君…。お願い、絶対に負けないで。」「トレイン、僕となのはは君が勝つと信じてるよ。準備ができ次第、僕らもそっちに向かう。」二人はうなずき合って走り出そうとしたが「待てっ!!」クロノの一言が二人を止める。クロノはモニターに視線を向け行った。「僕ら管理局は君に従う義務はない。手出し無用という君の意志は僕らには関係ない。」「なっ、クロノ!?」ユーノが食ってかかろうとするがクロノが手で制する。「ただし、僕らがその場に到着するまでの裁量は君に任す。それでいいな?」トレインはその言葉を聞いて笑った。「OKだ。お前にしちゃずいぶんと甘い話だ。」クロノとしてもこれがトレインにしてやれる最大の譲歩だった。「あと執務官殿、一応俺は掃除屋だ。報酬のほうも頼んだぜ?」「「へ!?」」この状況で何を言い出すのかとなのはとユーノは呆気にとられたが「無事事件が解決したら本局に掛け合ってみるよ。」「頼んだぜ~。」そしてクロノは転送装置のほうに走り出した。「ま、待ってクロノ君。」それを追いかけるようになのはたちもクロノについていった。その場にうずくまるフェイトにトレインは念話越しに話しかけた。(フェイト…お前のことは聞かせてもらった。信じてたものに裏切られたんだ、ショックだとは思うぜ。)トレインの言葉はフェイトには届いていたが目はうつろなままだった。そんなことはお構いなしにトレインは続ける。(だけどよ、お前の価値はプレシアに認められなかっただけでなくなっちまうようなもんか? ちげぇ、お前をアリシアじゃなくてフェイトとして認めてるやつはいるだろ? 少なくともアルフやなのははフェイトであるお前が好きになったんだ。アリシアじゃなくてな。 それになプレシアに否定されたからと言ってお前までそれを否定する必要はない、しつこいくらいに貫き通すんだ。)フェイトの眼から徐々に光が戻って行った。「トレイン…。」(俺はひたすらまっすぐで純粋なお前は嫌いじゃなかったぜ。俺から言えるのはここまでだ。)そう言って念話を切り上げたトレイン。フェイトは立ち上がり手にある砕けたバルディッシュを見ていた。「フェイト…。」アルフが心配そうに肩を抱いた。フェイトは目を閉じ決意したようにバルディッシュを握った。するとバルディッシュは輝き復元し始めた。「アルフ、行こう母さんの元に、トレインの所に。」「フェイト?…うん!!!」リンディたちはフェイト達を止めることはせずそのまま見送った。するとエイミィがつぶやいた。「艦長、トレイン君って魔法が使えませんでしたよね?」「そうだけど?どうかしたの?」「普通に念話使ってませんでした?」「もういいかしら?」「ああ、待たせちまったな。」プレシアも玉座から降り杖を構えた。トレインがプレシアのことを認めているようにプレシアも目の前のトレインのことを決してなめてはいなかった。少年の姿の時から感じていたプレッシャーはさらに大きくなり、自信に満ちた目は変わることなく輝いていた。「戦う前にあんたに会いたい奴がいるんだが?」「私に?」トレインは頷いた。「あんたのことを詳しく教えてくれた。あんたもよ~く知っている奴だぜ?」そうトレインが言うと二人の間に一人の女性が現れた。「あなたは…」「久しぶりですね、プレシア。」そこにあらわれたのはプレシアのかつての使い魔であったリニスだった。プレシアはすこし驚いていたがすぐさまいつもの視線に変わりリニスを見た。「なぜ?契約を終え、消滅したあなたがここにいるのかしら?」「確かに私は役目を消滅しました。けど、ひとつだけ…フェイトへの心残りでわずかな魔力と魂だけは残っていたの。」プレシアは興味なさげにリニスを見る。その視線はおもしろくないものを見るようであった。「それで?私に文句でもいいに来たのかしら?あなたは使い魔のくせによく私に文句を言っていたわよね、あの人形に優しくしろとか。」リニスは冷静にプレシアに言い返す。「いいえ、あなたを止めに来ました。」「止めに?」「あなたがアリシアを思う気持ちはわかります。けどあなたはやり方を間違えた。」毅然と言い切るリニスにプレシアは「黙りなさい。私を止めるですって?以前のあなたならいざ知らず今のあなたは以前より弱くなっているじゃない。」「確かに、私は以前より弱くなっているかもしれません。けど私はサヤさんとここにいるトレインさん…いえ、マスターの力で生まれ変わったんです。」「そこの坊やの使い魔に?確かに魔力はそこそこあるみたいだけど私と比較したらずいぶんと脆弱なものには変わりはないわ。」リニスは首を振り言った。「私はあくまでマスターの手伝いをするだけです。それに私は使い魔として生まれ変わったわけではありません。」「なんですって?」そう言ってトレインのそばによる。「ありがとうございます。私のわがままを聞いていただいて。」「正直、あんま気は進まないんだけどよ。」「そう言っていながら私のお願いを聞いていただけるマスターが私は好きですよ?」トレインは頭をかきながら照れくさそうに「あと、マスターはやめろ。はずい。」「わかりました。マスター。」笑顔でそういうリニスにトレインはあきらめ顔でうなだれた。そしてハーディスを抜き構えた。「ぶっつけ本番でいくか!!」「はい!!」「セットアップ!!!」そうトレインが言うとトレインの体は光に包まれ始めたあまりの光に目を隠していたプレシア。目が慣れ、トレインたちに視線を向けるとそこに立っていたの先ほどまでのトレインではなかった。象徴的だった彼の金色の瞳はそのままに、もともと黒交じりの髪は一部にリニスの色が混じったものに変わっていた。そして黒猫時代の黒一色のロングコートには白と焦げ茶色のラインが入っていた。「バリアジャケットを生成した?いえ、それだけではないわね……まさか?」「その通りだぜ、俺はいまいちわからんがユニゾンとかいうやつらしいな。リニスがそう言ってるぜ?」「融合機…ユニゾンデバイス。」