(ここは?)意識を取り戻したフェイトは起き上がり辺りを見回した。そこは時の庭園におけるフェイトの寝室であった。「アルフがここまで運んでくれたのかな…。」まだからだに残る傷跡を見つめながらフェイトは立ち上がった。そして部屋を出ていこうとしたところで突然ドアが開いた。「フェイト…。」「か、母さん!?どうしたの?」突然やってきた母にフェイトは驚きを隠せなかった。母から訪ねてくるなんてフェイトの記憶からは覚えはなかった。恐る恐る、しかし少しの期待を抱きながらフェイトは母親に近づいた。プレシアは大げさに溜息をつくように、優しげに言った。「フェイト、落ち着いて聞いてちょうだい。あなたの大切なお友達が来ているのよ。」「ともだち……?」フェイトの頭にふとよぎったのはなのはのことだった。ろくに返事をすることもできずに終わってしまっていたが母が言っているのはなのはのことなのだろうかとフェイトは思った。しかし、危険な状態とはどういうことだろうか?フェイトは嫌な予感がしていた。プレシアは要領をえないフェイトに構わず言った。「ええ、こっちに来て頂戴。」プレシアはそのまま部屋を出て行った。フェイトもそのあとを追うようにプレシアについていった。プレシアについていくとそこは昔はよく来ていた部屋だった。自分に魔法を教えてくれた、師とも育ての親とも言える使い魔がいた部屋であった。「さあ、おはいり。」いつになく優しい母に嬉しさを感じる反面不気味でもあった。恐る恐る部屋の中に入っていくフェイト。そして部屋の中を見ると以前と、かつて訪れた時と変わらない状態の部屋だった。しかし、ベッドのほうに目を向けると誰かが横になっていた。その人物はなのはではなかった。あちらこちらに痛々しい傷を残し額からは包帯ににじんでいるほど出血をしているトレインだった。「と、トレイン…?」フェイトは呆然としていた。それはそうだろう。二日前、体調を崩した自分に見舞いに来てくれた彼がベッドで横になっている。なぜ?どうして?彼がここに?さまざまな疑問がフェイトの頭の中によぎった。呆然とするフェイトの様子に満足するようにプレシアは微笑んだ。そしてフェイトに告げた。「彼はね、あなたのためにってジュエルシードを集めているところを管理局の人間にやられてしまったようなの。」「!?」その言葉にフェイトは反応した。プレシアはフェイトが体調を崩していた時偶然にもその様子を見ていた。トレインがフェイトを見舞い、休むように説得する際した約束を(今日一日ジュエルシードが発動しようものなら俺とこいつで確保するからいいだろう?)あのあと眠りについてしまったフェイトはトレインの動向は知らない。管理局とも接触していたが彼らもトレインの居場所をつかんでいないとフェイトは知っている。プレシアとしては白い魔導士がやったことにしてもよかったのだが彼女は彼の様子を確認していることから接触してないことがわかってしまう。ならば面識のない彼が属することを拒否した組織に押しつけてしまえばいい。プレシアはそう考えた。そうすることでフェイトは管理局に対していい感情は覚えないだろう。そしてジュエルシードを管理局と対立することを厭わずに集めることに集中するだろうと。実際、ほとんどプレシアの思惑どりことは運んでいた。フェイトはトレインの手を握りしめ胸で抱えるようにしていた。「ごめんね……。本当にごめんね…。」消え入りそうな声で、震えるような声でフェイトはトレインに謝罪していた。あの暖かかった手は傷だらけで冷たくなっていた。(私は…トレインからもらってばかり。私は何にも彼にしてあげていないのに。)罪悪感に苦しむフェイトにプレシアは残酷に告げる。「彼はこのままじゃ助からないわ。」「!?」その言葉を聞いた瞬間フェイトは凍りついた。(か、母さんはなんて言ったの?)コノママジャトレインハタスカラナイ?今まで乏しい人間関係しかなかったフェイトにとって初めて自分から接点をもったトレインがいなくなることは恐ろしかった。何より自分の頭を撫でてくれた温もりをなくしたくなかった。その様子をみてプレシアはたたみかけるように言う。「でも、ジュエルシードの力を使えば助かるかもしれないわ。」「本当ですか?」「本当よ、だからフェイト…あと最低でも5個、できればそれ以上ジュエルシードが必要なの。」「五個…。」それは残っているジュエルシードを集めるだけでは足りない。管理局の人間から奪わなければ集まらない数だった。「難しいとは思うわ、けど私としても娘であるあなたの友達を助けてあげたいと思っているの。」「トレインを助ける…。わかりました。」そう呟いた時にはフェイトには迷いが消えていた。立ち上がりトレインを見る。(今度は私が……。トレインのために…。)フェイトはベッドから離れ、部屋から出て行こうとしたときアルフの気配がないことに気がついた。プレシアと一緒にいるときは近くにいないことが多いがこの時の庭園にもいない。「アルフなら逃げ出したわよ。」プレシアはフェイトにそう言った。「もう痛いのも怖いのもやだと言って出て行ったわ。」「………。」「フェイト…。なんならもっといい使い魔を作ってあげるわ。だから、母さんのお願いをお友達を助けてあげて?」そっとフェイトに近づき抱き寄せるようにして言った。「あなたの本当の味方は母さんだけよ?」「はい、母さん…。」そう言ってフェイトは出て行った。そしてバルディッシュを手に時の庭園から転移していった。フェイトがいなくなったトレインが眠る部屋ではプレシアが笑っていた。「本当に馬鹿な子。こんな単純なウソにだまされるなんて。」プレシアはおかしくてたまらないようだった。狂気に満ちた笑顔を浮かべ続ける。「大魔導士である私がこの程度のけがを治せないと思っているのかしら?」実際トレインの状態は危険に変わりはないがプレシアをもってすれば治せないことのない状態だった。「さて、これでこの子の仕事は終わったのだけど…。」プレシアは黙ってトレインを見つめていた。放っておけば危険に変わりはないが彼がどうなろうとプレシアにとってどうでもいいことだった。「まあいいわ放っておいてもいいでしょう。どうせまともに動くこともできないでしょうし、放っておけば勝手に死ぬわ。」そう言ってプレシアは部屋を出て行った。トレインの体からナノマシンの輝きが出ていることも気付かず。トレインは夢の中にいた。正確にいえばいたような気がしていた。ただ真っ白な世界が広がる自分以外誰もいない空間にトレインは立っていた。そこはトレインにとって見覚えのある景色だった。(またここか?)以前クリードとの戦いを終えた時みた景色。この世界に来るきっかけ作った、自分に自由な世界を教えてくれた女性がいた景色だった。そしてトレインの後ろにひとつ気配があった。振り向きざまにその人物をみたがその人物はトレインが想像した人物ではなかった。「……誰だ?」見覚えのない、女性がそこには立っていた。年は自分と同じくらいか若いくらいだろうか?その表情は穏やかで慈愛に満ちていた。ゆっくりとこちらに近づいてくるその女性は立ち止まりゆっくりとお辞儀をして口を開いた。「あなたがトレインさんですね?」「ああ、そうだぜ。あんたは誰だ?俺はあんたを知らない。」「私はリニス、かつてプレシアの使い魔だったものです。」トレインはリニスと言った女性を見回してみたが特に人間と違うところはない。まだ使い魔というものの概念を理解していないトレインには普通の人間と変わらないと感じていた。「ふ~ん、でその使い魔が俺に何の用だ?あんま時間もないみたいだから手短に頼みたいんだが?」「その心配はありません、こちらでいくら過ごそうと現実ではほんの一瞬の出来事ですから。」「……わかった。なんか事情がありそうだな。」トレインはその場に座り込んだ。リニスも向かい合うようにトレインの正面に座った。「お話しというのはあなたにお願いがあるのです。」「お願い?」「はい、私の主人…いえ主人だった人を止めて、フェイトを救ってほしいのです。」リニスはトレインをまっすぐに見据え言った。「あんた、プレシアの使い魔だったって言ってるがあんたはここにはいないのか?」「はい、しかし私は現実にはもう存在しません。役目を終え契約を解いたとき私は消滅しましたが魂だけは、残留思念とでも言える形でここに残っていたのです。」トレインは何となくだが納得は言った。ここがサヤと話をした世界と限りなく近いことを考えれば魂だけの存在の女性がいてもおかしくない。「使い魔って言うのがどういうもんかよくわからないんだが?」「使い魔は生物を素体とし擬似的な魂を与えることで誕生する魔法生物です。私の場合はアリシアが飼っていた山猫を素体として作られました。」そこで聞き覚えのない人物の名前ができた。「アリシア?」「これから説明するお話に深くかかわってくる子です。プレシアを凶行に走らせているのはこの子の存在なんです。」リニスは表情を暗くし語りだした。「プレシアはかつては魔法技術研究に携わる研究者でした。お分かりだと思いますが魔導士として非常に優秀でした。大魔導士として尊敬される立場にありました。」確かに戦ってみたがなのはたちとは一線を画すくらいの実力は持っていた。おそらく魔法の世界でも指折りの魔道士なのだろうとは感じていた。「結婚もしていましたが夫のことは詳細は分からないのですがプレシアは一人の娘を授かりました。その子がアリシアです。」「フェイトじゃないのか?」「はい…。それについてはこれから説明します。」そう言われたのでトレインは黙って聞くことにした。「アリシアは魔法の資質は持たないものの明るく活発な子でした。」(性格的にはフェイトのま逆だな)「そんなアリシアをプレシアは深く愛していました。二人は父親がいないものの幸せに暮らしていました。」リニスは一息おき、口にするのもつらそうな表情で告げた。「でも、そんな幸せも長くは続きませんでした。たまたま仕事の現場を見学していたアリシアがいる時に実験事故が起こったのです。」「事故?」「はい、その事故に巻き込まれてアリシアは亡くなりプレシアは責任を取らされるかたちで異動させられました。」トレインは何となくだが事情が読めてきた気がした。娘に深い愛情を持っていた母親。実験事故による娘の死。今いるフェイトに対するプレシアの行動。「プレシアは悲しみに暮れるなかアリシアを忘れることができず禁断の技術に手を染めました。」「プロジェクトF.A.T.E」「!?」トレインはその言葉を聞いた瞬間自身の推測はほぼ確信に変わったそんなトレインを見てリニス続ける。「もうお気づきかもしれませんがこれはあなた達の言葉でいえばクローン。生命操作技術の一つです。その結果生み出されたのがあの子、フェイトなのです。」「………。」予想はほぼ当たっていた。クローン技術、トレインの世界でも非合法に運用されていた。その最たる存在が掃除屋仲間のイブだった。(姫っちは兵器、フェイトは死んだ娘の身代わりか…。)どちらにしても勝手に作られたほうとしてはたまったもんじゃない。「この技術ではクローニングした素体に記憶を定着させる事により、従来の技術では考えられない程の知識や行動力を最初から与える事が出来ます。しかし完全な再現まではどうしてもできなかった。」「そりゃそうだ。どんな形で生まれたにせよそいつと全く同じそんじなんてありはしねーんだからな。」リニスも同意するように頷く。「トレインさんの言う通りだと思います。しかし、プレシアにはそれが許せなかった。次第にフェイトにつらく当たるようになっていき教育係を私に任せました。」「歪んでんな。」トレインは苦々しい表情でつぶやく。「そしてプレシアはもう一つの可能性を見出しそれにかけることにしたのです。」「もう一つの可能性?」「忘れられし都アルハザード。次元世界の狭間に存在するとされる世界で、そこには時を超え、死者さえも蘇らせる秘術があるといいます。ですがその存在は伝説上のものとされ、実在しないというのが通説です。」死者蘇生。現実ではありないことだ。(あの女は取り戻そうとしてんのか…自身が幸せだった過去を。)「アルハザードに辿りつくには大規模な次元震を引き起こす必要があって「そいつのためにフェイトにジュエルシードを集めさせてるのか。」…はい。」大筋な事情がわかった。すべての元凶は過去の事件。それによって娘を失った母親の狂った愛情が今回の一連の事件を引き起こしている。「私はプレシアを止めてほしいのもありますがこれ以上フェイトに傷ついてほしくないんです。」リニスはトレインの手をとり必死に頼み込む。「お願いです、あの子をフェイトを救ってあげてください!!!」その眼に大粒の涙が浮かんでいた。トレインはフェイトのためにここまで真剣になれるリニスがフェイトの母親ではないかと思えてきた。トレインはリニスに頼まれるまでもなく決めていた。「心配すんな、あんたに頼まれなくてもあの女とはけりをつけるつもりだ。」トレインは立ち上がりそう言った。(あいつは過去に縛られているだけだ。かつての俺みたいにな。)トレインにはプレシアの気持ちがわからなくもなかった。失いたくない人を失ったということに関してはプレシアもトレインも同じだった。「…プレシアと戦うんですね?」「ああ、説得でどうにかなる相手じゃねえだろ。心をへし折って間違いを認めさせる。」「わかりました。」そう言うとリニスはトレインの手を取った。「あなたは強い。ですがこのままプレシアと戦うには危険すぎます。」「どうしろって言うんだ?」「私が……力をお貸しします。」トレインの右手に両手を添えるとリニスは言った。「今回こうしてあなたに話しかけられたのもサヤさんのお力があったからなんです。」「サヤが?」「はい、あなたであれば力になってくれると。」「そうか…。あいかわらずおせっかいなやつだな。」リニスはくすくすと笑い「でも私はサヤさんに感謝してます。こうしてあなたとお話しする機会を作っていただいたのですから。」するとリニスはトレインにつぶやき光となって消えた。そしてトレインの意識もそこで途切れた。一方アースラではリンディがなのはとユーノを会議室に呼んでいた。以前の命令違反の件の叱責もあったがリンディには聞きたいことがあった。「まあ今回の件はこのくらいにしましょう。」覚悟していたとはいえ怒られることになれていない二人は頭をさげ落ち込んでいた。「次に聞きたいことがあるのだけれどいいかしら?」二人は顔をあげリンディを見る。「彼、トレイン君について知っていることを聞かせてほしいの。」「え?トレイン君ですか?」なのははすこし戸惑い気味に聞き返した。リンディは頷き続ける。「エイミィ、戦闘データを映してくれる?」「はい!!えーとあの子データはっと!!」そこに映し出されたのは以前大樹と戦った時の映像だった。「あなたたちのデータを見たところ素晴らしい才能をもった魔導士と言えるわ。」「え、そうなんですか?」なのはが意外そうに答えた。ユーノはなのはに苦笑しながら「無自覚なところが恐ろしいねなのはは。」リンディも苦笑しているが、クロノだけはおもしろくなさそうにしていた。「実際あなたとあのフェイトちゃんに関して言えば管理局でも5%ほどしかいないほどの資質を持っているわ。」なのははただ驚くだけだった。自分にそんな才能があるだなんて夢にも思っていなかった。魔法はユーノのお手伝いのための必要なものだったそれだけだったのだ。「でも、問題は彼なの。」スクリーンの映像がトレインをアップにしていた。「彼も平均以上の資質を持っているわ。けどデバイスを持たない彼は魔法が使えないはず…。」「なにか問題でもあったんですか?」ユーノはリンディに問いただす。リンディは困ったように答えた。「問題というほどではないわ。ただ彼は魔力を行使していないのにもかかわらずなのはさんよりワンランク下、AAランクの魔導士の実力を持っているのよ。」「な!?」「!?」いまいち要領を得ないなのはと驚きを隠せないでいるユーノ。「これは普通ではありえないこと。魔力で身体能力を強化しているわけでもないのその能力はトップクラスと言えるわ。」そしてクロノが続けざまに言う。「この世界の人間がそうなのかと思って調査を進めたがここに住んでいる人たちはみな僕らと同じ、一般的な人間が持つ身体能力しか持たないことがわかった。」ユーノは立ち上がり口を開いた。「わかりました。僕らの知る限りのことを教えます。」「ゆ、ユーノ君!?」そう言ったユーノになのはあわてて止めるようにするがユーノは手で制して念話で言った。(大丈夫、彼の過去については言わないよ。)(え!?)(彼が次元漂流者であることはいずれ伝えておかないといけないと考えていたからそれを教えるだけさ。)(そっか、そうだよね。)(間違っても僕らを信用して話してくれた過去を話す真似はしないさ。)そしてユーノは説明できる限りのことを説明した。突然この世界にたどりついたこと。この世界に来た時なのはが助け出し家で保護したこと。こちらに来るまでは賞金稼ぎをやっていたことなど当たり障りのないことだけを簡潔に述べた。「そう、彼が次元漂流者だったんてね。」リンディは同情するように呟いた。クロノも腕を組み難しい顔で言った。「それは確かに災難なことだ。実際に彼の世界を探すのも簡単な話じゃない。」「こちらで保護するという形もとれるけど彼は納得しなさそうね。」その後なのはたちは一時帰宅を許可され自宅に戻ることになった。メールですずか、アリサに連絡をとった。そのアリサは迎えの車で家に帰宅途中だった。運転手である鮫島という老人がアリサの表情がほころんだことをバックミラー越しにみて言った。「アリサお嬢様なにかいいことでもございましたか?」「別に普通のメールよ。」なんでもないようにそっけなく答えるアリサだったが内心なのはからのメールは嬉しかった。表面上は不機嫌そうにして窓を眺めていると何かに気がついた。「鮫島!!車を止めて!!」「は、はい。かしこまりました。」そう言われ鮫島はブレーキを踏んで車を道の脇に止めた。アリサは急いで車から降り舗装されていない土の道を進んだ。そこには血を流しながら息を荒くしているアルフだった。「やっぱり大型犬だわ。」「どうやらひどいけがをしているようですな。」「鮫島!!」「かしこまりました。」そういって鮫島は車のほうに向かった。アリサはアルフのほうに近寄り言った。「大丈夫すぐ助けるわ。」アルフは朦朧とする意識の中で目の前の人物を見ていた。(だ、だれだい?)そしてそこで意識はなくなった。アルフが意識を取り戻すとそこは檻の中だった。ところどころ痛むところはあるが包帯を巻かれているところをみると誰かが治療してくれたのだろう。すると檻のそとから少女の声がした。「気がついたみたいね。」そこにいたのは以前温泉でなのはにからんだとき食ってかかった勝気そうな少女だった。「お医者さんが見てくれてひどいけがだったみたいだけどもう大丈夫だってさ。」少女は優しい笑顔をみせアルフに話しかけかける。少女の横には少女が飼っているであろう犬が周りを囲んでいた。そして少女は檻を少し上げドッグフードの入った器を差し出した。「ほらお食べ。」アルフは恐る恐る口にしていたがすぐさま勢いよく食べ始めた。「ははは、そんなに食欲があるんじゃもう大丈夫ね。」嬉しそうにその様子を見るアリサだった。一方、なのはは家にもどったあと心配をかけていた友人二人と会う約束をしていた。その際トレインも連れて来いとアリサに言われたがトレインは行方知らず。なのはは二人に心配かけまいとトレインだけ用事がありまだ戻ってこれないと嘘をついた。そして今なのははアリサの家で久しぶりに友人とゆっくりとした時間を過ごしていた。「それにしても心配したんだよ。」「ごめんね、すずかちゃん、アリサちゃん。」「な、別に私は心配なんかしてないわよ。それよりあいつは何してんのよ?」アリサは用意してあった席が空席になっていることが気に食わない様子だった。なのはとしても説明しにくいことなので苦笑するしかない。「そうそう、昨日帰る途中で変わった犬を拾ったの。」「変わった犬?」「そう、オレンジ色の大型犬なんだけど怪我してて今庭の檻の中にいるの。」(オレンジ色?)なのはもしやと思った。アルフもオレンジ色をしたオオカミの形態をとっていた。「なに?なのはも気になるの?」「う、うん。少し見てみたいかな?」「そうだね私も見てみたいかな。」「じゃあ、庭のほうに行きましょう。」アリサについていくとそこにいたのは檻の中にいる怪我を負っているアルフだった。「この子よ。結構ひどいけがだったけど今はもう落ち着いたみたいだから心配はいらないみたい。」「そうなんだ、でも本当に大きいね。ね、なのはちゃん。」「うん…。そうだね。」なのははどうしてこんなところにいるかを聞きたかったがアリサたちの前で魔法の話をするわけにもいかない。するとユーノが念話越しにいた(なのは、彼女からは僕が事情を聴いてみるから行って大丈夫だよ。)(ありがとう、ユーノ君。)そしてアリサたちと建物の敷地内に消えていった。「どうしてこんなところに君がいるんだい?」ユーノはアルフに話しかけた。「この状況は管理局の連中も見えてるんだろ?」「うん、多分ね。」ユーノとしては確信はできないがおそらく見ているだろうと思っていた。事実クロノ達はこの様子を見ていた。アルフは悔しさの余り歯ぎしりをしながら涙を流した。その姿にユーノはあわて始めた。「ど、どうしたんだい?落ち着いて。」「ごめん、本当にごめんよ。」アルフは突然謝り始めた。ユーノとしては何が何だかわからなかった。「フェイトとトレインを助けてやってくれないか?私の知っていることは何でも話すから。」「今、なんて?」フェイトという少女はわかるがなぜここでトレインの名前が挙がるんだ?ユーノはわけがわからなかった。なのはと合流してアルフを伴いアースラに乗艦するとそこにはクロノとリンディが待っていた。クロノがアルフに近づき「君の知っている限りのことでいい。話してくれるね?」「ああ、ここまで来ておいて逃げる気はないさ。」なのはとユーノからしてみれば一刻も早く状況を知りたかった。そしてアルフはここまで起きたことを語り始めた。「じゃあトレイン君は…。」「ああ、多分あの女に捕まってる。」その言葉になのははいてもたってもいられなった。しかし、そばにいたユーノが服をつかんで止めた。「ユーノ君!?」「彼が今どこにいるかもわからないのにどうするんだい?とりあえず落ち着いて話を聞こう。」ユーノの言葉にクロノも同意する。「ユーノ言う通りだ。それに彼女の言葉通りなら彼はまだ生きている可能性が高い。」「ああ、あの女はトレインのことを利用するって言った。だからまだ無事だとは思う…。」そこでアルフは声を落とす。リンディが代わりに答えるように続けた。「でも、プレシア・テスタロッサとの戦闘で受けたダメージはかなりのものなのね?」アルフは力なくうなずいた。「あいつは私をかばって、フェイトを助けようとしてあいつと戦ってくれた。けど私は……。」そう震えながら涙をこぼすアルフ。そして先ほどまで取り乱しかけていたなのはが近づきアルフの涙を拭いた。「えっ!?」アルフはなのはの行動に驚いた。罵声でも浴びせられ罵られるとも思っていたが目の前の少女は笑って言った。「アルフさんのせいじゃないです。すくなくともトレイン君はそんなふうには思ってないはずです。」「そうです。それに彼はまだ生きてるはずです。」「あ、あんたたち。」「これで今回の件の黒幕ははっきりしたな。」「ええ、あとは相手の居所だけね。」ピィーーーーーーーッ!!!警報のアラームが鳴るとエイミィが叫んだ。「艦長、ジュエルシードの反応があります。」「なんですって?」リンディはあわててスクリーンに目をやる。そこにはジュエルシードのほかに空中にたたずむフェイトの姿があった。「フェイトちゃん!!」「フェイト!!!」フェイトはジュエルシードを手にするとその場から離脱せずにまるでこちらを待っているようにその場にとどまっている。その行動にクロノは顔をゆがめた。「彼女はいったい何をしてるんだ?まるでこちらがやってくるのを待っているようだな。」リンディからしても不審な行動だったが彼女を止めるまたとない好機だ。「なのはさん、ユーノ君。急いで現場に向かって彼女を止めてあげて。」三人は頷きすぐさま転送装置に向かう。「待って!!私も行くよ。」アルフもそれに加わろうとする。「アルフさん、あなたはまだ怪我が…。」リンディがアルフを心配して止めようとするが「大丈夫、あいつに比べたら私の怪我なんて…。それにフェイトのことはほっとけないよ!!」その姿をみて説得は無理だと考えたリンディはエイミィに指示を出した。「転送してちょうだい。」「了解。」「アルフさん、無理だけはしないでちょうだい。なのはさんたちも気をつけて。」三人はフェイトのもとへと急いだ。「来たね…。」「フェイトちゃん…。」四人の前には以前よりもさらに冷たい目をしたフェイトが待ち構えていた。すでにバルディッシュを構えバリアジャケットも装着している。「大体の事情は彼女から聞いた。情状酌量の余地も十分にある。今からでも遅くはない、投降するんだ。」クロノがそう呼びかけるがフェイトは首を振る。そんなフェイトにアルフは叫ぶ!!「どうしてあんな女なんかのために?もういいじゃないか?」「アルフ……。それでも私のたったひとりの母さんだから。それにトレインのためにも…。」「トレイン君?」なのはがそう聞き返すがフェイトはそのままバルディッシュを四人につきつける。「トレインのためにも負けられないの!!!」その瞳は冷たかったが決意に満ちたものだった。「トレインは…。」アルフが何か言おうとしたがなのはが手で制した。そしてレイジングハートを構え封印してきたジュエルシードを浮かべる。フェイトもそれに習いジュエルシードを浮かべる。なのはは悟っていた。この決意は言葉だけでは止められない。戦うのは、争うのは嫌だけどこのままでは前に進めないとわかったなのフェイトに告げる。「ただ捨てればいいってわけじゃないよね?逃げればいいってわけじゃもっとない。」(信じてることは捨てるんじゃねぇ。信念を曲げるんじゃねぇ。)「………。」「きっかけはジュエルシード、だから賭けよう。お互いの持っている全部のジュエルシードを!!!」なのはもレイジングハートを構えフェイトと対峙する。「それからだよ。全部それから…。」「クロノ君いいの?」エイミィは横で黙ってスクリーンに映るなのはたちの様子を見ていた。普通に考えればなのはの行動は無視することはできないものだったがクロノはそれを黙認した。「別に、なのはの勝ち負けは正直どうでもいい。」「なのはちゃんが時間を稼いでいる間にあの子の帰還先の追跡の準備をする。」クロノはあえてそのことを確認してくるエイミィにため息をはいた。こんなことを言わずともエイミィは理解している。クロノはそれがわかっている。それだけ彼女は優秀なオペレータだし信頼もしている。「けどあのことを話さなくてよかったのかな。」エイミィがなのはたちを見ながら呟いた。フェイトの母親、プレシア・テスタロッサ親子に起きた事件とそのあらまし。クロノ達は本局から問い合わせた情報から大体の事情は分かっていた。「今は、なのはを迷わせたくない。この戦いが終わってからでいいだろう。」「行くよ!!レイジングハート!!」“Yes, Master. Shooting Mode”なのはは空に飛び上がりフェイトに向かいレイジングハートを構え“Divine Shooter”そしてフェイトに向かい光弾が走る。フェイトもバルディッシュを構え迎撃する。「バルディッシュ!!」“Yes, sir.Photon Lancer”フェイトのバルディッシュからも光弾が発射されなのはの攻撃を相殺する。ぶつかり合った光弾は爆発を起こしあたりの視界が悪くなる。するとなのはが一気に距離を詰めレイジングハートを振り下ろす。「やぁぁぁぁーーーー!!!」「!?」フェイトはバルディッシュでそれを受け止める。予想以上に速い攻撃にフェイトはなのはに対する認識を変えていた。(前までは魔力が強いだけの子だったのに…。)攻撃を撃った後の反応も判断も以前とは比べ物にならないほどよくなっていた。しかし接近戦ではフェイトに分があった。つばぜり合いになっていたがフェイトがバルディッシュを引くとなのは前のめりに体制を崩す。「あっ!?」そのすきを逃さずにフェイトはバルディッシュでなのはの背中を叩きつける。そのまま地面に叩きつけられるかと思ったが体を反転し“Divine Buster”砲撃を放ちフェイトに反撃をしてきた。思わぬ反撃にフェイトは反応が遅れたためなのはの砲撃がわずかに肩をかすった。「はぁ、はぁ、はぁ、やっぱりフェイトちゃんは強いね。」なのはは笑いながらそう言った。対するフェイトも「あなたも強くなった。以前とは比べ物にならないほどに。」フェイトはバルディッシュを強く握り直し「でも、私は負けられないの!!!」“Scythe Form”バルディッシュを鎌状にしそれを構えながらなのはに接近する。「!?ディバインシューター!!!」なのはもフェイトに向かって光弾を打っていくがフェイトはそれを撃ち落としながら接近する。そしてなのはは防御する以外に手はなく“Round Shield”なのはの張るシールドとフェイトのバルディッシュがぶつかる。「くっぅぅぅぅーーー!!!!」「やぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!」一進一退の状態だったがフェイトの背後に光弾が迫る。「!?」フェイトはそれに気づき片手を構えシールドを展開する。その合間になのはは距離をとり砲撃をフェイトに打ち込む。“Divine Buster”フェイトも負けじと砲撃を撃ち返す。“Thunder smasher”二つの砲撃はぶつかり合い拮抗する。そして相殺しあうと互いに様子を見あう。「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」「ふぅ、ふぅ……。」以前なら息を切らすようなことにまでならなかったフェイトだが予想以上のなのはの強さに危機感を覚えていた。「これ以上時間はかけられない。一気に決めさせてもらうよ。」そう言ってバルディッシュを上に向けるとあたりが雷雲に包まれ雷が鳴り響く。ただならぬ気配になのはも動こうとする。「えっ!?」「まずい!!」なのはの動きを封じるように光の輪がなのはを捉えていた。「バインドだ!!フェイトは本気だ。このままじゃまずいよ!!」「くっ!!なのは!!!」「ダメっ!!!」助けに入ろうとするユーノたちを制するなのは。「これは私とフェイトちゃんの真剣勝負。だから手出しはしないで!!!!」「でも、これはホントにやばいんだよ。」アルフが必死に訴えかけるがなのは首を振る。フェイトは着々と呪文を唱え攻撃の準備をしていた。「アルカス、クルタス、エイギアス、疾風なりし天神よ。今導きの元、撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル」目を閉じ呪文を黙々と唱えるフェイトの姿はどこか神々しくありさながら祈る聖女のようだった。その聖女の祈りに答えるように無数の光弾が生成されていく。その数はゆうに30は超えているだろう。そしてその光弾はフェイトの周りに集結した。「フォトンランサー、ファランクスシフト」 そして天に掲げた利き手の人差し指を立て、振り下ろし「打ち砕け、ファイア!!!!!」なのはに向かい無情な光弾の嵐が襲いかかった。「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」さすがのフェイトもかなりの負担がかかったようだ。自身が使える攻撃手段でもっとも強力なものを行使したのだ。フェイトはほぼ勝利を確信しなのはのほうに視線を向けるだが「な、なんとか耐えきったよ。」「う、うそ!?」フェイトは驚愕の表情を隠せなかった。あれだけの攻撃を受けてまだ動けるなんて。「今度はこっちの番だよ!!!」“Divine Buster”フェイトに向かい砲撃を放つ。フェイトはバリアを張りそれを防ぐが先ほどより威力が増しているせいかおされぎみだ。(あの子だって耐えたんだから私だって。それにここで負けたら…。)気力を振り絞るようにバリアを張り続けた。そして何とか耐えきったもののバリアジャケットのところどころがやぶけていた。それでもフェイトは攻撃を仕掛けようと動くが「なっ!?」「なのはもバインドを?」お返しとばかりに今度はなのはがバインドを使いフェイトを捉える。「受けてみて、これがディバインバスターのバリエーション。」なのはがレイジングハートうえに掲げると“Starlight Breaker”すさまじいまでの魔力がレイジングハートに収束していた。おそらく受ければただでは済まないほどの「これが私の全力全開!!」(母さん、トレイン…。)「スターライト……ブレイカァーーー!!!!」桃色の巨大な砲撃が襲いかかった。