なのはが部屋に戻ると呆然と窓際に立ち尽くすユーノがいた。なのはが部屋に入ってきたことに気づきこちら振り向き駆け寄って言った。「なのは、トレインが出て行ったよ…。」「え、なんで?どうしてなの。」なのははユーノに詰め寄るようにして問い詰める。せっかく無事に戻ってきたのにまたしても猫のようにどこかに行ってしまう。なのはとしてはトレインがそばにいてくれることは非常に心強かった。実戦での強さ、実際の年齢が年上であることもあるがトレインが持っているものの中でなのはが惹かれているものはそんなものではなかった。トレインが持つあの眼だった。一見、根拠のない虚勢にも見える発言や態度だったがそれは違った。トレインの眼は常に揺らぐことのない自信で満ちていた。一時の状況で揺らぐような自身とは違いどんな状況に陥ってもトレインならばどうにかしてしまうのではないかという安心感があった。「なのは?」「ごめんユーノ君。私トレイン君のところに行ってみる。」直接会って話を聞きたい。なにも言わずに別れてしまうようになることだけは嫌だった。「待って、僕も行くよ。」なのはも後を追うようにユーノもついていった。高町家から少し離れるとトレインはのんびりと歩いていた。これからどうするかの算段を立てていた。「とりあえずはやてのとこに戻るとしても長居するわけにもいかねーしな。」自身の状態を考えると姿が子供と言えホームレスの状態には違いなかった。自分の身の上のこともあるがとりあえず優先事項としてはジュエルシード関連のことだった。管理局の協力もなし、唯一の魔法関連の協力者とも言えるユーノたちとも決別とまでいかなくともすでに道は違えている。「こうなったら地道に歩き回ってフェイト達の寝床を探すか、ジュエルシードの反応を探すしかねーか。」以前はジュエルシードの反応というものを感知することなどできなかったが日増しに感覚が鋭くなっているようだった。魔力に触れたことがなかったトレインは当初自分の世界に存在していなかったものを感知することはできなかったが彼は良くも悪くも天才肌だった。魔法に触れて短い期間で自身に潜む魔法の才能を開花させつつあったのだ。考えながら歩いているといつの間に公園にたどりついていた。そこはトレインにも見覚えのある公園だった。「ここは確か…。」そう、初めてジュエルシードというものを見た。化け猫と一戦した公園だった。ところどころその傷跡が残っているものの修復されつつあった。(あんときはまた道士にでも襲われてんかと思ったがな。)蓋を開けてみればアニメやマンガでしか聞いたことのないような魔法という話だ。あまりの突拍子のなさに笑ってしまいそうだった。少し前の出来事にふけていると公園に二つの気配がやってきた。なのはとユーノだった。「よう。どうしたんだよこんな遅くに?」「私はトレイン君とお話に来たの。」なのはは真剣な表情で言った。トレインはそれに対してあくまでひょうひょうと対応する。ユーノも口を開いた。「どうして急に出て行くなんて言い出したんだ?なにか理由があるんだろ?」ユーノもなのはと同じように真剣な表情で問い詰めた。「お前には言っただろう?俺には野良猫暮らしが性に合ってるんだよ。」「野良猫って…。管理局に協力することが不満なんですか?」ユーノは今日のトレインのクロノに対する行動以前からうすうす感ずいていたが彼は管理局というものにいい印象を持っていないと。それが彼の過去に起因するものなのかはまでは分からない。だがこれからジュエルシードの一件に関しては管理局が全権を持ってしまった以上こちらが協力するという形をとる以外のかかわることはできない。なのはもユーノに続く。「トレイン君が出て行ったあとお話を聞かせてもらったけどリンディさんもクロノ君もいい人だったよ?あの人たちと協力すればすぐに解決できると思うの。」確かになのはの言うとおり管理局と協力体制をとれば事件解決はスムーズに進むだろう。しかし、トレインは今後どこかの組織に属する気。飼われる気はなかった。そしてトレインが口を開いた。「なのは、組織に属するってことは飼われるのと同じってことを分かってるか?」「飼われる?」疑問符で返すなのは。いまいち意味をとらえきれていない様子だったが隣にいるユーノは何となくだがわかっているような様子だった。「組織に属する間は命令には絶対に従う。ユーノ、管理局に協力させてもらうのに条件として出されただろう?」「はい。協力するからにはこちらの命令には従ってもらうと。」やはりかという感じでトレインはため息をつきながら続ける。「組織の中じゃ個人の感情なんか二の次だ。悪く言えば個人的な感情を持つことなんか許されねえ。」「そ、そんなこと…。」なのはが否定しようとするがトレインは有無を言わさず言った。「ある。それが現実だ。俺も10年近く似たような組織に飼われていたからな。」トレインの言葉はなのはにもわかるくらい実感のこもった重い言葉だった。しかしなのははトレインが飼われるという言葉にやけにこだわっているような気がした。トレインは話すことはないという感じでなのはたちに背を向け歩き出した。「待って!!」なのはの呼びかけに応じることもなくそのまま歩いていくトレイン。しかしトレインはその歩みを止めることなく言った。「お前の信じたものは捨てるなよ。何があろうと信念は曲げるんじゃねえ。俺から言えるアドバイスはこれだけだ。」以前も言われた言葉。その言葉を残し今度こそトレインはいなくなってしまった。なのはと別れてからトレインは八神家に向かうことにした。行くあてがない以上高町家以外に身を隠す意味では八神家が一番だと判断したからだ。「とはいっても気が引ける気もすんな。」と口では言うもののすでに八神家の前に立っていた。しかし、インターホンを押すことに戸惑っているのか目を細めながら唸っていた。「トレイン君、なにしとるの?」唸っているうちに家主に発見されていた。トレインは頭をかきながら「ちょっと事情が変わってな。少し世話になることにするわ。」はやては少し驚きつつも笑顔で言った。「お帰り、トレイン君。」「すぐに入ってくればええのになに遠慮してるん?」家の中に入ってはやてとお茶を、トレインはミルクを飲みながら話をしていると家の前でのトレインの行動についてはやてが口にした。「そりゃ俺だって遠慮はするぞ?」すこし胸を張るようにいうがはやてはくすくす笑いながら「ごめん、全然想像できんわ。」トレインはずっこけるようにあごを机にぶつけた。その表情は少し不満げにしてはやてに聞いた。「おめーは俺をそんなふうに見てたのかよ?てかまだあってから時間が経ってないだろ?」「そらそうやけど、そんな人なら上がったばっかの家でおかわりはせんと思うけどな~?」にやにやしながらトレインに問い詰める。その表情を見てトレインは苦笑した。「な、なんや急に笑うなんて?」「いや~、お前もそんなふうな表情すんだなって思ってよ。」はやてと初めて会った時はどこか表情に憂いがあるような感じがした。だがいまの表情は違う。はっきりとした感情が表情に表れていた。「なんでやろな?うちもこんなに笑うようなこと……誰かと一緒におることなんてなかったから。」「?どした?」「なんでもない、もうええ時間やろ。そろそろ寝なあかんで。」少女は今まで孤独だった。両親に先立たれ、周りには頼る大人も友人すらいなかった。彼女はよりどころを求めていたのかもしれない。たとえそれが何者かもわからない野良猫であろうとも。「いらっしゃい、時空管理局はあなたたちを歓迎するわ。あら?」なのはたちは高町家を後にしてアースラに身を寄せていた。正式に時空管理局に協力することになりいったん身柄を管理局に預けることになったのだ。なのはたちを出迎えたのはリンディであった。笑顔でなのはたちを出迎えたが一人足りないことに気がついた。「トレイン君はどうしたのかしら?」トレインのことを聞かれなのはとユーノは表情を曇らせ視線を下にしてしまう。その様子をみて事情を理解したのかリンディは残念そうに「やっぱり彼はだめだったのね?」「はい、管理局に協力することはできないと。」「そう。」リンディがため息をついた。そこにクロノがやってきた。「来たのかい?……やはり彼は来なかったか。」クロノにはある程度予想していたのかそれほど驚くこともなく淡々としていた。「ある意味妥当な判断だろうな。いくら戦闘能力が高かろうが魔法に関しては素人だ。それに彼のような人間は組織にとって好ましくないだろうしね。」「クロノ!!すこし言いすぎよ。」リンディがあまりのクロノのいいようにたしなめるように言うがそれでもあまり効果がないようだ。クロノの中でトレインという人物は当初からいい印象がなかったのに拍車をかけるように先日の一件がありますますこじれていた。トレイン自身はそれほどクロノ本人にはそれほど悪い印象は持っていない。彼が信用できないのは管理局という組織そのものなのであってクロノではない。しかし、クロノにとって管理局をないがしろにするということは自身の誇りを否定することになる。それゆえますますトレインに怒りを覚える。「艦長、僕はあくまで事実を言ったまでです。彼のような身勝手な人間は…。」ここまで黙っていたなのはもこれ以上は聞いていられなかった。声を出し、クロノに反論しようとした。「それ…「それは違う!!!!」ユーノ君!?」声を張り上げたのはなのはではなくユーノだった。ユーノはクロノの前に立ち言った。「彼が、トレインが身勝手な人間という言葉は取り消してくれないか?」クロノとしてはまさかユーノがこのような態度に出るとは思わなった。むしろ自分と同じ意見を持っているとばかりと思っていた。「彼は身勝手な人間じゃないです。それはマイペースなところもあったりしたけどこれまで彼は僕らのことを考えて行動してくれていた。」ユーノは短い間に中でトレインに振り回されたりしてきたが自分がジュエルシードを集めるていることをトレインが止めはしなかったことを忘れていなかった。初めて説明した時はなのはを巻き込んだことなどを指摘されもしたが結局は僕の意思を尊重してくれた。そしてなし崩しとはいえ僕らの行動に協力してくれた。結果ジュエルシードをあの子たちに渡すことになってしまったこともあった。その行動も僕や、なのはのことを思っての行動だった。「僕となのはは彼が身勝手な人間だと思ったことはない!!」「ユーノ君…。」視線がぶつかり合うユーノとクロノ。しかしリンディが待ったをかけた。「そこまでよ。クロノもユーノ君も私たちがすべきことを忘れないで。ここで口論することが目的ではないわ。」そう言われて二人は視線を外しお互い距離をとった。その様子にため息が出てくるリンディだった。一方のトレインは一人のんびりと街中を歩いていた。八神家では意気揚々とはやてが家事に励んでいた。何か手伝おうにも手を出せるような雰囲気でなかったのでトレインは退散したのであった。しかし、ジュエルシードを探そうにも気配が全く感じられない。八方ふさがりと言った感じの状況だった。しかしジュエルシードを手に入れたからといってトレインには封印することもできない。ということでフェイト達の所在を探るという方向に切り替えることにしたが「さすがにその辺をうろうろしてるわけ……。」そう呟き、視線を前にすると……いた。薬局の薬コーナーでうろうろと挙動不審な行動をとっている不審者が。オレンジ色の挑発にラフな格好。ここまではまあよしとしよう。しかし変装のつもりでしてるであろうサングラスとマスクはいただけなかった。その姿はどこに出しても恥ずかしくない不審者そのものだった。「知り合いとも思われたくねーけど。」せっかくの好機だ。これを逃すことはなかったが話しかけるのは気が引けた。トレインは意を決してアルフの肩をたたいた。「なんだい?……ってあんたは!?」いきなり現れたトレインに驚きを隠せないアルフだったがトレインはため息交じりに「あー、あって早々殺気立つな。ここでやりあうつもりもねえしやりあう理由もないだろ?」「そ、それはそうだけど…。」トレインに諭されるとアルフはしぶしぶ拳をおさめた。「てか、その怪しさ爆発な変装で何やってんだ?」トレインはアルフの手に持っているものを見た。そこにはパッケージにこう書かれていた。「超強力下剤」「なんだお前便秘なのか?」そう言った瞬間アルフからトレインも反応しきれないほどの速度の拳が繰り出された。トレインはもろにそれをくらい地面に転がった。アルフは顔を赤くし言った。「恥ずかしいことを聞くな!!!しかも私は便秘じゃない、フェイトの薬を買いに来たんだ。」トレインは殴られた頬をさすりながら立ち上がった。「ふぇ、フェイトの?じゃあフェイトがべん……わかったからこの拳をしまえよ。」アルフは力強く拳を握っていた。「薬?てかそれがなんの薬か分かってんのか?」「わからないから困ってたんだよ。怪我とかの処置はわかるんだけど病気はさっぱりだから…。」どうしていいか分からない自分にしょげているように顔を暗くさせているアルフ。その姿に放っておけなくなったトレインはアルフに聞いた。「フェイトはどんな状態なんだ?あれから体調崩してんのか?」「あ、ああ。あのときはあいつの抑えてくれてありがとう。おかげで逃げ切れたよ。」「んなことは別にいいぜ。実際のとこどうなんだ?」特に気にするなという感じで言うトレイン。しかし、病状のことになると口をなかなか開こうとしないアルフ。「なんだ?俺が管理局にでも報告するとでも思ってんのか?」アルフは口では答えなかったが目つきでそう訴えていた。「俺は管理局とは関係ねえ。それどころか今はなのはたちとも決別した。」それを聞いてアルフがわずかだが反応する。「どうしてだい?」「意見の相違ってやつだ。あいつらは管理局と協力体制をとることを選んで指揮下に入った。俺は野良だからな、組織の空気は性に逢わねえ。」アルフはそれでも疑ったままだったが、トレインが危険を冒してまでフェイトを助けたのは事実だ。それに何回か対峙しているもののトレインは決して自分たちを危害を加えようとはしていなかった。攻撃をされるようなことがあったが相手を倒すのではなくできる限りダメージを与えず制する形だった。「まあ、俺が信用できないってのもわかるけどよ。とりあえずそいつは置いとけ、お前の大事なお姫さんがトイレから出れなくなるぜ?」トレインが笑いながらアルフの持っている下剤を取り上げ元の場所に戻した。そして手に別の薬を持って戻ってきた。「ほれ、とりあえずこいつな。」「これは?」「詳しい体調がわかんねーからこれがいいんじゃねえかとしか言えねーけど、たぶん風邪だろ?」トレインがアルフにそう言うとアルフは頷いた。「ああ、あれからフェイトの体妙に熱っぽくて。ただでさえ食べないのに食欲もなくなってずっと辛そうなんだ。」アルフは自分自身のことであるかのようにつらそうに語る。アルフが辛そうと言っていることは体のことだけではないのだがトレインはまだそこまでは知らなかった。トレインはフェイトの体調を聞くとまたしてもいなくなった。そして戻ってくるとスポーツドリンク、ゼリー、パックのお粥をかごに入れアルフに手渡した。「食欲がねーならゼリーとか食わせとけ。薬を飲むにしてもすきっぱらじゃまずいからよ。あとできるだけ水分をとらせとけよ。」「あ、ありがとう。」それだけ渡すとトレインは薬局を出て行こうとした。しかしアルフがその手をつかんだ。「なんだよ?まだようでもあんのか?」アルフはトレインに聞いた。「あんたは管理局と関係ないんだね?」「さっきもそう言っただろう?それどころか魔法関係の知り合いとは連絡もとってねえよ。」「わかった。」アルフは何かを決意したように頷いた。「あんた今暇かい?」「ああ、暇じゃなけりゃこんなとこうろついてねえよ。」はやてには昼までには戻ると言ってあるので時間はまだ2時間ちかくある。「じゃあ、フェイトに会ってくれないか?」「はぁ?また唐突だな。大丈夫なのかよ俺なんか呼んで。」さっきまで自分のことを疑っていた人間とは思えない言葉だった。さすがのトレインも多少面食らっていた。「あんたの言っていることを信じるさ。口だけのなんとでも言えるけどあんたは行動で示してくれた。」「あんたがいいなら別に行ってもいいけどよ、俺なんかが行ってもあいつは喜ぶのか?」正直トレインとしてはフェイトに好意を持たれるようなことをした覚えがない。たまたま助けたことがあったりしたがむしろ敵側にいることのほうが多かった。キョーコのような奴ならあり得るかもしれんと考えたがフェイトとキョーコがトレインの頭の中でイコールで結ばれることはなかった。「あの子うなされながらあんたの名前を呼んでいることがあったんだ。それにあの子の口からあんたの名前が出ていたこともあったから…。」「まあ、嫌がるようならすぐにでも出てくから安心しな。」「…たけど変な事をしようものなら私はあんたを殺すよ。」アルフは明確な殺意をトレインにぶつけてきた。フェイトを守ろうとする意思が明確にわかるほど。トレインはそれを受けてアルフに相棒を渡した。「こいつを預けとけば下手なことはできねーだろ?」「あ、あんた…。」「ほれ、行くぞ?」アルフについていき連れてこられたのは高層の高級マンションだった。「ずいぶんいいとこに住んでんな?」「そうなのかい?割と広めだからここを選んだんだけどね。」意外そうにアルフがそう答える。「お前ら庶民感覚ゼロだな。」「ここだよ。」そういってアルフが玄関のキーをあけ扉を開く廊下に倒れこんでいるフェイトの姿があった。「フェイト!?なにしてるんだい?」アルフあわててフェイトに駆け寄り抱きかかえる。フェイトはバリアジャケットこそ装着していなかったもののバルディッシュをその手に持っていた。「あ、アルフ…。はやく、はやくジュエルシードを見つけないと…。」「何いってるんだい!!そんな体じゃ無理だよ、仮に見つけられたとしても管理局の人間に捕まるよ。」フェイトははかなげな笑顔でアルフを諭すように優しく言った。「大丈夫…私は…強いから。」そう言うとフェイトは意識を失った。「フェイト!?」アルフは気が動転したようにあわてるがトレインが落ち着かせる。「落ち着け、気を失っただけだ。とりあえずベッドに運んでやれ。」ベッドに運び込まれたフェイトは多少息を荒くしているが眠っていた。トレインは氷水で濡らしたタオルを額にのせてやり様子を見ていた。「はぁ、はぁ、はぁ。」「なんでこうなるまで無理をするんだか。」ふとここでトレインはあることを思い出した。フェイト達がジュエルシードを集める理由だ。ここまでトレインたちがその理由を聞いてもフェイトは口を開かなかった。断片的行っていたことは(話しても分からない)ということだけだった。(コイツの性格からして悪用するとかってわけじゃなさそうだな。となると他の誰かに依頼されていることか?)トレインはそう仮説を立ててみた。そうすれば納得のいく部分が出てくる。たとえば理由に関してだ。フェイトは話しても分からないと言っていた。これは本当のところはフェイト自身も分かっていないのではないかということになる。おそらくアルフも事情は知っているのだろうが話してくれるかどうかは微妙だ。そんなことを考えているとアルフが土鍋に入ったお粥を持ってきた。「フェイトはどうだい?」「相変わらず寝てるわ。」「そっか…。」アルフは土鍋をテーブルに置きフェイトに近づきフェイトの頭をなでた。「まだこんなに小さいのに…こんなに頑張ってるのに…。」アルフは増えながら呟いた。トレインは特に反応することもなく二人を見ているだけだった。不意にアルフが口を開いた。「あんた…聞かないんだね?」「何をだ?」「私たちがジュエルシードを集めている理由を。」「聞いたら答えてくれんか?」逆にトレインに聞き返されるとアルフは返答に困ってしまう。主が黙っていることを使い魔である自身が勝手なことをしてしまうことに抵抗があるようだ。アルフはトレインに理由を話せば協力してくれるかもしれないと考えていた。実力はすでに実証済みで人格面でも行動不能になった自分に危害を加えることなくフェイトに明け渡し解放してくれた。もしかしたらあの鬼婆の説得に一役買ってくれるかもしれない。そんな希望も頭の中によぎり葛藤するアルフ。「あ、あぁ、ここは?」「フェイト!?よかった、気がついたんだね。」フェイトが意識を取り戻しアルフに気づく。アルフは主人が意識を取り戻したことに安心しほっと息をついた。するとフェイトはアルフの後ろにいる人物に気がついた。「え?ど、どうしてあなたが?」「よっ!!ずいぶんと無理してた見てーだな?」「私が薬を買う時に助けてくれたんだ。フェイトもその…気になってたみたいだから見舞いに来てもらったのさ。心配はいらないよ、もうこいつはあの白い子とは行動してないらしいし管理局とも協力も断ったんだって。」フェイトの顔にはどう捉えていいのか分からないという表情だった。純粋に自分の見舞いに来てくれたことはうれしい。だが仮にも自分たちは敵対関係にあったはずだ。「あなたはどういうつもりでここに来たんですか?」「どういうつもりも、一応見舞いか?」疑問形で聞き返すように答えるトレイン。フェイトは言葉を発しようとするが景色が歪む。そしてベッドに再び倒れこむ。「フェイト!!まだ無理しちゃだめだよ!!」アルフがベッドに寝かせようとするがフェイトは無理にでも立ち上がろうとする。「平気だよアルフ。急いでジュエルシードを探さないと母さんが…。」(母さん?ジュエルシードをほしがってるのこいつの母親なのか?)「なにいってんだい!!!さっきも無理して動こうとして倒れたんじゃないか?いいからおとなしくしておいてくれよ。」アルフの必死の説得にもフェイトはかたくなに拒んだ。その様子にトレインが助け船を出した。「そいつの言う通りだぜ。無理して行動したってろくなことになんねーぞ。」「あなたには関係ないはずです。」フェイトはできる限り冷静に答えた。相手に感情を出すことなく。そんなことはお構いなしにトレインは続ける。「このまま長引かせたほうがうまく行くもんうまくいかなくなるぞ。だったら一日でもいいから我慢したほうが体調が良くなるかも知んねーんだぞ?」「そうだよフェイト。」ここぞとばかりにアルフがトレインに同調する。「それがわからねえほどお前は馬鹿でもないしガキでもないだろ?」「それは…。」それはフェイトも分かってはいた。だが自分は急がないといけないのだ。母が自分がジュエルシードを持って帰るのを待っているのだ。なおも抵抗を続けるフェイトにトレインは言った。「なら今日一日ジュエルシードが発動しようものなら俺とこいつで確保するからいいだろう?」「え!?」「何言ってんだいあんた?本気かい?」「マジだ。それなら文句はねーだろ?」フェイトは目の前にいる人物が何を言っているのかわけがわからなかった。自分を休ませるために敵対している人物が代わりにジュエルシードを集めてくれるというのだ。「ど、どうしてそこまで?」「ん?何となくほっとけなくてな、あとこいつは俺の勝手な行動だから気にすんな?」笑顔で親指を立てて話すトレイン。(そうか、そうだよね。)フェイトはトレインの今までの行動を思い出してみた。身を挺して自分を守ってくれたり危険を顧みず自分たちを逃がすために管理局に攻撃を加えていた彼にとって敵味方は関係ないのだと。フェイトはそれからおとなしくアルフの看病を受けていた。「ほらフェイト口をあけて?」「あ、アルフ自分で食べれるから。」フェイトの顔が熱いのは熱があるだけではなかった。しかしアルフそんなことに気がつくことなくスプーンをフェイトに近づける。「いいからほらほら。」「その、他の人がいるしね?」アルフが視線を向ける先には自分たち以外の唯一の人間であるトレイン。「は、恥ずかしいから。おねがいアルフ。」そう言われては無理に食べさせるわけにもいかずしぶしぶ従った。フェイトはゆっくりとお粥を食べ始めた。「あとはしっかりと水分を取っとけよ。こいつを作っておいたからよ。」そう言ってコップにスポーツドリンクを注いでおいた。「あ、ありがとう。と、トレイン。」顔をますます赤くしてフェイトは答えた。トレインは自身の名前をフェイトが呼んだことに驚いた。「おまえ、俺の名前覚えてたんだな?」「一度聞きましたから。それに…。」「?どうした?」それっきりフェイトは口を開いてはくれなかった。すると今度はアルフがトレインに話しかけた。「それよりあんたに聞きたいことがあるんだけど?」「なんだ?」「あんたの本当の姿やあの光る弾丸についてだよ?」アルフは回りくどいことは言わずにストレートに聞いてきた。「まあお前らの居場所を知っちまったんだ。俺もことも少しは聞かせてやるか。」そう言い自身の変身と電磁銃についての説明をした。「へー、ナノマシンと電磁銃ね。正直おろいたよ、魔法以外でもあんなことができるなんてね。」アルフはトレインの説明を受け感心しきりだった。一方のフェイトは自身の能力について説明し制限があるなどの弱点をこうも簡単に話すトレインが不思議でしょうがなかった。しかしトレインの表情を見ていてわかった。彼はそんな能力に頼らずとも戦い抜く自信があるのだということを。「ざっとこんなとこだな。満足したか?」「ああ、一応仕組みはともかくとしてすっきりしたよ。」アルフはそう答えたがフェイトは言った。「あ、あの良かったら今見せてもらえませんか?」「なんだ変身か?」フェイトは何も言わずに頷いた。するとトレインは立ち上がりアルフに言った。「ワリーけどハーディスを返してくんねえか?」「なんでだい?」アルフはとたんに警戒し始めた。「さっき言ったろ?集中力がかなり必要でよ、俺が集中してのはハーディスを構えているときなんだよ。」会おう言うトレインに若干疑い気味のアルフにフェイトは言った。「アルフ渡してあげて?」「でもフェイト?」「いいから。」そこまで言われてアルフはトレインにハーディスを渡した。トレインがハーディスを構え、眼を閉じるとトレインの体から光の粒子のようなものが出てきた。そして一瞬の間光が部屋を包んだと思ったらそこには成熟したトレインが立っていた。「はぁーーー、一度目の前で見てたけどこいつはすごいね。」「俺もまだまだ慣れねえな。んでどうよ?」そういってトレインはフェイトに聞くが「………。」フェイトは目を丸くし、そこに呆然としていた。そして顔をうつむかせて一言呟いた。「あ、あの。頭を……。」「ん?頭がどうしたんだ?」「頭を……なでてもらえませんか?」フェイトはこれ以上にないくらい顔を真っ赤にし、消え入りそうな声で言った。自分でも信じられないような言葉で目の前にいるトレインの顔をまともに見れず顔をうつむかせている。トレインは何も言わずにフェイトの頭に手をやり前と同じようになでてやった。決してやさしい感じではないがフェイトにとっては忘れられない感触だった。「こいつを飲んで今日はおとなしくしてな。」そういってトレインはカプセルの錠剤をスポーツドリンクが入ったコップと一緒に渡した。フェイトは無言でそれを受け取り飲んだ。それを確認したトレインは立ち上がった。「んじゃ、俺はそろそろ行くわ。」「そうかい?玄関まで見送るよ。」「私も…。」フェイトも起き上がろうとするがトレインに止められた。「病人が一著前のことなんかしなくていーんだよ。おとなしくしとけ。な?」そういってトレインはアルフと一緒に出て行った。フェイトは自身の頭に残るトレインの手の暖かさ、感触を確かめながら眠りについた。「今日は助かったよ。あんたが来てくれなかったら大変だったよ。」「ま、気にすんな。今日のところは薬が効いておとなしく寝てるだろ。速けりゃ明日にも治ってるさ。」「わかった。本当にありがとう。」「じゃーな。」トレインはそう言ってエレベーターに乗り込んだ。お昼というには少し遅めの時間になりようやくトレインは八神家に着いた。家の中に入ると不満げな表情のはやてがいた。「トレイン君、今何時やとおもっとるの?」「わりー、わりー。ちょっと野暮用でよ。」反省の色の見えない表情で答えるトレインにはやてはため息をつき「もうええわ。ほら早いとこお昼にしよ?」そう言われてテーブルを見ると手をつけられた形跡のない二人分の昼食があった。「お?今日もうまそーだな。」トレインは自分の席に座ると箸を持ち食べようとした。「ちょいまちや。手洗いうがいをせなあかんで?」「大丈夫、大丈夫。」はやての忠告もむなしく目の前にはおいしそうにお昼を食べるトレインの姿だった。次の日ものの見事に風邪をひきはやてに看病されるトレインの姿があった。二日間の間八神邸で療養を余儀なくされたのであった。うがい手洗いはしっかりと。それが今日トレインが学んだ教訓だった。一方フェイトのほうは完全復活しジュエルシードの捜索を再開していた。