あの温泉での戦い以降ジュエルシードの発見はなく、トレイン達はのんびりした時間を過ごしていた。とは言うものなのはのほうはトレインと違いフェイトとの考えると溜息ばかりが出てしまう日々が続いていた。息抜きのつもりで行った温泉でショッキングな出来事ばかりが起こり、無理がないとも言える状況でもあった。フェイトのこともなのはを悩ませる原因の一つであったがもうひとつあった。あの戦いのあと、疲労困憊の三人は旅館に戻ることにした。その途中でトレインが自身の過去について話してくれたのである。「トレインさん。」「ユーノ、それになのはもだがさっきも言ったとおり呼び方と話し方は気にすんな。今の俺はお前たちと同じでガキんちょだ。」「じゃ、じゃあトレイン。この前の戦いから気になっていたのだけれど君のその戦闘技術はどうやって身に付けたんだい?」ユーノが少し声色強くし問いただす。なのはも心配そうに見守るが止めるようなことはしなった。そしてユーノは言葉を続ける。「その正確無比な銃の扱い、戦況を冷静に見極める眼力、魔力による強化なしでのあの身のこなし、普通に訓練しただけでは身に付くようなものじゃない。それに君は異常なまでに戦い慣れしている気がする。」そのセリフにトレインは苦笑しながら口を開いた。「確かにな…。だがそれを言えばそんなことに気づくお前らも普通じゃない気もするけどな。」するとここまで黙っていたなのはが口を開いた。「ユーノ君が言っていることも気になるんだけど私はトレイン君のことをもっと知りたいの。」トレインは驚きながらその言葉を聞いた。「なのは、そいうことはもう少し考えていったほうがいいぜ?」「え!?えーと…。」「まあ、詳しいことまでは話せねぇが昔話もいいかもな。」「話してくれるの?」無言でトレインは頷いた。なのはからすれば気になっていたことの一つなのでトレインが話してくれるといった時は喜んだのだ。しかし、その内容はなのはの想像を超えたものだった。なのはの肩を借りながら歩いているトレインが自身の過去について話し始めた。「前にも聞いたと思うが俺の両親は暗殺者に殺された。」「「………。」」のっけから重い展開で二人は黙り込んでしまった。その二人を見て苦笑しながらも話し続けた。「両親がどういうことをしてどういう理由で殺されたかなんてのは分からねえ。ただわかっているの殺した奴の顔と名前だ。」「と、トレイン君はどうして知っているの?」「俺は両親を殺した奴に育てられ、人の殺し方を教わったからだ。」あくまで淡々と語るトレイン。あまりに現実離れした内容になのはは信じられないという表情になっていた。ユーノはなのは程ではないが驚きを隠せないでいた。「信じられねえか?そりゃそうだ、育てるほうも育てられるほうもどうかしてる。でもな俺はそれでも生きたかった、両親の仇である相手をいつか殺すためにな。」一瞬だがトレインの表情が冷たいものになっていた。なのはがかつて見たことのない底冷えするような、あの少女とは比較にならないほどの冷たい目線。「だがそいつに鍛えられているうちに俺は…。俺にとって最強の存在だったあいつが敵じゃなくて目標に変わっていたんだ。」「目標…。」「けどそいつも殺された。そこから俺は一人で生きてきた。」なのは思った。自身も小さなころ父親が大けがをして、母親の経営する喫茶店も今ほど順調でなく兄や姉はその手伝いに忙しくいつも一人でいた。小さななのはは一人、孤独だったのだ。しかし、トレインの抱える孤独はなのはのそれをはるかに超えるものだった。それを感じると同時に自分が恥ずかしくなった。これではあのアルフに甘ったれと言われても仕方がないと感じるようになった。「組織に、あるおっさんに拾われてそこで暗殺者として働き数えきれないくらい人を殺してきた。」それを聞いた瞬間なのはは立ち止まった。彼はなんと言ったのか?(数えきれないほど人を殺してきた。)その様子に気づいたトレインはなのはに聞いた。「俺が怖いか?」「!?」突然の投げかけに体を大きく震えさせ反応した。トレインは自嘲気味に語った。「ある意味その反応は当然だ。もし俺が怖い、近くにいてほしくないのであればすぐにでも高町家を出ていくさ。」「待って、そんなつもりは…。」「話を続けるぞ。」トレインは何かを言いかけたなのはに有無を言わせずに話を続けた。「組織で実績を上げるうちに俺はBLACK CATと呼ばれるようになった。」「「BLACK CAT…。」」トレインにとって捨てることのできない過去でもある。裏世界で知らぬものはいない伝説的な抹殺者。「不吉を届ける存在…。しばらくは何の戸惑いもなく何人も抹殺してきたが……。」突然トレインは黙り、悩んでいた。そしてまた淡々と口を開いた。「いろいろあって組織を抜けることになって掃除屋をはじめることになったのさ。」「掃除屋?」「犯罪者を捕まえて生活費を稼ぐ連中の呼び名だな。ようは賞金稼ぎだ。」「どうして掃除屋になったんだい?」ユーノが当然の疑問ぶつけてきた。突然抹殺者をやめ賞金稼ぎになる、それも不自然だが組織を抜けるということは何かきっかけがなければないはず。しかしトレインは「悪い、これはプライベートなことになるんで勘弁してくれ。」そう言われるとユーノもなのはもそれ以上の追及はできなかった。「今までしてきたことを俺は否定することもなかったことにするつもりもない。そいつがそいつである限り過去は切り捨てられるものじゃないからな。」「トレイン君…。」なのははトレインの強さの秘密がわかった気がする。戦いにまみれた生活を続けてきたこともあるが背負っている過去(モノ)が自分とは重さが違うのだ。今までしてきたごまかすのではなく正面から向き合い今を生きている。「だからいずれ背負うことになる今をどう生きるかが大事なんだよ。だからななのは。」トレインは一息おきなのはを正面から見据え言った。「お前に自分が正しいと思ったことをやればいい。」「「!?」」なのは、ユーノににとってその言葉は意外だった。これだけ厳しい現実を生きてきたトレインに敵対している人間に語りかけるなのはの行動は否定されるものだと思っていたからだった。「いくら語りかけても気持が通じないことだってあるがそいつは当たり前だ。俺たちはみんなそれぞれ違うんだからな。」「………。」「大事なのは…周りになんと言われようとそれでも自分の信念を貫き通せるかどうかだぜ。」そう言うと丁度旅館についていた。「俺が言えるのはここまでだ。あとは自分で考えてみろ。」場所は変わり私立聖祥大附属小学校教室なのははトレインの言葉をずっと考えていた。自分とは比較にならないほどの人生を歩んできたトレイン。彼が多くの人を手にかけてきたこともなのはに大きなショックを与えていたがそれだけに彼の言葉は重かった気がした。あれからトレインが言った言葉がなのはの頭から離れることなくずっと頭の中を廻っていた。そう、目の前でアリサたちが話しかけているのにも気がつかないほどに。その様子にしびれを切らしたのかアリサがものすごい剣幕で怒鳴りつける。「いい加減にしなさいよっ!!!!」「!?え、ご、ごめんアリサちゃん。」突然のことになのはも驚き、アリサにあやまるがアリサの怒りは収まらなかった。「なにを話しても上の空!!!そんなに私たちと話しているのが退屈なら一人でいればいいわ!!」「あ、アリサちゃん!?」すずかはあわててアリサを追いかけようとするがなのはのことも放っておけないのか立ち止まってしまう。それを見たなのはは「いいよ、すずかちゃん。今のはなのはが悪いから。」うつむきながらそう答えた。「そんなことないと思うよ。アリサちゃんも言いすぎだと思うよ。」そう言うとすずかはアリサを追いかけて行った。その姿を見てなのはは呟いた。「だめだな私…。アリサちゃんを怒らせちゃった。」一方トレインは翆屋の手伝いを終えると街に繰り出していた。魔力の行使ができないトレインではジュエルシードを探すことはできないがなにか情報を集められないかと街に繰り出していた。「闇雲に探してもやっぱり見つからないよな~。」あくまで飄々としているトレインに後ろめたさや憂いというものはなかった。情報収集とは名ばかりで町を散策しているだけにも見える。なのはに自分の過去、言葉を語りかけた。正直な話なのはとは若干ギクシャクした感じはあるがこれ以上踏み込むような真似はトレインはしなかった。自分のことを隠しながら痛い腹の探り合いをするくらいなら話してすっきりすることもあると考えているからだ。「まあ、だから荷物までまとめたんだがな。うまい飯が食えなくなるのちとつらいがな。」口ではそんなことを言ってはいるが今回の一件に蹴りがつくまではこの街を離れるつもりはない。このままだとすっきりしない。特にあのフェイトやなのはをは見ていて危なっかしくて見ていられないというのもある。(いつからこんなにおせっかいになったんだかな。)そうしてトレインはまた雑踏の中に消えていった。再び場面は変わりなのはは帰宅しユーノとお菓子を食べていた。「今日は塾もないから晩御飯までの間ゆっくりジュエルシードの探しできるよ。」笑顔を浮かべながら話すなのはだがユーノからみてもどこか影がさしていた。友達とけんかしたことを聞いたユーノは自分に責任があると感じていた。「だから頑張ろう?」「う、うん。そうだ、なのは。」なのはに答えると何か思い出したように言った。「どうしたのユーノ君?」「トレインの荷物がなくなっているんだ。」「え?」「しかもどこかに出かけたわけじゃなくて持っていた荷物がきれいさっぱりなくなているんだ。」「そ、そんな…。」なのはは少なからずショックを受けていた。あの時の反応をみてトレインは去ってしまったのか。そう思うと後悔の念が浮かぶ。「なのは、まだいなくなったと決まったわけじゃない。ジュエルシードを探しながらトレインを探してみよう?」ユーノは努めて元気づけるように言った。その様子になのはもすこし表情を明るし「うん、そうだね。」そうして二人は街に繰り出した。一方、街で散策を続けていたトレインはなにか違和感を感じていた。今までに感じたことのない大きな力、それが近くにあるような感覚。あたりは暗くなり始めていてそろそろ寝どこも探さなければいけない時間だったがそれも気にせず創作を続けていた。「こっちか…。」それを感じる方向へ走りだした。何一つ確信できるものはなかったがそれがジュエルシードと呼ばれるもの存在であると感じていた。フェイトやなのはにはない戦いのなかで培われた第六感のようなものがトレインに呼びかける。探しものはこっちにあると。そして走り出してしばらくして帰路につこうとするサラリーマンやOL、学生でごった返した大通りにでた。(こんなところにあるのか?だがなにかがここにあるって感覚が呼びかけてきてんだよな。)目を凝らしながら辺りを捜索してりると道路の真ん中に光るものがあった。それに近づき手に触れた瞬間あたりにいた人間がいなくなった。「な!?なんだ?」「みつけた。」「ああ、でもあっちも近くにいるみたいだね。」「うん、でも一番近くにいるのは…。」「あのぼさぼさ頭の奴だね。でもあいつは魔法も使えないから封印もできない。」「うん、でも急ごう。」そう言うと手に持ったデバイスを構えた。「バルディッシュ。」(Sealing Mode)「こいつはなのはたちが近くにまで来てるってことか?」トレインは手にしたジュエルシードを見つめていた。(こんななんの変哲もないきれいな石ころがあんな化け物を…。)改めてジュエルシードを見てみてもそんなものがこの石にあるとは思えなかった。また疑問におもうのがフェイトがこれを集める理由だ。なのはが何度問いただしても聞き出すことのできない理由。ぼーっとジュエルシードを見ていると自分に近づいてくるものに気がついた。それは…「ん?ってぇぇぇぇぇぇーーーー!?」ピンクと金色の閃光が自身に近づいていた。ジュエルシードは無事に封印されていた。そこになのはが近づいていた。それを見つめながらなのははすずかとアリサと初めて会った時のことを思い返していた。(あの時も話をできなかったから、分かり合えなかったからアリサちゃんを怒らせたのも思っていることをいえなかったから。)そこにユーノやってきて告げる。「なのは早く確保を!!」「そうはさせないよ!!」アルフが現れつづいてフェイトも現れた。(目的がある同士だからぶつかるのは仕方がないことかもしれない。それに相手は自分じゃないから気持ちが通じないのかもしれない。でも私は…。)なのはは一歩フェイトに近づき「この間は自己紹介できなかったけど…私はなのは、高町なのは。私立聖祥大附属小学校三年生…。」しかしフェイトは何も言わずデバイスを起動させる。「!?」そしてデバイスを構えなのはに切りかかる。互いの砲撃で撃ち合い続けているとフェイトが接近し一閃するが以前のようにやられずレイジングハートが反応する。“Flash Move”そして回避を行い距離をとったところでフェイトに大きな声で語りかける。「フェイトちゃん!!!」その呼びかけにわずかだが反応するフェイト。なのははそのまま話しかける。「話し合うだけじゃ、言葉をしてもなにも変わらないって言ってたけど…。だけど言葉にしないと伝わらないこともきっとあるよ。」その言葉を聞いてフェイトの表情にも迷いが生じる。なのははトレインの言葉を思い出していた。(いくら語りかけても気持ちが通じないことだってあるがそいつは当たり前だ。俺たちはみんなそれぞれ違うんだからな。)「競い合うことやぶつかり合うことは仕方ないのかもしれないけど…。」(大事なのは…周りになんと言われようとそれでも自分の信念を貫き通せるかどうかだぜ。)「だけどなにもわからないままぶつかり合うのは………私、いやだっ!!!」自分の思いのたけを吐き出しフェイトにぶつける。ここまで何の反応も見せなかったフェイトの心にも大きく響いた。「私がジュエルシードを集めるのはそれがユーノ君の探しもだから。ジュエルシードを見つけたのはユーノ君で、ユーノ君はそれを元通りに集め直さないといけないからそのお手伝いで……それは偶然だったけど今は自分の意志でジュエルシードを集めてる。」フェイトは黙ってなのはの言葉に耳を向けていた。「自分の暮らしている町や自分の周りの人たちに危険が降りかかったらいやだから。これが私の理由。」「っ……わたしは…。」フェイトは迷いながらなのはに何かを告げようとする。しかしそれを妨げるようにアルフが吠える。「フェイト!!言わなくていい!!」「!?」「!?」「優しくしてくれる人たちに甘えてぬくぬくと暮らしているがきんちょになんて何も教えなくていい!!!」なのはは愕然とした表情でアルフの言葉を聞いていた。「ぇ…。」「私たちが優先するのは……。」しかしアルフの言葉がすべて告げられることはなかった。「そいつは……違うぜ!!!!」ガンッ!!アルフの足もとに銃弾が撃ちこまれる「!?またあんたかい?」そこに立っていたのは月明かりに照らされたトレインだった。「トレイン君!!」「吹っ切れたみたいだな?お前らしい信念だな。」そう答えるとアルフと相対する。「あんた、そいつは違うって言ったけどどういうことだい?」「あんたはなのはが甘ったれたガキとか言ってたがそいつは違うってことだ。」その言葉にアルフは怒りをあらわにした。「なんだって?」「あいつはあいつなりの信念をもって迷いながらもここまでやってきた。甘ったれたガキじゃそんなことはできねぇぜ。」「うるさい!!あんたになにがわかる?」アルフはトレインを殺さんとばかりに食ってかかる。「わかんねーよ、さっきなのはが言ってただろうが?言葉にしないとわからないってな。」「「!?」」「トレイン君…。」アルフの言葉に自信をなくしかけていたなのはだったがその瞳に再び強い光がよみがえっていた。トレインはフェイトに向かって言った。「お前はどうなんだ?お前にも事情があるなら別に言わなくてもいいけどよ……。」しかしそこでフェイトがトレインに聞いた。「あなたは?」「俺?」「あなたの名前は?」「フェイト!?」アルフが止めるように呼びかけるがフェイトは視線をトレインから外さない。「トレイン・ハートネット。」「そうですか…。」そう言うとフェイトは一目散にジュエルシードに向かった。「し、しまった。」ユーノは完全に虚をつかれ反応が遅れていたがフェイトに追いつく影があった。「!?」キィーーーンッ!!!!互いのデバイスがぶつかり合い大きな金属音が辺りに鳴り響く。そこにいる誰よりも早く反応していたのはなのはだった。「なっ!?」フェイトもすぐさま反応したなのはには驚きが隠せなかった。こう着状態が続いていると突然ジュエルシードから光が漏れだした。「な、なんだ?」「ど、どうなってんだい?」そしてあたりを大きな光と衝撃が包んだ。?????「小規模ですが次元震を確認しました。」「どこの座標かしら?」「第97管理外世界ですね、文化レベルはそこそこで魔法技術は皆無ですね。」「ロストロギアか?」「おそらくそうでしょうね。それに現地に魔導師が入り込んでいる可能性が高いわ。魔力反応は?」「ええーと、確認できるだけで五つあります。」「艦長、現地入りしますか?」「とりあえずは様子を見ましょう。現状把握が先だわ。」