最初の目覚めは、まっくら闇の中だった。
意識が覚醒している。夢のように朧ではなく、しっかりとした現実の感触がある。
目覚めたという実感がある。
だが、目は開かなかった。開こうと思っても無理だった。訳が分からなかった。
体を動かそうと思った。が、僅かに身動ぎするだけで、動かすことはできなかった。
途方もなく怖くなった。理解なんてできない。感情の衝動が溢れ出てきた。
そして俺は、声を上げて泣いた。
それがこの世界で俺が最も最初に始めたことだった。
惑星プラント。元来の先住者であるツフル人に加えて、サイヤ人が共存する星。
この星には現在、ツフル人の持ち得るテクノロジーによって形成された華麗な都市がある一方で、離れた場所に原始的なサイヤ人の住居が存在する。
その一方であるツフル人の肉体的素養は、この宇宙全体から見ても低い。
居住惑星の重力が標準的な惑星の10倍という過酷な環境にありながらも、持ち前の技術力で安全な生存圏を確保した彼らは、過酷な環境から解き放たれたことで得た長い安寧の年月により、生態の退化が起きていたのだ。
しかし彼らは淘汰されず、現宇宙においてもその隆盛を誇っている。
それはひとえに、彼らの持つ技術力の高さに由来した。
彼らの保有するその高度なテクノロジーは、星と星の間を渡ることを容易く可能とし、銀河の往復すら悠々と実現させるのである。
だがしかし、彼らは決してこの宇宙の支配者という訳ではなかった。
何故か?
それはこの宇宙には、彼らの発達したテクノロジーを以ってしても太刀打ちすることができない強靭な種族が、幾多もいたからである。
その奴ら通常の火器などものともしない強種族の前では、ツフルの文明が生み出した兵器は効力を発揮しえなかったのだ。
彼らがその事に気が付いたのは、宇宙開発の最初期のことだった。他星系の探索を行うことによって、その彼らにとって忌々しき事実を知り得たのだ。
この結果、ツフル人の宇宙開発計画は長きにわたる停滞を迎えることになる。
そしてその停滞を打ち破ったのが、サイヤ人の到来であった。
突如として惑星プラントに漂着してきた、ある宇宙船。それに乗っていた彼らサイヤ人と接触によって、ツフル人の宇宙開発計画は再始動したのである。
サイヤ人は戦闘民族であり、民族の者全てが高い戦闘力を持った稀有な存在であった。その性格は総じて好戦的であり、種族的な特性として戦いを求める闘争本能が強い。
その彼らの逸話は数多く、彼らの凶暴性と共に銀河に幅広く残され語られていた。
だがしかし、それゆえにかサイヤ人は数が少なく、母星も持たず漂流しているために安定していない。
文化と呼べるものも大して持っておらず、階級制度こそあれど、それも戦闘力を基準とした原始的かつ戦闘一辺倒なものだった。
ツフル人はここに目を付け、サイヤ人の民族の王、ベジータ王と交渉を持ったのであった。
その交渉の意図、目的。それはサイヤ人という種族を、丸ごと自分たちの“戦力”として手に入れることであった。
ツフル人が望むのは、宇宙開発に向けて矛となり盾となる戦力である。
そして自分たちに従うサイヤ人という存在は、まさにそれに適したものであった。ゆえに見返りとしてサイヤ人に衣食住と、なによりも彼らが望む戦いの場を提供することで、この目的を達成しようと画策し、実行したのである。
この交渉に応じたベジータ王は、その内容に異論なく賛同を示した。
かくして、ここにサイヤ人とツフル人の共存関係が出来上がり、以後のツフル人の宇宙開発計画を強く推し進めることとなったのであった。
岩山を雑に加工したようなサイヤ人の住居。その一角から皮を巻いた原始的な服装の幼児が、遠くにあるツフル人の都市を眺めていた。
その幼児はまだ歳が三歳になったばかりではあったが、もうすでに言葉を普通に話し、勝手に一人でそこらかしこを歩いて回っていた。
その腰にはサイヤ人の特徴である尾が生えており、子供がサイヤ人であること示している。
その幼児―――彼はサイヤ人のエリートに属する者であった。
元々サイヤ人には生後すぐに戦闘力の資質を測り、それによって王族、エリート、下級戦士と階級付けられる制度があったが、惑星プラント漂着後はツフル人からもたらされた機材を用いて、より厳格に測定と階級付けが行われていたのだ。
この階級測定において生後すぐにエリートと判断された彼は、都市を見ながら考える。
(ツフル人……惑星プラント………)
彼は単語を一つ二つ思い浮かべながら、記憶のページを捲っていく。考えているその内容は、ただ一つ。
―――そんなことが、あったのか?
小さく、誰も聞こえないような大きさで、彼の口から言葉が漏れた。
「ドラゴンボールに、出ていたか?」
彼の名はリキュー。
エリートと判断されたサイヤ人の子供であり、かつてドラゴンボールという作品を見たことがあった人間の記憶を持つ、世界最大のイレギュラーである。
都市を見るのやめ、住居の中に引っ込むリキュー。
彼が彼としての意識を持っていたのは、それこそ生まれた時からであった。
とはいえ、本当に生まれた直後の記憶なんて、赤子自身の知覚器官では何も感じ取ることなんてできず、ただ衝動にしたがって泣き叫んでいただけで、まともな記憶なんてものは残ってはいないのだが。
だがおおよそ数日もたてば、サイヤ人という人種が早熟なのか、周囲の状況をリキュー自身は確認することができるようになった。
しかしそれでも、リキュー自身がここが“ドラゴンボールの世界”であると判ったのは、かなり後のこととなる。
一見しただけでは、彼にはSFチックな道具と原始的な風景が混ざった、奇妙な世界としか判らなかったのだ。
自分や他者に生えている尾を見てもしやと思い、言葉を覚え、実際にサイヤ人という単語を聞いたことによって、初めてリキューは“自分はドラゴンボールの世界にいる”という自覚を得たのである。
だがしかし、サイヤ人という言葉を確かにその耳で聞き認めたリキューだが、未だに“本当に”自分がドラゴンボールの世界にいるのか、確信を持てていなかった。
なぜならば、リキューには“ツフル人”や“惑星プラント”といった言葉に、聞き覚えがなかったからだ。
リキューの記憶では、サイヤ人の故郷は惑星ベジータであり、ツフル人なんていう共存相手もいなかった筈である。
本人自身でも朧な記憶ではあったが、付き合っていたにしても確か相手はフリーザであったと覚えていた。
サイヤ人の暮らしが、妙に原始的である点も違和感を覚える要素の一つであった。
あえてここで言っておくが、リキューの記憶は別に大きく間違っているわけでは、ない。
確かにサイヤ人はその母星は惑星ベジータであり、フリーザ軍団の一角として行動していた。
そして惑星ベジータでサイヤ人は粗雑ではあるが近代的な生活を営み、ツフル人なんていう共存者もいなかった。
ただ違っている点は、年代である。
リキューの知っているサイヤ人の生活は、サイヤ人がツフル人を滅ぼし、フリーザと手を組んだ後のことであったのだ。
惑星ベジータは元々の名を惑星プラントと云い、サイヤ人が自分たちを隷属するツフル人を滅ぼした後に改名し、自分たちのものとした星なのである。
リキューが違和感を覚えた通り、本来ならばサイヤ人たちはその衣食住と戦闘を保証してもらう代わりに、自分たちの戦力を対価とする契約を昔に交わしていた。
それは失効されることもなく、確かに現在まで遵守されてきている。
しかし現実においては、衣食住において冷遇され、契約の通り万全に保証されているわけではなかったのだ。
この理由として、ツフル人のサイヤ人へ対する蔑視と、楽観があった。
元々サイヤ人は戦闘民族として、なによりも戦いを重視する傾向があった。
現在の階級制度しかり、その欲求本能しかり。
ゆえに民族としてかなり長い年月を過ごしているにも関わらず文化らしい文化も持たず、ツフル人と接触したときも土人同然の有様であり、印象としても内実としても、蛮族でしかなかったのである。
対して、ツフル人は自分たちが他の星系も含めて、極めて突出した文明をもった生命であると自負を持ち、だからこそそれに由来する、一種の傲慢さを持ち合わせていた。
ゆえにツフル人がサイヤ人と接触したときに、このある種の蔑視観が生まれたのも、必然ではあったのかもしれない。
あくまで契約上は対等である関係であったが、ツフル人たちから見た認識として、自分たちの方が上であるという意識は常に存在していたのである。
生活に必要不可欠な要素である、衣食住の保証が自分たちに任されているということもことも加わって、その認識はなおさらに加速されてしまっていた。
“あくまでもサイヤ人はツフル人の下に存在するもので、ツフル人はサイヤ人を従わせる存在である”。
これが過分することなくツフル人に共通して存在する認識であり、そして年月を経るごとによりより強まってしまっていった、差別意識の表れなのである。
この認識がサイヤ人たちへの衣食住の保証に影響を与え、満足な契約の履行を妨げていたのだ。
仮にサイヤ人が文句を言ってきたところで、衣食住を提供しているのは自分たちである。
その提供を止めれば、サイヤ人たちも従うしかないのだ。問題はないだろう。そんな意見すらも存在していたのである。
結果としてこれは、扱いに不遇を抱いたサイヤ人たちがベジータの父である現ベジータ王の統率の下、ツフル人を滅ぼしテクノロジーを吸収するというツフル人の予想を遥かに超える暴虐によってピリオドを打たれることになる。
そしてサイヤ人の原始隷属生活が終わり、後にフリーザと接触。
こうしてリキューの記憶通りの世界が訪れることになるのであったが………しかし、そのことを現時点のリキューが知りうる術はなかった。
リキューは結局、ここがドラゴンボールの世界であるという確信を得ることを出来るのは、数年後に勃発するベジータ王によるツフル人殲滅作戦後の、惑星ベジータへの改名の後であった。
―――あとがき。
最近ドラゴンボール熱が再燃焼気味な作者です。
戦闘力は大辞典やゲームなど参考にテイストする予定。
基本的にオリな設定が連発することは前提で、主人公がモリモリ強くなる予定である作品。
軽くプロット作ってみて、こりゃすげぇオリ主無双だと思う自分自身。
というわけで、プロットも晒して見る。需要はあるかねぇ?
ドラゴンボールでトリップという組み合わせ、感想待ってまーす。