~ 当時を振り返って ~ ???「・・・あの時のことは、今でもはっきりと覚えてる。 あたしがイチローと出会った日。 それは・・・大切な相棒と出会った特別な日。 あの頃のあたしにはなにもなかった。 本当に・・・なにも・・・。 なにをすればいいのか・・・なにをしたいのか・・・。 あいつと一緒にいるうちに、そんな考えはどっかにいっちまった。 出会いは偶然で、でもそれは・・・・・運命なんかじゃない・・・・・」 魔法少女リリカルなのは【かんりきょくのこっくさん】 第08話「おい貴様っ!! どうせならその女も置いていけっ!」「まずい・・・完全に迷った」 この日の夜、一郎は辺り一面に広がる森を見ながら途方に暮れていた。 ミッドチルダに再び来てから一年・・・失った体力も、料理のカンも戻りつつあり、そろそろ本格的に修行を始めようと考えていた頃、一郎はどこかもわからぬ山の中を一人で歩いていた。「バッテリーは・・・切れてるか」 連絡手段も断たれ、このまま当ても無く進むべきか迷っていると、突然前方から爆発音が響き、その方角が急に明るくなった。「・・・なんだ、あれ?」 あまりに不自然な状況に、一郎はどうするか迷ったが、「・・・ま、こんなとこでうろうろしてるよりましか」 そう考え、爆発音のあった方に向かって歩き出した。「人がいたか・・・助かった」 一郎が爆発音がした場所に辿り着くと、そこにはいまだに燃え続けている建物と、フード付きのマントで全身を覆ったいかにも怪しげな二人の姿が見えた。 「実は道に迷ってな、よかったら・・・っておいっ!」 一郎が話し掛けようとすると、二人は一言も話さずに姿を消してしまった。「ったく・・・道教えてからにしろよ」 一郎は頭を切り替えると、目の前の建物に目をやった。「誰かいんのかな、この中に・・・」 少しの間、一郎は中に入るか迷ったが、キャロの泣き顔が頭の中をよぎると中に入るのは諦めた。 一郎が来た道を戻ろうとすると、先程消えた二人がいた辺りに人形のようなものが見えた。「?」 近付いてみると、その小さな女の子は人形では無いらしい。「リインの親戚か? ・・・おい、大丈夫か?」 声を掛けると、どうやら女の子の意識はあるらしく、虚ろな目で一郎を見上げてきた。「とりあえずは無事か・・・。 俺はここから離れるけど、お前はどうする?」 一郎の問いかけに、「・・・・・わからない・・・・・」 女の子はゆっくりと、無機質な声で答えた。「じゃあ・・・ここにいたいか?」 今度ははっきりと首を振って否定した。「んじゃ・・・俺と行くか」 そう言って一郎は女の子を抱き上げると懐にしまい、来た道を戻り始めた。 ・・・結局、一郎が山を降り、麓のホテルにたどり着いた頃には夜が明けていて、女の子は一郎の懐の中で眠っていた。 「・・・・・・・・・・?」 融合騎アギトが目を覚ますと、そこはいつもの研究施設の真っ白な部屋では無かった。 周りを見渡すと、一人の男が眠っている。 アギトにはその男の見覚えがあった。「(昨日、確か研究施設が襲撃されて・・・。 それで、背の高い男と小さな女の子があたしを助け出したんだ)」 二人がどのような意図で施設を襲撃したのかはわからないが、それでも結果的に助け出された事は間違いない。「(確か、この男はその後にあたしの前に現れて・・・)」 目の前の男が、呆然としていた自分を連れ出してこの部屋に連れてきたのだとすれば、今になって思えば危険な事だったのかもしれない。 「でも、ならなんでこいつは・・・」 アギトは男を見つめながら、「あたしなんかに・・・“どうする”なんて、聞いてきたんだろう?」 そんな事を考えていた。「うぉっ・・・・・な、なんだ?」「・・・なんでもない」 目を覚ました一郎は、昨日連れてきた小さな女の子のアップが目の前に現れて驚いていた。「目を覚ましたんだな。 よく眠れたか?」 一郎としては当たり前の事を聞いたつもりだったが、「・・・なんでそんなに平然としてんだよ?」 目の前の女の子は不満らしい。「なにが?」「あたしがなんなのか知ってんのか?」「多分。 あれだろ・・・古代なんとか式のなんたらっていう・・・」「ほとんどあってねーよ!! あたしは古代ベルカ式のユニゾンデバイスで、融合騎のアギトだ!」 女の子・・・アギトが一郎に向かってそう言うと、一郎は今気付いたのか、「アギトって言うのか。 俺は森山一郎だ、よろしくな」 そう言って、アギトに手を差し出した。「・・・・・話聞いてんのか?」 呆れたようにアギトが呟くと、「確か、前にはやてから聞いたことはあるんだが・・・」 一郎はすっかり忘れていた。 顔を洗って気持ちを切り替えると、一郎は改めてアギトに向かい合った。「んで、あそこでなにがあったんだ?」 一郎はアギトに問い掛けるが、「あんたに話す必要があるのかよ?」 アギトからの返事はそっけない。「そりゃないが・・・まあいいだろ?」「よかねーよ」「怒んなって。 ・・・そうだ、飴食べるか?」 そう言って、一郎はポケットから飴を取り出し、アギトに渡す。「なんだこれ?」 しかし、アギトは飴が何なのかわからず、持ったまま食べようとはしない。「なにって・・・。 お前、飴食べたことないのか?」「・・・そもそも、あたしはなにかを食べるってことをしたことがない」 アギトとしては大した事は言ってないつもりだったのだが、「なん、だと・・・」 アギトの一言を聞いて、一郎の雰囲気が明らかに変わった。「な、なんだよ・・・悪いかよ」 気が付くと、アギトは一郎を警戒して身構えていた。「今まで、なにも食べないでどうしてきた?」「考えたことないけど・・・栄養剤でも打たれてたんじゃないか?」 アギトの言葉に、一郎は目を見開くと突然立ち上がり、「ちょっと待ってろ」「は?」「いいから待ってろっ!!」 そう叫ぶと、部屋を出て行った。「・・・なんなんだよ・・・」 アギトは、訳も分からずただ呆然としていた。 そして、一郎が部屋を出てから一時間後、「さあ、食え」「いや、食えって・・・」 部屋に戻ってきた一郎が次々と運んできたのは、「なんだよ・・・この量」 アギトが呆れ返るほどの、テーブルには納まりきらない料理の数々だった。「食べてみて気に入ったやつだけでいいし、別に全部食べろとは言ってない」 一郎はアギトに、先程木を削って作ったスプーンのようなものを手渡した。「・・・」 アギトが、スプーンを持ったままどうしたものかと考えていると、「さあ」「・・・」「さあさあさあさあさあさあさあ・・・」「ああ、もうわかったよっ! 食べればいいんだろっ、食べればっ!」 結局、根負けしたアギトは目の前の料理を食べる事にした。「うっ・・・」 口に入れた瞬間、アギトはそれまで感じた事の無い感覚に襲われた。「ん、どうした?」 全身が温かくなっていくのを感じ、なぜか目頭が熱い。「うまいか?」 目の前の男はそんな事を聞いてきたが、「・・・わかんねーよ、初めて食べるんだって言っただろ」 と、アギトはそっけなく呟いた。「(ほんと、よくわかんねー・・・)」 初めて感じる感覚・・・決して嫌ではない不思議な感覚を持て余しながら、アギトは次々と料理を口にしていった。「・・・く、苦しい・・・」「それはな、食べ過ぎってやつだ」 アギトが食べた残りを一郎が食べ、後片付けをして一郎が戻ってくると、アギトは腹を押さえて苦しんでいた。「俺はもう寝る。 昨日一晩中歩いたせいでさすがに疲れた」 そう言って、一郎がベットに入ろうとすると、「お、おいっ!! ・・・あたしに聞きたいことがあるんじゃなかったのか?」 アギトが慌てて止めた。「ああ。 そういやそうだったな、忘れてた」「忘れてたって・・・」「話してくれるのか?」 アギトは少し躊躇ったが、「・・・なんか、警戒してたあたしが・・・バカみたいで・・・」「まあ・・・なんでその警戒が解けたのかは聞かねえけど」 一郎は眠るのを止め、ベットに腰掛けると、「んじゃ、聞かせてくれるか?」 アギトが話すのを待った。「・・・ってことは、あそこに留まってなくてよかったって訳だ」「・・・」 アギトの話した内容は、一郎にかなりの衝撃を与えた。 アギトは古代ベルカ式の融合騎で、遥か昔に作り出されたらしい。 しかし、その頃の記憶はアギトには無く、気が付いた時には一郎と出会ったあの研究施設にいたという。 そこで生体実験のモルモットとして生かされていたのだが、謎の二人組の襲撃により、施設から出る事が出来たのだった。 「お前が望むんなら、管理局に知り合いはいるし、誰か紹介してもよかったんだけど・・・」「悪いけど・・・それは止めとく」 アギトは、一郎の申し出を断った。 管理局だろうとどこだろうと、さすがに今は信じる事は出来ない。 一郎は、アギトがそう思うのも仕方ないと考え、それ以上管理局に誘うような事はしなかった。「これからどうするんだ?」「さあ・・・。 あの部屋の中で壊れていくのが、あたしの全てだったから・・・」 一郎の問いに、アギトは表情の消えた顔で答えた。「・・・なあ」「ん?」「初めて食べてみて、どうだった?」「ああ・・・」 アギトは考えると、「よくわかんなかったけど・・・まあ・・・悪くはなかった」 一郎の方を見ずにそう言った。「なら・・・」 一郎は、そんなアギトの感想を聞いて、「俺と一緒に、料理作らないか?」 アギトにそう提案した。「・・・・・・・・・・は?」 アギトは、一郎の言っている事が理解できなかった。「だから料理だって。 お前暇なんだろ?」「ヒマってゆーな!」「それに、お前炎を操るんだろ・・・ぴったりじゃん」「どこがだっ! あたしは融合騎なんだ! あたしの力は騎士とユニゾンして・・・」 アギトは反論しようとするが、「でも、管理局に行く気はばいんだろ?」「ぐっ・・・」「俺はそこら中を旅してるし、もしお前のロードになれるやつがいたら、そいつに付いていけばいい」「・・・・・」「どうだ?」「・・・一つ、聞いていいか?」「ん?」「なんで、ここまでするんだよ?」「なんでって?」「あんたには、融合騎としてのあたしは必要ないんだろ?」「ああ、そこは別にどうでもいい」「なら、なんであたしなんかの「それだ」・・・え?」 一郎はアギトの話を遮ると、「その言い方が嫌だ」「別にいいだろ、融合騎だろうがなんだろうが」「・・・・・」 「難しく考えることはねえって・・・違うか?」「・・・・・」 アギトは熟考の後、暫くは一郎に付いて行く事に決めた。「となると、次は・・・」「?」 アギトの事を考え、一郎ははやてに連絡を取った。《いっちゃん!?》 《久しぶりだな、はやて》 はやては、珍しく連絡をくれた一郎に驚きを隠せなかった。《ホンマに、久しぶりやねえ》 とはいえ、久しぶりに聞いた一郎の声に嬉しくなり、はやての声は弾んでいた。《そうだな。 どうだ、お前の夢は叶いそうか?》《う~ん・・・。 もうちょっとって感じなんやけど・・・》《そうか。 ま、あんま無理すんなよ》《おおきにな。 ・・・でも今は無理もせんとな》 そう言って、はやては静かに闘志を燃やす。《ったく。 まあ、叶いそうになったら教えてくれ。 ・・・できれば、高待遇で雇ってくれると助かる》 一郎が、からかうような声ではやてに話すと、《なに言うてるんや。 そんなん、皿洗いに決まってるやろ》 はやても一郎の意図を察したのか、笑いながら答えた。《・・・そんで、今日はどうしたん?》 雑談も終わり、はやては本題に入る事にした。《どうしたって?》《いっちゃんは、なんもないのに連絡なんかくれんやろ》《・・・そうか?》 一郎は、今までを振り返って考えてみた。《そうや》《・・・まあ、今回はその通りだが》《今回“も”、の間違いやな》《わかったよ。 俺が悪かった》《別にええよ。 ・・・で?》 はやてが先を促すと、《ああ、実はな・・・リインの服、余ってるのがあったらこっちに送ってほしいんだ》 一郎は本題を切り出した。《・・・・・・・・・・へ?》 一郎が話した内容は、はやてにとっては予想外どころではなかった。《だから服だって。 ・・・少しぐらいあるだろ?》 一郎は何でもない事のように話を続ける。《ど、どうする気・・・なん?》 はやてはおそるおそる一郎に問い掛けるが、《どうするって・・・。 そんなもん、使うからに決まってるだろう》 一郎はまるで気付かなかった。《つ、使う・・・。 ・・・いっちゃん、が?》 はやての頭の中では、一郎がリインフォースⅡの服を使って繰り広げるヤバげな妄想が広がって、今にもパンクしそうだった。《ああ。 ・・・まあ、いろいろあってな、必要になったんだ》 一郎としては、アギトの事を話さず説明しているために、かなり曖昧な表現になってしまった。《そういうわけだから、今から言う住所に送って・・・》《・・・いっちゃんの・・・》《ん?》 はやての怒りに震える声を聞き取れずに、一郎は思わず聞き返した。《いっちゃんのどアホ--------ッ!!!!!》“ブツッ” はやての叫び声とともに、電話は切れた。「・・・・・あれ? もしかして、なんかまずかったか?」(こいつと一緒にいて、ほんとに大丈夫か・・・?) ・・・つづく。