彼女、八雲 紫殿が亜空間に消え、霊夢君が大声で叫び終わって数秒。
明らかに怒気と言っていい雰囲気を纏う霊夢君。
正直話しかけるのに勇気が要るが、このままでは遅々として進まない。
周りを見れば、八雲殿が居なくなって気が抜けたのか、大半の魔法先生たちが座り込んでいた。
一部の、ほんの一部の者はちょっと可哀相な事になっていた。
後で絨毯を変えんといかんのぉ。
「……一つ聞かせて欲しいんじゃが」
逸らしていた視線を戻し、霊夢君を見る。
艶やかな黒髪を揺らし、向けてくる黒目と視線が交差した。
「……何よ」
「……彼女は、八雲殿は一体『何』なのじゃ?」
強大な存在感、居るだけで他者を塗りつぶす様な存在。
もし戦えば、この場に居る全員を容易く消滅させる事が出来るであろう。
そう思っても仕方ないほどの実力差を感じた。
姿形は人間、だがその本質が全く計りかねない。
「ゆかりぃ? あのくそババアの事なんて考えるだけでもイライラするわ……」
そう言ってギリギリとお払い棒の柄が軋んでいた、見るからに不満が溜まっている様な感じじゃった。
一言で言えば、『怖い』。
「紫は妖怪だぜ」
と、霊夢君の代わりに答えたのが魔理沙君。
「……妖怪? 八雲殿が?」
「ああ、すきま妖怪だな」
すきま妖怪、そんな名称の妖怪など聞いた事が無い。
あの開いた亜空間をすきまと称しているのか、そのためすきま妖怪と言われるのか。
「すきま妖怪とはどんなものなんじゃね?」
「さあ、私も良く知らないな。 阿求は『妖怪の賢者』とか言ってたけど」
またよく分からない名称が出てきた、彼女らが住む土地は色々と麻帆良とは違うんじゃろうな。
紅と白を基調とした脇とか見える巫女服に、白と黒を基調とした一般的な魔女のイメージな服。
それを普段着として着ているとしたら、色々と考えなければいけないのぉ。
「『あきゅう』とは?」
「んー、……歴史家って奴か? 色んな事を本に書き留めてる」
「ふむ……」
「妖怪の賢者はそのままだぜ、阿求がそう言ってただけ」
「妖怪の賢者……、どう見ても人間にしか見えないんじゃがね」
「人型の妖怪は結構居るよな、霊夢?」
「……そうね、大抵異変を起こすのは人型だからイラつくわ」
何とか怒りを押さえ込んだ様子の霊夢君。
どっかりをソファーに座って湯飲みを手に取っていた。
「スキマとは……、あの裂けた空間の事かね?」
「そうそう、紫は境界を自在に操るからな」
まぁスキマが無くても十分強いんだがな、と付け加える。
一目で分かる実力、そこのあのような亜空間を自在に操るとなれば……。
「正直に言おう、彼女は危険ではないのかね?」
「危険と言っちゃ危険だな、紫が動く時は大抵めんどくさい事になるし」
腕を組んで頷く魔理沙君。
「まぁ今回は私の我侭だしな、そう警戒しなくてもいいと思うぜ」
「……ふむ」
厄介事を持ってくる、と言う意味で危険なのか。
少なくとも霊夢君たちと八雲殿は対立しているわけじゃなさそうじゃ。
「そうだったわね、魔理沙が原因だったわね……」
そう考えていると、霊夢君が声を発した。
低く、ドスの聞いた声。
ハッ! と気が付いて振り返る魔理沙君。
失言に気が付いたのだろう、戦々恐々とした表情を浮かべていた。
「なぁ霊夢。 そんなに怒るなよ、たった一週間だろ?」
「……そうね、たった一週間よね」
「そうだぜ、一週間なんてすぐ経つさ!」
「そうね、たった一週間。 魔理沙と弾幕ごっこでもして過ごしましょうか」
ゆらりと、顔をうつむかせたまま霊夢が立ち上がった。
「お、落ち着け! ここは狭いし他の奴らも居るんだぜ!」
「……弾幕ごっこじゃなくても良かったわね」
両手を突き出して止める魔理沙君。
それを見ず、お払い棒で素振りを始める霊夢君。
「待て待て待て! やっぱり私は悪くない! 紫だ! 紫のせいブッ!」
放たれたお払い棒が魔理沙君の顔面にめり込んでいた。
メリッと言う音が出そうなほど、いや、突き刺さっていると言った方が良いのじゃろうか……。
「あんたも悪い、紫も悪い、両方悪い、つまり打っ叩く」
悪いから叩く、何と単純な答えか。
仰向けに倒れている魔理沙君、少なくとも霊夢君がココに来る一因となってはいる様じゃ。
「魔理沙、人様に迷惑を掛けるのってどれ位罪が重いか分かる? それも一番幸せな時の時間をよ?」
アッー! と魔理沙君の悲鳴が起こる。
魔理沙君を踏みながら『異変が無い時位は静かにさせて欲しいわ』とか呟いておった。
「……も、もう良いかね? 今後の事を決めて置かなければならんのじゃが」
霊夢君のスタンピングから匍匐前進で逃れる魔理沙君。
「あ、ああ、そうだよな! 寝るとことか飯とかな!」
救いの手に飛びついてくる魔理沙君。
もうちょっと気をつけて欲しいのじゃが……。
「衣食住は提供させてもらうのじゃが、何か希望はあるかね? 希望に出来るだけ添えるよう手配するがの」
「が、学園長!? こんな怪しい者達を置いておくのですか!?」
「そうしようと思うのじゃが、何か不満でもあるのかね?」
「危険過ぎます! 即刻追い出すべきです!」
肌が黒い、この学園の先生の中でかなり頭が固い方のガンドルフィーニ君が大声で反対してきていた。
「本人が目の前にいるのに言うなぁ」
「あんたも似たような事するでしょ」
「そうだっけ?」
「そうよ」
「学園長!!」
「まあまあ、少し落ち着きなさい。 八雲殿が如何に危険であろうと、彼女達が同義の存在とは限るまい?」
「……確かにそうですが、魔法書を狙って来ているという事には変わりません」
「確かにそうじゃが、狙うならもっと賢いやり方があると思わんかね?」
「しかし……」
「八雲殿の『すきま』とやらを使えば、魔法書が置かれている所に直接行ける事も出来るかもしれん。 じゃが、八雲殿はあの本が『危険』だと言って、処分してもらったのじゃ。 君が考えるような危険人物なら、持ってこずに何らかの事に利用していたじゃろうて」
「………」
「『本当に』危険ならば、このような事などせぬはずじゃ」
……尤も八雲殿にとって、あの本が『利用価値が無い』代物だったのならこの考えは簡単にひっくり返されるじゃろうが。
「……だが、君の言う通り彼女らが危険ではないと言う確証も無い。 霊夢君、魔理沙君、悪いがこの一週間監視を付けさせてもらっても構わぬかね?」
「お断りよ」
「四六時中見られるのはなぁ」
「ここは気前よく了承して欲しいもんじゃの……」
「コノエモンが同じ立場になったら二つ返事で提案を呑む? 飲まないわよね」
「むぅ……、そこを何とか」
「何とか、って言われても嫌なものは嫌よ」
「監視するって言うなら、遠くからじゃなくて近くに居ればいいんじゃないか?」
そう魔理沙君が口を挟む。
「そっちの方が見られてるって感じ難いし」
と付け加えた。
彼女らの実力は如何程のものかは分からんが、少なくとも複数の監視は付けさせてもらう。
「ふむ、そういう手もあるかの。 魔理沙君が言った通り監視を傍に置いておくと言うのはどうかね?」
「……そうね」
そう呟いてお茶をすする霊夢君。
よく飲むのぉ……。
「まぁそれなら、別に何かするわけでもないし。 ……と言うか境内の掃除とか誰がすんのよ、放置するわけにも行かないでしょうに……」
後半は小言でぶつぶつ言っていた。
「それでは──」
「おい、爺!」
監視を付けさせて貰おうかの……、と言おうとしてエヴァがドアを蹴破り入ってきた。
「……エヴァ、もう少しゆっくり入ってこれんのか?」
「そんな事言ってる場合じゃないだろう! さっきのデカい魔力は何だ!?」
金髪幼女、その表現がぴったりなエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが慌しく入ってきた。
学園長室に居る、霊夢君と魔理沙君以外の視線全て彼女に集まっていた。
そのエヴァはその二人に気が付いたようで、指差して言った。
「……爺、何だこいつら」
「わしの客じゃ、もう一人居たんじゃが既にお帰りになっとるよ」
「ではさっきのは?」
「その人物じゃ」
「チッ、あれほどの魔力持ちの奴を一目見たかったがな」
「いや、見んほうが良かったかも知れんぞい」
「……? どう言う意味だ?」
エヴァの事じゃ、食って掛かっていたかもしれん。
如何に彼女であれ、呪いを掛けられた状態では手も足も出んじゃろう。
「そのままの意味じゃ」
「それを教えろと言ってる」
「ふむ……、今のお前さんじゃ文字通り手も足も出ない……、と言っておこうかの」
「……ふん、別に良いさ。 で? こいつらは?」
「そちらが博麗 霊夢君、こちらが霧雨 魔理沙君じゃ。 一週間ほどじゃが麻帆良に滞在する事になったぞい」
「霧雨 魔理沙だぜ、よろしくな!」
手を上げて挨拶する魔理沙君、エヴァは一遍見てすぐ霊夢君へ視線を移す。
「こいつら魔法使いか? そこそこの魔力を持ってるようだが」
「魔理沙が魔法使いよ、私はただの巫女」
お茶請けを口に含み、またお茶を飲む。
「巫女? その形でか?」
ノースリーブ腋丸出しの巫女服。
正直言ってコスプレか何かにしか見えん。
「そうよ」
お払い棒まで持って、ますますコスプレにしか見えない。
もう一方の白黒、御伽噺か何かの魔女服。
ふざけている様にしか見えない。
「……爺」
「なんじゃ」
「何なんだ、こいつら」
「客人じゃよ」
「こんな奴ら置いておくのか?」
「そう頼まれたから仕方ないじゃろう」
変人奇人が多いこの麻帆良でも、この出で立ちは怪しすぎる。
如何に結界で意識を逸らすと言っても、限度を超えていそうな感じがする。
「……まぁいい、お前らここに何しに来た?」
「無理やり連れてこられた」
「グリモワールを読みに」
「グリモワール、か。 ずいぶんと旧い言い方をするな?」
「旧いか? 皆そう呼んでるが」
「グリモワールという呼称自体殆ど廃れている、相当の田舎者か?」
「田舎者と言えば田舎者だな、外の人里がこんなにデカいとは思わなかったし」
こいつら、『穴倉』らしいな。
グリモワールなんて呼び方、この百年近く聞いた事が無い。
殆どの魔法使いが魔法を記した書物を『魔法書』と呼ぶに対して、このガキは『魔術書<グリモワール>』と言った。
外に疎い引き篭もった魔法使い、魔女位しかその名で呼びは済まい。
よってこいつは隔離された、隔絶された地域の魔法使いと言う所か。
そういえば穴倉から頭を出すと言う意味で、『モグラ』なんて名称もあったな。
「グリモワールを読みに来た……と、ここにあると何処で知った?」
「紫だよ、あいつがここにグリモワールが一杯あるって言ってたからな」
「『ゆかり』? 誰だそれは?」
「先ほどまで居た客人じゃよ」
「全く紫には困ったもんだぜ、なぁ霊夢?」
「あんたが嗾けたんでしょうが」
「それもそうか」
はっはっはー、とか大声で笑う金髪の白黒魔法使い。
「……爺、本当に置いておくのか?」
「……うむ」
一瞬躊躇した表情を見せた爺。
「まぁいい、何をしようと勝手だが」
睨みつけて殺気を飛ばす。
「下手な事をすれば、消えてもらうぞ?」
「ねぇこのお茶請けって何?」
「ん? 美味いなこれ。 霊夢んとこの煎餅よりいける」
「大体の茶請けが霖之助さんのとこから持ってきたものよ?」
「なんだ香霖とこのだったのか、道理で美味いわけだ」
………こいつら。
「……霊夢君、魔理沙君。 すぐに住居を用意させよう、すまんが別室で休んでいてもらえんかの?」
「ん? グリモワールを読ませてくれる上に寝床まで用意してくれるなんて、悪いな」
「そういう事もあるまい、あのような物を処分してもらったんじゃから」
「まぁ、あんな物有っても困るわよね」
「研究する分にはいいんだけどな」
「しずな君、別室に案内してくれんかの」
「はい」
源 しずなの後に付いて学園長室から出て行く二人。
「さて、皆も色々と不満があるじゃろうが、此度の件はわしに任せてもらえんじゃろうか」
「……学園長がそう仰るなら」
渋々と言った感じで頷き、部屋から出て行くほかの魔法先生達。
爺への信頼で押し通したものか。
「……それで爺、どうする気だ?」
「どう、とは?」
一人残ったエヴァ。
わしとエヴァ以外誰も居なくなってから口を開いた。
「あのガキどもの事だ」
「二人かね? どうもせんよ」
「良いのか? あいつら相当やるようだぞ?」
エヴァが常人なら気絶していてもおかしくないほどの殺気を向けたと言うのに、あの二人は平然としていた。
あの程度の殺気、受け慣れていると言う事だろう。
或いは……超確率が低いじゃろうがただ単に『鈍い』と言う事もありえるが……。
「さっさと追い出してしまえばいいものを、その判断が間違ってたらただでは済まないかも知れんぞ?」
「そうなった時は全力を持って排除する、それだけじゃ」
「出来なかったらどうする? 爺が言ってた『今の私では手も足も出ない存在』が出張ってきたらどうする?」
「それは……、どうするかのぉ……」
「爺、本気で聞くぞ。 『そいつはどの位強い?』」
「……正直に言えば、底は分からん。 わしには計りきれん」
「………」
「少なくとも、わしや高畑君が一瞬で殺される位じゃろうて」
「ほう、そんなにか……。 するとあの二人は弟子か何かか?」
「そこまでは分かりはせんよ……、一応調べさせたが戸籍に『はくれい れいむ』と『きりさめ まりさ』は存在しとらん」
日本のみに見られる独特の名前、霊夢君は黒目黒髪の純日本人の容姿じゃが、魔理沙君は明らかに違う。
見るからに金髪金目の外国人、偽名にしても無理があるだろう名前。
「増す増す、と言った所か。 そこまで言われると流石に気になってはくるな」
「手出しはいかんぞ、一週間もすれば居なくなるようじゃから余計な揉め事は要らん」
「はッ、『今の私では手も足も出ない存在』に出てこられるのは困るしな」
そう言って踵を返し、部屋を出て行くエヴァンジェリン。
封印が無かったら、今すぐにも手を出しそうな雰囲気だった。
あの後別室に案内されて、この土地の事を色々は教えてもらい。
それから一時間ほど経って物件を紹介された。
紅魔館のような洋式は肌に合わない、よって日本屋敷を希望した所。
「結構大きいじゃないか」
神社より大きい屋敷が宛がわれた。
西洋の街並みの一角に、でっかく置かれた日本屋敷。
似合うかと言われれば、合わないと答える調和のずれ。
「ふぅん、良いんじゃない?」
「中に入ろうぜ!」
チクチク感じる視線を無視して屋敷の中に入る。
今日のところは遠くからの監視、明日からは傍に誰か置いておくらしい。
魔理沙はともかく、私は外に出ないだろうからどうでも良いが。
「縁側も広いじゃないか、景色もキラキラ光ってて悪くないし」
まるで昼のよう……とは言えないが、視界の中に暗いと思える箇所が殆ど見つからない。
目を凝らさなくても、しっかりと見えるほど光りに溢れていた。
「残念なところは、星が見えない所だなぁ」
そう言われて、縁側から空を見上げるが。
「……殆ど見えないじゃないの」
幻想郷と全く違う空、小さな星の輝きが有るだけ。
幻想郷の中と比べて、外の世界は色々と汚いらしい。
中なら夜に空を見上げれば、満天の星空なんだけどね。
「まったく、さっさと帰りたいもんだわ」
「ま、一生に一度出られるかどうかの外の世界だぜ? 少し位楽しもうじゃないか」
「縁側に座ってお茶を飲んでれば、十分に幸せなのよ」
それだけで良い、それ以外の幸せは求めていない。
「ほら、色々やることあるんだから」
「はいよ」
縁側の襖を開けて中に入る、やっぱり部屋は畳じゃないとね。
「何これ、どう使うのかしら」
「うーん、訳分からんぜ」
台所らしき場所に来て見たのは良いけれど、良く分からないものが置いてあり。
大きい長方形の箱から変な音が出てたり。
魔理沙が触りまくってたら、それのふたが開いて中に野菜とか入っていた。
食材を保存するものだったらしい、食材を取り出しいざ夕食にしようと思ったが、竈が見つからず。
とりあえず、魔理沙のミニ八卦炉を竈代わりにして夕食を作って食べた。
食事が終われば後は寝るだけ、押入れを開けて布団を取り出して敷く。
お風呂に入りたかったけど、やっぱり何処を触ればいいのか分からず入れなかった。
勘弁して欲しいわ……。
「……夢の中まで紫が出てくるとか……」
布団を被って眠れば紫ババアが現れた。
「あら? 夢じゃないわよ?」
「………」
境界を操ったの?
人の夢にまでちょっかい出してくるなんてこのババア。
「直接伝わるからやめたほうが良いわよ」
「そう、じゃあババア。 こんな事までするんだから何かあったんでしょ?」
「……幾ら霊夢でも面と向かって言うと怒るわよ?」
「ならそう呼ばれるような事しないでくれる?」
向かい合って視線をぶつけ合う。
外の世界に放り出してそのまま、魔理沙が長方形の箱のふたを偶然開けなければ、夕飯無しだったに違いない。
「夢の中まで霊夢に会うなんて、何処まで追いかければいいんだ?」
睨み合う中に割って入る声、振り返れば白黒の魔法使いが居た。
「しかし殺風景な夢だな、真っ黒じゃないか」
「だってねぇ、夢だししょうがないわ」
一転ふふふと笑い、扇子で口元を隠す紫。
思い切り悪戯しようと言った感じ。
「夢じゃないわよ、紫が境界弄ったらしいし」
「……つまんないわね、せっかく楽しもうとしたのに」
ネタをばらされて膨れっ面の八雲 紫、スキマ妖怪と呼称される『一人一種族』の妖怪。
たった一人しか存在しないのに、種族と付く。
同種、遺伝子やら外見やら血液やら、それらに近似する者が全く居ない存在。
種族としての最初と最後を併せ持つ妖怪。
基本『一人一種族』と認められる存在は『強力』な存在として見られる。
『身体』『魔力』『妖力』『特異能力』と多岐に渡るがどれもが人間所か妖怪にさえも甚大な被害を齎し得る存在。
このババア、もとい八雲 紫は群を抜いている。
その特異能力は『境界を操る程度の能力』と言う馬鹿げた力。
空間の境界を操り、全く別の離れた空間に繋げたり。
今のこの場所、現実と夢の境界を操って見せたりと、幻想郷でもトップクラスの力を持っている存在。
阿求が書いた『幻想郷縁起』よれば、紫は『神の如き力』と評されていた。
それをポンポン使ってるから、大層な物と言った感じが全くしないのは確かだけど。
「夢じゃない? ……まずったな」
「? 何が?」
「いや……、なんでもないさ」
これが夢ではないと分かり、帽子を脱いで頭をかく魔理沙。
やはり小声で『拙いな』と呟いていた。
魔理沙が何を言ってるのか分からないから放って置く。
「で、紫は何をして欲しいわけ? 態々外の世界に放り出したんだから何かあるんでしょ?」
「ええ、如何に博麗の巫女とは言えそう簡単に外へ送る事は出来ない」
「でも紫は簡単に送り出した、魔理沙の本が見たいってのに乗った訳?」
「そうよ」
手首のスナップを利かせ、扇子を一気に開く。
そのまま腕を振るえば。
「誰こいつ?」
現れたのは白髪の、背がちっさい少年。
魔理沙よりちょっと低いくらいの、目つきが悪い子供。
「敵よ」
「敵? あんたの?」
「いいえ、『幻想郷』の敵よ」
「幻想郷の敵? どういう意味だ?」
「そのままよ、幻想郷にとっての敵。 幻想郷を含む、そこに住む全ての存在の敵」
「……その敵さんをぶん殴れってこと?」
「二人を外に出したのはそうして欲しいから、霊夢が言う通りぶん殴るだけじゃ済まさないけどね」
冷ややかな視線。
この白髪の少年を見る紫の目は、汚いゴミを見るような白い目。
「敵、ねぇ。 具体的には何したんだ?」
魔理沙も紫が怒っている事に気が付いたのか、同じような目で少年を見ていた。
「結界に穴を開けようとしたわ」
「……無理やり入ってこようとしたわけ?」
「ええ、それも最悪に近い方法でね」
紫の言う『最悪に近い方法』、それは結界を『破壊』する方法。
穴を開けて入る、それが小さいものならすぐにでも塞げるが。
度を超えて大きくなると、穴の周囲から決壊し始め、連鎖的に穴が巨大化。
結界全体の限界強度を超えると結界が物の見事に『破裂』する。
そうなれば、有機無機問わず『中』にある全てのものが影響を受ける。
無論『外』もただではすまない。
「まぁ、この人間に命令された人間がやっていたのだけれどね」
「そいつは?」
「『消えて』もらったわ」
「おー、おっかねぇー」
魔理沙がふざけた様に言っていた。
私と紫が結界を監視し、綻びが有ればすぐにでも補修する。
人為的な物なら今回の紫のように、実行した者を『消して』穴を塞ぐのだけど……。
「それで、こいつは何処に居るのよ」
「調べたのだけど、中々見つからなくてね」
「私たちで調べろって?」
「名前は『フェイト・アーウェルンクス』、『完全なる世界<コズモエンテレケイア>』と呼ばれる組織に所属する存在」
「大層な名前をした組織ね」
「残念だけど今は何処に居るか分からない、背後に結構大きな組織が有るけど関係ないわ」
それを皮切りに紫の声のトーンが下がった。
「こいつ、捕まえてきてちょうだい」
可哀想……ではないか、人の大切なものを壊そうとしているんだから。
殺されたって文句言えないわね、まぁそれ以上の目に遭いそうだけど。
「居場所分からないのに、どうやって見つけてくるのよ。 外の世界のこと全然知らないんだけど」
「私も知らないぜ、捜すにしたってどうやって捜すのかすらも検討付かないんだが」
何時もの幻想郷の異変のように、飛び回って見つけると言う手はあんまり使えない。
幻想郷より広いし、コノエモンは『そういう事を出来る』事を知られたくないようだったし。
「恐らく向こうから来るわ、あの土地に居れば出会えるでしょうね」
「ああね、何かあるから直接送ったって事。 と言うか、私じゃなくて紫が居れば良いんじゃないの?」
「結界の補修で忙しいのよ、だから霊夢に行って貰うの」
「……『異変』って事で良いわけ?」
「ええ、異変解決も『博麗の巫女』としての仕事でしょう?」
「はいはい」
先ほどの視線、表情とは打って変わった紫。
また胡散臭い笑みを浮かべていた。
「で、私はどうすればいいんだ?」
「霊夢を手伝ってあげてちょうだい、一人じゃ手が回らなくなるかもしれないわ」
「ああ、任せろ」
帽子を被りなおして魔理沙が笑う。
思えば二人で協力して異変に向かうのは初めてじゃないかしら。
大体は異変が起こり、解決に向かって別々に動く、その道中でばったり出会って弾幕ごっこを始める。
或いは完全に別々に動いて、黒幕を見つけたり見つけなかったりする。
『異変解決のパートナー』として行動するのは今回が初めてな気がする。
「こいつ捕まえに行くのはいいけど、その間の神社とか巫女としての役目とかどうすんのよ」
「代役を用意させてもらったわ」
「代役?」
「紅魔館、永遠亭、白玉楼、守矢神社からそれぞれ動いてるわ。 既に幾つかの小さな異変を解決してるわよ」
「……最初からこうするって決めてたわね?」
そう問い質せば、口元を扇子で隠しながら笑う紫。
外に出てまだ一日も経っていないのに、もう代役が幻想郷で動き出している。
つまり紫は、最初から決めて計画を練っていたと言う事。
「わざわざこんなことしないで、最初から言ってくれれば良かったんじゃないの」
紫の言うように『異変』ならば、『博麗の巫女』として動かない訳には行かない。
それを理解している紫は。
「だって霊夢の慌てた表情、面白かったわよ?」
こういう妖怪だった。
「はぁ……」
「確かに面白かったよな」
ギンッ!
ヒィ!
「冗談! 冗談だって!」
「はぁ……こいつを捕まえてくればいいのね?」
「見つけるだけでも良いわよ? 後はこっちでやっておくから」
文字通り『攫う』のだろう、人間如きでは永遠に逃れられない『領域』に。
伊達に『神隠しの主犯』などと呼ばれては居ない紫、名前忘れちゃったけど攫われる人はご愁傷様。
勿論口だけで、内心は一欠けらもそんなことは思っていない。
「あと貴女達が寂しい思いをすると思って、はいこれ」
ゴロリと、陰陽玉がスキマから落ちてきた。
それに手をかざして紫は言う。
「はい、これで幻想郷の中と通信できるから」
『お、聞こえてきた。 紫、渡すの遅いよー』
『まぁまぁ、萃香さん落ち着いてくださいよ。 それで霊夢さん、外の世界は今どんな風になってますか? インタビ』
陰陽玉を蹴り飛ばした、結構力を込めて。
魔理沙は座り込んで、もう一つの陰陽玉に話しかけていた。
「ちょっと、また改造したわけ?」
「地底と外の世界は違うから、色々工夫させてもらったわ」
と、何時もの150%位に増えた胡散臭い笑みを浮かべた。
サポートは良い、地底の時だって役立った。
だけど、勝手に改造するのは話が別。
「戻せ……って言っても戻さないんでしょうね」
「何かあったらすぐに知らせてちょうだい、昼は藍が、夜は私が対応するわ」
「人の話を聞きなさいよ」
「いつもそれを傍らに控えておきなさい、認識阻害の術を掛けてあるから特別な者でも早々見破れないわ」
「……はぁ」
「ああ、忘れてたわ。 それは幾つもの陰陽玉と繋がるから」
「幾つもの?」
「ええ、協力してくれた者達への約束」
「……他にも聞いてる奴らが居るわけ?」
「ええ、代役を受けてもらった者達と、香霖堂の店主には渡してあるわ」
「霖之助さんも? 何やってるんだか……」
「それじゃあ霊夢、また宵の晩に」
そう言って紫が扇子を一気に閉じれば。
「………」
朝になっていた。
隣を見れば魔理沙が布団からはみ出して寝ていた。
「………」
紫の所為で寝た気がしない、だからまた瞼を閉じた。
BA☆BA☆A!
なんか自分が書く小説は説明不足だなと思う今日この頃。
二話の説明、何も考えず書いた、反省はちょっとだけしてる。
物語崩壊フラグ量産中。
霊夢・原作より話し方がキツイ。
魔理沙&紫・原作より話し方が緩い。
会話集見たんですけど、全然話し方が違いますね、変えるべきか。
巫女代役、紅魔館からは『瀟洒なメイド長』、永遠亭からは『狂気の兎』、白玉楼からは『半人半霊の庭師』、守矢神社からは『風の風祝』が出張ってます。
とりあえず地霊殿のサポートと、上記のキャラとその主たちは出す予定、予定だから出ないかもしれない。