File_1936-04-001D_hmos.
東郷さん、戻ってくるってよ。
「うん。噂は聞いてたけど、どうやらホントっぽいね」
小林くん。どうするよ。このコレクション。
生首のホルマリン漬けとか、重度阿片中毒者の内分泌器系標本とかは、研究材料で~って言い訳もできるかもだし、東郷さんも嫌いじゃないかなって思うけれどもさ。
鉄道関係は、きっと怒られちゃうよね。
「これ全部、貸倉庫に預けておくとしたら、どのくらい?」
算盤をはじきます。
成約。
毎度おおきに。
東郷は、内地で2年間、いろいろ根回ししてたみたいですね。
世界では少数民族のひとつに属する、わが大日本帝国が、その何倍何十倍何百倍もの人口と、兵力と、資源や技術開発、もちろん文化においてをや凌駕する、中国・ソ連・英・米などと戦い抜いていくためには、何が必要か。
良識持てば?
と答えたいところですが、人類史上最狂のマッド・メディシンマンを自認する東郷に、そんな発想は元からありますまい。
一兵たりと無駄にできない。
貴重な人的資源を徹底的にリカバーし、リサイクルして直しながら使う。
そのための疫病予防と医療体制。
敵に対しては、毒ガスなどの化学戦、病原体頒布などによる効率よい殺傷と、脅威排除後のすみやかなる無害化。
そういった発想が、今まで陸軍にはありませんでした。
まあ、無いわな。
外国でも決して常識じゃないと思うぞ。少なくとも、大っぴらには。
それを東郷は、上層部に認めさせて、この度、関東軍防疫部の正式発足という成果をひっさげて、仕切り直しに、戻ってきます。
陸軍省のみならず、皇室まで抱きこんでの根回しだったみたいですよ。
2・26を起こした士官たちに、今からでも爪の垢を呑ませたい。
東郷って、すごいと思います。
夢を叶えるために必要な努力を、はっきりと理解して、まっすぐに実行している。
尊敬に値する。あらためて、手強い相手だと思う。
私には、ここまでできない。正直に認めます。
尊敬に値するといえば、話はかわりますが、もう一人。
山本春彦さん。本名、浅原健三さん。通称ハルさん。
昨日も新京で会いましたが、とにかく行動力がパネえ。毎日、至るところへ出没して、いろんな人に会い、話をして、勇気を振りまいて、帰っていく。
相手の口を軽くして情報を入手する技術も、相当なレベルです。私なんてアマチュア。思い知る。
彼は偽名こそ使うけれども、自分のことを隠さないし、堂々と石原莞爾の側近ですとも告げる。
全部オープンにすることで、相手を味方に変えていく。
ステルス特性で動く私とは、陰と陽です。かなわない。永遠にかなわないと思う。思い知る。
そのハルさんから聞いた、トンデモネタをいくつか。
片倉タダシ。まだ死んでません。
弾が頭蓋骨にめりこんでて、一命をとりとめたそうです。撃ったのは磯部アサイチ。
なんと、パク=磯部でした。
びっくり。
その直前、蹶起兵たちが一斉に敬礼してた人物は、おそらく眞崎ジンザブロー。あれが眞崎だったのか。
ハルさん、眞崎とも話をしたことあるそうです。
曰く、ええかっこしい。
相手に花を持たせるって言うんでしょうか。サービス精神は旺盛。
でも誰にでもそうだから、全員が、俺のことわかってくれたと思いこむ。眞崎も、その場限りで安心する。
危険人物メーカーじゃないですか。
荒木共々、内閣からは相手にされてないそうです。まして皇室からは、なおさら。
2・26は、これまで皇道派に同情的だった市民層をも一気に陸軍嫌いへと変え、とくに襲撃を受けたアサヒ新聞社が旗頭となって論陣を張っている模様。
陸軍内でも一掃されちゃうんじゃないかな、とのハルさん予想です。
全員満洲移駐とかは、勘弁してもらいたいですが。切実に。