───その後、場所を移す。
レフティアはメイ・ファンス少将自らによって作戦司令室へと導かれると、用意されていたソファにそのまま腰を無礼に掛けた。
その部屋にいるのはアイザックとレオを合わせた四人だけで、クライネは表で待機する事となった。
「───で、あなた達はレオ君をどうしよっての?」
メイ・ファンス少将が人数分の茶を入れている最中、レフティアは大柄な態度でおもてなしに応じた。
「……そうね、ハッキリ言ってしまえば彼を私たちの戦力として採用したい。という事かしらね、枢爵の思惑が定かではない以上は私たちも彼を簡単には手放せない。けど彼には枢騎士団と対峙する意思があるようだし、彼をただここに閉じ込めておくのではなく、枢騎士団に対する戦略的なカードとして起用しようと。そう思ったのですよ」
メイ・ファンス少将は席に着くと、各々の手前に淹れた茶を腕を伸ばしながら差し出していく。
そしてそのまま茶を受け取ったアイザックは口を開く。
「───まぁあくまでもこのことに関してはレオの自由意志を尊重する、一応現時点ではコイツに戦略的価値はないが、その気がないのなら事が済むまで保護させてもらう。終われば元よりすぐ解放するつもりだ。だが、現時点においてのレオの意思は、我々と共闘する満ちを選んだと捉えているが……彼女と出会ってそのことに変化はあるのかレオ?」
アイザックは静かにレオへと視線を送る。
「───あぁ、そうだな......。レフティアさん、正直俺はレフティアさん達が俺を助けに来てるなんて思っちゃいなかったんだ。でもこうして来てくれていたことに凄く感謝している、だけどレフティアさん。今、俺はこっから離れる事なんて出来ない。俺のこの体質と、枢騎士団が俺を攫った狙い、それが分かるまでは。すまないが戻るつもりはない」
レオはレフティアに顔を合わせながら視線を合わす、それを聞いたレフティアは気だるげそうに背伸びをすると足を組む。
「なるほどねぇー、肝心の当人がそういうスタンスなら私たちもここで強引に連れ帰っても意味はないものねぇー。はぁーそうねー、分かった!じゃあ……私たちも貴方のやりたいことに改めて協力させてもらおうかしら!!!」
レフティアのその言葉にこの部屋にいるレフティア以外の者たちは驚愕した。
「───なっ、それは本気なのですかレフティアさん」
メイ・ファンス少将は思わず言葉を詰まらせる。
「えぇそうよ?そっちにとって願ってもない話なんじゃない?って言っても、本音はせっかく遥々ここに来たってのに何もしないで帰るのは退屈だからなんだけど、てか帰ってもまた面倒事がありそうだしね。それにレオ君の力の事、すごく気になるし別にいいでしょう?」
「まぁ......。俺としては有難い話だが......」
レオは向かい側の席の方を伺う、するとアイザックとメイ・ファンス少将はお互いに顔を合わせると、何かに納得したかのように頷く。
「えぇ、そちらからそのような提案をして下さるとは、幸栄の限りですよレフティアさん。ただしこちら側に就く以上は……もちろん概ねの行動等の守秘義務を課す事になるけれど、よろしいのかしらね?」
「えぇ、どうぞ。あと元々の計画を第三共和国にリークするって話だけど、全部が嘘って訳じゃなくて、その事なら一応は可能よ。具体的な事は私のアンバラルのツテがそれを実行できるポジションにいる。貴方たちの計画次第では彼ら共和国軍を介入させる隙を作ってあげる事も、可能かもしれないわよ?まぁ全ては貴方たちの計画とやらが上手く言った後の話なんだけど」
レフティアはレジスタンス側との事前の計画について意気揚々と話したり
「───とりあえず詳しい話はまた後の機会にしましょうレフティアさん。貴方が協力して下さるのでしたら、我々の計画がより確実なものとなりますでしょう。感謝致しますわ」
メイ・ファンス少将は深々と行儀の通った礼をする。
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メイ・ファンス少将等との話を終えたレオとレフティアは陽気に話し合いながら司令室から出ると、表で待っていたクライネと会う。
「その様子だと、話は穏便に済んだようですね......。良かったです」
クライネは安堵の表情でレオとレフティアを迎える。
「あぁ、まぁ何とかな。レフティアさんの理解あってのおかげだ、ここで改めて礼を言いますレフティアさん」
レオはレフティアに向けて深い礼をする。
「もーやめてよそういうの、結局私の気まぐれ事なんだから感謝されるような覚えはないわよ。それよりさぁ......!」
突然レフティアはクライネとレオの手を取ると、それを自らの方へと優しく引きずりこんだ。
「二人はどこまでやったのよ?」
その質問にレオとクライネは一瞬思考が追い付かずに間が空くも、直ぐに戸惑いを隠せぬ様子でクライネはあたふたする。
「なっ!ななななっ!意味深な事を聞くのやめてください!!!」
クライネは思わずレフティアの手を振りほどくと、少し距離を置いた。
「わーお!冗談だって!そんなに警戒しなくてもいいのに、貴方って結構ピュアな子だったのね~、可愛くて無垢そうな子ってすごくちょっかい出したくなっちゃう......!」
レフティアは何やら不思議な手つきでクライネに近づこうとする。
「もう!本当にからかうのはやめてください!!!」
そういうとクライネはレオとレフティアのいるその場から勢いよく去って行った。
「あらら~、からかいがいのありそうな子ね~」
「はぁ、レフティアさん。そういうのは程々に頼みますよ、彼女も暇じゃないんですから」
レオは呆れ交じりにため息をつく、その様子にレフティアは軽くじゃれながら笑い過ごす。
「ふふ、それじゃあレオ君。そろそろ君の特異的な体質とやらを拝ませに行かせてもらおうかなー?普段はどこでやってるのよ?」
レフティアは和気藹々とそう話す。
「えーと、ここの一番深い所に幽閉施設がって、そこで……」
「幽閉施設......、そんなものまでここにあるのね」
レオとレフティアは中央エレベーターへと続く廊下へと出た、そしてその廊下の要塞施設内部が垣間見える窓からはレオとクライネがいつしか見た光景がレフティアの目に映る。
(ディスパーダを閉じ込めておく幽閉施設なんて並みのそこらの組織じゃ到底用意のできない代物......、それに、あれは......巡航ミサイル、AE高射砲?一体何門あるのかしら、本軍に見つからずにこれだけの兵装を格納しているなんて只者の組織じゃないよーねここ。それこそ要塞化された首都一個丸々滅ぼせるほどの火力はありそう、本気で枢騎士団を相手取る気なのね)
レオとレフティアは中央エレベーターに乗ると、幽閉施設へと向かう中央エレベーターは真っすぐ深層へと動き出した。
やがてエレベーターは幽閉施設へと着き、レオとレフティアは降りると幽閉施設に至るまでの巨大な門へと差し掛かる。
「この先が幽閉施設、そして俺が越えなくてはならない二人のレイシスが俺を待ち受けている場所です」
レオはレフティアにそう言うと、徐々に開かれていく巨大な門の前で整然と立ち尽くす、それを後ろから眺めるレフティアはどこか期待に胸を弾ませながらレオの背中を見ていた。
門が完全に開かれレオとレフティアは冷たい空気の中へと入っていく。
二人の新しい人影がレフティアの瞳に映り込む。
そして同時に、レオとは別の存在の気配に、その二人のレイシスは凄まじい警戒心でレフティアを捉えていた。
「───そちらの可憐な女性はどなたかなレオ殿?」
ベルゴリオは瞬時に顕現させたソレイスを片手にレフティアを注視し続けるが、レイシスの少女ダグネスの方は特に警戒する様子もなく席に着いている、だがしっかりと右手で腰の人工ソレイスの柄に軽く手を掛けている事は分かる。
「まぁ待て、警戒するのは分かるがこの人は協力者だ。敵じゃない」
レオはベルゴリオに説得を試みるも一向に警戒を解く気配はない。
「先ほどから妙に空間がざわつくと思えば、貴様がその原因か。それにこのトゥルヘラクロリアムの気配、間違いようがない。我らと対を為す存在イニシエーター、それも只のイニシエーターではあるまいな。相当の手練れと見る、何用でここに参ったのかイニシエーターよ」
ベルゴリオが武器を構えるも、その様子をレフティアはソレイスを顕現させる事もなく、無防備ともいえる状態で、只々不気味な笑顔で彼を見ているだけだった。