注 今回は捏造オリ設定が多いです
葉瀬中卒業式
進藤ヒカルの学生生活最後の日。
それは塔矢アキラに引き摺られる様に棋士生活に入る事であり和谷義高に続く囲碁浸りになる事である。
母美津子にとっては不安の残る日々でもある。
駅前、囲碁サロン
「今頃アキラくんは本因坊リーグ第6戦ね」
「市ちゃんも心配か」
「卒業式を返上で手合いでしょ。残留も厳しいけどリーグに残って欲しかったわ」
「何進藤ですら勝ち続けているんだ、若先生も今日は勝ってくれるさ」
「もう北島さんは」
「でも卒業式よりも仕事優先なんて本当に大したもんだよ」
二人の会話に久米が入ってきた。
「そうね、独立したいとか卒業式を辞退とかこの間までランドセルの子供だと思っていたのに月日が経つのが早いわ」
そう寂しげに市川は呟いていた。
「これで学生生活も終わりか。……塔矢をこれからは追いかけて追い越してやる」
あかりの顔が一瞬浮かんだが無理やり今後の棋士生活に考えを巡らせるヒカル。
(今頃あいつは芹澤九段とリーグ戦を戦っているか)
そこにあかりを見付け声を掛けた。
「ヒカルっ! な、なに~?」
「早く家に帰りたいけど、母さんが話し込んでさ~メシを食いたいのに」
「私たちが幼稚園の頃からの付合いだもの。最後の共通の話題だから話し込んでも仕方ないわよ」
そう頬を薄く赤らめながらヒカルと話し込んでいるあかりが気付かれない間に金子が預かっていたあかりのカメラでツーショットシーンを写していた。
「藤崎さん、カメラを返すわ」
そう言って返す時の金子の顔は無表情ながら親しい物には笑っているとわかる程度には目じりが下がっていた。
「「???」」
その事にあかりもヒカルも不思議に思いながらも黙って受け取る。
「おまえ写真なんか撮っていたんだ」
「中学最後だからね」
「ふ~ん。で、高校はどこに行くの?」
「第一志望の公立はまだなの」
「棋士でなくて高校に行ったとしても結局同じ高校は無理だったな」
(でも同じ学生同士で共通の話題が多かったはず)
「で、囲碁を続けるのに囲碁部のある学校なら良いけどな」
「無ければ作るよ」
暗くなっていた表情を変えて前向きに決意を籠めて言った。
「筒井さんが始め、小池くんががんばっているように私もやってみる(ヒカルはプロという夢を叶えたのだし)」
「まァがんばれよ」
それほど本気でない声で励ますヒカルに思い切った表情であかりはお願いをする。
「囲碁部に入った時に1回くらい教えに来てくれないかな?
あっ、プロならお金がいるんだ」
「金なんか良いよ。行ってやる行ってやる」
笑顔で返事するヒカルに安心するあかり。
「ホント!?」
「あっそれなら、腹減ったから今からメシ作ってくれ」
「なら私の家に来る?」
「うん、指導料の先払いでメシを頼む」
そのまま二人で先に帰る事にしたのだ。
「ただいまぁ」
「おじゃましまぁす」
あかりの家に入るのも本当に久しぶりでガラにもなくヒカルは緊張しながら玄関をくぐった。
「直ぐに作るから待っててね」
「ラーメンで良いぞ。早いし」
「ダメよ。おばさんも手合や研究会の時には外食でラーメンやハンバーガーばっかりと心配していたわ」
「そんなの関係ねェよ」
「野菜を取って栄養のバランスを考えないと倉田さんみたいな体形になるわよ」
倉田みたいになると言われ言葉が詰まるヒカル。
キッチンで材料を確認して簡単な卵焼きとサラダ。それに味噌汁とシンプルな料理に決める。
某運命ゲームの主人公たちの様に手の込んだ料理を昼からそれも今日まで中学生の少女が作れるはずも無かった。
それでもサラダや味噌汁の具で植物繊維を増やすとか色々と考えてはいる。
「あら、早かったわね」
「お姉ちゃん、今日は帰るの遅かったんじゃなかった?」
2階からキッチンの音を聞きつけて姉が降りてくる。
「卒業式でそのまま遊ぶはずが皆裏切って彼氏優先でキャンセルよ」
そう不機嫌に言って「母さんは?」と聞いてくる。
「ヒカルんちのおばさんと一緒で遅くなるって」
「そう、私の分の昼も頂戴」
「了解」
そのままキッチンを出て居間にいたヒカルに話しかける姉。
「こんにちは~」
「あ、お姉さんこんにちは」
「で、教えて。あかりとはどこまで行ってるの?」
「どこまでって?」
「惚けないで、あかりと付き合っているんでしょ。それとも公みたいに釣った魚に餌は要らないと放置しているの?
今日だって卒業後は私をほっぽって別の大学になるクラスメイトと出かけるし。
親友と思っていたメグは今日いきなり告白された良雄と帰ると言って裏切るし。
一人寂しく帰ったのにあんたら二人は仲良く帰って一緒に昼ごはん。絶対に付き合っていないなんて言わせないよ」
ウガーと八つ当たり気味に普段の清楚なイメージからは想像も付かない口調で攻め立てられてポカンと口を開けて一言も言い返せなかったヒカル。
「最初はそりゃァ一緒に帰ると噂されると恥ずかしいとか言って断ったりもしたけれど付き合い始めて受験も終わってこれからだというのに男同士の付合いとか酷いと思わない?
ヒカルくんもそうなるの?」
「何言ってんの! 私たちは付き合っているとかそんなんじゃないわよ」
料理を持ってきたあかりがそんな姉に文句を言う。
完成した料理はだし巻き卵にホウレンソウを添えた皿をメインにトマトやキュウリを主としたサラダを副菜と味噌汁を含め主張通りに野菜多目に腹持ちのする健康を考慮した和食だった。
「相変わらずおいしそうね。流石受験勉強のストレス対策に料理を繰り返しただけの事があるわね」
「そうなんだ。知らなかった」
「そうよ、今まではバレンタインの手作りチョコかイベントでのお弁当だけだったのに去年の終わりぐらいから本格的に始めてたの」
「お姉さんは料理しないの?」
「同学年に料理が上手い子が居てね。私たちの学年の皆は大抵心を折られていたわ。
サッカー部のマネージャーだったけど他の部の男子も知ってるほどで料理実習の料理を気になる男子に渡すというイベントもハードルが高くて中々出来る娘もいなかったわね」
そうしみじみ語る姉、詩織。
「じゃあ、主人(ぬしびと)公(こう)にも弁当や手作りお菓子のプレゼントは無し?」
完璧超人と思われたあかりの姉の意外な告白にヒカルも驚いたように聞いた。
「同じテニス部だったけど流石に勇気は無かったよ」
「そーなんだ」
「だ・か・ら。あかりを大切にしなさい」
ぶほっと咽喉を詰まらせるヒカル。
「あかりはただの幼なじみだってーの」
「そうよ。ヒカルとは関係ないの」
二人は仲良くそろって否定する。
「今日の所は信じてあげる。でも二人とも後悔しないようにね」
「後悔って何だよ」
そのままブスッとした顔で落ち着けるようにお茶を飲んでいた。
「第一あかりはまだ受験が残っているんだろ」
「そうだったわね、あかり余計な事を言ってゴメン」
そうきれいな笑顔で謝る。
「でもこうしてみるとヒカルも何時の間にかきれいな姿勢でお茶を飲む様になったわね。これも囲碁の所為?」
「じいちゃん家でばあちゃんから最近暇なときに書道と茶道を習っているからかな?」
倉田のサインを部室で見かける度に同じような汚い己の字に不味いと感じ字を習う時ついでに日本文化を教えると茶道も一緒に手解きされたのだ。
その結果和室でのふすまの開け閉めや畳の歩き方などを改めて学んだのだ。
中韓の棋士と話をするのに「ヒカルは二つの言葉を覚えられないだろう」という尤もな父の言葉に頷き、向こうの人間なら日本人よりは英語を話せるから英語を話せるほうが良いと聞き祖父平八に改めて中一レベルから学び直している時に時間の空いた時に祖母から学んでいる程度で上達は中々進んではいなかったが。
それでも英語よりも日本語の書道やお菓子目当ての茶道の方が上達しているという本末転倒状態だった。
「ヒカルくんのおばあさんて日本文化に熱中しておじいさんに付いてきたんだよね
着物の着付けは習ったけれどそっちまでは習わなかったな~」
「じいちゃんは世界中を回った商社マンでイギリス最大の成果はばあちゃんだといつも自慢しているよ」
そう言って祖母の遺伝か前髪だけにある金髪を掻き上げるヒカル。
「お茶なら私も習ったわ。でもそう言えば二人から囲碁は習わなかったわね」
食事を終えたあかりも話に加わってきた。
「囲碁よりも本場の郷土料理を習わなかった事の方が重要よ」
「「??」」
英国料理の噂を知らないヒカルとあかりは疑問を顔に出していた。
「まっ、知らない方幸せという事もあるのよ」
それ以上の話題は打ち切った。
そのままヒカルは一旦家に荷物を置いてから本因坊リーグの見学に向かうのだ。
「ところであかり、本音の所ヒカルくんにはいつ告白するの?
てっきり今日告白してそれでご飯を振る舞っていると思ったのに」
「お姉ちゃん知らないっ。とにかく北斗杯の予選が終わるまで余計な事に気を使わせたくないし、予選が終わっても本番までは忙しいだろうし」
「全く我が妹ながら健気ね」
おー良し良しと拗ねるあかりの頭を撫でて慰める。
本因坊リーグ、塔矢アキラ芹澤戦を落としリーグ陥落。
いよいよ北斗杯予選が始まる。
あとがき
ヒカル、アキラ卒業式です。
捏造設定てんこ盛りのオリジナル話です。
あかりの姉の年齢も名前も容姿も不明で藤崎繋がりで本来一人っ子の某ヒロインに友情出演を願いました。
ヒカルの前髪が地毛という妄想から白人の血が混じっていると捏造。
平八爺さんを商社マンとして日本かぶれの英国人嫁さんゲット。
親父さんの顔も原作、アニメ共に映っていないからきっとハーフなイケメン?