注 社の台詞は各自で大阪弁に変換して下さい。
北斗杯レセプション会場
各代表挨拶の最後に韓国の高永夏が出た。
「本因坊秀策を評価しているようだが、今現れてもオレの敵では無い」
敵意を籠めて睨むヒカルの視線にイラついた永夏があえて誤解を助長するかのような発言をしたのだ。
時を遡りヒカルたちが北斗杯の代表選考が終了後、週刊碁の新人記者古瀬村が韓国から帰ってきて話しかけたのだ。
「高永夏が秀策を大した事が無いと言ったんだ。絶対に勝ってくれよ!」
実際は本人の連絡ミスで通訳や取材棋士が間に合わなかったのに対応と誤訳による発言内容の悪さに腹を立て取材情報の秘匿という記者の基本も忘れてヒカルに告げたのだ。
それだけで古瀬村のレベルの低さとその情報の信憑性がわかる物だろう。
だが中学を卒業したばかりのヒカルにはそんな事も判断出来るはずも無く、ただ秀策が過去の人間扱いという言葉が残ったのだ。
その後北斗杯直前に塔矢宅で合宿を行った時にヒカルは団長の倉田に高永夏と対局する為に大将を希望したが実績、実力で塔矢アキラに決まっている。そんな事をしたら塔矢を勝たせるために大将を外したと思われるのはジュニア大会では不味いと一蹴され不承不承その時は頷いたヒカル。
それが今回の発言である。ヒカルの怒りが再沸騰したが近くの古瀬村の興奮に遮られて表に出そびれてしまった。
その合宿だが社からの提案で始まったが塔矢の両親も中国に行っており責任者の倉田も男という事で食事に不安を持った母美津子が無事公立校に進学したあかりと一緒に作った弁当を渡したのだ。
「北斗杯を見に行けなくてゴメンね。部員になってくれる娘が代わりにコンサートに付き合うのが条件にされて」
「問題ないよ。マイナーな囲碁部に入るんだ。付き合いが悪いと思われてイジメられたりしたら心配するし」
「ありがとう。その代りお弁当をおばさんと一緒に作ったからがんばって」
そんなほのぼのとした二人の会話を生暖かい目で見ていた母美津子。
(若いって良いわね)
新婚時代を思い朴念仁の息子よりも「ガンバレあかり」と彼女を応援するのだ。そうでもなければ一緒に料理をする訳がないはずだ。
駅で合流した社に手荷物を聞かれ。
「かあさん(とあかり)に持って行けと渡された夜食用の弁当。今塔矢の家には両親が居なくて食事が不安だからって」
「ふ~ん、親が応援してくれるとは大違いやな」
そう言って、棋士になるのに反対し高校卒業を条件にようやく認めてもらえたと。
今日からの合宿で学校を休むのも文句を言われた。
それでも親に認めてもらうために逃げる訳にはいかないと。
それを聞いたヒカルは半ば騙して院生、プロ試験を受け一方的に高校進学を辞めてプロに進んだ事に心配はしても反対はしなかった両親に改めて感謝をしていた。
レセプション当日にかつて院生時代に碁会所で打った秀英と出会ったヒカルは永夏と仲が良いのを見て古瀬村の話が真実か聞いたらそんなはずは無い尊敬しているのは韓国の全ての棋士も同じだから誤解を解くと言ったのだ。
そして事情を知った高永夏はあえて誤解のままで良いから黙っておけと、その方が面白いと子供っぽい事を主張したがその上で挑発を止めることが出来なかった。
それはヒカルに何かを感じた所為か?
「戸狩君、ホンインボウシュウサクって誰?」
「幕末の棋聖とも史上最強とも言われた棋士です。今でも世界中の棋士が尊敬している筈ですが……
若さゆえの暴走ですかな? 意外な面を見ました」
「そんな過去の人が最強とは進歩が無いのかね?」
「未だにコンピュータでは勝てない領域です。その読みによる対応能力が優れているのが秀策だと。
受け売りですけどね」
「戸狩君も意外と詳しいですね」
「主催をしてから始めた程度のニワカですけど」
「それでも知っている程の有名人か、彼は本気で日本にケンカを売って勝つつもりか?」
「さぁ、日本が弱いのは確かだが何かあったのか」
そう海外のスポンサーと話をする戸狩の視線の先には檀上から降りた高永夏が日本席。進藤ヒカルと記者に話しかけている様子が見えていた。
「タイトル争いをしていてもまだ若いのでどうか大目に見ていただきたい」
「何、勝負師ならあの程度の気概が無いと。それに日本の進藤くんか彼も本気になってくれたようだし」
そう戸狩の謝罪を受けいれる日本人客。
「それでも自分の功績でもないのに喜ぶ様な連中との付き合いは少し考え直さないとな」
韓国の招待客を意識した発言をそれでも加えた。
「そこはお手柔らかに」
「ビジネスでの付き合いはするさ。しかし、日本棋院と話して関西棋院共々若手を中心に強化する方策を後押ししなければいけないな」
そう言って中韓の棋士を見つめる視線は鋭い。
それは北斗通信とは違い上場企業として歴史の長い一流企業の取締役が持つ気迫である。
彼は囲碁に造詣が深く個人的に支援しているだけではなく発言力もあり今回の北斗杯の協賛社の一つでもあった。
そんな彼に頭を下げるしかなかった。
「何、今の日本はどう言っても負け犬の遠吠えになるから言わせるさ」
大物のご機嫌伺いなど気の遣う仕事に奔走するがもし社、越智戦を知って改めて囲碁に向き合っていなければ今回の騒動も気にもせず大失敗に終わったかもしれないと密かに冷汗をかいたのだ。
その後対局の組み合わせが発表され初日1回戦が日中戦。次が中韓戦。
二日目最終戦が日韓戦と決定された。
「だから、日韓戦だけでもオレを大将にしてくれ」
「前も言っていたが大将に拘ったのはアレが原因か」
日本代表団控え室。
椅子に座ってそうヒカルに話しかけるのは倉田。
アキラと社はヒカルの後ろに並んで話を聞いているが正直そこまで秀策に入れ込む理由がわからず戸惑っていた。
「秀策でなんでそこまで怒るんや?」
「とにかく、高永夏がオレに直接言ったんだ。秀策は過去の存在だと。だから戦わせてくれ」
社の疑問に直接答えずに倉田に己の主張を繰り返すヒカル。
「ダメだっ! 大将は塔矢アキラ。まっ、明日の日中戦の出来で考えても良いがな」
「勝てば大将にさせてくれるんですね」
「勝てればな。他の二人も出来も見るからなさっさと明日に備えて部屋に戻れ」
そのまま話の急展開に戸惑う社は思わず塔矢を確認した。
「明日の対局全力で行くぞ」
部屋を出る時に塔矢がヒカルとの出会いの頃の謎を胸の秘めたまま、そう一言言って皆の士気を高めたのだった。
韓国代表団控え室。
「秀策を莫迦にした高慢な棋士。面白いじゃないか」
「でも日本の客は普通に拍手していたし、反応も薄いから秀策の事知らないんじゃない?」
永夏の偽悪ぶった台詞に副将の林日煥(イム・イルファン)が疑問を発していた。
「ま、今の日本の囲碁はその程度のものだろう。あの場の出席者はスポンサー関係だろうけど碁を打てるのは何人いる事か?」
団長以外の付き添いの記者がそう言ってハッハと笑いながら日本には楽勝だと言った。
何人かの無視できない人物が不快感を示していた事に気が付かなかったようだ。
その結果どうなるかも。
その時通訳が戻ってきて、取材時の通訳の不備や当時の発言の訂正などの説明と古瀬村の当時の状況を確認したが永夏の先ほどの発言で全てが台無しであると。
そのままクッと笑っている永夏の顔にクッションを叩き付けた洪。
「もう勝手に嫌われろ!」
永夏を尊敬し仲の良い洪すら怒りを示し部屋に戻ると宣言する。
林日煥もばからしいと興味を失せた様子で出て行く。
「もし秀策がこの世に現れて半年もすればきっと……」
「そんな仮定の話はどうでも良い、どうせ過去の人物だ」
「……」
このような台詞や態度を素直に見せれない点が国主というタイトルを狙う天才棋士ではなく年齢相応の子供である証拠だろう。
「いつ世界のトップに立つ?」
記者は話は終わりだと、今後の目標に付いて聞いてくる。
「ご希望は?」
「3いや2年以内だ」
「わかりました」
再び棋士の顔の戻って部屋を出て行く。
ヒカルの強敵は油断が無くなった様で途轍もなく高い壁となった。
それ以前に中国戦で倉田を納得させる事が出来るだろうか?
結果がわかるまで残り半日。
あとがき
今後の社は基本各自で大阪弁に変換して下さい。
ネイティブの大阪人でも地区によって表現が違うと文句があるのに非関西人には敷居が高いです。
原作同様永夏に嫌われ者になってもらいました。
そして戸狩さんは囲碁に手を出したようです。
中立の立場から離れていく。囲碁を知っている年寄りも居たようです。
あかりもGWの為見学が出来なかった模様です。