※この番外編は、完全にオリキャラしか出ない異世界ファンタジー物です。コナンのコの字もありません。予め御了承下さい。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ※官吏アポリアの物語13 告示のこと【●婚約に関する告示 捜査部門第7班所属、135年採用329番のアポリア・ユバンクス・フォルネスレンスマキナは、カルルバン第2街区14番地 星啼き亭在住の住民、○○○○○・○○○○○・○○○○○と婚約した 婚約時の誓約について、同第11班所属、135年採用351番のドルゴネア・ユバンクス・カルルバンが保証した 上記内容の報告書を受理したため告示する 9月2週1日/142年 カルルバン司法府 司法府長 ゲノムヘリター・ユバンクス・カルルバン】【●夜間外出許可に関する告示 区分:新規許可 対象者:捜査部門第7班所属 135年採用329番 アポリア・ユバンクス・フォルネスレンスマキナ 期限:本日より本年末日まで 任意の時 目的地:カルルバン第2街区4番地 星啼き亭 ○○○○○・○○○○○・○○○○○方(婚約者) 理由:魔力不足時の対応のため 上記申請を許可した 9月2週1日/142年 カルルバン司法府 司法府長 ゲノムヘリター・ユバンクス・カルルバン】 司法府の敷地は、大人の腰ほどの高さの石塀に囲まれている。司法府入り口近くの一画、石塀を基礎にして、大通りに面する形で大きな掲示板が立っている。 誰かの署名のある告示文書は、署名した者(この場合においては司法府長)が貼り出すのが決まり。 木製の脚立に乗っかって、署名以外は全て公用活字体の文書を貼り出している上司を、官吏姿のアポリアは、脚立を支えながら眺める。 最近やたら脚立がグラつくらしい。諸々の手続きを終えて告示文を完成させてから、司法府長は掲示を手伝うように命じて来たのだ。雑用要員にも出来る仕事を、官吏のアポリアに。 2種類の告示の横には、先ほど貼り出されたと思われる処刑の告示が有る。【●処刑に関する告示 対象者:×××××・ユバンクス・××××× 住所:カルルバン第2街区3番地 共用官舎×××番室 身分:官吏 魔術職かつ普通職 司法府133年採用×××番 所属:カルルバン司法府捜査部門第4班 罪名:魔術師刑罰規定令第4条違反 魔術による過失致死 被害者数:死者44名 負傷者少なくとも350名 判決:付加刑無し 広場に於いて公開斬首 手続経緯:仮裁決9月1週4日 確定裁決同6日 仮裁決官吏:帝国司法府 地方派遣部門 第3班班長 ◎◎◎年採用◎◎◎番 ◎◎◎◎◎・ユバンクス・◎◎◎◎◎ 確定官吏:帝国司法府 再審部門 第1班班長兼任部門長 ●●●年採用●●●番 ●●●●●・ユバンクス・●●●●● 処刑日時:9月2週2日 刑吏:カルルバン司法府捜査部門第7班所属 135年採用329番 アポリア・ユバンクス・フォルネスレンスマキナ 日時確定の理由:同罪に問われた者が帝都に於いて斬首されるため 9月2週1日/142年 帝都司法府 地方派遣部門第3班 班長 ◎◎◎◎◎・ユバンクス・◎◎◎◎◎】 こちらの署名は、帝都からの派遣官吏のものだ。 処刑の告示に限っては、他の告示とは違って、ここの掲示板と、広場の掲示板の2ヶ所に掲示する。 予想外の処刑告示を聞きつけ、わざわざこちらの掲示板を見に来たらしい住民がそこそこ居た。彼らは自分達に直接何か話し掛けたりはしない。ただ遠巻きにして大いに注目を向ける。「おい、今日婚約した官吏って、明日に刑吏やる方じゃないか?」「え?」「名前一緒だし、135年の329番って、」「本当だ」「そこに居るぞ。ほら、広場の剣を差してる」「あー」 ひそひそ話のつもりなのかどうか分からないが、どうあれ、会話の内容は思い切りアポリアの耳に入ってくる。 先ほど司法府長に言われたように、祝福の言葉も非難の陰口も全て自分の責任で受け止めなければならない。婚約はアポリア自身が決めた事。誰かの決定に従うという身分ではないのだ。 野次馬に話し掛けるつもりはない。聞こえないふりをするべきか睨み付けるべきか迷い、結局は何も反応しないことにする。聞こえる範囲の言葉では、別に中傷は無いのだから……。「――リア、撤収だ。この脚立は私が持とう」 何時の間にやら地面に降りていた司法府長の指示に、慌てて言葉を返した。「! 了解」 司法府の敷地。大通りに声が聞こえないくらいの場所まで来てから、脚立を抱えた上司は唐突に振り向いた。「なぁ、アポリア・フォルネス。今日、あの場所で婚姻の誓約を交わしている時の話だが」「……?」 ――部下を呼びに行ったら、婚約の誓いを取り交わしている最中だった。 果たして、どのくらいの感慨があるのだろう。 司法府長は上級職で、従って、上級職である限りは生涯結婚禁止。在職中の結婚は、事前に普通職の降格を望んでいない限りは免職対象。退職後の結婚だと終身年金が止まる。 そこまでして添い遂げる程の好意なぞ、アポリアにも司法府長にも無かった、はずだが。「お前、私が宿屋に近づいていることに気付けたはずだよな。気付いていなかったのか、あえて気付いたが無視したか……」 事件が無くとも、アポリアは2期目になれば他の街に異動するはずだった。 何事もなくったって今年の末には別れると分かっていた関係は、19歳から25歳までの5年半以上の期間は、アポリアにとっては十分に長い。およそ35歳くらい上の司法府長にとっては、どうだろうか。 仮面に隠されていない赤い瞳は、アポリアの顔を見つめたまま。ただ、言葉を続ける。「どちらなのかは追求しない。ただな、一目ぼれの魔力だと言うことにしておこう」 何とか反論しようとしたが、しかし、沈黙を選ばざるを得ない。 どう思考しようとしても、結論はこの上司の言う通りに落ち着く。一目ぼれの魔力としかいうしかない。その通りだ。 司法府長に無言で礼を示し、これまた無言の彼の追認の下、本来やるはずだった仕事に戻る。 司法府の外庭、平らな石の鎮座する一角。 昨日と同じく、剣身を晒して。杖を出して。――そう高くない塀の周り、住民の視線がある。アポリア・ユバンクス・フォルネスレンスマキナという官吏を見ている興味津々の視線。 心の中で、開き直る。 否定出来ないのならば、否定するべきで無いのなら、受け入れるしか無い。生涯で初、妻として誰かに望まれたという事実に。 昨日詠唱した詩は、駄目だと感じた。 アポリア自身の体質は変わらないけれど、精神の在り方はこの1日で少し変わった。 巫女アポリアの詠唱は最初から駄目で、昨日のも何となくしっくり来ないのだ。 自分の心の中、一番に合っていると思う詠唱は、過去を探り、考える、そんな詩だと、思う。――わたしがとても幼くて、世界のかたちを知らぬとき 親はまさしく万能で、優しく厳しく間違えず 悪意渦巻くたたかいは、神話の中の出来事で とるに足らない幼な子に、敵意を見せる者は無し――いつしかわたしの背は伸びて、世界のかたちをとうに知り 親も師匠も縁戚も、間違えるだけの生き物で 妬みと嫉みと陰謀と、あらゆる所に偏在し 今のわたしを幼な子と、思う者など有りはせぬ――背丈に知恵を詰め込んで、視線に思索を詰め込んで そうしてわたしは、乙女になった~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ※官吏アポリアの物語14 生まれた場所のこと アポリア・ユバンクス・フォルネスレンスマキナ。 単語の意味を後ろから辿れば、『フォルネスレンスマキナ出身の』、『司法府官吏の』、『アポリア』。 別に生まれ自体は呪ってはいなかった。17の成年まで働かずに済んだというだけで、恵まれた育ちだと断言出来る社会だから。 司法府の魔術職にしても、早くて10歳から雑用要員で働いた事があるという者が、決して珍しくはないのだし。 自分が『帝国の民として生まれた』という言い方は、明らかに事実に反することになる。アポリアは帝国領の生まれではなく、そもそも民という身分では無い。 しかし『帝国の内で育った』という言い方だと、間違っているとも言えない表現に変わる。海原の中の離島の如く、帝国直轄領に囲まれた場所。逆に帝国にとっては、自国内に抱え込んだ異国。 故郷、フォルネスレンスマキナの形は、『帝国内の外地』と分類される物だった。 『フォルネスレンスマキナ』の意味は、『フォルネス魔石湧出地』。 魔石は、魔道具を作るのに必須の資源。魔術に多くを依存する社会では、文明を維持するのに必須の品。戦略資源でもある。 地中の坑道内、自然とそんな石が湧き立つ『その場所』の地質は、太古の昔から、何よりも利用価値の高い土地に違いなかった。 ただ、何も手も掛けない魔石鉱は気まぐれだ。落盤が頻発し、魔石も乏しい量しか出さない。 分析系の魔術の使い手が、坑道内を魔術で覗き、魔石の在処を探り当てるという試みは、土地を利用し始めた頃からあったに違いない。 そんな試みを繰り返す内、『体質の相性が合う、笛の民の女魔術師の強い魔力で地域を鎮めれば、安定して豊富な魔石が手に入る』という事実の発見に至るのは、きっと当然のことだった。 しかも女魔術師にとって、その場所が『自分の領土』なのだと認識が無ければ駄目だった。他者の支配を受ける土地となれば、落盤にまみれ、魔石の湧出量も、どうしたってガタ落ちしてしまう。 土地そのものが、そういう認識の元での魔力しか受け付けない地質なのだった。 かくして、体質の相性が良い女魔術師の血統は、土地の支配に不可欠な血筋として尊ばれる。 母から娘に受け継がれる体質は、息子には受け継がれない。女系相続を宿命づけられた血筋は、フォルネスという氏族名を称し、現地一帯が『フォルネス魔石湧出地(レンスマキナ)』の名となる。 土地の管理者は領主と称し、同時に、一族の主と全く等しくなる。フォルネスの一族は、魔石守の一族とも呼ばれるようになる。 種族・性別に関わらず、魔力に恵まれた者は不妊体質の割合が多い。不妊体質では無い場合もあるが、それもそれで難点があって、結構な確率で、男女問わず、子どもを生せば、親の魔力は減衰する。 一族では、当主と、その他大勢を区別していた。 大方の場合、その時の当主は子を産むことはない。不妊体質の者を当主に据えて、同じく不妊体質の女系の親族との、養親-養子関係で受け継がれるようになる。例えばアポリアの伯母-従姉のように。 他方、魔石が湧く地の周囲は、どんな勢力であれ、この一族を従えるよりは、管理者としての領主の支配を認めた上で、対等の立場で魔石を取引した方が良い、という算段を働かせる。 誰だって、豊富に資源が湧く地は、豊かなままであった方が良いに越したことはないのだ。 時勢によって周辺の模様は変わる。だた、魔石の湧く地そのものについては、誰であれ土地の支配の面で領主の上に在ることだけは忌避して、歴史を重ねてきた。 ――と、まぁ、そこまでの、いわば表向きの知識なら、宿屋の若旦那は正しく知っていた。 カルルバンからフォルネスレンスマキナまでの距離は、徒歩で丸一日ほど。知っていた理由として、比較的近い立地なのが大きいだろう。 一族の中から見た実質は、形式とは別の様相を見せていた。形式的な独立領が、実質的に余所の勢力に巻き込まれているかどうかはまた別の話だった。 約100年前。フォルネスレンスマキナは、周囲を帝国直轄領で囲まれる現在の形になり、同時に領主-帝の間で協約が結ばれた。住民の越境・転居・転職の自由の保障が、この協約で定められた。 それはそれで重要であろうが、それ以上にキモとなる規定は、領主が、帝が派遣する行政府官吏を受け入れる一方的な努力義務を負ったこと。 以後、行政のほぼ全ては、帝国の派遣官吏に委任されるようになった。 ――ぶっちゃけると、アポリアの見る限り、帝国領の中のちょっとした名士一族と変わらない有様だったと言えよう。 実質的には、生き方を縛られた土地の管理者に過ぎないのだ。生まれ育った場所を離れられない、そこそこ恵まれた富豪というだけの。 ちなみに、『帝国の官吏採用に合格した者には、仮に帝国籍を付与する』、『教育期間を終えて任地に赴く時には、正式な帝国籍とする』という一文も、協約内にあった。 アポリアが官吏になれたのは、まさにこの規定による。「官吏採用に受かった者には仮の帝国籍を付与する、ということは、採用に合格するまでは、領主の姪っ子のままな訳だ。もちろん、採用試験の会場でも」 夜間、女が通ってくる形の逢瀬は文化的に良くあることで、おまけに女側が官舎を抜け出す許可を取っているのだから、女の方が宿屋に来るのが絶対に正しい。 店主と孫は別の部屋に引っ込んでいる。若旦那の寝室は、婚約者男女の語り合いの場に変わる。 若旦那はアポリアの生家を詳しくは知らなかった。故郷の地名しか知らず、実領主一族の生まれだと、今日の誓約で初めて知ったのだという。アポリアの話に興味津々だ。 酒精のうっすい柑橘酒はこういう時に用意しておく物だ。小振りな土瓶から、お互い木椀に注いで一口飲む。 アポリアが持ち込んだのだから彼女好みの味。ほろ酔いの勢いに任せた会話が、寝台の上に腰掛けてからの流儀。「私だけ、薄緑の上着(ローブ)だった。周りは在野の者の形(なり)なのに。そこそこ目立ったぞ。 背中と右胸に大きくフォルネスの紋章を縫い付けていたから、帝の一族だと勘違いする馬鹿は居なかったけれども」 魔術師のローブの色には、規制がある。 統治者は緑。神殿は青。官吏は赤。軍は黄。在野の者は、灰か紺か黒。どんな場合でも、偉い者ほど色が濃くなるのが決まり。 フォルネス一族のローブには、色味が3通りしか存在しない。この帝国の帝の一族ならばもう少し種類が多いらしいが、フォルネスは3通りだけ。 領主以上に濃い色は有り得ない。領主の一段階下が、跡継ぎと元領主。その一段階下が、それ以外のその他大勢。官吏の採用試験に受かるまでは、アポリアは、その他大勢に含まれる女子だった。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ※官吏アポリアの物語15 官吏という職のこと「官吏のなり手はな、大まかに5種類あるらしい。帝都に居た頃に教官から聞いた。 まず、雑用要員からの自然な持ち上がり。次は、体質とかそういう事情で生涯独身で生きたい者。3番目は、自分の腕だけの在野では生きていく自信が無い者。 4つ目は、俸給を貯蓄したい腰掛けの起業予定者。で、5番目、……事情があって、生家から離れたり、追い出されたりした者。私はこの典型例だな。 同期の中では私だけだったが、何年かに一度は、薄緑のローブで官吏採用を受ける者はあるらしい」 別段、帝国の中の異国、――いわゆる『帝国内の外地』が、アポリアの故郷ひとつというわけでもない。確か50と数ヶ所ほどだったか。 大陸のどこであっても、土地は公有制としない国は無い。帝国もその点は当然のこと。帝でも諸侯でも支配出来ない場所は、形式的には異国。各々の土地ごとに、領主=管理者と一族が存在する。 領主は、帝と対等の立場で協約を結ぶ。領主の一族の中には、アポリアと同じように協約の条項を利用し、官吏を志す者も出るだろう。「……いかにも、それらしいですねぇ」 司法府官吏は1期8年の任期制。社会的地位は高く、俸給も余裕があるので蓄財も出来る。一方で生家とは絶縁する身分で、自身の財産処理にも制約有り。上級職になればより厳しい制約が入る。 ――優秀な者が集まるかどうかは知らない。財産相続に頓着しない・出来ない立場の者ならば、集まる。高級官吏の世襲を忌み嫌ったがために設計された制度だ。 志願者は、皆、地位と制約を頭に入れて採用試験を受けている。それでも志願者不足が問題だと聞いたことは無いから、制度としては上手く機能しているはずだ。たぶん。「ともあれその時の試験会場では、私だけ薄緑のローブだったんだ。目立つのは覚悟していたさ。 ただ、試験の面接の時に話した志望動機が、教育期間中に同期で噂になるのは予想外だった。 話した内容がそこそこ衝撃的だったから、格好の噂の的になったんだな」「……どんな志望動機を話したんですか?」 約8年前、帝都司法府の試験会場を思い出す。 帝都での採用試験は教養と実技。最後に面接。 教養は筆記と詩文諳誦だった。実技は魔術を披露する物で、流派を問わず、拘束、身体防護、認識阻害の3種が全員必須、加えて専門系統(アポリアの場合、分析系)の実演。 最後の面接では、個室の中に試験官4名に志望者が5名。アポリアは椅子に座って試験官に対峙した。動機を問われて言った内容は、――。――『私は、一族の跡継ぎに、何故か異様に嫌われていた。 跡継ぎが成年したての年齢の時、私は12歳だった。その年の最初の宴席で、跡継ぎは理不尽に私を罵倒した。内容が生命の危機を感じるくらいの言い様で、場が壊れた。 以降、他の親戚一同は口を揃えて、一族から離れた身分になるように私に助言した。このままだと跡継ぎが私を殺しかねんから。 助言はもっともだったし、私の得意魔術から考えれば、司法府の官吏になるのが良いだろうと思ったので受験した』「うわぁ……」「嘘は、吐いてないぞ。当時領主だった伯母に、帝国司法府宛の推薦状を書いてもらったが、そっくりそのまま同じ経緯が載っていたそうだから。 で、試験を通って帝都で教育を受け始める時点になって、面接で言ったことが何故か同期中に広まった、という流れだ。面接で同じ部屋になった受験生が言い触らしていたんだな。 官吏になったからには生まれは問わないはずなんだが、目立たない場所で雑談に持ち出すまでなら何も言われないというものらしい。表立って罵倒の材料に使いでもすれば、流石に免職だろうが」「そういうものですか……?」 疑問符を含んだ問いに、苦笑を返した。「そういうものだったのさ。まぁ、噂が流れたのも最初の時期だけだったが。 そもそも教育期間中に採用者が半分は辞める世界ではな、本当に初っ端の雑談の種にしかならない。 途中から雑談の余裕が消えるくらい苦しい場所だぞ、あそこは。教養も実技も、基準に足りない者をふるい落とす2年だった」 素養が有る者を多めに採って、教育中に、向いていない者を徹底的にそぎ落とす。 司法府の官吏に権威を持たせるためとも、志望者層に幅広い間口を持たせることで多様性を持たせるためとも言われる。おそらく、どちらも正しい。 魔術職採用の受験資格は17歳から27歳まで。教育期間途中で辞めても、1年間の間隔を置けば再受験は可能。 制度設計上、若い者ほど、『力が及ばないと自覚しているなら、一旦辞めて鍛え直してから採用試験を受け直せ』と、教官から言われやすい。 教育期間中のアポリアは優等生だった。豊かな生家で学習済の内容が半分以上だったから、優秀な成績を取るのは当たり前。ただ、それでも、細々とした厳しい規則は少々キツかった。 苦学の末、辛うじて採用試験に通ったような者にとっては、初めて学んだ事柄が多いはず。厳しさは段違いであったはずだろう……。 ――ああ、酒精が回ってきたな。 掌の木椀の中身を飲み干して、寝台の手すりに安置する。心の内の感慨をただ苦笑いとして封じたまま、アポリアは若旦那にしなだれかかった。「……魔力紋は、どちらでしょうか?」「こちらに、右肩の付け根に」 魔力紋は、体内の魔力溜まりを示す箇所。通常時は色素が無く、白いアザのようで、魔術を使うときだけ魔力光と同じ色で光る。 異性の手でなで回すと、かなり手っ取り早く発情する効果があった。※4月29日 初出※4月30日追記 大切なお知らせ※ ストーリー途中で突然となりますが、このサイト(arcadia)での連載を、本編・この番外編共に、ここで一旦停止いたします。 ハーメルンでは連載を継続します。あちらでのみ掲載している挿絵等もありますので、続きを読まれたい方はそちらをご覧下さい。 投稿を止める理由は、一言で言いますと「arcadiaでの投稿時の不具合(?)のため」です。 タイミングが合った方はご覧になっていると思います。 この番外編の1~3話を最初に投稿しようとした際、『英数字、ビックリマーク、波形(~)等の文字が、投稿後のここの表示では全部消える』という現象が発生しました。 翌日、メモ帳から原稿をコピペし直したら現象が解消されたため、不具合の原因は、このarcadia様側にあるのではないかと推測しています。 以後しばらくは問題は起きていませんでしたが、4月29日夜より、16話~18話を投稿しようとした際に、この不具合がまた発生しました。 翌30日昼に再度投稿を試みましたが、一部の文字が表示から消える現象は解消されていないままです。 この現象が厳密にarcadia様側の問題なのか、どんなタイミングで何が原因で起こるのか、私には分かりません。 ただ、お読みになっている方は分かると思いますが、当作品は数字、ビックリマーク、波形等の文字をそこそこ多用している作品です。 これらの文字が消えると意味が通らなくなる場合もあり、不意に表示がおかしくなるのは結構キツいところです。 将来、この不具合の解消がアナウンスされる事があれば、ここでの連載を再開するかもしれません。 まず、arcadia管理人の舞様が復活されるのかどうか、このサイトの一利用者として待ち続けようと思います。 これまでの掲載分はここに残しておきます。感想等も定期的にチェックするつもりですが、ハーメルンの方が返信が早いと思いますのでその旨ご承知おきください。