【拝啓 粟倉 葉先生 初めてのお手紙が、不躾な形での送付となったことをお許し下さい 正規の郵便のルートで送付するよりも、魔術で直に郵便受けに入れる方が、色々な面で良いと判断したのです 最初に申し上げておきますが、こちらは、魔術的手法によって、先生が◆Moto/.Profさんだと特定しました ネットの掲示板での人物特定の推理が、正解を示していることもあるのですね 今回、お手紙をお送りしたのは、「サキュバス」として、こちらの事情をお話ししたいと思ったからです 私の生まれた家は、カルルバンの街で、料理屋を兼ねた宿屋を営んでいました 父はその店を祖父から継いで主人をしていました。母は後妻で、嫁に来る前は魔術系の官吏だったと聞いています 父と先妻の子である兄2人と、父方の親戚の子で、事情があってうちに引き取られた弟、男ばかりの兄弟の中、ただ1人女の子として育ちました 当初、父も母も、私を、母と同じような官吏にしようとしており、私自身もその期待に沿って育っていました 周りの環境が変になったのは、5年前の夏からです ある日、貝の食中毒事故で、当時泊まっていたお客さんも含めて、家が丸ごと全滅しかけました この時、母と次兄と弟が死亡し、父と長兄と私は生き延びました 元々そこそこ大きい宿屋だったのですが、この事故で家の商売が一気に傾きました ハタから見ても無理になりつつあったのに、父と長兄は、5年間、家の商売と、私を官吏にするための教育とを、両方維持しようとしていました 私の魔術の師匠は、私が望み通り就職する可能性が高いことを見越して、学費をタダに近い額に減免してくれました (就職の可能性だけでなく、私が、師匠の息子さんと同い年で、身体を交わす程度には親密だったのもあったのでしょう) そんな状況下で、今年の春先、魔石の湧出地の管理者だった母方の親戚と、その親族達の、不慮の事故死がありました ご存知かも知れませんが、そんな場所の管理者は、女しか勤めることが出来ないため、女系で相続される世襲の職業です 一度管理者になってしまえば、家族も、本人も、そこそこ安定した富豪になれますが、一度なったら、もはや一生辞めることができません 管理者の地位を継ぐつもりであったろう、より相続順位の高い物達が、事故で全滅していました 全く予想外のことでしたが、相続権は亡き母を経由して私に至り、私が相続権第1位に踊り出ることになったのです 私は、生き方を縛るその相続を拒み、師匠の養子になってから、志望通り官吏になろうとしました あちらの法だと、相続2年後に他家の養子になった場合、最初から相続が無効になりますから そこからの経緯は、以前掲示板に書いた通りです 父と長兄、それから父に金を貸していた父方の親族達が、血迷いました 養子の手続きを妨害され、家の一室に監禁され、官吏になるという夢を叶えるどころか、父と交わることと、出産と、死を、強制されるようになったのです 救いがたいことに、こんな企みに一番乗り気なのが父でした】【監禁が長く続いたある日、父がニヤニヤしながら、師匠と息子さんの死を、私に告げてきたのを覚えています 「何者かに殺された」そうです。「熟練の魔術師を誰かが雇って殺害したのでは」、「生意気な娘の心をへし折るために」と 心は、狙い通りにはへし折れませんでした、逆に殺意が湧いたのでした こんな親殺して、私も死のうと思ったんです 部屋に貼られた魔術封じを掻い潜る形で、師匠の元に置きっ放しだった長剣を手元に転移させて、父に斬りかかろうとして…… 剣を握った瞬間、私は、世界を超えた召喚者の魔術に巻き込まれました その後の経緯も、あの掲示板に書いた通りです 召喚の瞬間に私の記憶を見た召喚者は、私のあるじになり、当時も、今も、私を生かすことに全力を尽くそうとしています 自分の生のために誰かを犠牲にするしかない、他者を犠牲にするのが嫌なら死ぬしかない、そんな選択肢を何度もこの世界から突き付けられました 誰かに死を強要されるのはどうしても嫌なのです、また、無責任に法の遵守を求められるのも、同じくらいに嫌なのです どちらも、受け入れた瞬間に、遅かれ早かれ私の死が確定してしまう そんな風に死ぬよりは、この世界での生存を掴み取りたい 私達の魔術を妨害する者は、(たとえ粟倉先生であっても)きっと許せないと思います 特に今の時期は、先生がお持ちであろう魔術の知識自体が、かなりデリケートな問題となっています 事件がある程度落ち着くまで、世間に先生の事は公表せず、警察への協力は一切拒絶して頂くようお願いします そういった事が大丈夫になったら、こちらからまたお手紙を出します 最後にお尋ねします 粟倉先生が谷川岳で遭難して助け出された直後は、どんな事を考えたのですか? どんな経緯があって、どんな葛藤や迷いの末に、学者さんというその生き方を決めたのですか? いつか、私が平穏な生活を手に入れた時、じっくりお話しできれば嬉しいです Succubus Vain Reune Karuruban 追伸 この手紙は素手で触ると砂になって崩れるようになっています コピーを取ったりした場合も砂になってしまうようです また、何もしなくても3日経てば砂になる仕組みです フィルム式のカメラで写真を撮るのは大丈夫のようです(手紙が砂になっても写真は残ります) ですが、正直な話、お店に現像を丸投げしてもらいたくはありません】~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 8月27日 午前11時35分 賢橋町 リブラ賢橋(マンション) 807号室便箋に綴られていた『サキュバス』の文章を読んで、粟倉 葉は、まずフィルム式カメラを購入するために写真店に走った。無論、手紙の情報を3日後以降にも残すためだ。有り難い話だが、デジタルカメラや携帯端末のカメラ機能が充実したこのご時世でも、使い捨てカメラの販売は続いている。店頭に置かれていた4種類全部を1個ずつ購入し、家に持ち帰った。全て便箋の写真撮影に使い切るつもりだった。パシャッ、パシャッ、パシャッ、パシャッ……こたつ用の机に便箋と、その便箋が入っていた封筒を安置。ついでに、サイズが分かるようにきちんと縦横に定規を添えてから、早速、それぞれの写真撮影を始める。被写体には一切手を振れず、ただ撮影に使うカメラの高さだけを変えて、幾度もシャッターを切る。一部なり大半なりがピンボケするとしても、どれかの写真が記録として使える物になるだろう。ファインダー越しに、葉は改めて封筒の文面を見る。あえて「あの世界の文字」で【Da Kaseruneta(巫女さまへ)】と書き、その横に日本語で【中の文章は素手で開けないでください】と書かれていた封筒。学部生の頃から自分の人格の事情を知っている唯一の存命者、……すなわち葉の夫が見守る中、手袋を着けた手で封を開けた。出てきたのは、ひどく重い内容が書かれた灰色っぽい便箋だ。本当に『サキュバス』からの手紙か、厳密な確定はできないが、異世界出身者が送ってきたのは間違いないだろう。封筒にあの世界の文字が書けるという事は、つまりそういう事だ。書かれた内容を分析する前に、葉はカメラの購入に走った。夫は、レンタル現像室(お金を払えば現像機が使えるらしい)をネットで探し出して、予約を入れてくれた。明日の午前中に、葉が自分で現像してしまう手筈だ。それでお店に現像を丸投げしてほしくない、という『サキュバス』の要求はクリアする。きっと『サキュバス』が恐れているのは、現像を任せたお店から、警察に手紙の情報が漏れる事態だろうから。手紙の内容がどこまで正しいのか、自分達夫婦には判断はつかない。『サキュバス』と、その記憶を覗いたという召喚者の記憶の中にしか、この便箋に書かれた情報の真偽は分からない。但し、自分達がもし警察に接触した場合、その途端、『サキュバス』からはとても強い憎悪が向いてくるだろう。……そういうことだけは、確実に分かる。そしてもう1つ、確定的に分かっていること。あの世界からこの世界に渡ってきた、今のところ唯一の先例として、粟倉 葉は、いつの日か『サキュバス』に語る言葉を用意せねばならない。『サキュバス』に求められた通り、葉がどんな人生を送ってきたのかを語れるように。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 8月28日 東都警察病院 608号室 午前10時26分――俺の病気、治るんだろうか……。病院都合の個室生活は1晩しか続かず、25日朝以降の病室となっている4人部屋にて。ベッドにうつ伏せの高木 渉は、意味のないボヤキを心の中で呟いた。肝炎だと診断を受けて以来、数え切れないほど考え、頭の中でグルグル廻っている心配事。深く考えてもどうしようもないと分かっているのだけれど、特段の刺激も無い入院生活だ。病気のせいで気落ちしているのも有るのだろう、どうしても思考は暗くなる。25日から、食欲が落ちたので輸液を受け始めた。26日、朝起きたら黄疸が出ていて、抗ウィルス錠を1日1回朝食後に摂ることになった。きのう、主治医は、確率は高くは無いけれど、症状の進行次第ではICU(集中治療室)に移動するかもしれない、と言っていた。わざわざそんな高くない確率のケースに言及したのは、服薬の甲斐なく血液検査の数値が悪くなっているからだろう。成人のB型急性肝炎は、9割くらいの患者は絶対安静で自然治癒する病気。とはいえ、ごくまれに悪化して、劇症肝炎に移行してしまう場合がある。こうなった時の死亡率は6~7割ほどで、肝臓移植での救命が検討されるほどだ。……死ぬのも嫌だし、臓器移植でも、元通りの職場復帰はほぼ不可能になるだろうとイメージが湧く。出来れば、そこまで行きつく前に治って欲しいものだ。不意に尿意を覚えた。ベッドから立ち上がる。スリッパを履いて、病室内のトイレに向かう。トイレのドアは病室の出入り口のすぐ傍だ。ドンッ「あっ、すいません!」「いえ、こちらこそ」こちらがドアを横に引いたタイミングで、ちょうど中年の女性看護師が出現、軽く衝突。相手が謝ってきて、お互い様だから自分も謝る。看護師とすれ違う形でドアを跨ぎ、見えた風景は……、病院の廊下。「あれ? トイレじゃない」自分の呟きを、看護師は聞き逃さなかった。「高木さん、トイレのドアを開けたつもりだったんですか?」「はい」落ち着いた声の問いかけに、ただ頷く。何を訊かれたのかよく分からないけれど、とりあえず頷く。看護師は少し考えて、更に自分に追加の質問。「ここがどこか分かりますか?」簡単な質問だ。それは分かる。「病院の、えっと、」「病院の? どこですか?」言葉が出てこない、――今ここに居る部屋は、えっと、病院の、何と言うんだったか……、ええっと、表す言葉は、「病院の、ロビー?」目の前の白衣の女性は、少し険しい表情で自分に向き合った。こちらの腰に緩く手を回して支えるようにしてから、部屋のベッドをもう片方の手で指して誘導する。「トイレはちょっと待って下さいね、ベッドにまず座りましょう。座ってから、先生を呼びますから」「……はぁ」成人のB型急性肝炎のうち特に重症のものを、劇症肝炎と呼ぶ。急性肝炎自体は安静にした場合9割の患者は治る病気であるが、ごくまれに劇症肝炎に移行する患者も居る。この劇症肝炎の患者に共通するのが、重い肝炎から引き起こされる脳症、つまり肝性脳症だ。劇症肝炎という病名の定義の内に、「肝性脳症を引き起こしていること」が含まれているのだから、逆説的に、劇症肝炎の患者は全て脳症を発症していることになる。看護師は高木 渉の言動を受けて肝性脳症を疑い、誘導してベッドに座らせて、医師を呼んだ。その処置は正解だった。医師が来たのとほぼ同じタイミングで、高木の意識が無くなったのだ。以後、高木 渉は、この病室ではなく、病院のICU(集中治療室)にて治療を受けることになる。血液検査の結果と脳症の所見に鑑みて、新たに劇症肝炎の診断名が付けられた。ICUという、素人にもハッキリ分かる戦場で、死に抗うための戦いが始まった。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 8月29日 警視庁 会議室 午前10時52分臨時の刑事部長室に転用されている部屋ではなく、……変な言い回しになるが、正真正銘の会議室で、会議をするために、佐藤 美和子は椅子に座っていた。この会議室は、『サキュバス事件』の捜査本部が普段から押さえている部屋で、美和子がこの会議室に呼ばれているのは、31日の打ち合わせのためだ。11時からの会議が始まる前に、机の上に目を落とす。【秘密厳守】が右上に大きく書かれた資料は、これまでの経緯のまとめ。会議が終われば回収するとも書いてある。美和子の目から見ても、要点がよくまとまっている資料だ。そもそものきっかけは、17日に、美和子の元に『彼女』から手紙が来たことだ。手紙の内容は、高木君と自分の肝炎感染を指摘するもの。この手紙を捜査本部に報告した場合、あとで自分達カップルに仕事が振ってくるかもしれないとも書かれていた。次に20日、小嶋 元太くんの誘拐事件で、『彼女』からの手紙が残された。該当する要求部分の要約は、8月31日に、これから必要になる分の元太くんの勉強道具一式を、引き渡せ、というもの。受け渡し日時は、その日の正午以降、日没までの間。場所は、東都警察病院の703号室のトイレの中。17日に手紙を送ったカップル(すなわち高木君か自分のどちらか)が、勉強道具一式入りのリュックサックを抱えて、トイレの中でドアに背を向けて立っておくよう、要求された。次にこの件絡みの手紙が来たのが、24日。何故か『彼女』は、17日の手紙が捜査本部に渡った事と、高木君の体調不良を知っていた。その上で31日の要求は自分にお願いすると記載。また、魔力を持つ者の勘として、高木君が生死の境をさまようことになりそうだとも書いていた。――今更だけど、自分達で肝炎をうつし合ったのを知られるのはとんだセクハラね。本っ当に今更だけど。唯一の救いは、会議出席者が既に経緯を把握しきっている者ばかりで、今更この件を突っ込んで来るような人は居ない事。不安事項は、上層部にまで肝炎感染の事実を知られたのに、未だ何の処罰を受けていない事。『彼女』の事件が流動的で処罰できないのだろうけど、少々不気味。……それと何よりの不安が、高木君の容態。劇症肝炎のため、彼は昨日から集中治療室で治療中だ。『彼女』の予言通りに生死の狭間に居る。高木君が明らかに職務不能なのだから、美和子が、『彼女』の要求通りに動くしかない。『彼女』の要求通りの31日に、要求通りの場所に立つ、――それが上層部の判断だ。最早動きようのない決定事項だ。警視庁ですらない、より上の、警察庁の判断。『彼女』であれ召喚者であれ、得体の知れない、文字通り“魔力”を持つ者を敵に回せないという、とても嫌な判断。今日この打ち合わせは、8月31日のその日、その時、美和子を含めた捜査本部の者がどう動くのか、すり合わせる事が目的だ。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 8月30日 午前10時26分 召喚者の屋敷 地下大広間【高木の状況について: 高木の容態は、かなり際どい状況。『彼女』の手紙通り、生死の境を彷徨っている 鳥取から来た母親が、毎日、面会時間に通い詰めている 高木の母親から佐藤に連絡有り、高木に万一のことがあった場合は、佐藤も病床に呼ぶとのこと 高木本人が、意識があった頃に、母親に「万が一の時、佐藤さんに看取ってもらえるならそれに越したことはない」と言っていたらしい】あるじが居ない大広間にて、『自分』ひとりで、手袋を着けた手でキーボードを叩く。いつも打ち合わせ用に使っている古いノートPCに、文章を打ち込んでいく。根拠のない妄想を記録しているのでは無かった。『自分』が今行っている作業は、収集した情報の、言うなれば、翻訳と記録。魔術用の特殊印画紙、――素手で触ると砂になってしまう、警察宛ての手紙に多用している紙だ――に、記された文字列。それを傍らに置いて、日本語に訳しながら、PCにタイピングするという作業。【病院からは、むしろ危篤では無い状況でも、本人が看取りを希望されてたくらいに親密な方ならば、と、危篤時でない場合でも面会の許可が出た 佐藤にとっては嬉しい措置だが、ICUは面会時間の制限が厳しいので、仕事の兼ね合いがあり、しょっちゅう面会に出向くのは当然困難 『彼女』の手紙は高木の生死を明言していなかった この状況では、ただ生還を願うしかない】――刑事部長の立場ではそういう事しかできないでしょうねぇ……。主治医じゃないんだから。日本語の文字列を打ち込みつつ、内容に思い切り納得して無言で首を縦に振る。印画紙に記された情報は、小田切 敏郎刑事部長の頭の中から持って来た物だ。一度目は失敗した淫夢の符での情報収集は、二度目の挑戦では大成功に終わった。今から30分ほど前のことになる。解析の陣のど真ん中に回収した符を置いて、あるじが魔力を流し情報を抽出していく作業を、『自分』は小さく歓喜の声を上げながら見入ったのだった。情報は文章の形で出る。鍋の中からラーメン1本引き出すのと同じ要領で、赤い光の渦から文字列を箸で摘まんで引き出し、印画紙に張り付けていく過程。【31日の件 現場準備について: 指定された病室は28日夕から空けてもらっている 29日朝より病院職員は立ち入り禁止措置、ドアには立ち入り禁止の紙を貼った】全ての情報を引き出した時、印画紙には、行末以外は無改行の、ひどく細かい「あの世界」の文字が並んでいた。元から織り込み済のことだ。符も、解析の陣も、創り上げたのは『サキュバス』の知識。ならばそれで得た情報は、「サキュバスの故郷」での形で出る。この印画紙自体が3日経てば砂になる代物だ。得た情報を忘れたくないから、どこか別の場所に記録として取っておく。記録するならば、読みにくさまでもわざわざ一緒にする必要は無い。言語を翻訳し、適宜改行を入れて、読みやすい形にすればいい。【病室・トイレとも盗聴器・マイク等各種機器を29日昼に設置済 30日より隣の病室も同様に空にしてもらう、捜査員は当日そちらに待機】――それにしても読みにくいなぁ、この解析結果……手袋越しに一旦印画紙を撫でて、一息。魔力を使わない仕事は『自分』が行うべきだ。今、あるじが明日の準備で忙しく動き回っているのだから、なおさら『自分』が行うべき仕事。この翻訳作業の分担に一切不満は無いけれど、解析の読みにくさは改善の余地があるかもしれない。出力の改善方法を考えるのも、当然『自分』のやることだ。【31日の件 相手の行動: 相手が何をしてくるのか、佐藤の誘拐を考えているのではという嫌疑あり 人を巻き込んでのテレポートが使える相手 佐藤を巻き込んで遠距離に行くのでは? 佐藤に危害は加えられないか? 毛利 蘭の人の善さに期待しすぎるのは危険、警察庁の指示を押し切ってでも、佐藤を指定の場所に立たせるのは止めるべきではなかったか?】――さすが警察、中々ドンピシャな推理するのねぇ……思いはしても、声としては呟かない。隣室に聞こえる。『自分』がすべきことは、ただ作業をこなすこと。あるじの帰りを待つこと。明日についての本題、【31日の件 実際の対処】に進む。様々な思考は浮かんでも、手は止めずに、ひたすら翻訳を進めていく。※10月10日 初出 10月12日 シーン加筆&既出話の誤植を修正しました。3連休でも残り1シーン書き上げきれませんでした。少々お待ちください。 10月15日 シーン加筆しました。本当にお待たせしました。これで完成です。 粟倉 葉のシーンが予想外に大きくなりました。最初に思いついたシーンがしっくりこなくて、内容を変更し手紙をぶち込んだためです。 なお、今後この小説で、『サキュバス』の実父以上のクズを登場させる予定はありません、と、明言しておきます。 なお、劇症肝炎の脳症描写は、ネットで調べた知識をベースにした想像です。作者は医療従事者でも無ければ、実際に脳症の患者さんを見たことも有りません。 変な箇所がありましたら、遠慮なく御指摘お願いします。