8月24日 午前11時59分 警視庁 (元)刑事部長室鑑識の者達とか、カメラっぽい機械とか、見た目録音機材っぽい何かとか、そもそも何を測っているのか謎な精密機器とか。そんな、様々な人と物に囲まれた空間のど真ん中に立つのは、……それも、刑事部長室という場所でこういう風に注目を浴びるのは、佐藤 美和子にとっては人生初の経験だ。厳密に言えば、他人の視線も機械の焦点も、美和子本人ではなく、手に持っている封筒に向いているのだけど。「刑事部長室にまた手紙が湧いた」今から3~4分ほど前。『サキュバス』事件捜査本部から急遽呼び出された先は、(元)刑事部長室の目の前の廊下。指示通りすぐやって来た彼女に向けて、鑑識の職員は、端的にそう告げた。使わなくなった方の部屋か、臨時に刑事部長室になった会議室か、どちらの部屋なのか美和子は訊かなかった。部屋のドアに視線を向けながらの言葉は、明らかに前者を意味していたから。手紙が“湧いた”。そう表現する他ない手法で手紙を送り付けるのは、『彼女』と召喚者が多用する手法だ。今月7日(刑事部長室)、17日(美和子が住んでいるアパートの郵便受け)、20日(米花公園)。警視庁が把握している手紙が湧いた回数は、以上の3回。そして4回目が、今日の午前。場所は、最初の出現事件と同じ刑事部長室。たまたま鑑識が居た時に、これまでと同じく赤い光をまき散らしながら、封筒が空間内に突然出現したらしい。――美和子が思ったのは、何でわざわざ自分が呼び出されたのか、という単純な疑問。もっとも封筒のオモテ面を見た瞬間に、その謎は解けた。【親展 警視庁捜査一課 佐藤 美和子様 ※出来るだけ早く名宛人本人がお開け下さい 毛利 蘭】強要や脅迫に該当するような文面では決してないけれど、米印付きでこう書かれている物を明ける度胸は、誰にも無かった、ということらしい。警察として合理的に動こうとすると、科学に基づく機器類を大集合させて、準備万端整えた中で名宛人本人(=佐藤 美和子)が封筒を開封する、という流れになる。とても納得がいく判断だ。ともあれ、周囲の職員に軽く目配せ。全員の軽い頷きを確認してから、……美和子は、改めて手紙に視線を落とした。手袋着用の手で、それぞれ封筒とハサミを掴む。左手に持った封筒の端ギリギリの場所を、右手のハサミで慎重に慎重に切り進める。様々な視線と機械が見つめる先で、いつもの(おそらく特異な性質を持つ)灰色っぽい紙の便箋が取り出され、広げられた。美和子の家に送り付けられたり、米花公園で湧いたりしたのと同じ、ボールペンで書いたっぽい文字列が並ぶ、1枚の便箋。そのまま内容を読み上げる。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~【佐藤 美和子様 以前そちらのお宅に送った手紙は、捜査本部に渡ったんですね 警察宛ての手紙は全て捜査本部が把握し、要求は正しい形で認識されているのだと、こちらは理解しています あなたたちカップルを対象とした今月31日の要求は、高木さんが体調を崩したようですので、佐藤さんにお願いします 魔力を持つ者は、時に、とても鋭い独特の勘を発することがあります 半ば、予知や透視に近いものと言ってもいいかも知れません 私の勘によると、どうやら高木さんは、まともに治療しても生死の境をさまよう、厄介な容態になりそうな気がしているのです 闘病中の本人に面と向かって言う事でもないので、こうして佐藤さんにお知らせします 高木さんにこの私の予想を教えるかどうかは、そちらの判断にお任せします 追伸 本日、思いがけない出来事がありました 私達が愛用している掲示板に注目していてくださいね 新聞広告に対する答えも、その思いがけない出来事に関する応答も、今日午後の何時かに書き込む予定です】~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 午後12時2分 東都警察病院 1F 受付ロビー病気の治療のために入院するよう医者から言われた時、大体の社会人が真っ先に連絡を入れる先は、自分の家族か、職場。そういう優先順位は、民間人だろうが公務員だろうが変わらない常識だろう。警視庁捜査一課の刑事、高木 渉の場合も、そのあたりの判断はごく一般的だった。診察室から出てロビーの椅子に座り、まず電話連絡を入れた相手は、自らの直属の上司である目暮警部。肝炎の悪化で自宅療養して、医師の指示通り安静にしていた。にもかかわらず、検査の結果、色んな数値は良くなるどころか悪化の一途を辿り、ついに今日、医師から入院を宣告されるに至る。高木にとっては納得いかない経緯だが、入院という処置自体はきのうから医師に言及されていたから、不意打ちという訳ではない。医師の言葉はそのまま職場に伝えていた。連絡を貰った目暮警部にとっても、この入院連絡はそう驚く話ではない様子だった。「……すいません、本当に、大変な時期なのに」とはいえ、病名がB型肝炎で、それも、自分達が好き好んでヤッた挙句の性感染症だと分かっている。刑事としては非常にきまりが悪い。入院の報告後、高木の口からは、申し訳なさ全開の謝罪の言葉しか出ない。「良いんだよ、高木くん。今はしっかり身体を休めて、病気を治すことを考えなさい。 皆には私から伝えておこう。もちろん、今、席を外している佐藤くんにも」あくまで労わりの雰囲気しかない優しい言葉が、却って、情けないやら申し訳ないやら。美和子さんへの言及も、2人の中を把握されているが故の気遣いなのだろうが、そういう気の遣われ方をされることもつくづく情けない。「……はい、ありがとうございます。よろしくお願いします。それでは、失礼します」通話を終えて、……スマホを掴んだまま、椅子の背にもたれ掛って溜息。前方の壁に設置された大きなTVは、公共放送局のお昼のニュースを放映中だ。内容はと言うと、当然ながら『サキュバス事件』の大特集。今朝からどこの局も、ニュースのトップはいつもこれだ。新聞にああいう広報が載った事、それ自体、大きく報道する価値がある。警察が新規に情報を出さないというだけで、かつて公表されていたことをニュースで振り返るのは報道機関の自由、という訳らしい。――俺は、何をしているんだろう。20日に発生した誘拐事件と、『犯人』の要求、それを受けて新聞に載せた広報のこと。一通りの情報は知らされているが、入院する身では何が出来るはずもない。この体調では、捜査員としての仕事はハナから期待されていない。もし、上層部の方々が自分に望んでいることがあるとすれば、強いて言えば、警部が先ほど言ったように、一刻も早く肝炎を治すこと。……でも、何も期待されていない確率の方が高い、だろうか。大事件の渦中に居たのに、性感染症で入院しやがった馬鹿な刑事に、誰が何を期待するというのだろう?ネガティブな想像を振り払うように首を横に振る。ああ、考える内容を変えよう。これからの予定を組み上げよう。一旦会計して、家に帰って、入院に必要な物を揃えて、またここに来て、入院して、……夕方、仕事が終わるくらいの時刻に、美和子さんに電話して。入院のことを改めて謝ろう。目暮警部越しの連絡だけで済ませるのはダメだ、うん。こんな待合の時間を無駄にするのもアレだから、ネットで情報収集したりして、……。5分ほど後。スマホで例の掲示板の考察スレを見ていた高木は、『サキュバス』側の書き込みにリアルタイムで遭遇することになる。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~【誘拐事案】拘置所被告殺人・考察&まとめスレ178【交渉中】106:◆MsSuccubus [sage]:20XX/08/24(土) 12:08:27.15 ID:LLLLLLLL スレ住民の皆さん、そしてこのスレを見ているはずの警察の皆さん。 他人の端末からごきげんよう。こちらは召喚者だ。 今から書き込む内容には、今朝の新聞に載った広報への答えと、それと別に今朝発見した予想外の事柄に対する答えと、2つの部分がある。 後者は、前回同様『サキュバス』からの伝言だ。 このレスを含めて全部で3レス。こちらの投稿中は、出来れば書き込みは控えてほしい。 まず、内調へ、今朝の広報への応答だ。 内調の職員4人への術は、元々、25日の朝6時くらいをメドに意識が戻るようにようになっている。 個人差があるから前後6時間くらいブレるかもしれないが、時間としてはその範囲内で覚醒するはずだ。 意識を取り戻した時点で、今月21日以降の記憶が飛んでいると思うが、こちらが掛けたのはそもそもそういう術だ。 許容範囲外に知られてはならない情報が漏れていたので(厳密に言えば、情報の漏洩を検知したので)書類を含めて、その情報を含む媒体を消した。 そして、情報を知った職員からは記憶を消した。職員が意識不明になったのは、記憶抹消の術に必ず付随する効果だ。 消した物も、記憶も、決して戻ることは無い。復活させることを織り込んだ術ではないからだ。 今はこちらの魔力に余裕があったから、記憶の抹消というややこしい術が使えた。 今後また情報漏洩があった時、数とタイミングによっては、秘密を知った者をあっさり絶命させる時が来るかもしれない。少なくともその術の方が、必要な魔力は遥かに少ない。 だからこれからも、今回のように、記憶を消すだけの対処で終わるとは思わないでほしい。148:◆MsSuccubus [sage]:20XX/08/24(土) 12:09:12.15 ID:LLLLLLLL そしてここからがサキュバスからの伝言だ。 ============= 今朝ここのスレで書き込まれていた ◆Moto/.Profさんへ 書き込まれた内容を読んで、召喚者共々とても驚きました。 私と同じ世界、かつ、同じ帝国領の御出身なのではないかと推測できたからです。 今の段階でほぼ確信していますが、念のため以下の質問に解答をお願いします。 貴女の経歴から考えて、答えられないはずが無いと思っています。 問1.元の世界での年齢の数え方を説明せよ。また、こちらの世界の満年齢とは数え方がどのようにズレるか。 問2.以下は、今の世界での私の身分を、元の世界の言葉で表した名前(ただしかなりの変則式)である。元の世界の表記に関わらず、今回は、単語の頭文字を大文字としている。 この名前を、意味をできる限り細かく示して訳せ。なお『Succubus』は『サキュバス』とすること。 Succubus Vain Reune Na Karuruban Kurau Irunkus 問3.現地の神話(あるいは歴史)より。 偉大なる巫女アポリアは、王国の姫であった頃、故郷の塔の中で如何にして生き延びたのか、それがどのような形で周囲に知られたのかを答えよ。172:◆MsSuccubus [sage]:20XX/08/24(土) 12:10:01.18 ID:LLLLLLLL なお、以上の問いへの返答の有無に関わらず、今後、警察を含め政府関係機関への協力は一切無いようにお願いします。 警察に限らず、どこの国家に属する人にも、魔術の知識は与えたくないのです。 今後、どこかの機関が接触したと分かった時点で、少なくとも私の生命の問題が解決するまではその機関の職員ごと眠り続けてもらいます。 いつか御望み通りに、故郷のことを語り合う日が来るのかも知れません。 だけどそれは、私が抱えている危機を乗り越えてからの話とさせてください。 今は、自分自身が生き延びることに専念したいのです。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 午後12時15分 寝屋川市 服部家「何なんやこれ……」世の中、需要がある所に供給がある。掲示板にて、特定のハンドルネームでの書き込みがあった時には個別に通知する機能が付いた、無料のブラウザアプリを、掲示板の管理人公認で創り上げた人が居た。『サキュバス』事件後登場したそれは、まさに『サキュバス』側の書き込みを念頭に置いて公開されており、事件に興味がある層には愛用されている。服部 平次も、もちろん自身のスマホにブラウザアプリをインストールしていたから、書き込みがあった事は即座に知った。スマホで見た内容がパッと見て信じられず、自室のパソコンで改めて掲示板を見て、やはり書き込み内容がスマホの通りだと確認。……平次としては、ディスプレイに映る書き込み内容全てに絶句するしかない。『サキュバス』が指名した“◆Moto/.Prof氏”がどんな内容を今朝書いたのか、掲示板を見れば一目瞭然。ド派手な祭り状態の書き込みの内にも、その人のレスが発掘されて、幾度も貼り付けられている。召喚者が魔術で情報の流れを追っていること、他人の命を奪い得ること、そして、どうやら異世界出身の者が『サキュバス』1例だけでは無いこと。どれもこれも重大な事で、平次の頭の中を考察が巡る。この事件は平次が出る幕のないことだと分かっているが、……こういう事件で何も考えずにはいられないのは探偵の性分だ。もう連絡を取ることは無いけれど、東京の毛利探偵のところに居る、小さくなったあの探偵も、きっと同じ。――アイツも、俺と同じようにビックリして、推理してるんやろか……考えながらスマホを取り出して、平次はアプリの設定を追加した。“◆Moto/.Prof氏”が書き込んだ時も、通知が来るように。設定の変更は、割と早めに活きた。“◆Moto/.Prof氏”のレスポンスは、午後1時になる前に来たからだ。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~(※作者註:問3の解答に、不快に感じる行為への言及があります。予め御了承下さい)【解答】拘置所被告殺人・考察&まとめスレ189【待機中】827:◆Moto/.Prof [sage]:20XX/08/24(土) 12:51:28.45 ID:KKKKKKKK 問1.元の世界での年齢の数え方を説明せよ。また、こちらの世界の満年齢とは数え方がどのようにズレるか。 解答1.元の世界でも、誕生日には1歳分年齢を足す。 但し、誕生前の、母親の胎内に居る期間も1年と数えるので、生まれた時は「0歳」ではなく「1歳」となる。 よって、こちらの世界の満年齢の数え方とは、ちょうど1年分年齢がズレる。843:◆Moto/.Prof [sage]:20XX/08/24(土) 12:51:58.23 ID:KKKKKKKK 問2.以下は、今の世界での私の身分を、元の世界の言葉で表した名前(ただしかなりの変則式)である。元の世界の表記に関わらず、今回は、単語の頭文字を大文字としている。 この名前を、意味をできる限り細かく示して訳せ。なお『Succubus』は『サキュバス』とすること。 Succubus Vain Reune Na Karuruban Kurau Irunkus 解答2.訳は、「主(あるじ)の配下の、カルルバン出身の、イルンクス(笛の民)の、サキュバス」 Vainは「繋がり」「縁」を意味する。氏名に使う場合は、「~の配下」「~の支配下の」と言う前置詞になる。Reuneは「主人・あるじ」を意味する中性の名詞。 だからVain Reuneで「あるじの配下」。 出題者の境遇から考えて、Reuneはつまり「召喚者」であると考えられるが、私の知る言語としては、Reuneという語に「召喚者」という意味は無かったはず。 よって、訳語としては「あるじの配下」とするのが妥当。 Naは「~な物」「~な者」。氏名だと「~生まれの」を意味する前置詞。Karurubanは地名。それで、Na Karurubanは「カルルバン出身」。 カルルバンは私の住んでいた都市から見て北西方向にある、盆地の宗教都市。かつて偉大なる巫女アポリアが属していた神殿がある街。 Kurauは「血」。氏名では「~族の」を表す。Irunkusは種族名、そのままIru=「笛」、n=「~の」、kus=「民(種族)」。よってKurau Irunkusは「笛の民の」。 この種族の女性は、ある程度成長すると、定期的に異性と交わらなければいけない身体となる。 異性の精を魔力へと変換し、その魔力で生命を維持する仕組みが、おおよそ10代前半の性徴期に出来上がる。 召喚者が名付けた「サキュバス」という名は、この笛の民の特性にちなんだ名付けではないかとの推測が成り立つ。 925:◆Moto/.Prof [sage]:20XX/08/24(土) 12:53:02.49 ID:KKKKKKKK 問3.現地の神話(あるいは歴史)より。 偉大なる巫女アポリアは、王国の姫であった頃、故郷の塔の中で如何にして生き延びたのか、それがどのような形で周囲に知られたのかを答えよ。 解答3.塔の中で如何にして生き延びたのか→父親の遺体を食べたから。 それがどのような形で周囲に知られたのか→慣習に従い、王の亡骸が晒されたから。(以下、神話(歴史)の概要) そもそも、アポリア姫と、王である父が塔の中に追われたのは、政変によるものだった。 王には弟が2人いた。上の王弟が決起し、王城を襲撃。 王の身体を斬り付けた上で、姫と共に、王城の敷地にある塔の中へ追い立てたのだった。 監禁された塔の中で、王は、姫に見守られながら息絶えた。死の間際、何が何でも生き抜くように、と、王は姫に言い残したという。 永遠に続くと思われるほどに、監禁は続いた。閉じ込めた側が餓死を狙ったのだから、すみやかな解放などあるはずかなかった。 塔の中では父娘がふたりきりだった。 激しい飢えがアポリア姫を襲った。父親の遺体だけがそばにあった。食糧となる物は遺体だけだった。遺体は食糧となった。 塔の外の世界では、もう1人の王弟が決起していた。隣国に逃れ、その国の力を得て自国に攻め込み、簒奪者を討って、王城を奪還した。 彼が部下と共に塔の中に踏み込んだ時、死にかけだが辛うじて息のあるアポリア姫と、どう見ても食べられた痕のある王の遺体が発見された。 塔の屋根に隙間があり、雨は少しだけ降り込む。2人が閉じ込められた期間は10日間。雨が降る日もあったのだから、それで渇きは避けられたのだろう。 では何故、姫は飢え死にしなかったのか。王の遺体の痕跡から、王弟はその答えを悟り、痛々しく弱った姫を抱き寄せて泣いた。 (続く)978:◆Moto/.Prof [sage]:20XX/08/24(土) 12:54:03.28 ID:KKKKKKKK (続き) 在位の半ばで死んだ王は、服を一切纏わぬままその亡骸を王都の広場の石畳に晒される。 他方、簒奪者の亡骸は、服を一切纏わぬまま千々に切断されて大河に捨てられる。 塔の中で息絶えた王と、討たれた王弟は、古からの慣習に従って各々にふさわしい処置を受けた。新しく王となったもう1人の王弟がそうするように命じた。 王の、有り得ないような遺骸の損傷は民が公に知ることとなり、塔の中で父娘に起こった出来事もまた広く知られることとなった。 姫は同情されると同時に畏れられることとなり、姫もまた、特に血の近い者達と触れ合う事を恐れた。 上の叔父が生命を奪いかけ、唯一心を許せた父が殺されたのだ。王位に連なる他の誰が信じられよう。 新しい王は姫の恐怖をもっともだと思い、王の座から最も遠い場所へと姫を預けた。王座よりも最も遠い場所こそが姫に必要なのだと信じて。 かくして(現地の数え方で)当時9歳のアポリア姫は神殿に身を置いた。誰もが認める形で、巫女となる道を選んだのだ。 (概要は以上) 解答は以上です。 私も、出題内容を見て、貴女の出身があの世界であることを確信しました。 あの国の巫女であった者で、アポリア姫の話を知らない者が居るはずがないですからね。 貴女が大変な状況にあることは、こちらも理解しています。捜査機関への協力は一切断ることとしましょう。 どうか、貴女が平穏な日々を掴み取れますように。※9月15日 初出 9月21日 シーン加筆 9月23日 誤植を修正しました 警察病院の高木のシーンだけは、前話の最後に投稿していたものでした。が、この話の3つ目のシーンに移動させました。 話の内容自体には変更はありません。 第4部-6で出した問題(『彼女』が元太くんに話した歴史の中で、省略したことは何か)の答えは、この話で示した通りとなります。 元太くんの性格なら連想に至っても不思議じゃなかった事→食いしん坊だから、お姫様が、塔の中でお腹が空かなかったのか疑問に感じてもおかしくなかった、という事です。 『塔の中で、10日間ずっと、王の骸を前に一人ぼっちだった』と、元太くんに明言していましたから。