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No.39800の一覧
[0] 【更新停止】名探偵コナン+まじっく快斗の世界で、ファンタジー世界生まれの犯人が生き足掻く話(オリ主物・安価SSの加筆再構成)[oJG7](2018/05/01 20:41)
[1] 第1部 瀕死で足掻いた彼女の話 プロローグ[oJG7](2016/05/06 23:39)
[2] 第1部 瀕死で足掻いた彼女の話-1[oJG7](2015/02/28 17:18)
[3] 第1部 瀕死で足掻いた彼女の話-2[oJG7](2014/04/29 21:13)
[4] 第1部 瀕死で足掻いた彼女の話-3[oJG7](2015/05/10 20:53)
[5] 第1部 瀕死で足掻いた彼女の話-4[oJG7](2014/04/29 21:12)
[6] 第1部 瀕死で足掻いた彼女の話 エピローグ[oJG7](2014/04/29 21:19)
[7] 第1部終了時点 登場人物まとめ(主要人物編)[oJG7](2016/05/01 12:56)
[8] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話 プロローグ [oJG7](2014/11/22 00:30)
[9] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話-1[oJG7](2015/03/14 23:19)
[10] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話-2[oJG7](2014/11/23 00:11)
[11] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話-3[oJG7](2014/11/23 00:13)
[12] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話-4[oJG7](2015/03/15 20:36)
[13] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話-5[oJG7](2015/03/15 20:37)
[14] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話-6[oJG7](2014/11/25 20:48)
[15] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話-7+登場人物まとめ(被害者家族編)[oJG7](2014/12/07 00:08)
[16] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話-8[oJG7](2014/11/26 20:59)
[17] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話-9[oJG7](2014/11/26 21:01)
[18] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話―10+登場人物まとめ(容疑者編・弁護士編)[oJG7](2015/03/22 21:31)
[19] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話―11[oJG7](2015/03/22 21:33)
[20] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話 エピローグ[oJG7](2014/11/30 00:04)
[21] 第2部終了時点 登場人物まとめ(主要人物編)[oJG7](2016/05/02 21:49)
[22] 第3部 足掻くと決めた彼女の話 プロローグ[oJG7](2014/12/07 21:09)
[23] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-1[oJG7](2014/12/21 00:06)
[24] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-2 (※12月29日加筆)[oJG7](2015/04/04 12:17)
[25] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-3 (※1月4日加筆)[oJG7](2015/04/04 12:17)
[26] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-4 (※1月13日加筆)[oJG7](2015/04/06 21:08)
[27] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-5[oJG7](2015/01/31 21:52)
[28] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-6 (※1月27日加筆)[oJG7](2015/01/30 21:52)
[29] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-7 (※2月7日加筆)[oJG7](2015/02/09 21:05)
[30] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-8 (※2月15日加筆)[oJG7](2015/02/28 22:54)
[31] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-9 (※2月26日加筆)[oJG7](2015/02/28 22:30)
[32] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-10 (※3月6日加筆)[oJG7](2015/03/06 23:48)
[33] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-エピローグ[oJG7](2015/03/08 21:22)
[34] 第3部終了時点 登場人物まとめ(主要人物編)[oJG7](2016/05/03 11:51)
[35] これまでの出来事 時系列順まとめ[oJG7](2015/05/10 20:54)
[36] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話 プロローグ[oJG7](2016/05/05 20:22)
[37] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-1[oJG7](2016/05/05 20:22)
[38] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-2[oJG7](2016/05/05 20:22)
[39] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-3[oJG7](2016/05/05 20:23)
[40] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-4[oJG7](2016/05/05 20:23)
[41] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-5[oJG7](2016/05/05 20:23)
[42] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-6[oJG7](2016/05/05 20:24)
[43] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-7[oJG7](2016/05/05 20:24)
[44] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-8[oJG7](2016/05/05 20:24)
[45] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-9[oJG7](2016/05/05 20:25)
[46] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-10[oJG7](2016/05/05 20:25)
[47] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-11[oJG7](2016/05/05 20:25)
[48] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-12[oJG7](2016/05/05 20:26)
[49] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-13[oJG7](2016/05/05 20:26)
[50] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-14[oJG7](2016/05/05 20:26)
[51] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-15[oJG7](2016/05/05 20:27)
[52] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話ー16[oJG7](2016/05/05 20:27)
[53] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-17[oJG7](2016/05/05 20:27)
[54] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-18[oJG7](2016/05/05 20:27)
[55] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話 エピローグ[oJG7](2016/05/05 20:28)
[56] 第4部終了時点 登場人物まとめ(主要人物編)[oJG7](2016/05/05 20:21)
[57] 番外編 IF 和葉が、ファンタジーな犯人の事件に巻き込まれる話[oJG7](2016/04/10 16:39)
[58] 第5部 考え願って足掻き抜いた、あるじと彼女と誰かの話 プロローグ[oJG7](2016/05/16 21:21)
[59] 第5部 考え願って足掻き抜いた、あるじと彼女と誰かの話-1(※6月11日加筆)[oJG7](2016/06/11 23:16)
[60] 第5部 考え願って足掻き抜いた、あるじと彼女と誰かの話-2[oJG7](2016/09/04 21:03)
[83] 第5部 考え願って足掻き抜いた、あるじと彼女と誰かの話-3[oJG7](2018/05/01 20:42)
[84] 番外編 サキュバスの手記 官吏アポリアの物語1~3 はじめに/暴発事件のこと/事件処理のこと[oJG7](2018/04/27 23:04)
[85] 番外編 サキュバスの手記 官吏アポリアの物語4~6 「広場の月番」のこと/剣と詠唱のこと/剣の行方のこと[oJG7](2018/04/27 23:30)
[86] 番外編 サキュバスの手記 官吏アポリアの物語7~9 縁談のこと/親戚関係のこと/告白のこと[oJG7](2018/04/28 08:57)
[87] 番外編 サキュバスの手記 官吏アポリアの物語10~12 誓いのこと/指令のこと/司法府長のこと[oJG7](2018/04/28 23:37)
[88] 番外編 サキュバスの手記 官吏アポリアの物語13~15 告示のこと/生まれた場所のこと/官吏という職のこと+更新一時停止のお知らせ[oJG7](2018/05/01 20:43)
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[39800] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-5
Name: oJG7◆2c7b4d3c ID:d3ebd74d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/05/05 20:23
 午後7時20分 召喚者の屋敷 地下 個室

部屋の中はごく静かだった。誰も、何も、口を開いてはいなかった。
いつもの仮面にローブ姿のあるじは、石の壁にもたれかかって腕を組んでいる。『自分』は、ワンピースの上にローブだけ羽織った状態で、いつも使っているベッドの上に腰掛けている。
2人の視線が共通して向いている先は、もう1つベッドの上。計画通りに誘拐した男の子が眠っている、その顔だ。

――元太くんの覚醒は、近い。この子に昏睡魔術を掛けて誘拐した『自分』達が、元太くんの観察で判断した共通の見解だ。
覚醒した後でどう対応するのかは、無論協議済。それこそ、今更喋る必要は無いくらいに。
目が覚めた後で、口を開くのは『自分』だけ。あるじは徹底的に声を出さないことになっている。覚醒寸前の耳に届くかもしれないから、その意味でも今の段階での会話は不要だ。

「ん、ぅ、……」

覚醒の時が遂に来た。目覚めを示すうめき声が上がる。
あるじは無言で元太くんの視界から外れるように遠ざかり、『自分』は対照的に傍で膝を折る。
毛布の下の左手を取った。『蘭』の両手で、小学1年生の手を出来うる限り優しく握る。
元太くんの両目が開く。ぼんやりとした思考のまま、顔は、自らの手と、その後ろの『女子高生』の方を向いて……、

「蘭姉ちゃん? ……ぇ?」

予想通り混乱の声を漏らす彼に、『自分』は微笑んだ。
喋る方が内心びっくりするぐらい『サキュバス』らしい声色が、『自分』の喉から出る。

「目が覚めたんだね、元太くん。今はもう夕方の7時だよ。
 取り敢えず、夕ご飯食べようか。色々あったけれど、何があったのか話すのは、食べた後の方が良いと思うの」

『自分』と元太くんのベッドは隣だ。これから話を交わす機会はいくらでもある。都合よく虚実の入り混じった話だけれど。
だからこその言葉だった。説明を急ぐ必要は無いのだ。

元太くんの反応は、非常に分かりやすい。
顔は、漫画ならば疑問符がいくつも頭の上に登場しそうな表情を見せる。一方でお腹の方も別の意味で素直だ。盛大な音で答えを示したのだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 午後7時30分 毛利探偵事務所 2F

捜査員2名がゆっくりと階段を降り、ややあってから車に乗って去って行く。
事務所を退出してからの彼らの動きを耳だけで把握してから、事務所の応接用ソファーにひとり座る妃 英理は、これまでに無いくらい特大の溜息を吐いた。
心にべっとりと貼り付くような疲労を感じる。我ながら精神的な摩耗が酷い。
だが、……どんなにショッキングであっても、親として見つめなければいけない『娘』の現実が、目の前にある。

刑事達は先ほど探偵事務所を引き上げたが、彼らが持参した写真は机の上に残された。忘れ物では無く、警察の意思として明確に置いていったのだ。
外部に漏れると厄介な事態になる類の物だが、捜査本部は、自分達にこの手紙を渡しても漏洩は無いと判断したのだろう。英理としても外部に漏らす気は毛頭無い。
むしろ警察は、探偵と弁護士が披露するかもしれない推理まで、ひょっとしたらという形で期待しているのかもしれない。
被疑者の親なのに、そのくらい信頼されているということか……。

「警察の人、帰ったんだよね?」

その言葉で我に返った。
コナン君が、事務所のドアを半開きにしてこちらを覗き込んでいる。
この子、捜査員が出て行く様子を伺ってからここに降りて来たのか。思索に沈みすぎて全く気付かなかった。

英理の口から答えが無くとも、ここの様子は見れば分かる。ドアノブを握って完全に部屋に入った彼は、少しあらたまった。

「あの、……今日、ここに来てくれて、ありがとうございました。たぶん、おじさんと僕だけだったら大変な事になってた」

この子は聡い。元太くんのお父さんの電話で『蘭』の誘拐事件を察知し、すぐに捜査本部へ通報したらしい。次に英理に電話を掛け、最後に、あの夫に連絡した。
英理は自宅マンションに居て、電話を受けてこの事務所に駆けつけた。病院で点滴を受けていたあの人は、治療を切り上げて戻ってきた。
それから捜査本部との細かいやり取りと、捜査員の訪問と、協議があって、……今に至る。
コナン君の初っ端の電話の順番は妥当だと思うし、それ以前に自分に連絡する思考が湧いた点で、英理にとっては賞賛に値する。

「……こちらこそ、呼んでくれてありがとう」

小さな探偵くんに向き直って、英理はそう返した。
この子の言う通りだ。あの状態の夫が英理不在の状態で警察に対応していたら、どんな事になっていたか判った物では無かった。
あの人が普段『娘』思いであることは、別居している自分も否定しない。だけども、発熱のせいだろう、誰が見ても情緒が明らかに変だったんだから。

RRRR RRRR……

突然、英理の携帯とは違う着信音が事務所内に鳴り響く。
音源がどこかはすぐに気付いた。あの人が普段使っているであろうデスクの上の、固定電話だ。
受話器を取るべきだろうか思案しながら電話の前に回り込み、英理の思考が、……ナンバーディスプレイの表示を見た瞬間、凍り付く。
ピカピカ光っている上下2列のデジタル画面。下が掛けてきた者の番号ならば、上の文字列はズバリ掛けてきた者の正体だ。現在の表示は“小嶋酒店(元太の家)”。

「今日、電話を貰った時に、この番号を登録しておいたんだ。さっそく掛かって来たんだね。
 元太のお父さんは、地が出ると、まさに江戸っ子ー、……って感じの話し方になるからビックリするかも」

英理が凍り付いている間に駆け寄って来たらしい、傍に立つコナン君が、喋りつつこちらの顔を見上げた。
流石に英理と言う大人が居る状況で、この子が受話器を取る気は無いようだ。いや、勝手に取られたら非常に困るからそれで良いんだけど。うん。

……改めて実感する。実にこの子は聡い。番号を電話に登録するとか、そういう細かい措置にまで気が回ってくれて助かった。
どんな相手か分からない状態で電話を取って、内心慌てふためくような事態に陥るよりも、今の状況は遥かにマシだ。……予め覚悟を決める事だけは出来る。

「本当にありがとう、コナン君」

短くだが本心からの礼を言って、受話器を上げた。鳴り続けていた着信音が止まる。
英理は、小さく一呼吸置いてから名乗った。

「もしもし、毛利探偵事務所です」

「ぇ、あー……、小嶋 元太の父ですが、えっと」

コナン君が教えた通りの男性は、しかし、想像したような威勢の良いべらんめぇ口調ではなかった。
予想外の成人女性の声に戸惑っているのか、それとも、喋りたいことが山ほどあるのに躊躇ったのか、あるいはその両方か。
相手の心中の機微は、今はまだ分からない。ただどうあっても、『加害者』の親として、告げるべき事柄は最低限告げようと思う。
どんな感情を心に抱えていたとしても、押し殺して表面上冷静に振る舞う術は、職業柄身についている。感情的になりうる相手に対して振る舞う術も、当然。

「小嶋さん。私は『毛利 蘭』の実の母で、妃 英理と申します。
 警察の方から話は伺いました。『娘』がとんでもない事をしでかしたと……、本当に申し訳ありません」

小学1年生を誘拐。生命を維持するための人質、兼、素材候補として。今後の経過としては殺害も有り得る。
……振り返ってみると『あの子』の行動は酷い。「とんでもない事」以外の何なんだろうか。
そう思いながら話した言葉。でも電話の相手は、全く別のことに引っ掛かって訊いてきた。

「……奥さん、名字は毛利探偵とは違うんですか?」

無難に答えられる問いだ。嘘を吐く必要は無いけれど、過剰に喋る必要も何一つ無い。

「はい、事情があって、10年ほど夫と娘とは別居しております。
 夫は、今、体調を崩して会話できる状況ではない、ということで、コナン君が私を事務所に呼んでくれたんです。
 大変申し上げにくいんですが、……このところ『娘』の件で、夫が一番振り回されておりましたから」

「でしょうね……、『サキュバス』の事件がどうのこうのとなれば心労が溜まるでしょうねぇ……!!」

こう喋るに至って、ようやく相手の口から怒りが出た。
どう会話を切り出すか迷い、結局はこういう形で触れたい事項に対する切り口を見つけた、……そんな父親の心を英理は察知する。
怒りを感じつつもこちらの事情も知っているから、結果的に感情の爆発は抑えられている方、なのだろう。コナン君の言うような地は出ていないのだから。

英理は黙って相手の言葉を聴く。喋りたいだけ喋ってもらった方が良い。黙って耳を傾ける道義的な義務は、こちらに有る。

「こちらも今警察から手紙の写真見せられたところですけどね!
 『サキュバス』事件の報道を色々聞いていましたから、ややこしい経緯の挙句、人格を半分乗っ取られたんだと分かってますけどね?
 人格の半分はそちらのお嬢さんでしょう? 人の息子人質に取るなんて、……どんな性格していたんです!?」

……英理は弁護士だ。少年事件の加害者だけでなく、その家族が責められる構図は知っているし、現に見たこともある。
今回、元太くんのお父さんから言われた罵倒は、十分に予想できた言葉ではあったけれど、それでも。

実の『娘』の件で追及される、その精神的なダメージのキツさを、英理は初めて身を持って知った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 午後7時35分 召喚者の屋敷 地下 個室

紅子は一旦個室から出て、キッチンで2人分のカレーライスを温めてからこの個室に持って来た。『彼女』と元太くんの夕食だ。
人質である彼にとっては、得体の知れない、顔を隠していて全く口をきかない相手が出してきた食事になる。
流石に小学1年生でも警戒心はあり、当初は手を付ける事か迷ったようだ。が、『彼女』が食べている様子を目前にして空腹には抗えなかったらしい。
結局は2人ともそこそこの早さで平らげたのを、紅子はまた壁にもたれかかったまま一部始終見ていた。

「ごちそーさまでしたっ! じゃあ蘭姉ちゃん、俺がここに居る訳を話してくれ!」

何があったのか話すのは夕飯の後にする、と告げたのは『彼女』の方だ。この子もそれを承知してカレーを食べたのだから、完食すれば、……当然こうなるか。
元太くんに詰め寄られた『彼女』は、チラリと紅子に目配せをする。
打ち合わせ通りで問題無い。こちらは了承の頷きを見せ、意を汲んだ『彼女』は元太くんに目線の高さを合わせた。

「まず、言っておくね。元太くんは、『私達』の戦いに巻き込まれたんだよ。きみは何も悪くない」

2名分の人格を抱えた『彼女』は、声を使い分けることが出来る。
この説明をする時は、『サキュバス』の方の声を通すと決めていた。『蘭』の声が前面に出ると、動揺が隠しきれないだろうとの判断だ。

「たたかい?」

物騒な単語に、元太は首を傾げる。『彼女』は微笑みながら紅子を示して言った。

「ええ、話せないことはいっぱいあるけれどね。『私』と、あの人、……Reune(あるじ)は、ある目的のために一緒に戦っていたんだ」

『彼女』は嘘を言うのを忌み嫌う。『蘭』は、日本人として標準的な倫理観から。『サキュバス』は、信仰面と魔術面での理由から。
意図的な嘘は、魔力を一時的であれ削いでしまうのだ。
ただ、嘘は駄目だが、何か重要な事を伏せて話すのは良い。肝心要の事柄を伏せ、喋れる事柄だけを選び、かつ誤解を受けやすいよう誘導するのも、許容範囲の内。
打ち合わせの最中、『彼女』は、「それはもう虚実入り交った説明と同じですね」と評した。紅子も同意見だが、今の『彼女』には、そういう話し方が求められる。

「レ、ウ、ネ……?」「そう。あの人をここではそう呼んでる」

呼び方はそれで正解。『彼女』は“頭を撫でながら”元太を褒めた。褒められた側は、そう深く喜んではなさそうだけど。
まぁ褒める以外の意図があって触っている面があるから、喜ばれなくても良い。

魅了や洗脳の魔術の中には、相手に触れることが起動のトリガーになるものも存在する。以前探偵くんに使った術よりはるかに弱い、ほんの少し聞き分けを良くする魔術なんて、……造作もない。
『彼女』は更に元太に顔を寄せた。心に直に刻み込むように、“思いを込めた”言葉を重ねる。

「『私』とReune(あるじ)は、とってもとっても大事な目標のために頑張っていたんだよ。『私』が欲しいモノを手に入れるっていう目標のためにね。
 それを邪魔しそうな人達が居て、『私達』はその人達とも戦っていた。元太くんはそれに巻き込まれて、ここに隠しとかないと困る状況になっちゃんたんだ」

仮面ヤイバーか、ゴメラか、あるいは他にTVで溢れてそうな特撮か、他には女の子向けの魔女っ娘ものか。
この『彼女』の説明で元太の頭に浮かぶのは、それくらいだろうか。現状とはかけ離れた状況だが、意図的にそれを思い浮かべるように『彼女』が“誘導している”。

「正義のために、戦ってる? 相手は強いのか?」

「どうだろうねぇ。正義だとは言いたくないなぁ。戦っている相手も、自分達が正しいと考えているはずだから。
 相手の強さは、そうだね、強いけど弱い人達だと思う」

元太の“手を握ったまま”、『彼女』は微笑む。
「強いけど弱い人達」、……ふさわしい表現だ。治安が良いこの社会の、魔術の知識を一切持ち得ない警察組織の表現として、実にふさわしい。

「元太くん、今は細かい事は話せないけれど、時が来たら秘密にしている事を話せるから。
 長くても2学期一杯は、ここに居てもらう事になると思う。『私達』の戦いが終わったらお家に返すよ」

長期監禁の宣言に元太は少し驚いたようだが、深刻な動揺は見せない。
頭の中ではきっと、どうしようもないパワーを持った者達の戦いの最中、この地下室でずっと戦いが終わる日を待ち続けている、そんな彼自身の姿が、出来上がっている。
家に帰れないのはどうしようもない事なのだと、彼は今“諦めさせられた”。

「……『蘭姉ちゃん』の声が変なのも、その戦いのせいなのか? 『姉ちゃん』、姿は『蘭姉ちゃん』なのに声が別人みたいだ」

当初からずっと頭にあったであろう質問。「そうだね」、と、『彼女』は微笑みを壊さずに頷いた。

※7月6日 初出
 7月12日 0時30分頃 シーン加筆
 7月12日 21時5分頃 シーン加筆 一部修正
 7月15日 誤植を修正しました
 8月18日 誤植を修正しました


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