午後4時半 大阪府警本部 本部長室RRRR RRRR……電話が鳴った。坂田の事件の、捜査本部からだ。「……どうや、例の書き込みの真偽は?」「すぐウラが取れました! 『天界』の大将の奥さんが、昨日の夜、店に携帯を忘れてたようです!その携帯から、書き込みや写真の投稿がされてました!! 『事件のせいでバタバタしてて、携帯探すの後回しにしてた』て、奥さんは言うてます」「で、その携帯の電波は、どうなっとる?」「やはり午後3時前後に東京で電源入れた痕跡があって、今は電源が切れとるようです。 少なくとも、例の事、書き込んだのは奥さんじゃありません。昼前までここの署に居ましたし、今もここに居りますし」つまり、あの書き込みが犯人側の書き込みだということが、ほぼ確定する。坂田を殺した何者か、あるいはそれに近い者が、『天界』で忘れ物の携帯を盗んだ後、東京に移動し、沼淵を拘置所から連れ出し、おそらくはどこかで殺害、あの掲示板に書き込んだ、と。「そうか……、そやろな」~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~午後5時30分 警視庁 捜査一課「警部、沼淵の死体が見つかりました! 坂田と同じく、かなり痛めつけられているようです!」ふたり目の犠牲が発見されたという、その報告に、目暮警部は噛みつくような勢いで問いかけた。「どこにあったんだ、高木!!」「べ、米花町にある和食の料理屋さんです! 2週間前まで営業していたところだそうです」「……やはりか」そう言う場所に遺体が有ったなら、遺体の発見に至るのは、まあ順当な話だ。携帯の電波の範囲内にある、人の居ない飲食店を虱潰しに探し回るよう、捜査員に指示が出ていたのだから。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~午後6時 米花町 とある路上「……」『彼女』は術で姿を隠しながら、獲物になるはずの若い娘を見つめた。普通に、高校の部活から帰宅する途中の娘は、『彼女』に見られていることに気付くはずもない。見つめるほうの『彼女』の身体は、この『世界』に毒され、ズタボロだった。本当はもっと慎重に事を進めたかった。しかし、身体が衰える勢いは止まらず、稚拙にならざるを得なかった。今回、ネズミの血で染めた符を多用した。触媒も紙も、極めて簡易な、妥協の産物だった。そんな符で練り上げた術は本当に荒く、失敗と隣り合わせだった。実際、失敗した。結界が、独房の壁を抉るわ床を抉るわ、防音機能がおかしいわ、挙句の果てには『天界』で光りながら暴走し、剣やら棒やら死体やらを跳ね飛ばす事態にすらなった。でも、そんな苦労も報われてほしい、と『彼女』は思う。時折、身体から体液が漏れる満身創痍でも、どうにか術で身体を隠し、『彼女』は自ら成り変わるはずの娘を見つめる。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~午後6時25分 都内 とある雑居ビル 2F少しばかり埃っぽい床の上で、蘭は呻いた。「ぅん……」「目が覚めたのか」1月前まで大手のファストフード店が入っていて、今はテナント募集中になっているビルの2階で、ふたりきり。ローブを纏い、濃灰色の仮面を着け、かつローブの下は全身包帯だらけの『彼女』の姿は、蘭にどんな印象を与えているのだろう。間違いなく、決して良い印象ではあり得ない。「……あなた、誰……?」思考力も運動力も魔術のせいで一時的に落ちている、呂律のまわらない被害者の精一杯の問いかけに、しかし加害者である『彼女』は答えない。「恨みたいなら恨んでも良いよ。私には、貴女達に謝る言葉は無いから」「ぇ……?」蘭の誘拐自体は順調に完了した。その後の作業も、魔術陣の準備も順調だ。あとは、もう本当に『ちから』を流すだけ。蘭から取り上げた衣類やら鞄やらは、今『彼女』の手元にある。蘭のスマホを使えば、犯行声明を書き込んだ時の掲示板に、遺言を残すのも有りだ。ただ、そうやって書き込めば、たぶん携帯の電波を辿って警察が来る。術式に成功した場合に、ここに書いた陣を隠ぺいした上で、知らん顔をして『普通の市民として生きる』道が消える。掲示板に遺言を投稿すべきだろうか、『彼女』は少し考えて、――そして、決断した。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~【妄想か】拘置所被告殺人・犯人書き込み考察スレ4【実話か】192:◆MsSuccubus [sage]:20XX/08/06(火) 18:32:51.40 ID:XXXXXXXXX ちょっと遺言をメモ帳にまとめたので、その書き込みに来た。 今、例の術式に使う一般人を誘拐していて、その人の端末から書き込んでる。 念のため言っておきたいんだけど、その人はあくまで一般人。 先に殺した二人とは違って、『罪人ではない』ことを、ここに明言させてもらうよ。 あともう一つ明言しておくけど、召喚者は、最後の最後まで、術式の対象に罪人が使えないか、調べ回っていたよ。 最初の、2人の生贄だって、罪人に拘らなければ、もっと相性の良い人見つけられたハズだった。 でも、召喚者はかなり強く『この2人にしてくれ』って言ってきて、私が妥協した。 この世界は、本当に苦しいね。 世界一の魔力持ちの召喚者は、最初から魔力不足になってた。今は最初以上に苦しんでて、身動きが取れなくなってる。 準備できた術式の媒体は質が悪くて、私もかなり無茶したよ。 もう、私は、放っとくと半日くらいで消えちゃいそうな体調なんだ。201:◆MsSuccubus [sage]:20XX/08/06(火) 18:33:30.43 ID:XXXXXXXXX それから、私が故郷に戻ろうとしない理由も書いておくね。 戻ったところで、『父方の親族(特に実父)に殺されかねないから』なんだ。 母方の親戚が死んでから、放棄できない種類の財産相続で、かなり揉めててね。 今15歳の私が願った進路を、無理矢理諦めさせて、監禁して、孕ませてから殺して、産んだ子の保護者として遺産横取りする算段を父方が立ててた。 絶望的な話だけど、そういう行為は常識外れではあるけれど、あの場所の法には一切触れないから、余計に性質が悪い。 異世界に行ったのは、向こうの技術ですぐ分かる。 戻らなかったら事故死扱いで、相続権は母方の誰かに行く。 私が戻ったら父方の計画が復活して、相続権が私に戻って、相続し損なった母方の誰かからも恨まれる。 私が生きようとする望みを持つ限り、召喚された『この世界』で生きる方法を、探すしかなかったんだ。 P.S 警察の皆さん 私が居る場所が分かっても、魔術陣が光ってるならその光に触れないほうが良いよ。 運が良ければ、光に触った部分が、身体から欠落するだけで済むけど、最悪のケースだと、建物を巻き込みながら、魔術陣が私達の身体ごと爆発四散するよ。 誰も触れなくても、単に術式が失敗しただけで、最悪、爆発になるリスクがあるんだけどね。 逆に言えば、光が完全に無くなれば、結果の如何を問わず、術式自体は完了した事の目印になる。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~午後6時35分 都内 とある雑居ビル 2F「ぁ……」蘭がその時最後に見たのは、自分の胸に向けて血染めの剣を振りかざす、全裸の女の子の姿だった。※4月13日20時50分初出 犯人の書き込みが丸々1レス派手に改行ミスしていたので、投稿後に修正しました。 4月19日 改行ミスが残っていたので修正しました。 2015年5月10日 蘭の持っている端末を携帯からスマホに変更