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No.39800の一覧
[0] 【更新停止】名探偵コナン+まじっく快斗の世界で、ファンタジー世界生まれの犯人が生き足掻く話(オリ主物・安価SSの加筆再構成)[oJG7](2018/05/01 20:41)
[1] 第1部 瀕死で足掻いた彼女の話 プロローグ[oJG7](2016/05/06 23:39)
[2] 第1部 瀕死で足掻いた彼女の話-1[oJG7](2015/02/28 17:18)
[3] 第1部 瀕死で足掻いた彼女の話-2[oJG7](2014/04/29 21:13)
[4] 第1部 瀕死で足掻いた彼女の話-3[oJG7](2015/05/10 20:53)
[5] 第1部 瀕死で足掻いた彼女の話-4[oJG7](2014/04/29 21:12)
[6] 第1部 瀕死で足掻いた彼女の話 エピローグ[oJG7](2014/04/29 21:19)
[7] 第1部終了時点 登場人物まとめ(主要人物編)[oJG7](2016/05/01 12:56)
[8] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話 プロローグ [oJG7](2014/11/22 00:30)
[9] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話-1[oJG7](2015/03/14 23:19)
[10] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話-2[oJG7](2014/11/23 00:11)
[11] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話-3[oJG7](2014/11/23 00:13)
[12] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話-4[oJG7](2015/03/15 20:36)
[13] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話-5[oJG7](2015/03/15 20:37)
[14] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話-6[oJG7](2014/11/25 20:48)
[15] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話-7+登場人物まとめ(被害者家族編)[oJG7](2014/12/07 00:08)
[16] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話-8[oJG7](2014/11/26 20:59)
[17] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話-9[oJG7](2014/11/26 21:01)
[18] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話―10+登場人物まとめ(容疑者編・弁護士編)[oJG7](2015/03/22 21:31)
[19] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話―11[oJG7](2015/03/22 21:33)
[20] 第2部 記憶に悩んだ彼女の話+脅して殺した誰かの話 エピローグ[oJG7](2014/11/30 00:04)
[21] 第2部終了時点 登場人物まとめ(主要人物編)[oJG7](2016/05/02 21:49)
[22] 第3部 足掻くと決めた彼女の話 プロローグ[oJG7](2014/12/07 21:09)
[23] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-1[oJG7](2014/12/21 00:06)
[24] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-2 (※12月29日加筆)[oJG7](2015/04/04 12:17)
[25] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-3 (※1月4日加筆)[oJG7](2015/04/04 12:17)
[26] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-4 (※1月13日加筆)[oJG7](2015/04/06 21:08)
[27] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-5[oJG7](2015/01/31 21:52)
[28] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-6 (※1月27日加筆)[oJG7](2015/01/30 21:52)
[29] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-7 (※2月7日加筆)[oJG7](2015/02/09 21:05)
[30] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-8 (※2月15日加筆)[oJG7](2015/02/28 22:54)
[31] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-9 (※2月26日加筆)[oJG7](2015/02/28 22:30)
[32] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-10 (※3月6日加筆)[oJG7](2015/03/06 23:48)
[33] 第3部 足掻くと決めた彼女の話-エピローグ[oJG7](2015/03/08 21:22)
[34] 第3部終了時点 登場人物まとめ(主要人物編)[oJG7](2016/05/03 11:51)
[35] これまでの出来事 時系列順まとめ[oJG7](2015/05/10 20:54)
[36] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話 プロローグ[oJG7](2016/05/05 20:22)
[37] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-1[oJG7](2016/05/05 20:22)
[38] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-2[oJG7](2016/05/05 20:22)
[39] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-3[oJG7](2016/05/05 20:23)
[40] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-4[oJG7](2016/05/05 20:23)
[41] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-5[oJG7](2016/05/05 20:23)
[42] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-6[oJG7](2016/05/05 20:24)
[43] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-7[oJG7](2016/05/05 20:24)
[44] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-8[oJG7](2016/05/05 20:24)
[45] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-9[oJG7](2016/05/05 20:25)
[46] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-10[oJG7](2016/05/05 20:25)
[47] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-11[oJG7](2016/05/05 20:25)
[48] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-12[oJG7](2016/05/05 20:26)
[49] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-13[oJG7](2016/05/05 20:26)
[50] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-14[oJG7](2016/05/05 20:26)
[51] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-15[oJG7](2016/05/05 20:27)
[52] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話ー16[oJG7](2016/05/05 20:27)
[53] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-17[oJG7](2016/05/05 20:27)
[54] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-18[oJG7](2016/05/05 20:27)
[55] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話 エピローグ[oJG7](2016/05/05 20:28)
[56] 第4部終了時点 登場人物まとめ(主要人物編)[oJG7](2016/05/05 20:21)
[57] 番外編 IF 和葉が、ファンタジーな犯人の事件に巻き込まれる話[oJG7](2016/04/10 16:39)
[58] 第5部 考え願って足掻き抜いた、あるじと彼女と誰かの話 プロローグ[oJG7](2016/05/16 21:21)
[59] 第5部 考え願って足掻き抜いた、あるじと彼女と誰かの話-1(※6月11日加筆)[oJG7](2016/06/11 23:16)
[60] 第5部 考え願って足掻き抜いた、あるじと彼女と誰かの話-2[oJG7](2016/09/04 21:03)
[83] 第5部 考え願って足掻き抜いた、あるじと彼女と誰かの話-3[oJG7](2018/05/01 20:42)
[84] 番外編 サキュバスの手記 官吏アポリアの物語1~3 はじめに/暴発事件のこと/事件処理のこと[oJG7](2018/04/27 23:04)
[85] 番外編 サキュバスの手記 官吏アポリアの物語4~6 「広場の月番」のこと/剣と詠唱のこと/剣の行方のこと[oJG7](2018/04/27 23:30)
[86] 番外編 サキュバスの手記 官吏アポリアの物語7~9 縁談のこと/親戚関係のこと/告白のこと[oJG7](2018/04/28 08:57)
[87] 番外編 サキュバスの手記 官吏アポリアの物語10~12 誓いのこと/指令のこと/司法府長のこと[oJG7](2018/04/28 23:37)
[88] 番外編 サキュバスの手記 官吏アポリアの物語13~15 告示のこと/生まれた場所のこと/官吏という職のこと+更新一時停止のお知らせ[oJG7](2018/05/01 20:43)
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[39800] 第4部 罪に染めた/染まった彼女の話+死に掛けそうな誰かの話-1
Name: oJG7◆2c7b4d3c ID:d3ebd74d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/05/05 20:22
8月20日 午前8時 鈴木邸 園子の部屋

RRR RRR……

鈴木財閥の令嬢、鈴木 園子の自室に置いてある電話機は、滅多に鳴らない。
使用人達が内線で用事を伝えてくることはほぼ無く、友人も家族も、用事がある時は、家の電話ではなく園子のスマホに掛けて来るからだ。
そんなこんなで普段そう使わない電話機が、突然、鳴った。部屋の主である園子が、机に向かって夏休みの課題を解いている真っ最中に。
この着信音を聞いたのは、いつ以来だろう? 携帯電話も持ってない子どもの頃、外との電話でよく使ってたっけ、……なんて考えながら、園子は立ち上がって、受話器を取った。

「はーい、もしもし~?」

ま、誰が掛けてきたにしても、ただ受話器を取っただけの今の段階では、あらたまる必要はない。
ここの電話機を鳴らせるのは、同じ自宅の中の者、つまり家族か使用人に限られる。外部からの通話であったとしても、使用人の取り次ぎというワンクッションが必ず有る。

「園子お嬢様に、高校の同じクラスのかたからお電話です。お話しされますか? ……毛利 蘭さん、とおっしゃっておられますが」

受話器から聞こえてきたのは、若い男性使用人の声。若干訝しげに感じているのを隠そうとはしない口調だ。
園子にしてみれば、電話してきた相手は『高校の同じクラスのかた』どころの存在ではないのだが。……かといって、彼の説明は責めるようなものでもないだろう。
親しい友人なら、スマホの番号を知っているはず。そちらではなく鈴木家の固定電話に掛けてくる時点で、ある程度疎遠な仲の同級生、との推測が自然に付いてしまうのだ。

「え!? ……話すわ、回して!」「……は、はい!」

だから使用人にとっては、園子の反応は予想外の食らいつき方だったろう。
電話を掛けてきた相手は、園子にとって掛け替えのない大親友。もちろん今どきの女子高生として、互いのスマホの番号を知っている仲だ。
……けれど、わざわざ家の電話に掛けてきたこと、その程度の不自然さは吹き飛んでしまう、そんな事情がある。

蘭は、今月上旬のある日から、ぷっつりと園子との連絡を絶っていた。
いつものように蘭のスマホに電話を掛けたら、誰も出なかった、のが最初。
その時騒ぎになっていた異世界人の大ニュースが頭をよぎりつつ、蘭の家に居候しているガキンチョのスマホに電話して、蘭が出ない理由を訊いた。
あの子は言葉を濁し、「どこまで僕が教えていいか分からないから、一旦切って、後で掛けるね」と告げて通話を切断。
20分ほど後にガキンチョのスマホから掛かってきた電話は、探偵である蘭の父親からだった。

――蘭の両親の間で『何か』があった。何があったのか、詳しい事情は園子にも話せない。
  とにもかくにも、蘭は、母親の元に身を寄せた。
  蘭は、父親と離れたがっているどころか、東京そのものから離れたがっている。
  友人関係も絶って、高校も退学するかもしれない……。

嘘とごまかしの臭いがプンプンするその説明は、園子の心をひどく打ちのめした。
辛うじて、蘭は、お別れの言葉すら言えそうにない状況なのか尋ねた。返ってきた答えは「これからの蘭次第。友達と話せるような余裕が出来るか、分からない」。

……納得できなかった。納得できるはずがなかった。
でも、本当にそんな事情なら(あるいは告げられた事情が嘘であったとしても)、この父親から根掘り葉掘り聞き出そうとすること自体、かなり非常識な行為になる。
それくらいは弁えていたから、園子は、その時は沈黙するしかなかったのだった。

そんな現状で、突然掛かってきた、蘭からの電話。出ないという選択を選ぶはずがない。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

8月20日 午前8時2分 米花公園 公衆電話ボックス

使用人さんと思われる男性の案内の後、通話を切り替える音がした。
公衆電話の受話器を握る『自分』の手に汗がにじむのも、『自分』の胸がドキドキするのも、きっと暑さのせいだけでは無い。
出来るだけ頭を落ち着かせて、『蘭』の声を出す。

「もしもし? 園子?」「!! 蘭! 話したかったよぉ……!! 今、どこに居るの?」

電話の向こうで、まず『蘭』の親友は息を呑んだ。それから、勢い良く言葉が飛び出して来る。
もし目の前に居たらそのまま抱き着いてきそうな、弾んだ声。実に園子らしい喋り方だ。
懐かしさに、『自分』の顔に笑みが浮かんだ。今ここで必要な『蘭』の声が、自然に『自分』の口から連なっていく。

「……久しぶりだねぇ、園子。今は、家じゃないところに居るの。どこなのかは話せないけれど。
 そっちの家の電話に掛けて来て、ビックリしたでしょう? スマホが手元に無いから、電話帳の家の番号を調べたんだけど。朝早くに迷惑じゃなかった?」

場所の問いかけには曖昧に誤魔化して、嘘でない内容の言葉を重ねた。
鈴木家の豪邸の場所は元々知っている。その場所と住宅地図を組み合わせれば、番地が分かる。『蘭』は園子の父の名前も知っていた。
で、市販の電話帳には、世帯主の名前と、家の番地が載っている。
……かくして、固定電話の番号ならば、魔術を一切使わずに判ったのだった。魔力の無駄使いを回避出来たから、鈴木家が電話帳に番号を載せてる家で良かった、と評すべきだろう。

「ぅうん! 迷惑なんかじゃないよ。私は起きてたし、使用人は電話を取り次ぐのが仕事だし」

こちらの言葉に、あっけらかんとした答えが返ってくる。
本当に気にしていないようだ。園子にとっては、『蘭』が電話をしてきたことが嬉しくてたまらないのだろう、……と、思う。

「そう。それなら良かった。
 ところで、……私の事情について、コナン君やお父さんから、話を聞いたりしたんでしょう? 誰から、どんな風に聞いてる?」

『蘭』として不自然でない話の持って行き方で、『蘭』の声で問う。
『サキュバス』としても『蘭』としても、一応、話の取っ掛かりとして、確認すべきことだった。

あの『サキュバス』と『蘭』が融合した日、融合魔術が続行中のまさにその時。園子は、コナンのスマホに電話を掛けてきたらしい。
『蘭』のスマホに連絡が付かない理由を園子から尋ねられ、あの探偵くんは、詳細な説明を一旦保留した。
その場で『蘭』の両親が、園子への対応を協議。……『実の娘』が『殺人犯』と融合している、という事実は伏せられた。
代わりに、『蘭』の両親間のトラブルと、それで父親から離れたがる『娘』、という構図がでっち上げられたそうな。

「えっとね、蘭のお父さんから話を聞いたんだけど、……蘭のお父さんとお母さんの間で、何かがあった、って。
 それで、蘭はお父さんから離れたいどころか、東京からもすごく離れたがっていて、高校も退学するかもしれない、って。
 あ、あと、高校の友達と話せる余裕が出来るかどうかも分からない、って言われたわ」

警察病院で覚醒し、『蘭』の両親から説明を受けた時、実の『娘』が爆発四散するかもしれない状況で、よくそんな内容を思いついたなぁ、……と、『蘭』の家族に妙に感心したものだった。
探偵2人と弁護士1人、職業上当然かもしれないが、よくもまぁ頭が回ったものだ。

とてもとても都合がいいことに、頭が回る家族がでっち上げた虚構は、今の『自分』に極めて役立つ方向で作用している。
この嘘の説明を、『自分』があえて否定する必要性はどこにもない。

「……その説明に、私から付け加えることは無いかなぁ。
 申し訳ないけど、あまり思い出したくない事だから、それ以上の説明はちょっと無しにさせて」

「うん。……分かった」

一度もうこんな風に言ってしまえば、『蘭』の両親に何があったのか、園子はもう追求してこない。
親友だから分かる。それくらいの気遣いは出来る女の子だ。
そして『自分』は、……『私』は、その、人の良さに甘えて大親友の事実認識を誘導しようとしている。事実とは違う形に。

「私ね、たぶん高校も近いうちに退学すると思う。先生から、私のことで説明は有った? 変な噂とか流れてない?」

実は、この質問が、高校の様子を訊くこの質問こそが、『自分』が一番確認しておきたかった問いだった。
園子は一瞬口ごもる。……反射的に軽く身構えた『自分』に示されるのは、心配していた事とは違う方向の、困惑。

「あー、うん。変な噂と言うか、……空手部の子達には、練習の日に、顧問の先生から説明があったみたいだね。
 『御両親の離婚問題のトラブルで、毛利はしばらく休む』って、先生、ハッキリ言ったんだって。
 ……そんな事、バラされて良かったの? その話、登校日にはクラス中に広まってたよ」

――何だ、そっちか。
確かに常識的に考えて、そこは『家庭の事情』くらいにぼかして説明するところ。デリケートな事柄を他の生徒に明かす行為は好ましくない。
……とはいえ、『蘭』の件に限っては特異事例として許容されるだろう。顧問は両親の意に沿おうとしただけ、だ。

これから喋る言葉を、瞬時に頭の中で組み上げて、考えて。
……受話器を握って立つ姿勢はそのままに、目を閉じた。
普段、園子と喋っていた時の会話を思い出す。たまたま『親の離婚問題で東京を去る女子高生』の声を出すように意識する。

「確か、……私のお母さんも、お父さんも、『先生に許可を出した』って言ってたよ。特に空手部のみんなには、事情をそう話すように希望したんだって。
 女子高生が人格を巻き込まれる、変な事件が最近あったでしょ? その事件と同じ日に、『私』はみんなと連絡取らなくなったから、事件に絡めた噂が立っても不思議じゃない、って、お母さん達は思ったみたい。
 えーっと……、お母さんは結構心配してたんだけど、そういう噂とか、本当に大丈夫?」

この、両親の振る舞いに関する説明には、虚偽は無い。
『蘭』は、ただ両親のトラブルが原因で高校を休んでいる。……そんな説明が、園子だけでなく、空手部に、ひいては高校内に定着するよう希望したのは両親だ。
但しその嘘に乗っかり、事件とは無関係に振る舞う『自分』の喋りは、我ながら白々しい。

言い切ってからゆっくりと目を開き、相手の反応を伺う。
今の言葉、変には思われなかったらしい。園子は『こちら』の心の葛藤に全く気付いておらず、合点しきった強い声を、電話の『相手』に向けた。

「なるほどねー。そっちの親が心配している方向での、そういう噂は流れてないよ。
 もし、これから学校でそんな事を言い触らすヤツが出たら、……私、思いっきり反論してあげるからね!」

――あぁ、苦しいなぁ、これは。
励ましのつもりであろう言葉はグッサリと胸に突き刺さった。
他の生徒に食って掛かる園子の様子が頭に浮かぶ。『蘭』の罪悪感が激しく揺さぶられる。

だが、今不審に思われるのは、結果として『蘭』自身に不幸な結果を呼びかねない。
長時間の会話はメンタル的にとても無理。違和感が無い程度に会話を短縮させて、切り上げるのが上策か。変に思われないために、雑談を一言か二言入れて。
……電話が終わるまでの辛抱だ。懸命に『己』の心を叱咤し、溜息を堪え、……鼻から息を吐き、唾を呑む。
そうしてから出せた感謝の言葉は、『自分』でも意外なくらい落ち着いていた。

「……ありがとう。園子みたいな親友が居て、本当に良かった。
 ところで今日電話したのは、その事の確認もあるけれど、それだけじゃなくて。……お別れだから、挨拶しようと思ったんだ。
 私、高校には戻らないと思うし、これから園子と会うことも無さそうだから」

「そうなんだ……」

もう会えないという予測を聞かされても、相手から驚きや反発は最早無い。残念さと納得の入り混じった感傷だけが有る。
幼い頃からの大親友との別れだから、本当に無念だろう。無念だろうが、園子の力ではどうしようもないことだと、理解もしているはず。
……互いの感傷が終わらない内に、心の内から湧き上がってきた一言を『こちら』から言う。

「園子と私、10年以上一緒だったよね。保育園の頃からだもん」

『蘭』は覚えている。むしろ忘れるはずがないし、今後また人格が変化したとしても絶対に忘れたくない。
保育園で、小学校で、中学校で、高校で、……これまでの人生でずっと一緒だった大親友の、大切な記憶だ。

「そうだねぇ。……ねえ、蘭。……離れていてもさ、これからも、私と親友で居てくれるのかな?」

返事は決まっている。『蘭』ならば否定するはずがない質問。
声だけでなく実際に頷いてしまいながら、……『自分』のメンタル状態のマズさを悟る。いい加減に通話を終わらせないとキツい。

「もちろん! 園子とはずっと親友だよ。
 ……ごめん園子、慌ただしくて申し訳ないけれど、あまり長い時間話せないんだ。目一杯喋りたかったんだけど。……またいつか会えると良いね」

高校はおそらく退学する、もう会えないかもしれない、やっと掛かってきた電話は長時間喋れない。
……両親の離婚問題だけでなく、もっとややこしい事情があるように思われるかもしれない。でも、園子に色々と想像されるのは悪くない。
今後電話すら一切無かったとしても、『事情があって電話も無理なんだろう』と、勝手に納得してくれるだろうから。

「あー、……そうなんだ、じゃあ仕方ないね。蘭、いつか会おうね」

予想通り『こちら』の言葉を受け容れてそう言ってきた親友に、『蘭』の声を出す。
再会する確率はかなり低いと思うけれども、それでも最後は、再会を期する言葉が良い。

「うん、また会えるといいね。園子。……バイバイ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

8月20日 午前8時14分 米花公園 公衆電話ボックス

『彼女』は、受話器を静かに電話機に戻した。
ジャラジャラとお釣りが戻ってくる音を聞きつつ、電話機に思い切り手を付いて、……深々とした溜息が、その口から出る。
長めの溜息が終わるのを見計らって、紅子は『彼女』に言った。

「想像以上に精神的にキツかったみたいね。大丈夫?」

返答は無言の頷きだったが、紅子の目には大丈夫そうには見えない。
召喚した者・された者の繋がりとして、互いの心の動きは、魔力を使わずともある程度検知できる。
遠距離なら視えなくなるが、今は狭い場所に2人きりだ。『彼女』がどれくらい苦しみながら通話したのか、後ろに立っていた紅子にはハッキリと判っていた。

『彼女』と紅子は、共に、米花公園内の公衆電話ボックスの中に居る。
公衆電話ボックスのガラスには、人避けと視線避けの魔術の符をベタベタと貼りまくっており、2人に視線を向けてくる輩は今のところゼロ。
そもそも公園の出入口に人避けの符を巡らせているから、ボックスの周辺には人間自体が居ない。

魔術の符をふんだんに使っているのは、当然、不審者として通報されるのを避けるため。
『彼女』は、黒いワンピースの上に薄灰色のローブを羽織った姿。紅子は、黒い長袖長ズボンの上に濃灰色のローブと仮面のいつもの姿。
ローブを着た成人体型の者が、2人で電話ボックスを占拠しているだけでもおかしいのに、その内1人は仮面で顔を隠しているのだ。対策を取らないと速攻で警察が来てしまう。

「『貴女』、とても大丈夫に見えないんだけど。……次の電話の前に少し休みましょうか」

電話機に手を付いて数十秒ほど俯いたままの『彼女』に、紅子は提案する。――ひょっとしたら、鈴木 園子への通話は失敗だったかもしれない、と思いつつ。
さっきの通話は、先日、探偵くん、……江戸川 コナン/工藤 新一に会いに行ったのと同じで、『蘭』の罪悪感をどうにかするための方策だったのだ。
だが結果は逆効果。『蘭』の声で延々喋り続けるのは、予想以上に精神面の負担が大きい。『サキュバス』の声ならそうでも無いのだろうが。

紅子の目の前で、『彼女』は吹っ切るように短く息を吐いた。俯いていた顔を上げて、こちらを真っ直ぐに見る。

「……いえ、Reune(あるじ)、休むと却って苦しくなると思うので。顔を拭いたら、電話します」

「そう……」

ここまで強く言い切ったなら、もう『彼女』が言うようにさせるしかない。
でも、足元に置いたクーラーボックスから濡れタオルを出して、強く顔を拭く『彼女』を眺めながら、……本当に大丈夫だろうか、と、紅子は思う。

これから電話するのは米花町内の酒屋。
先ほどとは異なり、友人相手に話すための通話ではない。顔見知りの子どもを連れ去って人質にするための、おびき出すための通話なのだ。


※5月10日 初出
 5月17日 後半部を加筆しました

 人の心の揺れ動きを書くのは、難しくて時間が掛かるけども楽しいです。更に、読者の方から見て読みやすければなお良いんでしょうが。……どうでしょうか。
 それと、この話はどこまでを1話にしようか迷って、若干文字数が多めになりました。次の話は酒屋さんとの通話です。


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