藤堂夏樹は幼い頃、くねくねに出会ったことがある。。
だけど、これからもきっと、そのことは誰にも言わないだろう。
◆
藤堂夏樹が現在住む兵庫県葛野市に引っ越してきた翌日、探検がてらに外で遊んでいる途中倒れてしまった。それを発見した家族は慌てて病院に駆け込むも異常はなし。原因不明、しかし意識の異常は確かに在る。
「なニガ変なもノを見だ」
倒れた夏樹はうわ言のようにそう呟いていたという。
それから一週間の後、何の前触れもなく夏樹は元に戻った。
両親は大層喜んだが、精神に異常をきたしていたと言われても覚えていないのだから彼自身には何の感慨もなかった。
ただ夏樹は、この記憶にない異常に今でも感謝している。
なニガ変なもノを見だ、そう呟き続ける夏樹の隣には引っ越したばかりで殆ど面識がなかったであろう女の子が付いていてくれたと聞いた。
彼女こそが“根来音久美子”(ねくね・くみこ)。
今も隣にいてくれる、大切な幼馴染にして親友だった。
◆
「塩サバってやばいよな」
夏樹は家で朝食を食べながら、そんなことを呟いた。
今日の朝のおかずは小さな塩サバの切り身。夏樹の大好物である。基本的に青魚は好きだが、その中でもサバは群を抜いている。塩サバなんていくらでもご飯が食べられてしまう危険な代物だった。
「朝から食べすぎたらダメだよー」
「おう、分かってる。というか妹よ。取り敢えず俺の背中から離れようか」
「えー、おにぃの後ろは私の居場所なのにー」
後ろから抱き付いていた妹を無理矢理引き離し、朝食を続ける
二つ下の妹の里香(りか)は生意気盛り(何故か兄には従順)の中学三年生。来年は夏樹の通う戻川高校を受験するらしい。理由は「おにぃの後ろにいたいから」。え、なにそのストーカー発言怖いんですけど、とは思っていても口にしないのが兄の優しさであった。
「まあ、懐いてくれるのは嬉しくない訳じゃないんだけどなぁ。あ、おかわりね」
「ぽぽぽぉ」
夏樹が茶碗を差し出すと、黒いドレスを纏った長身の美女がそっと優しく受け取りご飯をよそう。
今両親は旅行に行っていて、家には夏樹と里香しかいない。
二人とも食事を作れない為しばらくはコンビニだなぁと話していた所、夏樹の友人の女の子が食事を作りに来てくれているのだ。
朝食を食べ終え、お茶を啜っているとそろそろ投稿する時間になった。夏樹はもう一度背中に引っ付いていた妹を引き離し、玄関へ向かう。すると台所にいた女の子が小さな包みを渡してくれた。
「ぽぽ」
「あ、お弁当? さんきゅな」
朝から来てくれるだけでなく、昼のお弁当まで作ってくれるのだから、足を向けて寝られないとはまさにこのことである。妹は最初、長身過ぎる彼女を怖がっていたが、今では胃袋をしっかりつかまれて結構仲良しだ。里香も弁当を受け取り、にっかりと笑顔で答える。
「はっちゃん、ありがとー」
「はっちゃん?」
「いつまでも様付けじゃ味気ないでしょ?」
趣のある長身美女も、里香にかかれば「はっちゃん」である。
こういうところ、純粋に凄いなぁと感心してしまう。人懐っこいというのは一つの才能だとしみじみ思う夏樹であった。
」
里香の通う中学は戻川高校とは逆の為、登校はいつも通り久美子と二人になる。
「なっき、いこっか?」
「おーう」
二人並んで歩く道は、何でもないのに楽しい。
登下校はいつも一緒。学校について、教室に入っても隣同士で、休み時間も大抵馬鹿話をしている。
「なっきはどんなジョセフが好き?」
授業合間の休み時間に、久美子がそんなことを言ってきた。
「なにその雑な話題の振り方」
「いやー今までずっとジョセフって言ったら老人でペテン師で茨だったけど、マッチョで一位で残念イケメンがここ最近ぐんぐん上位にきちゃってさ」
下らない話だ。毎日一緒にいるから話題が尽きることもある。
そんな時は二人とも喋らずだらっとして、時折視線が合うとくすりと笑う。何も言わなくても気まずくならない、そういう距離感が心地好かった。
思えば七歳の時、葛野市に引っ越してきてから、ずっと久美子と一緒にいるような気がする。
「あー、確かに。早くバタフライエフェクト使ってほしいな。ちなみに俺はミリしらだ」
「ないわー」
「なんだとこんにゃろう。最高じゃねーかノリと勢いで全てをなしちゃう辺り」
いや、“気がする”のではなく事実ずっと一緒にいた。
夏樹にとって久美子は幼なじみで、一番の親友で、或いは自分の一部で在るかもしれないと思えるような相手で。
「なんか、不思議だよなーお前ら二人って」
───だから、それが不思議だなんて、友人から指摘されるまで考えたこともなかった。
休み時間いつものようにくだらない話で盛り上がっていた二人に、クラスメイトの寺井明生(てらい・あきお)はそう言った。
夏樹も久美子も、明生に「二人の関係は不思議だ」と指摘され、意味が分からずきょとんとしていた。
「なにが?」
「なにが?」
思わず聞き返した。夏樹にとって、そしておそらく久美子にとっても、二人一緒にいることは当たり前だった。何が不思議なのか、本当に分からなかった。
「なにがって、根来音さん可愛いし人気あるからな。なんで夏樹がいつも一緒にいるんだって、多分うちの学校の男子はみんな思ってるぞ?」
そう言われても、どんな返答をすればいいのか。
久美子の方に目配せすると、彼女も困ったようにこちらを見ていて視線がかち合う。
「ううん、なっきの方が可愛いし」
「いやー照れるな」
「俺の前でいちゃつくんじゃねーよ畜生」
ついでにちょっとふざけてみたら割合本気で怒られた。
しかし不思議と言われても、うまい答えは出てこない。
「なんでって言われてもなぁ。みことは幼馴染だからとしか言いようがない」
「だよねぇ」
うんうんと二人して頷くが、その動作も明生にとっては不思議らしく、更に言葉を続けてくる。
「というか高校生にもなって幼馴染だから一緒にいるってのが俺らには分からないんだって。だってさ、根来音さんは可愛いから寄ってくる男なんていくらでもいるだろうし、夏樹は夏樹でちゃんと他の交友関係はあるだろ? なのに、男女で付き合ってもないのにいつも一緒にいるってのは、周りから見れば不思議なんだよ」
それは、と反論しようとして丁度チャイムが鳴り、明生は自分の席に帰っていった。
残されたのは席が隣同士の夏樹と久美子だけ。
なにか釈然としない心持で夏樹は改めて久美子の顔を見る。
成程、可愛い。決して目立つ目鼻立ちではないが、色白で色素の薄い茶の髪を肩にかかるくらいで整えた彼女は、確かに可愛い。
体を見れば、均整の取れたスタイル。クラスの男子から人気があると言うのも分かる。
そう考えると確かに明生の言っていることは間違いじゃないと思う。
久美子なら男が放っておかないだろうし、そいつが彼氏でないとしても夏樹よりレベルが高くて気の合う奴ならそっちを優先するのが当然だ。幼なじみだからといって、高校になってまで仲がいいというのは珍しいことなのかもしれない。
夏樹よりも格好いい奴、頭がいい奴、運動が出来る奴はいくらでもいる。
その中で、何故彼女はずっと一緒にいてくれたのだろう。
「なー、みこ」
「ん、なに?」
「みこはさ、なんで俺と一緒にいてくれるんだ?」
湧き上がる純粋な疑問をすぐさまぶつける。
すると、何故か久美子は笑った。
「あんたがそういうことを聞けちゃうような馬鹿だからじゃない?」
いきなり馬鹿と言われて、思わず呆気にとられた。
そんな彼がおかしかったのか、彼女は更に笑い、そして優しげな眼差しで夏樹を見た。
「私は多分、あんたが馬鹿だから、一緒にいたいって思ったの」
その遣り取りに、遠い昔を思い出す。
ああ、そうだ。
昔、夏樹がよく分からない精神異常から立ち直った後、傍にいてくれた久美子に同じことを言った。
そして返ってきた言葉も同じ。
彼女は昔も、夏樹が馬鹿だから傍にいたのだと笑った。
だから夏樹は馬鹿もそんなに悪くないかな、なんて思いながら眠ったのだ。
「もっと言うなら、どんなに格好良くても、頭が良くても、運動が出来てもそいつはなっきじゃないからね」
「そっか」
「うん、そうそう。気にしないの、私は幼馴染だから一緒にいたんじゃなくて、なっきだから一緒にいたの」
その言葉が嬉しくて、へへっ、と二人して軽く笑い合う。
それから授業が始まるまでの間、夏樹と久美子は何も言わず、ただ穏やかにお互いを眺めていた。
◆
くねくねは2003年頃よりインターネット上で語られるようになった都市伝説である。
絶対に会いたくない都市伝説四天王に数えられることも多いが、今尚くねくねの正体は分かっていない。
案山子や蛇神といった農村部の土着信仰や古来伝わる妖怪と関連付ける説やドッペルゲンガーの一種とする説、幻覚説、自然現象の誤認説など、様々な説が挙げられている。
またくねくねの正体は「自分」である、という説も存在する。
とは言え、全て“そういう話もある”程度の仮説でしかなかった。
ここまで流布され、恐怖を謳われる怪談ではあるが、くねくねという物語の構造自体は決して珍しいものではない。
くねくねの怪奇譚の要点は以下である。
・白色(あるいは黒色)の何かが人間とはかけ離れた動きで体をくねらせる。
・くねくねを遠くから眺める程度では問題は無いが、詳細が判る程に見つめて、それが何であるかを理解すると精神に異常を来たす。
見るだけで発狂する。
対策を打つことの出来ない恐怖がこの物語の伝播を促進したのだろう。
ただ、くねくねという存在は、それ以上でも以下でもない。
あくまでも怪奇譚の中の、“人を壊す舞台装置”でしかないのだ。
例えば、八尺様は「地蔵に封印されていたが、地蔵が壊された為」全国に出るようになった。
例えばメリーさんの電話は「捨てられた人形」が持ち主の元に戻ってくる。
例えば、怪人アンサーは「特定の儀式を用いることで」携帯電話で会話が可能になり、「元々は奇形児」だから体のパーツを求めている。
しかしくねくねは違う。
くねくねは急に現れ、人を発狂させて消えていく。
其処には理由がない。泡のように浮かんで消えていくだけだ。
意味もなく意義もなく経緯を辿らず原因を持たず、ただ不思議な存在が何らかの現象を引き起こす。
それがくねくねという物語。
即ちくねくねは、話の類型としては“エブリデイ・マジック”に近しいものと言える。
エブリデイ・マジックは日常に不思議が混じる形態の話を指す。
話の筋書きとしては、日常生活の中、ふとしたことで普通ではないものと遭遇し、なんらかの不思議な現象が起こするもの。
或いは普通の人間と妖精・小人・魔女・宇宙人・動物などが共存する社会を描くものなどがある。
前者は森の獣道の先は不思議な場所に繋がっている。鏡の中には別の世界がある。古い家にはまっくろくろすけが住んでいるなど。
後者は普通の人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、超能力者がいたら、わたし のところに来なさい。以上。である。
特に理由はなくても、“そういうもの”として怪異の存在が話の中核となっているのがエブリデイマジックだ。
この観点から見れば、原因を持たない怪奇と遭遇し、結果災厄に見舞われるくねくねという話は典型的な前者と言えるだろう。
ところで、エブリデイマジックには、一つ重要な特徴がある。
それは「不思議に近付きすぎたものは帰って来れなくなる」という点だ。
古事記において、イザナミノミコトは黄泉の国の食べ物を食べることで黄泉の国の住人となった。
異界の食べ物を口にすることは、その世界を深く知ること。
異界の理を知ることは、同時に異界の住人に為ることでもある。
不思議なことを理解できてしまった時点でその人は不思議の世界の側に立っていることになる。こうなると、もうその人は普通の世界に帰れない。ウェンディはピーターパンを知り過ぎたが為に、不思議の世界の住人に為ってしまうのだ(もっともこの場合は、ピーターパン自身が現実世界に帰れるよう手はずを整えてくれるが)。
この点も、くねくねは踏襲している。
くねくねの話に存在する、「くねくねを見て発狂したものはくねくねになる」とはそういう意味だ。
“くねくねを見ると発狂する”というより、“くねくね側の存在になってしまった”と表現する方がより正確だと言えるだろう。
つまり端的に言えば、くねくねとはエブリデイマジックにおける非日常の象徴、即ち“理外の存在”だ。
異世界の理を持つが故に、誰にも見えない白の怪異。
くねくねの姿がはっきりせず、「しろいなにかがくねくねしている」ように見えるのは、見る者がそれを理解出来ていないから。
だから、くねくねが何であるかという議論は少しばかりずれている。
くねくねの正体が何であれ然程問題はない。くねくねはそもそもこの世界に存在しないものであり、“だからこそ”それ=異界の理を理解した時、人は狂うのだから。
さて、ここで疑問が一つ。
もしもくねくねがこの世界に存在しないのだとすれば。
人がそれを理解できないが故に、「白い何かがくねくねしている」ように見えるのならば。
本当の“そいつ”は一体どんな姿をしているのだろう?
◆
藤堂夏樹は幼い頃、くねくねに出会ったことがある。
だけど、これからもきっと、そのことは誰にも言わないだろう。
覚えていないなんて大嘘だ。
誰にも言いたくないから、そう言っただけ。
子供の頃、葛野市に引っ越してきた翌日、夏樹は日が暮れるまで遊んでいた。
そろそろ帰らないと。急いで家路を辿り、曲がり角を曲がった時、彼は見た。
人くらいの大きさの白い何かが、くねくねと動いている。
ぼやけて、にじんで、くねくねくねくね。
なにかは分からない。当然だ。当時の彼はくねくねなんて話を知らない。
だからそれは不思議なものではあっても、怖いものではなかった。
そして残念なことに、夏樹は基本的に好奇心が旺盛で、我慢を知らない馬鹿だった。
不思議なそれを、きっと面白いものだと思い、走り寄って。
『なあなあ、あんたなに?』
笑顔で、そんなことを言ってしまった。
その距離まで近づいて無事で済む訳がない。彼はくねくねを見て、おぼろげにそれを理解し、そして誰かの姿になったと思った瞬間。脳が。破裂し。
───そこで意識は途絶える。
再び目を覚ました時、夏樹は自室のベッドで寝ていた。
一週間も寝たままだったため、体は上手く動かない。けれど手に暖かさを感じて、夏樹はそちらに目を向けた。
『起きた……?』
知らない、女の子だった。
柔らかく微笑む彼女は本当に可愛らしくて、触れた手が優しくて、どぎまぎしたことを覚えている。
『えっと、君、誰?』
『ねくね、くみこ。隣に住んでるの』
嘘だとすぐに分かった。だって、昨日までそこは誰も住んでいなかったのだから。
でもどうでもよかった。どうでもよくなるくらい、彼女の手は暖かかった。
しばらくすると母が部屋にやってきて、泣いて夏樹の目覚めを喜んだ。その日はそれでお開きになり、翌日から夏樹と久美子の交友が始まった。
後になって聞いた話だが、久美子は眠っていた間ずっとお見舞いに来ていてくれたらしい。面識のない彼女が何故そんなことをしてくれたのか、夏樹には分からなかった。
『なあ、みこ』
ある日、夏樹は久美子に問うた。
『んー?』
『なんでさ、俺のお見舞いに来てくれてたの? あの時初対面だったよな?』
『ううん、一回だけ会ったよ』
「そっか。でも、一回だけ会った相手なのに、なんで? なんでみこは俺と一緒にいてくれるんだ?」
久美子はその問いを咀嚼し飲み込んで、幼さに似合わぬ大人びた横顔で遠くを眺めていた。
『なっきが笑ってくれたから』
『へ?』
『だって初めてだったもん。私にそうやって笑いかけて、“あんたなに?”なんて聞いてくる馬鹿な奴』
それも一瞬だけのこと、久美子は満面の笑みで言った。
『私は多分、あんたが馬鹿だから、一緒にいたいって思ったの』
その想いがあったから、彼女は“根来音久美子”になったのだ。
大きくなって、子供の頃のことを思い返して、彼女の正体がなんであるかは夏樹にも薄々見当がついていた。
けれど、夏樹は今でもこう思っている。
俺は昔、くねくねを見たことがある。
だけど、これからもきっと、そのことは誰にも言わないだろう。
鶴の恩返しと同じだ。彼女の正体が分かった時点で、彼女が居なくなってしまうような気がした。
だから夏樹は何も語らないし、何も聞かない。
くねくねは未だに、正体不明の怪談のままだ。
「なっき、帰ろー」
「おーう」
そうして、そんなこんなで続けてきた二人の関係は、やっぱり今も続いている。
今日も二人で一緒に下校。周りの視線も気にならない。それくらい、お互い一緒にいるのが当たり前だった、
「でさぁ、最近はあの娘が毎日飯を作りに来てくれるんだよ」
「仮にも一番親しい女の子に話す内容じゃないよねそれ。ぐぬぬ、ちょっと料理が上手いからって……!」
エブリデイマジックとは日常の中でふとした瞬間に遭遇する不思議。そして、不思議に遭遇するのは子供である場合が殆どだ。
座敷童が大人には見えないように。
不思議の国に迷い込むのが少女であるように。
ネバーランドに誘われるのが、子供だけであるように。
幼いが故の純真さこそ、日常に紛れた不思議に気付く力だ。
そして異世界に渡ってしまった者が無事でいる為に必要な要素も、エブリデイマジックは語っている。
ファンタジーの世界に行ける子供は何時だって純真で、帰ってくる時は少しだけ大人になっている。
『邪心のない、無垢な心であること』
『帰りを待っていてくれる人がいること』
『そしていつか、過ぎ去った子供の頃を懐かしめる大人になること』
大人になっていく自分を受け入れられる邪心のない人間は、エブリデイマジックに巻き込まれても自分の世界に戻ってくることが出来る。
もしも貴方がくねくねに会って、発狂せずにいられたのなら、それは誇ってもいいことだ。
それは貴方が純粋で、今までちゃんと地に足をつけて生きてこられた証拠だから。
「お前料理下手だもんなぁ。美少女は料理が殺人的に下手っていう都市伝説は真実だったか」
「なっき、わんもあぷりーず」
「え? お前料理下手だもんなぁ?」
「その後その後」
「美少女は料理が殺人的に下手っていう都市伝説?」
「最初のところをもう一回!」
「えーと、美少女」
「うんうん、よろしい」
ちなみに、現代の若者にとって馴染みの深いエブリデイマジックをご存じだろうか?
一つは、ふとした偶然で異世界に迷い込み冒険する物語、いわゆる“異世界召喚物”と呼ばれるストーリーだ。
そしてもう一つは、ある日突然不思議な美少女が目の前に現れ、同居することになってえっちいハプニングが沢山起こっちゃう物語。
空から女の子が振ってきた、というテンプレから一つのカテゴリーに変化した、“落ちもの”と呼ばれるラブコメである。
だから、もしもくねくねを現代版のエブリデイマジックとするならば。
その正体が美少女であることは、案外当然の成り行きなのかもしれない。
「何がしたいんだお前は」
「へへへ、なっきは分かんなくていいのー」
補足すると、エブリデイマジックは、作品の主題によっては異類婚姻譚と一部共通する性質を持つこともある。
そしてくねくねの正体の一つとして語られた蛇神は大抵女性で、説話によっては人間の男と結婚するものもある。
それが何を意味するかは分からないし、彼等のこれからがどうなるかも誰も知らない。
ただ一つだけ言えるのは、彼等はきっとこれからも一緒にいるだろう。
「今のなんか意味あるのか?」
「さあてね~」
「みこが美少女だなんて最初から分かってることだろ?」
「はい!?」
久美子の白い肌が、照れて真っ赤になる。
白と黒は知っているけど、赤いくねくねは珍しいなと夏樹は笑った。
「くぅ、私はからかうとは……!」
「いや、別にからかったつもりはないけどさ」
これで、くねくねの話はおしまい。
藤堂夏樹は幼い頃、くねくねに出会ったことがある。
だけど、これからもきっと、そのことは誰にも言わないだろう。
だってあの日出会ったくねくねは、
「うるさい、ばーか!!」
今も、隣にいてくれるから。