「お主ら……テナルディエとガヌロンが戦いあうのを待っているのだな!?」
「―――それ以外に王国を守る術は無いのですよ……陛下が病で伏せている以上は」
熊のような―――と称されそうな老齢の男が、猫のような―――と称されそうな老齢の男に食って掛かる勢いで迫る。
熊と猫では、勝負にならないが猫は己の非力さと力の無さを自覚している。
また熊も、ここで猫と戦った所で何の意味もないことを理解していた。
案内された宰相の部屋にて、熊―――マスハス・ローダントはため息を突く―――。しかし、そこを見計らったのか、猫―――ピエール・ボードワン宰相は話の転換を図った。
「ティグルヴルムド・ヴォルン―――自由騎士リョウ・サカガミを客将に迎えているというのは本当なのですか?」
「? ああ、直接見たわけではないが、間違いなく彼はアルサスに現在身を寄せている」
一瞬、情けなく口惜しい限りだが、この宰相に変節を促すために自由騎士を利用しておこうかと思ったが、更にボードワンは話を変えてきた。
「ヴォルン伯爵に、その他に変わった所は? 彼は弓が得意だそうですが、ブリューヌ貴族としての伝統武具……剣などを持っていたりはしましたか?」
「何の話だ? まさかそんなことでティグルにブリューヌ貴族としての格式なしなどと『いいから答えなさいマスハス。私は至極真面目な話をしています』……確か、件の自由騎士から、豪奢な短剣を貰っていたな……」
その言葉を聞いたボードワンは目を見開いてから、少しして頭に手をやりながら考え込む様子でいる。
何なのだろうかと思うも、ボードワンはからため息一つを突いてから、口を開くためなのか葡萄酒を出してきた。
陶器が二つのそれに注がれる紫色の液体。差し出されたそれを素直にマスハスは口にする。
ボードワンは一息に飲んでから、ようやくのことで口を開いた。
「少し気が変わりました。いえ、意見だけは変わりませんが、彼に少しの手助けをいたしましょう」
「どういうことだ?」
「外国の軍を引き入れても咎められない人間。それは―――大義を持つ者。自由騎士ではなく『ブリューヌの大義』、国王陛下及び陛下の許しを得た者であれば構わないのです」
テナルディエ、ガヌロン両公爵が、国王の縁戚を親類に持っている以上、彼らが王権を担うための戦いになっても、それはお互いにあり得ないことではない。
そして彼らのような存在であれば、そうしたことに対する咎は無いのだ。
「つまりティグルが己の正義を主張するには、陛下のお言葉に匹敵するものを示せというのか?」
何が気が変わっただ。マスハスは内心で憤慨する。中央に関わってこなかったティグルがそんな無理難題をこなすなど、殆ど不可能ではないか。
無理難題の難易度が下がったわけではないとしてマスハスは、陶器を握りつぶさんとしていたが……。ボードワンは言葉を続けた。
「ヴォルン伯爵に言っておいてください。『彼女』―――かつて王都で出会った少女を保護すれば……それで万事は解決するのだ。と」
「? 何の話だ? 意味が分からんぞボードワン」
「詳しくは彼にお聞きになってください。私も若者同士の心のつながりを簡単に暴露するほど薄情な人間ではありませんので、そのヴィノーはかなり上等なものなので、お土産に持っていっても構いませんよ」
そう言ってボードワンは、部屋を退出していった。何もかもが分からぬことではあるが、それでもティグルに聞けば、何かしらの『大義』を得る手がかりがあるということだ。
しかし、そんなボードワンの変節はティグルが『短剣』を持っているという事実を聞いてからであった。
短剣―――思い出してみれば、あれはかなりの業物であった……。
最初は、あまりにもティグルの剣才の無さに護身用の武器として……だと思ったが、それ以外にも儀礼用の華美な装飾―――一種のシンボルのようなものにも考えるべきであったのかもしれない。
「聞いてみるしかないな」
恐らく自由騎士はティグルに何かしらの『隠し立て』をしている。それは一見すると背信行為なのかもしれないが、彼からすると重要なことに違いない。
とにもかくにも王宮がこんな状態である以上、どうしようもあるまい。
一度、息子『ガスパール』の遠征軍と合流してから、彼らの宿営地であるオーランジュへと向かうとしよう。
そう考えてマスハスは宰相秘蔵のヴィノーを持ち、王宮を辞することにした。
そんなマスハスとは別に、宰相は急ぎ―――マスハスに『演技をしてくれた役者』の下に向かうことにした。
マスハスには心を病んだとしておいたが、それはあくまで盛られる薬の『症状』からのものであったので、『演技』が正しいかどうかは分からない。
しかし、両公爵から特に疑いが掛けられていない辺り、どうやら『正解』だったようだ。
『聖竜は、『止まり木』を定めました。止まり木の名前は、アルサス伯爵『ティグルヴルムド・ヴォルン』』
『アルサス。ウルスの息子だな。弓を得手として戦うものが剣と槍の無双を誉れとするブリューヌを救うか』
かちゃ、かちゃと『積み木』が崩れたり積み上げられたりの音が部屋に響きながらも、宰相と役者―――国王は『筆談』をしていた。
積み木の音が筆の走る音を掻き消してくれる。
『ですが、現状、彼だけがこのブリューヌで両公爵に組しない最大の勢力です。何よりレギン様にとっても想いある青年、その心に期待しますか?』
少しの沈黙。考えてから器用にファーロン王は、積み木をしながら筆を走らせる。
『これもまた時代の流れ―――、国の伝統が、法が、国を、民を『滅ぼす』というのならば、私はそんなものは捨て去ろう。国は、世界は、新しき時代の若者に十全たる形で譲り渡すべきだからな』
時すでに遅し、とも言えるが。と付け加えたファーロンの表情が苦笑に変わった。
最初からレギンを王女だとして、喧伝していればこんなことにはならなかった。
だが、あの子の正体を公然とさせてしまえば、フェリックスは己の息子を婿として進めてきたのも『仮定の事実』。
その息子を多くの軍神武人と共に打ち破った男には、新たな時代の『デュランダル』があるのかもしれない。
『だが、まだだ。彼が、ヴォルン伯爵が、本当の意味でこの国を担うに足る人物なのかは分からぬ。ブリューヌを代表する騎士―――ロランがアルサス軍とぶつかりあった後の結果次第だ』
『承知しました。レギン殿下の捜索も続けさせております』
『色々と苦労を掛ける』
『苦労などと思ったことはありませんよ陛下』
すまなそうな顔をしたファーロンを安心させるためにボードワンは微笑を浮かべて、そう筆談で返しつつも表情でも語った。
そんなファーロンの顔もだいぶやつれて来ていることにボードワンは悲しみを出しそうになった。
解毒薬も飲んでいるとはいえ、毒を摂取しつづけていることには変わりないのだ。
時は、それ程ないのかもしれない。しかし『限られた時』を自覚したそれゆえの弱気が出てこない辺り、まだだろう。
そうして、宰相は取り決めどおりの『白痴』と化した国王との『儀礼謁見』を終えて、部屋を辞する。
(ロラン―――お前の、剣と眼が陛下の代わりなのだ。頼むぞ)
生臭すぎるこの王宮の中でも唯一の忠臣のそれだけが全てを決するのだと思って、宰相は、日々の仕事に邁進することにした。
マスハスには、ああ言ったが、自分とて公爵達に憤激したいのは同意なのだ。
特にマッサリアの惨劇―――数奇にも自分と同じピエールであった友人を殺したのは、片方の公爵なのだから。
だが、それでも、そこをこらえなければならないのが、自分の立場であった。
悔しくも、それでも―――こらえなくても若き頃の衝動のままに戦うことが許されるマスハスが羨ましくあったのだ……。
† † † †
「分かりました。では、帰っても構いません」
「は? あ、その、ヴォルン伯爵閣下? 今、何と仰いましたか?」
「ですから、我が勘定方の指定しただけの金子はいただきましたので帰ってもよろしいですよ。流石に馬まで取り上げるつもりはありませんので、無ければこちらから買ってもらう必要がありますが」
簡易的な謁見の間。幕営の中に集められたガヌロン軍の代表者たち。中には領地持ちの貴族もいる彼らは、戦った相手の総指揮官ティグルヴルムド・ヴォルン伯爵の沙汰に呆気にとられてしまった。
てっきり百叩きなど一種の私刑じみた行いもされ、奴隷としてムオジネルに売り払われることも覚悟していた。
それを回避するための金子は流石にいますぐは払えない。しかし、現在身に付けていた鎧や剣、槍などで彼ら―――『銀の竜星軍』はよしとしてきたのだ。
「我々としては確かに願ったり叶ったりですが……しかし、ヴォルン伯爵…貴方たちはこれからテナルディエ公爵と対決をするはず。それならば幾らでも金銭はあっても構わないのでは?」
「その為にわが国の同臣を売ることは個人的にもしたくありませんね。更に言えば、私が言えた義理ではありませんが、この状況を利用する『輩』もいる。そんな輩達の懐を暖める真似はしたくありません」
ティグルよりも歳をとった中年の貴族が、そんな風に言ってきたことに対して、苦笑を織り交ぜて、深刻な顔をして言うティグル。
「輩…とは?」
「南部、熱砂の餓狼ムオジネルの侵攻です」
その言葉に捕虜の誰もが、ざわつく。彼らの大半はガヌロンと同じく北部出身の人間が大半ではあるが、ムオジネルの兵力がいとも簡単に戦闘正面をいくつも作り上げることは知られている。
更に言えば、アスヴァールやザクスタンの蠢動もありえざる話ではないのだ。アスヴァールは、少し考えにくいがそれでも不安が出てきたことは確かだ。
「今、あなた方を捕虜として扱い、その間食べさせることは我々にとっても兵站を圧迫し、更に言えばいざ南部に侵攻してきた場合に足が鈍るのは避けたいのです」
「あなたは、南部―――ムオジネルがやってきたならば、それと対峙するというのか?」
いささか無理をしすぎではないかという、誰もが若者を諌めるように見てくるが、それでもティグルは平然としていた。
確かに無理だろう。だが、それでも南部は自分の家臣の故郷なのだ。それを放っておくわけにはいかないのだから。
「それこそがティグル、いやヴォルン伯爵の心じゃよ。まぁお主らの気持ちは分からなくもないが、それでもこれ以上は、余計なお世話というものじゃ」
「ユーグ卿……あなたも着いて行くと言うのか?」
側に居た老将軍の言葉に知っていた人間が、少し苦い言葉を吐き出した気分だ。
まるで―――自分たちが不忠の奸賊のようだ。と感じるのだ。いや、世間の目はそう感じるだろう。
特にこの辺りでユーグと付き合いのあった貴族たちはガヌロンに脅しつけられて味方したようなものだ。
だが、それは仕方ない。
世間の人々が世過ぎのことで精一杯なように、自分たちも強大な力を持っていた人間に従うことで保身を図るしか出来ないのだから。
しかし、いざ味方をし、感じたガヌロン軍の様子から察するに……どちらにせよ自分たちは彼らによって磨り潰されていた可能性もある。
特に逃げ出したグレアストは、どこか自分たちを前に出しすぎていた。
つまりは、そういうことだ。
冨貴にあずかろうとしたわけではない。ただ単に、領民の安堵の為に戦おうとしたのだ。
その気持ちを奴らは踏み躙ったのだ。もっとも奴らからすれば、味方せぬならば敵と同じとしてきたのだから、どちらにせよ同じことだった。
そして―――この若者の如くいられたならば、と誰もが思う。
異国の戦姫、武公の直孫、そして東方剣士にして自由騎士といった英雄達を纏め上げる存在。
居並ぶ諸将も、それらに負けぬだけの武将だろうことが、分かるのだ。
自分たちは既に老いて守勢に入りすぎていた。ならば、今を変えるために立ち上がった若者に少しだけ賭けてみたいと思うのだ。
「分かりました。ご慈悲は賜りましょう。ですが、それでは我らの気持ちは治まりませぬゆえ、息子と娘達を人質に置いていきたくあります。一兵卒として使うも、慰み者とするも構いませんので」
「そんなつもりはありませんが……まぁ、我が軍はとにかく人手不足です。優秀な将兵や様々な一芸に長けたものはいくらでも受け入れますよ」
懐が広いな。と感じられる。これは、ガヌロンやテナルディエがあまりにも、審査基準を厳しくして多くのものを登用していない。もしくは味方としていないからだろうが。
だからこそ多くの人間達が彼に従うのかもしれない。
弓を得手としていることに関しては、まぁそんなものだろうと感じつつ、そういう『時代』が来ているぐらいには、自分たちも知っているのだから――――。
「我らが子供たちをよろしくお願いいたします。ティグルヴルムド・ヴォルン伯爵」
敵の代表者の恭しく言い放たれたその言葉を締めくくりとして、オーランジュ平原においての戦いは、本当の意味での終結を見た。
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玄妙な音が平原に響く。夜の星空の下、多くの戦士達は死んだもの達へと黙祷を捧げた。
彼らの死を価値あるものにするためにも、誰もが生きていることに感謝をしなければならない。
そうして、誰もが誰かの死を悼んだ後、ウィリアムのレクイエムが止まった後に―――宴が始まりを迎えた。
「しかし、あれで良かったのかな?」
「あれでいいんだよ。ガヌロンにしたって、わざわざ懲罰をするために、軍を派遣するとは思えない。寧ろあのような負け犬根性のままならば、いざという時に被害はロクでもなくなるからな」
焼いた鶏肉を『ハシ』と呼ばれる食器で器用に取り分けたリョウは、それを隣に座るプラーミャに与えている。
息子にご飯を与えている彼と、そんな話をしているのは、あれが最良であったかどうか自信がないからだ。
だが、確かにそう考えるとその通りだと思われる。もしも懲罰の為にアルサスなどのようなことをされるならば、その時の為の保険を掛けておくのは当然だろう。
「我々の目的は、テナルディエ公爵との対決だからな。その為には、もう一方を牽制しとかなければならない」
「もしも俺達を叩き潰すために二公爵が手を取り合ったならば?」
「ない。彼らにとって取るべきはお互いの首だけだ」
これだけはティグルに断言出来ることだ。
如何に今後、多くの味方がティグルに付いたとしても、彼らは自らこそがブリューヌの玉座に相応しいのだと印象付けるためにも、絶対に手を組まない。
『外』向きのことに関しては一応の『協調』は出来るだろうが、そこまでだ。『内』向きのことに関しては、彼らは己たちを曲げない。
「ならば、俺たちが何らかの『外』側のことで、両公爵と協調する羽目になったらば?」
「そん時は、そん時だ。まぁ……ハンスを迎え入れた以上、生半可な事情で手は組めないだろ」
「それもそうか」
納得したティグルと共に竜星軍の若武者、一番槍の誉れを戴く南海の武者を見ると―――。
両手に華を侍らせて困惑した顔をしていた。
本人としては他の武将達、特に自分たちに酌をしたいのだろうが、同軍団の双子達は、ハンスを離さないようにして、酒を注ぎ、ご馳走を口に運ぶことで留めていた。
『エルルちゃん、アルルちゃん。俺は他の先将達にお酌しなければならないんだよ。特に閣下はガヌロン縁将を討ち取ったから、ちゃんと家臣として礼賛しなきゃ―――』
『やー、ここにいるのがハンス君の役目! 私たちの酌が受けられないの!?』
『戦場の勇者を歓待するのは、ヴァルキリーの役目。それをこなさせなさい』
色々と言いたいことはあるが、まぁ周りの人間達も微笑ましく、それを囃し立てたりしながらも、決して邪魔はしていなかったので……。
少しの手助けをティグルは―――からかいと共に行った。
「ハンス。両手に華で羨ましい限りなので、暫くはその栄光を味わっておけ。これは命令だ」
「閣下!?」
『さすが王様! 話が分かる色男!!』
ティグルの言葉と双子の言葉が全員に大笑を起こさせて、誰しもが立場、人種関係なく宴会を楽しんでいる。
あのルーリックとジェラールですらへべれけに酔っ払いながら、ワケのわからぬ主君自慢をしているのだから、素面になった時に教えてやりたいほどだ。
どちらもティグルの手並みを賞賛しているのだが……内股になりながら『タマ』の話をするんじゃないと思う。他の話をしろと言いたくなる。
エレオノーラとフィグネリアが、昔話に華を咲かせている様子も見られるが、何故か仕事疲れの女官どうしの愚痴りあいにも見えるのは自分だけなのだろうかとも感じる。
一番疲れた様子で酒を煽っていたリムアリーシャが思い出に浸っていた妹と姉に絡んでいく。
「まさかリムがあそこまで絡み上戸だったとは……意外な姿だ……」
「気苦労は察するね。自堕落な長女に、夢見がちな三女に挟まれている感じだし」
そんなリムの様子に、二人も少し押され気味ではあったが、ティッタとオルガの登場によって今度は泣いてティッタに抱きついていたりする。
オルミュッツでの事を考えるに色々と申し訳ない限りであり、まぁ存分に酒を飲み、思いの丈を吐き出しあってくれとしかいいようがないのである。
絡み上戸な上に泣き上戸……我が軍の副官には苦労を掛けっぱなしである。
とはいえ、軍内部にあった色々なわだかまりは、この宴で完全に無くなった。
己の立場、出自を関係なく無礼講で飲みあうということは、お互いの信頼を深めることにも繋がるのだから。
そうして―――時間が経つのを忘れるぐらい呑んでいると、少し酔ってしまった『風』を取り繕いつつ、ティグルの下を辞する。
「流石の自由騎士も酔いには勝てないか」
「化け物じみた剣術を使えても『内臓』を鍛えることは難しいのさ」
ティグルとその他の人間たちに『清酒』を飲んで構わないと言いつつ、夜風に当たるために陣内を辞した。
予定通りの時間。予定通りの場所に就くと―――、夜目が効かないだろうにやって来た鳥―――鷹が自分の腕に止まる。
その脚に括り付けられた紙束を取って、肉を食ませておく。
鷹が肉を食っている間に紙束の情報にざっ、と目を通すもやはりレギンの行方はまだ不明なようだ。
ただ不確定ながらも、もしかしたらば、南部『ドン・レミ村』にて、奇跡の聖女などと呼ばれている女こそがそうなのかもしれない。
宰相ボードワンより届けられた『初の書簡』流石に、時間の経過があれなだけに、ティグルがガヌロン軍を倒したなどのことは、書かれていない。
しょうがないな。と思いつつ、騎士団と自分たちがぶつかるまでは時間がある。
その時間の間に―――全面衝突だけは避けなければならない。その方策はあるのだが、それをロラン以下、パラディン騎士達が受け入れるかどうかだ。
「随分と深刻そうな顔をしているね」
「勝つことも負けることも出来ない―――戦うことを何が何でも回避したい相手のことを考えていた。あんただったらどうするんだ?」
「逃げるだけさ。傭兵なんてそんなもんだ」
「なのにエレオノーラの父親の殺害は請け負ったのか」
「……」
意地の悪い質問だったか。と思いつつ、やってきたフィグネリアに何用かと思う。
彼女も風に当たりに来たのだろうと当たりを着けているとフィグネリアは口を開いてきた。
「当時、白銀の疾風はジスタート全体が無視できぬほどの大『戦士団』になっていた。団に入っていなくても、その傘下にいるともいえる他の傭兵団、貴族の騎士隊。団長ヴィッサリオンなどに個人的にほれ込んでいた商人・貴族・神官など……その気になれば、そこいらの貴族を攻め滅ぼすことも出来たほどだ」
有形・無形の形でシルヴヴァインは、ジスタート全体を席巻していった。無論、その団長ヴィッサリオンの『夢』は知られることとなって、多くの人間にとって『野望』として、映った。
とある戦場で戦ったフィグネリアであったが、それ以前からヴィッサリオンの『殺害』は多くの人間から依頼されていた。
乱刃の剣士として名を馳せて、尚且つ戦士ヴィッサリオンにとってもそれなりに知っている情ある女であれば、殺害は簡単だろうと見られてのことだった。
フィグネリアからしてみれば、そういった悪意ある依頼を全て自分に集中させることで彼への殺害をさせないことをもくろんでいた。
しかし―――運命はお互いに味方しなかった。同時に、彼女の恋も破れさることとなった。
「……総大将、あの坊や……ティグルヴルムド・ヴォルンは大丈夫なのかい?」
「あんたの想い人みたいな結末が、エレオノーラとの間に起こるんじゃいなかってことか? それともそうした多くの人間から悪意を向けられて、害されるってことか?」
「どちらかといえば後者だね。あの坊やが最初っから大きい力をもった人間ならば、周りからそんなことは言われないだろうさ。けれど、小貴族な上に得意の武器が弓では―――ブリューヌでいずれ疎んじられるんじゃないか」
その可能性は無きにしも非ず。むしろ高い方だろう。建国以来、守り培ってきた戦の作法。それを無視して『王道』を突き進むティグルを他のブリューヌ貴族は『邪道』と疎んじるはず。
そんなことは分かっているのだ。いや、ティグルとて分かっていないわけがない。
だが、それでもやらなければいけないことが彼にはある。そして、その道を彼だけがこの王国で示すことが出来るのだ。
言い方は悪いが、白銀の疾風であるヴィッサリオンが国を求めるのならば、貴族連中の紛争と戦姫どうしの争いという内戦にばかり終始するジスタートではなく、四方八方狙われ放題なブリューヌで名を売るべきであった。
しかし、彼がジスタート人であり、ジスタートの人間達に暖衣飽食を確約する国を目指す以上は、これ以上は彼の気持ちの問題なのだ。
「だとしても、それこそが求められることだ。あいつの天運は簡単には尽きない。どんなに多くの厄が降りかかろうとも、悪鬼外道の類が栄えたためしはない。好漢侠客の心を持って道を正そうとしているティグルならば出来るさ」
「それでも―――あたしみたいな人間は来る。その時、またもやサラ・ツインウッドみたいなことが出来るか?」
「止むを得なければ―――オレが切り捨てるだけだ。無論、その場にエレオノーラやオルガ、他の人間がいればそうするだろうさ」
笑みを浮かべるリョウの顔にフィグネリアは何も言わない。
もはやフィグネリアも分かっていた。ティグルはヴィッサリオンに似ているようでいて、実は違うのだと。
彼の夢を白銀の疾風の皆は本気だとは信じていなかった。故に統率者としては有能でいても『心』を共有する『仲間』にはなれていなかったのだと。
しかしティグルの周りには、夢を、目標を、道を―――成し遂げるために、心身を預けた義士が集まっていた。
多くの人間がティグルを応援していた。その夢を現実には叶いっこないなどと鼻で笑わず。されど、それを成し遂げるならば、これこれこうしろと言うだけの器と仲間がいた。
一番の信頼ある仲間は―――草原からの風を受けて、遠くを見据える自由騎士リョウ・サカガミだろう。
「そんなにエレオノーラが心配ならば、ちゃんと見といてやれよティグルのこと。今はまだ海の物とも山の物ともつかない人間だが、俺はあいつに賭けたんだ」
「……そんな姑じみたことをしたくないね。そこまで歳はとっちゃいない」
とは言いつつも彼女も、ティグルが本当にエレオノーラが信頼していい男かどうかぐらいは気にかけている。
昔の男が忘れられなくて、その娘を気にかけて「母親」みたいなことをするフィーネの気持ちに気付けぬほど自分も鈍感ではない。
そうして、自分とフィーネとは違う場所にやって来たティグル。同じく夜風を浴びに来ただろうその先に居たエレオノーラという二人の『睦み合い』を偶然にも出歯亀してしまいながら、あの二人を応援してやってもいいのではないかと思うのは、変な親心だろう。
次なる戦の気配を感じながらも―――世界は変わらず穏やかなものを流すことも出来る。その矛盾を―――誰もが感じてしまう。
しかし、吹きぬける風は―――どこまでも続き、それは誰もの心に吹きぬけていく涼やかなるもののはずだかから……。
† † † †
オーランジュ平原から少し行った所に、ソーニエという『村』はあった。
その村に竜星軍の主だった面々。特に男の武官達の大半がやってきた。目的としては船旅で言うところの『半舷休息』。
ようは息抜きであった。
この方針は当初、全軍にもたらされるはずであったが、流石に大きな街。『都市』という意味を持てるところが、この辺りには無いので、結局の所、何人か。特に勲功があったものたちを優先的にいかせることにした。
ちなみに言えば、この方針とは逆に竜星軍の『女』達は、あれこれ理由を着けて、女だけの買い物及び息抜きに赴くことになっていた。
如何な上司であったり上役である戦姫や女将軍の考えではあるとはいえ、大半の人間は『ずるい』などと思いつつ、それらを見送ることになってしまった。
苦笑しつつティグルとしては、当初はアラムやハンスなどの勲功ありしものだけにしておきたかったが、やむを得ず順番に各々で街への来訪を許可することとなった。
『ヴォルン閣下の慈悲によく感謝するように。ただし、その間に、『何か』あったら中止になることだけは覚悟しておけ』
何か。大半の連中はガヌロン軍の復讐。ようやく始まるテナルディエとの決戦。などを感じていたが、リョウ・サカガミの言葉からは、そのような響きは無かった。
寧ろ、戦うことを忌避してしまうような連中との戦いが始まるのだと言わんばかりである。
とはいえ、大半の人間にとっては、そんな訓告よりも休みがある。俸禄を使う機会があるということに万歳したいのであったから、それらの言葉は右から左に流れていくこととなった。
「で、結果として村々との話し合いは早めに終わってしまったな」
「アラム達にはもう少し早めに切り上げさせるべきでした」
ソーニエという村……というよりも小さな街にティグルとルーリックが引率者よろしくやってきたのは特別休息だけのためではない。
要は前回のガヌロン軍との戦いにおいて他の村や町に被害があったかどうかの確認であった。
この辺りでは一番の有力者であるオージェ子爵を含めた各町村の長との会談のためでもあったのだから。
これといった被害も無く、寧ろ兵の徴募があるかどうかすら聞かれてきた時には戸惑うほどであったが、一先ずは保留することとした。
彼らも今回のことで、己たちの身を守る必要を感じて、さらに言えば有能な将のもとで戦いたいと思ったのだろう。
「もはや愚連隊ですね。僕が言えた義理ではありませんけど」
「全くだよ。とはいえ、お前は女子衆に着いていけばよかったのに」
「私は男娼として軍に参加したのではなく、武人として参加したのです」
「だがなハンス。女性のエスコートも騎士としての勤めだ。それを忘れてはならぬぞ。なんせ我が軍の女性陣は色々な意味で強すぎて我々男共は頭が上がらないのだからな」
「女性経験豊富なルーリック殿が言うと説得力がありすぎますよ」
ルーリックの言葉に苦笑いで嘆息するハンス。結局の所、酒宴にて双子たちに構われ続けたハンスは、色々な意味で陣内の注目の的となっていた。
最初は歳が近いが故に、三人の仲が良いと思っていたのだが、どうやらそういうことではなく……まぁ多分そういうことなのだろう。
とはいえハンス自身も嫌ってはいない。寧ろ、その美しくも武を持つ姫騎士達に好意を持っている。
まだお互いに『気になるアイツ』といった感じではあろう。
微笑ましい思いでいながらも、今はどうやって時間を潰そうかと考えてしまう。
既に老将軍は陣営に帰っており、残されたのは若者三人であった。しかし、自分たちは早々に帰るわけにはいかない。
引率してきた他の将達もそうだが、刻限を決めて合流する手はずとなっている違う村に赴いた女衆たちも待たなければならないのだ。
そして女が三人寄れば姦しいなどと言われるとおり、三人以上となればその時間も恐らく自分たちの待ち合わせ時刻を超過するだろうことは容易に想像できた。
かといって飲んだり食ったりするには、時間が中途半端だ。どこかに射的屋でもいればおもしろいのだが……と思っていると、ふと一人の露天商に目がいった。
何故その姿に眼がいったかというと、その露天商がここいらでは見ない『人種』であったからだ。
「ムオジネル商人ですね。忌々しいことですが、領土侵略をする一方で、彼らは商才にも長けていますから」
マッサリアにて海という玄関口から様々な人種を迎えていたハンスはそんな風に言ってくる。
本当に肌の色が違うのだなと関心する一方で、彼らが自分たちブリューヌ王国にとって硬軟使い分けての様々な側面を持った国であることを教えられていた。
そしてリョウは盛んに彼らの脅威を叫ぶことで打ち破ったブリューヌ虜囚達なども積極的に登用しろと言ってきた。
最初はオルミュッツの戦姫、リュドミラ=ルリエを調略するために教えられたが、ティグルは実際のムオジネル人というものに見たことが無いので、新鮮な気持ちであった。
「いらっしゃいお客さん。どうぞ寄って見て行きな。気に入ったんならばこの哀れな貧農の四男坊の懐を暖めてくれ」
「宝石か。随分と高級なもののはずだが、こんな金額で大丈夫なのか?」
「ですな。まさか贋物ではないだろうな?」
「疑うならば見ていってくれや。頭が眩しい色男さん」
流暢なブリューヌ語である。人種を勘違いしてしまいそうになる男というのに縁が無いわけではないが、その男は余計にそう感じてしまう。
剽悍な男だ。歳は自分とさほど変わらないのではないかと思う。
そして広げられた宝石の数々は少しばかり興味を惹かれる輝きを発している。同時に男にも興味を覚える。それは相手もそうであったようだ。
「何というか妙な集団だな。友人という割には、歳が離れた坊やがいて、兄弟という割には、どうにも顔の造形がバラバラだ。察するに、貴族の坊ちゃんに従う騎士達ってところか?」
「ざっくり言えばそんな所だ」
遠慮の無い商人。とはいえ、それらの言葉はこちらの胸襟を開かせるには足りた。
「俺の名前は、ダーマード。お前は?」
「―――ウルスだ」
そんな遠慮の無さにルーリックは少し言いたげな顔をしていたが、ハンスの落ち着けという仕草で一応は収まる。
そしてティグルが本名を名乗らなかったことで怒気を収めた。
「ウルスか、まぁ深くは聞かないでおくさ。とはいえ、どうだい? 意中の女性に対して宝石でも勝っていくってのは?」
「それにしても、随分と安いんですねダーマード殿。宝石はムオジネルでも貴重なのでは?」
ハンスの言葉に苦笑いしつつ、ダーマードは答える。
「色々と事情があるんだ。ざっくり話せば、今の我が故郷では宝石よりも麦一粒、野菜の一切れが重要なのさ」
その言葉に三人が察する。要は食料品の物価が急騰しているから、このブリューヌまで脚を運んで商売をしている。
しかし、如何に熱砂の大地のムオジネルとはいえ食糧自給が滞るほど痩せている土地ばかりではない。
ならば、その食料品を上げる原因は―――買占めにある。そして買占めを容易に行えるのは、強大な力を持ったもの。
(ムオジネル王国の行政府は、何処かに侵攻を目論んで食料を集めているんだ)
何処か。などと心の中でティグルは言っていたが、狙いを察することが出来ないわけが無い。
リョウの言葉通り。奴らは―――ムオジネル軍はやってくるのだと、感じることが出来た。
「……なぁダーマード。流石に俺たちの金銭では、これだけの宝石は買えない」
「残念だ」
「だが、お前に儲けさせることは出来る。ここではあまり価値がないがムオジネルに持っていけば、かなりの価値が出ると思うぞ」
「―――つまり、大量に食料を得られることが出来るということか?」
「まぁな。麦などの主食は買い付けなければいけないが、肉は―――羊や山羊よりはいいもののはずだ」
ダーマードとしてはいきなりコイツは何を言っているんだと思いつつも、ここまで来た目的を再確認した。それは、ただ一つであった。
ブリューヌ攻略の最大の障害となるべきもの。即ち自由騎士の存在がどこの『陣営』に居るかの確認であった。
ダーマードは自分を商人として偽りながら、ここまでやってきた。ここに来るまでに聞こえてきた話によれば、自由騎士リョウ・サカガミはブリューヌ北部の『なんとか』と言う貴族の下でテナルディエ公の軍団を撃破したという話だ。
その後、彼がどうしたのかの詳細は聞こえてこない。
曰く、ジスタートにて練兵した騎士達を率いて南部からテナルディエ公の土地を奪いに来るだの、はたまた世話になっている戦姫と乳繰り合っているだの、はたまた異界の邪神との永遠の対決に興じているだの、そんな風な真偽を論じる以前の確定ではない噂ばかりが飛び交っている。
主君である『赤髭』クレイシュとしても自由騎士は、何とか排除したいと考えての行動であった。
かつてアスヴァールにおける騒乱においても、彼は自分たちムオジネル軍の支援していたエリオット陣営の最大の敵であったからだ。
とはいえ……実際の所、このまま商売人を装っていても意味は無いかも知れない。ここは一つ、この貴族連中に着いていくことで何かしらの情報を得られるかもしれない。
クレイシュが定めた刻限も近いのだ。ここは一つ変化を齎すことにしよう。
「分かった。その提案を受けよう。もしもオレの望む通りの食肉が手に入ったんならば、これらの宝石はくれてやるよ。好きな女にでもやれ」
「そう言ってくれると助かるよ」
「しかし、ティ……ウルス様、何処にそんなものがいるんですか?」
「実を言うとオージェ子爵から最近、平原のほうに暴れ猪とか暴れ鹿がいるって話だからな。駆除してほしいって言われていた」
「駆除してほしい。ではなく自ら『狩りたい』と言ったのでは?」
その言葉にウルスが、ぎくりとしたような顔をする。恐らく彼にとっての趣味は、狩りなのだろう。
だが、このブリューヌにおける合戦礼法と武の優先順位からしてウルスの腕がダーマードの『弓』よりも下のはず。
一先ずは、この男、ウルスの誘いに乗るのもいいのかもしれない。
「オレも弓には一芸あるぜ。冒険商人ってのは武にも長けていなければならないからな」
「ではダーマード殿には閣下と腕を競ってもらいましょう。丁度良く暇つぶしにもなりましょうし」
「ハンス、私も参加するぞ。確かに今はまだウルス殿の後塵を拝しているが、これを機にランキングの上位に躍り出て見せよう」
そうして男四人して、狩りに興じることになって、すっかりその時には女性陣との『待ち合わせ』を忘れてしまい、後に大目玉を食らう結果となってしまうのはご愛嬌である。
† † † †
剣を振り下ろす。剣を振り上げる。剣を振り下ろす。剣を振り上げる。
連続した斬の舞踊。速さはいらない。求められるは精妙さのみ。速くやろうと思えばやれないわけではないが、それでも今、求められるのは如何に精妙さを演じられるかだ。
体の論理に剣の論理を叩き込む。二つが合一された時、鬼剣技が完成する。人以上のものを殺すために体系化された技。
草原に吹きぬける風に、颶風が叩きつけられる。早くは無いが重い一撃が風を切り裂き、流れを変える。
来るはずの敵。その姿を思い出して、今度やったときに勝てるかどうかを考える。
あのままやっていれば負けていたのは自分だろうという考えが、リョウにはある。ロランの剣技は正道にして王道だ。
己の肉体の膂力全てを武器に込めて叩き込むその術は全ての『道』に通ずる勝者の論理だ。
商売とて最高の土地にて最高の品物を揃える。そうすることで、富を得られるのと同じ。
転じて武道もまた然り。
それを覆すために『技巧』というものがあるわけであり、人によっては小細工とも取られかねない。
だが、それを無くせば剣の道理はただ単に体の強化だけに走ってしまう。故に―――、ロランにだけは剣士として負けるわけにはいかないのだ。
もしも自分の予想が正しければロランの爆発には『静』と『動』が備わったはず。
「いざとなれば出すしかないな……『鬼剣』を―――」
一人愚痴ってから、身を休めるため―――掻いた汗を拭うために陣営内に戻ろうとした瞬間。何かがやってきた。
平原であるはずのオーランジュにて、砂塵を巻き上げ、先頭をひた走り、同時に飛翔を果たす三匹の幼竜。
我が軍内のマスコットキャラ(?)にして、いろんな人間達のお手伝いをすることで有名なプラーミャ、カーミエ、ルーニエの三匹が―――何かに追われていた。
こちらに気付いたらしき三匹は、直進から少しずれる形でこちらにやってきた。
「■■■■ーーーー!!!!」
声にならぬ奇声を上げて砂塵の向こうからプラーミャ達を追ってくる存在。何なのかは分からないがロクな存在ではなかろう。
ロランの前の前哨戦だとして、剣を向ける。
「■■■■ーーーー!!!!」
再びの奇声。しかし、幼竜たちは自分たちの後ろに匿われ、必然その存在とかち合う。
「ウチのがきんちょ共に手を出すんじゃねぇよ!!」
雷のような突きを放つ。しかし砂塵の向こうの存在はそれを受け止めた。金属同士が噛み合う鈍い音。それが響きながらも連斬を放つ、迎撃される。
ただの怪物ではない。武器を持っている怪物だ。と恐怖しつつ、それを倒すべく斬撃を振り下ろすも―――躱された。
いや、ただ躱されたわけではない。自分の頭を飛び越える形で躱されたのだ。
何たる筋肉を使っての跳躍。あり得ざる動きではないが、少しばかり予想を外される。
というよりも、読みを外されたことに驚愕する。やはり爆発の『技』を持っている人間は厄介だ。
巻き上げていた砂塵から這い出て、自分の背後に躍り出た怪物。
金色の毛むくじゃらの怪物。全身を覆うほどの金色の体毛、炯炯と光り輝く眼にリョウは恐怖を覚えたのだが―――――――――――。
「あら、リョウじゃない。久しぶりね。 息災なようで何よりよ♪」
怪物は――――まごうことなき知り合いであったことを確認して、リョウは「ずっこける」ことしか出来なかった。
「って、何で倒れるの。まるで喜劇役者の転倒のようにして、こける理由がさっぱり分からないわよ? あっ、プラーミャちゃん。ルーニエちゃん。カーミエちゃん待ってーーー!! 私にあなたたちを慈しませてーーー」
知り合いが倒れたことよりも、愛しき幼竜たちを追って平原を走っていく知り合い。
光華の耀姫―――『ソフィーヤ・オベルタス』が、やってきたことを認識しつつも……。
「俺はソフィーにすら負けるのかぁ……」
少しばかり男の沽券の在りどころに傷つき、平原を走り回っていた幼竜たちをようやく捕まえた彼女の姿がこちらに近づいてくるのを確認。
息子たちに申し訳ない思いを感じつつも、在り様を正して、立ち上がり彼女を迎える準備をする。
「やれやれだな……」
ロランとの再戦を意識しつつも、あの時に居たもう一人の人間がやってきた事に運命を感じつつも、ひとまず息子たちを保護することにした。
ブリューヌ最高の騎士との戦い……手を差し出したソフィーの姿。舞台は段々と整いつつあることを―――運命的に感じてしまうこととなった。
あとがき
かなり時間が経ってしまった。その間に、魔弾も遂にムオジネルと決着してしまった。
一迅社の方の新刊の際にも言われていたが、本当にティグルはアルスラーンに似てきたなぁ(笑)
では感想返信を
>>シュニットさん
再びの感想ありがとうございます。そして再びここまでお待たせして申し訳ありません。
まぁロランは原作では死ぬべくして死ななければいけない存在でしたからね。
ただ少しばかり今作は面倒なことになりそうなので、彼にも少し動いてもらわないといけません。
デュランダルを失うことになっても彼は、騎士として動かざるを得なくなります。ご期待ください。
>>almanosさん
遅ればせながらの投稿なので感想の遅さはお気になさらず。
ちょっと違いますが、私もつい最近大怪我を負いまして、具体的には、自転車で片手運転して坂でブレーキ利かせられず投げ出される形でずっこけました。
具体的な怪我の状況はあまり言わない方がいいのですが、血が米神から止まらなくて、正直パニックに陥りました。
ただ怪我をしただけでなく今までの状況と違うと人間パニックに陥りつつも、即座に病院に駆け込みました(笑)後に路面にぶつけた額がはれ上がり、一日は眼が開けられなくなりました。
グレアストも『死ぬ』かもしれないという極限状況に陥りつつも、何とか生きようと必死であり、それが彼に一時の痛みを忘れさせましたよ。私の如く(笑)
ロランの登場までもう少し、ご辛抱ください。
ゼロの使い魔が再開したと思ったらば、また一人、先駆者が逝ってしまった……美少女ゲーライターって余程、体を壊しやすいんだろうか。
もしくはメディアファクトリーには何かが憑いているのか……そんな憶測はともかくとして、勝手ながら創作者の一人として『あごバリア』先生のご冥福をお祈りいたします。
あと報告することとしては、別ペンネームでハーメルンの方でも書いて居たりします。むしろ最近はこっちばかりを書いていて、遅れてしまいました。
白状する形で遅れた原因を申させていただきました。申し訳ありません。
そちらもラノベ二次創作を更新しています。前クールのラノベ原作作品なので、興味ある方は私を探してみてください(苦笑)
ではでは今回はこの辺で、お相手はトロイアレイでした。次回の更新もお待ちいただければ幸いです。