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No.38861の一覧
[0] 鬼剣の王と戦姫(ヴァナディース)(魔弾の王と戦姫×川口士作品)連載に関して報告あり[トロイアレイ](2017/03/27 00:21)
[1] 「煌炎の朧姫 Ⅰ」[トロイアレイ](2014/06/14 23:23)
[2] 「虚影の幻姫 Ⅰ」[トロイアレイ](2015/06/17 18:39)
[3] 「雷渦の閃姫 Ⅰ」[トロイアレイ](2015/06/17 18:42)
[4] 「煌炎の朧姫 Ⅱ」[トロイアレイ](2014/06/14 23:35)
[5] 「虚影の幻姫 Ⅱ」[トロイアレイ](2014/06/14 23:37)
[6] 「虚影の幻姫 Ⅲ」[トロイアレイ](2014/08/10 20:55)
[7] 「煌炎の朧姫 Ⅲ」[トロイアレイ](2014/08/10 21:00)
[8] 「雷渦の閃姫 Ⅱ」[トロイアレイ](2014/08/10 21:02)
[9] 「鬼剣の王 Ⅰ」[トロイアレイ](2014/10/10 20:26)
[10] 「銀閃の風姫 Ⅰ」[トロイアレイ](2014/04/09 01:59)
[11] 「凍漣の雪姫 Ⅰ」[トロイアレイ](2014/05/03 12:28)
[12] 「光華の耀姫 Ⅰ」[トロイアレイ](2014/10/10 20:23)
[13] 「凍漣の雪姫 Ⅱ」[トロイアレイ](2014/08/10 21:06)
[14] 「光華の耀姫 Ⅱ」[トロイアレイ](2014/10/10 20:24)
[15] 「羅轟の月姫 Ⅰ」[トロイアレイ](2014/11/16 20:47)
[16] 「鬼剣の王 Ⅱ」[トロイアレイ](2014/12/14 19:55)
[17] 「光華の耀姫 Ⅲ」[トロイアレイ](2015/02/01 14:52)
[18] 「銀閃の風姫 Ⅱ」[トロイアレイ](2015/02/18 00:03)
[19] 「羅轟の月姫 Ⅱ」[トロイアレイ](2015/03/01 18:52)
[20] 「魔弾の王 Ⅰ」[トロイアレイ](2015/03/08 16:00)
[21] 「羅轟の月姫 Ⅲ」[トロイアレイ](2015/04/05 01:15)
[22] 「虚影の幻姫 Ⅳ」[トロイアレイ](2015/05/14 23:29)
[23] 「鬼剣の王 Ⅲ」[トロイアレイ](2015/08/23 20:21)
[24] 「魔弾の王 Ⅱ」[トロイアレイ](2015/04/07 21:14)
[25] 「銀閃の風姫 Ⅲ」[トロイアレイ](2015/07/04 13:19)
[26] 「鬼剣の王 Ⅳ」[トロイアレイ](2015/04/28 16:46)
[27] 「雷渦の閃姫 Ⅲ」[トロイアレイ](2015/05/11 00:37)
[28] 「羅轟の月姫 Ⅳ」[トロイアレイ](2015/05/25 01:12)
[29] 「魔弾の王 Ⅲ」[トロイアレイ](2015/06/04 02:16)
[30] 「凍漣の雪姫 Ⅲ」[トロイアレイ](2015/06/16 22:58)
[31] 「凍漣の雪姫 Ⅳ」[トロイアレイ](2015/07/03 16:35)
[32] 「鬼剣の王 Ⅴ」[トロイアレイ](2015/07/14 00:16)
[33] 「乱刃の隼姫 Ⅰ」[トロイアレイ](2015/08/07 02:40)
[34] 「鬼剣の王 Ⅵ」[トロイアレイ](2015/08/13 22:30)
[35] 「魔弾の王 Ⅳ」[トロイアレイ](2015/09/03 12:41)
[36] 「魔弾の王 Ⅴ」[トロイアレイ](2015/09/23 17:49)
[37] 「銀閃の風姫 Ⅳ」[トロイアレイ](2015/11/14 16:06)
[38] 「鬼剣の王 Ⅶ」[トロイアレイ](2015/11/29 23:57)
[39] 「魔弾の王 Ⅵ」[トロイアレイ](2016/02/06 22:12)
[40] 「光華の耀姫 Ⅳ」[トロイアレイ](2016/04/17 23:32)
[41] 「光華の耀姫 Ⅴ」[トロイアレイ](2016/07/03 16:03)
[42] 「鬼剣の王 Ⅷ」[トロイアレイ](2016/09/11 21:17)
[43] ご報告及び移転の告知 追記 感想返信[トロイアレイ](2017/03/29 19:12)
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[38861] 「魔弾の王 Ⅴ」
Name: トロイアレイ◆f5ed158e ID:62dd4f16 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/09/23 17:49



剣が振るわれる。斬撃の鋭い音が、狭い室内に響き渡る。

疾風、突風のそれが剣だけで吹いていたのだ。まさしく自由騎士の剣に通じるほどのものだ。

縦横無尽に振るわれる剣の舞が、厳かさなど欠片もない不吉な闇を孕んだ風を吹きわたらせる。しかしながら、その剣嵐が都合30回も吹きわたると―――、風の音とは違う甲高い音が響いた。


高い金属音。それは振るわれ続けた剣が砕けた音である。


振るっていた黒い長髪の男は半ばで砕けた剣を振り下ろした状態で静止していた。

状態から回復し、直立しながら砕けた剣を見定める。


「この剣では駄目だな。俺の技術と『力』を受け止めきれない」

「申し訳ありません。何分、この辺りの製鉄技術は低いものでして…」

「そういう問題でもないのだがな。神器と言われるような武器はないのか?」


男。桃生は室内にて瘴気ごとの剣風を浴びていた老人に問いかける。

かつて、帝という神の血が薄すぎる支配者より神器を奪ったこともある桃生としては、砕け散った部屋の武器全てが、有象無象の類に思える。

八つ首の蛇の尾より生まれたという剣。それは自分の手にありながら最後には、自分を刺し貫いた剣だ。

鬼の小僧、不死鬼の息子という死者と生者の混じり物の手に最後は渡った。


その後は分からない。支配していた巫女の話では、神器を取り戻すために帝が送り込んできたというのも聞いていたので、その後は再び宮に戻ってしまった可能性がある。

しかし、ドレカヴァクは面白いことを言ってきた。それは自分にとっても正しく僥幸と呼べるものであった。


「まさか…あの鬼の混ざりものが生き延びて後世に子孫を残したとはな……奇妙奇怪も極まっている」


面白がるような声を出す桃生。神と人と妖の境界が未分であった時代を生きた魔人は、そのことを思い出しているのだろう。そして、その剣を奪うことを考えているのだろう。


「とはいえ、今の俺は所詮雇われの身……だが、だからと行動を制限されるのは気に食わんな」

「お待ちください…今はまだ、あの男は必要な存在…」

「構わぬ。今のフェリックスは、息子の仇を討つべしと凝り固まっている。そういう『執念』だけで、動いている人間ほど操りやすいものだ」


言いながら、開いた手のなかに闇を凝縮させた玉を出現させた桃生。その闇の濃さに、ドレカヴァクですらもおぞましさを感じる。それを用いれば、恐らくフェリックスの精神を支配は出来るだろう。

無論、傍目には正気に見えるだろうが、寸前での判断で割り込みをかけることも出来る。

恐るべき精神支配を行おうとしている。如何に魔道邪道を極めたとしても、ここまでのことが自分に出来ようか。


「とはいえ、この国での神器というものがあれば、それを手にいれるのも一興だ」

「では……お教えしましょう。この国の人間どもが愚かにも破邪の剣と崇め奉っている『魔剣』デュランダルを―――」


この男ならば、この国を闇に沈めるには容易いとは思うのだが、それでも万にひとつの可能性も残したくはなかった。

特にあの剣が、元の神官の家に戻るというのは、あまりいい気分ではなかった。

手元にあっても使える人間など『将軍』程度しかおらぬのだが、この男の手にあれば、それは違う結果になるはずだ。


そうして、場合によっては自分ですら滅ぼされてしまうぐらいの闇に恐れを抱きながらも、ドレカヴァクは話すことにした。

それがどのような結果になったとしても、忌まわしき神剣の売り捌いた『退魔銀(ミスリル)』によって、一種の結界を構築されつつあるブリューヌに魔の影響力を取り戻すことになるのだから……。




† † † †




ライトメリッツ陣内は少しのどよめきに包まれていた。それは総攻撃をタトラにかけると思っていただけに気合いを空かされた気分になったからだ。

しかし、それだけではない。この男だらけの陣における二輪の華が、昨日までとは『色彩』を変えていたからだ。

まるで朝顔の変化のように、二人の『衣装』が違っていたからだ。


「どうだティグル? こういう衣装もいいだろう?」

「あ、ああ似合っているよ…けど、何だってサフィール殿の衣装を着る必要があるんだ?」

「用心のためだ」


なんの用心かと言われれば、想像がつかないほどティグルも鈍くはない。

そうして、もう一方の方。桃色の長い髪。オルガよりも癖のない艶やかな髪。それを片方の目を隠すようにして前に垂らしている女性は―――昨日までエレンが着ていた衣装。


そんな『若すぎる衣装』をしたエレンよりも年上の傭兵サフィールは、何かに耐えるようにふるふると震えていた。

気持ちは分からんでもないが、それでも別にその衣装が似合っていないわけではない。ただ本人としては、そういった歳に似合わない衣装をイタイと思っているのだろう。

短いスカートを必死で押さえている様子に、同情してしまう。


お洒落に失敗した女の気分でいるだろうサフィールに近付くリョウ。

口が上手く、女の扱いに長けた自由騎士ならば、何かしらのフォローがあるだろうと、任せて見ていた。

そうして剥き出しの肩を叩いて、慰めるようにしていたのだが……突然、地面に向けて吹き出した。

腹を抱えて笑い出したリョウの様子に、笑顔で怒りをためるサフィール。30秒ほどの大笑の後に、サフィールは、その背中に鋭いヒールで蹴り出した。


「な、何するだぁー!!」

「五月蝿い黙れ!!! 私だって分かってるんだよ!! この格好の痛々しさぐらいな!! とにかくこんな恥ずかしい格好を終わらせるためにも必死でエレオノーラの真似をしてやる!! だからさっさとあんたらは大公閣下を救ってきな!! ―――野郎共!! あたしらは決死の覚悟で、タトラ城塞の門前で耐え抜くんだよ!! 出来なきゃあっちは戦姫がいないと思って、一気呵成に挑んでくるよ!!」

『ヘイ、姐さん!!!』


特殊な趣味の客を満足させる娼婦のように、リョウを蹴りたぐって満足したのか、それとも自棄っぱちなのか、サフィールはそのように言って、百人の決死隊を統率した。

恐らく両方だろうな。と結論して、いい傾向だなと感じる。そんな鋭いヒールで蹴られたリョウはさしたる痛痒を感じていなかったのか、平然とした様子でこちらに近づいてきた。


「一匹狼の傭兵だったって割には、随分といい統率の仕方じゃないか」

「当然だ。サフィール殿は、いずれは私の母親になってくれなかったかもしれない女性だ」


どういう意味だろうと疑問を口にすると、後で教えてやるとエレンは笑いながら言って来た。

ともあれ、偽兵部隊を率いるサフィールが、あの様子でいれば、ばれることはあるまい。

髪型、髪色に関してはオルミュッツ斥候部隊の不明さにかけるしかない。


「よし! 準備出来たな。ならば出陣!!」


全員の戦支度が終わったことを確認したエレンの声が幕営内に響く。目標は見えている。やるべきことも分かってるのだ。

為すべきことを為す。それだけだ。


((やれるだけ、やってみるさ))


奇しくもフィーネとティグルの心のなかでの言葉は同じであったが、その心は少しばかり違っていた。

だがやるべきことが定まり、それに対して全力で取り組める。それは、ある意味では幸せなことであった。


世の中には、そうではない人間もいるのだから――――――。



† † † † †




「……つまり、ティグルヴルムド・ヴォルンを殺せば、お父様を解放すると…?」

「そうだ。あの男は弓一級品であり、神器も操れるが、所詮は弓使いだ。距離を詰めれば貴様の距離だろう―――、もしくはエレオノーラ・ヴィルターリアを抑えておくかだ」


無茶な注文であるが、この女は聞かないだろう。それこそ決死で挑めとか言いかねない。


「どちらも難題ね……一つ聞きたいわ。何故そこまでティグルに拘るの? あなたにとって、ザイアン・テナルディエとはそこまでの人物なのかしら?」

「それに答える義理があるか?」

「私は自由騎士と戦姫に殺されるかもしれないのよ。死ぬ前に全てを知っておきたいぐらいのことはあるわ―――同じ女として狂気に駆られたあなたの動機ぐらいは―――、知らなきゃ死に損よ」


戦姫専用の部屋。タトラの中に設けたそれなりに豪奢な場所で、紅茶を飲みながらそんなことを聞いた。

いい加減うんざりして、殺したくなるような気分だが、それでも賭けに出る前に、理由の一つでも知っておきたい。


そういう心地で、一応の平静を保つ形でリュドミラは尋ねた。

自分に対して、説得を試みたティグルもこんな心地だったのか、そういう境地に思い付くと同時に、サラ=ツインウッドは己の事を語り始めた。


最初は自分が、こんな西洋までやってきた理由からだった。それは自由騎士ほど崇高な目的があったわけではない……しかしヤーファの事情を知ることに……。


この辺ではヤーファと呼ばれる故国ヒノモトでは、争いが絶えなかった。その原因は遡っていけば様々なものはあったが、結局の所、旧来の勢力の衰退であった。


そんな中、自分はある試みの下、作り出された「忍の子」であった。旧来の勢力、公家、没落した武家など多くの「出資者」達が銭を出しあって、異国の情勢を探り出す諜報機関の成立を目指した。

いずれは自分達が、ヒノモトの頂点に立つために、情報を制するために。



そうして、異国。まだ人権意識が低かった頃に西方よりやってきた奴隷。特に学位のあるものたちを雇い入れて地元の語学に関する発音を学ばせた。

双樹沙羅の母親もそのような人間であったらしく、ヒノモトの名前にもあり、母国にもあった名前を付けてくれた。



金色の髪のヤーファ人。しかし父と母は、そういった目的意識だけで一緒になったわけではない。

―――それこそが、沙羅の不幸の始まりであった……。

忍びであった父は、このままいけば母子は辛く困難な道に従事させられると知り、甲賀の里を抜けることを決意した。


甲賀忍者は伊賀のような雇われ集団とは違い、職人ではなく、一子相伝の継承伝統。即ち武家などのような性質で成り立っており、事実、大口の出資者は「六角」という武士の家であった。

裏切り者、里を抜けるものは容赦なく切り捨てる彼らの追撃は執拗であり、沙羅の両親は、その逃避行の果てに死んだ。

この髪と肌の色ではヒノモトでは、目立ちすぎる。両親の亡骸を丁重に弔った後に、残された金銭で外国船に乗り込み……両親の遺言通り、西方に行き……己の生きる術を見出したかった。


「その後は、あえて奴隷に身を落として……いずれ現れるだろう信じられる主君の下で己のシノビとしての技を利用したかった……」

「聞く限りではザイアンという男は、凡庸どころか愚物にしか思えない人物だけどね」

「何とでもいえ。世間がどうあれ、私にとっては、信じられる方だったのだ―――」


あえて怒らせる形で、リュドミラも言ってみたが、少しだけ良い噂もあったといえばあったのだ。

それで、人格者と伝えられる曽祖父の代のテナルディエ公爵家を再興出来るかと言われれば……可能性はあったのだろう。


そして、その可能性を摘み取ったのはティグルということだ。恐らくこの女性とザイアンは深い仲だった。


全てが結果論ながらも……巡り巡って因果が、彼に巻き付いたのだ。


「ティグルヴルムドを殺せば、貴様の父親の呪いは解いてやる―――それとも、貴様も「愛」に殉じるか?」

「有り得ないわ。己の領民以上に守らなければいけないものなんて―――支配者には無いのよ」


言いながら、リュドミラは氷のような言葉が自分に突き刺さるのを感じていた。だがやらなければ、己の領民である父が死ぬ。

今回の戦の事情が分かっていない兵士達まで、多く死んでしまうかもしれない。


(野戦に持ち込むしかない!!)


これ以上は、心の均衡が保てない。殺し殺されるの決着は―――あの『弓聖』につけてほしいのだ。

結末がどちらに転んだとしても……。



† † † †


―――そんなリュドミラの心と乖離するように、ライトメリッツ決死隊100人は、タトラの隠し道を通り、タトラの城砦に辿り着くまでの防御陣地をすり抜けて、山頂まで至ろうとしていた。


「少し変な気分ですな」

「全てが元通りになったならば、あいつに教えてやれ。間が抜けた相手に戦いを挑むなんて気が抜けることこの上ないから」


わざわざ主敵が強くなるようなことをしてどうするんだ。という思いを何人かが持ったものの厚手の外套に身を包んだ戦姫の言葉に異を唱えるものはいなかった。

とは言うものの、どうせこの道は今回しか使えないものだろうというのは分かる。幾ら何でもこんな奇襲を一度受けて、調査をしないわけがないのだから。


「しかし、今更ながらアルサスが心配になってきた……」

「戦争準備というのは時間がかかるとはいえ、ジスタートに足を留まらせ続けていたからな」


ピピンの言葉を皮切りに、ティグルがそんなことを言った。確かにオルミュッツに対する『調略』が終われば、その後はアルサスに向けて出陣であったはずなのだが、それを崩してきたのはテナルディエ公爵の『調略』であった。

同盟者の背後を突くことで、こちらを行動不能にしたあの男の智謀に今更ながら感心する。

ここから先は手を変え、「武器」を変え、ティグルには使えない「手」で、あの男は自らが動かずにティグルを排除しにかかるだろう。


だが、戦うしかないのだ。自らの想いを乗せて手に武器を取り戦うものにしか、望むものは手に入らないのだから……。


(武将と忍の違いというのは、そこなんだよ)


如何に心を縛り付けて、戦いを強要させたとしても、そこに己の「本当」の「想い」が無ければ負けるしかないのだ。

『坂上 龍』はそう考える。


そして想いの強さこそが―――戦いの局面を変えるのだ。


「ティッタさんの料理が恋しいのは理解できるさ。その前に―――お前は「囚われの姫君」を助ける事だな」

「詩人だなリョウ、言わんとすることは理解できるけどさ」


外套に付いた雪を払う。木々から降ってくるそれらを避けつつ、どこかに斥候がいないかと少しばかり探る。

しかしやはり隠し道らしく、そんな人間は一人とていないわけで……。


そんなこんなの雑談を低い声でやっていると、遂に眼下にタトラの城砦を見下ろす形の場所に出る。


「身を低くしろ。歩哨がいるかもしれない」

「ああ」


ある種の感慨が自分達を包んでいたが、流石に一度は来ていただけにティグルは、注意を鋭く言い放った。

全員がそれに従うと同時に持ってきた軍旗を広げる。


「手筈どおりだ。山道の連中が、翻すまでに決着を着ける―――もしも間に合わなければ」

「アタシだって死にたく無いからね。素直に白旗上げるさ」

「まぁ、そんな格好で死んだらあれだしな」

「とっとといけっ!」


サフィールに注意を出したリョウだが、蹴られる形で、二手に分かれた。

山道を滑り落ちる形で決死隊とエレンに扮したサフィールが城門から離れた所に陣取り、鬨の声を上げた。

タトラ城砦の連中はそれに面食らったはず。

どこからともなく現れた連中が掲げるその旗に、そして―――エレオノーラ・ヴィルターリアらしき女がいることに。


「竜具は召喚すれば、いいだけだ。それまではサフィール……いやフィーネに預ける」

「何だ分かっていたのか?」

「当たり前だ。―――私の養父の「最後」を知っている相手なんだから……フィグネリアは……」


外套を脱ぎ去り桃色の衣服を晒すエレオノーラ。混乱の状況に陥っているタトラ城砦。

一応、分からぬ程度に御稜威で「探り」を入れると、やはり大公閣下はタトラにいた。


その呪詛の色もかなり不味い領域にまで広がっているのを感じて、ティグルの『矢』に清め祓いの御稜威を掛ける。同時にティグルにどの辺りに矢をやればいいのかを伝える。

それはここからでは見えていても、届けるのは容易ではないほどに城砦の奥まった場所であったのだが、彼は笑みを浮かべながら、一言だけで済ませてきた。



「容易い」



† † † † †


―――来たな。と沙羅は感じていた。同時に、最後の戦いになるだろうと感じていた。


だが、その前に片付けなければいけないことがあった……。


オルミュッツ兵に見られないように、気配と姿を消して部屋を移動する。もっとも城門前までやってきたライトメリッツ兵達に動揺していて、自分などに気付かないかもしれないが……。

それでも用心して沙羅は部屋を移動して、そこにいる三人の内の二人に声を掛ける。もう一人は、掛けた呪いで苦鳴を上げていた。そんなもう一人を、二人、双子の戦乙女は心配そうに見ていた。


「エルルーン、アルヴルーン」

「……サラ様」

「少し早いが、お前達に暇をやる……長い間、私の元で窮屈なことをさせてしまったな」

「そんなことはないです」


アルルの否定の言葉を聞いた。だが事実なのだ。

この二人は霧の国 ザクスタンの未来の将軍として教育されてきた女子なのだ。

自分のような密偵作業よりも母国の「姫将」。この国の戦姫の如き存在であった。

それを聞いてから、すぐさま大旦那に推挙したのだが色好い返事がなかった。確かに武芸で瞠るものはあるだろうが、それでもまだ12,13の若い女子では、戦場に出てどんな目に合うか分からない。

大旦那はそういう人道の観点からではなく、そうなった場合、拷問などで簡単に口を割るだろうとして、第一他国人を起用することを彼は嫌がった。


(結局、私では二人に相応しい戦場を与えられず。若様の護衛としても置くこと出来なかった……)


だが、この後を考えれば色々出来るだろう。西方は未だに安定せずどこにでも火種はあり、火種を大きな大火にする連中ばかりだ。

そういった仲で、二人組の傭兵として頭角を表して行けばいいだけ。それが出来るぐらいのことを教えた。

火や水の属性術は、不得手だが彼女らが一番、得手とした「呪力付与」は確実にこの戦い収まらぬ西方にて大きなものとなるだろう。


だからこその――――言葉であったが、双子は聞かなかった。


「このおじさんの呪いを解くのは……サラ様の復讐が終わりを告げてからなんですね?」

「ならば、私とお姉ちゃんであの銀髪の戦姫を倒すの、それで―――美味しい紅茶のご恩を返す」


赤茶の姉アルヴルーンが問い、それに銀髪の妹エルルーンが舌足らずに答えた。


「……本気か?」

「それならばサラ様がアルサス領主を倒す可能性は上がるの。だから戦う」

「―――分かった。負けそうになれば即座に逃げろ。無駄に死ぬな」


頷かないものの戦乙女の『鎧』を着込んで、暗殺者ではなく「戦士」として戦うという意思を固めた二人。

自分が真にこの子達すらも、「道具」として扱うことが出来れば、勝率は上がっていただろう。

だが、それは出来なかった。自分と同じ者を殺せるほど―――最後まで、サラは情を捨てきれなかったのだから……。



† † † † †



眼下にて、砦にいるオルミュッツ兵達を野次るライトメリッツ兵達の姿が見える。

彼らの汚い野次を指揮するように前に立つのは、エレオノーラに扮したフィグネリア。

顔を真っ赤にして門を開けろ、あんな野次無視しろというので、意見は二分されているだろう。

ただそう簡単に判断は下せまい。


その思考停滞の時間こそが――――自分達の必勝の機だ。

矢が届かない範囲から、野次を飛ばしているフィグネリアに報いるためにも、リョウは御稜威を完成させた。


「祓い給い、清め給え。守り給い、幸え給え」


ザイアンを殺した時と似て非なる矢が、ティグルの弓に番えられる。この矢は生かすための矢だ。

殺すためではなく未来の為に―――放つ矢。

大公閣下のいる場所は、こんな所からは見えるわけがない。しかしティグルは見えないはずのものを見る心地で『照星』を合わせる。

見えぬはずのものを見るような心地に現実感を失いつつも、城砦の中に『矢文』を解き放った。



それを見届けたものこそいないのだが……光が、閃光が、流星が城砦に落ちた。


瞬間、浄化の光。誰も傷つけない癒しの光が、破裂する。


「どうだ、リョウ!?」

「―――あの要塞内に呪を掛けられたものは既にいない。再び掛ける前に――――」

「飛び込むんだな!! 任せろ!! アリファール!!」


こちらの説明を遮るようにエレオノーラが言う。一を知って十を察してくれたので何も言うことは無いのだが、どうにも勢いごんでいる。


「ここまで何とも邪道な戦いばかりが続いたからな。やっとあの女と直接対決になれて嬉しいんだよ」

「邪道って……まぁ、オルミュッツ兵にもなるたけ犠牲を出さない戦いばかりだったからな……」

「お前は回りくどい。まぁ今回ばかりは有無を言わさず戦える事情ではなかったから仕方ないとは言え、ぶつかる時は、徹底的にぶつかるべきだぞ」

「心得ておくよ」


言いながらも、こればかりは個々人の用兵戦術の違いなのだから、どうしようもないと思う。

もっとも戦略的な勝利においては両者は一致していると、傍から見ていてティグルは思うのだが、それを言えば面倒なことになるだろうからあえて、そこは指摘しなかった。

同時に十分すぎるぐらい風の力を溜め込んだと思われるアリファールとアメノムラクモによって足場が浮かび上がる感覚を覚える。


―――準備は完了した。無言でそれを伝えて、四人の男女が風を受けて最後の戦いに赴くことになる。

いざ行かんとした時に、ティグルが一言を伝えてきた。


「―――実を言うとな」

「?」

「リョウが、ジスタートで『七軍船叩き』なんて無茶苦茶なことやったから、それを俺もやってみたかった」


その言葉に、思わず笑ってしまう。こんな無茶な作戦をやった背景は、ただ単にティグルの―――英雄的願望であったようだ。


それに巻き込まれて嫌な気分は無い。自分とて義経に憧れた。その義経のように弓の名手になりたかった。

あの『八艘飛び』で、自分は和弓を使った戦いがしたかったのだ。


「いいんじゃないの。俺はあのレグニーツァの合戦で、お前みたいな弓の名手だったらばと臍を噛んでいたんだ」


伝説を体現したいというのは男の無謀な願望ともいえる。


だがそれを持っている限りは、死ぬ事は無いだろう。


そして今から戦うのは―――英雄でもなく、悪鬼でもない……一人の『女』なのだから……。







―――いったか。この一言を吐き出すまでに本当にフィーネとしては、一苦労であった。


形の上だけとは言え一匹狼であった自分が軍団を鼓舞して、かつ出てくれば殺されるだろう大砦に相対するなど、傭兵人生においてもそうそうない体験であった。


(ヴィッサリオンだったらば、団を指揮してそんぐらいはしたかな?)


苦い思い出と同時に、少しの甘さが自分の胸に蟠る。

少年のような顔をして己の夢を語った一人の男。

そして―――、自分が殺した男。


どちらも同じくエレオノーラの父親だった。


「ヴィッサリオン……あんたの娘は、生かして帰すよ……」


もしも、あの二人の若者でどうにもならない事態になれば、自分はとりあえず砦内に入り込もうぐらいには考えていた


だが、リョウ・サカガミの伝説を全て信じるならば、勝利しかないはずなのだ。


砦内に入り込んだ流星にして竜星。それらが全てを決するはずだ。


「サフィール殿。 我々はどうしますか?」

「とりあえず後ろの警戒をしつつ逃げ準備。今更砦に入り込もうとしても無理なんじゃない?」


決死隊の隊長が聞いてきた事に予定通りのことをフィーネは話す。その顔は少しだけ落ち込んでいるようにも見える。


「その通りですな」

「エレオノーラの心配は、とりあえず杞憂だろうさ。あの三人ならば問題なく姫様を守ってくれるさ」


決死隊に選ばれただけあって彼らの戦姫に対する忠誠心は高い。それがライトメリッツの戦姫としてのものなのか、それともエレオノーラ個人に対するものなのかは分からない。

だが、いざエレオノーラが危機に至れば、彼らは一も二もなく動くだろう。


「アタシも一応、エレオノーラから兵を預かっている以上は、アンタ達を生かす必要があるんだ。何かあれば私が先に動く。報を待っていな」


一匹狼の傭兵であった自分に、軍団指揮など出来やしない。しかし、彼らを無駄に殺さないための策ならば自分にもある。

彼らの懸念を晴らす一番の薬は、一番強い兵士がエレオノーラを助けにいくというだけだろう……と思っていると、怒号が内部で響き始めた。


(始まったか……)


どうやらかなり派手にやっているようだが、本来ならば『シノビ』という間諜崩れだけを殺す計画だったろうに……なぜこんな風になるのか。


「下の連中の動きを探りな。いざとなれば、逃げ出すよ」

「了解です。姐さん」


おどけた言葉に答えず砦を睨みつける。そこで行われている戦い如何で、全てが決まるのだから……。



† † † † †


空さえ穿ち凍てつかせよシェロ・ザム・カファ

大気ごと薙ぎ払え!レイ・アドモス


氷が風とぶつかり合う。猛烈な闘志で吹く吹雪のそれに周囲の誰もが固唾を呑む。

放ったのはどちらも―――16,7の乙女である。己が持つ武器から氷を放ち、風を放つその戦いは正しく神話の再現であろう。

タトラの城砦の中でも開けた場所。そこにいきなり「一人」で現れたエレオノーラ・ヴィルターリア。それに対してオルミュッツ兵が挑もうとする前に機先を制したのは、リュドミラであった。

オルミュッツの騎士達が弱卒だとは思っていないが、それでも戦姫を相手にして、戦えるとは思っていなかった。

ましてや影武者まで用意して自分達を出し抜いたのだ。直ぐにでも砦を破壊する竜技が放たれると思ってリュドミラはエレオノーラに対して一騎打ちを仕掛けた。

それは―――エレンにとっても願ったり叶ったりの展開であったのだ。



「随分とまぁ、とんでもない手を使ったものねエレオノーラ!! 風で砦に侵入して首を取りに来るなんてね!!」

「くだらない理由で戦おうとしている奴に、私の兵士の命を奪わせるわけにもいかないからな。貴様は知らんかもしれないが、オルガもこんなことをやったんだぞ」


槍と剣を打ち合わせながら、そんなことを言ったエレンは、あの時の再現と言えば再現だなと想いだした。

もっともあの時のオルガはティグルを取り戻すためだけに、穴を地竜と一緒に掘ってきた。あれよりは泥臭くないと思い直して、リュドミラを風で押し返す。


「ッ!」


たたらを踏むリュドミラ。先程から激しい戦いの応酬ではあるが、こんな「手」で、リュドミラ=ルリエが簡単に体勢を崩されるなど有り得ない。

つまりは……そういうことだ。知ってしまえば白けるばかりである。


「今のお前は斬る意味が無いぐらいに、張り合いが無いな」

「―――だからといって手加減しようっての!? おまけにそんな大陸風の衣装で!!」

「いいだろう? ウチの仕立て屋が改良して作ったものだ。サーシャの港辺りから輸入された最新のドレスらしいぞ」


喧々囂々と言いながらも剣と槍が乙女の声と同じぐらいに響く。銀色の乙女の格好がいつもの動きやすい戦装束ではなく、どちらかといえば「遊興」のための衣服であったことがリュドミラの火種を再燃させる。

如何に気乗りしなかった闘いだとはいえ、ここまでやられては、流石のリュドミラも誇りを傷つけられた思いを覚える。

何よりその艶やかなドレス姿を「ティグルヴルムド」にまで見せようと言うのならむかっ腹も立とうというものだ。

その桃色の豪奢な「ドレス」。全て氷柱で切り裂いてやるという思いで戦いに挑む。

―――そんなリュドミラに対して会話に『乗ってきたな』と感じたエレンは、時間稼ぎを続行する。とはいえ時間稼ぎなどという舐めた態度でかかって戦える相手ではない。


(急げよティグル!)


槍を突き出すと同時に矢のように飛んでくる氷柱を豪風で、いなしながらエレンは一騎打ちを続行する。

この一騎打ちでリュドミラを倒すことが目的ではない。しかし、あまり暴れすぎても退けなくなってしまう。

面倒なことだと思いながらも、それでも戦いでふざけたことはない。全身全霊を以って戦い、相手に対する畏敬の念を忘れない。

如何に鼻持ちならない同輩だとしても、エレンはそれを曲げたことはない。


だからこそ―――この戦いが終われば、エレンは自分の「母」になってくれたかもしれない「姉貴分」に対して、もう気に病むなと言いたかった。


自分に会うのが億劫だからと変装もしてきた女性。傭兵であった頃は憧れの一つでもあった「乱刃」に対して、言いたいのだ。


(その為にも……今はお前を倒させてもらうぞリュドミラ!!)



† † † †


体よく「桂馬」の如き陣地突破で、タトラ要塞に入り込めた四人は、予め決めていたわけではないが、エレオノーラを囮にして、要塞内部に入り込む事にした。

要塞内部の生活空間であり、整然とした様、篭城するのに全て揃っている様子を見るに正攻法で破ろうとすればどれだけの時間がかかるか分かったものではなかったなと感じる。

自分達の横を勢い良く飛び出すように走って行った『騎士達』。金属音を鳴らしながら廊下を走っていった騎士達に複雑そうな顔をするのは、この中では同輩であるピピンである。


「エレオノーラはこんな事をして、何やっているんだ?」

「色々だな……俺の時には……言えない。ちょっとした悪戯気分なんだろう」


空気の層を利用した透明化。エレオノーラから「感覚的」なもので教えてもらったが、存外多くの人間にばれないものである。

ティグルは、頬を掻いてこれに「同乗」させてもらった時のことを想いだして、直ぐに口を噤む辺りに何をしたのやらと思う。

人の秘密を覗き見し放題……リムの部屋にでも入ったのかと問い掛ける。


「な、なぜ分かったんだ!?」

「おい、大声出すなよ」

「すまない……まぁその通りだよ……人間、意外な趣味があるものだ…表面的なものだけ見ていちゃいけないなと思ったよ」


何を見たのやら、まぁ何となく程度には推察は出来る。恐らく「クマ」のことだろうなと思う。

彼女の趣味はサーシャから聞いていたので、その辺は察する事が出来た。

しかし、今、察するべきことはティグルの心情ではなく、大公閣下の居場所である。


ここまで騒ぎが大きくなっていれば、自然と連中もそっちに行くかと思うのだが……そうは行かないだろうと感じるのは、完全にエレオノーラの方に向かったオルミュッツ兵達とは別に、この城砦に残った者達。


廊下の突き当たりに立ち塞がる双子。顔は相似の少女、耳は互いに長いが、髪は赤茶と銀髪の二人が―――暗殺者というよりも、どこかの女騎士の如き衣装でいたのだ。


見覚えというか、サイモンから聞かされた話ならば、その衣装はザクスタンにおいて『戦乙女(ブリュンヒルデ)』と称されるものだ。


「―――見えているのか?」

「下らない小細工はやめなよ。私達二人はサラ様から身体強靭の術を習得したんだから」

「見え見えなの」


ティグルの何気ない呟きに答える双子。70チェート程の距離で答えてくる双子。


「大公様は無事なのだろうな!?」

「心配ないよ。けれど―――あんたを殺さないとサラ様はおじさんの呪いを解かないつもりだ。ティグルヴルムド・ヴォルン」


ピピンの質問に答えた後に、ティグルを睨みつける双子の内の一方、赤茶色のサイドテールが言う。

その視線と言葉はどこかティグルに全ての責任があるかのようだ。しかし、逆恨みも同然であり、どんな理由があれども大公を攫ったことを正統化できはしないだろう。


「一つ聞いてもいいか? 何でお前達はあの甲賀忍者に従うんだ? ザクスタン人ってのは独立心が強いもんだと思っていたんだが」

「拾われたご恩を返してるだけなの。けれどサラ様の身の上は私達と同じく思えた。だからサラ様に暇を出されても、これだけは決着を着けるの」


アスヴァールにおいて、ザクスタンから流れてきた傭兵将軍サイモンが何故、そこまで協力するのかを聞いていただけに、彼女らの戦う理由を知りたかった。

サイモンは金のためだなんだと言っていたが結局、タラードを気にいっていたのだろうとは推察できる。

もしも「ザクスタン」を平らげるなどと話しても嬉々としてとはいかずとも、それに協力するぐらいはするのではないだろうか。


そういった見知った人間を知っているだけに、リョウはこの双子の意思の固さを測ってみた……。


「ティグル、この双子は俺一人で何とかする。お前達は―――左に抜けろ。その先に……大公が幽閉されているはずだ」

「―――やれるのか?」

「やれないこともないな」


言うや否や身の丈に合わない大剣を構える赤茶、特徴的な双剣を構える銀色。

廊下の幅は、十分だ。ピピンとティグルがすり抜けられるぐらいはあるだろう。


故に――――――双子の抜き撃ちの如き攻撃を刀で受けると同時にティグルとピピンは左側に駆け抜けていった。


「待て―――『ここから先は通すわけにはいかないな』―――」


身体を入れ替えるようにしてティグルとピピンの進行方向に陣取る。


「自由騎士! 負けるわけにはいかない……私達が未だ見ない勇者達のためにも!」

「お、お姉ちゃん大変だよ。噂どおりならば、私達が万が一、倒されたらば『華』を散らされちゃうの!」

「どんな噂だよっ!」


とはいえ、隙を見出さない双子を見て「手強い」と感じる。忍びの邪流剣ではなく、正統の剣術。サイモンとの立会いを思いだし、リョウはそのイメージを重ねつつ、切りかかってきた双子を「いなす」と決めた。


―――別にそういう卑猥なことをするためではなく、殺すには少しばかり白ける相手だったからだ。


† † † † †




―――リョウと双子が斬り合い金属音を響かせているのを聞きながら、ティグルとピピンは進んでいく。

部屋はあちこちにある。扉の全てを見つつも、そこにリュドミラの父親がいるとは考えられない。

迷い無く進むのは―――自分の放った矢が「何処」に当たったかが分かっているからだ。

不思議な感覚ではあるが、それでも安心感がある。黒弓を使った際には不安感しか残らないというか倦怠感が最終的に出てくるのだが……。

東方の弓は、そんな感覚を与えないのだ。


「―――あの部屋だが……ピピン。大公閣下の救出は、あなたに任せたい」

「ティグルヴルムド殿?」

「―――俺は別件がある」


指で示した部屋、そこに行くよう頼みつつ、差した指の反対方向にすかさず向き直るティグル。

ちょうどよく影となった廊下の向こうから、一人の女が現れた。

格好こそ少し違うが、それでもあの時の女―――サラ・ツインウッドが来た。


「……勝てますか?」

「勝つさ」

「頼もしいお言葉……あなたのご武勇は必ず皆に、お伝えします」


走り大公の部屋に向かうピピン、その手には解毒薬が握られている。

後は……予定通り、この忍びに勝てれば、それで終わりだ。

とはいえ……接近戦に持ち込まれれば、正直どうなるやら。機動力で上回れる騎馬戦ではない……だが、ティグルは勝つつもりだった。

条件さえ満たせば……。勝てない相手ではないのだから。


「―――ザイアンは、貴女の良人だったのか?」

「……そんな心ある関係ではないな。ただ……私に向けた一欠片の優しさは、いずれネメタクム領内をいつか善導出来ていたはずだ」

「俺が、その機会を奪ったんだな?」


答えこそ無いが、その怒りこそが彼女をここまで追い詰めた原因だ。だが、言わなければならないこともあるのだ。


「あの方が、魔に落ちた末に殺されたのは知っているよ。だからといって恨みを捨てろなどと臭い事を言うわけでは無いだろうな?」

「いいや。違う。ザイアンが最後に望んだ事を……俺はあなたに返したいんだ」

「何だと?」

「あいつが望んだことはただ一つ……己の領民の安寧のみ―――、それを守るための一騎打ち―――。結局、それはあいつが人でなくなった時点で出来なかったけどな」


空間、高さ6アルシン、幅10アルシン。普通の城砦と考えれば広いほうではあるが、それでもこの空間は彼女にとって、一番の戦場だ。

だが勝つ。ティグルにとって、これこそが本当の意味での戦いなのだから……。


「ふざけたことを……!」

「俺はあなたを止める! ザイアンが望んだことはあなたに、そんな修羅の道を歩ませることじゃない!! あいつの変わろうとした意思は、あなたが変えたザイアンの心根は、正しかったと伝えていくんだ!!」


今ならば分かる。きっとあいつも必死だったのだ。抗えぬ敵を相手に気付いた時には、こんな道しか取れずに矛盾した行動をとってしまう自分に……。

アルサスを襲ったことは許せない。だがティグルとて、非情な決断を迫られた時にどうなるか分からない。


『それ』を覆す「昇竜」は、ザイアンに在らず自分に在ったことは……運命の皮肉だ。

だが、あいつの『心』は持っていく。清濁兼ね合わせつつも、全ての人の思い描いた国のために戦うと……。


「全ての怨みを使ってかかって来い。その全てを手折って、俺は―――あなたをザイアンの望んだ「あなた」に戻す!」

「!!!」


これ以上の「戯言」を聞きたくなかったのかティグルに向けて、暗器が交錯しつつ放たれる。その勢いたるやリョウの斬撃に負けないものだ。

しかしティグルにはそれが見えていた。己の身を抉るものだけに視線を向けて躱すために身を捻りつつ、矢を番える。


狙い澄ました一矢は撃ち終わりの姿勢でいたサラの―――手を狙ったものだ。

しかし手で払われ、撃ち落とされる。手にはクナイが一本、だが続いてはなった矢はクナイの柄を叩き、彼女からクナイを手放させる。


お互いの距離が10アルシンあるかないかの距離を保ちつつの、射の円舞が生まれる。互いに位置を変えつつの射撃の舞踊は城砦の廊下から離れつつも、決して外の人間に知らせること無い静かにして壮絶なものだった。

手数では無論サラに軍配が上がるも、威力はティグルの方が上だ。飛び道具という観点だけで言えば手だけで投げる「達人技」と弓という補助道具を使った「達人技」。

聞かされるだけならば、小細工の応酬にも聞こえかねないが、見る者が見れば、その二つの立会いがどれだけ緊迫し、白熱した怒涛のものであるかが分かる。

お互いに必殺を撃ち合うそれは、一つでも躱し受け損なえば、それで終わりを告げるものだ。


ティグルが今、使っているのは家宝の黒弓である。矢筒に戻したイクユミヤから供給される「無限の矢」でサラ=ツインウッドの交錯暗器と撃ちあっている。

時には、ジョワイユーズを使うこともあるがティグルは、この『女神の弓』で以って倒すことにした。

あの時、ザイアンとの決闘で使ったはずなのは、この弓だ。この弓で勝利しなければならないのだ。


流石に女の体力か、それとも山小屋での手の傷が響いているのか、サラの動きに乱れが見えてきた。


『嬉しいわ。あの女の命を奪うために私の『力』を使ってくれるのね――――』


黙れ。という思念の声と共に「太矢(クォレル)」。本来ならば弩などに使われるはずの矢を番えて、サラの真芯に向けて放つ。

―――それはザイアンを貫いた時と同じく「女神」の力を借りた矢であった。


「呪矢!!」


ジュシ。というヤーファの言語と思しき言葉で驚愕するサラだが、クォレルは元々、砕けやすいように細工していたので力を受けて破裂する。

投石器の樽弾の破裂のように四散する。木で出来た箆。太いものが木片となって勢い良くサラの全身を討つ。

しかし……、その結果はサラが思ったほど無かった。己に降り注いだはずの木弾の破片で血塗れになっているはずなのに……殆ど傷を負っていなかったからだ。


だがティグルは結果を最初から分かっていた。リョウの話を聞いた時から、「そうなる」と思っていた。

だから予想が「当たって」安堵する。


そして予定通り飛び退いてくれたサラ―――お互いの距離が、15アルシンにまで開いた。



「これで最後だ。――――ザイアンを貫いた矢であなたを『殺す』―――」


番える矢は一つ。されどこの一撃で、彼女の戦う意思全てを叩き折るのみだ。


「この距離ならば、私とて貴様を殺せるほどの忍術を編めるさ……印を切るだけの余裕がある……!」


『忍術』。もしくは『妖術』と称される戦姫の竜具と同じ超常現象を引き出す「技術」。

リョウから聞かされたことを思いだしたが、ティグルとしてはそんな馬鹿なという思いだけが、当初はあった。

しかし現実に、それが出来る人間を目の前にしたのだから、詳細を改めて聞きだした。


(妖術なり忍術には一定の動きが必要……それは口訣、もしくは剣訣を切ることによって―――為されるもの)


どんな印で、どんな術が発生するかはティグルには分かるわけが無い。この場にリョウがいれば分かるかもしれないが、それでも不安は無かった。


番える矢。それに込められる力。それこそが全てを決するはずだからだ。


そして――――これは命を奪うためのものではないのだから……。


『甘いことを……やれるならば、やってみせることね……加減を誤れば―――『二つ』の魂が飛ぶわよ』


随分と今日は饒舌である。まぁ女神の普段と言うものを知らないから、どうとも言えないのだが力を入れる前から話しかけてくるとは……弓弦を引く手から血が滴りつつも、照準は淀みなく着けられる。


「火遁!! 油の地獄!!」


言葉と同時に、サラの大きく開いた手から放たれる熱波は、廊下全てを埋め尽くすほどの―――天井すらも舐め尽くす炎の限りだ。


熱で己が焼き尽くされる未来か、それともと考えていた時に―――――。


――――ティグルのいる位置から遠くで戦っていた二人の乙女の狭間から氷風が消え去り、それが、全てを悟らせた。


まるで己達の戦い以上に大切なものがあるかのように―――竜具から一瞬だけ力を失わせた。


エレオノーラが、会心の笑みを浮かべ、リュドミラが、視線を城砦内部に向けた瞬間―――。


―――――タトラの城砦の一角が、轟音と共に盛大に崩れた。


崩れ落ちる岩や木などの城砦の建材。何年もここを守ってきたものの、その呆気ない様に事情を知らぬもの達は、呆然とする。


知るものは少ないが、それでもそれこそが戦いの終焉の合図となった………。



† † † † †



「随分と遠回りしましたわね。とはいえ、伯爵にとっては、そこまでする意味があったのでしょうね」

「得心しているようで何よりだが……まぁ、知っていても知らなくても後味が悪すぎるだろう」

「リョウだったらば、問答無用で殺していた?」

「―――汚れ役をいざとなれば、務めるのが俺だ……第一、『ソウジュサラ』の存在の根っこは俺の国に元凶があったんだからな」

「……さらっ、といつの間にか、帰還隊に入っているが、リョウ。その女は誰だい?」


現在、タトラ山を最短で下っている最中であり、怪我を負ったものや、疲れ果てたものを乗せて『大怪獣』は『のしのし』と山を下っていた。

大怪獣ことプラーミャの背中に乗るものの一人。まるで馬車にでも乗るかのように座っている女とそれなりに真剣な会話をしていたのだが、それに対して、疑問を抱くのは当然だ。

フィグネリアの疑問に対して答える前に―――女、ヴァレンティナ・グリンカ・エステスは答えた。


「自由騎士の妻です。そして子供です♪」


言葉の前半で己の胸に手を当てて、言葉の後半で朱色の鱗を撫でて視線で示した。

胡散臭げな顔で、自分とティナを見比べるフィグネリア。何か疑問……というか疑問だらけなのだろうが、まぁ自分も疑問はいくつかあるが、この女性は時々「美味しいところ総取り」をやってくるので、タトラでの一件を知っていてもおかしくなかったのだが……意外な答えが帰ってきた。


「ソフィーをブリューヌに?」

「ええ、そちらの無理しすぎな格好の女性に簡潔にお伝えすると、公務のついでに単身赴任の夫の仕事ぶりを見ようと思ってアルサスに向かったらば、未だに帰ってこないと聞き、まぁ着いて見ればああいった状況になっていました」

「……それも竜具(ヴィラルト)とやらの効果?」


ティナの長々とした説明に対して気にしたのは、それだけであった。それに対してティナも特別の変化も無しに問われたことに対して答える。


「あまり大っぴらに言うことではありませんが、私の鎌はそうしたことが出来るのです」

「それでここまでやってくるとはね……」

「まぁ来て早々に、気絶したテナルディエ公爵の間諜を連れて転移しろと言われるとは、思っていませんでしたけど……」


言葉と同時にプラーミャの背中で一番、安定した所にいる三人の外様の女と、その横に立ち上がっているティグルとエレオノーラの姿が見える。


三人の内の一人は昏睡したままではあるが、その周囲には不可視の結界が張られており、誰にも害されることは無い。


「親を思う子は強いですね……」

「同時に、子を守る親こそこの世で一番危険な生物だ」


その結界の生成者は―――、甲賀抜け忍「双樹 沙羅」の胎の中にいる「子供」であった。

自分とティナの呟きに思う所でもあったのか、少しだけ悲しげな表情で、そちらに目をやるフィーネ。

視線を感じて起き上がったのかどうかは分からないが、女忍びとの最後の舌戦が、行われる。


(さて、どうまとめるのやら……)


睨み合うティグルとサラの姿に昔を思い出す。それは―――、自分にとっても覚えがある光景だった……。


† † † † †


「―――殺せ。ここまでされて生き恥を晒すつもりはない」

「断るよ。ただ…シノビというのは武士のように『死ぬ事』を本分とせず『生きる事』を本分としている。とリョウから聞いたが?」

「だとしても三度も殺されかけた相手の命を奪わないなど正気ではないな……」

「ザイアンから聞いていないのか? 生憎、剣とかは不得手なんだ」


捨て鉢な感情のままに、そんなことを言ってきたサラ・ツインウッドは、こちらのはぐらかしの言葉に段々と苛立っている様子だ。

本当に自暴自棄な人間というのは、こんな反応にはならないはず。

説得の為の言葉を上手く吐こうとした瞬間に、横槍が入る。


「死にたければ、舌でも噛み切ったらどうだ?」


その言葉に、銀髪と赤髪の従者は、エレンを睨んだ。だが構わずエレンは言う。


「お前は、私の同輩に余計な心労を負わせ戦いに水を差して、更に言えばティグルを余計な戦いに巻き込んだ。遺族慰労金は出すが、それでも私の兵達にも余計な死を出した」

「……恨んでいないのか?」

「兵士個人の感情は、ともかくとして、ティグル一人を殺すためだけにここまでの計略をめぐらすとはいっそ見事と言いたくなる。だからこそ……もう三度も退けられたならば、ティグルの勧めに応じてくれないか……お腹にいる『赤子』のためにも」


エレンの言葉に俯くサラ・ツインウッド。彼女も本当は分かっていたのだろう。自分の命の他にもう一つの命があることを……。

それは恐らく彼の豪傑無き後の、ネメタクムを継ぐべき人間なのだろう。血筋だけで言えば―――その筈だ。


「一族郎党を全て殺さなければいずれは、お前の禍根として残る……何故、私を生かすというのだ……」

「言っただろう……俺はザイアンの望みを叶えたいんだ。その為にもあなたには――――生きていてほしい」


どんな結果が、訪れるかは分からない。だが、それでも「友人」の後を継ぐものを生かすことは間違いではないと信じたい。

戦いの後、モルザイムで見つけた刀身が半ばで叩き折れた剣。これだけが、ザイアンという男の生きていた証であったものを言葉の合間に差し出した。


見覚えがあったのか泣いて、剣の柄を抱きしめるサラという女性。それを見守る「アルル」「エルル」という双子。


「――――ここまでされては、もはや私に自由意志など無い。そして我が子を活かす為にも、テナルディエ公爵家の全てをお話します」


ザイアンの剣を使って長い金髪を乱雑に切り落としたサラが意を決して、口を開いた。

仏門に入る際の『剃髪』というやつなのだろうな。と思い付く。これ以後この女性が自分達に害となることは無いだろうと感じて、その話に耳を傾けることにした。


そんなサラ・ツインウッドの独白に対してプラーミャの背中によじ登ってきた野次馬三人ほどもそれを聞くことになる――――。


ザイアンが魔体と化して、テナルディエ公爵家が竜を使役出来ているのは一人の「占い師」の仕業だと伝えられた。

占い師としてフェリックス卿に召抱えられているそれは、「陰陽師」「妖術師」の類だとサラは伝えてきたが、それは少し違うだろうなと野次馬『二人』は感じた。


「占い師ドレカヴァク……どんな人物だ?」

「大旦那様に唯一不敬を許されている野暮ったいローブを被り、髪の毛は手入れされていない老人だ……格好が格好ならば浮浪者と見られてもおかしくない」

「そいつが公爵家に召抱えられたのは、いつだ?」

「正確には知らない。私がザイアン様に拾われた頃には既に居た」


三年前ほどのことだと伝えてきたサラの言を疑う術はあるまい。プラーミャの背中、不安定な所でも構わずハサミを使いサラの髪を出家した尼の如く切り揃えていくティナ。

疑問は尽きないが、それでもあちらの「力」の大元を知る事が出来たのは僥倖だ。


「これからどうするんだ?」

「大旦那様からは解雇を伝えられた。故郷は既に無い。甲賀の里は、風の噂によれば潰されたらしいからな」


ティグルの何気ない質問に対し、子供を養うぐらいの金子はあると伝えられて、とりあえずきままに諸国を歩くと伝えられる。

全面的に信頼出来るものではないと想いつつも、それでも憑き物でも落ちたかのように晴れやかな顔をしているのは、結局の所……彼女の復讐が失敗に終わったからだろう。

いや、最初から「成功」するわけがないものが予想通り失敗に終わってしまったからだろう。


「サラ様……私達は……」

「―――私は既にお前達の頭領ではないよ。ただ一つ、頼めることがあるならば、大旦那。フェリックス・アーロン・テナルディエの暴走を止めるためにも―――伯爵閣下に協力するべきだ。お前達の『勇者』も、伯爵閣下の幕営にて見つかるかもしれないのだから……」


諭すような言葉で言われた耳の長い「森の精」のような双子は、こちら―――ティグルとエレオノーラを見上げる。

不安げな眼差しを受けつつも、ティグルは微笑を零して首を縦に振った。


「ウチの殿は、広く賢者や戦士を募集している。その来歴に拘りはないさ」

「何でお前が言うんだよ。その通りだけどさ……『アルヴルーン』『エルルーン』、二人ともそれでいいのかな?」


その言葉に……双子は「双樹 沙羅」の身の安全を保障してくれるならば、と言ってきた。

こちらとしては、これ以上彼女をどうこうしようとは思っていない。ただもしも、テナルディエ公爵家に何かあれば、戻ってきてほしいとだけ含めておく。


「分かったの王様、私のご飯のため、私達の勇者を見つけるためにも従うの」

「……ヴァルキリーとしての意地をブリューヌの皆様方に見せてあげます」


強壮で知られるザクスタン傭兵が、自分達の幕営に加わったことは戦術の幅を広げるだろう。

スカウトにしてファイターにしてセージでもあるべき彼女らの加入は大きい。


だが、そういった打算的な考えとは別に、双子の様子に「……似ているな」と同時に呟いたのは、フィーネとエレオノーラであり、二人とも己の胸中に対して苦笑を漏らすしかなかった。


―――そんなこんなしている内に、タトラ山を下りた所で―――双樹沙羅はいなくなった。


『すまなかった』


そんな一言と同時に『韋駄天の術』で去っていった。彼女の座っていたプラーミャの背中には、丈夫な袋が三つ。

中身は金銀財宝の限りであり、それが色々な意味を持った『謝礼金』であることは分かっていた。


「これで全て終わったかな?」

「アルサスに戻るにはもう『一仕事』あるが、そちらは戦いではなく戦後処理みたいなものだからな」


疾風の如く強襲して、疾風の如く撤退した自分達の功績をリュドミラがどのような形で、落とし所を着けてくるのか、それ次第だ。

プラーミャの背中に立ち、地平線の彼方に目を向けながら、ティグルに対して、そんな事を言う。


誰にも知られず姫君の杞憂を除き、誰にも知られず戦いを終わらせた自分達に対して人質返還含めて、どんな話が持たれるか……。


それが終われば……遂にアルサスに戻り、テナルディエ公爵との戦いに全力を注げるだろう。


人からは遠回りであり、迂遠な道のりだと思われかねないだろうが、大きなことを成し遂げるものは多くの困難を突破していかなければならない。



……それこそが「英雄」としての「試練」でもあるのだから。










あとがき

連休最終日にアップすることは出来たが、今回でオルミュッツ編全てを終えられなかったのは少し悔しい。

まぁ予想以上に冗長な文章にしてしまった自分の力の無さだろう。反省である。


では感想返信に移らせていただきます。


>>孤高のレミングさん


鎌「では、この成竜(100チェート)プラーミャを抱かせてあげましょう♪ 別に幼竜じゃなくてもよろしいですよね?」(イイ笑顔)


どうもお久しぶりです。

なんやかんやと言いながらも、魔王がここまでやってきました。

原作各国は、とりあえず良くも悪くもヤーファによって国の運命が少しずつ変わります。

詳しくは語れませんが、「残る部分」もあれば「終わる部分」もあるとか、そんな感じです。

まさかシャナと文章が似ていたとは驚きである。最初、考えていたのはロックマンゼロのCM(声優社員)の言葉とか、浦飯幽助の覚醒とか、そのぐらいだったんですがね。

フィーネは原作でもまだそんなに描写されていないので、出した以上は、本当にどうしたものかと想いましたが、ギャルゲーとかに良くいる「婚期に焦る主人公より年上ヒロイン」とか、そんな感じで描写させていただきました。

異論反論ありましょうが、ご了承ください。


落第騎士も一応さわりだけは読んだのですが、何となく最弱とかの方を優先させてしまっていますね。

改めて読んでみようかと想いますが……ワルブレの悪夢が過ぎるのは、GA文庫の宿命か(苦笑)


>>almanosさん


感想ありがとうございます。

エレンのファッションチェックはいつでも辛口です。おす○とピー○とかと同じぐらい(笑)

ただ前にも書きましたが、戦姫衣装はよし☆ヲの考案ですからね。そんなよし☆ヲ先生が久しぶりにラノベの挿絵を担当していましたが、線も少し違うが、何より衣装が大人しすぎる……!

まぁ設定が設定ですから流石にそんな冒険は出来なかったかと想いつつも表紙のヒロインが破けたシャツでヘソだししているのは、ぶれねぇな。などと感じる俺は毒されている。

フィーネ的にはエレンの衣装は「10代女子」が着るようなものに見えたのでしょうね。具体的には「JKの私服」といったところか。

そして姐さんの戦姫衣装か……あの黒い隼衣装ではないのになるのだろうか、12月の13巻に期待である。

ビジュアルイメージを明確に提供できないのがもどかしい! まぁみんなそれぞれ巷に溢れるTS戦国武将・英雄よろしくな格好です。

有名な原画家の多くを参照しつつ作中で書いていますが、こういう時に少しだけもどかしく感じてしまいます。



とまぁ、そんなところですかね。


新クールのアニメはラノベ原作が多く、果たしてどれが目立つ(良し悪しで)のか今から戦々恐々としています。

心をまっさらにして期待も何もなく事前情報の殆どを消去しつつ見ていこうと思ってはいます。読んでしまったのはしょうがないですが……。

ではでは今回はここまでお相手はトロイアレイでした。


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