戦の準備が行われる。それは、別に兵隊だけの仕事ではない。郷里……ヤーファでも城内に入らせた女性陣が、戦場に出る連中の為に塩たっぷりの握り飯を握ることある。
戦に一番消費されるのは食糧よりも何よりも兵士の身体にある水分と塩分だ。それを補うためにも普段作る握り飯よりも、塩分多い方が兵士は良く働ける。
つまりは、セレスタの街では現在、戦闘糧食が作られている。アルサス領兵士及び援軍としてやってきたライトメリッツ兵士達のための食事作りだ。
その光景と作られているメニューは郷里とは無論違うが、大鍋で汁物を作る辺りはどこでも同じなのだとしみじみ思う。
「こちらお使いになってください。いま必要なのは兵士達の塩分補うためのものですから」
広場の一角で大鍋を用意していたセレスタの女性陣に貴人の女性が差し出したのは、華の彫刻一輪どころではないもの。
その正体は土塊ではない。
「これ……岩塩ですか? こんな高価なモノ……」
「私の領内で採れた特産品です。彫刻にして税金逃れもしていますから、塩が足りないことあれば公国オステローデを御贔屓に、お安くしておきますよ」
さりげなくセールストークを行う雇われ先の領主。彼女の逞しさに感心しつつも、あっさり裏事情をばらすんじゃないと思う。
(まぁ商法の整備が少し遅れているのは、ジスタート特有だからな……)
厳密な罰則規定が無いのは問題だが、余所の国の事情なのでそこまで進言しない。ユージェン様辺りにそれとなく言っていそうだが……。
「冬が厳しいジスタートですから、商いのそれに関してはあまり罰則しないんですよ。リョウの国でもそんな風だと聞きましたけれど?」
「そりゃ商業や歓楽街を規制しようとしても完全には無理だからな。規制してもそれをすり抜けたものが、出回ってしまう」
故に商法も厳格なものではないものとした。無論、あまりにも街の風俗乱したり、儲けに対する税金隠しに関しては厳罰する。
白洲にて様々な裁きはされている。それでも自分の領地は持ち込まれる沙汰は深刻ではない。それでも巧妙な偽装隠ぺいあれば、それを見つけるために市井に行くこともある。
「遊び人の「リョウマ」「リュウさん」とか言われてるんでしたっけ?」
「市井を知るには市井に紛れるのがいいのさ」
ただ単に遊びたいだけだろ。と隣を歩く―――別の姫(サクヤ)に言われた時には、反論出来なかった。
そうして、外に対する支援的なものと見回りを終えて、ここの領館に戻る。ここに来るまで目立った混乱は無く、次の一戦のための準備を全員がしていた。
未だに鼠賊共は、この辺りにたむろっている。
「お帰りなさいませ。ウ……じゃなかったリョウさんにヴァレンティナさん」
「構わないよウラでも、どちらも俺の名前だからね。ただいまティッタさん」
入り込んで最初に挨拶をしてきたアルサス領主の侍女に礼をしてから、館の中央に行く。
「すまない。遅れたかな?」
「いや、今からだ。テナルディエ軍に追撃を掛ける―――。軍議に参加してくれ」
歓待されながらも真剣なまなざしを受けて、館の中央のテーブルまで進み出る。
そこにはこの辺りの正確な地図があった。テーブルを覆うほどの大きさは、何故ここまで正確な測量地図があるのか疑問も出た。
「ティグルは私の部族から馬を買って牧場事業を展開していたんだ。その際の測量地図だ」
答えを示したのは同じく軍議に参加している若輩の戦姫―――あのリプナでの出会いから、ここまでやってきた女の子だった。
自分の言葉でティグルヴルムドを光とするほどだったので、何というか色々と人と人の出会いはどんな形で繋がるか分からないものである。
その一方でエレオノーラはいつも通りだ。いつも通り「油断ならぬ敵」として「信頼」出来る。
卓の反対側―――。ティグルヴルムドの両隣にはオルガとエレオノーラ。それを正面に見据えながら、自分も卓に広げられた地図を見る。
「頼む。みんな―――俺に力を貸してくれ」
数で劣る自分達がテナルディエ遠征軍に勝つための策―――それを出すことをティグルヴルムド・ヴォルンは頼んできた。
言われるまでもなく、自分は自分の策をこの男に授けようと思う。それを実行するかどうかは彼の判断だが……。
円卓に並べられたこの辺りの地図を見ながら勝利の方程式を組み上げてゆく。
† † † †
テナルディエ陣営は暗く沈んでいた。自由騎士の参戦によって当初から逃げ支度は完了していたが、そこにまさかジスタート軍が襲いかかってくるとは東洋の格言で「泣きっ面に蜂」といったところだ。
サラから教えられたそれを思い出させるほどに敗北であった。何より略奪も殆ど出来なかった。
「ヴォルンが……帰還しただと!? そうか!……ジスタート軍の派遣を決定したのは最終的には奴だな……ふん。傀儡になってまでも、領土が惜しいか…!」
吐き捨てつつも、気持ちは分からなくもない。あの地にはヴォルンの大事な人間がいるのだろうから。
「自由騎士を足止めしていたのは良かった……だが、その後のジスタート軍の突撃が予想外だった」
返す返すも、日が悪いとしか思えない不運続きだ。しかし、このまま逃げ帰ることは考えていない。
この一戦には、自分の進退と自分がやってきたことの決算が待っているのだ。それを考えれば逃げることは出来ない。
「セレスタを焦土にする為にも、やはりヴォルンには決戦を挑まなければならない。第一……このままいけばガヌロン遠征軍ともぶつかる」
奇襲を受けて逃げてきたので武器などはともかくとして燃料や兵糧の類は、あの幕営内に置きっぱなしだ。
そんな所を適当な理由をつけて攻撃されたらば自分たちは壊滅だ。退く道なく、前に進むしかない。
「戦力確認は?」「兵二千と百です」
三千を超える大軍の内九百が自由騎士によって殺されたようなものだ。無論、それはどんぶり勘定で、実際はジスタート騎兵軍による攻撃やアルサス兵達による反撃もあったのだが。
全ては自由騎士が、こちらの戦力展開を阻んだ結果だ。
(英雄かもしれんが……あれでは化け物ではないか!)
ザイアンにとって、それは恐怖だ。生首十を放り込んだ後に、獲ろうと思えばあの男は、自分の首を獲れたかもしれない。
血飛沫舞う中でも輝く目を向ける神域の剣士。まさに「死神」だ。
知らずに親指を噛みながら、考える。考えなければ負けるだけだ。現状確認の為に近くにいた従者に聞く。
「それとどこからともなく現れた自由騎士の隣にいた女……あれは戦姫だな?」
「確証ありませんが、そう考えて良さそうでしょう。実際、我が軍の中の多くはディナントで戦姫から命からがら逃げ延びてきましたから…」
奇態な大鎌。自由騎士の振るう刀とは違い、実用的でない武器が自由騎士に負けず劣らず兵士達をアルサスの大地に死伏せた。
(戦姫が最低二人はいると考えて行動した方がいいだろうな……もしも自由騎士と同―――)
閃きがザイアンを動かした。ついぞなきその戦術のそれは、言われたディナントでも思っていたことだった。あの戦い。確実に勝てる芽はあったのだから。
「……作戦を立てる。スティード卿を呼んできてくれ」
ザイアンとしては、それは最良の作戦であった。
もしもそこに「戦鬼」「虚影の幻姫」「羅轟の月姫」など多くの要素あってこその「戦場」でなければ勝てたかもしれなかったが、それでもその男に運は向かなかった。
破滅と破局の日は―――確実に近づいていた。
† † † †
「―――――足りないな」
地図上に展開された軍移動の様を見ながら、リョウは一言発した。それはある意味、この会議場を凍りつかせることとなったのだが、構わずリョウは自分の意見を発する。
「? これ以上なく最良の作戦だと思いますが……ご不満ですか?」
ライトメリッツの女将軍であり軍師でもあるリムアリーシャが、眦を上げながら、問い詰めるように言う。
「ああ、敵は予想外に粘り強い。そして何より工夫もある。俺がザイアン・テナルディエだとしたらば……俺とティナを最大限警戒するはずだ」
自分達を最大の脅威と認識した後のザイアンの変化は早かった。それはこの国の貴族としてはかなり柔軟な発想ゆえのものであった。
あちらが採った戦術の内容を話すと、ティグルヴルムドは「変わったな……」と呟き、それからこちらに意見を求めてきた。
「サカガミ卿、ならどうすれば勝てる?」
「勝つことは容易い。卿とリムアリーシャの作戦においては、俺かオルガ、ティナが最大の脅威を排除すればいいだけだからな」
「私を含めろ! 別に総指揮官だからと『役目』を他に押し付けん。寧ろ、お前こそこれ以上戦って武功を重ねるな」
エレオノーラの言葉を無視しつつ地図上の駒を移動させる。ティナが持ってきたチェス盤の駒だ。それを移動させていく。
ティグルヴルムドとリムアリーシャの作戦ならば勝てる。しかし―――自分の予想通りならば被害が大きくなる。
被害を少なくして完全に勝つ。こちらは少数なのだ。如何に強兵でもっていても少しの損害が継戦能力を減じる。
「……これの意図は?」
「完全に壊滅させる。その為の作戦だ。それと開戦時刻は今から一刻半後がいいだろうな」
敷いた布陣の意図を完全に読めなかったティグルヴルムドに言う。
そしてこちらの考えを駒を移動させながら話す。一言ごとに質問が飛ぶがそれに明朗に答えて反論を消していく。
語り終えると―――――静寂のみが、部屋に残った。
「―――あなたは……軍師としての才能もあるのか?」
オルガの呆然とした言葉。確かに自分には個人の武勇のみが際立ち、指揮官としてのそれはなかったなと思う。
「そりゃ俺も剣だけの猪武者じゃないからな。そして何よりあちらさんには「ディナント」での恐怖病が多い。だろうエレオノーラ?」
「……色々と認めたくないが、その通りだ。逃げていく賊の中には私が「ディナントの悪魔」であると分かった連中もいた」
腕組みのまま、一番反論してきたエレオノーラが不機嫌そうに言う。苦笑しつつも、これを採用するかどうかは総指揮官であるエレオノーラとティグルヴルムド次第だとして視線を向ける。
「エレン、作戦の主力は君達ライトメリッツ軍だ。だから指揮権は君にある。けれど俺はあまり犠牲は出したくない。サカガミ卿の言う通りならば無用な犠牲が出る。……ここを守るために君の兵に多くの死人が出るのは俺も君も承服出来ないだろ」
「……分かった。というよりもその可能性を私も考えていたんだ。竜を使った戦術―――それを聞いた瞬間から多くの犠牲が出るだろうとな」
それに対してエレオノーラは、己の竜技で始末しようとしていたのだろう。しかし敵は―――大勢であり、巨大だ。
「すまない。ティグル……私はお前に無用な責を負わせようとしていた……リョウ・サカガミ……お前は、どこにいるんだ?」
「中央だ。火竜は俺が始末する。お前は地竜を始末―――飛竜に関してはまだ未知だ。しかし出てくれば俺とお前で始末する。いいな?」
「言われるまでも無い。というか嫌なことにお前と協力することになってからアリファールがとんでもなく嬉しそうだ。だからさっさと竜を殺すぞ」
戦いの「ツボ」を見誤らない。敵の強みを一直線に叩き潰す。それこそが自分の役目だ。そしてそれはエレオノーラも同じだろう。
「では私とオルガは一隊を率いて右翼と左翼に展開ですね。将としての才には不安ですが、騎馬兵として突撃は得意でしょうし」
「言われれば反論は出来ない……。けれど、全力でやるのみだ。ティグルの為にも」
皮肉を言われながらもオルガは戦意が衰えない。寧ろ燃え上がるほどだ。
オルガとティナの役目。それは右翼と左翼の撃破である。オルガには「アラム」などのジスタート兵とアルサス兵を率いてもらい、ティナにはジスタート兵を率いてもらう。
これはティグルの気遣い故だった。オルガが戦姫であることは知れ渡っていても、アルサス兵の多くは気心しれる人間に率いてもらった方がまだ信用できるからだ。
「そして私とルーリックは……後方で待機ですか………」
彼女としてはまさか、そんな役目だとは思っていなかったし、何より副官としての立場を奪われるとは思っていなかったのだろう。
「不満なのは分かるが、最後のとどめの為にも元気があり、馬も最良、武器は最上の部隊が必要なんだ」
「リム、勝利の栄誉と花道はルーリックと分け合えよ」
だから最後の攻撃の為にも―――何があっても動くな。そう言外にエレオノーラは含めた。
「ところでサカガミ卿……何と呼べばいいんだ?」
「何を?」
まさかこの作戦に気取った名前でも付けようという考えでもあるのだろうか。と思ったが、この「王」は意外な事を言う。
「いやあなたのことだ……俺としては、あんまりしゃちほこばった態度で居たくないし、拝跪もされたくない……同年代の男子なんだからな」
「変態色情狂とでも呼んでやれ」「エレオノーラ、私の夫に罵詈雑言吐かないでもらいましょうか?」
剣呑な言い争いが始まろうとしているのを察しつつも、自分としてはこの青年領主に何と呼ばれたいのか分からない。
『弓』が大得意。それだけでリョウとしては羨まし過ぎて「爆発しろ」と言いたくなるほどだ。しかしティグルからしても同じだった。
自由騎士の噂を聞いた時から、その武勇に自分は羨望を抱いていた。しかしそれに勝ることが出来ない我が身に窮屈さを感じていた。
しかし……こうして相対すると――――何故か、嫌悪も羨望も無くなる。リョウとしては「魔弾の王」が、この青年であろうと確信はしている。
だがそれと相手を真に敬えるかは別のことだった。彼を助けて魔を討ち払うぐらいはしていただろうが。
あんまり深入りするのは危険だ。そしてリョウも親近感と気安さを感じつつも今はまだ線引きしなければならない――――。
「勝手に呼べ。何でもいいさ。ただし俺は俺なりの理由でそちらをまだティグルヴルムド卿と呼ばせてもらうが」
「分かったよリョウ」
その笑顔にこれ以上の悪態は突けなかった。こちらが突き放しても彼は、こちらに近づいてくるのだ。
別に節度を守っているだけだというのに……。逃げるようにして、目の前を辞することにした。王になれる人間ではあろうが、それでもまだ俺はこの男を見定め切れていないのだから……。
「俺は全ての準備を一刻半後までに用意しておく。お前たちも諸兵に号令しておけよ」
「私も指揮する兵士達に挨拶しておきますか、では少し失礼いたします」
「私もトレブションさん達に改めて挨拶してくる。ティグル、ティッタさん。ちょっと出てくる」
―――――屋敷から三人がいなくなると同時に、ティグルは力なく声を吐く。
「フられたかな……?」
「お前「そっち」の趣味があったのか!?」「ティグル様!!」「非生産的ですね」
「そっち」って「どっち」だよ? と不機嫌に思いつつもティグルとしては本当に残念だった。
別にこれからも彼を利用しようという考えではなかったのだが、それでも何か彼なりに思いとどまるものがあったようだ。
最初の出会いの時に、もしかしたらば―――盟友となれると思えた。それは打算では無くティグルにとっては求めていた友人だからだ。
自分の弓の全てを認めてくれる相手。そんな人間と友になれれば自分は多くの戦場を駆け抜けられると思っていた。
(俺を……「光」としながらも、それに「惹かれる」ことはない……俺に何があるんだ?)
リョウは全てを知っている。全てではないが、それに近いことは知っているはずだ。それがオルガをここに導き、彼自身もここに招いた。
我が身の流れるままのそれが、全て運命であるというのならば、それを教えてほしい。
何より―――――。彼に完全に認めてもらえないことが自分にはとても不満だ。
「リョウの言う通りならば中央には厄介な部隊が出てくるはず。剣が届かぬ距離ならば俺の弓で認めさせてやる」
「その意気だ! むしろそのつもりで奴を這いつくばらせろ!!」
自分の意気はそういうことではないのだが、なんでこんなにもエレンはリョウの事を嫌うのやら―――。
出来うることならば仲良くしてほしいのだが。
「弓……ティグル様……戦にはこちらを持っていくべきです。ウルス様の遺言の「時」は「今」です」
そうして、思い出したかのようにティッタは家宝である「黒弓」を携えてきた。
愛用の弓は、既に張り直しが利かなくなってしまった。それを考えれば、これを持っていくべきだろう。
何より父ウルスの生前に語っていた「時」―――――。それは今だろう。そして何より自分はリョウ・サカガミに負けたくない。
(認めさせてやる―――本当の自由騎士に―――俺の誇りは―――負けないんだと)
領民を守る。そして何より男として憧れた人物に自分の全てを認めさせてやるのだと―――ティグルは、その弓を持ちながら心で決意した。
そして一刻半を過ぎた時―――モルザイム平原において、両軍は対峙することになった。
† † † †
二千百と九百の戦い。数の上でならば確実に前者に軍配は上がる。だが寡兵で以て戦う術ある以上、それは盤石ではない。
それを一番認識しているのは―――――二千百の方であった。
「前進!!」
二千百の軍勢が馬陣を揃えて平原を進撃してくる。
その威容と、並び方に指揮官たちは――――目を丸くした。作戦前に言われた通りの陣容と戦術のそれだ。
あまりの嵌りっぷりに、何か妖術……いや妖術に近いことを出来るのは知っていたのだが、それでもここまで読み切るとは、頭のキレも大したものだ。
「正直、話半分でしたが……本当にサカガミ卿の言う布陣で来ましたね。しかも、竜の上に居ますよ」
「中央三百、右翼二百、左翼二百、後方二百。この布陣で完全勝利を目指す……か」
件の自由騎士より渡された「望遠鏡」で所定の位置にて確認したリムアリーシャは、隣にいるルーリックと共に主戦場にいれないことに少しだけの不満も覚えていた。
だが、これを『覆す手』が都合よくあらわれるのだろうか。
それは――――――。
『二百の兵を三倍に増やす――――『疾風』―――』
そう聞かされていただけに、自然と左翼を率いるオルガは空に視線を向けた。確かに今、この平原に吹く風はこちらにとって追い風だ。
しかしこの程度の風では―――、確かに騎馬の民の馬は強壮であり、優秀だ。ありとあらゆる風に乗ることが出来る。
ティグルはこの事態に際して、全騎兵の馬をモルザイムにて放牧していた馬に替えていた。それはただの放牧馬ではなくいざとなれば、いやすぐにでも軍馬になれる馬だ。
それを一番、オルガは分かっていただけに、自分たちが右翼・左翼を突破していく要なのだと理解出来た。
そんな理屈を察して、尚且つリョウの軍略も知っていた右翼を率いるティナは何も不安を覚えていなかった。
慢心している軍は一度追い落とされただけで水鳥の羽音にいもしない大軍勢を見る。闇夜に焚かれる篝火の多さとそれをつけた「獣」に進軍を止められる。
何より彼はここに吹く風を知っていた。天文と土地の者とに聞き、この辺りの地形を見たからこそ今、この「時」に―――戦いを挑んだのだ。
『偽』を『真』として、『真』を『偽』とする。相手の頭脳の程を察していなければここまでの策は打てまい。そんなティナの不安ごとは―――戦いの後である。
戦いの後に―――何が起こるか、まだ勝ち負けも決まっていないというのに、それを望みつつも、もはや自分はこの戦いに関わるしかなくなる。
ティグルヴルムド・ヴォルン伯爵。馬を横に並走している男こそが求めた光だ。しかしそれは魔を討ち払い、この西方の王となるべく運命付けられたものだからだ。
だが……そればかりに肩入れ出来る人間とも言いきれてはいない。この男を俺はまだ見極めきれていないのだから。
「前進か」
呟くティグルヴルムドに答えを出す。まだ戦闘距離ではない。奴らの不安感が最高点に達する位置まで、誘いを掛ける。
「突撃じゃない辺りが、奴らの不安感の正体だ。奴らは今、後ろから来るのではないかという奇襲を恐れている」
生憎ながら伏『兵』はいない。これから奴らが受けるのは奇襲では無く「強襲」だ。そうしているとティグルヴルムドが、再び話しかけてきた。
「なぁリョウ……俺に何か求めたいことあるか? この弓だけが俺の武芸なんだ。それで俺はお前に借りを返したいんだ」
彼もこちらの態度の悪さを軟化させたいのだろう。あちらがどう思っているかは勝手だが、それは借りでも何でもないと思う。
しかし―――リョウは少しだけ、この狩人領主の実力の程を知りたくて無茶な注文を出す。
「………ならば俺の『速さ』に合わせて弓を射かけてくれ……正直、援護射撃もなく前に出るなんて怖くてしょうがない」
「そうなのか?」
心底びっくりした顔をするティグルヴルムド・ヴォルンに、先程までのイジワルさを無くして、やはり何故か正直な気持ちを吐き出してしまう。
「俺はヤーファでも射戦の後の突撃戦で存分に暴れろと言われる。けれども俺にとって突撃戦、乱撃戦ってのは本当に怖い」
心底いやそうな顔をしながら語るリョウ・サカガミに、本当の意味で親近感が湧いてしまう。
「外れそうな矢でもどんなに俺を殺しそうなほどに自分を擦過する矢でも「護矢」は俺にとってはありがたい「護矢」なんだ」
「若はそんな矢は放ちませんぜ。サカガミ卿、その矢はみんなを守る本当の光なんだ」
バートランさんの言葉を聞きながらも、自分はティグルヴルムド・ヴォルンに「挑戦」をしなければならない。
この男が本当に王だというのならば、俺に閃光を見せろ。俺に神速の先を見せろ。俺に―――――――。
「俺は何処にだって翔ぶ。どんな援護だって生かす。だから……俺に「魔弾」射ってこい!!」
その時浮かべた―――互いの顔は、いつまでも忘れられない。お互いに得るべきもの、お互いが欲しかったものが一致した時だったからだ。
そして―――最初の激突が始まる。中央突破と見たテナルディエ公爵の弓騎歩の三軍九百が中央の三百とぶつかる。
「突撃!!」
最初に号令をかけたのは、エレンであった。中央と言ってもリョウとティグルと少し離れた所にいたエレンの号令は中央で三倍の敵とぶつからせた。
もっともエレンの中央軍は全て騎馬兵であり、その突破力はとんでもないものだ。無論、負けじと公爵軍側も騎兵を歩兵と共に押してくる。
それでも先手を獲ったのはこちらだ。勢いはこちらにある。
エレンの反対側ではリョウとティグルの率いる中央軍がいたのだが……。その時、エレンは――――信じられないものを見た。
この場に吟遊詩人がいれば、その様を見て全ての人間の心を打つ最高の武勲詩が唄えて一生を喰うに困らないかもしれない。
(言いたくないが……言わなければならないかもしれない……私は―――――伝説を、神話を見ている)
そうしながらもエレンは迫りくる騎兵に対してアリファールを向けて鎧袖一触をしていく。そんな彼女もそれに近い存在ではある。
中央から躍り出た黒髪の侍は騎馬から一度降り立ち、飛ぶようにして地面すれすれを跳びながら、剣を振るった。一撃にして隊五十の騎馬全ての脚が止まる。
その五十の騎兵に対して次から次へと矢が奔る。己に近い順、二百五十アルシン先の距離を時間差で撃っていたからなので、タイムラグはあった。
だが傍から、それはまるで『同時』で突き刺さったように見えた。飛来した『閃光』が落馬した騎兵全ての眉間を正確に射抜いた。
面頬の隙間から突き刺さるそれは、ただ一人の所業だ。
騎馬の壁が崩れてそこから次の敵。今度は歩兵だ。長槍などを翳してこちらに近づけないような戦法。
気合いを込めて放たれるそれを前にして侍は跳躍。歩兵百の頭上を飛んでいく。そうして頭上を見た瞬間の隙を狙って、後ろにいた弓兵―――騎馬を操りながらも見事に矢を放ち、歩兵を一矢で三人まとめ殺す。
前の恐慌が伝わると同時に、後ろにいたサムライは神速の乱撃を繰り出す。歩兵集団を一刀の下で殺していきながら、弓矢の位置が分かる。
変な話だが―――「お互いの呼吸」が分かるのだ。
弓は、ヤーファの弓術―――ヤブサメ(流鏑馬)のように歩兵集団をぐるりと回りながら撃ちぬいていく。しかしそれは歩兵集団を中から斬り殺している刀には当たらない。己の位置を理解して、相手の呼吸が分かる。
それが戦場の絶技を生み出していた。殺しつくすと同時に弓の前に出る刀。それはまるで『王』と『王』の狩りの成果を見せ合うかのように一致したものだ。『示しあわせた』わけではないが『示しあわせてしまう』
そんな少しの待機時間に、背後を狙う狼藉者の矢が飛ぶ。歩兵の後ろにいた弓兵部隊の矢だが―――それを刀―――リョウは回転するようにして得物を一回転させて打ち落とした。
自分と弓――――ティグルヴルムドを狙ったものだけを正確に打ち落とし、リョウが落とした矢を空中で受け取り弓に番えるティグル。
三矢―――扇状に狙いをつける。
「リョウ!」「―――ティグル!」
何でもない呼びかけ。だがそれだけで意は伝わった。弓隊は一列に並んでいる。それを前にしてもティグルは自分に覆うように撃つ。背中に迫る矢、残り二十アルシンに迫る所で、身を屈めてやり過ごすだけでなくその矢の軌道を追う。
「ひっ!!!」
悲鳴を聞きながらも、手を貫かれ弓を落とした一人の首を落とす。もはやここまで迫った時点で弓隊は混乱に陥っていた。
胆で睨みつけながら、弓隊に停滞を促す。それこそが最後の敗着であった。
(俺ならばもう一度試すね! 『魔弾の王』が照準を合わせる前にだ!!)
先程放たれた矢の軌道を逆回しにするかのように、混乱して止まっていた弓隊に絶命の矢が突き刺さる。
弓隊の死体の前まで来たティグル、その弓隊の無用となった矢筒を投げ渡してから、口笛を吹き馬を呼び寄せる。
「たかだか三十人ばかりの弓隊で援護射撃が出来るわけがない……本命は竜の上か!」
「エレオノーラの方を支援する。横っ腹を突き破る―――――もっとギリギリでも構わないぞティグル。俺の速さを舐めるな」
と言いつつも、原因は分かっている。こちらの言葉に苦笑するティグル。
「矢のストックが追いつかないんだ。しかしお前は、あんな戦陣の中をいつも援護射撃なしで戦ってきたのか?」
「あっても俺の速度に合わせられるほどの天下無双の弓取りがいないんだよ。だから俺は―――一人で戦ってきた」
無論、自分よりも速く重い剣士がいないわけではない。それでも俺の「意」を汲み取れる存在はいなかった。精々、サーシャのような三速ある剣士ぐらいだろうか。
「―――俺は、俺の弓の「意」をリョウが完全に読み取っていることが嬉しい。そして何より―――俺を必要としてくれる剣士が―――いたことが」
矢が思い通りの軌道を描けば、その先の道を切り裂いてくれる剣士。剣が主役でもあり、弓が主役でもある。
どちらが欠けても「先」にはいけない。神域の絶技―――。
「行こうぜ。話してる間にも作戦は推移しているんだ――――」
話を打ち切り、そっぽを向くような形で、馬をエレンのぶつかっている方向に向けるリョウ。
「クサかったか?」
「恥ずかしいんだよ」
それをクサいというのではないかと思いつつもティグルはあえて言わなかった。先程までのどこか硬かった態度が軟化していたからだ。
多分、リョウに自分は試されていたのだ。だが、認めてもらえた。それが嬉しい。
まだ自分はリョウ・サカガミの事を全て知っているわけではない。けれども―――いつかはお互いの全てを曝け出せる友になりたいと思えた。
そうして中央での鬼と魔弾の悪魔的な活躍は戦場での予想外の展開を誘発することになる。
確かにこうして中央で受け止めて火竜と地竜を釣る作戦ではあったのだが、それ以外の効果として、元々の恐怖心も合わさって歩兵部隊は恐慌状態になったのだ。
騎兵を操る殆どは騎士という「職業軍人」であるのだが、歩兵の大半は兵士、領民を徴収した「市民軍人」である。
彼らにとっては略奪出来るからこそ着いてきたわけで、何より従軍して俸給が出ると言っても、上司である領主次第でどれだけ出るか分からぬし、彼らからすれば、生れた土地を守る防衛戦でもなし、何故こんな辺境に来て死ななければならないのだという感覚が出てきた。
そして血臭に混ざって風に乗って香るこの匂い。恐らくアルサスの料理の匂いが、鼻に突く。何故自分たちはここで無為に死んでいるのだと、郷里に似た匂いの料理が作られているというのに……何であんな非道な領主の為に戦わなければならないのだと。
これに関しては、ヴァレンティナの策略であった。
彼女は、各国の軍人の錬成と来歴の程から、ブリューヌの騎士団以外の貴族軍の殆どが市民軍人であることを分かっていた。
そこで各地方の味わいある料理の特徴を察してそれぞれの地方の特徴で「燻製」した「塩」を開発することに成功していたのだ。
アルサスの野戦食に使わせたのは、効果があるかどうかの実験でもあったのだが――――。
(試しにやってみましたけれど……まさかここまで効果覿面とは)
エザンディスの刃で顔を隠しながらほくそ笑む。これを利用すれば間諜達を現地人として紛れ込ませることも容易になる。
しかし謀略の類は、今は置いておく。目の前の戦いに集中しなくてはならない。
右翼左翼の部隊は未だにテナルディエ軍と矛を交えていない。
テナルディエ軍の陣容は中央千、右翼四百、左翼四百、本陣に三百である。
おまけにここからでも見えるが、どうにも後ろをしきりに気にしている。戦力を広く展開していれば確かにディナントでも勝てたはずだ。それは自分も分析した。
ザイアン・テナルディエはそれに従軍していたのだろう。そしてエレオノーラがそのディナントでの軍勢であることは既に知れている。
故に寡兵で以て来る以上、伏兵を気にしているのは当然だが……。
そんな風に考えを巡らしていた時に――――遂に待ち望んでいた疾風が吹いた。
羅轟の月姫と虚影の幻姫が、己の武器を掲げる。風にも負けず掲げた武器。そして示される指示で遂に―――戦端が開かれる。
『シュトゥールム・プラルィーフ!!!』
符丁に従い右翼と左翼の騎兵は、飛び出した。モルザイム平原を怒号と共に蹴って迫る四百の騎兵。
それは風の勢いもあり、まるで神話に出てくる怪物のようにも思える突撃であった。
リョウがこの右翼左翼の軍団に願ったのは――――中央と同じく強襲である。相手の攻撃を弾きながら、進撃に次ぐ進撃で防衛線に穴を空けることであった。
『一回通過したならば、そのまま敵本陣を下がって背後を突く形になれ――――』
丁度、テナルディエ軍は丘を背にする形で離れて陣取っていた。なだらかな丘は、大体主戦場から450アルシンといった所か。
『斥候がしきりに丘の向こうにいるだろう伏兵を探しているだろうが……意味は無い。オルガ、絶対にお前は丘までいけよ』
変化させて長斧と化したムマを振るいながら、オルガはこれが将としての戦いなのだと自覚していた。多くの策を成功させることは、全員の活躍あってこそ成るものなのだと。
疾風の勢いで右翼の部隊を食い破って距離を離す形で、左翼の部隊と共に丘まで疾走する。
抵抗が弱々しく歩兵の殆どが戦わずに、武器と鎧を捨てて去っていくと、神速の突破をティナとオルガに与えた。
敵騎兵達は、向い風で動けぬ所を簡単に撃破された。勢いに乗った軍隊の行軍とは止められることなき風車のようなものだ。
「トレブションさん。ティグルに伝令を!」
「了解だよオルガちゃん!!」
示された通りに伝令役のアルサス兵士が騎兵軍から離れて、元来た道を大きく迂回する形で、陣営に合流することになる。
―――――それを見送ってからオルガは馬笛を吹いて、銅鑼を鳴らすように言った。
そんな背面を取られたことに対するテナルディエ軍の動揺は激しかった。
ザイアンは慎重に、四方八方に斥候を飛ばして伏兵がいるかどうかを慎重に探るようにしていた。しかし見つかるはずの伏兵は居らず――――疑心暗鬼を生みつつも一つの結論を生み出していた。
「前にいる戦力が全てなんだろう! 奴らを突破する! 如何に自由騎士と戦姫が強卒であろうと戦力は我らが上回っているんだ!!」
結論して、行軍させてきたのだが―――。予想外の事態ばかりが起こっていた。
まずはこのモルザイムに吹く風だ。追い風を受けた敵方の騎兵の突破力は通常以上だ。これには馬の種類の違いも大きい。何せアルサス及びライトメリッツ軍の騎馬の殆どは、騎馬民族のものであり、その勇壮さは他国も買い求めるものだからだ。
そして戦力の散逸が風の効果を生み出した。中央の突破力は恐ろしく如何に竜を擁していても、兵士達の多くは恐慌、及び風に乗る飯の匂いが彼らを戦闘不能とした。
これでもしも通常のブリューヌ式の突撃陣形であれば、激飛ばしも効果あっただろうが、騎士という「上役」なく「兵長」程度の連中が率いては、その激が飛ぶ前に戦場からの逃走を生み出した。
「くそっ!! 兵士達に逃げ出せば厳罰だと告げろ!!!」
「無理です。自由騎士と戦姫―――それと弓の閃光が煌めく度に、恐怖が上回ります!!」
「奴らが最初から我々を壊滅させる意図だったのはこれが理由か!!」
寡兵で以て、真正面から受けて立つという姿勢でいたこと―――それは、後方司令部には疑心暗鬼を生みださせて、前線には二千百を壊滅させるという意思表示をすることで兵士に脅しをかけたのだ。
何より兵士の動揺だけはどうしようもない。死人に口なし―――。そうであるというのならば最初から厳罰も何もあったものではない。
テナルディエからの懲罰よりも、命無くば意味は無い。こちらの勝ちの目を見せないことで、戦力を無効化させた。
「ザイアン様、中央を撃破する―――それしかありませぬ!」
「……分かった。我らが出なければ兵士達も戦わぬだろう……! 「地空の合一」で中央の自由騎士と戦姫を撃滅する!!」
背後から攻められても前に突っ切ればいいだけだ。重臣の一人の言を聞きながら、ザイアンは決意した。
束ねられた矢の全てを一斉射する。ただの乱射でしかないはずのそれだが、ティグルにとってそれは乱射ではない。
「おおお!!」「はぁっ!!!」
ティグルが放った矢の「援護」をすべく「矢の意」を受けた剣士二人が、必要な「壁」全てを斬りはらう。
開かれた「壁の向こう」イメージされた通りに騎士の兜を貫いていく「閃光」。剣と弓の豪撃で都合百四十の騎士が、物言わぬ死体となり、モルザイムの大地に沈む。
「若っ!」
投げ渡された矢筒、従者であるバートランが担いできたものは既に八割がた使い切った。
しかしまだ足りない。エレンはともかくとしてリョウはもっと早く切り刻み俺の矢を活かせるはずだ。
次をやろうとした時にアルサスの兵士―――トレブションが、伝令として自分の傍にやってきた。
「ティグル様! 万事順調! 仕込みも完璧です!!」
「オルガは無事なのか!?」
「ええ、自由騎士の奥方と共に合図を待っています!!」
大声で問い返さなければならないほどに、怒号が響く。あちらも必至だ。
「竜だ! 竜が出たぞーー!!」
来た! 待ち望んでいた声だ!! ここからは如何に竜を無力化出来るかだ。
最前線に立っていたエレンとリョウは、その声を発した騎兵などを下がらせながら、対峙するに良い場所まで下がろうとするも――――――。
地竜(スロー)と火竜(ブラーニ)から―――矢が放たれる。
まるで高矢倉から放たれるかのように凄烈な一斉射、弾き飛ばしながら馬を操り中央部隊の後退を支援する。
「成程! 柔軟な発想だ!!」
「絶対に落とせない「戦車(チャリオット)」、いや変な話だが「移動要塞」とかいうのが適当か」
感想を交互に述べながらも、矢弾は降り注ぐ。
どちらも千チェート近い巨躯であり、その背中に器用にも「弓兵」達が弩やボウガンの類を持ちながら、絶え間ない射撃を行ってくる。
(惜しいね……その智謀…!)
これを指示しただろう鼠賊の親玉の事を思い浮かべる。その立場さえ違い義により味方と言わずとも、こちらと協調出来ていれば、一角の英傑にもなれただろうに。
だが残念ながら、親は「奸賊」。王権狙う不忠の蛇蝎である。本人の人格がどうあれ――――それはこの戦国の世において考慮されるものではない。
決意を込めると同時に思考を巡らす。このままならばそろそろ、回り込んで側面から騎兵を回してくるはずだ。
火竜の炎を受け流しながら、遂に大体の連中は撤退出来たことを確認する。しかし何人かは逃げ遅れて、地竜の突撃、火竜の息吹で圧殺、焼殺された。
――――ここで潰す。その気持ちでアメノムラクモに「地の勾玉」を着ける。瞬間、周囲から岩塊を集めに集めて刀身を形成する。
柄の短さで違うと言えば違うが「斬馬刀」が出来上がった。そして後方にて飛竜が飛び上がりそうなのを見て、「最悪」の一歩手前だと気付く。
「やるぞ!」「ああ!」
決意を込めて騎馬による突撃をしながら、剣を向ける。並走するエレオノーラの剣に風が集まるのが分かる。
放つものは分かる。それは鎧袖一触の一撃だ。近づかれては不味いと矢の圧力が強まるも、こちらの移動ルートを察したティグルの矢が全てを打ち落として、その射線から位置を算出して、竜の上に跨る弓兵を打ち落とす。
(とんでもない実力者だ。遠雷、弓聖(きゅうせい)なんて称号でも送りたくなる!!)
陛下の見立てならば王は西方において「救世」を行うもの。「救世王」にして「弓聖王」たるべき男。そんな男と戦えることにもはやリョウの心意気は上がるばかりだ。
しかしそれはティグルも同様だった。
西方の術理とは違う流れるような剣の動きが閃く度に、血飛沫があふれる。そしてその動き。リョウの心の速度が「分かる」のだ。
そして自分の弓を最大限活かしてくれる剣友―――――。
(剣匠なんて称号じゃ足りない……闘神、剣聖を俺は見ている!)
彼の剣は自由だ。自由であるからこそ新しき世の訪れを感じられる。「建世」を行うもの。「建世王」にして「剣聖王」たるべき男。そんな男に巡り合えたことにティグルは神への感謝をする。
『あの不死鬼の子に感謝をするならば――――あなたは、飛竜を「撃ちなさい」』
そうして熱くなっていた時にティグルの頭に―――――声が響いた。
背中が粟立ちながらも、その言葉は何故かティグルを従わせる。どこから響いているのかは分からない。しかしそれでも怒号響く中、涼やかに聞こえる声は、真実を見抜いた。
矢が飛ばない。しかし決着は着いていた。
決着の程を見てから―――残った脅威であるものを見た。ティグルは上空に向けて『狙い』を付けていた。
エレンは、己のアリファールに風が巻きつくのを感じながら、その調子がいつもと違うのを認識していた。
悪くは無い。寧ろいつもより良いぐらいだ。その調子の良さは―――まるでいつもの竜技の威力を越えそうなぐらいだ。
圧縮されていく風と大気の塊、絡みつく剣の輝きが増す。その原因は分かっていた。
(つまりリョウの持つアメノムラクモとアリファールは相性が良いということか?)
打ち落とされていく矢。ティグルの援護をいつまでも受けているわけにはいかない。考え事を打ち切ってエレンは剣を最上段から下段に振り下ろしつつ、言葉を紡いだ。
「大気ごと薙ぎ払え!」
解き放たれる「嵐刃」が地竜を引き潰し、撹拌して肉と骨を完全に砕いていく。無論、背中に乗っていた弓兵もろともである。
リョウは、火竜が息子の同胞であろうことを理解していた。あれは恐らく火竜山から連れ去られた竜。
それをテナルディエ公爵が従えていることは、テナルディエ公爵ないし、公爵の近くにいるのだ――――。魔なりし者が。
神流の剣客として、それは打ち滅ぼすべき邪悪だ。息子の故郷に帰してやりたい気持ちが無いわけではない。
(だが―――それは出来そうにないな……せめて一太刀で決めてやる!)
だから最後まで抵抗してみせろ。貴様も竜王の眷属であるというのならば、その意気を見せろ。
吐かれる炎。身を包む炎の猛りに合わせて、剣を流麗に動かして―――炎を吸収しつくして溶岩のように赤い亀裂を刀身に見せる「土蛇剣」を振り上げて、裂ぱくの気合いと共に振り下ろした。
百チェート以上の「大剣」など生ぬるい「巨人の剣」が振るわれて、身を真っ二つに裂かれる火竜。その時、逃げようとしていた弓兵達だったが、あまりの早業に逃げられるわけも無く、竜と同じく二つに両断された。
(待っていたぞ!! この時を!!!)
ザイアンの心中で喝采が湧く。竜が殺されることは織り込み済み。そもそもあの初戦でも自由騎士と戦姫の持つ武器が竜に傷をつけていたことは分かっていた。
あわよくば的の遅滞戦術を潰されたことに対する煮えかえり、殺された弓兵に対する恨みはこの後の「攻撃」で払わせる。
情報の正確さを要求していたザイアンならではの狡猾さが発揮された。それは本来ならば勝利の方程式だった。だが、それを覆すは―――価値を認めつつも、どうしても和解する機会なかった狩人領主の一矢によって砕かれた。
「突撃だ!! やつらとてここまでの化け物ぶりを見せて―――飛竜との連携で戦えるわけがない!!!」
自分達が中央の自由騎士と戦姫を討取れば、未だに恐慌状態の連中も前に出る。勇気を持って進撃する。
(サラ! 俺に勇気をくれ!!! 俺はこの戦いに勝ち!! 新しき世を―――本来の公爵家の道を!)
ザイアンとて怖いのだ。それでも自分が前に出なければどうにもならない。それでも戦わなければ―――
上空を飛びながら突撃を開始しようとする飛竜。2ベルスタの高さから曲射で突撃しつつ、その背に積み込まれた樽弾を、ヴォルン達の陣に叩き込めば奴らも混乱する。
何よりそんな「戦術」は古来よりあり得ない。ここにはあの化け物のような飛竜と火竜の混血もいないのだ。
それがあれば変化させただろうが、ここにいない以上―――勝利は目前だ。
飛竜の攻撃とほぼ同時の突撃。攪乱させた上でのブリューヌ合戦式の突撃は如何に精強なジスタート軍とて壊滅させられるはずだ。
飛竜から樽弾が落とされれば、
粉塵が舞い上がれば、
敵陣に混乱が起きれば、
閃光が地上から上空に走った。
飛竜の支援あるはず、
四百アルシンの半ばを中央の部隊の残りに本陣部隊を加えた七百兵の大突撃が―――――。
もはや目前に迫りつつも飛竜の支援が無い―――。しかし勢いは殺せない。空からの支援という協力のみが、テナルディエ軍を支えていた。
予定より遅れているのは、ただ任された騎兵上手でも飛竜を操るのは難しいからだ。
―――――もう少しで、飛竜の攻撃が始まるはずだ。
そんなテナルディエ軍の考えは―――その突撃の真ん中に落ちてきた飛竜と騎兵の骨と肉の雨霰で砕け散った。
閃光が地上から上空に走った。
それを見ていたはずのテナルディエ軍は、気付けなかった。
「閃光」は―――、「魔弾」は―――、テナルディエ軍の最後の希望すらも堕としたのだ。
「――――銅鑼を鳴らせ! 最後の仕上げだ!!」
「奴らは死に体だ。徹底的に打ちのめせ!!」
現実離れした光景に呆然としていたが、覚醒を果たしてエレンは指示を出す。リョウもその言葉に重ねるように声を出した。
こちらの言葉で呆然から覚醒したのは、テナルディエ軍も同じだった。
兵士達は既に命令を無視して逃げている。鎧も武器も何もかも投げ捨てて、恐怖から逃れようと走り去っていく。
「待て!! 逃げるな! たたか―――」
突撃部隊の中で命令を発しようとした騎士の一人を兜の上から矢が貫いた。届いた約250アルシンという距離では、何も自慢にならない。
しかし今まで待たされていた鬱憤を晴らし、何より「弓聖」の戦いに同行出来なかった不満を晴らすようにルーリックは騎兵を操りながら、最後のとどめの号令を『一矢』で掛けていた。
リムもまたここまで力を溜めに溜めていたものを解放できる喜びを感じていた。最大の力を発揮できる最上の騎兵部隊による強襲。
まさに先程までテナルディエ軍が思い描いていた攻撃がモルザイムに展開される。
それが敵であり他国人であるジスタート軍によって行われているのだから皮肉も極まれりだ。
中央700から100が散逸して、600がどうしたらいいのか途方に暮れる。しかし目の前には怒号を響かせて迫る騎兵軍団。
そして後方からは―――――。
「スティード様! ザイアン様!! 後方より伏兵500が出現!! 騎兵で以て迫ってきます!!!」
それらは後方に走り抜けた部隊と合流して、こちらの背後を貫こうとしているとのこと。
進退窮まった……。その感想は両名に出た。
「馬を翻せ!! 我らは左方より脱出する!!」
そちらは、ガヌロンの領地近い。しかしそれでもネメクタムに帰るためにもニースに寄らなければならない。
「ザイアン様。ここは一時的に戦域を出るべきです!」
「あっ……ああ……て、撤退しろ!!」
呆然自失していたザイアンに気付けをしながら、スティードは、どこにあれだけの伏兵を隠していたのだと睨みつける。
右翼左翼の残存部隊は中央軍から離れていたので、伏兵に合流した部隊に滅多打ちにされている。
そして自分達も逃げなければ―――壊滅させられる!!
このままでは全滅は確実だと、スティードは思った。
「逃がすな!! 背後を見せて馬も疲れている鼠賊共を生かして帰すな!!」
600の中央軍の背中に遂に追い縋ってきた最強の部隊。
目の前には、ジスタートにも風聞伝わっている忠節踏みにじる奸賊だ。これで戦意が生まれないものがいようか。
「見ろ! 家の麦を浅ましく齧っていたクリィーサ(鼠)が、逃げるぞー!」
「入った家が獅子の住処ならば逃げ帰るのか! 腰抜けめ」
次々と浴びせられる罵詈雑言に馬を翻そうとする騎士だが……。
「言いたい奴には言わせておけ!! 今は逃げて!! 生き延びるのだ!!!」
見もせずに、スティードは厳命する。それでも逃げ遅れた200が壊滅させられる。
そして逃げていた方向の一角で、何人かが落馬をする。それに巻き込まれる形で、更に落馬が出てくる。
(罠だな……こちらの動きを読み切って……いや誘導させられていた……!)
この状況は全てあちらの思惑通りのはずだ。
左右のどちらに逃げ込むか、分かっていたのだ。徹底的に追い落とされる恐怖がスティードを慄かせる。
しかし今は逃げるしかないのだ――――――。この屈辱は忘れない。そうスティードは決意して、今は生きることを最優先にした。
† † † †
「派手にやったものだな」
「同感だが、まだ終わっていない。ザイアンを殺さない限り終わりではないんだから」
既に潰走して逃げていくザイアンなどテナルディエの残兵。しかしティグルはここで終わらせるつもりは無かった。
ヤツを殺さなければアルサスに再びテナルディエ公爵は兵を向ける。その時―――今以上の策をやられて勝てるかどうかは分からない。
何より―――アルサスの住民を不安に陥れた元凶を逃すつもりはないのだ。
「よく言ったティグル。それでこそ私の見込んだ男だ。リム、元気のあるもの三百を組織してテナルディエを徹底的に追い落とす。馬も装備もいいものにしろよ」
「それならばすぐですよ。私とルーリックの部隊は殆ど出番が無かったのですから」
「言われてみればそうか」
最後のとどめとして動いたルーリックとリムの部隊だが、生憎殆ど戦うことは無かった。本来ならば最後のとどめとして後方部隊と連携した上での交互突撃で終わるはずだったのだが。
「暴れすぎたな……正直、誤算だったのはテナルディエ軍のディナントでの恐怖が根強かったことだ」
そうして話していると、幾つかの指示を出していたリョウが自分たちに合流してきた。その傍にはオルガとヴァレンティナもいた。
「流石は自由騎士、貴様の恐るべき剣技と色欲っぷりがテナルディエ兵の肝を冷やすだけ冷やして逃げさせたな」
「お前、前線の兵士が自分に向けて「銀髪の悪魔」とか叫んで小便ちびっていたの見聞きしなかったのか?」
そんな風に剣呑な感じになるエレンとリョウ。しかしリョウの話すことはティグルも聞いていた。テナルディエ軍の恐慌の原因としては半々といったところだろう。
「逃げた兵士達が盗賊となって近隣に跳梁するかもしれない。残兵がいたらば投降するか、武器と防具を渡して帰るように言ってくれ」
「承知しました。ということは……またもやティグルヴルムド卿の闘いには同行出来ないのですな」
やるべきことを願うと肩を落として落胆するルーリック。別に仲間外れにしようというわけではない。ただ単に、信頼できる武官にそういう敗残処理をお願いしたいのだ。
ましてや捕虜なんてのを食わせる余裕は無いし、この一戦の後も、自分がどうなるか分からないのだから。
「すまない。そういう処理に関しては「清廉」なる「騎士」であるお前だけが出来る仕事だろ?」
「お任せを、アラムなどにも厳命しておきますのでご安心を!」
乗せられていることに気付かないのか。と少しだけ不憫に思いながらもリョウは、『伏兵』の馬に取り換えるように指示をする。
「まさか、無人の馬をザイアン達が伏兵だと思うなんて……。よっぽどディナントでの敗戦が利いているんだな」
テナルディエ軍が後ろから来ていると見た伏兵。それは―――ティグルが偽兵として威嚇しようとしていた替え馬であった。
しかし四方八方に斥候を放っていたテナルディエ軍が見つけられなかった理由。それは単純明快に、ティグルの策である。
このモルザイムに牧場を設定するとした時からティグルは、ここが狙われる可能性を考えていた。
牧場を作った時点で、それら家畜や馬を隠せられる避難場所と指示を責任者にしたためていた。
「それゆえ、騎馬の民馬は無事だった……しかし、そこが伏兵の隠れ場所になるとは考えたもんだ」
「旗を馬に多く掲げさせることで大軍にみせかけたのはリョウの戦略だろ。それがなければあっさり露見していた可能性もある」
二人ともが馬に乗り換えながら、全ての策を露見する。偽を「真」にして、真を「偽」とする。その策略は二人の若武者の働きあってのものだった。
互いに手柄を称賛していたのだが――――。
「ティグル! 私が馬笛を吹いたからこそタイミングよく馬がやってきたんだ。褒めて!」
「怖かったですリョウ。だから抱きしめながら私を次の戦場まで連れて行って下さい♪」
二人の戦姫が、そんな若武者の馬に自然と乗り込んだ。姫として殿方癒してあげますという自然な様に、エレンは青筋を立てる。
ヴァレンティナはともかくとして、ティグルの馬に自然と乗り込んだオルガはいかんともしがたい。
馬を寄せつつ、ティグルの眼前に迫り報酬を要求する。
「ティ、ティグル! 私も頑張ったぞ! すっごくがんばったんだから、何かやれ!! とにかく褒めてくれ!!」
「なにかって………ありがとうエレン。まだ一働きしてもらうけれども、俺に力を貸してくれ」
そうして手を伸ばしてエレンの頭を撫でるティグル。その後には、年相応の少女のように赤くなるエレンであった。
本当にふやけた表情をするエレンだ。ティグルは当分、頭撫でを止めることは出来そうにないだろう。
捕虜にした時は、懐柔するつもりだったのに、懐柔されてどうするとリムは思いつつ、リムも少しだけこの青年貴族の評価を改めた。
自分の策であった落馬のための紐集めの際の様子。そして設置さえ何も文句を言わずやってくれたアルサス領民。
この青年貴族が本当に領民から愛されているのだと実感できたのだが……。
(まぁいいでしょう。それにしても問題なのは……)
青年貴族が、どういった存在であるかを認識していた―――エレンの様子に苦笑をしている自由騎士である。
リョウ・サカガミはティグルが飛竜を「貫いた」ことに何の疑問も抱かなかった。後方から望遠鏡をのぞいていたリムは分かっていた。
呆然としていたエレンとは別に飛竜が落ちたことを、何の疑問にも感じず追撃の号令を掛けたのだから――――。
詳しい話は道すがらでいいだろうと思っていると、追撃部隊が出来上がったのを伝令役から聞く。
「戦姫様! リムアリーシャ将軍! 準備整いました!」
「むっ、よしティグル分も補給した。先回りのルートを取って完全なる勝利を得るぞ!!」
ティグル分って何だよ? とエレン除いて全員が思いつつも、後一手なのだ。大将の首を獲り、それで終わりだ。
「追撃を掛ける!! 伯爵閣下の土地を布告も無しに奪おうとした賊を完全に追い落とすぞ!!!」
エレンの掛けた号令に対して、剣を、槍を、弓を高く掲げて、意気を天にまで衝かせようとしているライトメリッツ兵士達を見てから行軍を開始する。
あとがき
四月馬鹿企画。各社、各人共にやっている中、川口先生のサイトに突撃ーーーーーーー! するも不発。
色欲ソフィーに続くネタとして、せっかくヴァレンティナが11巻で表に出てきたので『ツェルヴィーデの野望・覇王伝』とかやっていると思っていたのに、がっかりである。(失礼千万)
では感想返信を
>>雷天狗さん
直球な感想ありがとうございます。最新刊でも腹黒可愛いティナの魅力を自分がかけていれば幸いです。
>>店長さん
そんなこっそりと言わず「ごっそり」見て行って下さい。(意味不明)初感想ありがとうございます。
ファンジンであれオリジナルであれ産みの苦しみに耐えぬいてこそ物書きのはしくれ……とはいえ気張らず適当に書いてみるのもいいかもしれませんよ。
私も設定とか、深く考えずに書いていた時期ありましたので、偉そうなこといえないです。
>>NETさん
久しぶりの感想ありがとうございます。感想も二次も気が向いた時で構いませんよ。
ハーメルンでもそろそろ復活してほしい人(赤い竜、ifstory 弓兵) が多いですが、とりあえず私自身も意欲が続く限りは書いていこうかと思っています。
>>almanosさん
常連感想ありがとうございます。
最新刊は本当に風雲急を告げすぎである。ブリューヌ、本当にこのままだと滅ぶんじゃねぐらいには感じますよ。
オルガは「子」が欲しい。エレンは「故郷」が欲しい。ヴァレンティナは「玉座」が欲しい。レギンは「武成王」が欲しい。
全くほしがりさんどもめ。いや結構、切実なのもいますけどね。特にレギンとエレンは。
そしてサーシャの次の戦姫……年増? そんな感じも受ける相手ですね。乱刃のフィーネは、どんなビジュアルなのか期待である。
新大陸みたいなのに関しては、魔弾ではとりあえず言及はされてませんね。(見落とし有の可能性)ただ今後次第では「聖獣」乗りの「騎士の王国」、「魔王殺し」の「魔剣」求めてやってくる剣士とか出てくるかもしれませんので、よろしくお願いします。
>>放浪人さん
二回目の感想ありがとうございます。じっくり読んでいってください(笑)
ザイアン……惜しい人間であった。(正確にはまだ死んでない)
今回の合戦を書いている内にちょっとどころじゃなく可哀想に思えたんですよ。(真剣)
持っている戦力やりくりして工夫して「どやっ!」と繰り出しても「我が奥義受けるがいい!」「吹きとべぇ!!」と無双アクションじみた連中によって蹴散らされる。
こんなのいたらばマジで悪夢に見るよ(怖)本編でも「何で竜が殺されるんだ」と恐慌していましたが、それを理解していてもやられるという不遇っぷり。
戦術的には、いい所までいったんですが、戦略目標が『高すぎた』のと元々の軍隊の士気が低かったからどちらにせよやられてはいましたね。せめて柔軟な戦術で苦しめたことはザイアンの偉業である。
モデルとしては戦国時代の浅井と織田(木下秀吉)の「箕浦の戦い」
そしてオルガ、最新刊ではとんでも発言をしてティグルラブなヒロイン達を惑わしまくる恐ろしき魔女(?)である。あれ?今作でもあんまり変わっていないな。
というかオルガを出している魔弾二次は俺だけかな。ifstoryのマシュ・マックさんがちょい役で出したぐらいか。知っている限りではありますが。
オルガのリョウへの印象はいいですね。「ティグルと会わせてくれてありがとうお兄さん」ぐらいには慕ってきます。代わってエレンは歯ぎしりしてしまう。悪循環だぁ(笑)
ヴァレンティナ。彼女の転移能力がどれだけ応用性あるものか分かっていないのに、こんな風に書いて申し訳ない限り。
ただ今回ばかりは「愛の力」で、『地撻星』の魔法使いのごとくやってきましたよ。(笑)「ティナはリョウの為ならば火の中、水の中、ベッドの中まで付いていきます♪(CV原田ひとみ)」
故郷の女達。前半はともかく後半をまさか察してくれるとは賢察ですね。
実際、カズサというリョウの職場の副官は、「男」のフリをしている「女信長」というコンセプトで、実際リョウは「男」だと思っています。劇中(イルダー出た辺り)で少し語っているし、「男」と友情確かめてるのに何故サクヤ怒る的な描写もそれとなーく付けていましたので探してみてください!(失礼)
七人の侍。原作は熱心に知っているほどではないんですよね。しかしGONZOのSAMURAI7が秀逸でしたから少し嵌りましたよ。多くの映画、娯楽作品に影響を与えた名作。
この辺りの話も劇中で出てきますが、大まかには「親父に付いて諸国行脚していたらば農民に依頼された」って感じですね。
ティグルとリョウ。
一人では見れない景色、夢の果て、頂から見える全て――――それを見るためには己一人じゃ無理だ。一人で出来ることなんて限られている。だから―――仲間が必要なんだ。自分と同じ頂を目指す人間が。
……などと変なポエム語りましたが、二人がいれば見えないものも見えるということ。個人的にド嵌りしている「ハイキュー!!」の日向と影山みたいな関係ですね。
それであんな人外魔境を形成できるのだから恐ろしすぎる「王」二人である(笑)原作ではエレンの風防御などがあればティグルを前に出しても大丈夫という認識ですが、リョウの場合は「俺にすら届く最高の一矢射ってこい!!」と、限界ギリギリのものを要求してきますからね。
エレンは保護者、リョウは相棒。その違いが今話の無双を生み出したわけです。
そして衝撃の事実。そんなネーミングに深い意味は無かったのに……。スレイヤーズが「滅するもの」と「笑い」を意味するなんて「意図してなかった」と語っていた神坂先生の領域に俺は達していたということか……(超失礼)
いや冗談はおいておくとして、本当に意図はしていなかったんですから、まぁキャラネームやタイトルの意図せぬリンクと言うのは起こるものなんですね。純粋に不思議ですよ。
まぁ感想は気長に待っていますので、気が向いたらでいいですよ。気張らずにどうぞ。
と、以上ですかね。それにしても四月馬鹿企画。『孤独のぽちゃ子』は飯テロすぎて体重計が心配である。(苦)
ではでは今回はここまで長々とこんな所まで読んで下さった皆さんに感謝しつつ、お相手はトロイアレイでした。