多くの人から立ち上る熱気。ウェーブのように流れるペンライトの明かり。
それに向けて手を差し出せば、俺の声を押し潰すような大歓声が。
ライトはステージから放たれているため、観客の顔はあまり見えない。
ただ、この場にいる誰もが熱病に魘された様な、しかし、楽しげな顔をしていることは伝わってくる。
その勢いに、嫌だ嫌だと言っていたはずの俺も流されて、ウィンク――
「うおおおおおおお!」
跳ね起きる。
布団を跳ね上げて、すぐにさっきまで見ていた夢を振り払うように頭を猛烈な勢いで左右に振る。
息は酷く上がっていて、なんかあの時の熱気を再現しているようで非常にムカついた。
……ぐぐぐ。
落ち着け、落ち着け、落ち着け。
ベッドサイドにある錠剤を口に含んで、それをミネラルウォーターで流し込む。
そして部屋の壁に背中を預けていると、五分ほどしてようやく落ち着いた。
「ははは……あの悪夢を再び見るなんて、どうなってんのかね」
顔を手で掴みながら、そう自嘲する。
馬鹿馬鹿しい。あんなことが楽しかっただなんて、一度も思ったことはない。
微塵もな!
舌打ち一つして立ち上がると、机に座って情報端末を起動させる。
休憩が終わるまでまだ時間はあるか。……嫌な夢のせいで、睡眠時間を無駄にした。
ファックファック、と悪態を吐いていると、メールが着信していることに気付いた。
フェイトからだ。
それを開いて――
「なん……だと!?」
リリカル in wonder
闇の書事件で勝手な行動をとったために嘱託資格を剥奪されたフェイト。
それに対してクロノやなのはは残念そうな顔をしたが、本人はまったく気にしていない様子だった。
惜しいとか思わなかったの? と聞いてみれば、兄さんと一緒にいれないのは嫌だけど、と答えが返ってきて嬉しいような悲しいような。
どうやら本人、あまり嘱託資格に執着がないようで。
これはきっと、原作と違ってなのはと合おうと思えば少しの労力で会える境遇になったからだろう。
そんな彼女だが、闇の書事件が終わってからしばらくして、再び立場が変わった。
今度は学生に。
魔導師としてもあるていどの完成度はあるし、世間知らずではあるが知識はあるしで、スクライアのみんなはフェイトがちゃんと教育を受けていたと思っていたのである。
しかし、いざフェイトに聞いてみれば、家庭教師のリニスが~、と思い出話を始める始末。
話に聞いたところでは、族長やロジャーさんはその場で黙って入学準備を始めたらしい。
学校に行く意味はなくても、学校を出た、というステータスは人生に大きな影響を及ぼす。
それは当たり前のことであり、スクライアにもそれが常識として浸透している。可能な限り子供をミッドの学校に行かせるように、と。
俺やユーノは早熟だったのでそれが無意味やたらに早かったわけだが。
まぁ、将来の選択肢は多い方が良い。
たとえ将来スクライアを出ることになったとしても、人材惜しさに子供の未来を閉ざすようなことはしない、という高潔なモラルがあって本当にありがたい。
本当、この部族に拾われて良かったよ。
……話が逸れた。
ミッドの学校に行くよう勧められたフェイトは、俺が執務官補佐になると聞いた時と同じように駄々をこねた。
スクライアの皆と離れるのは嫌だと。俺が帰ってきたときにすぐ会えないのは嫌だと。
……が、各地を転々とする(といっても年単位でだが)スクライアにいるよりは、ミッドの学校に腰を落ち着けた方が俺に会いやすいし負担にならないよ、とユーノに吹き込まれて首を縦に振ったとか。
……なんかブラコン具合がレッドゾーンに入っていることに今更気付いて真剣にフェイトの将来が不安なのですが、そこら辺は置いておこう。
まぁ、長期休暇になったらスクライアに戻ってこれるしなぁ。
で、フェイトはアルフを連れてミッドの学校へ。
中途入学で入った彼女は早速飛び級を繰り返しているとかしていないとか聞くが、今はそんなことどうでも良い。
そう、どうでも良いのだ。
「エスティ、ほら、フェイトが待ってるよ?」
「……分かってる」
と、言いつつも足が動かない。
顔を上げると、そこには安っぽいが熱意の伝わってくるオブジェが。
文化祭。
そう、文化祭なのですよ今日は。
俺の人生経験から言って、文化祭には二種類あると思う。寂れているのと異様に盛り上がっているの。
ここの場合は後者。
在校生の皆様方がはっちゃけて爆発起こしたり面白出店が並んだりするこの学校。
俺だってここにいた時は楽しんでいたけどさぁ……。
「エスティ。真ん前で立ち止まったら他の人に迷惑だって」
「いや、だってよぉ……」
「……気持ちは分かる。分かるけど、今日の僕らは参加者だ。あの時みたいなことは起きないから」
ふっ、と陰りのある笑みを浮かべて、ユーノは顔を俯かせる。
……そうだったな。俺だけじゃ、ないんだよな。
ガッ、と手を組んで頷き合う。
「そう、そうだ。俺たちは参加者だ。開催者側じゃない。……こんなに嬉しいことはないな」
「まったくだね。……楽しませてもらおう、今日は」
ククク、と笑い合う。
そして同時に溜息を吐くと、校門をくぐった。
校舎へと真っ直ぐに伸びる道には、いくつもの出店が並んでおり、たくさんの人が脚を止めて楽しんでいる。
ちら、と視線を向けてみればなんかどっかで見たことあるような人が射的屋台を荒らしていたので脚を止める。
「おいアンタ、何やってんだ」
「何って? よろしくやってるだけだよディッキー」
「誰だよ馬鹿」
スパーンと頭を叩くとドットサイトを覗き込んでいた馬鹿――ヴァイスさんは悲鳴を上げる。
そして振り返ると、右目の周りに跡を付けた顔を驚きに変えた。
「おお、久し振りじゃねぇかエスティマ! それと、ユーノも!」
「お久し振りです」
「卒業してからどうしてた? 卒業生だからって顔を出しちゃいけない決まりなんてないんだから、遊びに来ても良いだろうによ」
「そんな暇じゃなかったんですよ。これでも一応、忙しいんでね」
「あはは……ヴァイスさん、今エスティ、執務官補佐なんてやってるんですよ」
「……げ」
何か嫌なものを見たような反応。失礼な。
「……ちなみにおめぇ、今の魔導師ランクは?」
「管理局の正式なヤツで、空戦AAA-ですが」
「これだからエリートってやつは……。俺は今、無性にお前を狙い撃ちたい」
けっ、と吐き捨てて再び射撃体勢に入るヴァイスさん。
ちなみに、屋台を開いている学生、既に諦めモード。
「まぁまぁ。……で、ヴァイスさんのところは何やってるんです?」
「んー? メイド喫茶。おっさんが金を落とすの目当てで露出が多いぞ」
「さて、行こうかエスティ」
「色々と突っ込みどころがありすぎる台詞だな二人とも――っていうかこの学校、それで良いのか!?」
「楽しめれば良いんじゃねぇ?」
よっと、と最後の一つを撃ち落として、ヴァイスさんは山のような景品を受け取ったり。
どうすんだそれ。
「ラグナにやる」
「相変わらず兄馬鹿だなアンタ」
「お前だってそうなんじゃねぇの?」
同類を見るような目を向けられた。いきなりなんだ。
……っていうか、嫌な予感がするんだけど。
逃げ出したい気分になった俺を逃さないとばかりにヴァイスさんは肩を組んでくると、にやにや笑いを浮かべる。っていうか、身長差があって辛いんだけど。
「フェイトちゃんのお兄様自慢は有名だぜ? 胸焼けするぐらいに」
「……ちょっと用事思い出したからアースラ戻るわ」
「ちょ、エスティ!?」
だからすぐにバインドで縛るなっつーの!
なんてこった……顔見知りが多いこの場所で、そんな格好のネタがあったらどんな目に遭うのか簡単に想像できる。
もう嫌、すぐに帰りたい。
魔力にものを言わせてバインドを破壊し、盛大に溜息を吐く。
「……フェイトがどこにいるか知ってます?」
……顔を見たらすぐに帰ろう。
うん、そうだ。それが良い。
などと思っていると、ヴァイスさんのにやけ面がパワーアップ。
「どこにいると思う?」
「質問を質問で返すなよアンタ。……ええっとさっき言ったメイド喫茶――だったら、教室に砲撃をぶち込んでくれる!」
「ちょ、デバイスに手を伸ばすな! 違うって馬鹿!」
なんだ、違うの?
やれやれ、と首を振りながら苦笑する。
どうやら少し熱くなってしま――
「軽音楽部だ。フェイトちゃんは、そこにいるぜ?」
「……なんだって?」
「……なんてこった」
聞き返す俺。
天を仰ぐユーノ。
軽音楽部……そう、そうか。そうなのか。
脳裏にあそこにいる連中、主に俺とユーノを弄くり回したおねーさまたちの顔が浮かんでくる。
フェイト、毒牙に……。
がっくりとその場に膝を着きそうになるのを必死に我慢しながら、フェイトに念話を送る。
『フェイト、フェイト』
『……え? に、兄さん?』
『うん、そう。今屋台村にいるんだ。どっかで待ち合わせしようか』
『分かった。今打ち合わせしてるから、三十分ぐらい後でね』
打ち合わせ……うわぁ……。
「ユーノ」
「なんだい」
「打ち合わせやってるってさ、今」
「……そっか」
二人してブルーが入る。
ははは、そりゃそうだよねー。俺の妹って分かれば群がってくるよねー。
……はぁ。
「そんな落ち込むなってエスティマ。周りは、歌ひ――」
「クロスファイア」
『シュート』
どご、どご、どご、と三連射。
それでヴァイスさんを昏倒させると、どこで待ち合わせすっかなーと頭を抱えた。
「兄さん、お待たせ!」
腕を組んで待っていると、息を弾ませたフェイトがようやくやってきた。
場所は学園の屋上、その更に上。上空である。
なんでこんな場所を待ち合わせに選んだのか、なんて聞かれたら、やんごとなき理由があったとしか言えない。
「お疲れ、フェイト」
「うん、久し振り」
って言っても、一週間しか経ってないんだけどね。
週末になって休みが取れると、ここの近くまできて会っているのだ。
「兄さん、文化祭は楽しんでる? 色んなお店があるから、一緒に回ろうよ」
「あー、うん。そうだね」
「それとね、お昼過ぎから家族とタッグを組んで魔法戦のトーナメントがあるの。一緒に出よう?」
「良いよ」
「それとね、それと……」
楽しんでいるようで何より。
……何よりなんだけど。
「なぁ、フェイト」
「ん?」
「軽音楽部に入っているんだって?」
「うん、そうなの!」
そこでフェイトが表情を今以上に輝かせる。
うわぁ……本当なんだ。
……なんてこったい。
「あまり自覚はないんだけど、私、歌が上手いみたいで……」
ですよねー。
「兄さんと一緒だね」
……ですよねー。
「聞いたよ、兄さん。兄さんも学校にいたときには、文化祭のライブで歌ったんだってね。
私も今年、出るんだ」
……………………ですよねー。
封印指定の記憶が蘇ってきそうになり、それを必死に押さえ込む。
あんな黒歴史、思い出してなるものか。
「そ、そっか、フェイト。うん。
大変だと思うけど、頑張ってね。結構緊張するからさ、アレ」
「……やっぱりそうなんだ。なんだかちょっと、不安かな」
言いながら、フェイトは上目遣いで俺に視線を向けてくる。
なんぞ。
「あ、あのね。先輩たちも言ってたんだけど、もし良かったら兄さんと一緒に――」
「駄目ダ――――――――!!!!!」
どうせそんなことだろうと思ったよ!
フェイトは目をまんまるにしてビックリしている。
そんな大きな声が出たか。
……うむ。無意識下でそれだけ嫌がっているってことなのですよ。
「観客として参加するよ、俺は。フェイトの晴れ姿、しっかり楽しませてもらうから、頑張って」
「あ……うん。頑張る」
どこか残念そうだが、それでもにっこりと笑みを浮かべるフェイト。
すまないとは思うけど、仕方ないんすよー。
その後。
トーナメントで頭下げたくなるぐらいの圧勝具合で優勝したりとか、ユーノに引き摺られてメイド喫茶に行ったりとかして時間を潰し。
そして、遂にやってきましたよライブ。
「……なぁ、アンタたち」
「なんだいアルフ」
「……なんでフェレットモードなんだい」
カメラをスタンバってるアルフの呆れ声。
今の俺とユーノ、アルフの両肩に乗っかっています。
いや、だってさぁ……。
「あのね、アルフ。これには次元の果てよりも深く、ロストロギアぐらいに重要な理由があるんだ」
「ああ。元の姿のままここにいたら、非常に厄介なことになる」
うんうんと頷く俺たちに、なんだかねぇ、と呟くアルフ。
カメラを持っているアルフだが、フェイト以外を撮るつもりはないのだろう。
シャッターを切らずに、ずっと構えたまま。
そうしている内にライブは進行して、トリへと。
トリ。本命である。
学内でも有名な軽音楽部(クオリティが非常に高いのだが、それは留年生が異様に多いせい)の、おねーさま方が話題沸騰間違いなしとかほざいてフェイトを担ぎ上げて最後に持ってきたのだ。
「おお……!」
ライトが消え、周囲が一気に暗くなる。
アルフはカメラを持ち上げてファインダーを覗き込むと、シャッターに指を乗せる。
そして二十秒ほどして、唐突にライトが一斉に点くと――
「フェイトォォォォオオオオオオ!」
ドン引きするレベルで連射を始めた。
……うん、アルフ。落ち着こうな。
てい、と前足で突っ込みを入れつつステージに目を向ける。
そこにいるフェイトは、どっかで見たことあるっつーか、なんか俺が着たことあるような衣装――バリアジャケットだが――姿でマイクを握り締めていた。
唐突にギター、それに続いてベースが鳴って、軽やかなアップテンポのメロディーが流れ始める。
だが――
「……フェイト?」
フェイトが歌い出すことはなかった。
あれ、と思いつつ念話を送ってみる。
『どうした、フェイト』
『に、兄さん……そ、その、お客さんが、たくさんいて……』
……怖じ気づいた、と。
ううむ。
度胸があると思っていたが、それは戦闘に関することだけなのかな。
思い切り良くザンバー振り回すから、こうなる可能性は低いと思っていたけど。
一向に歌い出さないフェイトに、BGMが止んで観客がざわめく。
彼女はマイクを握り締めたまま俯いてしまって、後退った。
……ううむ。
思わず溜息。
しゃーないなぁ。
「……ユーノ」
「なんだい、エスティ」
「スピーカーとマイク、かっぱらってきてくれる?」
「え……?」
目を見開いて不思議そうに俺を見るユーノ。
そして、ぷっ、と吹き出すと、小さく頷いた。
「甘いね、フェイトには」
「うっさい。……アルフ、フェイトを助けるの手伝ってくれるか?」
「ん? ああ、任せな」
ざわめく観客を前にして、フェイトはどうしたら良いのか分からなくなっていた。
打ち合わせの段取りは、ちょっと前までしっかりと覚えていたのに、今は真っ白になって思い出せない。
歌詞一つ、振り付け一つ。
それらは全て吹き飛んで、どうしよう、といった言葉ばかりが脳裏に浮かぶ。
無意識の内に観客の中から兄の姿を見付けようとするが、それも叶わない。
こんなたくさんの人がいる中で、見付けられるわけがない。
落ち着いて、と軽音楽部の人から念話が届くが、どうしようもない。
……せっかく兄さんが見に来てくれているのに。
唇を薄く噛み、顔を俯かせる。
視界が滲んで、ぎゅっと目を瞑り――
――不意に、音楽が流れ始めた。
振り向けば、軽音楽部のみんなが笑顔を浮かべながらこちらを見ている。
そんな……歌詞だって思い出せないのに、どうやって――
『フェイト、届け物だよ!』
『――――――――皆、抱き締めて! 次元の果てまで!』
アルフからの念話に続いて、スピーカーから大音量の声が。
そして誰かが、いや、良く聞く声が、歌を奏で始める。
思わず上を見上げて、
「……兄さん?」
そう呟いた。
そして首を傾げる。
ステージを照らしていたいくつかのライトが真上に向けられ、光りの中には狼形態となったアルフ。その背中に乗ったエスティマが。
そのエスティマは、マイクを握り締めて歌を歌いながら踊っている。
……フェイトとそっくりの衣装を着て。
「だ、誰だあれは!」
「ご存じないのですか!? 彼女は、二年前の文化祭ライブに出場し、その後姿を消した超次元アイドルの一人!
そしてフェイトちゃんのお姉さん、アリシアちゃんですよ!」
……アリシアちゃん?
聞こえてきた観客の会話に、なんで私の名前で、と思いつつも、呆然と空を見上げる。
『キラッ☆』
とエスティマが声を上げると、ドサドサと何かが倒れる音が聞こえた。
それを意図的に無視するように、間奏に入るとエスティマがステージに降りてきた。
スカートの裾が翻って、非常に危険。
それを必死な様子で手で押さえ、
『ほら、フェイト。一緒に歌うぞ』
『えっと、兄さん……?』
『良いから! お願い、ここまでやったらもう引っ込みが付かないんだー!』
にこにこと観客に笑顔を振りまきながら、滝のような涙を流すという器用な真似をしての懇願。
それにおずおずと頷くと、フェイトは観客に向き直った。
ちくしょおおおおおおおおお!
何が悲しくて再びこのバリアジャケットを着ないといけないんだ!
Larkめ! セッターに余計なデータを残しやがって!
なるべく足を開かないようにして、膝を曲げながら振り付けを……って、こんなこと二度としたくなかったんだよおおおおおおお!
思い返すのはミッド学校最後の年。
あの頃の俺は、声変わりするまでは同じであろう水樹奈々ボイスで歌を歌うことを純粋に楽しんでいた。
楽しんでいたんだ。
しかし、それに目を点けた軽音楽部のおねーさま方に拉致に近い形で襲われ、振り付けを覚えさせられてステージに立たせられるという憂き目に。
Larkも異様にノリノリで、女物のバリアジャケットを装着させてきたり。
……そう、女装。女装をする羽目になったのである。
ちなみに被害者は俺だけではない。ユーノも同時に拉致られて、デュエットでライブに出場という非常にアレな体験をした。
……忘れたかったのに。
『キラッ☆』
ah ah とか言いながら頭を抱えたい気分。
さっきまで上にいたアルフはいつの間にか観客席に戻ってカメラのシャッターを切ってるし。
……記録に残るのね、これ。
……もうどうにでもなれよ。
oh oh とか言いながら隣でたどたどしく歌詞を追っているフェイトに目を向ける。
彼女もそれに気付いて目を合わせてくると、ありがとう、と念話で届いた。
……ぐぐぐぐ。
……………………まぁ、良いか。
妹を助けられたのなら、兄として本も――
「アリシアちゃーん!」
――じゃねぇえええ!
死ね、と叫びたい気分になりつつ笑顔を崩さず。
くそう。変な芸人根性を植え付けられたせいでぶっちゃけられない。
そうしている内に一曲目を歌い終わり、ようやく息を吐ける。
『あ、あの、兄さん。次の歌、分かる?』
『フルボッコソングだよね? 知ってる大丈夫』
『ん。頑張ろうね!』
といいつつ、輝かしい笑顔を浮かべながらフェイトがすり寄ってくる。
……また観客がぶっ倒れた気がしたけど、気のせい。どういう風に見えているのかなんて、考えない。
もう二度とここの文化祭なんてきてやるもんか!
その後。
軽音楽部の打ち上げでゲラゲラ笑われ、ヴァイスさんにもゲラゲラ笑われ、スクライアの皆にも笑われた。
っていうか軽音楽部の皆様。アンタら絶対こうなることが分かってただろ。
じゃなかったら俺とお揃いの舞台衣装をフェイトに着せたりしないだろうからな!
くそくそくそ……!
などと憤っている俺と違って、フェイトは大変満足したようです。
文化祭の終了と共に集計されたアンケートで一位を飾ったことで贈呈されたトロフィーを大事そうにしてる。
……俺としては黒歴史のページが増えたんだがなぁ。
まぁ良い。こんなことはすっぱり忘れて、仕事仕事。
アルフに押し付けられた写真立てから視線を外して、データの整理を、
「エスティマ、この資料だが――」
と、不意に了承も取らずクロノが部屋に入ってきた。
野郎はそのまま部屋の中に入ってくると、物珍しかったのか写真立てに視線を向ける。
「ぷくく……こ、これは……」
………………畜生。
ちくしょおおおおおおおお!