機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記
第3部 46話 GNX-815T GN-XVI(前編)
イノベイターを巡る問題は統合戦争という内戦を招き、かねてより燻っていた民族対立や利害対立が再燃した事で戦火を拡大させた。
一時武力衝突が懸念されていたが、その折私設武装組織ソレスタルビーイングの武力介入再開によって辛くも免れた。
現在地球連邦はクラウス・グラード大統領の指導の下、宥和政策を推し進め紛争解決に努力してきているが地球圏の内戦は未だに続いていた。
旧人類軍を筆頭に反連邦勢力はその版図を保ち続け、テロリストや不満分子を煽る事で地球連邦に絶えず損害を与え続けている。
決して統一政体を滅ぼす程の脅威ではないとしても、市民に被害を与え続けているとあっては食と安全の保障を損なうならば看過できない。
平和維持と抑止力を司る連邦軍は情勢を前に、絶えず軍事力の強化を推し進めなければならないのだった。
その一環として実施されているのが、世界中に配備されている兵器―――GN-X系を中心とするMSなど―――の更新である。
これまで主力機として運用してきたGNX-810T/TD GN-XVは老朽化と改修の限界が迫り、これ以上長く前線で使う事が難しくなってきたのだ。
元々19年も前に開発されそのまま主力機として長らく用いられた。
GN-XIVすら主力であれたのは10年程しかない事を鑑みれば、GN-XVの息の長さは驚嘆に値する。
ここまで長期運用された要因は、当時擬似太陽炉がまだ貴重で準GN機による補助戦力更新が最優先された事、その補助戦力がかなり重用された上にツインドライブシステムの実用化といくつも挙げられる。
様々な事情によって長寿主力機となったGN-XVに代わる次世代機として採用されたのが、GNX-815T GN-XI、GN-XV直系の後継機だった。
GN-XVIは次期主力MS選考では前回と同じく多種多様な候補機が参加し熾烈な競争を繰り広げたが、本機は際立つ特徴はなく至って平凡すぎる程平凡だった。
コアファイターが再び廃止された事で機体フレームは頑強になり生産性が上がったが、それはGN-Xの備えている特徴を更に顕著にしただけに過ぎない。
火力は特別高くなく近接から砲撃まで多種多様な武装を状況に応じて使い分け、高性能汎用MSというポジションを未だに堅持されている。
コスト削減の為に生存性は切り下げられ性能は高レベルだが平凡。Vより頑強に仕上げ整備性を上げたという地味な点が特徴に挙げられるだろう。
紛争解決の糸口が見えたこの期に及んでコアファイター搭載による生存性向上より大量生産大量配備を目指したGN-XVIを採用させた。
そのように決定させた軍関係者達は「未だ勢力堅持する旧人類軍の対抗策」「紛争激化の対応」の為と説明し、本機採用の正当性を主張する。
ソレスタルビーイングの活動で内戦が下火になっている時期、それでも紛争拡大か、全面衝突の可能性は未だ消えていないのだ・・・。
「落ち着けよ!こっちもツインドライブ機なんだ!30年前と違って瞬殺される事はないぞ!」
「了解!」
連邦軍のMSパイロットに課せられる恒例行事と言えるイベントが存在する。
かつてアロウズを相手に獅子奮迅の活躍を誇ったガンダムタイプのMS「2個付き」を相手にした、MSシミュレーターを使った模擬戦がそれだ。
30年以上前にソレスタルビーイングの手で実用化させたツインドライブシステムを搭載した2個付きの力は、長い間こちらのMSを圧倒する性能を誇ってきた。
これほどの脅威だった故に格好の仮想敵に指定され、MSパイロットならば模擬戦で必ず挑むべき相手となったのだ
・・・士官学校と訓練基地を通った世間知らずのひよっこ達の出鼻を挫く意味合いもあるが。
小隊長の激励を受けたトゥーロフ准尉はそのまま先手と交代する。
「トゥーロフ准尉、出る!!」
士官学校を出て間もない新米パイロットがコックピットのシステムを起動させる。
今使用しているMSは最新鋭機GN-XVI。性能は2個付きとほぼ互角にあり差は新米とエース程の操縦技量のみだ。
こちらのGNパイクはリーチがありGNフィールドをより遠くから突破できるが、得物故に至近距離にまで詰められれば相手のGNソードに切り伏せられるというリスクが孕む。
トゥーロフは正直勝てるとは思っていない。相手はあの2個付きでパイロットはガンダムマイスターなのだから。
だが、もしかしすれば旧人類軍のイノベイター機と戦う可能性がある以上、仮想敵に立ち向かわなければならなかった。
「交戦!!」
設定場所はデブリも何もない宇宙空間。間もなく2個付きと鉢合わせになる。
ロックオンしたその後、相手は視界から消えた。
彼が敵のマーカーを追うより前に回避運動を取る。敵を追い過ぎて落とされないよう訓練生時代に叩き込まれた、MS戦でなくてはならない基本の一つ。
だがこちらが一方に動く間にガンダムは二回、時に三回も軌道を変え飛び回るではないか。
ピンク色の粒子ビームが一閃。ピンク色の光条が機体の真横に、続けて頭上をかすめる。
(っ!一体どこへどう・・・・・・!?)
次の動作が読めなくなる程の機動を見せ付けられ牽制射撃を浴びせられ、トゥーロフの選択肢を逃げのみに追い込まれた。
「当たらない!!」
すかさずGNパイクを敵に向け粒子ビームの弾幕を叩き込む。しかしそれらは当たらず宙に消えていく。
2回、3回、連射を浴びせるが全てが難なく掻い潜られてしまう。それも、読んでいたかのように鮮やかに舞いながら避けて。
シミュレーターに組み込まれているGN-XVIはELS戦時の戦闘データに設定され、それを絶対変えて戦闘機動を改善できないよう固定されている。
よって戦闘経験を積んだ今の戦闘データを機体プログラムに組み込めず、対ツインドライブ機戦闘を自分の感覚でこなさなければならないのだ。
襲い来る弾幕にGNシールドをかざすようになってくると、2個付きが粒子の双円を背に急迫。
「っ!」
刹那、人を模したツインアイがこちらを睨みつけ、緑色の刃を組み込む実体剣をこちらに突き付けて。
モニターの前方がシールドで視界を塞ぎ刃とスパークを上げる。迎撃に動作が間に合ったのだ。すかさずスラスターを全開、2個付きを圧し留めた。
(だが・・・すぐ防御崩されるな・・・!)
なんとか攻撃を凌いでいるが恐らく何らかの戦法でまた押されるのは間違いない。
あの実体剣は時代が古いからかこちらのより性能は低いが、特殊な素材が使用され同出力の粒子を纏っての切断力は向こうが上だという。
粒子生成量は同じでも有限の擬似太陽炉では必ずどこかで差が出るはずだ。GNパイクを振り下ろし叩きつけるかという矢先。
「!!?」
ガンダムが突然視界から消えた。
それまで押し返していたのが、その勢いのままバランスを崩し軌道がぐちゃぐちゃに乱れてしまう。
一体どこに?旋回していったか?後ろに回りこんだのか?
(懐に潜り込まれた!!)
いくつも考えながら機体を反転と同時に後退。敵の未来位置から距離を大きく開けた。
「2個付きは?!」
彼が消えた敵を追い始めたその時、前方には先の2個付きがモニター全体に映し出されていた。
実体剣を左から右へと振りクリアクリーンの刃が視界を埋め尽くす。手にしている得物を、盾を振りかざすには間に合わない。
「――――――ッ」
戦意を挫けず最後まで戦い抜こうと決心したトゥーロフはこれが最後と認識する間のないまま、非情な現実を理解できないまま・・・・・・。
途端、画面は時間が止まったように動かなくなり、正面には敗北、戦死などのマーカーが表示された。
模擬戦とはいえあっさりやられ続けるのはパイロットとして悔しいし名に傷が付く。
あれから何時間も―――2度の小休憩込みで―――彼らは2個付きを単機で挑んだが、ことごとく敗れてしまった。
一度も撃破できなかったペナルティーの歩兵戦フル装備で腹筋、腕立て、マラソンを消化した時には夜中だった。
「2個付き強すぎるわ・・・。MSの性能が同じなだけじゃダメだ。あんなのに挑んだアロウズのパイロットら、よく逃げなかったもんだぜ」
トゥーロフがモニターを観すぎて赤くなった目を細めながらコーラを口にする。
「もっと鍛えんと勝てんな・・・・・・」
「ああ。イノベイターとかエースレベルなら単機で2個付き倒したっていうからな。・・・何十時間も鍛えんとあいつらに追い付けないかもしれないよ」
トゥーロフ准尉をはじめとする新米3人、食堂でくつろぐ。話の内容は今日の模擬戦についてである。
MSパイロットとして数年間に及ぶ厳しい訓練と教育を受けても、最新鋭機GN-XVIを受領しても、なお2個付きとの差は歴然だった。
これがソレスタルビーイングの、ガンダムマイスターの力なのか。
どれ程腕を磨いて挑んでは常に打ち破られる高みの存在。敗れる度に彼らは痛感させられる。
4機と小隊がかりで立ち向かう以外に、現時点で2個付きを倒す術は見つけられなかった。
「そうだよな。俺達の乗るGN-XVIはソフト面では2個付きに勝ってるんだ。俺達でもきっと勝てる日が来るとも!」
「ああ!」
「そうだ!」
トゥーロフに続けて二人も目を輝かせて応えた。
確かに2個付きの実力はただのパイロットである自分達を越えている。一対一では勝てないのが現状だが、瞬殺されずある程度善戦出来ているのも事実。
死ぬ時など、生きている以上必ずいつの日か来る。その時来るまでどのように辿るのかはわからない。
ただ実戦に備えて最強の仮想敵で鍛えていく。どれだけ負けようと本当にビームや爆発に焼かれて、もがき苦しみながら死ぬより遥かにマシである。
今は休み明日に備え、部隊勤務の合間に模擬戦と自主練習であのMSに挑む。それがパイロットの生き残りに繋がるのだから。