機動戦士ガンダム00統合戦争緒戦記
第5話 旧型MS
擬似太陽炉の普及は世界の統合と兵器の革新を起こした。
それを主動力とするGN-Xの力はかつてのガンダムに匹敵する物であり、
圧倒的な力を得た旧3大国は地球連邦に名を変え、領域国家から惑星国家へと変わろうとしたのだった。
だが革新的な技術を得たとはいえ、兵器はすぐに一新されなかった。
擬似太陽炉は大量の電力をGN粒子に変換するという、強力だが稼動時間の限界など多くの制約がある。
既存の兵器と新兵器がそれぞれの得意分野を担当し、共存した時代は数十年も長く続いた。
西暦2314年にELSの影響でイノベイターへ変革した者達が急増してから3年間、地球連邦政府は彼らの対応に追われてきた。
突然相手の心が読めてこれまでの人間関係がこじれる者、恐怖した周囲から差別される者のみならず、
中には殺害される者まで出ている切迫した状況に手を打たなければならなかった。
彼らの保護に加えて教育による偏見と差別の解消、戸籍調査によるイノベイター予備軍たる因子保持者の保護など、
相互宥和を呼びかけるプロダカンダなど多方面の政策が次々打ち出された。
それでも政策を疑問視する者達は増えるばかりで、ついに反発者達が動き出す日が来た。
「避難が全然進んでないじゃないかよ!!」
旧式のユニオンフラッグに乗るゲーリー中尉は、足元で逃げ惑う市民の濁流に毒づいた。
ユニオン領ニューヨークは現在、テロリスト集団の乱射行為による混乱の真っ只中にあった。
19世紀以来長きに渡って戦火と無縁だったこの世界有数の大都市は、
いくつかのテロが起こった程度でモビルスーツを使うほどの破壊活動は今回が初めてだったのだ。
それに相まってこれまで平和に暮らしていた市民の驚愕と混乱は大きく、戦火からの逃れ方がわからずうろたえるばかりだ。
防衛部隊が鎮圧に出たので、流石の市民もMSに踏まれないよう、道を塞がぬよう道を開けようとしているようだが。
それにしても遅い。平和過ぎたから戦火に晒された事がないからだろうが、このまま右往左往していては戦いに巻き込まれてしまう。
「地下鉄に逃げるんだよ!そこら中にあるだろう!」
スピーカー越しで市民に呼びかける一方、視認できたテロリストのMSに注意を払う。
相手はGN-XIIIが2機、高度50メートルで高層ビル群を縫うようにのんびり飛んでいる。
テロをこれから仕掛けるにしては、無駄に豪華で最悪な機体だ。
擬似太陽炉の恩恵で空を飛べたり実弾を寄せ付けないMSに、この都市防衛用のフラッグで勝てるとは思えない。
「市民よ立ち上がれ、腐敗した連邦政府は革新者と騙る怪物を保護し、人類の破滅を推し進めようとしている。
3年前、奴らはELSによって汚染され、徐々に世界中に汚染を広めつつある。」
さっきこちらを頭上で通り過ぎたGN-XIIIからの声を集音機が拾ったらしい。
街を混乱させながら、その行為を棚に上げて他者を批判する独りよがりな宣伝だ。
彼らは一応低空飛行していて街に直接被害を及ぼしていないが、粒子兵器を持っている以上被害の可能性は必ずある。
混乱している今の内に穏便に事を収めんと、オープンチャンネルでテロリストに呼びかけた。
「こちら地球連邦平和維持軍第45都市防衛MS小隊。所属不明機よ応答せよ。ただちに投降し我々の指示に従え。」
テロリストがほいほい言う事を聞いてくれるとは期待していないが、警告なりしなければ何も始まらない。
やはりと言うべきか、敵は止まる事無くこちらに目もくれずに飛び去っていった。
「テロリストに応答なし!依然、飛行を止めず!」
食い止めたいところだが、2つの理由でそうはいかない。
1つ目は彼我の機体性能差が絶望的である事。
このフラッグだけでなく旧MS全て近代改修が図られ、
Eセンサーと超小型GNコンデンサーによるパイロット限定の慣性制御に、GN弾による火力強化などだ。
ただしGN機と戦えるようになっただけで対抗というレベルに届いていなかった。
2つ目は現時点の状況だ。
周りは高層ビルが立つ巨大都市で大勢の市民がいる。
ここで戦えばビルが崩れるわ市民が100人どころか、1万人も犠牲になる大惨事になるだろう。
しかも経済にも打撃が加えられ世界中の景気が一気に悪化する。
そうなれば今日の夕刊から3ページ以上詳細に書かれてしまう一大バッドニュースになってしまう。
「たっ・・・隊長・・・・・・!」
モニターに部下達が不安を浮かべながらゲーリーを伺っている。
このままテロを許してしまうのか?軍人として、人間としてそれは許しておけない。
「奴らの進路から目的地を割り出せるか?」
「ハッ、我々のいる通りより先は港湾区です!想定目標より・・・少し反対にズレています!」
「ズレているだと?!えぇい、そいつらは囮か・・・!」
イノベイターが狙いと知って基地経由でイノベイターの所在地を把握したのだが、肩透かしを食らった気分に襲われた。
となると本当の狙いはなんなのか脳裏で逡巡した。ただの囮なら一体どういう手を使うのか。
現時点のテロリストは先の2機のGN-XIIIの他に同機種4機が2機1組ずつ散らばっている。
どれもイノベイターを狙わずにただひたすら飛び回って、周囲の混乱を招かせているだけだ。
街の被害を考慮して攻撃に出なかったが、いつまでも敵の好きにさせる訳にはいかない。
沿岸域へ向かう今が鎮圧のチャンスだ。
「全機、粒子撹乱ミサイルにライフルで一斉発射の後に突撃だ!敵機を海上に引きずり込んで撃墜させる!」
僚機の同じフラッグとの3機、その主翼下のパイロンよりまず粒子撹乱ミサイルが、その次にGNミサイルの順で発射した。
GN-XIIIを撹乱幕で包むようにして周辺のビーム被害を抑えた所に、リニアライフルの青い弾が襲い掛かった。
一機は背部にダメージを受けて飛ぶのがやっとの状態になったが、もう一機はこれを全て避け切り撹乱幕から突破を図ろうとした。
3機のフラッグはGN機に劣らぬ機動性で正面より突破する。
「市街地に当たらんよう上から撃て!当てた奴は帰還してすぐぶん殴る!」
追撃してくるテロリストのビーム射撃が2発側面をよぎった。
それはスロットルを左に傾けて回避したからだが、ゲーリーは急回避に伴う強烈なGに苦しんでいなかった。
GNコンデンサーから少しずつ放出されるGN粒子の恩恵で、パイロットを苦しめるGの軽減に貢献している。
「こちら第45都市都市防衛MS中隊!テロリスト機を海上に陽動!応援を要請する!」
「こちら基地本部。一番近い予備部隊でも現場到着まで2分かかる」
「了解!なるべく迅速に願います!」
10年前には無効化されたGN粒子散布下を克服した通信機のおかげで、こうして防衛隊の旧型MSでも通信できるようになったのだ。
こちらの対抗可能になったフラッグ3機に対するは、健全のと損傷を受けたGN-XIII2機。
現時点で倒すのは難しいが、応援が来れば戦況はこちらが有利になる。
だが次の凶報で彼らの期待は焦慮に変わった。
「市街地各地で爆破テロが発生した!MSはただの囮だ!」
「やはり・・・!思ったとおりか!!」
基地からの凶報に、自分の予想が当たった事に、ゲーリーは動揺と焦り、怒りが沸いた。
モビルスーツは対人戦も出来るが、市街地での、それも建物内でのテロまで対応などできない。
臍を噛む思いが身を焦がしそうになるが、向こうの事は地上部隊に任せてもらうしかない。
目の前の敵を釘付けにしないと被害が更に波及する事になるのだから。
「各機弾切れ承知で乱射しろ!奴を釘付けにするんだ!
ただし殺すな!無力化して捕まえるんだ!」
残り3発のGNミサイルの一斉発射を準備、スロットルのスイッチで近接信管に設定する。
部下達の連射モードの弾幕に押される敵は、高濃度粒子の雨をダイレクトに浴びて火達磨になった。
続け様に四肢や頭部などにリニアライフルの弾が命中、そのまま装甲をもぎ取り四散させた。
これ程の装備をしたテロリストなのだ。極めて怪しいので殺さずに捕まえなければならない。
相手は今やほぼ大破状態になった機体と戦うのがやっとの機体。
勝機はこちらにあるが、特攻する危険があるので迂闊に手をまだ出せない状態である。
地上ではどうなっているのか?テロリストは見つかったのか?
何とかしたいがまずは自分の今の仕事を済ませるのが先だ。
だが彼らは知らない。同時期各地で、コロニーで、宇宙で、反イノベイター勢力が一斉蜂起した事を。