機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記
第40話 GNW-20006 ガウティス
地球周回軌道。
ちょうど赤道部分を覆うそこは、人類にとって無くてはならない要衝と成していた。
宇宙から地上を行き来する軌道エレベーター。赤道を囲うように配されたオービタルリング。
インフラの大半が消費する電力を賄う、何百もの太陽光発電衛星。
交通、経済流通、軍事防衛の要として存在し続けて今や西暦2326年、情勢が変わろうとその役割は常に揺らぐ事がなかった。
地球連邦軍に対する旧人類軍の襲撃は、決まって超巨大MAガデラーザIかイノベイター部隊という組み合わせになっている。
それぞれ最強の機動兵器に対して物量と火力で押せば追い払えるというのが結論だが、軍備増強を進めている2326年の時点においても効果は確実とはいえなかった。
この日は両軍のガデラーザI同士が軌道上でドッグファイトを繰り広げる中、敵MAがオービタルリングにMS隊を放ったのが戦いのきっかけだった。
近くには護送船団がアフリカタワーに詰め掛けており今も物資を下ろし続けている。彼らがやられればアフリカ一帯の軍民が飢えに苦しむ危険がある。生命線の為に死守しなければならない。
リング据え置きの対空陣地がミサイルと光条を放つ中、レン少佐率いるGN-XV六機、GN-XIVフルミナータ四機も迎撃に加わった。
「敵MS四機中、ガルゼス一機、残り三機は新型!ガルゼスの類似である!」
「各機、対イノベイタープログラムに従いつつ防御迎撃!!距離を常に十キロを確保しろ!!」
かねてよりアシガル粒子戦機がミサイルでばら撒いた、GNステルスフィールドのオレンジ色の膜のせいでぼやけて見えにくいが、光学カメラから敵MS隊をなんとか確認できる。
GNドライヴから手足が生えたような外観、旧人類軍特有の青い塗装。特徴的なセンサーラインとモノアイ、右手に持つ巨大な大剣。
ガルゼスはもちろん、残り三機も大体同じような外観をしているではないか。センサーラインはガルゼスより広く少し違うが。
(旧人類軍め。あのスローネ系を使うなんてよ・・・。機能を求めたらスローネそっくりになっちまったのか・・・?)
粒子戦で先手を取った所を、すかさず6機がGNパイクで粒子ビームの弾幕を浴びせた。後続の砲撃機から、陣地からもGNミサイルや粒子ビームの弾雨を敵に降り注ぐ。
「弾幕がまだ薄い!!火力支援と増援を請う!!」
「駆逐艦ベネディクト・アーノルド、第20海兵戦闘攻撃飛行隊が一分後に到着!・・・・続けて第5独立機動部隊もトランザム航行で三分後に到着する!なんとしても死守せよ!」
対イノベイター戦の決め手は卓越した機動力を如何に拘束するかにかかっている。
平凡なパイロットが多い連邦軍は火力でイノベイター機の道を阻む手を選び、GN-XIVフォルティスから主力汎用機にもかつての砲撃機並の火力を付与してきた。
その火力を更に発揮すべく軍備増強で戦力自体増やした上、宇宙艦隊なども充実させる事で機動力も上げ戦力集中が以前より容易になった。
しかし旧人類軍が必ず用いるガデラーザIは強力でしかも素早く地球圏を当たり前に飛び回れる、最も脅威的なMAである。
追いかけるのはもちろん、哨戒にも防衛にも戦力を割かなければならない連邦宇宙軍の戦力は広く分散せざる得ない。
機動力が上ったとはいえ対ガデラーザ戦において、通信のタイムラグなどで部隊同士の連携に隙が出来る事がある。一瞬のミスで戦力に穴が生じる危険性がある。
この時、連邦軍に生じた一瞬の隙が旧人類軍の好機となったのだった。
「こちら第3アフリカ軌道防衛基地、旧人類軍部隊はガデラーザIと一個小隊のみ確認。ガデラーザI、更なる展開見られず、此方に向かう様子なし。全力を以ってして撃破せよ!」
「・・・了解!!」
増援、早く来いと言いたい衝動を堪えてレン少佐は敵MSに注意を払いつつ、自ら率いる中隊にも同様の注意を払う。
「こちら第102戦闘攻撃MS中隊!第一小隊だけでは・・・現戦力では阻止できない!残る小隊の応援はまだか!」
「一小隊は到着まで三分程、一小隊は整備中に付き出撃まで十分!」
・・・つまり、すぐに来ないと暗に告げられた。
そうしている内にサラトガ級駆逐艦ベネディクト・アーノルドと第20海兵戦闘攻撃飛行隊が当宙域に到着。艦よりGNミサイルやビーム主砲が放たれ、配置に付くやGNビーム機銃を一斉発射した。
ドニエプル級防空巡洋艦ほどではないが―――サイズの割に―――豪雨のような光条を生み、それらを敵にいる辺りに降り注ぐ。
海兵隊所属の航空可変MSユニオンが四機、戦域に切り込むように入り戦列に加わった。
「全MS、艦隊と陣地の両翼より敵部隊を拘束。増援の時間を稼がれよ」
防壁ごと焼き払う大口径粒子ビーム、近接信管の近接起爆で圧縮粒子をばら撒くミサイル、それらの逃げ場を塞ぐおびただしい粒子ビーム。
軍艦一隻とMS十機、基地一個の教本通り濃密な対空砲火に、ガルゼスら敵MS隊の足が完全に止まった。
四機程度のMS隊に過剰すぎる戦力投入に見えるが、旧人類軍の精鋭イノベイター部隊が相手であっては速攻に撃破すべきだ。
ガルゼスはガデラーザIより遙かに小型―――MSとしては大型の分類も入る―――だが、擬似太陽炉四基二連結と火力も防御力も性能も変態染みたレベルである。
ヘラクレスは設計的に少し古いので、最新の性能向上型でないとまともに立ち向かえない。ダブルドライヴ+αのブレイヴIIは航空可変機のサガか、機動力は上でも格闘戦ではこちらに分が悪い。
増援を内心待ち焦がれる中、レンは敵のある異変に気が付いた。
「こちら四番機、敵新型機一機撃破!!」
(わざと攻撃を受けた・・・・・・?)
確かにGNフィールドを張り、シールドもかざしていた。
(今までの機動なら突破できなくても、避けられたのに、か?!)
最前線部隊を統括する中隊長として、レン少佐はドニエプル隊にいた頃から今に至る戦闘経験と記憶、勘で戦況を読む。
(今まで我々は圧倒的火力でイノベイター機に対抗してきた。その手はもうドニエプルにいた時に有効だと証明されてきた事だ・・・!)
自機の光学カメラで、データリンクしている基地の光学カメラで敵の挙動を調べてみる。たちまちサブウィンドウがずらりと、戦闘の邪魔にならない程度に並ぶ。
こちらのGNステルスフィールドで粒子装備を封じられていてもGNフィールドを張り続けられる粒子制御能力。
ただでさえ濃密なのに駆逐艦のおかげで倍増した弾幕すら、怯み後退せずに踏み止まり続けられる回避機動。
(ベガ隊長と・・・アーミアの小娘なら・・・・・・、どう考える・・・?!)
オレンジ色の粒子膜の中、四つ赤く輝く光が生まれた。
その赤い光がそれぞれ縦に、横に、弾雨の中を以前に増して精細な小刻みで動き回り・・・・・・、
「全機、トランザムで後退しろ!!!第二防衛ラインに集結!密集陣形を組め!!急げ!!!」
怒号混じりで傘下の小隊に後退命令を下した。
直後、GNステルスフィールドから赤く輝くMSが三機が飛び出してきた。トランザムを発動させ軌道を赤く描いて、こちらに肉薄して。
「ぐあっ・・・!!」
「うわああ・・・!!」
部下の誰かが鈍い悲鳴が上った。敵新型の一機が右翼に突っ込みそのまま真横に食い破るように突破していった。
ここで二機のGN-XVが体当たりで軌道から弾き飛ばされ、同型の一機が脱出の間もなく大剣で真っ二つにかち割られ爆発。
新型二機目の突撃は左翼から側面突撃。剣を射撃モードに変え収束ビームで三機薙ぎ払い、GN-XIVフルミナータ一機を上半身丸ごと横薙ぎで打ち壊す。そのパイロットはコアファイターの射出のおかげで爆発から逃れた。
そして三機目のガルゼスが拡散ビームとウェポンコンテナのGNミサイル、GNビームキャノンを乱射。残るGN-X部隊を足止めさせた隙に正面突破。
「なっ・・・・・・!?馬鹿な・・・・・・!!?」
序盤と比較にならない機動の様だった。
クワドプルドライブのガルゼスがシングルドライブのGN-XVを圧倒しているとしても、こちらはある程度ガルゼスの情報を掴んだしあらゆる支援を受けられた、にも関わらず。
ガゼインなら四機でも撃墜せしめただろう対イノベイター戦術を、あの新型とガルゼスは突破してみせた。
「基地ごと撃つな!追いかけろ、突破を許すな!!」
あの新型が何なのか?何故、途中から機動が更に鋭くなったか?それよりこれ以上の侵攻を阻止するのが先決だ。
残っている機体は自分を含めGN-XV5機、GN-XIVフルミナータ1機。内、GN-XV1機はパイロットが気絶したので戦闘不能にある。
「生き残りのGN-Xは俺に続け!!急げ!!」
部隊を全て立て直す間にも敵から距離を取られる。ここは食い付けるだけ食い付く方が被害受けるよりまだマシだ。
先は虚を突かれたユニオンだがすぐ我を取り戻して追撃に出た。トランザムなしで敵よりいち早く最終防衛ラインに着いてしまった。
そこへ明後日の方向から粒子ビームの雨が降り注ぎ、その火線は敵部隊の足を止めてみせた。なんと良い腕前か。
「第5独立機動部隊が到着した!残存MSは敵より後退しそれぞれ再編、彼らの援護に移れ!」
精鋭用航空可変MSブレイヴIIが四機、次々と紅色から元のカラーに戻る。巡航形態からMS形態へ機体を変形させながら二手に分かれて敵の包囲にかかった。
粒子ビームが、実弾が、ミサイルが、GNファングが赤く輝くMSの進撃を挫き、その足を止めさせる。
再び彼らが赤く発光、トランザムを発動させ、赤い機体同士ぶつかり合う。
「・・・・・・」
レンは決して無能ではない。ELS戦直後に入隊しMSパイロットとして厳しい訓練と選抜を受け、当時最新鋭機だったGN-XIVを任された優秀なパイロットである。
今やエースパイロットとなったベガ・ハッシュマンの下でイノベイター機と戦い、戦争を生き抜いて中隊長の少佐にまで出世してきた。
だがあのブレイヴパイロット達は、出世ではなくパイロットとして技術を磨き鍛え尽くしているではないか。
それは自分ら軍人と別の方向に極めた異質の存在。だからこそ表立って旧人類軍のイノベイター機と正面から戦っていけるのだ。
「全機、敵機によく注意しろ!!奴らにまだ何か余力があるか、策があるのかもしれないぞ!!」
「こちら第20海兵戦闘攻撃飛行隊、我が隊はリング下部で哨戒、旧人類軍を警戒する!」
「了解!!」
あの精鋭のように戦えないレンだが戦いそのものは出来る。
配下の小隊到着を祈りながら編隊を組み直し、新たな予測と対策を練り始めた。
(あのガルゼスに似た新型・・・、あのMSは一体なんなんだ?・・・あれは一体・・・・・・?!)
応援の駆け付けたブレイヴII対ガルゼスと新型の戦いは、ガルゼスが新型を盾にし大気圏突入して逃げられた事で幕を閉じた。
アフリカタワーと船団は守れた。オービタルリングも太陽光発電衛星も巻き込まれずに済んだ。
だが敵は全て撃破出来ぬまま、自らの勢力圏である中央アフリカに逃げ込んだ。これが何を意味するのか、後に何を起こすのか当事者には全てわからない。
わかるのは戦闘データなどを地上の味方、あわよくば宇宙の味方にも広げ、次の作戦か攻勢に生かすのではないか、だ。