機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記
第35話 GN-001RE4 ガンダムエクシアR4
統合戦争中期に突入した西暦2325年に私設武装組織ソレスタルビーイングが例外的な大規模武力介入を行ったという、
中央アフリカ一帯の武装勢力など反イノベイター派を統合した旧人類軍地上部隊の最初の攻勢。
この時地球連邦平和維持軍は軍備増強に伴う再編に追われており、紛争介入に戦力集中させたアフリカ派遣部隊を除く地上実働部隊は最低限しか配備されていなかった。
旧人類軍側に情報戦を一歩先んじられ、連邦側は偽装商船や潜水艦を利用した敵地潜入に察知に遅れた。
旧人類軍同時無差別爆撃に対し連邦軍がトラブル無く迎撃すればまだしも、先制攻撃に周辺基地が破壊され足並みを乱されれば、
各地の主要都市も国家機能も壊滅し、死者100万人以上で負傷者は最大1000万人に上るという。
直接被害だけでも大ダメージだがその後の食糧難と略奪といった大混乱を含む二次被害、
極め付けの作戦時の旧人類軍が使用する初期型GN粒子の細胞障害による後遺症で発生する死傷者は最悪1億に達すると言われている。
もしその爆撃が実行に移されれば連邦は人類史上最悪の大被害を被り、それによって増幅された憎悪が統合戦争を更に長引くのは必至である。
こうなれば百年も戦争が長引き凄惨な殲滅戦となり、人類の意思統一と紛争根絶は困難になるところだった。
西暦2364年の紛争根絶が果たされた世界を生きる我々人類は、旧人類軍の攻勢を阻止してくれたソレスタルビーイングの武力介入に感謝しなければならない。
たとえ彼らの過去の功罪があってもだ・・・・・・。
「作戦司令部はどうあっても爆撃にこだわるか・・・・・・」
遥々インド洋からマラッカ海峡に差し掛かった旧人類軍偽装商船クリマチウス。船橋を取り仕切るモートン船長が小言で愚痴をこぼす。
壊滅に陥った指揮系統を立て直したのは良いが、武装勢力や独裁国家からの選抜で補充してからというのも指揮が稚拙になってしまっている。
どうせ敗れるくらいならいっそ連邦に投降してしまいたいというのが本音だ。
「これは一体、何が言いたいのでしょうかな!?」
派遣の憲兵少尉が慇懃無礼に尋ねる・・・もとい怒鳴る。
これにモートン船長は思わず睨み返し、周囲のクルーも同様の反応をとる。
ガンダムの最初の攻撃から生き残ったその男は、船長を含む臨時徴用されたクルーにとって連邦軍以上に厄介な敵だからだ。
少尉を含む憲兵班は常に不服従の意が見られないか目を光らせ、船長と班長すら傲慢に接し度々口出ししてくる。
「船長の発言は如何なる意図を以って発言した事でしょうか!?発言内容次第では作戦後に軍法会議を開きますぞ!」
「連邦軍の地上戦力がアフリカに偏っている今、如何なる損害を払おうと実行せねば勝利は収められないという事だよ」
「ならば厳戒態勢を維持して頂かねばなりません!全ては忌まわしきイノベイターを滅ぼす為に!」
「・・・・・・・・・・・・」
準備の段階でガンダムの妨害を受け続けまともに戦力が揃わないまま、世界規模の作戦は実行に移された。
宇宙からは論外。軌道エレベーターは全て連邦所有であり、こちらは内通者の援助で地上降下するだけで精一杯だった。
精々ガデラーザIで宇宙からピンポイント爆撃するのが精々なので、作戦支援程度しか期待できない。
空路は連邦軍に握られ、百機単位のアシガル系と精鋭のブレイヴ系という可変MSが目を光らせている。
陸路は膠着した戦線のせいで突破困難だ。
唯一のユーラシア大陸へ繋がるエジプトを支配する中東連合は同じ反イノベイター派だが、彼らと中央アフリカの間に連邦地上部隊が封鎖されているのだ。
残る海路は比較的防備が薄いが向こうの航空戦力がこちらより充実しているので、やはり表立った進攻は不可能である。
幸い内通者ネットワークを利用して軍事行動を嗅ぎ取られないよう連邦内の根回しし、臨検と航海中の作戦秘匿を磐石にする事が出来た。
用意した偽装商船五十隻と潜水艦二十隻中半分がガンダムによって失われ、残存の偽装商船二十隻と潜水艦八隻を出港。
度重なる奇襲攻撃に作戦は不可能に近いが、このままでは連邦との国力差を日に日に開けられていくのは自明の理であった。
「船長、定期連絡がとれません!電波妨害です!」
「連邦軍に感知されたか?」
「お言葉ですが船長殿、データリンクした情報では連邦軍機は既にこちらを通過しましたぞ」
突然の衝撃、止んだと思いきや船体が傾いてきた。
「船首及び船尾が浸水!ダメコンも効きません!!」
「敵襲では・・・ガンダムです!!!」
クルーから次々と凶報が舞い込む。
狼狽する憲兵の傍ら、船の実戦部隊指揮官が指揮を下した。
「やはり現れたか!全MSを出せ!!」
突然ガンダムが何の前触れもなく現れ奇襲攻撃を必ず受けるのは今回のみならず、準備段階の所で最初の攻撃を受けた時より続くパターンだった。
入念に練った潜入ならば足跡や匂いなど痕跡まで残せない。敵味方識別コードを敵に譲られるにもGN粒子の残留と気配まで消されない。
だが敵は文字通り突然目の前に現れては蹂躙し、脱出せずに消えてしまう。
ワープ能力がなければそのような芸当は不可能だ。
結果、旧人類軍はガンダムの任意選択出来る奇襲によって司令部や物資など作戦行動のアキレス腱を叩かれ、攻勢の為に集結させた戦力を防衛に回す憂き目に遭ったのだった。
古代ローマ帝国軍がパルティア及びササン朝ペルシア軍の弓騎兵に終始翻弄されてきたのと同じ事態である。
「シンガポールまであと二十キロの所なんだ!ここは全機トランザムで強行突破しろ!」
「非戦闘員を優先に脱出は!?」
緩やかながらも沈み行く偽装商船を片隅に置き命令を下す武装勢力指揮官に船長が食ってかかる。
「黙れ!!貴様は反抗するつもりか!?船長に作戦決定権はない!」
「・・・・・・!」
銃を突き付けられてはこれ以上の反論は銃殺という末路に向かってしまう
(この期に及んでも作戦に執着しようというのか・・・・・・・・・・・・?!)
無差別爆撃はほぼ不可能という現実を理解しながら、乗組員の生命の為に軍の命令に従わざる得ないという矛盾。
連中の横暴に屈した自分も同罪であり心底嫌になった。
外ではコンテナから舞い上がった味方MS隊がガンダムと交戦となり、チェンシー一機が右腕をクリアグリーンの剣に断ち切られた。
敵は民兵ながら対応が早い。
船に傷を二つ入れ沈没確定にするもコンテナからMSが次々現れてきた。
AEUレギオン八機、続けてチェンシー八機、重火力型チェンシー無人型四機を確認した。
どれも紛争で武装勢力と反イノベイター国家の間で重用され、どんな環境でも問題なく稼動できる信頼性からGN-X系以上の人気MSである。
火力はGN-X系と同じ程度だが初期GN粒子を攻撃に用いる可能性があり油断できない
「行かせはしないよ!」
人類最初のイノベイターでもあるガンダムマイスターが乗ったといわれるガンダムの視線を、展開される敵MS隊へ向ける。
17の少女ガンダムマイスターの、サファイアの瞳が敵を見据え決め言葉を発した。
「ハヤテ・爽・ラファール、ガンダムエクシアR4!目標を妨害する!」
まず粒子ビームの弾幕を先手に浴びせAEUレギオン一機を撃墜。
「取り逃がした!けど乱した!」
太陽炉からもたらされるGN粒子の斥力場に任せ突進し敵の一群に飛び込む。
GNソード改後期型を振り被りチェンシーが迎撃する間もなく、重装甲の右腕ごと巨砲を斬り落とす。
上向きに弧を描きながら上昇していく同タイプ二機を瞬時に通過、振り向く事無くNPMS小隊に襲い掛かる。
刹那、エクシアR4の四肢―――手足、肩―――にマウントされたGNスパイクが、敵機の装甲など紙も当然の如くGNドライヴコーンスラスターごと切り裂いていった。
チェンシー無人型を撃ち抜くと同時に背後のチェンシーが制御を失い、スパークと小さな爆発を上げながらフラフラと飛行がままならなくなった。
(出来るだけ敵を殺さず・・・、派手に暴れ回って、特攻を食い止めて・・・・・・!)
戦術予報士フェルト・グレイスの言葉を反芻しながら、二機目に体当たりをかけ盾代わりのGNビームキャノンをスクラップにした。
背後よりアラートが鳴り響く。チェンシー隊の反撃か。
チェンシー無人型をすり抜け彼らと船を盾にしながら前進回避、共にGNソード改後期型ライフルモードで牽制射撃をかける。
こうしている間に残存AEUレギオンがシンガポールへ舞い上がってしまったではないか。
蒼を基調とするヘルメット内で、彼女に動揺の表情が浮かんだ。
「もうまずい!」
先発が戦域を離れるまで時間は一分程度だろう。取り逃がせばシンガポールが空襲を受け、無力な市民に犠牲が出てしまう。
ガンダムエクシアR4がフレームをボディーを残して最新技術で仕上げ、いかに効率の良いGNスラスターとGNコンデンサー、標準の量子ワープ機能を持っていようと限度がある。
元々太陽炉は希少で五基中四基は試験チームの00クアンタR1二機に、残りにして最後の一世代目でもある一基はトレミー2改に組み込まれている。
戦闘分以外の備蓄粒子は帰還用量子ワープ一回分だけ、トランザムは一分足らずの時間内しか発動できず博打以外何者でもない。
近接格闘戦向けに再調整されたガンダムエクシアR4の加速力すら、巡航中のAEUレギオンに追い付くまでにかなり粒子を費やすのだ。
「こうなったら・・・!!」
実弾が降り注ぐ中ハヤテは機体を操りそれらを回避、実体剣の余裕ある粒子残量を確認すると決心した。
GNスラスターを全開させ垂直急上昇、GNソード改後期型を振りかざし射線を目標と目先の敵に重ねるとライザーソードを放つ。
ピンク色の圧縮粒子の光柱が数機ものMSを飲み込み上空へ走っていく。遥か彼方、離脱していくAEUレギオン二機の爆発が確認できた。
これだけ戦えば連邦軍も異変に駆け付ける事は間違いない。
偽装商船と敵MSが未だに健在だが、これ以上戦う必要はないし仮に全滅させても生きて帰れる保障はないのだ。
「戦火は十分上がった!ハヤテ・爽・ラファール、ミッション完了!これより離脱する!」
上空方面にEセンサーの反応。
識別番号と光学カメラの情報から連邦軍低軌道方面の哨戒部隊、最新鋭機GNX-906TブレイヴII二機と判定。
宇宙から堂々と大気圏突破し海上にいるこちらへ急降下してくる。
擬似太陽炉ダブルドライヴ型を基軸にGNX-805Tヘラクレス以上の性能を誇る機体という、ガンダムエクシアR4では一対一でも勝ち目の無い相手のお出ましだ。
「対応が早い!フェルトの予測通りじゃないの・・・・・・!」
急ぎ量子ワープの準備にかかりつつ敵砲撃に対処するのが最優先だった。
「これがそうかね?」
ジョージア・E・ジョーストン顧問―――ジョルジュ・A・ジョンソン―――は端末の映像に見入った。
「はっ、内通ネットワーク経由で入手した第213哨戒小隊の光学カメラ映像では、ガンダムタイプが穴のような粒子の塊に入ったまま消えてしまったとの事で。
新技術・・・・・・ワープ辺りに相当するものと思われますが、連邦内ではこの現象に疑いの声が上がっております」
「信じたい物しか信じない。見たい現実しか見ない。そんな無知の馬鹿はいつどこでもいる事だ。
問題なのはこの現象がワープである可能性が高いという事、ソレスタルビーイングが復活しているという可能性は大である事実だ。
それに地球連邦も旧人類軍も、我々人類はやつらに対抗措置を練らねばならん」
「現時点の戦力、MSの質はガンダムに決して劣っていませんが?更に強力な、それこそ惑星を破壊できる機体が必要なのでしょうか?」
「それは状況次第だ。今はソレスタルビーイングについて情報を集め、可能ならば接触出来るよう機会を伺うのが優先だ」
「は」
(奴らが表舞台に出れば双方の関心はそっちにも向ける。これで戦力拮抗の下、妥協出来る時間が稼がれる・・・・・・。
我々のアース・インダストリー社の、こんな汚れ仕事も引き受けてくれれば良いがな)