機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記
第2部 第34話 GNO-0001 ペルセウス
ELS戦争より3年後に勃発した統合戦争は、本質的には内戦にあり規模が太陽系レベルまで拡大しただけに過ぎない。
合い争った主要勢力の地球連邦と旧人類軍は終始内通者の楔に悩まされ、彼らのネットワークによる漏洩を防ぎ切れなかった。
双方の必死の努力にも関わらず敵に漏れてしまう、作戦情報、勢力状況、戦力、物資、兵器設計図、脱走兵、部隊脱走・・・・・・。
さながら致命であらずとも絶えず流れ続ける懐の血と言うべき様態にあり。
一方、連邦旧人類軍間技術流出の結果、兵器開発が活性化という一面を持っていたのだった。
西暦2322年、すなわち統合戦争五年目。
一斉蜂起とコロニー義勇軍と旧人類軍の衝突の後、小競り合いを繰り返す膠着状態の最中の事である。
地球連邦大企業アース・インダストリー顧問ジョージア・E・ジョーストン―――本名ジョシュア・A・ジョンソンの派遣先、
小惑星帯に位置する旧人類軍本部カストロン・マサダにて、当地将官達と共に納入品の数々を前にしていた。
厳重保管された兵器設計図が収められたアタッシュケースやサンプル品、連邦側試作MSの数々、レアメタルを含む資源と軍事資金の山が、
二隻のウラル改級大型輸送艦民間仕様から荷降ろしされる様子をエアロック内の安全な管制室で話し合いながら。
「地球連邦の兵器開発再開の恩恵は大きいな。ELS戦より前から計画を練り戦争に備え集積してきたアイデア・・・。
一斉蜂起直後、ジョージア君が義勇軍を率いたおかげで開発がはかどり、今やっと連邦政府がそれを公認してくれた。
戦争初期において我々の作戦を頓挫されてくれたのは気に入らんが、結果戦争を煽ったという功績は大きい」
「は」
かつての仇敵を前にしながら淡々と事実を述べる旧人類軍総司令官煉王道は、50代初頭と将軍として軍人として脂身が乗った元地球連邦軍、遡れば人革連軍出身の老将。
ジョンソンは煉総司令を含む連中の冷たい視線に微動だにせず応答して、
「連邦の、2つのMS開発計画は順調です。それに伴い不採用になった試作機は豊富。そのデータ、設計図をほとんど集められました。
・・・アース・インダストリー社の手引きはもちろん、こちらの旧AEU開発陣の協力のおかげです」
右手を振りかざし周囲の視線を別の集団へと促す。
「次期高性能量産機候補、GNX-Y804TイナクトII開発担当、の亡命者達か・・・・・・。
スペックは充分高いのだが、を我々でも扱えるかどうかまだ不明だな」
煉総司令がチラリと技術者を品定めした。若干軽蔑を込めた視線で軽く睨み付ける。
AEU系軍事産業の貪欲さから来る悪評は世界でも有名である。
軌道エレベーター建造遅れと影響力の低さの埋め合わせに成り振り構わない兵器輸出を推し進め、途上国の紛争悪化とテロリストの重武装化を招いてきた。
このような気質は地球連邦によって政治的にも軍事的にも統一されても消える事なく、統合戦争勃発で再び活性化し出す始末である。
今回こちらに亡命した意図はあからさまにわかる。
ライバルの旧ユニオン系開発陣が造ったGNX-805Tヘラクレスの正式採用に対抗して、こちらに不採用機を売り込んできたに過ぎない。
だが統一政体が大金を注ぎ込んできた試作MSをここで無碍にするには、技術的価値があまりに高く調べずにはいられなかった。
「連邦軍の評価試験は良好との事です。性能は申し分なし、ヘラクレスより生産性が高いが拡張性が低いという結果とありますが」
ジョンソンの地球連邦視点評価を言うと旧AEU系開発陣が割り込んできた。
「我々のGNX-Y804TイナクトIIのコンセプトはGN-X系の後継及び拠点防衛であります。
GNドライヴ(T)と機体数の制限下、多様な任務に対応でき、なおかつ長期戦が可能なように設計いたしました」
「カタロン以上の戦力にGN機を豊富に揃えているとはいえ我々にまだ余裕はない。
こちらが求めているのは限られた装備で戦況対応出来る即応性と、乏しい戦力を使い回せる継戦能力だ。
資金も物資も潤沢な連邦軍のドクトリンに則った兵器が、旧人類軍にすぐさまそぐう訳はないではないか。まして、拠点防衛とか信頼性を重視していてもだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「あれの採用不採用は評価試験次第だ。だが技術と運用データは大いに生かせると断言しよう」
その脇で、ジョンソンは思案する。
(そっちこそガゼインの後継機の独自開発に勤しんでいるではないか。何も無理にMSを何種類も揃える事ないだろうがデータ収集ならば納得いく・・・・・・。
程なく次期主力MS開発計画が始まるのだ。高性能試作機に加えて次期主力候補機をかき集めれば、それだけ技術ノウハウと運用データを次に生かしやすくなる・・・・・・)
端末に表示された、GNX-Y804TイナクトIIの設計図。
旧AEU最後の主力機AEU-09イナクトに酷似した曲線のデザインと顔面のセンサー素子に、イノベイドのガ系MS共通のフレームが組み合わさっている。
額左右に伸びるクラピカルアンテナとツインアイはガンダムを髣髴させる。
L2の外宇宙航行艦ソレスタルビーイング号にあったGNZ-001ガルムガンダムを元に建造されたそれは、
コアファイターと肩部大型GNコンデンサーもAEU系デザインである事を除けばベースと全く同じだった。
「ジョージア・E・ジョーストンもといジョシュア・A・ジョンソン顧問。物資提供に大いに感謝しているぞ。
連邦系MSの評価試験でも我々は大いに期待している!・・・・・・連邦への見返りは、無条件で用意しているぞ・・・!」
「は!」
GNX-Y804TイナクトIIの評価試験は旧AEU開発陣の期待を裏切る、長く過酷な様相を呈するようになった。
「思った通りイナクトIIのマイクロウェーブ受信装置は、こちらでは全く使い道がない。
ここでは太陽光が弱いし核発電所も燃料輸送ルートをすぐに増やせないから増設なんて出来やしないよ」
「専用パーツばかりでGN-X系とパーツの互換性がない!このままアルケー系のガゼインとGN-X系に加えてしまえば整備施設と生産ラインが複雑になってしまう!」
「顧問よ、確かに良い期体でしょうが旧人類軍で使うにはコストパフォーマンスが悪いですぞ。技術だけでもかっぱらうしか使い道ありませんぜ・・・」
「コアファイターは無くて良いのではないでしょうか?生存性を高めている割には拡張性が犠牲になっていて、かえって連邦より数に劣るこちらの損害率を下げられないかと。」
「四基のGNウイングは制御系統と粒子制御が複雑でいっそ省くべきです。」
「小型化されているのでGNドライヴ(T)の出力を20%抑えて操縦性を上げてはどうでしょうか?」
連日のように殺到してくる現場の意見に気圧され、余分と言われたパーツ除去と調整を重ねなければならない悪戦苦闘の日々。
それでも正式採用の為に彼らは奮闘し、改修に改修を重ねる内に機体は外装を残して内部が大きく変わっていった。
評価試験が始まって一年経ち翌年となった西暦2323年。
内部改修を重ねてきたGNX-Y804TイナクトIIは最早原型とかけ離れ、GNOー0001Tペルセウスという形式番号と名前が授かれた。
形式番号のXに代わるOは旧人類軍を意味する「Old man army」の頭文字から取った文字。
ギリシャ神話の英雄ペルセウスが怪物ゴーゴンを討ったエピソードにちなんだこの機体は、現代のゴーゴンたるイノベイターとELSの打倒の思いが込められている。
まさしく旧人類軍の為の機体として生まれ変わったのだった。
「スペックは原型機より十%向上。拡張性、稼働時間共に二倍に・・・。整備性も改善、GN-X系と七十%もパーツの互換性があります・・・・・・」
若い参謀の一人の呟きに、総司令部の誰もが驚愕のあまり沈黙した。
その独り言が全員の共通意見でもあり沈黙の原因でもあった。
「旧人類軍の皆様方、いかがなさいましたか?このペルセウスの仕上がりは?」
「彼ら開発陣の強い要望に従い評価試験が長引いた事実は隠しようなく、また私の力不足でもあり申し訳ありません」
宇宙を舞うペルセウスの映像の手前。満足面に開発主任が総司令部の面々に訊き、ジョンソンが補足を入れる。
数々のモニターの一つは模擬戦の場面。相手のGN-XIVフォルティス三機相手に互角に立ち回り、粒子ビームの火線を潜り抜け高機動力を見せ付けている。
時間は事を始まってから三時間経ち、その通り表示されているではないか。これは非可変量産MSの標準戦闘時間より倍以上戦い続けている事になる。
無論、パイロットの交代はあろうが擬似太陽炉の充電と冷却は省かれ、ほとんどの時間を模擬戦に充てているという。
「肩部。胸部、両膝部のGNコンデンサー、腰部側面後部の電力バッテリーとまで・・・・・・」
「外見はあまり変わっていないというのに最初の試験と大きく違うではないかね?どうやって冷却剤を増やさずに済んでいるというのか?」
「GNウイングをスラスターと放熱に機能限定したからでしょう。新規パーツをフレームに全て上手いこと組み込んだ事になります」
「よくよく見れば細かい所が変わっているな。見覚えのあるマニピュレーター・・・GN-Xのクローまであるわい」
「設計図によるとマニピュレーターと膝部胸部のコンデンサーなどユニットがGN-Xのと同じではないか」
将官の面々から声が沸き立つ。
既存MSの規格どころかパーツの多くが使い回しが利き、なおかつそれ以上の性能を発揮しているのだ。
別の画面には本機の整備光景が映し出されていた。
数十人の整備兵と四機の小型モビルワーカーがオーバーホールにMSの装甲が剥がされ、部品がユニットごとに取り外し、代わって新造品をフレームに次々装着していく。
その新品はペルセウス専用パーツのみであり、他は全て予備のGN-XIVフォルティスからの取り寄せで全て賄われていた。
実際、そのような流用はよほどの戦況悪化による物資不足などでなければありえないが、どれ程互換性が高いかが示す宣伝として格好のシーンだ。
「見事な機体だ!次期主力機とするには組織編制が充分成っていない今は早いが、有力候補にふさわしいMSと認めよう!
全面改修を伴う運用試験の長期化の責任は不問とする!」
「ありがたきお言葉です・・・!煉総司令!」
この後行われた地球連邦次期主力MS開発計画で弾かれた、GNX-Y809TネオGN-X及びGNX-Y807Tジャーズゥが旧人類軍にもたらされた際、
次期主力MS候補機GNOー0001Tペルセウスは比較評価において二機相手にまさかの敗北を喫してしまった。
前者は本機を上回る従来機との互換性の上に既存生産設備を流用可能な点で差を付けられ、後者の信頼性と重装甲高機動などに及ばなかった点を挙げられる。
我が旧AEU系の芸術品というべき華美なデザインと複雑な設計を払拭しきれなかったのが欠点だったのだ。
だがあの二機は来る旧人類軍攻勢まで戦力を繋ぐ暫定主力機でしかない。
どれほど互換性と信頼性を上げたとしても、地上反イノベイター派との共用を意識してペルセウスを弾いただけの事である。
本当の主力機選考にはペルセウスの後継機という形でなんとしても採用を通させるよう、じっくりドクトリンと合致させ開発研究を進めるまでだ。
旧AEU系元GNX-Y804TイナクトII及びGNOー0001Tペルセウス現開発担当技術者日記より