機動戦士ガンダム00統合戦争緒戦記
第2部 第33話 GN-010RE1 ガンダムサバーニャR1
統合戦争における私設武装組織ソレスタル・ビーイングの武力介入は、連邦政府公式記録では決して多くはない。
地球連邦軍と旧人類軍の武力衝突が最高潮に達した戦争後半に集中していたのも要因だが、彼らの介入が秘密裏に行われ隠匿性が高かった事も大きい。
これはガンダムと他MSに性能差がなく表立った介入は困難であり、統一政体を成す地球連邦が大半に渡って正常に機能し武力介入の余地などなかったのだ。
また組織の財政が好転したとはいえ万全ではなく、切り札のツインドライブ搭載ガンダムは運用試験中にあり、行動を開始するには尚早だった。
再台頭した強硬派政権の下軍備増強と国家再編を進める地球連邦と、不満分子を扇動しつつ勢力を拡大する旧人類軍が小競り合いを繰り広げる統合戦争中期。
ソレスタルビーイングの数多くの秘密裏の武力介入とは例外的に、ELS戦以来となる組織総力を挙げた武力介入が一回行われていたという。
私設武装組織ソレスタルビーイング本隊を成す戦闘艦―――数年後には新造艦に代替予定にある―――プトレマイオス2改、
ある日開かれたブリーフィングは緊張に張り詰めており事態の重大性を物語っていた。
「近ければ二週間、遅くても一ヵ月後くらい・・・・・・。
中央アフリカに潜伏している旧人類軍第三次降下部隊が周辺武装勢力を統合した上、潜水艦や偽装商船で連邦領都市に無差別爆撃を仕掛ける。
目標は首都ワシントン他ニューヨーク、モスクワ、北京、東京など地球連邦各地の大都市よ」
ソレスタルビーイング司令官「スメラギ・李・ノリエガ」、年齢44と役職に比して多少若くも歴戦の将が告げる。
端末で表示された大型スクリーンには敵の作戦、最も確率の高いミッションプランを順に提示され、現有戦力に見合った進路と必要時間まで入っていた。
各プランによって程度が違うが最悪の場面における犠牲者の数に、誰もが敵の行為に不快感を沸き起こした。
「敵さんは連邦市民に直接被害も勿論、初期型擬似GN粒子で大量の細胞障害患者を作るのさ。
そうしてインフラ破壊で経済打撃に加えて大量の患者を抱えさせて財政を圧迫する」
MS隊長を務めるガンダムマイスター「ロックオン・ストラトス」が、ピストルに真似た右手を世界画像に指し目標都市攻撃を強調。
彼はアロウズ時代より戦ってきた今年42歳の壮年兵だが、加齢の皺にも勝る飄々とした性格は組織参加当時から全く変わっていない。
本来後方で前線指揮を執るが、今作戦では久しぶりに最前線復帰し指揮は戦術予報士フェルト・グレイスに兼任されている。
アレルヤとマリーらハプティズム夫妻を含むガンダムマイスター達とクルーは野次を飛ばさずに、モニターに表情を険しくさせて睨み付けるだけでいた。
旧人類軍の非道な作戦に怒りを感じながら、だが表に出さず黙々と。
「あのスローネの拡大版というべきな作戦、実施されれば連邦軍が対応するまで最長三十分の間に世界規模の被害を受ける事は間違いないわ」
西暦2325年より18年前の武力介入開始の年、組織の計画外に用意されたチーム・トリニティによる過激な武力介入。
民間人の巻き添えを厭わぬ攻撃に、ビーム用に圧縮された初期型擬似GN粒子の副作用で細胞障害に罹った者は千人近いという。
ナノマシン服用で生き永らえてきた者もいれば苦しみながら死んだ者もいる。
今回旧人類軍が作戦実行すれば何十何百倍の、死者100万人程と負傷者600万人というかつてない規模となる。
「我々ソレスタルビーイングは事態と紛争根絶の理念と照らし合わせ、最危険紛争幇助行為としてこれに武力介入します」
武力介入は量子ワープを実行する前に始まった。
はじめに小惑星帯のサポートチームとフェレシュテを至急呼び寄せ、人員物資から可能なミッションプランをヴェーダと考案という準備から。
実行部隊にプトレイマイオス2改の本隊ことトレミーチーム、支援にフェレシュテ、予備戦力に他チーム。
総力を挙げた戦力だがその内実は寒い限りで、トレミー及びフェレシュテには3、3.5世代ガンダムが、ツインドライヴ搭載の00クアンタR1二機は能力隠匿の都合で試験チームに回されているという。
00クアンタR1を前線に出せばたったの二機で敵軍を殲滅するなど何の造作もない。
だがこれまで試験途上にあり新技術もGN粒子の新用途もまだ完全に編み出されていない現状下、無闇に紛争介入に投入すれば両軍の軍拡競争を刺激させ逆効果になってしまうのだ。
よって不利な戦況にのみ投入という、時間的にも戦力的にも余裕のないというのが今武力介入の実情だった。
第一波を担うハプティズム夫妻のガンダムハルートR1ファルコンが出撃して五分後、第二波のガンダムサバーニャR1がカタパルトの加速に任せ量子ワープを実行。
二機のガンダムサバーニャR1が目標付近に転移した先は中央アフリカに位置するソマリア丘陵地帯、旧人類軍作戦司令部が置かれた野戦キャンプの真っ只中である。
「サジタリス・ブルースカイ、ガンダムサバーニャR1二号機!量子ワープ完了!これよりミッションファーストフェイズを開始する!」
スカウト前はイノベイター少年兵だった新ガンダムマイスターが、一番機のロックオンと反対側に転移し次第敵地の蹂躙を仕掛けた。
18歳のほぼ大人であるサジタリスは茶色の瞳で状況を俯瞰する。
基地司令部は既に第一波の爆撃に既に焼かれ、トップを失った駐屯兵は部隊ごとに事態対応していれば良い方で、ほとんどは混乱し状況把握だけで精一杯にあるようだ。
まずもって迎撃MSが上がる様子はなく哨戒MSは持ち場から離れられず、この時点で戦力空白が大きく生まれている。
「食らえ!安全な所から尻を叩きやがる糞野朗共め!」
ミッション通り憲兵隊の宿舎を補足、その区間にピストルビットを八機中六機差し向けて粒子ビームの雨で焼き払う。
敵軍中核の旧人類軍は精鋭部隊と憲兵隊で二分されており、その内後者は督戦用にMSが大量に用意されているという情報を得ている。
作戦では勇猛だが暴走しやすい武装勢力の督戦や監視を担当する憲兵隊を叩けば、連合軍の統率は大きく乱れ連携の支障をきたす事を意味する。
何より戦局を傾かせた際にて死兵になって抵抗してくる可能性が大幅に減り、一部の敗走による部隊瓦解の可能性が100%中50%以上を軽く上回るのだ。
「地獄で悪魔に裁かれやがりな!」
彼自身、過去キャンプで威張り散らす憲兵達の気まぐれな私刑と粗探しに晒され、戦場では逃げるどころか退きも縮こまりもすれば殺しに掛かる督戦隊の大人達を恨んできた。
その結果死ぬまいと銃弾飛び交う戦場で自分は山ほど殺してきたが、憲兵と督戦隊は大人で立場が上なのを良い事に自分達少年兵を使い潰してきたのだ。
安全な所から「死ね」「戦え」と怒鳴る腐った大人達と同類の連中を討ち滅ぼした事にサジタリスは罪悪感なく吐き捨て、すかさず次の目標にMS簡易格納庫に目を向ける。
「サジタリス・ブルースカイ、目標を焼き払うぜ!!」
各ビットの圧縮粒子を一箇所に収束、巨大な光柱として一区間まるごと消滅させた。
旧人類軍の主力機ネオGN-Xとジャーズゥが、火力支援機GN-XIVフルミナータが、無人機GN-XIII重火力装備が、等しく焼き尽くされ分子に回帰していく。
続けてピストルビット六機を全周囲に散開、広域焼却設定の粒子ビーム散弾を地上で恐慌状態の旧人類軍将兵に、物資集積地に無慈悲に撃ち込む。
焼かれ苦しみながら死んでいく人間達の怨嗟と絶望、恐怖が、脳量子波と共に彼に数百数千も伝わるが歯牙にも掛けない。
(奴らは戦争を拡大させるだけの存在だ!好き好んで参加した自業自得な奴らだ!どんどん潰して良いだろうが!!)
「憲兵共に、威張るだけの糞ったれ共にプレゼントだ!」
敵軍の中核を叩けば叩いた分だけ武装勢力の士気が落ちる。ここで徹底的に叩きのめして損などはある訳ない。
「サバーニャ二号機、攻撃が予定より二倍過剰になっているです!急ぎ予定ルート通りに進攻してくださいです!」
「ちぃっ・・・!」
主席戦況オペレーター「ミレイナ・ヴァスティ」より叱咤が飛んできた。
「時間切れか・・・!サジタリス・ブルースカイ、予定ルートに急ぎ戻り進攻を再開する!」
名残惜しいが熱中しすぎた故の過失だ。ロックオンと連携に支障をきたしてしまうではないか。
哨戒機が戻ってくる前に全ピストルビットを集結させ、機体を超低空飛行で進攻ルート通りキャンプの上を進み行く。
だが切っ先がこちらに届くほど距離を詰められていなくても遠距離より反撃が来る頃合いなので、ホルスタービットII四機を円陣に展開しておいた。
そこへアラートが飛ぶ。敵の反撃が遂に始まったのだ。
GN-X無人機のGNメガランチャーから盾兼ホルスター型兵装が火線を逸らしてくれた。
作戦に向けて設定される赤色の初期型擬似GN粒子ではなくオレンジ色の世界標準の擬似GN粒子だった。
「俺が調子乗ったせいか!」
凶報は一撃目とそれに続く反撃の粒子ビーム数発の威力が想定通り強力なせいで、ホルスタービットIIを正面からでは全て受け止め切れない事。
ガンダムとビットの位置取りを的確に決め、火器管制担当のハロ二機による跳弾と粒子制御フィールドによる屈折や拡散、盾の防御を組み合わせて初めて猛攻を受け止めている。
受け止め曲げ逸らし弾く度に全GNコンデンサーの備蓄粒子が少しずつ、されど確実に磨り減ってしまう。
逆に吉報は防御のおかげで機体にダメージはなく、ビットの損失もない事である。
お陰でサジタリスの乗るガンダムサバーニャR1はなんとか予定ルート通りに進攻出来ている状況だった。
「旧人類軍防衛MS隊、サバーニャ二号機担当区の前衛だけでも合計二十機!左射線陣形で包囲を仕掛けるです!
プラン維持のまま防御のみの対応、一号機と交差地点へ急いでです!」
こちらの確認と転送情報分から、前衛はネオGN-X八機とGN-XIVフルミナータ四機、GN-XIII無人型重火力装備八機からなっている。
オレンジ色の粒子ビームの数が十を越えミサイルまで加わってきた。
「了解!!」
暴風のように強烈な反撃が鬱陶しいがミッションの為に耐えなければならない。
現装備で迎撃部隊を撃滅出来る火力を持っているしサジタリスがそれを可能にするだけのパイロット技量を持つ。
しかし彼とガンダムサバーニャR1二号機はその程度の戦力でしかなかった。。
地球連邦軍も旧人類軍のMSも基本性能では量産機すらこちらを上回り、精鋭機に対して00クアンタR1以外どのガンダムも太刀打ち出来ない。
「旧人類軍第二キャンプよりイノベイター部隊二個小隊のスクランブルを確認!接敵まで一分です!」
「トランザムで来るか!!」
伝達と共にモニターに敵情が表示される。
今度はクワドルプルドライブ機GNW-20005ガルゼス八機という、決して会いたくない最悪の敵だ。
このガンダムでは火力も防御も基本性能も全く太刀打ち出来ない。
「おい!サジタリス!お前派手にやらかしたな。その間にロックオン・ストラトスは予定交差地点より越えちまったぜ。だがミッションに支障はねぇ」
(おっさんなのになんて腕だ!アロウズとELSと戦った腕はこれ程なのか・・・・・・!余裕まである・・・・・・!)
こちらが敵の追撃を受け止めながら急ぎ進攻してきたが結局ミッション通りに進めなかった。
無念と先の過失の後悔がサジタリスの胸に突き刺さるも、すぐに振り切り機体を操縦に神経を傾ける。
「行くぜぇ、サジタリス!!」
「了解、ロックオン!!」
キャンプを蹂躙する二機のガンダムが全ライフルビットを一斉発射した。互い向かい合ったままで。
GNバーニア全力噴射、それぞれ左右にずらしガンダム同士距離を置いて交差していった。
サッチウィーブ戦法―――奇策を織り交ぜて―――を仕掛けたガンダムの射撃に、不意を突かれた二手の敵はあえなく粒子ビームの弾幕に直撃し、手足頭胴などが好き放題蹂躙され爆発四散した。
純正太陽炉不足と特性による性能向上の制約の中、粒子関連技術が研ぎ澄まされた火器は地球側MSのそれらを上回るのだ。
「敵部隊三十%消滅!ファーストフェイズ完了です!」
「ロックオン・ストラトス、これよりセカンドフェイズに移行するぜ!」
「サジタリス・ブルースカイ、こちらもセカンドフェイズに移行する!」
次はダメージを受けた敵部隊に正面より叩きのめし突破する。
・・・と、その最終目的は量子ワープでトレミーに帰還する為の前進退却なのだが。
今武力介入は時間制限下の状況からスピードが命、つまり量子ワープによる奇襲を掛け痛恨の一撃を加える事。
旧人類軍降下部隊の中枢に打撃を与えたら、その次に実働部隊たる武装勢力の攻撃が待っている。
これらが完遂すればアフリカ方面の反イノベイター派は主力と遠征用物資を失い守勢に回らざる得なくなる。
それまでソレスタルビーイングの武力介入は何日も続けられる。
ガンダムサバーニャR1二機の連携攻撃時に劣らぬ大爆発が敵側よりまた盛大に上がった。