機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記
第2部 32話「GNW-20005 ガルゼス」
反イノベイター派最大の組織「旧人類軍」はその名の通り一国に匹敵する規模の軍事力を保有し、
同勢力のみならず敵であるイノベイター派の地球連邦内部にもネットワークを築き、統合戦争の間地球連邦に立ちはだかってきた。
ところが旧人類軍の組織規模とは裏腹に「人類の敵イノベイターの排斥」というスローガン故、彼らは終始内部崩壊の危機に置かれていた。
スローガンには様々な注約や解釈が入れられ、次々人類間でイノベイターに覚醒する現実に対しても「あくまで即座抹殺あるのみ」と叫ぶ原理主義過激派や、
人類より優れた能力から「生体兵器として生かしておくべき」と考える多数派、それを更に突き詰めて「優秀な個体のみ軍事利用しそれ以外は抹殺」と主張する者が現れる。
これまでにない変革の恐怖から始まった活動は論理で肉付けしても、時代の流れと相反する思想に矛盾が生まれてくる。
統一されない思想はやがて主導権と正当性を巡る派閥抗争となっていくのは必至だった。
西暦2324年、つまりELS戦より10年後になるとイノベイターに覚醒する者の増加に加え、彼らの間で生まれた二世代目も加わりその数を更に増やしていく。
あまりにも急激な変革を拒絶する者達も彼らが増えた分だけ増えていき、合法から非合法に至るあらゆる手段を以ってして人類の潮流に抵抗を続ける。
地球より遠く離れた、それも火星及び木星を結ぶ小惑星帯に位置する秘密基地で身内による諍いが起きていた。
「過激派艦隊、ゲート一帯の制圧を確認。引き続き待機せよ」
「ブラッド小隊、了解」
光学カメラから視覚情報を収集。
パイロットは一般のと違うパイロットスーツを着込み、首や胸など重要な部位に固定された爆弾が彼らの異様さを物語る。
彼らはイノベイター兵。人類と異なる存在として排斥を掲げながら、戦力として用いられる組織の生ける矛盾。
「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」
反イノベイター派最大組織である旧人類軍艦隊が自らの拠点カストロン・ヘブドモン、小惑星で構成される基地部分に隣接するコロニー型居住区ゲートに詰め掛けている。
自らの同胞に牙を剥く。それは反乱、もしくは内部抗争、内ゲバというべき行為。
(過激派は地球から上がったテロリストや民兵からなる・・・。装備は雑多で統率が取れていないが士気旺盛で勢いがある)
バイカル改級一隻、ラオホゥ改級武装輸送艦三隻の計四隻。二十機程のMSはGN-XIVフォルティスやチェンシー系を中心に、
配備されて三十年で売られて二十年も経っている骨董品レベルというべきAEUへリオンとティエレンが補助戦力という新旧雑多な陣容だ。
防衛部隊が迎撃に当たったが一分足らずの光芒を生んですぐ蹴散らされてしまった。
あまりの不甲斐なさを敵に晒しているというのに、ブラッド小隊と基地司令部の反応は至って冷静にあった。
(装備が良くても主導権を握られれば負けるか・・・)
予め過激派の動向を知った或いは予想し反撃の手段を考えていなけれ、ば淡々と監視するなど不可能な話である。
それを証明するようにパイロットも司令部も焦燥の気配はなく、民間人に受ける被害など無頓着だった。
「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」
乗機を外との有線接続に加えナノマシン迷彩の隠密態勢を維持させ、遠くより現場を静観し続ける。
たった今、過激派がコロニー内に雪崩れ込んでいる所だ。
(過激派切り札のGN-XIVフォルティス八機全部、チェンシー系八機が艦隊直掩に就いている。他はコロニー制圧に当たっているか。
GN-Xとバイカル改が最大脅威、他は粒子装備に注意すれば充分だな。このガルゼスならば・・・・・・)
光学カメラを頼りに敵戦力を分析、乗機性能と照らし合わせ脅威度を推し量る。
無論、旧人類軍最強を誇る最新鋭機GNW-20005ガルゼスの獲物達から判定した評価に過ぎない。
(そろそろ頃合か)
パイロットスーツの脳量子波遮断機能と有線通信による情報制限からあくまで予測でしかない。
今頃コロニー内は寝耳に水の如く、混乱の惨禍にあるのは確かだろう。
非イノベイター民間人のみ優先的に避難が進められ、逆にイノベイターは隔離施設に押し込められたままにある。
それを好機とばかりに過激派部隊が粒子ビームやオートマトンの銃弾で彼らを血祭りに挙げる事は容易に考えられる。
「ブラッド小隊各機、ただちに前進し過激派を排除せよ!」
隊長機からの命令が飛ぶ。最後尾で司令部からの指示をこちらの伝達したのだ。
「了解」
ナノマシン迷彩を解除。真紅の機体を宇宙に姿を見せ、モノアイを赤く輝かせる。
四基二連結の擬似太陽炉の、オレンジ色のGN粒子が背と腰から迸りながら猛進を掛けた。
イノベイター専用機GNW-20004ガゼインの後継機の面目躍如。二機は一瞬の内に反逆者達の目前まで肉薄していった。
(第一目標、バイカル改)
コンマ秒という刹那の内、一キロを軽く突き進みながら右手のGNバスターソードを前に突き出す。
刀身が二つに分かれ巨大な銃身となった得物が粒子ビームを撃ち放った。
MS一機丸ごと飲み込む程の光柱が巡洋艦の艦尾をいとも容易く貫き、右へ撫で斬りのように砲口をずらし破壊範囲を広げる。
目標内部に食い込んだ圧縮粒子の炸裂が備蓄粒子にも連鎖爆発を起こしていく。
そして盛大な大爆発となり巨大な残骸として四散していった。
初撃をたったの一秒で完遂せしめる。
これで敵の火力の要を消した。後は脆弱な武装輸送艦と旧型MSと準GN機だけだ。
(続けてブラッド2が撹乱する!)
背後より付き従う四番機目のガルゼスが隊長機から散開、真上に急上昇し敵部隊を俯瞰するポジションに付く。
右腕部のウェポンコンテナより粒子撹乱ミサイルを四発全弾発射。
それぞれ四方に弧を外向きで描きながら過激派残存部隊を囲うように襲い掛かる。
ここに来て敵は味方艦の爆沈で敵襲に気付いて迎撃の弾幕を作り始めた。
しかし遅い。砲撃を済ませた一番機の接近を許してしまい、まずGN-XIVフォルティスを一機目に大剣の唐竹割りで粉砕していった。
同時にミサイルが急ぎごしらえの対空防衛網を嘲笑うようにすり抜け、指定座標の位置通りに爆発し薄緑色の粒子撹乱ガスを散布する。
包囲するように撹乱膜が敵を中央の僅かな安全域に押し込み、粒子膜突破と引き換えの戦力分散か包囲された上に良い鴨を甘んじるか選択に混乱をもたらす。
(やはり大半は練度が低い。すぐ混乱した)
精鋭のGN-XIVフォルティスは二機共同でGNフィールドを張り、撹乱膜突破しようとする残存艦を守る。
対照的にチェンシー部隊だが、拡大していく撹乱膜に恐慌状態に陥り陣形が瞬く間に崩れていったではないか。
各イノベイター兵はパイロットスーツに脳量子波遮断され敵の内情を察知できないが、座学や訓練に戦場で叩き込んだ敵のパターンから見抜けた。
パイロットの内、GN-XIVフォルティスを駆る方は間違いなく元連邦兵の旧人類軍正規部隊所属に当たる。
それ以外は反イノベイター感情だけ人一倍の烏合の衆でしかなく、組織の頭数合わせに引き入れた非正規部隊である。
彼らは兵器提供に関しては重要な顧客であり予備戦力でもあるのだが、軍人として訓練を仕込み辛く今回のように統率を失いやすい。
「こちらブラッドリーダー。分断された敵をブラッド3は二軍を、ブラッド4は一軍を掃討せよ」
「「了解!」」
ブラッド4が敵の懸命に放たれた粒子ビームを束を擦り抜け、粒子撹乱フィールドから顔を覗かせたラオホゥ改一隻を瞬時に撃ち抜く。
射撃の障壁に制限された射界にGN-XIVフォルティスは自慢の粒子兵装を思い通りに生かせず、牽制程度にしか貢献出来ず守勢を強いられている。
(あの辺りの濃度なら撃っても十分通用する!)
続けて三発連続発射。あえて撹乱膜に向けて走る火線がガスに減衰されながらも、最も薄い膜の外周を突き抜けていった。
膜の中でこちらも粒子ビームが撃ち辛いなら向こうも同じだろうと思っていた一機を固め撃ちで撃墜、二発もそれぞれ撹乱ガスに隠れていた機体を次々吹き飛ばす。
一方のブラッド3は暴風のような立ち回りで、チェンシー部隊に一方的な攻撃を繰り出していた。
唯一対抗出来る200ミリ×25口径長滑腔砲すら混乱状態にあってはまともな対抗が出来ず、次々とGNバスターソードGNクローの餌食となり、宇宙の藻屑に成り果てていった。
「ブラッドリーダーから各機、敵本隊はラオホゥ改一隻、GN-XIVフォルティス五機まで減少」
安全な後方に居座る指揮官より状況伝達が届く。
背中に巨大なGNメガランチャーを二基備える砲撃武装の隊長機と副官機は自慢なはずの高火力を全く見せ付けずに、近接装備のイノベイター機の戦闘をただひたすら傍観している。
そんな後方の怠慢に先鋒の2機は、だが当然の事のように何の逆撫でに起こさず任務を遂行するだけであった。
(敵の機動に鋭さが増した?)
命中するはずの光条が敵機を通り過ぎた。
一条だけではない。二条、三条目も射線から敵が外れてしまった。
GNバスターソードライフルモードの粒子ビームを拡散に変更、一発一発がGN-X系GNビームライフル標準出力並の拡散ビームを撃ち込むが回避されてしまう。
(イノベイター相手にこれほど動けるとは・・・・・・。まさか・・・)
先まで屠られる身にあったGN-XIVフォルティス部隊がここで戦力消耗率を半分近くで打ち止めになる。
ここから反抗へ切り替えるのはすぐに違いない。
「ブラッドリーダーへこちらブラッド3、敵パイロットは擬似イノベイターの可能性あり。トランザムの許可を頂きたい」
旧人類軍で大々的に運用され、起源を遡れば超兵波研究所で編み出された改造人間兵。
技術変革によってイノベイターと同等の能力を、因子の持ち主以外にも肉体改造する必要なくナノマシン投与のみで会得できる。
これが旧人類軍正規部隊全体に行き渡れば近い将来、数で圧倒的に劣る自軍が地球連邦軍に対して表立った攻勢を掛けられるといわれている。
事実、熟練兵の実力にイノベイターの能力が加味された総合戦闘力は、ガルゼスとの差を大きく縮め互角に近くなっていた。
粒子撹乱膜の最低限の回避機動だけでこちらの射撃を擦り抜け、収束ビームや拡散ビーム、肩部GNビームガンで反撃の弾幕を生み出す。
非イノベイターパイロットでも彼らの機動を封じられる大火力に加味された、頭脳と思考を含む総合能力強化による的確な射撃という猛威。
二機のガルゼスはそれら粒子ビームの光柱と暴風をことごとく潜り抜ける。だがこの先、損害なしで掃討できる見込みはこれで無くなった。
この時点で許可が降りないまま敵のトランザムを許せば瞬殺されるのはガルゼス3、4番機の方だ。
「全機、トランザムの発動を許可する」
「ブラッド3了解!」
「ブラッド4了解!」
多くの殺戮で血を浴びたように紅いMSは朱色の流星となり敵一機を光球に。
残存GN-XIVフォルティスも同じような流星になり、それらが複雑怪奇な機動を交え激突した。
GNバスターソードの薙ぎ払いが、GNパイクの刺突が、GNバルカンの弾幕が、ぶつかり合う度にあらゆる手で何十も繰り出される。
互いのカードを出し尽くす激戦は機体に損傷を生み、やがてどちらかが盛大に散っていくのは時間の問題だった。
「・・・これでよろしかったですか?」
モニターにブラッド2の顔が映し出された。
上官の指揮に疑問を浮かべているという口調で問うて来る。
「ん?トランザムさせなければ、敵にもけしかけられずに手札を温存させてしまい、こっちの意図が読まれるのだぞ?」
「過激派掃討の総仕上げ、ですか・・・」
この作戦の為に上層部が特別用意した擬似太陽炉直結型背部GNビームキャノンの使い道が見えてきた、と言わんばかりに部下の目が見開く。
巡洋艦と駆逐艦に搭載されている標準型の二連装GNビーム砲と管制装置をガルゼスに転用したあの装備の見せ場を。
「あの駒共が過激派にやられれば忌々しい化け物兵士が減らせるし、このまま掃討していけば過激派はしばらく黙ってくれる。
どっちに転がろうと旧人類軍にとって損はあるまい・・・・・・!」
彼らは自体を本当に知っているのだろうか?
常に消えぬ不安要素に対する努力は無駄でしかないと。
内憂外患にある軍事組織の崩壊を告げる不吉な予兆であると。