機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記
第2部 第30話 GNMA-0003ガデラーザII
イノベイター専用巨大試作MA、GNMA-Y0002Vガデラーザから始まる系譜は地球連邦軍と旧人類軍に分岐している。
当初は両軍とも正式採用機が戦闘に用いられていたが、程なくして異なる運用思想に則って配備されるようになる。
単機で多数の敵を圧倒できる性能、戦艦を一撃で沈められる火力、巨体にして最速の機動力。
それらをそれぞれの事情下で如何にして効率的に運用できるか。
両軍の巨大MAは一半世紀近くかけて姿を変え、統合戦争の間互いに刃を交え続けた。
第四基幹艦所属の第四戦闘機動MA小隊は現在、西暦2325年9月2日の最も悪夢の渦中にあった。
ひっきりなしに鳴り響くアラームと、機体をよぎる粒子ビームが、彼らの恐怖を掻き立てる。
こちらに食らい付くのはブルーカラーの三百メートルを越す巨大MA。
厳しい選考の末、最新鋭機GNMA-0003ガデラーザII二機を宛がわれたパイロット達だが、前線配備に向けいつもの慣熟訓練中の敵襲を受けている状態。
相手は旧人類軍のGNMA-0002ガデラーザIと、この期も最も会いたくない敵に追い回されているのだ。
「まだ応答ないのか?!これで十分も経ってるんだ!」
「GNステルスフィールドのせいです!効果がかなり広い!半径百キロ内も!」
必死に操縦するMA小隊長ハイドルフ・ワーレン大尉にシステム担当手が怒鳴り返す。
L2外れ、それも火星方面の広大な演習宙域でだ。
元々遠い上、通信妨害に遭い救援要請も状況報告も全く出来なくされているのだ。
太陽炉搭載機が普及して十八年。その間に技術革新はしていき機体性能と操縦技量だけでなく粒子制御も勝利の鍵となっていた。
それらによって、粒子制御能力が強い機体ほど敵に無力される可能性が低くなり、撃破の可能性が上がるという道理であった。
「コンデンサー分を出しても難しいな・・・!」
備蓄粒子を全て放ちGNステルスフィールドを張ったとしても状況は変わらない。
敵味方共に、亜光速でドッグファイトを繰り広げており、そのような防衛手段は使用タイミングを定め辛いのだ。
小隊周辺に大型GNファングが群がり進路を妨害し、敵GNブラスターの射線上に引き寄せんとばかりに虎視眈々と狙らってくる。
狙いの獲物を確実に追い詰めんと、疲労と消耗を誘いながら。
それに一切の雑念はない、ただ破壊だけに追求した、知能が進化した知性体だけがこなせる、芸術的といえる戦闘機動と戦法で。
(これだけステルスフィールドを広く張られりゃ、周りも気付きやすくなるが・・・。
駆けつけてくれるまで保つのか・・・・・・?!)
旧人類軍のガデラーザIパイロットは間違いなくイノベイターか擬似イノベイターだろう。
向こうの技量は連邦側非イノベイター操縦手二名とシステム担当手二名の計四名をも上回り、
少数戦略打撃もしくは単機戦術打撃を用途に小型化されたガデラーザIIなど、単機戦略打撃が用途のガデラーザIの敵ではないのだ。
武装はGNブラスターとGNバルカン搭載クローアーム、GNミサイル発射機を中心に、オプションでGNファングやGNコンデンサー、GNミサイル発射機など。
サイズ相応の火力の上、GNファングは一般パイロット向けに制御にリミッターが掛けられ、イノベイターパイロットでなければ本来の性能を発揮できない。
最新技術を投入された新規設計の本機は誰にでも扱えるよう操縦性が改善された引き換えに、かつての圧倒的な性能は三割程も低下してしまった。
パイロットは全員脳量子遮断ノーマルスーツを着込んでいる為、敵イノベイターに意図を察知される可能性は低い。
それでも総合的に考えて、一般兵向けMAで立ち向かう連邦側の不利は否めない。
対する敵機は旧人類軍の下で近代改修を重ね、配備当時に引き続き圧倒的優位性を維持している。
こちらは絶えずGNフィールドを張る事で粒子ビームの暴風を凌ぐしか出来ず、広大なステルスフィールド内にて火器は全て封じられ、
ひたすら捕食者に追われ続ける惨めな弱者というべき姿が今のガデラーザIIであった。
「トランザムで、ここから抜け出す!このままじゃジリ貧だ!」
二機のGNファングがシザーズしつつクロスファイア、先端GNブラスター計二門の砲火が防御壁表面を削り取る。
続けて後方より二機がトランザムで前方に飛んでいった。先回りしてステルスフィールドからの突破を阻むつもりだ。
「隊長、敵は先回りして逃げ先から撃ってきますが?!」
部下が反論してきた。
無理にあがけば不利を通り越して全滅を喫するだろうと。
「だが向こうは襲撃目的、こっちはひたすら逃げるだけだ!いけなくないだろ!?
敵は帰りの分も考えなきゃならないからな・・・!」
そんな物は数ある可能性の内の一つでしかない。
ワーレン達を落としたらそのまま地球圏に強襲を仕掛ける可能性の方があり得る。
とはいえこの窮地にまやかしだとしても光明を欲したくなる。
「それは・・・・・・」
旧人類軍は内乱の折、当初の艦隊による大規模攻勢を断念し、ガデラーザIによる襲撃と通商破壊へと程なくシフトした。
惑星航路外に広がる宇宙空間から、MA自体の高機動力に上乗せしたトランザム航行と高ステルス性で、
時間選択と攻撃対象を自由に選択出来る旧人類軍の攻撃は、この八年間地球連邦に軍事的にも経済的にも打撃を与え続けてきた。
軍自体の打撃はとにかく民間船、それもイノベイター系の乗るそれらと経済を支える貨物船にも攻撃を仕掛けており、
防衛線を突破し低軌道からイノベイター密集地域を超高高度精密爆撃される事例まである。
連邦の被った損害は半分に分けて、分離勢力か旧人類軍のガデラーザI数機によってもたらされるとまでいう。
「粒子生成時間、五十%を切りました・・・!」
長く過酷な演習が終わった矢先に敵襲に合っているこの状況。
一方的防勢に追い込まれ敵が張ったGNステルスフィールドの中、攻撃をかわし続ければどんどん消耗するばかり。
拠点の多い地球圏とはいえ、広大な外縁部から母基地に落ち延びるには心ともなくなってきた。
「もう破れかぶれだ!このまま強行突破する!
こちらワイバーン1が惹き付けた隙にワイバーン2はここか全力でら抜け出せ!
そう信号で一分間伝えろ!」
「了解!ワレガオトリ二ナリタリ、キカンハトランザムデニゲヨ!」
同じファングに追い立てられる僚機に絶えずモールス信号で伝達する。
幾束もの火線を死に物狂いで潜り続ける最中に果たして伝わるか、本人らにも確証を持てないただの賭け。
それでも伝え切るとガデラーザIIが戦闘形態に変形した。
巨大な砲身が降り、サイドバインダーと頭がせり出し、それらを身に着けた後部ブロックが胴体として姿を現す。
下半身となったブロックから左右三連結の擬似太陽炉が脚としてロック解除される。
ガデラーザI以上に人型に近くなった機体が、両脚を振り上げ反動で垂直に。
斬りかかる敵のビームサーベルはGNフィールドで受け止め、弾かれた勢いのままガデラーザIの軌道から逆に方向転換を果たす。
「よしっ!!」
コンデンサー内の蓄積したGN粒子を全面開放、トランザム・システムを発動。
朱色に染まった百メートル近いMAが、オレンジ色の粒子幕から抜け出し月面基地を目指す。
トランザム解除するも速度維持で粒子を節約する。
「突破成功っ!ワイバーン2の生存確認!」
「こちらワイバーン2!しかし敵が急迫してきます!あっ、ステルスフィールドから出て来ました!!」
ジャミングから開放され反撃出来るようになっただけで、勝算はたいしたほど上がっていない。
味方の無事に一瞬安堵した後、現状を瞬時に把握するとワーレン達は失望してしまった。
背後から押し寄せてきたのは十束ものオレンジ色の粒子ビームだからだ。
GNブラスター、GNファング搭載GNブラスター、クロー先端部GNバルカンの艦砲級もある砲火の嵐が吹き荒れた。
こちらもGNクローアームを展開、恐るべき追っ手にGNバルカンで応戦し逃げながら撃ち合う。
敵の方が火線が濃密で強力だ。ではどうすれば勝てるのか?振り切れるのか?
スピードもガデラーザIIよりIの方が三倍あり、逃げてもすぐ追いつかれるのが目に見える。
オーバーシュートしGNブラスターで逆転勝利を図る・・・のは難しい。
ドッグファイトを仕掛け初代機以上の小回りの良さを生かして反撃もほぼ不可能だろう。
相手はイノベイター、演算力が従来人類より桁違いであり読心されなくても機動から読み取るのは難しくないのだ。
「こちら第四戦闘機動MA小隊、旧人類軍MAの攻撃を受け月へ逃走中!敵から振り切れず、救援を求む!!」
一番近いのは月面に位置する二人の母基地でもあり、第四基幹艦隊母港カストラ・ルネンシスだ。
ソレスタル・ビーイング号からもう既に月寄りに向かっており、救援に出せるMS隊の数もあまり期待できない。
地球連邦軍最初の月面基地より友軍が駆け付ければガデラーザIIと共に落ち延びれる。
「現速度でカストラ・ルネンシスまで残り五分です!」
「こちらバハムート1!敵はガデラーザI、ずっと食い付かれている!」
前方より巨大な粒子ビームがこちらとよぎった。
オレンジ色の束は敵MAとファングを落とせなかったが、その攻撃を緩めさせワーレン達の精神に余裕を与えるには十分だった。
「識別コード確認、GNMA-0002TガデラーザIカストラ・ルネンシス所属!友軍です!」
「来てくれたのか!」
試作機と同じ赤と紫に分けられたカラーの正式採用のそれが、巡航形態から戦闘形態へ変形、敵に突進する様がモニターに移る。
地球連邦軍は旧人類軍と違いイノベイターの軍事利用に消極的だが、慎重な軍備増強下から来る限られた戦力活用と、安全保障を理由に彼らの軍人として登用してきている。
そしてそれは当然、彼ら専用MAガデラーザIの運用を今も続けるという事になり、対旧人類軍戦の切り札として存在していた。
イノベイターに真正面から立ち向かえるのは同じイノベイターしかいない。
悔しいがそれが連邦軍人達の間での認識だった。
「連邦軍第1特務戦略機動小隊分遣隊オクトパス4である!貴官らは今の内に脱出に専念せよ!」
続けて大型GNファングを一斉射出、疲労はなく粒子残量を気にするまでもない、最高の援軍が切り込んでいく。
こちらも牽制射を維持、敵ガデラーザI
「了解!援護に感謝します!!」
生き残る可能性がこれで50%を超えた。
なんとしても追っ手を振り切り帰還すれば自分達の勝利だ。
地球圏で何年も繰り広げられる戦乱の時代では小さなレベルでしかないが。