機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記
第4話 GNX-613T フェラータGN-X
人類最初の民間居住用の大型コロニー「プリームムポリス」で発生した反乱。
それは連邦軍の駐屯部隊丸ごとによるものであり、このコロニーに訪れる政府の要人に張った抹殺の罠だった。
内部と外は完全に反乱軍の手中に置かれ、要人とその護衛達は絶体絶命の危機に陥った。
だがそれを潜り抜けた彼らは、追跡の目をかわしながら逃走を続けていた。
反乱軍の最大目標として命を狙われた地球連邦の要人アーミア・リーは、一瞬少し過去を振り返った。
コロニーで講演会を開く予定が崩され、自分を執拗に狙い四方八方から押し寄せる反乱兵の手から必死に逃げた。
逃げに逃げ、敵の死角に潜るつもりだった駐屯基地で、色々訳あってGN-XIVに乗ってしまった。
そのまま反乱軍のMS部隊と戦いになり、ELSとイノベイターの学習能力に助けられ、今このドニエプルに乗っている。
ただの要人ではなく義勇兵という肩書きでだ。
「例の敵MSはイノベイター機を基幹に置いている、となれば我々も対抗しなければならない。
GN-XIVはガンダム並の性能だが、量産機故敵に対して力不足だ」
説明がなされているにも関わらず、回想しながらその内容を把握していた。
これはイノベイターが持つ常人を超える同時情報処理能力の恩恵だ。
「貴様が次回より搭乗してもらう機体がこれだ」
ここはブリーフィングルーム。艦長と上官のMS小隊長との3人だけでの打ち合わせだ。
隊長が端末に操作しモニターにデータが表示された。
GN-Xのフレームをそのまま流用しながらも、パーツが所々異なっている。
装甲と一体化した胸部のクラピカルアンテナが2倍に大型化し、頭部アンテナは金色のがもう二本追加されている。
そして目に引くのは両肩の巨大なシールドだ。
GN-XIVのよりも2倍くらいある上、武装まで施されている。
5年前に活躍した2個付きのガンダムにそっくりな姿が、全面と側面、背部に分かれてモニターに移っていた。
「機体名GNX-613T、機体コードはフェラータGN-X。
対イノベイター機として突貫作業で貴様の機体を改造した」
「両方のシールドだけど・・・ただのシールドじゃありませんね・・・・・・」
「GNマルチブルシールド。GN-Xと同じ擬似太陽炉を内蔵、
シールドとしての防御の他、GNビームガンによる全方位牽制射撃、収束ビーム砲にも推進も出来る。
今までのシングルドライブからトリプルドライブに改造したという訳だ」
「あ、でも擬似太陽炉のセッティングが普通じゃありません!」
彼女が声を荒げたのはそこである。
それぞれの擬似太陽炉の粒子出力がトランザム時の3倍以上、オーバーロード寸前に当たる。
ELS戦で自爆による敵の道連れが頻発し、戦後パイロットの生存性向上に同機能が除去されたという。
3年間守り続けた自爆防止を艦長が破った事実が彼女に動揺を与えた。
「それが何だ?訓練なしですぐに乗れた貴様なら出来るはずだろ?
それとも根を上げた振りでもするか?」
隊長の前を遮って艦長が受け答えした。
こちらを見下した傲慢不遜な態度で睨み付けてきた。
「う・・・・・・。ただ・・・流石に危険かと」
「貴様の腕なら上手く乗り回せると知った上で言っているんだ!
イノベイターなら情報処理がこっちを上回る!すぐに学習できる!すぐに強くなれる!
おまけに半身ELSという最強女ではないか!!」
最強女という表現にアーミアは全然気に入らなかった。
彼女は強くなりたくて人間から変革したのではない。
偶然と必然が重なり合った結果、今のELSとの共存体に至っただけなのだ。
賞賛ではないただ自分の特異性を強調しているだけで、自分をこき使おうという算段なのだろう。
隊長は顔を俯き気味で苦そうに歪めている。
内心は躊躇している様子だが口にしないのは、自分の立場と軍務を心得ているからか。
一個人としては少し優しくしたい所だが軍人として毅然としていなければならない。
表情がその意思を表していたのをアーミアは読み取った。
「貴官は本来の職務を後回しし、反乱軍調査という危険な作戦に自ら志願した。
その実力と資質を考慮し、戦闘部門に配属させたのだ。
貴様はその軍務を死んでも果たさねばならん!兵士ならばそれが基本だ!」
少し間を置いてから再び口から放たれる説教。
そこに慣れない環境下の自分の苦労に対する同情も共感、理解も微塵もなかった。
「説教はそこまでだ。まず今日1日こいつに慣れろ!解散!」
軍というのは、理不尽な事ばかりなのが入ってから身に染みた。
相手が子供でも誰でも殺せと言えばその通りにしなければならない。
逆らえばどんな言い分でも上官反逆として罪に問われる。
こちらに求められるのは命令に忠実に遂行する事であり、悪い世の中を正す事ではない。
一個の自立した人間であるより組織の駒として在らなければならないのだ。
「これで30回目の戦死・・・・・・。なによこの機体調整は!?」
艦長の命令の通りフェラータGN-Xのコックピットで、
戦闘シミュレーションで機体に慣れさせようとするアーミアだが、その成果は未だに実らなかった。
こんな機体を乗せる艦長が冗談抜きで悪魔か魔王と思えてきた。
いざ自爆したら呪うか何か仕返ししなければ、死のうにも死に切れない。
艦長への呪詛を胸に秘めつつこれまでの結果を振り返った。
スロットルを普段の調子で引けば擬似太陽炉の粒子生成に負荷が掛かり、オーバーロードを起こして自爆する。
これだけで20回以上もの戦死の要因であり、第1位に悪い意味で輝いている。
他には機体の粒子生成が想像以上に早く切れて動けなくなったり、
負荷に機体が耐え切れず脚や腕など繊細な部分が捻じ切れて戦えなくなった所で撃墜されるなど。
擬似太陽炉一基につき通常の3倍の出力で合計3基につき6機分の出力と負荷を持っている。
これはつまり、機体フレームの損耗と戦闘機動で伴う強烈なGが想像を絶する様だという事なのだ。
しかも粒子生成の出力はオーバーロード一歩手前に調整されている為、
粒子切れがトランザム時よりも早くに起こってしまう。
以上の問題を仮に解決してもまだ険しい関門が残っている。
GN粒子による慣性制御すら省かれたせいで、普通の人間なら即死する程のGが直接身体に降りかかる。
自分の身体が半身ELSのハイブリッドイノベイターとはいえ、
十分に操縦に慣れて鍛えていなければ無事に乗りこなせる確証が何一つもない。
「粒子生成量を抑えめに調整したいところだけど、艦長から禁止されているしね・・・」
2個付きに次いで強力だが兵器として欠陥を抱えすぎたそれは、
無論調整で出力を落とせばGN-XIVに近い安定性に落ち着かせられる。
実戦では戦闘継続時間を考慮して半分の出力で戦う予定となっている。
だがいつでもフルの性能で戦えるよう、この調整で慣れていかなければならない。
「これで31回目・・・!」
開始ボタン入力と共にスクリーンは宇宙空間を映し出した。
設定した敵機はGN-XIVコアファイター搭載型が3機。機体に慣れ次第少しずつ機体数を増やすつもりだ。
これまでの操縦と何度もの自爆の教訓を基に、右手で握るスロットルを僅かに引いた。
「っ!!!」
これだけで急速に加速。最大加速時のMSに匹敵する速さだ。
1秒以下数十コンマの内に敵編隊と通り抜けてしまう。
その一瞬の内に彼女は如何なる行動に移るか考え、それを実行に移った。
GNショートビームライフルを真横に向け、通り過ぎる所で一機目を撃ち抜き火球に変えた。
「まず一機目・・・!」
機体は敵を中央突破し後方にいる。
出力を抑えていたがあまりの出力のせいで遠く離れてしまった。
すると後方から粒子ビームが通り過ぎた。
味方の損失に反撃に移ったのだろう、だがあまりに離れていて自機に照準が定まっていない。
「粒子による機体制御は緊急回避に留め、移動には慣性を利用する!」
MSの基本操縦と少しでもある戦闘経験、苦労して練ったコツを今ここで生かす。
機体の旋回させ慣性に任せて接近、敵の弾幕には僅かな粒子噴射とAMBACできめ細かに回避した。
これで機体の機動性に振り回される危険は多少減った。
「あと2機・・・・・・!」
これまでの3倍以上あるビームが飛んできた。
周回するこっちに敵が接近しながら、GNビームライフルを連射モードで牽制射撃してきたのだ。
これ以上今の機動では避け切れない!
今まで抑えていた粒子生成を回避にあえて向けず、GNフィールドによる防御で反撃までの時間を稼ぐ。
トリプルドライブに支えられた鉄壁の防御に無力と悟った敵機が射撃をやめた隙に、
GNシールド内蔵のGNビームガンの連射で2機の周囲にビームをばら撒いた。
もちろん敵にも当てるがこれはGNフィールドを展開させる為の囮だ。
「本命は・・・こっちだよ!」
相手がGNフィールドで防御に回ると、自機のGNショートビームライフルとGNビームガンに同時使用移った。
正確には左右のGNビームガンを最高出力で収束させ、ビームライフルの最高出力と掛け合わせて極太のビームを放ったのだ、
ドニエプルの主砲以上のビームは残る2機の防御壁を物とせずに突き破り、そのまま跡形も残さず焼き尽くした。
31回目の練習で掴み取った勝利。これまでの失敗は機体制御によるものだった。
シミュレーションを終了させて一息ついたアーミアは、待ちに待った休憩に入った。
やっと機体を使いこなせた事に喜びが沸いてきた。だが理性が歓喜に歯止めをかけた。
完全に乗りこなせなければ次の戦いで生き残れない。正念場はまだこれからなのだ。