お詫びの言葉
本小説は主役機体の話を一話きりの予定でしたが去年投稿した同機の話に違和感があり、機体が全然活躍していなかった事に発覚しました。
書き上げて間もなく気がつきましたが修正のタイミングを見定められずズルズル長引いてしまい、前編後編という組み合わせでGN-XVをもう一度取り上げました。
他にアシガルもMS主役の方針からかけ離れていますが、この連邦軍次期主力機を描く方が見栄えがあるではないかという理由からです。
文章を気にしていましたが編集の仕方にも粗があり、作者としてまだ未熟で申し訳ありません。
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記
第19話 GNX-810T GN-XV(後編)
地球連邦軍主力であるGN-XIVを代替する次期主力MS開発計画の勝者は、正当後継機であるGNX-810T GN-XVに決定された。
10年間醸成されたアイデアを開花した、多種多様な候補機に比して本機は全体的に高性能だが保守的で平凡な作りであった
軍備増強に並行して進行する軍制改革、旧人類軍の動向、軍の指針を成すドクトリン、慢性的な人材不足・・・・・・。
このような複雑な状況がライバル機を差し置いてGN-XVに勝利をもたらしたのだった。
ELS戦後より続く少数精鋭志向に適応したGN-XIVフォルティスに比べると、火力も防御力もほぼ同レベルであり基本性能は若干向上した程度。
その程度の設計と言われるこのMSだが、西暦2325年より配備されると最前線のパイロットの間では意外にも好評であった。
アフリカ大地構帯にまたがるように繰り広げられる連邦軍と反乱軍の戦いは、宇宙に並ぶ統合戦争有数の紛争地帯である。
かねてより続く戦力不足にある連邦軍は中央アフリカを根城とする武装勢力やテロリスト、旧人類軍を含む反イノベイター勢力に苦戦し、敵に領内侵入を許す事態は珍しくなかった。
それは軍備増強が進み組織変革を遂げた西暦2326年の時点でも状況はさほど変わっていない。
国境を越えてくる敵軍を追い返し、経済及び連絡の動脈たる都市間アクセスを回復させ、来たる反攻に備え防衛線を築く。それが連邦軍の当面の目標だった。
今日もケニア地区にて、反乱軍の侵入に迎撃にMSが打って出る。
「敵機撃墜!」
二番機の火力支援装備NGNマシンガンが噴く火線の先、肉眼では見えない距離を飛ぶレギオンがビームライフル並の威力の粒子ビームに次々貫かれ爆発四散していった。
ルッキオ・ガザニアーノ大尉率いる小隊が最新鋭機GNX-810T GN-XVで撃墜した敵MSはレギオン四機。
全て地平線の彼方1000キロ先に先行したアシガルからなる飛行隊より突破してきた。
火力は同等かやや下、紙装甲当然の装甲、だが機動力に限ればこちら以上もの航空可変MSなのだ。射程に入らぬよう迂回したり正面突破を図る事は容易な事。
捕捉次第、速攻で撃ち放ち相手の離脱のチャンスを奪う。それが非可変MSで可能な対抗手段だった。
(本当に突っ込んでくるとは・・・・・・)
敵の意図は決して伊達や酔狂などではない。
可変機の機動力を生かして突撃或いは特攻を掛けトランザム自爆を仕掛け、軍だけでなく市民や都市など目標を選ばず平気で巻き込む。
かつての対カタロン戦のように容易に撃破出来る相手ではないのだ。今や戦力差は相対化してしまっている。
「レッドブル1より全機へ。第122戦術戦闘飛行隊の情報が正しければ、あと二分後に敵GN-Xが小隊規模で侵入してくる。各機異常はないな?」
「レッドブル2異常なし!」
「レッドブル3異常なし!
「レッドブル4異常なし!」
小モニター越しに部下の様子を確認。副官は平静だが新兵の三、四番機は若干興奮状態にあるらしく、声音は荒く顔は心なしか赤くなっている。
(異常なし、というがやはりあるじゃないか)
彼らは士官学校で猛訓練を受けGNーXVに乗れるだけの能力と成績の持ち主といっても、この実戦が初陣であり所詮新兵は新兵でしかない。
尤もガザニアーノはELS戦後のMSパイロット補充に予備役より復員されたが、昨年まで辺境基地のティエレンパイロットだった身で実戦は片手の指で数える程度。
副官は元海兵隊からの転属組で実戦経験はあるがMS戦は新兵当然。かつて小隊長勤務で指揮能力を身につけ、三十を越さない歳から補佐に当てられるという理由で選抜された。
能力は高く選ばれたパイロットだがMS戦が不足している事に関しては彼らの共通点だ。
軍備増強とは聞えが良いが、軍縮から方向転換がもたらした結果、将兵の大半が新兵で占められるとは皮肉と言えよう。
「隊長」
副官が訊ねてきた。
「三番機と四番機が」
「わかっている。だが敵が来る以上死守しなければならない」
実戦経験がなく精神に若干乱れがあり不安要素があるが戦場で贅沢を言えまい。
GN-XVは固定装備に攻防両立の多目的粒子制御装置を省かれ火力が若干落ちた分、GN-X系本来の抜群な操縦性とシンプルな構造に回帰。
戦闘能力は平凡でコアファイターで生存性が前主力機以上、どんなパイロットでも最大限に性能発揮できる。
しかも機体制御システムは最新型、千単位もの戦闘機動が戦技プログラムに組み込まれ、ヴェーダよりバックアップを受けている。
聞いた話では実験部隊とは名ばかりの愚連隊が集めた実戦データが活用されているらしい。
酷かもしれないが、ここは自分と機体を信じて頑張ってもらうしかなかろう。
・・・・・・といっても新米パイロットなのだ。すぐ効果が出るとは思えないが。
「各機二機一組での戦闘行動を厳守。連携を終始維持せよ!二番機、三番機は隊長と副官に付いて離れるなよ!お前達は初陣だから無理せず支援に徹すれば良い!」
「りょ、了解!」
「了解です!」
二十代前半のひよっこ達、二人を決して死なせはしない。
人としての良心が、愛情が突き動かす。人材不足にあり未だに余裕がない懐事情からそう求められる。
刹那、アラートが鳴り響いた。
「敵粒子ビームが来る!全機回避だ!」
「何!?」
「え!?」
「ビーム!?」
副官は軽く、残り二人は絶叫という形で動揺が走った。
想像でも実感できない粒子ビームの直撃、機体と共に一瞬で焼き尽くされる自分が脳裏によぎる。
隊長のガザニアーノがそうならば三、四番機の方はより強い恐怖に陥っているはずだ。
四機が無秩序に散開、敵の予測を困難にさせんと最大限の努力で回避運動を取る。
空が歪み、大地が下でなくなり、視点が目ざましく変わる。操縦桿に力を込め捻った事によって。
そして五秒後―――それでも各GN-XVの間隔が一キロ程距離を置いて―――十以上もの光柱が彼方遥かより走ってきた。
相手が避けるだろう先に粒子ビームが撃ち込まれ、目標を飲み込む事無く空しく空に消えていく。
(今のは拡散ビーム・・・!三機は・・・皆無事か!)
一番機のコックピット各センサー、スクリーンに部下機が映され無事を示している。
それだけのタイムラグがありかなりの距離から、恐らく有効射程外より撃ってきたのだろう。恐らく準備砲撃だ。
(出力、距離からGN-XIVフォルティスか!)
コンピューターが提示した予測でしかないが確率は決して低くない。
その擬似太陽炉搭載機は今や旧式だが、前政権時代の少数精鋭志向から充分第一線に使える程の性能を持っているのだから。
(他にありうるなら重火力のGN-XIVフルミナータか新型のネオGN-Xか・・・・・・)
先の発射元らしき機影がセンサー反応、三つの目標が赤マーカーで映し出された。予測通り敵は全てGN-XIVフォルティス。
軍制改革前の小隊編成と同じ、打撃担当の隊長機と補佐の二機からなる攻撃重視の組み合わせ。こちらへ正面より接近してくる。
「全機、指示通り二組散開!」
言うや否や、隊長機背後に付いていた二機が粒子ビームを連発しながら突貫を仕掛けた。
最初の二発は回避するが三発からはGNシールドで受け止めざる得なくなった。
三発目は予測射撃に追従出来ずそのまま盾で弾き返し、四発目は左に傾斜させ粒子ビームを射線外に逸らす。
(流石だな・・・!)
向こうはこちらより単純火力が高い分、同じGNパイク装備でも一発一発の射撃が若干強力だ。
シールドの残存粒子量は相応分に減っており、これ以上の防御となると振り分けなければならない。
良い腕をしている。実戦経験豊富なベテランパイロットが乗っている、反乱軍の精鋭部隊と断定した。
(近づかれるか!?)
出来れば接近戦は極力避けたい。
四機中三機は接近戦装備のGNパイクを装備しているが、リーチの長さで敵機の肉薄を阻みつつ射撃可能だからである。
「こっ、こいつ・・・!」
隊長機に随伴する四番機はガザニアーノの予想通り狼狽してしまっていた。
恐怖のあまり狂乱になる事なく、指揮通り敵に撃ち返し攻撃ポジションを取らせないよう立ち回っている。新兵として素晴らしいが本人にとって災難だろう。
「くそ!くそ!当たらない!当てようとしてるのに!」
訓練通りロックオンしてライフルモードのGNパイクで撃っても避けられ、連射でやっと当たるも盾や粒子の防壁で防がれる。
コンピューターの予測射撃だけではパイロットが操るMSの機動を全て読み切れないのだ。ましてや思考、心理など機械の予測範囲外だ。
「落ち着け!俺達が懸命に避けてるように、敵も同じなんだ!まず近付かせなくすれば良い!」
「はっ・・・!りょりょ、了解しました!」
これだけでは部下は命令に従えても心情的納得し切れない。
ガザニアーノはもう一言付け加えた。
「それと、お前は充分支援が出来ている!こんな感じで後は冷静に状況対応するんだ!」
「了解!」
言い終えるとGNパイクの粒子消費リミッターを解除、拡散連射モードに切り替え火を噴かせる。
凄まじい弾幕に敵機がたまりかねたらしく後退していった。
現時点、戦いは拮抗している。
連邦軍のGN-XVは攻勢を挫いたきり戦力打撃を与えるに至らず、反乱軍のGN-XIVフォルティスは部下機の牽制攻撃が思うように進まず隊長機の切り込みが出来ない状況。
どちらにも勝機がある。互いの有利不利はことごとく相殺、後は時の運で決着を付ける事のみかもしれない。
ガザニアーノ達四人はいつもの軍服姿で夕食をとりに食堂へ向かっていた。
結局GN-X系同士の迎撃戦は膠着し自力で打開できないまま友軍の接近に反乱軍側が退却という形で幕を閉じた。
無論、MS戦で相手を次々落とし全滅させるのはエースパイロットの話であり、大抵のMS戦はある程度ダメージを受けたらどちらかが退く事が多いという。
損害を最も多く被るのは敵に無防備な背を向けて敗走した時で、ぶつかり合ったときではないのだ。
ベテラン相手に全員生き残れたのは連携か、機体性能か、それともシステムだろうか?誰もはっきりした答えを見つけられないままでいる。
「!」
金髪で角切り頭が特徴の士官と鉢合わせになった。
「妖精の片腕」と呼ばれるエースパイロットで、独立試験部隊「ソウルズ」―――実際は落ちこぼれと不良が多い、使い捨ての独立愚連隊だが―――の副官ベガ・ハッシュマン少佐。
軍人として甘さを拭えず上層部と現場と衝突が絶えない女指揮官の緩衝材として、最前線では彼女以上に評判が高い男である。
悠然と歩き五秒後にはそのまま横切ってしまう。
目を見開くもすぐさま敬礼。
次に一瞥する。
十年程最前線勤務してきた男の気迫、指揮官の貫禄を前に、気を抜けばすごすむ所だった。
「少佐!ベガ・ハッシュマン少佐!独立試験部隊ソウルズの実戦データ、今日の戦闘で大いに助けられました!」
エースパイロットの視線がこちらに向いた。視線が重なる。
一瞬の呆然が苦笑に変化した。
「・・・そうか・・・・・・」
表情を引き締め真剣に、そして静かに語り始めた。
「だが、判断を下し、機体を動かしたのはお前達パイロットだ。MSとシステムのおかげじゃない。あれはサポートでしかないんだ。
良いか、そういった事実を胸によく刻み込んでおけ」
期待を幾分か裏切る、だが厳しくかつ優しさを含む発言。少佐は四人に振り返る事も踵を返す事もなく立ち去っていった。
褒め言葉ではない叱咤でもない激励にも似た言葉に、ガザニアーノは答えをやっと見つけ出した。